01/04:
・コソヴォ解放軍・KLAは、独立を獲得するために武力闘争を開始すると宣言する。
01/14:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国のジュカノヴィチ次期大統領の就任式を控え、大統領選の無効を訴えるブラトヴィチ現大統領派が首都のポドゴリツァでデモを行ない、警官隊と衝突する。ブラトヴィチ派とジュカノヴィチ派が事態の打開を図るため、総選挙の繰り上げ実施などの妥協案を出したが決裂する。
01/15:
・クロアチア共和国の東部、セルビア人居住地域の「東スラヴォニア・バラニャ・西スレム・暫定統治機構」が国連東スラヴォニア統治機構・UNTAESの監視の下、クロアチア共和国に完全移管される。UNTAESが撤退した後は、国連の文民警察部隊やOSCEなどがセルビア人住民の人権擁護などを監視することになる。しかし、民族混成の警察が稼働するなど統合に向けた新しい態勢作りが進む一方で、クロアチア共和国政府が「少数民族の権利擁護」を唱えつつ、強引なクロアチア化によるセルビア人の同化を進め、その陰で脅迫や爆弾事件などが起きている。不安に駆られたセルビア人の中には逃げ出す家族も出ており、11月だけで500家族が脱出している。
01/18:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのスルプスカ共和国議会は、欧米協調派のミロラド・ドビクを首相に選出。
01/21:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの和平実施部門・OHRのウェステンドルプ上級代表は、ボスニアの統一通貨「マルカ」を発表。これまでボスニアの3民族は、それぞれの支配地域で独自の通貨を流通させていたが、新通貨はボスニア連邦とスルプスカ共和国(セルビア人共和国)向けの2種類が準備される。
01/22:
・ボスニアに駐留する和平安定化部隊・SFORは、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYが集団殺害罪で起訴し、指名手配していたセルビア人のゴラン・エリシッチ被告を逮捕。ICTYの起訴事由は、エリシッチ被告が92年にボスニアにあった強制収容所の司令官を務めていた際、ムスリム人を殺害したというもの。
01/31:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのスルプスカ共和国議会は、首都を東部パレから北西部のバニャ・ルカに移すことを多数で決める。
02/02:
・ボスニアOHRの上級代表事務所は、内戦中別々になった車のナンバー・プレートの統一デザインを発表。
02/06:
・コソヴォ民主連盟・LDKのフェフミ・アガニ副議長はクロアチアの週刊誌「グローブス」に、「民主同盟は、武装形態ではコソヴォに展望が開けず、悲劇に転化するだけであって、解決をもたらさないと考えている」と語る。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの国連代表部は、国連本部前で新しく制定された国旗を掲揚する式典を開く。アナン国連事務総長は、「ボスニアが和平の中で1つの国旗を持ち、1つの国になることへの裏付けだ」と述べる。
02/11:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国の検察当局は、大統領選で敗れたプラトヴィチ前大統領と側近3人を、大統領就任式直前にデモを組織するなど「大衆を扇動し、社会秩序を乱して国民の命を危険にさらした」との国家転覆罪で起訴する。
・朝日新聞によると、ボスニアのサラエヴォでは2010年の冬季五輪に向けた誘致活動を本格化させ、内戦で破壊された施設の改修工事を始めている。
02/15:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYから起訴されているボスニアのセルビア系2人が、米軍基地に出頭し、身柄を拘束される。
02/20:
・クロアチアのザグレブの中心部で、高い失業率の責任はトゥジマン大統領にあるとの反政府デモがあり、3万人が参加。
・NATO理事会は、6月末に期限の来るボスニア和平安定化部隊・SFORの後継部隊を創設することで正式に合意する。
02/21:
・トゥジマン・クロアチア大統領はクロアチア民主同盟・HZDの党大会で、ボスニアの一部などを含む「大クロアチア」の建国を示唆する発言をする。
・ゲルバード米特使は、「ボスニア和平協定を反故にしようとしている。大統領は言葉を慎むべきだ。米国はその意図について問いただす考えがある」と述べる。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのオスロボジェニエ紙は、国営ボスニア航空の幹部の話として、この3月にもサラエヴォとベオグラード間の定期便の就航を計画している、と報じる。就航すれば92年以来、6年ぶりの復帰になる。
02/23:
・ロバート・ゲルバード米バルカン問題特使は、コソヴォ自治州の州都プリシュティナを訪問してアルバニア系住民の主要メンバーを集め、コソヴォ解放軍・KLAをテロリスト組織と非難。「アメリカ政府はコソヴォ独立を支持しない。ユーゴスラヴィア連邦共和国の枠内で解決すべきである」と申し渡す。
02/24:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷からボスニア内戦中に強制収容所の設置や多民族を虐殺する手助けをしたとして起訴されているボスニアのセルビア人のシモ・ザリッチ元警察署長が、和平安定化部隊・SFORに出頭する。
02/28:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のグロゴヴァツで、コソヴォ自治州の独立を目指す「コソヴォ解放軍・KLA」がパトロール中の警察官を襲撃。これに反撃した警察との間で銃撃戦となり、セルビア警察官4人が死亡し、2人が負傷。アルバニア系武装組織は16人が死亡し、9人が逮捕される。この戦闘で双方の20人が死亡する。
・セルビア治安当局は、米国がコソヴォ解放軍・KLAをテロリストと非難したことを受けてコソヴォ解放軍・KLAの掃討作戦を実施し、多数の武器を押収。
03/02:
・コソヴォ自治州の州都プリシュティナで、アルバニア系住民勢力がセルビア側の武力行使に抗議する集会を開き、数千人が参加する。
・アルバニアのナノ首相は、セルビア共和国のコソヴォ自治州で起きた武力衝突で20人が死亡した事件に関し、「事態の沈静化を図るため、欧米諸国の指導者に協力を呼びかけた」と述べるとともに、対話による解決を求める。
03/04:
・EU議長国の英外務省は、コソヴォ自治州でアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAとセルビア警察当局が武力衝突して20人が死亡した事件に関し、EU主要国と米ロの計6ヵ国による緊急外相会議を9日に開催すると発表。
・国連ボスニア・OHRの上級代表は、ストラッツ市長のペロ・ラグージャ・クロアチア民主同盟BiHを「和平合意履行の障害になる」として解任命令を出す。
03/05:
・セルビア共和国コソヴォ自治州で、セルビア軍当局がプリシュティナ西方の村のコソヴォ解放軍・KLAに対し、ヘリコプターなどを動員して掃討作戦を実施。この銃撃戦でアルバニア系住民の武装組織20人とセルビア警察官2人、合わせて22人が死亡。
・EU議長国のクック英外相はベオグラードでミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談し、アルバニア人に自治を与える方向で解決を図るよう求める。ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は内政問題だとして不快感を示す。
・米政府は、セルビア共和国のコソヴォ自治州での武力衝突の事態を受け、ユーゴスラヴィア連邦に対する経済制裁の一部緩和を撤回。米国務省のフォーリー副報道官は、「アルバニア人の正当な不満を、セルビア当局が認めないところに端を発している。これが続くとユーゴスラヴィアに深刻な結果をもたらす」と警告。
・NATOは理事会を開き、「連絡調整グループ・CG等によって示された原則を基に、双方が受諾可能な政治的解決を引き出すよう対話を開始すること」を呼び掛ける。
03/06:
・コーエン米国防長官は、ボスニアの和平安定化部隊の期限が6月に切れた後、米軍の規模は現在の8500人からやや縮小させ、6900人とする方針を明らかにする。コーエン米国防長官は米軍が撤退する条件として、自由選挙の実施、難民の帰還、国連・旧ユーゴ国際戦犯法廷が起訴した犯罪人の逮捕の進み具合を挙げる。
・セルビア共和国の警察部隊は、コソヴォ自治州のアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAの掃討作戦を継続して実施。セルビア内務省は、中部ドレニツァを包囲してKLAの本拠地プレカズ村を制圧し、指導者のヤシャリを殺害したと発表。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民勢力の指導者イブラヒム・ルゴヴァはセルビア側の攻撃をボスニア内戦になぞらえ、「アルバニア人を虐殺する民族浄化だ」と非難。
・マケドニア共和国のスコピエでは、コソヴォ自治州の問題に国際社会の介入を求めるアルバニア系住民2万人が参加して抗議集会を開く。
・ロシア外務省はコソヴォ自治州の問題について、ユーゴスラヴィアに内政干渉すべきではない、として武力介入や新たな経済制裁には反対する声明を出す。
03/07:
・オルブライト米国務長官はコソヴォ自治州での武力衝突について、「米国は、旧ユーゴスラヴィアに流血の惨事が再び起こることを許さない。コソヴォ問題の責任はミロシェヴィチ大統領にある。コソヴォの住民の権利は保障されなければならない」とユーゴスラヴィアの対応を非難。
・セルビア治安当局によるコソヴォ解放軍・KLAへの掃討作戦は続けられ、プリシュティナ西方の拠点となっている丘陵地帯のドレニツァがほぼ制圧された模様。
03/08:
・セルビア共和国当局は、コソヴォ解放軍・KLA指導者が居住して拠点としていたプレカズ村を、5日の掃討作戦以来初めて外交官や報道陣に公開。現場には塹壕が掘られ、ロケット砲発射装置や手投げ弾が散乱している。
・オルブライト米国務長官はボンで、ドイツのキンケル外相とコソヴォ問題について協議。コソヴォのアルバニア系住民への武力行使に対しては、国際社会が早急に介入することが必要との認識で一致。オルブライト米国務長官は、「紛争を終わらせるためには、あらゆる手段を講じる」と強調。
・アナン国連事務総長は、マケドニア共和国にいる国連予防展開軍・UNPREDEPの8月撤収の決定を、再検討する必要があるとの考えを示す。
03/09:
・「連絡調整グループ・CG」の米、ロシア、英、仏、独、伊の6ヵ国がコソヴォ自治州問題について緊急外相会議を開く。ロシアを除く5ヵ国は「行動計画」を策定、「1,国連による包括的な武器禁輸。2,抑圧に使われる物資の供給拒否。3,抑圧行為に関わったセルビア当局者へのビザ発給停止。4,政府の輸出信用供与の停止」で合意。ロシアは3,4について不参加を表明したため、共同行動は取れず。この他、マケドニア共和国に展開している国連の平和維持部隊の任期延長を求めることについては、6ヵ国が合意。
・コソヴォ自治州の各地で、アルバニア系住民がセルビア共和国に対する抗議集会を開く。
・セルビア当局は、アルバニア系住民の遺体62体を遺族に引き渡す。
・ゲルバード・バルカン問題米国特使はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領とコソヴォ問題について会談。ゲルバード特使は6ヵ国緊急外相協議について説明し、「対話の実施と政治的解決」を求める。ユーゴ連邦側は内政干渉として反発。ミレンティエヴィチ内相は、「テロ活動に対する正当な反撃」としてアルバニア系住民の独立運動への武力行使を正当化。
03/10:
・国連安保理は、セルビア共和国コソヴォ自治州の紛争問題について、英国が提案した早期解決に向けての安保理声明の作成を協議。中国が、「内政干渉であり、声明を出すこと自体に反対する」と強硬に主張したため物別れに終わる。
03/11:
・国連安保理は議長声明で、「コソヴォ自治州を巡る情勢について懸念を表明するとともに、全当事者に自重を求め、平和的解決に向け真剣な対話を始める」よう求める。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民指導者イブラヒム・ルゴヴァは、セルビア治安部隊との武力衝突について「コソヴォの独立だけが今回の危機を解決する」と語る。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナで、女性たちだけの「平和」を訴える数千人のデモが行なわれる。デモはそれぞれ手にロウソクを持ち、平和を訴えるシュプレヒコールを唱える。
・バルカン5ヵ国のギリシア、マケドニア、ルーマニア、トルコ、ブルガリアの外相は、武力使用の停止と対話による紛争解決を求める共同宣言を発表。宣言骨子;「1,コソヴォ自治州のアルバニア系住民に対する幅広い自治権の付与。2,コソヴォ自治州の人権監視。3,現在の国境線の尊重」の原則に基づくべきだと主張。
03/12:
・米国務省のルービン報道官は、ユーゴ連邦セルビア共和国コソヴォ自治州の情勢に関し、騒乱の拡大に対する抑止措置として、隣国のマケドニア共和国に駐留している国連予防展開軍・UNPREDEPへの米軍増強を検討していることを明らかにする。
さらに、NATOと「平和のための協力協定・PFP」に基づき、アルバニアやブルガリアなどの近隣諸国との軍事訓練も計画中だ、と述べる。
・EUと加盟希望国の合計26ヵ国がロンドンで「欧州協議会」首脳会議を開き、コソヴォ情勢に関するユーゴスラヴィア当局による市民への暴力を非難する声明を発表して閉幕。加盟希望国11ヵ国は、「コソヴォへの接し方を変えない限り、貿易面などの関係改善はあり得ない」との声明を含める。
・ユーゴ連邦セルビア共和国のマルコヴィチ副首相を団長とする代表団は、コソヴォ自治州のプリシュティナを訪問してアルバニア系住民との話し合いを求めたが、アルバニア系住民は欠席したために話し合いは行なわれず。
・OSCEサラエヴォ駐在報道官は、ボスニアの任期満了に伴う総選挙を9月12,13日に実施すると発表。投票が行なわれるのは、ボスニア幹部会員選挙と下院選挙および「スルプスカ共和国(セルビア人共和国)」の大統領選挙と議会選挙、「ボスニア連邦」の議会選挙と州議会選挙など。
・コソヴォのプリシュティナでの女性たちの平和を訴えるデモは、2日続けて行なわれる。
03/13:
・セルビア共和国のコソヴォ自治州の州都プリシュティナで、セルビア共和国の武力行使に抗議するアルバニア系住民による大規模な抗議デモが行なわれ、10万人が参加。
・EUの非公式外相会議がエディンバラで開かれ、コソヴォ自治州情勢について、米国とロシアおよび周辺関係国を交えたEU主催の緊急会議を早急に招集することを決める。
03/15:
・ボスニアの北部ブルチコの帰属について、国際調停委員会は最終調停を年末まで先送りし、引き続き国際監視下に置いていくことを決める。
03/18:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナなど各地で、ゲルバード米特使のプリシュティナ訪問に合わせ、セルビア共和国に対する抗議集会とデモが行なわれる。ペチュではデモと警官隊の小競り合いがあり、アルバニア系住民男性1人が死亡、数人が負傷。コソヴォ自治州では、先月末から続いているセルビア共和国当局とアルバニア系武装勢力の衝突で、既に80人のアルバニア系住民が死亡する。
・ゲルバード米特使は、アルバニア系住民勢力が週明けにもセルビア政府との交渉に臨むことで合意した、と述べる。
03/19:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナで、独立を求めるアルバニア系住民とそれに反対するセルビア系住民がそれぞれ集会を開き、一部の参加者の投石をきっかけに双方が小競り合いになり、セルビア警察隊が催涙弾を発射するなどをして引き離す。
03/22:
・コソヴォ自治州で、「コソヴォ共和国」樹立を宣言しているアルバニア系住民が、「コソヴォ共和国」の大統領と議会議員130人を選出する選挙を実施。アデム・デマチのコソヴォ議会党、リュリェタ・ブリャーベチリ社会民主党は選挙をボイコットする。
・OSCEは、昨年9月に実施されたボスニア・ヘルツェゴヴィナの地方選挙の結果をめぐり対立が続いていた問題で、拘束力を持つ裁定を下す。この裁定によって、スレブレニツァでは24日に初議会が召集され、議長はムスリム人勢力から選出、副議長はセルビア人勢力から選出されることになる。
03/23:
・OSCEボスニア選挙管理・監視団は、ボスニア地方選が実施されたにもかかわらず各民族政党が対立し、新議会が招集されないなどの自治体に対し、議長や副議長の選出などを行なわない場合には議員の当選資格を取り消すなどの拘束力のある裁定を下す。
・コソヴォ自治州のプリシュティナでセルビア当局とアルバニア系住民が協議し、国立プリシュティナ大学など公的教育機関で、アルバニア系学生に対する独自教育を行なうことを認める協定書に調印。協定内容;「1,プリシュティナ大学を今年10月の新学期を最終期限とし、段階的にアルバニア系学生や教員に解放する。2,小中学校も4月末をめどにアルバニア系の児童生徒を受け入れる。3,学校を午前と午後の2部制とし、セルビア人とアルバニア系が別々に授業を受けられるようにする」。
註;アルバニア系住民の多くは、隣国アルバニアのカリキュラムに基づくアルバニア語による授業を望んでいるが、これまでセルビア語による教育を義務づけるセルビア当局と対立し、多くのアルバニア系住民が子どもを公立学校に通わせず私塾のようなところに通わせてアルバニア語の教育を行なってきた。この二重の教育制度が8年あまり続いてきたが、これが解消されることになる。
03/25:
・「連絡調整グループ・CG」の米・ロ・英・仏・独・伊6ヵ国はボンで外相会議を開き、セルビア共和国のコソヴォ自治州問題について協議。セルビア当局が教育問題でアルバニア系住民と対話を行なったことを評価し、ユーゴ連邦への経済制裁の強化の決定を4週間見送ることで合意。
・コソヴォ自治州のアルバニア系住民指導者イブラヒム・ルゴヴァは朝日新聞などとの会見で、「セルビア政府との対話の再開は必要だが、セルビア側がその重みを理解するには、国際社会が圧力をさらに強める必要がある。セルビア人との共存は全く考えていない。目標は飽くまで独立だ」と語り、コソヴォ解放軍については、「事態が好転する見通しが立たない中、不満を持つ若者が増えている」と存在を認める。
03/24:
・セルビア治安部隊は、コソヴォ解放軍・KLAが拠点としているグロジャネを攻撃。
03/27:
・「連絡調整グループ・CG」の米・英・露・仏・独・伊6ヵ国と安保理非常任理事国の日・スウェーデン・ポルトガルの9ヵ国の専門家グループが、国連本部でセルビア共和国のコソヴォ自治州に関する制裁問題について協議。制裁措置の内、ユーゴ連邦全体に対する「武器禁輸」だけを発動する国連安保理決議案の作成で合意に達する。
・コソヴォ自治州の国立プリシュティナ大学で、セルビア人学生が「教育協定」に抗議する集会を開き、3000人が集まる。大学自治会のジボイン・ラコチェヴィチ議長は、「アルバニア系住民の言いなりで、コソヴォのセルビア人を無視した合意だ」と反発。
03/30:
・国連安保理は、セルビア共和国コソヴォ自治州の紛争問題で、ユーゴスラヴィアに対する武器禁輸に関する決議案についての非公式協議をする。ロシアは一部の文言についての修正を要求。中国は、決議案そのものについて、反対の意向を示す。
03/31:
・国連安保理は、コソヴォ自治州のアルバニア系住民の独立運動に関するセルビア共和国の対応に対する制裁として、ユーゴ連邦全体への武器禁輸決議1160を、賛成14,棄権1で採択。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナ大学のアルバニア語研究所が、アルバニア系学者や学生に明け渡される。各学部も6月末までに段階的に解放される予定。
03/00:
・EUは、中東欧6ヵ国との加盟交渉を開始する。
04/02:
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領はセルビア共和国政府に対し、コソヴォ紛争について外国による介入を受け入れるべきかどうかを国民投票にかけるよう促す。
04/06:
・セルビア共和国政府は、コソヴォ自治州で人口の9割近くを占めるアルバニア系住民が独立を求めている問題について、国際仲介の是非を問う国民投票を23日に実施する考えを示す。
・OSCEおよびクリントン米大統領に出した手紙に署名したコソヴォのアルバニア系住民6人が、コソヴォ解放軍に惨殺さ
れる。
04/07:
・シラク仏大統領はボスニア・ヘルツェゴヴィナを訪問し、首都サラエヴォでイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談。ボスニアへの経済援助4300万フラン(9億5000万円)の供与協定に調印。用途は新しい統一通貨「マルカ」の印刷、パン製造業の育成、送電施設の再建などに当てられる。
04/08:
・OSCE議長のゲレメク・ポーランド外相は、セルビア共和国政府がコソヴォ自治州問題で国際仲介の是非を問う国民投票を予定していることについて、「コソヴォ地域の混乱に拍車をかけるものだ」と非難し、中止することを求める。
・エリザベス・レン・ボスニア担当国連事務総長特使は記者会見で、ボスニア内戦でムスリム人の虐殺を支持したなどとして、旧ユーゴ国際戦犯法廷から起訴されているセルビア人共和国のラドヴァン・カラジッチ前大統領について「近々ハーグに姿を現すのではないか」と述べ、身柄拘束が近いとの見方を示す。
04/16:
・ボスニアのクロアチア人支配地域ドルヴァルにセルビア人1500人が帰還したが、水道や電気の供給を拒否されたり、家に火を付けられたりの嫌がらせが続き、住民夫婦が殺されるということが起こる。
・OHRのウエステンドルプ上級代表は、ドルヴァル市副市長のドラゴ・トクマクチャ・クロアチア民主同盟・BiHを「和平履行合意の規定に伴う難民・避難民の帰還作業を妨げた」との理由で解任する。
04/20:
・「連絡調整グループ」米・英・仏・独・露・伊6ヵ国は、セルビア共和国のコソヴォ自治州問題について、29日に3回目の外相会議をローマで開くことを決める。
・ボスニア北東部スレブレニツァで95年7月に起こされたとされる虐殺事件の遺体発掘作業が、スレブレニツァ郊外で開始する。
04/22:
・コソヴォ自治州の西部で、隣国アルバニアからコソヴォへ越境してきたアルバニア人武装集団およそ200人と警備に当たっていたユーゴ連邦軍との間で銃撃戦が展開され、アルバニア人武装集団に死者2人が出る。
04/23:
・ユーゴ連邦セルビア共和国で、コソヴォ自治州のアルバニア系住民が独立を求めている問題について、国際介入の是非を問う国民投票がコソヴォ自治州のアルバニア系住民がボイコットする中で実施される。
04/24:
・セルビア共和国のコソヴォ問題への国際介入の是非を問う国民投票は、コソヴォ自治州のアルバニア系住民がボイコットしたため、調停を拒否する票が95%に上る。
・ルービン米国務省報道官は、セルビア共和国コソヴォ自治州問題に対するミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の対応について、「コソヴォ住民に対する武力行使は、国連決議や連絡調整グループの要請に明らかに背を向けたものだ」と批判し、国際的な圧力を強めるために、追加制裁措置を検討していることを明らかにする。
04/27:
・コソヴォ自治州の村で、在ユーゴ日本大使館員が乗った車がアルバニア系住民と見られる武装集団に銃撃され、運転手は負傷したものの、大使館員は無事。
04/28:
セルビア共和国コソヴォ自治州の州都プリシュティナで、欧米の仲介による和平交渉を求める集会が開かれて5000人が参加。参加者の中には、アメリカの旗を真ん中に掲げた交渉のテーブルに模した台車を押して廻るアルバニア系住民もいる。
04/29:
・旧ユーゴスラヴィア問題の「連絡調整グループ・CG」6ヵ国はローマで次官級会議を開き、セルビア共和国のコソヴォ自治州問題を協議。独立を求めるアルバニア系住民とセルビア共和国当局の双方に対し、対話の早期開始を呼びかける一方で、ユーゴ連邦とセルビア共和国の在外資産を凍結する制裁強化を決める。さらに、「連絡調整グループ」の外相が会談する5月8日までに、ユーゴ連邦が欧州安保協力機構・OSCEの仲介による対話に応じない場合、新規の対セルビア投資を禁止する制裁措置を追加することも決める。
・アルバニアのナノ首相は、セルビア共和国のコソヴォ自治州との国境地帯で続いているユーゴ連邦軍とアルバニア系武装集団との間の戦闘がアルバニア国内へ波及するのを防ぐため、NATO軍の派遣を要請する方針を国会で表明。
05/01:
・EUは、欧州中央銀行・ECBを設立する。
05/08:
・ユーゴ連邦政府は、セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民が独立を求めている問題で、改めて外国の仲介を拒否する考えを示す。
・EUの外相会議で、NATO軍の軍事介入の要請を決める。
05/09:
ホルブルック米特使がベオグラードを訪問し、コソヴォ自治州問題の打開を目指して交渉を開始する。ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は外国の調停を拒否したため、合意には至らず。
05/10:
・ホルブルック米特使は、コソヴォ自治州のプリシュティナでアルバニア系住民指導者と会談する。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民の武装勢力「コソヴォ解放軍・KLA」が、アルバニア本国と国境を接する南西部を支配し、さらに勢力を中央部に伸ばす。アルバニア系住民武装勢力の総兵力は1万2000人で、「1,ペチ、デチャニ、ジャコヴィツァ周辺に4000人、2,マリシェヴォを中心とする地域に3000人。3,グロゴヴァツなどドレニツァ地域に3000人。4,アルバニア側に1500人余」が展開。コソヴォ解放軍KLAは、義勇兵など雇い兵が半数を占め、コソヴォ自治州の30%を支配下に置く。
05/15:
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領とコソヴォ自治州のアルバニア系住民指導者のルゴヴァが、ホルブルック米特使の仲介で初めてベオグラードで会談する。両者は、来週からコソヴォ自治州の将来をめぐる対話を始めることで合意。
・G8がバーミンガムで開かれ、コソヴォ紛争について特別声明を発表。声明は、「コソヴォ紛争では、新しいバルカン戦争を起こす恐れがある。双方が始めた対話が早急に緊張を和らげ、暴力に終止符を打つよう導く」ことを呼びかける。一方で、アルバニア系住民には国境は不可侵でありアルバニアとの併合は認めないが、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領にも「解決の提案にあたって個人的責任を負うことが特に重要」と強調。
05/18:
・旧ユーゴスラヴィア問題の「連絡調整グループ」米・英・仏・独・露・伊の6ヵ国は、ユーゴ連邦に対する新規投資の禁止措置を解除することを決める。
・ユーゴ連邦議会の上下院は、コンティッチ連邦首相の不信任案を賛成多数で可決する。
05/19:
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は、コンティッチ連邦首相の後任にブラトヴィチ・モンテネグロ共和国前大統領を指名。
05/22:
・セルビア共和国のコソヴォ自治州をめぐる紛争解決に向けて、セルビア側とアルバニア系住民側のそれぞれの代表団が初の交渉を行なう。
・クリントン米大統領は、コソヴォ自治州の穏健独立派のルゴヴァら民主連盟・LDK幹部をホワイトハウスに招待する。
05/26:
・国連事務局は、アルバニアにおける住民の中に氾濫している武器を回収するため、同国政府からの要請に応じて調査団を派遣する方針を発表。アルバニアではネズミ講暴動事件で武器庫が襲撃され、数十万丁の銃などの武器が流出。この武器が、コソヴォ解放軍・KLAなどに渡っている。
05/28:
・NATO外相理事会を開き、EUの要請とアルバニアとの「平和のための協力協定・PFP」に従い、「国際社会の対応に貢献し、危機の平和的解決、ならびにアルバニアとマケドニアを特に重視し、近隣諸国の安定と安全を促進する」との目標を掲げ、8月に大規模な軍事演習を行なうことを決める。
05/29:
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍・KLAの拠点となっている南西部ペチ、デチャニ、ジャコヴィツァなどの地区をセルビア治安部隊が一斉に攻撃したのに対し、コソヴォ解放軍・KLA側も反撃する。
05/31:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国の議会選と地方選挙の投票が始まる。反ミロシェヴィチ派の与党民主社会党のジュカノヴィチ現大統領派と親ミロシェヴィチ派のブラトヴィチ前大統領派の争いとなる。
06/01:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国議会選は、ジュカノヴィチ大統領率いる民主社会党などの与党連合が52%の得票率を得て、定数78議席のうち40議席を獲得。ブラトヴィチ前大統領派は31%の得票率にとどまる。ジュカノヴィチが勝利したことで、ユーゴ連邦の見直しが行なわれる可能性が高まる。
・セルビア共和国の治安部隊がコソヴォ自治州のコソヴォ解放軍・KLAの拠点ペチ、デチャニ、ジャコヴィツァを攻撃し、KLAと激しい戦闘となり、アルバニア系住民の武装勢力15人が死亡、20人が負傷。さらに千数百人が難民となってアルバニアなどに流出。
06/03:
・セルビア治安当局によるコソヴォ解放軍の拠点攻撃で、アルバニア系住民が難民・避難民となって流出している。アルバニア国境を越えた数は6500人、モンテネグロでUNHCRに保護されている人数は5000人。
06/04:
・キンケル独首相は、NATO軍がアルバニアなどへの派兵を検討していることについて、「難民をこれ以上増やすべきではない。結論を急ぐべきだ」と派兵に前向きな意向を示す。
・ディーニ伊外相は、「旧ユーゴ問題連絡調整グループ」の会合を12日に開く見通しを明らかにする。
06/07:
・ブレア英首相は、エリツィン露大統領およびクリントン米大統領とコソヴォ問題で電話会談。クリントン米大統領とはユーゴ連邦の行動は容認出来ないとする「強いメッセージ」を突きつけることで合意。エリツィン露大統領には、「野蛮行為を止めさせるよう影響力を行使して欲しい」と要請して同意。
・セルビア共和国コソヴォ自治州の独立を求めるコソヴォ解放軍・KLAはアルバニア語紙に、「アルバニア人男性は全て、セルビア当局との戦争のために武力闘争に加わるよう」呼びかける声明を発表。
06/08:
・コソヴォ解放軍はアルバニアのトロポヤ周辺に集結し、武器を補充してセルビア治安部隊に対する反撃を始める。
・欧州連合・EUはルクセンブルグで外相理事会を開き、対セルビア新規投資禁止の追加制裁を決める。
・米政府はコソヴォ情勢に関し、ユーゴ連邦の在米資産の凍結および対セルビアへの新規投資を禁じる措置を決める。
06/09:
・クリントン米大統領はコソヴォ情勢について記者会見で、「ボスニアで起きた大虐殺や民族浄化の再現をくい止めるために取った、あらゆる行動を取る決意だ」と語る。さらに、安保理に対して軍事介入を含む「必要なあらゆる手段をとる」決議の採択に向け、英国政府と緊密な協議を行なっていることを明らかにする。
・セルビア治安当局がコソヴォ解放軍の攻撃に反撃を加えたため、アルバニア系の難民が脱出し、200人ほどがアルバニア側の国境地点に着く。
・ドール米共和党前院内総務はクリントン大統領に書簡を送り、NATO軍による飛行禁止空域の設定とセルビア空爆の準備に着手するよう求める。
・ベーコン米国防総省報道官は、NATOが軍事介入を決めた場合、米軍はその枠内で参加する用意があるとの意向を示す。
・ルービン米国務省報道官は、12日にG8の外相が協議する機会を利用し、米・英・独・仏・伊・露の6ヵ国連絡調整グループがコソヴォ問題で緊急会談を行なうと述べる。
06/10:
・ブレア英首相は下院で、コソヴォ自治州紛争について「ユーゴ連邦軍の行動を抑制させるために、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領への外交努力で協調する。それが実らない場合には西側の軍事行動もあり得る」と述べる。
・ルービン米国務省報道官はコソヴォ情勢をめぐり、軍事介入の威嚇と並行し、セルビア当局とコソヴォ自治州のアルバニア民族勢力が対話を再開するための環境作りとして、アルバニア系住民の帰還や安全の保証、国際監視団の常駐などの「信頼と安全の醸成措置」を検討していることを明らかにする。
・朝日新聞によると、武力によるコソヴォ自治州の独立を目指すコソヴォ解放軍はコソヴォでの勢力を拡大するとともに、アルバニアとの国境を自由に行き来して態勢を整えて兵士をも徴募している。
06/11:
・NATOは国防相会議を開き、セルビア共和国のコソヴォ自治州における紛争について、具体的な軍事対応策を策定することを決め、空軍演習をアルバニア上空とマケドニア上空などで行なうことも決める。その上でコソヴォの武力衝突について、「セルビア共和国治安当局とアルバニア系武装勢力」の双方を声明で強く非難。
・メアリー・ロビンソン国連人権高等弁務官はミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に、セルビア共和国コソヴォ自治州での人権侵害を監視するために、州都プリシュティナに人権高等弁務官事務所の現地事務所を開く許可を与えるよう要請。
06/12:
・G8は、ロンドンでコソヴォ自治州問題について協議し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に対して、「民間人弾圧を停止し、コソヴォのアルバニア系住民指導者との対話を進める」よう求める。これに従わない場合は、「さらなる措置を取る」としてNATO軍による武力行使の可能性を示唆する共同声明を発表。共同声明;「1,政治的対話による解決を求める。2,ユーゴ連邦当局による弾圧を停止することおよび治安部隊を撤退させる。3,難民・避難民を帰還させる。4,新規投資を停止する。5,ユーゴ航空の各国への乗り入れを禁止する。6,旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷に人道違反の調査を依頼する」。
・オルブライト米国務長官はG8外相会議後の記者会見で、セルビア共和国コソヴォ自治州の独立紛争でセルビア治安部隊の武力行使による犠牲が多数の一般住民に及んでいることを非難し、住民弾圧の即時停止を実行しなければ、「必要な行動を取る用意がある」と武力介入を警告。さらに、「国連安保理の承認は義務づけられていない」と明言。
・世界食糧計画・WFPはコソヴォ自治州内で定住地を失った難民に向け、第1陣としてビスケット62トンをトラック3台に載せて輸送し、12日にプリシュティナに到着。アルバニア北部に逃れた避難民に向けた食糧550トンの輸送を開始する。
・米ニューヨーク・タイムズ紙は、欧州軍事筋の話としてユーゴ連邦軍がセルビア共和国コソヴォ自治州とアルバニア国境沿いに地雷を敷設している、と報じる。コソヴォ解放軍がアルバニア国境から武器を流入させるのを防ぐのが狙い。
・セルビア共和国の当局者は、コソヴォ自治州はアルバニア系住民の武装組織「コソヴォ解放軍・KLAが30%を支配下に置き、さらに拡大して事実上自治州を勢力下に置いている」との見解を明らかにする。
06/13:
・NATOのソラナ事務総長は、セルビア共和国コソヴォ自治州紛争で平和解決に向けて圧力をかけるため、隣接するアルバニアおよびマケドニア共和国上空で空爆演習を15日に実施すると発表。
06/14:
・NATOのソラナ事務総長はコソヴォ自治州紛争について、「傍観はあり得ない」との声明を発表。
・コソヴォ自治州のジャコヴィツァ近郊でセルビア人警官が襲撃され、1人が死亡する。
06/15:
・EUの首脳会議が英国のカーディフで開かれる。EU首脳はセルビア共和国コソヴォ自治州の紛争に関し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に対して「1,コソヴォからの治安部隊の撤退。2,コソヴォへの国際監視団の受け入れ。3,難民の帰還。4,アルバニア系住民指導者との政治対話の実行」を呼びかけ、「受け入れられなければ、質的に異なるさらなる強い措置をとる」と警告。一方、連邦からの独立に固執するアルバニア系住民に対し、「コソヴォ自治州の独立は認めない」と言明。
・NATO空軍は、セルビア共和国に圧力をかけるため、13ヵ国が参加する大規模な軍事演習を、アルバニアおよびマケドニア共和国上空で実施する。
・クリントン米大統領は、セルビア共和国コソヴォ自治州の情勢に関してエリツィン露大統領と電話で会談。ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領との16日の会談に当たって影響力を行使するよう求めるとともに、調停活動が失敗した場合には軍事介入の可能性を是認した、「あらゆる必要な手段」の行使を含める国連安保理決議の採択を目指す考えを強調。
・マカリー米大統領報道官は、「エリツィン露大統領は外交的な解決を重視しているが、米国は『あらゆる必要な手段』を盛り込む安保理決議を求めている。これはロシアも認識している」と語る。
・コソヴォ解放軍・KLAスポークスマンはアルバニア国営放送のインタビューで、「セルビア治安部隊の撤退や第3国の調停などが認められれば、セルビア当局との対話が可能である」と述べる。
06/16:
・日本政府は、ユーゴ連邦政府やセルビア共和国政府に対する経済制裁措置を決める。制裁内容は、「セルビア共和国に対する投資を停止すると共に、日本国内にある資金を凍結するための、適切な措置」となる。
・エリツィン露大統領はミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談し、コソヴォ紛争の解決のための共同声明を発表。骨子;「1,ユーゴ連邦政府はアルバニア系住民勢力と自治の形態を含む議題で対話を再開する。2,市民と民族の平等を基礎とした政治的手段による紛争の解決を図る。3,平和的住民にいかなる弾圧もしない。4,情勢監視のための各国外交官や国際団体代表の自由な移動を保証する。5,国際赤十字など国際援助団体の活動を保証する。6,難民の障害なき帰還を保証する。7,欧州安保協力機構・OSCEの代表団の受け入れとユーゴ連邦の再加盟交渉の開始」など。ただし、ユーゴ連邦治安部隊の活動については、「テロリストの活動が停止される程度に応じて、常駐展開地点を除いて駐留を削減していく」との方針を表明するに留まる。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領はロシアでの記者会見で、「コソヴォに民族浄化といった現象はない。治安部隊の犠牲者にも普通の市民はいない。自国の領土にいる治安部隊がコソヴォから撤退する理由は何もない」と述べる。
・オルブライト米国務長官は、エリツィン露大統領とミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領との会談結果について、セルビア共和国治安部隊の撤退が盛り込まれていないことを批判。さらに、アルバニア系武装組織のコソヴォ解放軍・KLAによる「テロ活動の停止」を挙げたことについて受け入れられないと述べるとともに、NATO軍の軍事介入の可能性は消えていないと強調。
・ユーゴスラヴィア国境警備隊は、アルバニアからコソヴォ自治州に侵入を図ったアルバニア人との間で銃撃戦を行ない、アルバニア人10人を射殺。
06/17:
・ユーゴ連邦軍がアルバニア系住民の襲撃を受け、ユーゴ連邦軍兵士3人が死亡。
06/18:
・ロシア外務省は、21日からアファナシェフスキー外務次官をユーゴ連邦に派遣し、コソヴォ自治州の紛争解決に向けての対話再開を図る、と発表。
06/19:
米国防総省当局者は、原子力空母アイゼンハウアーを中心とする空母機動部隊が20日に地中海に入り、アドリア海に向かうことを明らかにする。コソヴォ自治州の紛争など、地中海周辺の不安定化に対処するのが目的。
06/23:
・ホルブルック米特使はベオグラードを訪れてミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談し、ユーゴ治安部隊のコソヴォ自治州からの即時撤退を強く迫る。
06/24:
・ホルブルック米特使はコソヴォ自治州を訪問し、ルゴヴァなどコソヴォ政界の有力者と会談。その直後、CIA要員の手引きでコソヴォ解放軍の解放区ユニクを突然訪問し、解放軍の2人の司令官と会談してその写真を公表させ、コソヴォ解放軍を認知する挙に出る。米政府はKLAを「テロ組織」として扱ってきたことを転換。ホルブルック米特使は、セルビア側との交渉相手にコソヴォ解放軍・KLAを加える可能性を示す。この後、ホルブルック特使はベオグラードに行き、ミロシェヴィチ大統領と会談したが形式的なものに終わる。一方で、米外交官ロバート・ゲルバードはヨーロッパでコソヴォ解放軍の指導者と会談。以後、米国情報部がコソヴォ解放軍を支援・訓練を強化する。
06/25:
・キンケル独外相は、セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民指導者ルゴヴァとボンで会談。ルゴヴァは、アルバニア系住民を守るためNATO軍の武力介入を要請し、「最良の紛争解決策は自治州の独立だ」と表明。キンケル独外相は、「コソヴォ自治権拡大は支持するが、それ以外は支持しない」と答える。
・パリ在住のユーゴスラヴィア系の男女のところに届いた小包が爆発し、男女は死亡する。
06/26:
・シライジッチ・ボスニア連邦首相は、NATO軍が対ユーゴスラヴィア空爆を実施する場合には、ボスニア領土内の軍事施設を提供する用意がある」と発言。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人共和国のドディック首相はコソヴォ紛争について、「ボスニアのスルプスカ共和国は中立の立場を取る」と語る。さらにシライジッチ首相の発言について、「彼に3民族から成るボスニア全体を代表して発言する資格はない。発言は我々のセルビア本国との関係だけでなく、ムスリム人およびクロアチア人勢力との関係にも悪影響を与えかねず、ボスニア和平にとって不安定要因となる」と批判。
06/28:
・ホルブルック米特使は、テロリスト扱いだったアルバニア人武装組織のコソヴォ解放軍・KLAのメンバーと会談したことを明らかにする。この会談によって、米政府がコソヴォ解放軍を正式の交渉相手と認知したことになる。この時点で、コソヴォ解放軍は勢力を拡大してコソヴォ自治州の30%を支配下に置き、州都プリシュティナの近くまで迫っている。
06/29:
・セルビア共和国治安当局は、プリシュティナの西方10キロにあるコソヴォ解放軍・KLAの支配拠点ベラチェバツの奪還作戦を展開し、激しい銃撃戦の後に制圧する。コソヴォ解放軍・KLAは近くの村に撤退。
・EUは外相理事会をルクセンブルクで開き、アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAを和平交渉の当事者として認めることに消極的な姿勢を示す。
・EU議長国のクック英外相は、「ルゴヴァがアルバニア系住民の正当な指導者であり、我々がこれまで交渉してきた相手だ」と発言。
・オーストリアのシュッセル外相も、急進派のコソヴォ解放軍・KLAの交渉参加への懸念を表明。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴され、ハーグで収容されていたセルビア人のスラブコ・ドクマノヴィチ・ヴコヴァル元市長が自殺。
06/30:
・アムネスティ・インターナショナルはセルビア共和国コソヴォ自治州の紛争について、「セルビア当局およびアルバニア系武装組織の双方が一般市民に無差別攻撃を繰り返している」と批判し、国際社会が人権監視要員を組織的に現地に送り込む必要がある、と訴える声明を発表。
06/00:
・コソヴォ自治州のクレチカ村で、コソヴォ解放軍・KLAの強制収容所が発見される。
・コソヴォ自治州に外国人傭兵の姿が目立ち始める。国籍はクロアチア、ドイツ、イギリス、フランス、ブルガリア、トルコなどのアルバニア人。
07/02:
・セルビア共和国コソヴォ自治州の西部キエボ村がコソヴォ解放軍・KLAによって包囲されていたが、ユーゴ連邦治安部隊が奪還作戦を実行して制圧する。
・ホルブルック米特使はユーゴ治安部隊の奪還作戦について、住民に多数の犠牲者が出ることを懸念し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に自制するよう求める。
07/03:
・ホルブルック米特使はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。
07/04:
・ホルブルック米特使はプリシュティナでアルバニア系住民の政治指導者ルゴヴァと会談。さらにベオグラードにとって返し、セルビア政府当局と調整。ホルブルック米特使は、ユーゴ連邦側が受け入れを約束していた「国際監視作業が、6日から始まる」ことを明らかにする。
07/05:
・ロシアのアファナシェフスキー外務次官がプリシュティナを訪れ、アルバニア系住民指導者ルゴヴァと会談後、「セルビア当局とアルバニア系住民側と和平交渉が再開される見込みがある」と語る。
07/06:
・国際軍事監視団は、セルビア共和国コソヴォ自治州の紛争についての監視活動を始める。
07/07:
・ボスニアのモスタル空港が再開され、95年に閉鎖されて以来、3年ぶりにボスナ航空とクロアチア航空が空港に到着す
る。
07/08:
・ニューヨーク・タイムズ紙にクリストファー・ヘッジス記者はコソヴォのとレプカにある鉱業コンビナートは、鉛、カドミウム、
金・銀などの豊かな鉱脈と鉱山を有しており、バルカン地方で最も価値の高い土地である」との記事を掲載。
07/14:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのムスリム人勢力およびクロアチア人勢力の「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ連邦」と、セルビア人勢力の「スルプスカ共和国(セルビア人共和国)」は、欧米や日本が支援する中東欧地域環境センターの仲介で「環境基本法」をつくるための覚え書きに署名する。
07/17:
・コソヴォ解放軍・KLAは、制圧していたオラホヴァツから近接したレティムリィエとオプテルシャを攻撃してセルビア人住民の男性を拉致して殺害。これを契機に、セルビア治安部隊とコソヴォ解放軍・KLAが激しい衝突を繰り返すようになる。
07/18:
・アルバニア国境からコソヴォ自治州ユニク周辺に侵入してきたアルバニア系武装組織・KLAのメンバー200人と、ユーゴ連邦の国境警備隊が銃撃戦を展開し、アルバニア系武装組織の30人が死亡。
・アルバニア政府は、ユーゴ連邦軍が越境攻撃をしているとする非難声明を発表。
07/21:
・国連安保理は決議1186を全会一致で採択し、コソヴォ自治州紛争の飛び火が懸念されるマケドニアで活動している国連予防展開軍・UNPREDEPの要員を350人増員し、任期を来年2月末まで延長する。
07/26:
・ニューヨーク・タイムズ紙は、米政府はボスニアのセルビア人共和国カラジッチ前大統領の逮捕を断念した、と報じる。
・コソヴォ解放軍は、ラプシュニク収容所に収容した非アルバニア系の囚人をペリシャ山地まで連れ出して9人を殺害。
07/27:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの和平協定実施状況を監視する文民部門・OHRのウェステンドルプ上級代表は記者会見で、ニューヨーク・タイムズ紙のカラジッチ前大統領逮捕断念の報道を否定する。
07/28:
・セルビア共和国治安部隊は、コソヴォ解放軍・KLAが占拠していたプリシュティナとペチを結ぶ同州の幹線道路を2ヵ月ぶりで奪還する。
07/30:
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は、コソヴォ解放軍・KLAへの治安部隊の攻勢が終了したことにより、アルバニア系指導部との直接対話には同意する、と明言。
・EUのコソヴォ紛争調停団はベオグラードで記者会見し、コソヴォ自治州のアルバニア系住民政治指導者ルゴヴァが、紛争解決に向けてアルバニア系指導部による超党派の「統一組織」を構築することで同意したことを明らかにする。この「統一組織」がセルビア側との交渉の窓口になる。
07/00:
・ユーゴ連邦軍・VJ当局は、この戦闘に際して「アルバニア系武装組織に対する攻撃に、空軍や重砲を使用してはならず、町村を砲撃してはならず、敵とのみ交戦せよ」と命令。
・スイス検察庁は、スイス国内に住むアルバニア系の組織「コソヴォ人民運動」の銀行口座「祖国アピール基金」と、「コソヴォ亡命政府」組織の銀行口座を凍結し、「戦争資材の不正取引、スイス主権の侵害、交戦国への敵対行動、犯罪組織への参加」などを容疑理由として、家宅捜査と尋問を行なう。アルバニア系組織は過去6年間で数千万スイスフラン(数十億円)相当を、口座を通してコソヴォに送金している。欧州に住む70万人の内、18万人がスイスに住んでおり、さらに近年難民や亡命申請者などで3万人がスイスに居住している。
08/01:
・セルビア共和国コソヴォ自治州西部でコソヴォ解放軍・KLAとセルビア治安部隊との戦闘が再燃し、少なくともセルビア治安部隊員2人が死亡し、2人が負傷する。
08/02:
セルビア治安当局は、コソヴォ解放軍・KLAへの攻勢を再開。
08/03:
・ルービン米国務省報道官は、セルビア共和国コソヴォ自治州の紛争をめぐりNATOが軍事介入計画を承認したことを明らかにし、「セルビア治安部隊は大規模な作戦を展開しており、コソヴォはこのままでは人道上の大惨事を迎える」と述べる。
・EU議長国のオーストリアのシュッセル外相は、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領にコソヴォでの戦闘停止を求める書簡を送付。
08/04:
・セルビア共和国コソヴォ自治州の中部マリシェヴォ周辺で、セルビアの治安部隊が再びコソヴォ解放軍・KLAへの攻勢を強める。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRはコソヴォ自治州での紛争再燃で、3万人を超える住民が避難したと発表し、世界食糧計画・WFPと協力して緊急食糧の運搬を開始する。
08/05:
・オーストリアの日刊紙「スタンダード」は、住民の話としてコソヴォ自治州の小都市オラホヴァツ近郊の村でアルバニア系住民567人の遺体が埋められた大規模な墓地が見つかった、と報じる。
・EU現地調査団は、「現状では、大規模な墓地があったという確認はとれなかった」とオーストリアの日刊紙の報道を否定。
・ロシアのアファナシェフスキー外務次官は、ベオグラード入りしてミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談。
・セルビア共和国とともにユーゴ連邦を構成するモンテネグロ共和国は、連邦政府との関係を断絶することに決める。新しくモンテネグロの大統領となったジュカノヴィチと対立するプラトヴィチ前モンテネグロ大統領を、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が連邦首相に指名したことに反発したもの。
08/06:
・ベーコン米国防総省報道官は、NATO加盟国が「平和のためのパートナーシップ協定・PFP」による軍事演習を、17日にアルバニアで、来月10日にマケドニア共和国で行なうと発表。
08/08:
・セルビア共和国治安部隊は、コソヴォ自治州デチャニ地域のコソヴォ解放軍・KLAの拠点を攻撃する。アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAは、アルバニア国境の山岳地帯へ撤退している模様。
08/10:
・「連絡調整グループ」の米・英・仏・独・露・伊6ヵ国は、コソヴォ問題に関する提案書をまとめ、セルビア共和国政府とアルバニア系住民代表に手渡す。
・ロシアのアファナシェフスキー外務次官は、「連絡調整グループ」の調停に当たり、「セルビア共和国は自治州に広範な自治権を与えるべきだが、独立は認められない。この点では各国は一致している」と述べる。
08/12:
・NATOは大使級理事会を開き、コソヴォ情勢に関して空爆を要請された場合に加盟国がどのような貢献ができるのか、具体的な準備作業に入る。ソラナ事務総長は、「コソヴォでの暴力終わらせ、和平交渉への環境を整えるのに必要なあらゆる選択肢を含めた軍事作戦を検討した」ことを明らかにする。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのハーグの収容所に収容されている被告全員の26人が、施設内の待遇改善と裁判の迅速化を求める公開書簡を裁判所に提出。背景には、6月から7月にかけて拘置施設でセルビア人2人が相次いで自殺したり病死したりしたことがある。
08/13:
・ユーゴ連邦当局は、大規模なアルバニア系住民の虐殺があったと報じたオーストリアの日刊紙「プレッセ」紙や「スタンダード」紙、およびドイツの「ターゲス・ツァイトゥング」紙の記者への取材許可証の更新を拒絶し、記者はユーゴ連邦から出国。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民導者ルゴヴァはプリシュティナで記者会見し、ユーゴ連邦当局との和平交渉を再開する方針を明らかにする。ルゴヴァが発表した交渉団5人の中にはコソヴォ解放軍・KLAのメンバーは含まれず。
08/16:
・EUは、コソヴォ自治州のユニクにはコソヴォ解放軍・KLA以外にも住民が1000人程いることを理由として、ユーゴ連邦政府に自制を求める。
・セルビア共和国治安部隊は、コソヴォ自治州のアルバニア国境近くにあるユニクのコソヴォ解放軍・KLAの拠点を制圧
する。
・日本の国際協力事業団・JICAは、ボスニアに地雷問題に関する調査団を派遣。調査団には外務省職員やNGOの「難民を助ける会」の横田暢之も参加。
08/17:
・NATO14ヵ国とロシアなど旧東側10ヵ国による、「平和のためのパートナーシップ・PFP」に基づく合同軍事演習が、アルバニアにおいて22日までの日程で行なわれることが決まる。
08/21:
・コソヴォ自治州の地元紙はアルバニア系住民勢力のアガニ交渉団長の話として、セルビア共和国政府とアルバニア系勢力指導者との間で密かに交渉が行なわれている、と報じる。
08/26:
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍・KLAは、アルバニア国境で武器の密輸を企て、国境警備に当たっていたユーゴ連邦軍と銃撃戦を展開し、解放軍兵士4人が死亡。
08/27:
・セルビア治安部隊は、コソヴォ解放軍・KLAと3日間の戦闘の末コソヴォ自治州南西部のドゥリェを制圧する。コソヴォ解放軍は、一時期コソヴォ自治州の3分の1を支配していたが、その拠点の大半を失う。
08/28:
・セルビア共和国側は、制圧したばかりのドゥリェを報道陣に公開する。
・コソヴォ解放軍・KLAのデマチ政治部門代表は地元紙に、解放軍が現在兵士を州西部に集めて増強を図っていることを明らかにするとともに、セルビア治安部隊と対峙して交戦する戦術の誤りを認め、検問所などの襲撃や待ち伏せ攻撃などのゲリラ戦を主体とした戦い方に変更する考えを示す。
・シャリフ・パキスタン首相は非同盟諸国首脳会議に出席せず、バジパイ・インド首相との会談も行なわないと発表。理由には、米国のアフガニスタンへのミサイル攻撃を事前に了承していたとの疑惑が、強硬派から追求されていることがある。
08/29:
・第12回非同盟諸国会議の実務者会議が、南アフリカのダーバンで始まる。
09/01:
・コソヴォ解放軍・KLAは、プリズレン周辺で大攻勢をかける。
08/31:
・コソヴォ自治州のアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍の政治部門代表コソヴォ議会党のアデム・デマチ党首は朝日新聞と会見し、「セルビア治安部隊が一般市民に銃を向ける限り停戦はしない。解放軍は間もなくゲリラ戦を再開するだろう」と述べ、欧米諸国が即時実施を呼びかけている停戦に応じる考えのないことを明らかにする。コソヴォ解放軍は一時コソヴォ自治州の3分の1を支配していたがその大半を失っている現状について、「3万人規模の兵力はほぼ温存しており体制の立て直しを図っている。今後は自治州が各地で小グループを組織し、ゲリラ活動を続けていく」と説明。また「ゲリラは統一した組織であり、軍幹部はクロアチア戦争やボスニア戦争でセルビア人勢力相手に戦った。話し合いで事態は解決しない。住民は武装闘争を支持している」 と述べる。欧米諸国がコソヴォの独立を認めないとすることに対し、「アルバニア人の自由への強い欲求を過小評価している」と不満を表明。
09/02:
・第12回非同盟諸国首脳会議・NAMが南アフリカのダーバンで開かれ、114ヵ国・組織が参加。創設の一員である新ユーゴ連邦のセルビア共和国とモンテネグロ共和国は資格停止処分が継続されて参加できず。ゲストとして米・英・仏・日が出席する。
主要議題は「1,南北格差の是正など経済問題。2,核実験への対応。3,テロ対策と米国の報復攻撃。4,国連安保理改革」など。
・開催国議長のマンデラ南アフリカ大統領は、「日本の経済危機は富の超過という問題だ。富の一ヵ所への超過が他地域の貧困を広げる結果になる。北の人々は、南とともに繁栄するという目標に向けて門戸を開くべきだ」と南北対話を強調。「南北対話・来世紀には南北対話と協力に新たな地歩を与え、相互に利益を得る必要がある」の項目が加えられる予定。
・シサノ・モザンビーク大統領は、「投機的な通貨取引や急速に進む貿易自由化が途上国の安定成長を阻害する」と演説。
・高村日外相はスロヴェニアのフルレツ外相との会談で、ボスニアの地雷撤去や被害者支援を目的に設立した基金に、「100万ドルを当てる用意がある」と述べる。
09/03:
・第12回非同盟諸国首脳会議は、最終文書を採択して閉幕。
「最終文書」;「1,非同盟運動の存在意義を再確認する。2,核兵器廃絶要求を深化発展させ、多面的なチャンネルを追及する。3,アメリカの一極覇権主義の軍事、政治、経済面での現れを一層厳しく批判し、国連憲章や国際法が保障する民族主権、民族自決権の尊重、内政不干渉、軍事侵略や武力による威嚇の禁止。4,国連改革など国際関係の民主化。5,東南アジア諸国の通貨、経済危機の勃発の教訓を踏まえ、グローバリゼーション、自由化の発展途上国への悪影響を非難し、途上国の利益を反映した国際経済のあり方への対案を提示する。6,IMFや世界銀行が富の偏在を放置したため、途上国が市場の圧力に曝されるようになった。7,南北対話による貧困の克服。8,インドとパキスタンの核実験による核軍備競争の再来に深い懸念を示す。9,コンゴ内戦問題」を提言。
・スロヴェニア・フルレツ外相はEU加盟について、「EUから加盟候補6ヵ国中の第一候補と聞いている。02年末までに加盟要件を満たせるだろう」と語る。
09/05:
・人権団体「国際人権連盟」と「フランス・リベルテ」は、7ヵ月にわたるコソヴォ自治州でのセルビア治安部隊とアルバニア系武装組織との戦闘で700人以上の死者が出たとの調査報告を発表。
09/09:
朝日新聞によると、ボスニアの内戦が終結を見てから3年が経過したが、UNHCRは和平協定以来旧居住地に戻った50万人の内少数派の帰還は5万人に過ぎない。モスタル市の郊外の村オルティエシュは、戦争前は136家族の内セルビア人は122家族だったが、いまはクロアチア人が支配する地域となっている。ここに、5年ぶりにセルビア人50人が戻って生活を始めたが、今のところトラブルはない。政党では、クロアチア人勢力の「クロアチア民主同盟・HDZ」が分裂し、ズバク前大統領が「クロアチア人新イニシャティブ」を結成。クロアチア民主同盟がボスニアからの分離を将来目標としているのに対し、ズバク前大統領の「クロアチア人新イニシャティブ」は共存を目指している。セルビア人勢力では、「セルビア民主党・SDS」のプラブシッチ・セルビア人共和国大統領が離党して、「セルビア人民党」を結成し、他民族共存を目指してムスリム人の支持をも得てドディックを首相に選任。
09/10:
NATO軍は、マケドニアにおいて軍事演習を行なう。
09/12:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの統一選挙が13日にかけて実施される。この統一選挙では、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの幹部会のメンバーおよび国会議員の選挙と、セルビア人共和国の大統領・副大統領、共和国議会議員選挙、そしてボスニア連邦の連邦議会下院議員、州議会議員の選挙が同時に実施されることになる。投票所はボスニアだけでなくユーゴスラヴィアとクロアチアを含めて2300ヵ所で行なわれるが、OSCEによると107ヵ所の投票所でトラブルが起きている。
09/15:
ボスニア・ヘルツェゴヴィナの統一選挙の実施に当たっていたOSCEのバリー代表は、混乱を避けるために予定していた中間発表を取りやめ、最終確定結果のみを発表すると表明。
09/16:
・コソヴォ自治州のプリシュティナから50キロにあるミトロヴィツァ周辺で、セルビア治安部隊とアルバニア系武装勢力との間に戦闘が起き、少なくとも7人が死亡。7ヵ月に及ぶ両者の戦闘で避難民は20万人以上に達す。
・クリントン米大統領はコソヴォ自治州の情勢について、「米国が最も重視しているのは山岳に逃げ込んだアルバニア系住民が、寒さや飢えの惨事に襲われるのを防ぐことだ」との考えを示す。
09/18:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの統一選挙が12,13日に実施され、ボスニア中央政府の最高意志決定機関「幹部会」のムスリム人代表にはイゼトベゴヴィチ、セルビア人代表には和平協調派のラディシッチ、クロアチア人代表にはイェラヴィチが当選確実となる。一方、セルビア人共和国の大統領選挙では、極右政党のセルビア急進党のポプラシェンの当選が確実となる。
・「連絡調整グループ」の6ヵ国は、この選挙を受けて来月初めに高官会議をロンドンで開くことを決める。
09/23:
・国連安保理は、セルビア共和国で独立紛争が続くコソヴォ自治州について、「1、敵対行為の即時停止と停戦の維持。2、人道上の状況改善策および破局回避措置。3,セルビア治安部隊の撤退と対話の開始を求める」決議1199号を採択。セルビア共和国側が従わなければ、「さらなる行動や追加的措置を考慮する」とした制裁措置を示唆。中国は「内政問題に介入すべきではない」として棄権。
・「連絡調整グループ」の6ヵ国の外相は安保理決議の後協議し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に対し決議を順守するよう圧力をかけていく方針で一致。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの統一選挙の非公式集計によると、ボスニア中央政府の幹部会選挙ではセルビア人代表に和平協調派のラディシッチの当選が確実となる。一方スルプスカ共和国大統領選では、セルビア急進党のポプラシェン党首が当選することが明らかになる。ポプラシェン党首は、セルビア人共和国のボスニアからの分離を主張している。
09/24:
・NATO加盟16ヵ国の大使級理事会は、コソヴォ紛争に関する国連安保理の決議を超えるセルビア共和国に向けた空爆の警告を出すことを決める。ソラナ事務総長は、「実際の武力行使にはなお理事会での意思決定が必要だが、今回の決定は、NATOが必要ならば武力を使う用意があることを示す重要な政治的信号だ」と述べ、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領が国連安保理決議に従うよう要求。
09/25:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの統一選挙の結果をOSCEのバリー代表が発表。中央政府の幹部会では、ムスリム人勢力は強硬派のイゼトベゴヴィチが圧勝。クロアチア人勢力は強硬派のクロアチア民主同盟のイェラヴィチが圧勝。セルビア人勢力は穏健派のラディシッチが当選。スルプスカ共和国の大統領に当選したセルビア急進党のポプラシェンは、「和平の枠組みは守っていく」と発言。ムスリム人勢力とクロアチア人勢力で構成するボスニア連邦では、複数民族政党を掲げる社会民主党が前回より得票数を倍増させて20%を獲得する。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人勢力幹部会員のラディシッチは、「和平実施に全面的に協力していく」と述べながら、戦犯法廷に起訴されているセルビア人勢力のカラジッチ元大統領の逮捕問題に触れ、「なぜセルビア人だけが責任を問われるのか。現状のままが一番いい」と語る。スルプスカ共和国内で避難民の帰還が進んでいないことについて、「経済が上向くことによって初めて避難民を受け入れる態勢を整えることができる」と経済復興が優先との見方を示す。
・ボスニアのスルプスカ共和国の選挙の最終結果が発表されたが、民族強硬派が台頭する。
09/26:
・ボスニアのムスリム人勢力のイゼトベゴヴィチ幹部会員が朝日新聞に書簡を寄せ、今回の選挙で欧米諸国が穏健派政党に肩入れしたことに対し、「選挙結果には影響はなかったが、外国人に指図を受けるのは好まない」との不快感を表明。また「和平協定は全て順守する。難民帰還などで妨げになっていいることがあれば、国際社会と協力し、解決していきたい。日本の和平安定化部隊への参加は歓迎されるだろう。任期満了前に隠退することもあり得る」と記述。
・UNHCRの緒方貞子高等弁務官は、アルバニアのティラナのモスクでセルビア警察に追い立てられた住民たちに話を聞き、ミロシェヴィチ大統領に「実際に自分の目で確認したコソヴォ・メトヒアで起きている事態を深く憂慮している。閣下には残虐行為を止める責任と権力がある」との書簡を送るとともに、記者会見で実態を話す。
09/27:
・ボスニアに派遣しているNATO軍の和平安定化部隊・SFORは、旧ユーゴ国際戦犯法廷で起訴されているセルビア人の元警察署長ステバン・トドロヴィチ被告を逮捕し、身柄をハーグに移送したと発表。
09/28:
・セルビア共和国のマルヤノヴィチ首相は、コソヴォ自治州で独立を求めているアルバニア系武装勢力コソヴォ解放軍に対する治安当局の掃討作戦が終了したと発表。10日以内に武器を放棄すれば罪は問わないと述べる。
09/30:
・NATO大使級理事会はコソヴォ情勢について協議を行ない、国連安保理のコソヴォ紛争の即時停戦決議にセルビア当局が従っていないことに対し、「一定の武器移動は見られるが、撤退は全く不十分に留まっている」との情報分析を行ない、武力介入の必要があるかどうか、1週間以内に情勢判断をする方針を決める。NATO軍は既に対セルビアへの限定攻撃に必要な巡航ミサイルの戦域配備が終わり、航空機の編成も整えつつある。
・セルビア共和国政府の「テロ撲滅宣言」を受けて警察特殊部隊などの装甲車や戦車の一部撤退が始まっているが、アルバニア系住民の情報センターによると、セルビア治安当局の攻撃はドレニツァ地域で続いている。ドレニツァ地域のゴルニエ・オブリニェ村では16人の遺体が発見され、アルバニア系住民はセルビア警察の犯行としているが、セルビア側は否定。シェシェリ・セルビア副首相は国連や赤十字の調査団を受け入れる考えを表明。
・緒方貞子難民高等弁務官は、コソヴォ自治州の紛争について、セルビア治安当局に行き過ぎた実力行使をやめるよう要請。
10/01:
・国連安保理は、コソヴォ自治州の紛争に関する緊急協議を開催。独立を求めるアルバニア系住民の虐殺などの残虐行為を「強く非難」する報道向けの声明を発表し、ユーゴ連邦大統領と政府に緊急の捜査と実行犯の摘発を求める。
・コーエン米国防長官とオルブライト米国務長官はコソヴォ自治州での虐殺の報道を受け、上院と軍事介入を含む今後の対応について協議。コーエン米国防長官は記者団に、NATO軍による攻撃態勢が「近く整う」と語る。米政府は、米国市民にユーゴスラヴィアを出国するよう勧告。
10/02:
・コーエン米国防長官は、コソヴォ紛争でミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領が即時停戦や治安部隊の撤退などの安保理決議に応じなければ、NATO軍は2週間以内に空爆を始めると警告。同国防長官は下院で、「セルビア側がアルバニア系住民の殺害を一時的にやめるだけでは攻撃回避の条件にならない。避難民の帰還や交渉による紛争の解決、人道援助活動の許可などの全てが満たされない限り、空爆は避けられない」と述べる。
・エリツィン露大統領は、フィンランドのアハティサーリ大統領と電話で会談。ユーゴ連邦セルビア共和国のコソヴォ自治州をめぐる紛争は「外交的手段での解決が不可欠だ」と述べ、NATO軍が検討している武力介入に反対を表明。またエリツィン露大統領はイワノフ外相に、コソヴォ紛争の平和的解決のために引き続きあらゆる措置を取るよう命じる。イワノフ外相は直ちにオルブライト米国務長官、ペドリヌ仏外相、ディーニ伊外相と電話で相次いで協議し、武力行使による紛争の解決は非生産的で受け入れられないとのロシアの立場を説明。
・国連安保理は旧ユーゴ国際戦犯法廷の要請を受け、91年にクロアチアのヴコヴァルで住民260人を虐殺した罪で起訴されている3人の被告を同法廷に引き渡すよう、ユーゴ連邦当局に要求する報道向けの声明を発表。
10/03:
・ローマ法王のヨハネ・パウロⅡ世はクロアチア共和国を訪問し、元ザグレブ大司教の故アロイジエ・ステピナツ枢機卿を聖人に次ぐ福者の地位に列する式典を挙行。ステピナツ枢機卿は、第2次大戦中にナチス・ドイツの傀儡政権に協力したとして旧ユーゴスラヴィア社会主義政権によって自宅軟禁に処せられていたが、1960年に死去。法王庁は、ステピナツ枢機卿は人命救助のためにカトリックに改宗をさせたのだと釈明。
10/04:
・ユーゴ連邦最高国防会議は、NATO軍によるセルビア共和国コソヴォ自治州紛争への武力行使の可能性について緊急協議し、「NATO軍の攻撃があればあらゆる手段を使って防御する」との声明を発表。
・イワノフ露外相はベオグラードでミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談し、エリツィン露大統領のコソヴォ紛争の平和的・政治的解決を求めた親書を手渡し、NATO軍によるユーゴ空爆の可能性をめぐって、バルカン半島だけでなく東西関係全体に損失を与えるとの認識で一致。
10/05:
・ユーゴ連邦のブラトヴィチ首相は臨時上下院合同議会に、「1,ユーゴスラヴィアの治安部隊はコソヴォから撤収した。2,9月28日にアルバニア系住民武装組織コソヴォ解放軍・KLAに対する武力行使は終了した。3,国連安保理決議は実施されている」と報告。さらに、「コソヴォ自治州に対する欧州安保協力機構・OSCE調査団を受け入れる用意がある」と表明。また「ユーゴ連邦が戦争の危機に直面している。政府が有事に備えて行動ができるよう」議会に要請。OSCE調査団受け入れは、イワノフ露外相が提示した調停案と見られている。
・英政府はコソヴォ情勢について特別会合を開き、「現地で起きている、由々しき人道問題解決のための唯一の道であるならば、武力行使も辞さない」との方針を確認。
・アナン国連事務総長はコソヴォ自治州の情勢について、「最近のアルバニア系住民に対する虐殺の大半がユーゴ連邦の治安当局により行なわれたことは疑いない」と断定し、ユーゴ連邦のミロシェヴィチ大統領が即時停戦と和平交渉の開始を求めた9月末の安保理決議を順守しているかどうかを検証する手段が国連にはないので安保理に委ねる、との報告書を提出。
・クリントン米大統領はエリツィン露大統領とコソヴォ情勢についての電話会談で、「ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は国際社会の圧力をかわすため、偽りの約束をするいつものゲームをしているのではないかと懸念している。中途半端な行動では駄目だ。武力は使いたくないが、セルビア側は国連安保理決議を検証できる形で、具体的に、後戻りがないように実行すべきだ」と述べる。エリツィン露大統領は、武力行使に反対する考えを重ねて表明する。
・米政府のホルブルック特使は、ベオグラード入りしてミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。ユーゴ連邦の治安部隊を全面撤退させるとともにコソヴォ自治州の独立問題を2,3年棚上げし、その間コソヴォに自治権を認めるとする案を提示。さらに安保理決議に従わなければNATO軍による空爆は避けられないと警告。ホルブルック米特使は、会談後ワシントンに「突破口は開けず」と報告。
・ワシントンでは直ちにコーエン米国防長官、バーガー米大統領補佐官、シェルトン米統合参謀本部議長らがホワイトハウスに集まり、NATO軍によるセルビア空爆計画の検討に入る。
・オルブライト米国務長官は、空爆後に和平協定ができれば地上部隊の配備も考えられるが、「計画はまだ流動的だ」と語
る。
・ロット米共和党上院院内総務は、「素早い行動を起こさなかったつけが回って来ているのに、政府には先を見越した計画がない」と批判。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は、「NATO軍の軍事介入は犯罪行為」と強く非難して受け入れず。さらに、ミロシェヴィチ大統領は、「虐殺された人数もはっきりしない段階で、NATO軍が懲罰的空爆を実施するのは不当」と反論。
・EUはルクセンブルグで外相理事会を開き、コソヴォに関する特使にオーストリアの駐ベオグラード・ペトリシュ大使を任
命。
・アルバニア系情報センターによると、デチャニやマリシェヴォなどのコソヴォ解放軍の拠点へのセルビア治安当局による攻撃が散発的に続いている。
10/06:
・クリントン米大統領はIMFの年次総会でコソヴォ問題を取り上げ、「ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は大変危険な賭をしている。今すぐコソヴォでの暴力をやめなければならない。国連安保理の決議に従わなければ、NATO軍は行動を起こす用意がある」と演説。コーエン米国防長官は上院軍事委員会公聴会で、「安保理決議を部分的につまんでもNATO軍の空爆をかわすには足りない。NATO軍が空爆に踏切り、その後の平和維持のための地上部隊派遣については、大部分は欧州で受け持つべきだ」と語る。
・米ホルブルック特使は、コソヴォ自治州の指導者ルコヴァと会談。その後再びベオグラード入りし、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談。会談後の記者会見で、充分な結論を得られなかったことを示唆。
・国連安保理は、アナン事務総長が提出したコソヴォ自治州の情勢報告書について協議。アルバニア系住民に対する武力行使を非難し、安保理決議の順守を求める声明を発表。ロシアと中国が先の安保理決議の遵守状況を検証する調査団の派遣を提案し、日本も同調する姿勢を示す。
・NATOは、ブリュッセルの本部でオルブライト米国務長官が出席して緊急外相会議を開くと発表。
・イワノフ露外相は、紛争への対応を国連安保理に委ねたアナン国連事務総長の報告を高く評価。一方、安保理で武力の使用が協議された場合には、ロシアは疑いなく拒否権を行使するとの方針も強調。
・ベラルーシのルカシェンコ大統領は、コソヴォへの武力行使に反対するロシアを支持すると共に、「ユーゴスラヴィアがNATO軍の軍事行動に反撃出来るように武器を援助する用意がある」と表明。
10/07:
・米ホルブルック特使は、ベオグラードでミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と3度目の会談をしたが、内容は公表されず。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領府は、「NATO軍の威嚇が、政治解決の道を阻害している」との声明を発表。
・NATOは、大使級理事会を開催してコソヴォ問題を協議。一両日中に空爆の作戦計画を承認し、その法的根拠について共通見解をまとめることを決める。NATO当局者は、「加盟国の調整も数日中に終わる。いつでも作戦発動指令が可能な状態になる」と警告。
・エリツィン露大統領は中国を訪問中のブレア英首相とコソヴォ問題について電話で協議し、「NATO軍による武力行使は破滅的行為となり、世界情勢を質的に一変させる」と警告。
・欧州安保協力機構・OSCEは、ユーゴ連邦外務省が提案したコソヴォ自治州への調査団派遣要請を拒否する。
・OSCE議長国のゲレメク・ポーランド外相は「OSCEは調査団を送る用意はあるが、ユーゴ連邦側の派遣要請は一回限りのものであり、調査は継続的なものでなくてはならない」との声明を発表。
10/08:
・ホルブルック米特使は、オルブライト米国務長官やソラナNATO事務総長と個別に会談。オルブライト米国務長官は記者会見で、「ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は現在の事態の深刻さを理解していない。期限は設けていないが、あと数日で時間は尽きようとしている。われわれは武力行使に国連安保理決議は必要ないという考えで、ロシアの反対は武力行使の妨げにはならない」との立場を示す。
・NATOは、オルブライト米国務長官を交えて非公式外相会議の予定を通常の大使級理事会に変更。NATO当局者は、「作戦発動指令」については憲法上、議会の承認を得なければならない各国の事情があるために「早くとも12日以降になる」との見方を示し、国連安保理決議の明確な武力行使容認決議なしで主権国家を攻撃する法的根拠については、「一両日中に共通理解をまとめることが可能だ」と語る。
・イワノフ露外相は、急遽ベオグラード入りしてミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談し、「コソヴォ情勢の正常化によって、ユーゴ連邦政府とアルバニア系住民指導部との政治対話が可能になる」との共同声明を発表。
・プロディ伊首相はコソヴォ紛争に対するNATO軍の介入について、「交渉による問題解決の可能性が残されており、現段階では介入に踏み切る根拠はない」と述べる。
・クリントン米大統領はコソヴォ情勢で、NATO軍が最終的にセルビア攻撃を決めるときは米政府として支持する方針を示し、NATO軍にB2ステルス攻撃機2機、F117ステルス攻撃機12機など計260機の軍用機を空爆作戦に投入する用意があると伝える。
・ユーゴ連邦のベオグラード市内では地下壕の整備を始めており、当局も避難の心得文書を配布。
・アメリカ、デンマーク、オーストリアなど欧米各国はユーゴスラヴィアからの避難準備を始め、日本大使館も家族の撤退を始める。
・セルビア共和国のシェシェリ副首相は、「外国報道機関のために働いているセルビア人市民は、スパイと見なす。これは外国の情報番組から国内のメディアを守ることが目的だ」と発言。
・コソヴォのアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAは、9日から当分の間戦闘を自粛することを表明。
・「連絡調整グループ」6ヵ国は外相会議を開き、再度米ホルブルック特使にミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領への最終的な説得を行なわせることで合意する。連絡調整グループが提示している協定案は、「1,ユーゴスラヴィア連邦軍とセルビア警察は、国境から10キロ幅の地域を除き、コソヴォ自治州から完全撤退する。2,2500人規模の新たな警察を組織し、司令官をアルバニア人、副司令官をセルビア人とする」などの内容。
・クック英外相は「連絡調整グループ」の外相会議後、「ミロシェヴィチ大統領が、われわれのメンバーの誰かに救いを求めようと思うならば、その試みは達成されない」と語る。オルブライト米国務長官は、「治安部隊の一部撤退は認められるものの、歩兵、装甲部隊などはコソヴォの拠点に配備されたままで、部隊の再配備や一部要員の帰休があるだけだ」と説明。イワノフ露外相は、「政治解決に向けて更に近づいた」と語る。
10/09:
・6ヵ国「連絡調整グループ」の委託を受けたホルブルック米特使はベオグラード入りし、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と4日間の日程で交渉に入る。「連絡調整グループ」の外相らが要求している事項は、「1,コソヴォでの暴力を完全に停止する。2,セルビア治安部隊や重火器を紛争開始前の水準まで撤退する。3,援助機関の行動の自由を保証する。4,国連の旧ユーゴ国際戦犯法廷の捜査に協力する。5,避難民の帰還を促進させる。6,アルバニア系住民と自治権回復について交渉を開始する」などをあげる。
・エリツィン露大統領はコソヴォ問題について、「NATO軍に武力介入をさせてはならない」と述べる。
・中国の唐家璇外相はユーゴ連邦のウヌコヴィチ駐中国大使と会い、コソヴォ自治州紛争に関しNATO軍が空爆することに反対する考えを示す。
・次期の独首相となるシュレーダーはホワイトハウスを訪れ、クリントン米大統領と会談。コソヴォ紛争について「われわれはコソヴォで戦争をしたいとは思っていない。だが、決意は見せねばならない。ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領がドイツの立場に何か期待しているなら、大きな間違いだ。NATO軍の軍事行動は、これまでの安保理決議で充分だ」と語る。
10/10:
・NATOはブリュッセルで大使級理事会を開き、コソヴォ情勢に関する作戦発動指令を協議したが、国連安保理による明確な武力行使容認決議なしで空爆に踏み切る場合、国際法上の根拠を何処に求めるかが詰め切れず。
10/11:
・イワノフ露外相はロシアTVとの会見で、「NATO軍が国連安保理の承認なしで軍事行動を開始すれば、それは国連憲章により平和への侵害もしくは侵略と明確に位置づけられる。ただし、NATO軍がユーゴスラヴィアに空爆を加えたとしても、ロシアが力で報復することはあり得ない。これはロシアに対する侵略ではないからだ」と語る。
・ホルブルック米特使はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領とコソヴォ問題について協議。ミロシェヴィチ大統領は6ヵ国「連絡調整グループ」が提示している6項目の内容については原則で合意しているが、国際監視団の構成について、ホルブルック米特使がNATO軍の軍人を含めるように求めているのに対し、ミロシェヴィチ大統領はOSCEなどによる文民派遣を主張している模様。ホルブルック特使は6項目以外に、「1,アルバニア系住民が要求する独立問題の一時棚上げ。2,自治州政府や議会、警察を新設し、アルバニア系住民への大幅な自治権付与」を示して受け入れるように求める。
10/12:
・NATOはコソヴォ紛争に関する大使級理事会を開き、最終的な態度決定について協議。ユーゴ連邦セルビア共和国当局に対する「作戦発動指令」を、4日間の猶予期間をつけて出すことを決める。ソラナNATO事務総長は、「交渉には進展も見られるが、多くはこれまでのNATOの圧力によるものだ。技術的には48時間の期限で空爆作戦開始も可能だが、外交努力に最後の機会を与えるため、96時間に延ばした。外交解決はミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領次第だ」と述べる。NATO軍の「作戦発動指令」は、一部の攻撃目標だけを対象とした限定空爆作戦と、長期間にわたり4段階に設定された波状空爆作戦の両方の計画について出される。
・ホルブルック米特使とミロシェヴィチ・ユーゴ大統領との協議が続けられる。ミロシェヴィチ大統領は、コソヴォ自治州での紛争は内戦ではなく、アルバニア系テロ組織の掃討であり、外国軍が領土に展開するのは主権を侵すもの、との主張を崩さず。
・クリントン米大統領は、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領がセルビア治安部隊のコソヴォからの撤退や難民の帰還などを求めた国連安保理決議を完全に守る、と約束した、との声明を発表。NATO軍の「作戦発動指令」態勢については保つ方針を表明。
・ドイツ政府は、臨時閣議でコソヴォ紛争に対するNATO軍の武力介入を正式に承認。
・イタリア政府は閣議を開き、コソヴォ紛争でNATO軍による武力介入を支持し、アビアーノなど国内のNATO軍基地の使用を承認する。
10/13:
・米ホルブルック特使は、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領との11項目の「十月協定」合意内容を発表。合意内容;「1,ユーゴスラヴィアは国連安保理決議の実施状況を検証させるために欧州安保協力機構・OSCEの検証団2000人を受け入れ、検証要員の安全と完全な移動の自由を保障する。2、NATOとユーゴスラヴィアとの合意に基づき、非戦闘機によるユーゴスラヴィア領空での検証作業を実施する。3,ヒル駐マケドニア米大使が調停役として、コソヴォ問題の政治的解決に引き続き努力する。4,コソヴォ自治州のアルバニア系難民の帰還並びにアルバニア系住民勢力との対話を再開する。5,ユーゴスラヴィアへの経済制裁は継続する」など。
・ホルブルック米特使は「危機的な状況を脱したわけではない」と述べ、NATOの空爆に含みを持たせる。。
・NATOは大使級理事会を開き、ユーゴ・セルビア当局に安保理決議1199号には含まれない「作戦発動指令・OPLAN」を4日間の猶予期間をつけて出すことを決める。「作戦発動指令」は4段階に設定され、第1段階は短期間の限定目標の空爆、第4段階は長期間にわたる空爆、との波状的空爆作戦を実行うとの期計画を立てる。
・バーガー米大統領補佐官は、「NATO軍が空爆の最後通告につけた4日間の猶予期間に安保理決議すべてが満たされる必要はないが、重大な進展が必要だ」と強調し、「OSCE監視団は幅広い権限を持ち、任期に期限はない。また相当多数の米国人が参加する予定で、米軍人も非武装・平服で加わる」と述べる。
・ロシア外務省のラフマニン情報局長は、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領とホルブルック米特使との協議による合意を歓迎し、「ロシアも監視団に参加する」と述べ、イワショフ国際軍事協力局長は、「ロシアは200から250人を派遣する用意がある」と述べる。
・アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAのマフムティ広報担当は、「ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領が合意を履行するかどうか疑いを持っている。OSCEの監視団も、結局捕虜として使われるのではないか」との疑念を表明。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は国営テレビを通じ、「軍事介入の危険を回避し、我が国の領土と主権を守ることができた」と語る。
・セルビアの野党「セルビア再生運動」のドラシュコヴィチ党首は、「国際監視団は、コソヴォの歴史的権利と正義がセルビア側にあること学ぶだろう」との声明を発表。
・ネマニャ・ヨヴィチ・ユーゴ駐日臨時代理大使は、「NATO軍が軍事的圧力を背景にコソヴォ問題の解決を迫る構図が同国民の反発を招き、紛争の交差点ともいえるバルカン情勢を将来的に不安定化する要因になりかねない」との見方を示す。合意については、「セルビアの与野党は概ね評価しており、空爆が遠のいたことに安堵の声を上げている」と述べる。
・ゲレメクOSCE議長はベオグラードを訪れ、OSCE国際派遣団について、ユーゴ連邦政府代表と協定書に調印する方針を表明。
・ユーゴ連邦セルビア共和国ミルティノヴィチ大統領が、共和国南部コソヴォ自治州で新に設けられる議会の選挙を9ヵ月以内に実施する考えを表明。
10/14:
・米国務省ルービン報道官はコソヴォ情勢について、「セルビア治安部隊は農村部から撤退を始めており、11日の時点と較べると人数は遙かに減っている。ある幹線道路の検問所は8割が撤去された。山間部に逃げていたコソヴォのアルバニア系住民の一部が既に帰還を始めた」と評価を示す。
10/15:
・「連絡調整グループ・CG」外相会議がパリで開かれ、ホルブルック米特使とミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領との間で成立した合意事項を順守させるためには、新たな国連安保理の決議を速やかに採択する必要があることで一致する。ペドリヌ仏外相は会議について、「国連安保理決議に新決議の他、コソヴォ自治州からのセルビア治安部隊撤退などを検証する国際監視団を早期に派遣することや、NATOの役割について協議した」と語る。
・ゲレメクOSCE議長はユーゴスラヴィアを訪問し、ユーゴとの間でOSCE監視団を設置する協定書に調印。
・NATOソラナ事務総長は、ベオグラードを訪れてミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談。コソヴォ自治州情勢について、「治安部隊撤退など国連安保理決議のユーゴスラヴィア側の遵守状況は、現時点の情報は、まだ充分ではない」と指摘。「これが守られなかった場合はNATO軍が空爆に踏み切ることもあり得る」と警告。
・クラークNATO欧州連合軍最高司令官(米)はベオグラード入りし、ユーゴ連邦軍のペリシッチ参謀総長との間で、NATO軍の非戦闘機がユーゴスラヴィア上空を監視飛行する協定に調印。
・アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAのマフムティ広報担当は記者会見で、「合意後もセルビア側は、20以上のアルバニア人の村を砲撃した」と非難。
・ユーゴ国営のタンユグ通信によると、コソヴォ自治州のスルヴィツァでコソヴォ解放軍がベオグラードとペチを結ぶ幹線道路にある検問所を数時間にわたって攻撃した、と伝える。ユーゴ連邦セルビア共和国政府は、独立系新聞のナシャ・ボルバに対し発行禁止を命じる。10月9日に政令を出して以来、発行禁止になったのは3紙。
・国連報道官は、アナン事務総長がコソヴォ自治州の状況が把握できるよう準備のための調査団を週末にも派遣すると発
表。
10/16:
・NATOは大使級理事会を開き、13日に出した4日間の猶予付きで出した「作戦発動指令」について、発効期限を27日までさらに10日間延長する方針を決める。NATO軍当局者によると、ユーゴ連邦陸軍1個旅団および軍事警察隊1個大隊がコソヴォから撤退を始めた動きを確認。
・ヒル駐マケドニア米大使の仲介で、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領とアルバニア系指導者ルゴヴァが会談。ヒル米大使は、「1,自治州の枠内で独自の行政府や議会を創設する。2,アルバニア系住民をトップとする警察を新設し、警察官を民族比に応じて配分する。3,ユーゴ連邦軍はアルバニアとマケドニア国境から10キロ以内の幅で駐留する。4,コソヴォ自治州の独立は当面棚上げする。5,協定は3年後に見直す」などの和平協定案を提示。セルビア側は原則として受け入れる意向を表明しているが、アルバニア系住民側は、「受け入れの条件に欠ける」とあくまで独立を目指す考えを保持。コソヴォ解放軍のデマチ政治代表も不満を表明する。
・OSCEのゲレメク議長はベオグラードを訪れ、ユーゴスラヴィアのヨバノヴィチ外相との間でコソヴォ自治州に派遣する国際検証団・KVMに関する協定に調印。ゲレメク議長は記者会見で、検証団の先遣隊が17日にはコソヴォ入りするとともに、武装しない検証団の安全確保のため、NATO軍の協力を要請する可能性を示唆。KVMの任務は「1,安保理決議順守の検証。2,停戦維持の検証。3,兵力移動の監視。4,難民・避難民の帰還支援、5,選挙監視や自治政府設立の支援。6、人権促進と民主制の構築。7、OSCEおよび国連安保理への報告」など。
10/17:
・NATO軍は、コソヴォ上空からの検証飛行を開始する。
・プリシュティナの西方30キロ地点で、コソヴォ解放軍とセルビア治安当局との間で銃撃戦があり、セルビア人警官3人が死亡。
10/18:
・NATOは大使級理事会を開き、セルビア空爆の「作戦発動指令」について、発効期限を27日まで10日間延長し、臨戦態勢は維持する方針を決める。
・欧州安保協力機構・OSCEのコソヴォ停戦合意検証団・KVM検証団は、第一陣をコソヴォのプリシュティナへ派遣。検証団長には、旧ユーゴの国連東スラヴォニア・バラニャ・西スレム暫定統治機構・UNTAESの事務所特別代表を務めた米外交官のウィリアム・ウォーカーを任命。
・OSCE検証団は、「即時停戦、ユーゴ連邦治安部隊の撤退、避難民の帰還促進」などを求めた国連安保理決議の遵守・履行状況を検証する。
・セルビア共和国のベオグラード裁判所は、雑誌「エブロプリャリン」がミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領を批判する記事を掲載したのは国家転覆を図るものだとして、同誌を発行するDETE社やスラフスコ・チュルビア社長兼編集局長らに240万ディナール(2800万円)の支払いを命じる判決を出す。
・マケドニア共和国で独立後3度目の議会選挙(定数120)の投票が実施される。マケドニアでは、旧共産主義者同盟系のマケドニア民主同盟と右派のマケドニア国家統一民主党・VMROおよび中道の民主オルタナティブの闘いとなる。
10/24:
・国連安保理は、ユーゴ連邦と「連絡調整グループ」6ヵ国などの間で成立した合意を支持し、ユーゴ連邦に「全面的かつ即時」の実行を要求する決議1203を、13ヵ国の賛成で採択。NATO軍の介入については、「緊急事態において、監視団の活動の安全と自由を確保するための行動が必要になる場合もあることを確認する」と直接介入の可能性に触れることは避ける。
・米国は「合意が守られなければ武力行使をする」意向を表明。ロシアと中国は、「決議は武力行使を承認していない」との認識を示す。
・コスタリカとブラジルは、「NATOなどの地域機関が安保理の事前承認を受けずに強制行動をとる方針を決定したことは、国連憲章53条に違反する」と批判。
10/25:
・セルビア共和国政府当局は、独立系日刊紙「ドネブニ・テレグラフ」の26日付新聞の発行を禁止すると共に、同紙や雑誌「エブロプリャリン」を発行するDETE社の事務所にあったコンピュータなどを差し押さえる。チュルビアDETE社社長は、「不当な判決なので従うつもりはない。今夜の措置についても当局からの説明は全くない。罰金の支払いに応じなかったので、差し押さえに踏み切ったのだろう」と話す。
・NATO軍のクラーク欧州軍最高司令官(米)とナウマン軍事委員会議長(独)はベオグラードを訪れ、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談。セルビア治安部隊撤退の細かい日程と方法、コソヴォ解放軍への欧米諸国の政治的働きかけなどで、一定の合意を見る。
・OSCEのコソヴォ停戦合意検証団が設立される。
10/26:
・EU外相理事会が開かれる。クック英外相は記者団に対し、「NATO軍のクラーク欧州連合軍最高司令官とミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領との間で、治安部隊撤退の日程などで合意した」と語る。NATO外交筋は、「27日に発効期限が切れるNATO軍の対セルビア空爆の作戦発動指令について、合意遵守を既に始めている証拠がある。今後24時間以内にさらに進展が見られれば、NATO軍は空爆を行なわない」と指令解除の可能性を示唆する。
・ユーゴ連邦軍高官は、中部ドゥリェとツァルスカ・チェスマ、西部ボルヤックの3ヵ所に最後まで展開していた部隊が、この日撤退したことを明らかにする。コソヴォ・メトヒヤ師団に属する7000人の兵士は全て駐屯地に待機している。
10/27:
・NATOはコソヴォ紛争について、設定したセルビアへの「作戦発動指令」の期限を迎えて大使級理事会を開いて協議。指令は継続するものの発効は改めて決定すると決める。ソラナNATO事務総長は、「この24時間内に、4000人以上の治安部隊がコソヴォから撤退した。治安情勢の改善で数千人の避難民が自分たちの村に戻ることができた」とセルビア当局の対応を評価。一方「われわれの軍事的脅威がコソヴォ情勢を改善した。安保理決議が守られない事態が起きれば、武力を行使する」と付け加える。NATO軍はコソヴォ解放軍に対しても、決議の遵守と停戦の継続を求める。
・セルビア共和国政府は、治安当局の最高責任者のスタシニッチ内務次官を解任。
10/28:
・ホルブルック米特使はアナン国連事務総長と会談した後の記者会見で、NATO軍が武力行使の方針を決めた今回の事態について、「最も前向きな意味で特異な前例になったということで、事務総長と考えが一致した」と述べる。アナン国連事務総長の報道官は後に、「前例になるかどうかでは一致していない」と否定。
・「黒い手」を名乗るセルビア人ハッカーグループが、クロアチアの政府系日刊紙「ビエスニク」のホームページに侵入し、「真実とセルビア民族のためにわれわれは戦う」というメッセージを書き込む。
10/29:
・クロアチア人ハッカーグループはセルビアの国立図書館のホームページに侵入し、「セルビアの本ではなく、ビエスニクを読め」というメッセージを書き込む。
10/30:
・スイス検察庁は、ユーゴスラヴィア人4人を含む6人をコソヴォ自治州の武装勢力への武器密輸を計画したとして、武器や弾薬500キロなど100万ドル相当を押収。スイスにはアルバニア系コソヴォ難民が多く、反政府活動への支援組織がある。
・クロアチアの日刊紙「ビエスニク」は、クロアチアのハッカーグループの「ただ自分たちの方がハッカーとして実力が上だということを見せてやりたかっただけで、政治とは何ら関係はない」との声明を載せる。
11/03:
・マケドニア共和国議会選挙の議席が確定する。野党連合のマケドニア国家統一民主党と民主オルタナティブが58議席を獲得し、与党マケドニア社会民主同盟の29議席を大きく引き離す。人口の30%を占めるアルバニア系住民の政党は、24議席を獲得。
11/06:
・コソヴォ自治州のオプテルサ近郊で、コソヴォ解放軍がパトロール中のセルビア警察官を襲撃し銃撃戦となる。セルビア情報センターによるとこの戦闘でコソヴォ解放軍の兵士5人が死亡。
11/14:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのポプラシェン・スルプスカ共和国大統領は、民族強硬派のカリニッチを首相に指名する。
・欧州安保協力機構・OSCEのバリー大使は、「和平の流れに逆行するものだ」と異を唱える。
11/16:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、ボスニア内戦時に収容所内のセルビア人虐殺に関わったとして大量殺害の罪に問われていたムスリム人の元軍人、ゼイニル・デラリッチ被告に無罪判決を出す。
11/17:
・国連安保理は、セルビア共和国コソヴォ自治州の独立紛争中に起きた虐殺などをめぐり、連邦当局に旧ユーゴ国際戦犯法廷の調査団受け入れを求める決議を採択。中国は「内政干渉」として棄権。
11/20:
・オルブライト米国務長官とソラナNATO事務総長は共同記者会見で、ユーゴ連邦コソヴォ自治州の情勢について、「セルビア当局、コソヴォ解放軍・KLAの双方が、停戦違反の行為をやめず、和平を脅かしている」と指摘。
・ソラナNATO事務総長は、「NATO軍によるセルビア空爆の作戦発動指令の効力はまだ継続しており、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領が合意を守らなければ、NATO軍が引き下がることもない」と牽制。
11/27:
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍・KLAはOSCEの呼びかけに応じ、ユーゴ国営タンユグ通信のセルビア人記者2人を1ヵ月ぶりで解放。
11/29:
OHRのウェステンドルプ上級代表は、ペロ・ラグージュ・ストラッツ市長解任の後任として就任したペロ・パジン市長も解任する。解任理由は、難民・避難民の帰還業務を1件も実行しなかったというもの。
12/02:
・NATOのソラナ事務総長は、旧ユーゴ国際戦犯法廷から指名手配されているボスニアのセルビア人勢力のラジスラフ・クルシュチッチ将軍を和平安定化部隊・SFORが拘束したと発表。容疑はスレブレニツァにおける虐殺を、カラジッチ・スルプスカ共和国前大統領やムラディッチ総司令官を補佐したというもの。
・OSCEの非武装の検証団500人がコソヴォ自治州に派遣される。
12/03:
・ユーゴ連邦軍とコソヴォ解放軍がアルバニア国境で銃撃戦を展開し、アルバニア系8人が死亡、とユーゴ連邦軍が発表。
・OSCEの外相会議がオスロで開かれ、ユーゴ連邦コソヴォ自治州紛争の停戦を監視する2000人規模の国際検証団の派遣を来年の1月中旬までに完了させることで合意。OSCE加盟54ヵ国の検証団の活動への全面的な支持と、ユーゴ連邦政府とアルバニア系勢力に対して停戦を求める決議などを採択して閉幕。OSCE議長国のポーランドのゲレメク外相は、「アルバニア系住民へのセルビア治安当局の弾圧が今年初めの段階で既に深刻化していたにもかかわらず、主要国が事態を重視しなかったことが紛争の激化を招いた」と批判。
12/04:
・朝日新聞によると、日本政府のODAで、NATO軍主導の安定化部隊とノルウェーのNGOが協力して行なうサラエヴォの汚水処理場の復旧作業を、事業総額500万ドルで行なうことを決める。
・英・仏首脳はサン・マロで会合を開き、欧州防衛に関する共同宣言を発表。緊急展開軍を創設することなどで合意。
12/06:
・NATO軍部隊は、マケドニア共和国に駐留を開始する。
・セルビア治安部隊は、6人のセルビア人青年が殺されたことでコソヴォ解放軍・KLAを攻撃する。KLAも停戦を破棄。
12/08:
・NATOの外相理事会が開かれ、21世紀のNATOの「新戦略概念」を協議。米国は、「同盟の死活的な利益に影響が及ぶ前に手を打つ必要があり、核や生物化学兵器など大量破壊兵器の不拡散や国際的テロ弾圧などの局面でも、NATOが積極的な役割を担うべきだ」と主張。欧州は、核兵器の先制不使用を提起し、加盟国に隣接する地域以外での展開には慎重な姿勢を示す。
12/14:
・セルビア共和国コソヴォ自治州とアルバニアとの国境地帯で、国境を越えようとしたアルバニア系グループとユーゴ連邦軍との間で銃撃戦が起き、少なくともアルバニア系30人が死亡、10人以上が負傷。アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍の兵士が武器を密輸しようとしていたものと見られる。
・コソヴォ自治州ペチのカフェで、覆面をした男たちが銃を乱射し、セルビア人青年6人を殺害。
12/15:
・ボスニア復興支援会議がマドリードで開催され、市場経済化の遅れについて協議。ボスニアへの復興支援には1996年に国際社会が51億ドル拠出を約束。米国は市場経済化を支援するために、個人事業者を対象にした少額融資に力を入れる。
12/16:
・セルビア当局がペチで14日に起きた事件について捜査を開始したところ、幾つかの村でアルバニア系勢力と衝突。アルバニア系2人が死亡し、34人が逮捕される。
12/21:
・セルビア共和国コソヴォ自治州で、コソヴォ解放軍がセルビア人警察官を殺害。
12/24:
・セルビア共和国コソヴォ自治州北部のポドゥエヴォ周辺で、セルビア治安部隊が21日の警察官殺害事件の容疑者逮捕作戦に踏み切ったところ、コソヴォ解放軍側が発砲したために銃撃戦となる。アルバニア系武装勢力によると、アルバニア系9人が死亡。
12/25:
・欧州安保協力機構・OSCEは、常設理事会の決定に基づきOSCE停戦合意検証団・KVMの設置を決める。検証団の任務;「1,安保理決議の遵守の検証。2,停戦維持の検証。3、兵力移動の監視。4,難民および避難民の帰還支援。5、選挙監視や自治政府設立の支援。6、人権監視、難民および避難民の帰還支援。7、人権促進と民主制の構築。OSCE常設理事会と国連安国連安保理の任務の推移」など多岐にわたる。
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍側はアルバニア語の新聞紙上で、「今回の戦闘は我々が仕掛けたものではない。これ以上戦闘を自粛するのは意味がない」と発表。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は、連邦軍司令官級の人事異動を実施。コソヴォ自治州を管轄する陸軍3方面軍司令官も異動させ、NATOとの対決姿勢を批判したペリシッチ連邦軍参謀長も解任。
12/26:
・コソヴォ自治州北部で、セルビア治安部隊とアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍との間で激しい戦闘が展開される。アルバニア系武装勢力側の情報では、衝突は北部ラパシュティツァ付近で始まり、少なくとも10人のアルバニア系が殺されたと主張。セルビア側の情報では、セルビア人の男性が1人コソヴォ解放軍に射殺されたことで銃撃戦となったと主張。
12/27:
・OSCEは、セルビア共和国コソヴォ自治州の紛争に対する検証団を派遣。OSCEの議長のゲレメク・ポーランド外相は、「このまま流血の事態が続けば、コソヴォでの活動形態を見直す必要もあり得る」との声明を出す。
・OSCEコソヴォ停戦合意検証団は、予定の2000人の内1000人ほどが現地に到着。
12/28:
・UNHCRの情報によると、コソヴォ北部のポドゥエヴォ周辺でクリスマス前後にかけて数日間続いた戦闘の結果、週明けのこの日までに5500人が避難民となる。
12/29:
・NATOのソラナ事務総長は、「NATO軍は必要に応じ、いつでも介入する用意がある」と言明し、隣国マケドニア共和国に駐留する監視団が危険に晒された場合の救出作戦に当たる、としてNATO軍を増強する。
12/30:
・ローマからの報道によると、コソヴォのアルバニア系住民がモンテネグロ共和国、アルバニアを経由して、1000人がアドリア海をわたりイタリアへ入国。
01/01:
・EUは、単一通貨ユーロ導入を決め、11ヵ国が参加。
01/06:
・朝日新聞によると、ボスニアでの内戦が終わって3年が過ぎたいま、日本のNGOが支援を続けている。「難民を助ける会」は地元の「内戦被害者協会」と協力して、内戦によるトラウマのカウンセリングを行なっている。「JEN」はボスニアのセルビア人共和国で、作物の種や苗などを貸し出すなどをして農業支援を行なっている。
01/08:
・ユーゴ連邦セルビア共和国コソヴォ自治州スバレカで、アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAが警察官3人を殺害し、住民2人を負傷させる。また、プリシュティナから35キロ離れたコソヴスカ・ミトロヴィツァでもコソヴォ解放軍・KLAがユーゴ連邦軍兵士8人を拘束。
01/09:
・セルビア共和国コソヴォ自治州北部で、ユーゴ連邦軍はコソヴォ解放軍が連邦軍兵士8人を拘束したことをきっかけに、コソヴォ解放軍の拠点のポドゥエヴォ周辺に攻撃をしかける。また、連邦軍兵士が監禁されていると見られる北西部の村周辺にも連邦軍は戦車などを集結させているが、OSCEのコソヴォ停戦合意検証団・KVMが解放軍との交渉に当たっているために、戦闘は起きていない。
・ボスニアに展開する和平安定化部隊・SFORは、ボスニアのセルビア人共和国東部のフォチャで、内戦中にムスリム人女性に暴行を加えるなどをしたとして「旧ユーゴ国際戦犯法廷」から起訴されているガゴヴィチ元警察署長の逮捕作戦に踏み切り、抵抗したことを理由に射殺。
01/11:
・国連は、セルビア治安部隊とコソヴォ解放軍・KLAとの間で戦闘があり、その後双方の住民を巻き込んだ無差別暴力で21名死亡し、3人のセルビア人が負傷。市民による復讐がアルバニア系住民に加えられ、またKLAによる8名のユーゴ連邦軍兵士の誘拐、セルビア人市民1名の殺害、3名のセルビア人警察官の殺害、と報告。
・アナン国連事務総長は、比較的小規模な衝突が続いている一方、一般市民が殺害や処刑、拷問や誘拐を含む暴力的行為の主な標的になりつつある、と報告。
・コソヴォ自治州プリシュティナで、広報機関「コソヴォ情報センター」のエンベル・マリョク代表が自宅前で何者かに銃撃されて死亡。マリョク代表は、武力による独立運動に反対の立場をとるアルバニア系穏健派指導者ルコヴァの側近。
01/12:
・イタリア、ギリシア、トルコのNATO加盟3ヵ国とブルガリア、アルバニア、ルーマニア、マケドニアの7ヵ国の国防相会議がアテネで開かれ、「南東欧多国籍平和軍・MPFSE」を近く設置することで合意し、設立主意書に調印。
01/13:
・OSCEのコソヴォ停戦合意検証団のウォーカー団長は、コソヴォ自治州でコソヴォ解放軍に拘束されていたユーゴ連邦軍の兵士8人は解放された、と語る。
01/15:
・クロアチア共和国のアルバニア系のチェク将軍が、米国務省の肝いりでコソヴォ解放軍の最高司令官となる。
註;チェク将軍は、クロアチア政府軍とボスニア政府軍が共同でクロアチアのクライナ・セルビア人共和国を壊滅させるための「嵐作戦」を1995年8月4日に始めた際、クロアチア政府軍の指揮官としてセルビア人住民を追放し、虐殺して名を挙げた将軍である。この「嵐作戦」はクロアチアに居住していたセルビア人住民およそ20万人が、ほとんど国外に追放された「民族浄化」と言い得る作戦であり、米国の軍事請負会社・MPRIの指導の下に行われた。
・コソヴォ自治州南部ラチャク村でコソヴォ解放軍とセルビア治安部隊の間で激しい戦闘があり、コソヴォ解放軍側は少なくとも15人が死亡。OSCE停戦合意検証団のメンバー2人が、何者かに銃撃されて負傷。
01/16:
・コソヴォ自治州のラチャク村で15日に起こったコソヴォ解放軍とセルビア治安部隊との間の戦闘により、アルバニア系住民の遺体が少なくとも40体に上ることをOSCE・KVM停戦合意検証団が確認したと発表。多くの遺体は頭部や首を打ち抜かれている。
・OSCE・KVMウォーカー(米)検証団長は、「私が個人的に見たものから、この犯罪を大虐殺、人間に対する罪だと評すること、またセルビア政府と治安部隊を告訴することを躊躇しない」との声明を出す。
・マデレーン・オルブライト米国務長官は、ミロシェヴィチ大統領を「1938年のアドルフ・ヒトラー」になぞらえ、「1999年に、こうした野蛮な民族浄化が行なわれることを見過ごすことはできない」と述べる。
註;このラチャク村での戦闘は、コソヴォ解放軍・KLAによる警察官の殺害事件を捜査中のセルビア治安部隊に対してKLA側が妨害して交戦となり、その際の戦闘で死者が出たもの。OSCE停戦合意検証団にはCIA要員が多数配置されており、ラチャク村虐殺事件と称した40名の死者をセルビア治安部隊が虐殺したように工作し、空爆が避けられないものとして誘導した。
・コソヴォ解放軍・KLAのゲリラ指揮官たちには、OSCE停戦合意検証団の中に入り込んだCIAなどの情報部員から密かに衛星電話および衛星位置確認システムが手渡される。
・ユーゴ連邦当局は、コソヴォ自治州ラチャク村での死者はコソヴォ解放軍との戦闘中に出たもので虐殺の事実はないと否
定。
・クリントン米大統領や欧州各国首脳はユーゴ連邦に対する非難声明を出す。
01/17:
・セルビア共和国コソヴォ自治州ラチャク村で、コソヴォ解放軍とセルビア治安部隊の間で再び戦闘が始まり、OSCE停戦合意検証団はラチャク村から撤収。
・NATOはブリュッセルで大使級理事会を開き、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのアーバー首席検察官による捜査活動を認めることをミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に求める声明を発表。ソラナNATO事務総長は声明の中で、「今回の虐殺を命じた者と行なった者は、ICTYの要請に応じて身柄を引き渡されなければならない」と強く非難。さらに大使級理事会は、クラーク欧州連合軍最高司令官(米)とナウマン軍事委員会議長(独)をベオグラードに派遣することを決定する。
01/18:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のラチャク村で、コソヴォ解放軍とセルビア治安部隊との戦闘が続けられる。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのア-バー検察官は、ラチャク村の虐殺を検証するためにマケドニアのスコピエがらコソヴォ自治州に入ろうとしたが、ユーゴ連邦の国境で入国を拒否される。
・ユーゴ連邦政府はOSCE停戦合意検証団・KVMのウォーカー団長に対し、48時間以内に出国するよう命じる。ユーゴ連邦政府の声明によると、ウォーカー団長の活動は検証団長としての職務を逸脱していることから、「ペルソナ・ノングラータ(好ましくない人物)」と認定。
・ユーゴ連邦政府は連邦内閣の改造を行ない、野党のセルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首を副首相に入閣させ、同党から情報相なども入れる。
・国連安保理は、コソヴォ自治州のラチャク村での住民虐殺事件について緊急会合を開く。議長のブラジル国連大使は、「調査の即時開始を求める」との声明を発表し、ユーゴ連邦政府にOSCE・KVMウォーカー団長の国外退去措置の撤回を求める。
・ロビン・クック英外相は下院で、「コソヴォ解放軍・KLAは、停戦違反を繰り返し、今週までの犠牲者は、治安部隊が出したものより多い」と述べる。
01/19:
・NATOのウェズレイ・クラーク欧州連合軍最高司令官はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談。NATO空爆の可能性をちらつかせながら合意遵守を求める。会談後クラーク司令官は、「進展はなかった」と述べる。
・コソヴォ自治州ラチャク村での遺体の検視が、OSCE停戦合意監視検証団や外国人医師などが見守る中プリシュティナ中央病院で行なわれ、検視した医師は「処刑されたような形跡は全く見られない」と発表。
・セルビア共和国当局は検視の結果を受け、OSCE停戦合意検証団の虐殺の主張は誤りだと述べる。
・国連安保理は、コソヴォ自治州ラチャク村の“虐殺事件”について、責任がユーゴ連邦側にあることを認める議長声明を採択。
・ユーゴ連邦政府は、OSCE停戦合意検証団のウォーカー団長の国外退去期限を24時間延長し、21日までとする。
01/20:
・NATO大使級理事会はクラーク欧州連合軍最高司令官の報告を受け、ユーゴ連邦側が譲歩の姿勢を見せないものの、外交交渉を優先させることを決める。
・OSCEのボッレベック議長は、ウォーカーKVM団長にユーゴ連邦の退去命令にかかわらず、「国際社会に対する重大な挑発と見なされる」として、ユーゴ国内にとどまるよう指示したことを明らかにする。
・ルービン米国務省報道官は、「実力行使の決定があれば直ぐ動けるよう、NATO軍が準備態勢を取りつつある」と述べる。
・コーエン米国防長官は、「NATO軍には空爆の威嚇だけでなく、実行する能力もある。空爆態勢を取った昨年10月の作戦発動指令は、いまも生きている」と警告。米空母エンタープライズは、コソヴォ周辺に向かう。
・オルブライト米国務長官は、ロシアと中東を訪問後の28,29日に英仏に立ち寄り、コソヴォ情勢について両国の外相と会談することを決める。
01/21:
・クリントン米大統領は、ブレア英首相とコソヴォ自治州問題を電話で協議。両首脳はセルビア治安部隊によるコソヴォ攻撃は認められないとし、「必要なら武力を使ってでも、セルビアに停戦合意を守らせることが必要」とコソヴォ危機収拾のためには武力を使うこともあるとの認識で一致。オルブライト米国務長官は、「コソヴォのアルバニア系虐殺事件は非常に危険な緊張状態をもたらした。ミロシェヴィチには断固たる姿勢で臨まなければならない。武力はミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領が理解する唯一の言葉だ」と語る。オルブライト米国務長官は、コソヴォ解放軍が誘拐や殺人などの挑発的行動とっていることも認識している。
・米国のヒル特使はミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と4時間にわたり会談し、ウォーカー団長の国退去命令撤回と合意事項の遵守を求める。
01/22:
・セルビア共和国コソヴォ自治州北部ネボリャネ村で、コソヴォ解放軍が女性を含む5人のセルビア人を誘拐。
・コソヴォ解放軍はセルビア当局に拘束されている仲間の釈放を求めているが、OSCEはコソヴォ解放軍にセルビア人を解放するよう説得。
・「連絡調整グループ」6ヵ国はロンドンで協議し、政治的解決のため和平交渉の早期開始に向けて取り組むことを決める。
・ユーゴ連邦政府は閣議を開き、OSCE・KVMのウォ-カー団長の国外退去命令を一時凍結することを決める。
01/23:
・コソヴォ解放軍は、誘拐していたセルビア人住民5人を解放。ユーゴ連邦政府側も、12月にアルバニア側から国境を越えて侵入しようとした解放軍兵士9人を釈放。
01/25:
・シュレーダー独首相はコソヴォ情勢について、「NATO軍が軍事的圧力を加えることの必要性」を強調するとともに、武力行使に踏み切った場合、「空軍力だけでは事態改善に繋がらない懸念がある」と陸軍の派遣も排除しないとの立場を表明。
・OSCE停戦合意検証団のウォーカー団長は、ラチャク村での虐殺を検証するフィンランドの検視専門家が結論を出すまでには「少なくとも数週間は必要」との見通しを明らかにする。
・EU外相理事会はコソヴォ自治州の民族紛争について協議し、紛争当事者双方に「連絡調整グループ」の和平調停作業に沿うよう促す見通し。停戦合意検証団の活動に非協力的な態度を続けた場合に備え、制裁措置も検討。
・コソヴォ自治州ジャコヴィツァ近くの村で、アルバニア系住民5人が銃撃を受けて死亡しているのを、OSCE停戦合意検証団が発見する。
01/26:
・NATOはコソヴォ自治州の紛争について、従来はユーゴ連邦側だけに圧力を加えていたが、アルバニア系武装勢力側にも軍事的圧力を加え和平交渉のテーブルに付くよう促す方針に転換。
・NATOのナウマン軍事委員会議長は、「ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領とアルバニア系住民側のどちらも限界に達しつつある。軍事介入作戦の策定は終了している」と語る。
・米国防総省のベーコン報道官は、NATO軍がボスニアに展開する和平安定化部隊・SFORの要員を3万2000人から2万9000人弱に10%削減で合意したと述べる。米軍は6900人から6200人に削減され、駐屯地も1ヵ所閉鎖する。
・ボスニア・OHRのウェステンドルプ上級代表は、トクマクチャ・ストラッツ前市長に対し、「クロアチア民主同盟BiHのいかなるポストに就くことも禁止する」との命令を出す。
01/27:
・米国政府はコソヴォ自治州をめぐる紛争について、NATO軍の軍事力を背景にセルビア共和国政府とアルバニア系住民の双方に対し、紛争解決に向けた直接対話を早急に開始するよう求める考えを示す。
・マケドニア共和国のディミトロフ外相は台湾を訪れ、台湾の胡志強外交部長とコミュニケに調印し、外交関係を樹立した
と発表。
・グリゴロフ・マケドニア大統領は「寝耳に水」として従来通り中国を唯一の合法政府と認める、と発言。
・中国外務省スポークスマンは定例記者会見で、「中国はマケドニア当局と厳正な交渉を行なったが、大統領は台湾との外交関係樹立の発表にはびっくりし、意外だと語った」と述べ、マケドニア当局の動きを見守る姿勢を示す。
01/28:
・米ワシントン・ポスト紙は、コソヴォ自治州ラチャク村の虐殺は、セルビア政府高官が治安部隊13人の殺害を受けてコソヴォ解放軍の掃討作戦を命令。事件発覚後は、ユーゴ連邦のシャイノヴィチ副首相が治安部隊司令官に対し、遺体を部隊との交戦で死亡したように偽装するように指示した、と報じる。
・ユーゴ連邦政府は、「米国の情報機関のでっち上げだ」とワシントン・ポスト紙の報道を否定。
・フランスのル・モンド紙は、遺体発見前後に村を訪れたOSCE停戦合意検証団のメンバーの証言などから、一部の遺体が実際の死亡現場から動かされていたと指摘し、アルバニア系武装勢力による偽装の疑いがある、との見方を示す。
註;OSCEの委託を受けたフィンランドの法医学専門家が、ラチャク村の虐殺の実態調査を開始する。他にも遺体の検証はプリシュティナの専門家およびユーゴスラヴィア当局によって司法解剖が続けられている。しかし、遺体がイスラム寺院に安置された後、プリシュティナの病院に運ばれたことによる損傷が目立つため、フィンランドの専門家は「隠蔽工作が行なわれた可能性も排除出来ない」と語る。
・NATO大使級理事会が開かれ、アルバニア系住民とミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に和平交渉に臨むよう軍事圧力をかけるための最後の詰めを行ない、「連絡調整グループ」の和平案に「合意しなければ軍事介入もありうる」とする警告を発表。
01/29:
・ユーゴスラヴィア問題「連絡調整グループ・CG」6ヵ国がロンドンで会合を開き、紛争当事者への要求項目を決める。要求項目;「1,新たな自治州政府と議会は選挙を通じて設置する。2,警察や裁判などの司法権を含む幅広い自治権を付与する。3,地位問題は3年後に国際社会が設ける第3者機関の場で協議する。4,ユーゴスラヴィア政府はコソヴォから軍隊の大部分と民兵を撤退させる。5,コソヴォ解放軍は武装解除をする。6,コソヴォ自治州にNATO軍主体の平和維持部隊を駐留させること」などを提示。さらに、「1,2月6日までにランブイエでユーゴ連邦政府とアルバニア系住民側が和平交渉の直接対話を開く。2,その後1週間以内に和平に合意する。3,協議の進展によって1週間の延長を認める」などをユーゴ連邦当局とアルバニア住民組織に事実上の最後通告として突きつける。
・ユーゴ連邦側ドラシュコヴィチ副首相は、「コソヴォの独立はもとより、共和国への格上げなどは受け入れられないが、アルバニア系住民との対話には世界中のどこででも応じる用意がある」と語る。ポポヴィチ情報省次官は、「アルバニア系が参加するのであれば歓迎したいが、テロリストであるコソヴォ解放軍の掃討作戦は中止しない」と述べる。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民側は、「セルビア当局が自治州から撤退することが対話の条件になる」と述べ、強硬派は「独立を前提とした話し合いでなければ参加しない」と主張。穏健派のルゴヴァの影響力は低下し、解放軍が主導権を掌握。
・NATOは、戦闘機の出動待機時間を96時間から48時間に短縮し地中海の艦隊をアドリア海に派遣するなどの警戒措置を取る。NATO高官は、「政治的、軍事的戦略を組み合わせることが最善の方法だ。国際社会の要求が満たされなければ、NATO軍は直ちに行動する」と述べる。
・コソヴォ自治州デチャニ近郊で、コソヴォ解放軍がパトロール中のセルビア人警官を襲撃して銃撃戦となり、セルビア人警官1人と解放軍兵士24人が死亡。ジャコヴィツァ近くのアルバニアとの国境で、ユーゴスラヴィア側に越境しようとした解放軍兵士が国境警備隊に射殺される。
・コソヴォ自治州プリシュティナ中心部にあるセルビア人が利用するカフェで手榴弾が爆発し、店内の7人が重軽傷を負
う。
・国連安保理は、米欧露「連絡調整グループ」6ヵ国の期限付き和平交渉を支持する議長声明を採択。
・クリントン米大統領はコソヴォ自治州紛争について、6ヵ国「連絡調整グループ」が提案した和平交渉が実現しない場合、米国がNATOの同盟国とともに軍事介入する用意がある、と警告。
01/30:
・クック英外相はベオグラード入りしてミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談し、和平交渉に参加するよう促す。会談後、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は数日中に提案に対する返答を明らかにする、との見方を示す。
・NATOは大使級理事会を開き、「連絡調整グループ・CG」が出した最後通牒を側面支援するために、コソヴォ紛争の当事者双方に軍事的圧力を強める方向で協議。また当事者双方が和平交渉に応じない場合の空爆の判断を、ソラナNATO事務総長に一任することを決める。ソラナ事務総長は、「紛争当事者の反応に対する連絡調整グループの評価などを考慮に入れて決断する」と述べる。NATO軍は既に200機の戦闘機をイタリアの基地に集結させ、空母をアドリア海に派遣し、軍事介入への態勢を整える。
・国連安保理は、「連絡調整グループによる対話の計画を支持するが、武力行使は支持しない」との声明を出す。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系住民政治指導者ルゴヴァ(大統領)は、クック英外相とスコピエで会談し「連絡調整グループ」の和平交渉に参加する意向を表明。
01/31:
・ユーゴスラヴィアのポリティカ紙は、「連絡調整グループ」が提示した和平案を掲載。要旨;「1,暴力の即時停止と停戦の遵守。2,3年間の暫定期間後の最終解決を図る仕組みへの仮合意。3,ユーゴスラヴィアや周辺国の領土の保全。4,各民族の権利保護(言語や教育の維持、宗教施設の特別保護)。5,欧州安保協力機構・OSCEが管理する公正な選挙の実施。6,政治犯の恩赦、釈放。7,徴税、財政、警察、経済開発、司法、教育、文化、通信、道路などに対する権限を含む高度な自治の確立。8,立法府(議会)、行政府(大統領、政府、行政組織)、司法府の創設。9,民族構成比を反映した警察の再編。10,合意履行を監視する委員会の設置と、必要ならばOSCEや他の国際機関の参加」がその要旨。
02/02:
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍のスポークスマンは、「連絡調整グループ」が提案した和平交渉に参加すると表明。
・マケドニア共和国のジョルジエフスキ首相は、台湾と国交を樹立した理由について、カナダのドゥバル国連次席大使と会談した際、「経済困難で援助が必要になったため」と語る。
・ユーゴ連邦のヨバノヴィチ外相は、NATOが決めた武力行使の方針は、「国連憲章が定める国連安全保障理事会の承認を得ておらず違法である」とし、この侵略を回避するために国連安保理の緊急協議を要請する書簡を安保理議長に送付。
・シェルトン米統合参謀本部議長は上院軍事委員会の公聴会で、NATOがユーゴ連邦セルビア共和国のコソヴォ自治州に平和維持軍を派遣する際は、「全体規模が2万人なら、米軍の参加は2000人から4000人と小規模になるだろう。全体が3万人に膨れても、この規模に変わりはない」と発言。
・日本政府はユーゴ連邦コソヴォ自治州の紛争で、米欧露6ヵ国の「連絡調整グループ」が示した和平案を支持することを表明。外務省欧亜局の飯村審議官はユーゴスラヴィアのブライッチ駐日大使をよび、和平案を支持するとともに、アルバニア系住民との和平交渉の開始を求める。
02/03:
・ボスニアのセルビア人勢力のポプラシェン・スルプスカ共和国大統領は、政党連合「スロガ」のメンバーで穏健派のジョキッチ国会議長を3人目の首相候補に指名。昨年の9月選挙で大統領に就任して以来、ポプラシェン大統領は未だに組閣ができず。欧米諸国は、「スロガ」の欧米協調派のドディック現首相を再任するよう求めている。
・シェルトン米統合参謀本部議長は上院軍事委員会の公聴会で、NATOがセルビア共和国コソヴォ自治州に平和維持軍を派遣する際は、2000人から4000人と小規模になるだろうと証言。駐留期間は3年から5年の予定。コーエン米国防長官は、「米軍を出す場合は、見せかけではない本当の和平・暫定自治合意が前提だ」と述べ、「1,ユーゴ連邦のミロシェヴィチ政権を交渉の席に着かせるために空爆をすることになれば、米軍が最も大きな役割を果たすので、停戦後の地上部隊の責任は欧州が負うべきだ。2,しかし、アルバニア人武装組織のコソヴォ解放軍・KLAは、セルビア側への抑えとして米軍の関与を求めており、比較的小規模の参加は必要だ」と指摘。
・米国のリーバーマン民主党上院議員およびルーガー共和党上院議員ら超党派の有力議員らは、「NATO加盟国に危機が波及するのを防ぐことはNATOの任務だ。ボスニアへの政治的、軍事的な投資をむだにすべきでない」と述べ、クリントン大統領に米軍の本格的な関与を促す。
・クリントン米大統領はコソヴォ自治州の情勢に関連し、NATO軍の平和維持軍への米軍派遣を「真剣に検討している」と語る。
02/04:
・セルビア共和国は臨時議会を開いて和平交渉について参加の是非を協議し、「1,問題の平和的解決。2,領土保全と国家主権の尊重」 などが動議として出され、外国軍の駐留は一切認められないという方針を保持して代表団の派遣を決める。
・コソヴォ自治州の和平交渉のアルバニア系住民の出席者は、コソヴォ民主連盟からはアルバニア系住民が独自にコソヴォ自治州の大統領に選出しているルゴヴァ大統領、ブコシ、アガニら計5人が参加。野党側からはアルバニア民主運動のチョスヤ党首ら4人が加わり、その他有力紙コハ・ディトレのスロイ編集長などジャーナリスト2人と学生代表が1人。アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍からはタチ政治局長、スポークスマンのクラスニチら5人が参加するものの、統一代表団の団長は未定。
・オルブライト米国務長官はワシントンの平和研究所において、「米国はバルカンと欧州全域に民主主義の原則と実践を強化することに根本的な利益を有している」と述べる。
02/05:
・コソヴォ和平交渉のアルバニア系住民側の代表団の団長には、コソヴォ解放軍のハシム・タチ政治局長が選出され、コソヴォ自治州の大統領としてのルゴヴァは代表団の団長代理に落とされる。
・セルビア共和国側の団長は、マルコヴィチ・セルビア共和国副首相がなる。マルコヴィチ副首相は、「我々はテロリストとは話し合わない」とコソヴォ解放軍・KLAとの交渉を拒否する姿勢を示す。
・ユーゴ連邦出入国管理局は、「原則として、パスポートを所持していない者は出国を認めない」と主張。コソヴォ解放軍・KLAのメンバーでパスポートを持っていない者が足止めされている。
・OSCEのコソヴォ停戦合意検証団・KVMが、セルビア側の説得を続ける。
02/06:
・米・英・独・仏・露・伊の6ヵ国からなる「連絡調整グループ」の仲介によるコソヴォ紛争の「ランブイエ和平交渉」が、パリ郊外のランブイエの古城でメディアの取材を遮断して2週間の期限付きで開かれる。
・ペドリヌ仏外相とクック英外相が共同議長を務めることになっているが、実際の交渉はヒル米特使とEU特使としてのペトリッチ・オーストリア大使およびマヨルスキー・ロシア大使が仲介する。
・ドイツのシュレーダー首相は安全保障会議でコソヴォ情勢について、「コソヴォでさらに虐殺があってはならない。武力で防ぐことが必要になる場合には、ドイツは貢献するだろう」と講演。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナで、雑貨店に手投げ弾が投げ込まれ、店主のアルバニア系など3人が死亡。
02/07:
・ランブイエ和平交渉が実質討議に入る。仲介役の「連絡調整グループ」6ヵ国は、ユーゴスラヴィア側とアルバニア系住民代表に和平草案と付属文書を手渡す。和平草案の内容は明らかではないが、付属文書は、コソヴォ自治州の憲法、選挙、和平履行を監視するオンブズマンの配置の3項目と見られる。
・ヒル米特使の報道官は、交渉の最初の期限は13日であることを明らかにすると共に、共同議長のクック英外相とペドリヌ仏外相が交渉の進捗状況を評価し、継続が必要となった場合「連絡調整グループ」に延長を提言することになるとの見通しを述べる。
・ユーゴスラヴィア政府代表団とアルバニア系住民代表団は、6日のプリシュティナでの爆破事件に対し、共同で非難声明を出す。共同で声明を出すのは初めて。
02/08:
・コソヴォのアルバニア語有力紙「コハ・ディトレ」は、ランブイエ和平交渉のアルバニア系住民代表団の代表をコソヴォ解放軍のタチ政治局長とし、政治指導者のルゴヴァ・コソヴォ自治州大統領は副代表とすることに決められた、と報じる。
02/10:
・ランブイエ和平交渉が継続する中、コソヴォ解放軍は「国境線を変更しないとする領土保全について」受け入れを拒否し、あくまで独立を求めるとの声明を出す。
・駐仏ユーゴ大使館は、アルバニア系住民代表団が基本原則に署名を拒否したことに対し、非難声明を出す。
・NATOの大使級理事会が開かれ、コソヴォ自治州の平和維持部隊の基本計画で大筋合意する。維持部隊の規模は3万人程度で
英・8000人、仏・5000人、ドイツ・3000人、イタリア・2500人程度の派遣となる。
・ヨバノヴィチ・ユーゴ連邦外相は、「主権と領土保全は尊重されなければならない。いかなる条件であろうと、外国部隊の駐留は認められない」と受け入れ拒否の姿勢を示す。
・コソヴォ・ポーリェで、コソヴォ解放軍兵士と見られる集団に、非番のセルビア人警官2人が誘拐される。
・クリントン米大統領は、ホルブルック米元国務次官補を次期国連大使に正式に指名。
02/11:
・セルビア共和国ミルティノヴィチ大統領がコソヴォ和平交渉のランブイエを訪れる。ミルティノヴィチは、ユーゴ政府交渉団との協議の他、ペドリヌ仏外相とクック英外相との会談も予定。
・クック英外相は、ベドリヌ仏外相とともにランブイエでミルティノヴィチ・セルビア共和国大統領と会談。会談後の記者会見で、「ユーゴ連邦政府代表団が交渉の進展を妨げている」と批判する。和平交渉は、13日までに終わる見込みがないとして1週間程度延長される見通しと語る。14日にもパリで開かれる連絡調整グループで決定されることになる。セルビア側代表が交渉の前提条件として、アルバニア系代表団に基本原則への署名を執拗に求めていることから、実質的な交渉に入れないでいるという。
・クリントン米大統領は訪米中のシュレーダー独首相と会談し、ランブイエ和平交渉が決裂した場合は、NATO軍による空爆を行なうとの方針で確認。シュレーダー独首相は、「和平交渉が延々と続くような事態や、交渉の失敗は認められない。その場合は我々は躊躇なく武力行使に踏み切る」と述べる。
02/12:
・コソヴォ自治州プリシュティナ西方のコモラネとグロゴヴァツで、パトロール中のセルビア人警官がコソヴォ解放軍・KLAの襲撃を受けて銃撃戦となり、解放軍兵士1人が死亡、警官2人が負傷。
・マケドニア共和国議会は、ディミトロフ外相による台湾との外交関係樹立に関する報告書を審議。野党議員は批判。政府は投資を見込んだ経済的な動機から行なったと弁明する。
・インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は、オルブライト米国務長官が「ランブイエ和平交渉」の仲介に乗り出す、と報じる。
・朝日新聞によると、コソヴォ停戦合意検証団の米国人団員は、コソヴォ自治州における非武装での行動について「合意枠組みで移動の自由は保証されているし、実際のところ、現場レベルでの問題は感じない。『そこにいる』だけで違いを生むこともある」と話す。
02/13:
・クリントン米大統領は、ラジオ演説でユーゴ連邦コソヴォ自治州紛争の和平交渉が合意に達することを条件に、4000人規模の米軍をNATOの平和維持軍に派遣する方針と述べる。
・コソヴォ自治州のウロシェヴァツ中心部で爆発があり、9人が負傷。
02/14:
・旧ユーゴ問題に関する「連絡調整グループ」は外相会議を開き、ランブイエの和平会議について、1週間延長し20日まで続けることを決める。ペドリヌ仏外相は「交渉の進展は予想より遅い。しかし重要な地ならしはできたために延長する。この機会を逃した場合、責任は両派にある」と述べる。オルブライト米国務長官は、「アルバニア人は提案に合意する用意があるようだが、この1週間については、ユーゴ側が交渉を遅らせた」と述べ、「NATO軍による空爆の恐れはまだ続いている」と強調。
・ランブイエ和平会議で、ロシアのイワノフ外相はユーゴ政府およびアルバニア系住民代表とそれぞれに会談。交渉が難航していることを明らかにした上で、欧米が計画しているNATO軍の平和維持部隊の駐留については、ユーゴ連邦側の同意がなければロシアとしても認められない、との考えを示す。
02/16:
・ランブイエ和平交渉の協定案は60Pの本文と付属文書からなる。協定案概要;「1,コソヴォ自治州に共和国並みの権限を与える。2,議会は100議席のうち60議席を直接選挙で選定し40議席は民族代表に配分する。3,議会が選出する大統領が首相を任命する。4,議会選挙はOSCEの管理下に行なう。5,治安警察は3000人とし、民族構成比を反映して組織される。要員としてコソヴォ解放軍を想定する。6,セルビア治安部隊は2500人に削減し『OSCE停戦合意検証団』の指揮下に入り1年後に完全撤退する。7,ユーゴ連邦軍はアルバニア国境近くの3拠点、1500人の国境警備隊を残すだけとする。8,コソヴォ解放軍は3ヵ月以内に解体され、重火器は引き渡す。9,ユーゴ連邦政府は、領土保全や通貨政策、国防、外交などに限定する。10,和平の実施状況を監視するために国際社会の代表として、OSCE停戦合意検証団・KVMが引き続き監視活動を続け、NATO軍主導の多国籍軍3万人が駐留する」というもの。
・ランブイエ和平交渉のヒル米特使は、ベオグラードでミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談したが、ミロシェヴィチ大統領はNATO軍主導多国籍軍のコソヴォ駐留については「受け入れられない」と従来の姿勢を繰り返す。会談後、大統領府は「外国軍駐留に反対しているのは単に連邦指導部だけではない。市民も議会も政治的な所属に関わりなく反対している」との声明を発表。
02/17:
・ランブイエ和平会議共同議長のペドリヌ仏外相とクック英外相が交渉に参加し、ユーゴ連邦政府とアルバニア系住民代表団の説得に当たる。交渉が難航しているのは、ユーゴ連邦側がNATOの多国籍軍の駐留に難色を示し、アルバニア系住民側がコソヴォ解放軍の武装解除に難色を示しているため。
・NATOは大使級理事会を開き、和平合意後に派遣する多国籍軍の作戦計画を承認。計画では、和平の合意が得られれば数時間以内に第一陣を派遣するとしているが、「軍事力の行使の選択はなくなっていない」と空爆の可能性も強調。
・米国防総省によると、コーエン米国防長官はランブイエの和平交渉が決裂した場合に備え、F117ステルス12機を含む51機を欧州に配備するよう命令を出す。
・エリツィン露大統領はコソヴォ情勢に関し、クリントン米大統領に、「国連安保理の承諾なしのユーゴ連邦への武力行使は認められない」との親書を送付。
02/18:
・ランブイエ和平会議は、「連絡調整グループ」の提示した案にユーゴ連邦政府とアルバニア系住民側の意見を加味した、新しい妥協案の検討に入る。
・オルブライト米国務長官はミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に電話をし、ランブイエ和平会議について、「20日の正午が期限だ。和平提案を受け入れなかった場合、空爆になれば多くを失うことになるだろう」と警告。また、NATO軍の空爆に備えて、米大使館員らの退避の準備を始めたことを明らかにする。米国務長官は、イワノフ露外相にも電話をかけ圧力をかけるよう要請。
・フィッシャー独外相は、モスクワで開かれた独・露定期協議後の記者会見で、セルビア共和国の頑なな姿勢を批判し、「アルバニア系住民の広範な自治を認めなければ、コソヴォの分離を招くだろう」と警告。
・リシャール仏国防相はフィガロ紙とのインタビューで、ランブイエ和平会議の交渉が決裂したとしても、NATO軍による空爆の実施は、「自動的ではない」と述べ、事前協議が必要との考えを示す。
02/19:
・オルブライト米国務長官とクック英外相が、ランブイエの和平協議に参加。
・ヒル米特使はミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談するために、ベオグラードに入る。ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は、ヒル特使との会談を拒否し、ヒル特使はヨバノヴィチ外相と会談。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の、「我々はたとえ空爆を受けようとも、コソヴォを諦めない」との発言を伝える。また同通信は、ユーゴ連邦軍参謀総長が防衛態勢を高めるよう指令を出した、と伝える。
・在ベオグラード英大使館は、最小限の活動に必要な要員を除いた大使館員や家族らの国外退去を始める。他の欧米諸国や民間援助団体も退去の準備を始める。
・シラク仏大統領はホワイトハウスを訪れ、クリントン米大統領と会談。コソヴォ自治州紛争について、20日の和平交渉期限を延ばすべきではなく、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が和平案の受け入れを拒むなら、NATO軍によるユーゴ空爆に踏み切る方針を確認する。シラク仏大統領は、「紛争解決のカギを握るのはミロシェヴィチ・ユーゴ大統領だ。賢明な道と戦争の道のどちらかを選ぶかは、大統領の責任だ。和平案の受け入れを拒めば、大統領は極めて深刻な事態に直面する」と警告。
・ソラナNATO事務総長は、「期限内に合意が得られなければ、NATOは空爆を含めたあらゆる手段をとる用意がある」との声明を発表。
・イタリア外務省はコソヴォ和平会議が不調に終わった場合、NATO軍が空爆に踏み切る前に、欧米やロシアの6ヵ国で構成する「連絡調整グループ」が会合を開く、との見通しを明らかにする。
02/20:
・ロシア国営イタル・タス通信は、ランブイエ和平交渉の期限を迎え、「連絡調整グループ」とオルブライト米国務長官らが同日中にベオグラードに向かい、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談する可能性が出てきた、と伝える。
・NATO軍はユーゴ空爆に備え、イタリアのアビアーノ空軍基地に米軍機263機を含む430機を集結。地中海には、トマホーク巡航ミサイルを搭載した米海軍第6艦隊の空母と潜水艦を展開させる。
・OSCEの停戦合意検証団やセルビア側およびアルバニア武装組織などの情報を総合すると、コソヴォ南部のプリズレン、オラホヴァツ、ポドゥエヴォ周辺などで、コソヴォ解放軍とユーゴ連邦軍やセルビア治安部隊の間で局所的な銃撃戦が起きている。
02/21:
「ランブイエ和平会議」は交渉期限を迎え、「旧ユーゴ問題連絡調整グループ」は交渉期限をさらに3日間再延長することを決め、直ちに協議に入る。交渉にはオルブライト米国務長官が加わり、双方の説得に当たる。
・高村正彦日外相はイワノフ露外相と会談し、「平和的解決が望ましいが、武力による抑止力が必要になる場合もあると考えている」と述べる。イワノフ露外相は、「あくまで政治的解決を求めて行くべきだ」とロシア政府の方針を説明。
・ロシアのイタル・タス通信によると、ランブイエ和平会議にロシア代表として参加しているアブデーエフ外務第1次官は、23日まで延長された交渉期限を最終的なものとせずにコソヴォの自治権拡大とその実現を保証する文書など、「長期的な安定をもたらす合意が達成出来るまで交渉を継続すべきだ」との考えを表明。
・オルブライト米国務長官はランブイエ和平会議で、ユーゴ連邦政府側、アルバニア系住民代表団と個別に会談し、コソヴォ自治州の自治権を拡大する和平協定案を受け入れるよう説得。ユーゴスラヴィア側は、コソヴォ自治州の自治権拡大は受け入れたものの、NATO軍主導の平和維持部隊の駐留には強く拒否する姿勢を示す。アルバニア系住民代表団は、将来の独立につながる条項を盛り込むよう求め、武装解除にも反対の立場を変えないため、オルブライト米国務長官はアルバニア住民代表団に対し、「和平案を受け入れなければ、NATO軍による空爆も困難になる」として強く受諾を迫る。
・ユーゴスラヴィア側代表団を率いるミルティノヴィチ・セルビア共和国大統領は、「NATO軍は空爆の脅しをかけながら、自分たちを受け入れろというが、できない相談だ」と語る。
・中国外務省の章啓月副報道局長は、「中国はユーゴスラヴィアの主権と領土保全を尊重し、コソヴォの各民族の合法的な権益保障を基礎として、平和的に解決すべきだと主張してきた。主権国家であるユーゴスラヴィアへの軍事行動には反対だ」と表明。
02/22:
セルビアのベオグラードの動物園で、この日生まれたラクダの赤ちゃんに「ランブイエ」という名が付けられる。
・OSCE停戦合意検証団によると、コソヴォ北部のブチトリン周辺の複数の村で、コソヴォ解放軍がユーゴ側部隊を待ち伏せして始まった銃撃戦が昼夜にわたる激しい戦闘となり、少なくともセルビア人住民2人が死亡し、数千人の住民が避難。
・イワノフ露外相はコソヴォの平和維持活動について、「政治文書の調印後、もしユーゴ連邦政府が受け入れに同意し、ロシアに参加を要請するなら、我々はこの要請を注意深く検討する」と述べる。
・ミルティノヴィチ・セルビア大統領はミロシェヴィチ・ユーゴ大統領との協議後に平和維持部隊について、「和平協定の政治的部分に同意した後であれば、軍事面での協議を始めても良い」と妥協の余地があることを示唆。
02/23:
・オルブライト米国務長官が主導して進められたランブイエ和平会議は、ユーゴ連邦側、アルバニア系住民代表団双方が和平案を受諾しなかったことから「連絡調整グループ・CG」は外相会議を開き、「基本的な合意」を基礎として、3月15日にフランスで再び協議することに決まる。基本合意は、「1,コソヴォの自治拡大とユーゴ連邦の一体性尊重。2,アルバニア系住民による今後3年間の暫定自治を認める。3,ユーゴ連邦側は平和維持部隊の駐留について話し合う用意がある」というもの。
・クリントン米大統領はコソヴォ和平会議での基本合意について、「公正で永続するコソヴォ和平に向けての意義ある前進だ」との声明を発表。
・ランブイエ和平会議に出席したロシアのアブデーエフ外務次官は、「常識の勝利である」と称賛。
・NATOのソラナ事務総長は、「平和的解決のために必要なあらゆる手段をとる準備は整っている」と空爆態勢は維持し続けるとの声明を発表。
・ドラシュコヴィチ・ユーゴ連邦副首相は、コソヴォ自治州への平和維持軍駐留について、「アルバニア系テロリストの武装解除を目的に、NATOでなく国連やEUの旗の下でなら受け入れやすい」との考えを示す。
02/24:
・コソヴォ解放軍が運営する「コソヴァプレス」は、コソヴォ解放軍と穏健派のルゴヴァが率いる組織の間で「統一暫定政府」樹立について合意が成立したと発表。
・オルブライト米国務長官は上院外交委員会の公聴会でコソヴォ和平交渉について、米国がNATO軍の平和維持部隊に参加しなければ、「コソヴォのアルバニア人勢力が、和平協定案に調印する可能性はゼロだ」と述べる。
・中国の秦華孫国連大使は、マケドニアに展開する国連予防展開軍・UNPREDEPの任期延長に対し、拒否権を行使する意向を表明。この中国の態度表明の背景には、マケドニアが台湾政府と外交関係を樹立したことがある。
02/25:
・国連安保理でマケドニアに展開する国連予防展開軍・UNPREDEPの任期を半年間延長する採決が行なわれたが、中国が拒否権を行使したために否決される。
・ソラナNATO事務総長は、ユーゴスラヴィア側がコソヴォ自治州とその周辺で軍事力を増強していることへの懸念を表
明。
02/26:
・クリントン米大統領はコソヴォ自治州への米軍派遣問題で、「米国が強国の座を保つには、遠く離れた地のことでも、取り組みを怠れば自らに跳ね返る、という点を思い知らなければならない」と外交演説で述べる。
・キッシンジャー米元国務長官はワシントン・ポスト紙にコソヴォ紛争について、「1,米国にとって伝統的な意味での安全保障の脅威ではない。2,人道上の理由で介入するならアフリカはどうするのか。3,基本的には欧州の問題で、米国は後方支援程度で良い。4,イラクや北朝鮮への米軍の対応が手薄になる」との批判文を寄稿。
・マケドニア共和国の国境に近いコソヴォの南部カチャニクで、コソヴォ解放軍とセルビア警察が戦闘し、セルビア警察官1人が死亡、コソヴォ解放軍兵士にも犠牲が出た模様。
・台湾外交部は、中国が安保理でマケドニア共和国に配備されている国連予防展開軍・UNPREDEPの駐留延長に拒否権を行使したことに対し、中国を非難する声明を発表。
02/00:
・フィンランドの法医学専門家は、ラチャク村の死体の検視報告書をICTYに提出。この結論はウォーカーKVM団長が主張するようなユーゴ連邦の治安部隊がアルバニアの民間人を虐殺した、と結論づける証拠はないと記述。
・スロヴェニア共和国は、EUとの間で欧州協定を開始する。
03/01:
・セルビア共和国コソヴォ自治州での戦闘が和平交渉に悪影響を与えることを懸念する欧米諸国は、調停役のヒル米特使、ペトリッチEU特使を自治州の州都プリシュティナに派遣し、アルバニア系住民代表団と話し合う。
・欧州安保協力機構・OSCE議長のボッレベック・ノルウェー外相とミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が会談。ミロシェヴィチ大統領は「如何なる形にせよ、外国軍駐留の可能性はない」と述べる。
03/02:
・コソヴォのアルバニア系紙コソヴァプレスによると、コソヴォ解放軍内でコソヴォ和平反対の立場を採ってきたアデム・デマチ政治代表が辞任を表明。コソヴォ自治州のアルバニア系住民の暫定政府の首相に、コソヴォ解放軍・KLAのハシム・タチ政治局長が指名される。
03/03:
・米国務省は、大統領候補のボブ・ドール前上院議員が、5日にコソヴォ自治州の住民代表らと会談することを明らかにする。
03/04:
・ユーゴスラヴィアの政府系紙「ポリティカ」は、ホルブルック次期米国連大使が近くベオグラードを訪れ、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領とコソヴォ自治州の和平問題について協議する、と報じる。ミロシェヴィチ大統領は昨年10月ホルブルック米特使との会談でNATO軍の空爆を回避したことから、信頼を寄せているといわれる。
・ドイツのツァイトゥング紙は、コソヴォ解放軍・KLAが資金を集めるためにアフガニスタン産のヘロインをヨーロッパに販売しているとの秘密文書を入手した、と報じる。
03/05:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの国連・OHRウェステンドルプ上級代表は、スルプスカ共和国のポプラシェン大統領の罷免命令を出す。罷免理由は、ブルチコ地帯の中立化の決定に対し、それを受諾しないこと、および議会の過半数の支持を得られないミロラド・ドディックを首相に指名し続けたことによる。上級代表は、「組閣を遅らせ、和平の実現を妨げている」とのコメントを出したが、穏健派のドディック首相の内閣も総辞職を表明し、さらにシャセヴィッチ副大統領も大統領就任を拒否する。
註;このOHR上級代表の権限拡張の解任行為によって、ボスニアのスルプスカ共和国には1999年3月から2000年11月まで大統領が不在となる状態が続いた。
03/06:
・ボブ・ドール米上院議員は、コソヴォのアルバニア系住民指導者との会談後にロンドンで記者会見を開き、アルバニア系住民側が7日にも和平協定案を受け入れるだろうとの見方を示す。
03/07:
・ボスニアのセルビア人共和国議会は、ブルチコ中立化決定をめぐり、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ幹部会のセルビア人代表を全て引き上げる決議を賛成多数で採択。
03/10:
・ホルブルック米特使は、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談。会談後、ホルブルック特使は記者団に「状況は大変厳しい。意見が平行線を辿るかも知れない」と述べる。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は、ホルブルック米特使が提示したNATO軍主導の多国籍軍のユーゴ連邦内駐留を拒否
する。
・NATOの軍事委員会のナウマン議長は、コソヴォ紛争における平和維持部隊について、NATOが主導することで参謀総長会議が一致したことを明らかにする。
03/12:
・ロシアのイワノフ外相はユーゴスラヴィアを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。ミロシェヴィチ大統領は和平協
定案を評価しながらも、NATO軍の駐留は拒否すると表明。
・NATOは、ポーランド、チェコ、ハンガリーの正式加盟を承認し、19ヵ国となる。
03/13:
・OSCEによると、コソヴォ自治州北東部ポドゥエヴォの警察署裏で爆発が起こる。20分後に市場のゴミ箱に仕掛けられていた爆発物が爆発し、2人が死亡し、20人以上が負傷。北部ミトロヴィツアの市場でも爆発があり、4人が死亡し、30人以上が負傷する。
・EU非公式外相会議が議長国のドイツのラインハルトハウゼンで開かれ、ユーゴ和平パリ会議で紛争両当事国に対し、暫定和平案への署名に最大4日間の猶予期間を与えるよう、EUとして提案することを決める。
03/14:
・コソヴォ和平交渉のユーゴ連邦側のマルコヴィチ・セルビア共和国副首相は、「NATOが駐留を強行すれば、われわれは敵として対応する」と述べる。
03/15:
・コソヴォ問題に関する第2回和平交渉がパリで再開される。アルバニア系住民側は、「連絡調整グループ」が提示した和平協定案に署名する意向を表明。
・アルバニア系住民代表団のタチ代表は、「コソヴォの、政治部門、軍事部門、さらに人々との相談の結果、代表団も私自身も和平合意に『イエス』と答えると記した書簡を、和平会議のベドリヌ仏外相とクック英外相の両共同議長に手渡す。
・和平交渉のユーゴ連邦側のミルティノヴィチ・セルビア共和国大統領は、アルバニア系住民代表団の署名表明について、「一方的な合意は、合意とはいえない」と不快感を表明。
・ユーゴ連邦側は、コソヴォ自治州の自治権限拡大を規定した和平案の政治部門に修正を求める20ページの文書を「連絡調整グループ」に提出。
・ボスニアのスルプスカ共和国のポプラシェン大統領は、OHRのウェステンドルプ上級代表の罷免に基づき、憲法の規定に従ってシャロヴィチ副大統領に権限の一部を移譲。これを受けて副大統領は、首相候補にイバニッチを指名する。
03/16:
・ユーゴ国営タンユグ通信は、セルビア共和国警察当局が和平交渉の代表を務めるコソヴォ解放軍のタチ政治局長を、殺人や誘拐の容疑で国際手配した、と伝える。
03/17:
・ユーゴ和平会議で調停役を務める欧・米・ロシアの特使は、ユーゴ連邦側がNATO軍の駐留を拒絶するなど強硬な態度を崩さないため、交渉期限を設けるための検討を始める。
03/18:
・旧ユーゴ問題「連絡調整グループ・CG」議長国の英仏は、ユーゴ連邦側の拒絶姿勢が強いことから中断し、数日間の猶予ののち結論を出す見通しを立てたが、アルバニア系住民代表団のタチ代表が和平案に単独で署名する。一方、ユーゴ連邦側は和平案への署名を拒否する。和平案の要旨;「1,コソヴォをユーゴ連邦の枠内の自治州としてNATO軍が統治する。2,NATO軍の兵士がコソヴォ自治州の治安維持にあたる。3,NATO軍兵士はユーゴスラヴィア領内のすべての地域への通行の権利を有する。4,NATO軍とその関係者にはユーゴ連邦の法律は適用されない」など。
03/19:
・ユーゴ和平交渉中のクック英外相とペドリヌ仏外相は共同声明を出し、ユーゴ連邦側が受諾するまでパリでの和平交渉を中断することを決めたと発表。
・欧州安保協力機構・OSCEの議長国のボッレベック・ノルウェー外相はパリ和平会議が不首尾に終わったことを受け、「状況は悪化している。これ以上の残留は正当化できない」との声明を出す。1400人のKVM要員を即時撤退させると発表。
・OSCEコソヴォ停戦合意検証団1400人が作成した内部文書「安全情報」では、3月19日の警戒度は通常より1段階上の「悪化する可能性がある」と記述。
・OSCE停戦合意検証団・KVMのプリシュティナ近郊現地事務所長のカナダ陸軍の退役軍人ローランド・キースは、「校舎の砲撃など、セルビア側による理性を越えた破壊は見られたが、計画された政策というにはほど遠かった。あの段階を民族浄化とはいえない」と語る。
・クリントン米大統領は記者会見で、「ユーゴ連邦側の行動は許容できる一線を越えた。我々が躊躇すれば、侵略者に殺しのライセンスを与える」と語る。
・クラークNATO欧州連合軍最高司令官は、「幾つもの空爆計画があり、1つや2つの爆弾投下にとどまらず、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領にとって長く困難な作戦になるだろう」と述べる。
・朝日新聞によると、コソヴォ解放軍・KLAは2万人態勢を整え、プリシュティナからコソヴスカ・ミトロヴィツァに向かう幹線道
路、およびアルバニアとマケドニアに至る幹線道路を抑えている。コソヴォ解放軍は内戦の拡大に備えてアルバニア側
にも5000人から7000人を待機させている。
03/20:
・OSCEコソヴォ停戦合意検証団・KVM要員1400人は、コソヴォ自治州からマケドニアに撤退する。
・日本の共同通信は、4月から5月にかけてベオグラードで開催が予定されている卓球の「世界選手権」が中止に追い込まれる、と伝える。
03/21:
・コソヴォ自治州のプリシュティナでアルバニア系武装組織・KLAが待ち伏せ攻撃で、セルビア人警官4人を射殺する。
・オルブライト米国務長官は、22日にホルブルック米特使をユーゴスラヴィアに派遣すると発表。
・NATOのソラナ事務総長は、英独仏など「旧ユーゴ問題連絡調整グループ」の外相やアナン事務総長と、コソヴォ自治州紛争に対するセルビア空爆決断について協議を始める。
・クック英外相はBBCとのインタビューで、ユーゴスラヴィアへの空爆は「現実の問題だ」とミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に
警告。
・中国外務省スポークスマンは、「安保理が認めていないユーゴ連邦への軍事行動は、国連憲章と国際法準則への重大な違反だ」 と警告。
03/22:
・米ホルブルック特使はベオグラード入りして記者会見を行ない、「我々は最も緊迫した状況にある。平和的解決を目指すが、思うような結果が得られなければ武力行使に出ることも辞さない。この悲劇を食い止められるのはユーゴ連邦政府の態度だけだ。長々と交渉するつもりはない」と述べる。この後、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談。
・ロシアのプリマコフ首相は、「武力行使は絶対反対。空爆はないものと思う」と述べ、23日からの訪米計画に変更はないと
表明。
・地中海のアドリア海に米第6艦隊が展開し、イタリアのアビアーノ基地には400機の作戦機が集結する。
03/23:
・セルビア共和国議会はランブイエ和平交渉の和平最終案のユーゴ全土へのNATO軍駐留要求を拒絶する議決を採択。セルビア議会は、同時に3月19日のOSCEコソヴォ検証団の撤退を非難し、またコソヴォ・メトヒヤの広範な自治、全ての市民と民族集団の平等の保障、セルビア共和国とユーゴ連邦の領土の不分離性に関する政治的合意を目指した交渉を提案。
・ホルブルック米特使はミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領と会談するが交渉は不調に終わる。
・ジェームズ・ルービン米国務省報道官はセルビア議会の決議について尋ねられ、「この建物の中にいる者で、それが希望の印であると考えている者はいない」と答える。
・国際社会には、ランブイエ合意もセルビア共和国議会の決議も報じられていない。
・アゼルバイジャン政府は、ロシアの大型輸送機が給油のために立ち寄ったバクー空港で、輸送機の中にミグ戦闘機6機や武器や軍人40人を積載していたことで押収。
・ユーゴスラヴィア国内の市民たちは、買いだめに走り廻る。
・NATOのソラナ事務総長は、クラーク欧州連合軍最高司令官に「ユーゴ・コソヴォ空爆」の開始を命じる。
・ロシアのプリマコフ首相は、訪米途中の航空機の洋上で空爆開始の報を受け、Uターンして帰国する。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、44万人余りが国外に難民として脱出したり、コソヴォ自治州内で避難民となったりしている、と発表。
・米連邦議会上院は「ユーゴ・コソヴォ空爆」容認決議案を賛成58、反対41で採択する。
03/24:
・NATO軍は国連安保理の決議を得ることなく、「アライド・フォース作戦」を発動し、ユーゴスラヴィアとコソヴォへの空爆を開始する。B-2ステルス爆撃機を始め150機が出撃。NATO軍の爆撃は、首都ベオグラードやコソヴォ自治州の州都プリシュティナ、モンテネグロの首都ボドゴリツァなど全土にあるにある軍事施設など40ヵ所以上が対象となり、ミサイルでの攻撃も行なう。
・ユーゴスラヴィア連邦政府は「戦争状態」を宣言する。
・国連安保理は、ユーゴスラヴィア空爆に関するロシアの提案による緊急協議を開く。ロシアと中国が攻撃の即時中止を求めたのに対し、NATO加盟の米・英・仏・カナダなどは、「ユーゴ連邦当局による軍事攻勢で国内避難民が急増するなど 、人道上の惨事を防ぐために例外的措置」として攻撃を擁護する。
・国連アナン事務総長は、「外交的解決が失敗し、平和を求めて武力行使が正当化されるかも知れないようなときがあるのは、実に悲劇的だ。いかなる武力行使の決定にも安保理が関与すべきだ」と述べ、NATO軍が安保理の承認を得ない軍事攻撃を始めたことを批判する。
・ロシアと中国は、安保理の許可を得ていない武力行使を「国連憲章に違反する」と非難し、攻撃の即時停止を求める。エリツィン露大統領は、「主権国家に対する侵略であり、世界の憲兵として21世紀を迎えようという試みである」とNATO軍のユーゴスラヴィア空爆を激しく非難する声明を発表。
・中国の秦華孫国連大使は、コソヴォはユーゴ連邦の内政問題であると強調した上で、NATOなど地域的取り決めにより設立された機関が強制行動をとる場合は、国連安保理の許可を必要とする国連憲章53条を踏まえなければならない、とNATO軍の一方的な行動を批判。
・ジョージ・ロバートソン英国防相は下院で、「99年1月までは、コソヴォ解放軍・KLAの方がセルビア当局よりも多くの死者を出していた」と述べる。
・クリントン米大統領は、「我々の価値を守り、利益を守り、そして平和の大義を押し進めている。民族対立が民族浄化に転化した時、われわれが事態を変えることができるならばそうするべきであるし、コソヴォはまさにそうした状況なのだ。悲劇を終わらせるのは道義的な責任だ」と述べる。
・ヨシュカ・フィッシャー独外相は、「人権の擁護は作戦の一形態である」としてオルブライト米国務長官を擁護し、「ウルリヒ・ベックがいうNATO軍の新たな軍事的人道主義」を提唱する。
・ユーゴスラヴィアの反体制活動家ミロバン・ジラスの息子アレクサ・ジラスは、爆撃によって反体制活動家と体制は「天国で一つになった。民主主義勢力は反米になった」と発言。
・ウェズレイ・クラークNATO欧州連合軍最高司令官は、「政治家たちが計画したNATO軍の作戦は、セルビア人による民族浄化を防ぐものではなかった。また、セルビアとコソヴォのMUP(内務警察部隊)に対する戦争を行なうためのものでもなかった。こうした意図は全くなかった。それが目的ではなかった」と述べる。
・ジャーナリストのセルジュ・シュメーマンは、「ユーゴ爆撃が主権と国際法に対するあからさまな侵害だという批判は、米国以外では広く真理として受け入れられているが、米国のマスコミではほとんど扱われなかった」と述べる。
・EUは首脳会議を開いて特別声明を発表。声明は、「1,ユーゴ連邦が和平交渉で最後まで譲歩せず、むしろアルバニア系住民への武力弾圧で新たな避難民を生み出したこと。2,21世紀を前に欧州は人道上の惨事を許すわけにはいかない。3,NATO軍の空爆は、コソヴォ紛争を停戦から平和的解決に導くことが目的である。4,攻撃はユーゴスラヴィアやセルビア市民に向けられたものではなく、無責任なユーゴ連邦指導部を標的にしている」と明記。
・緒方貞子国連難民高等弁務官は、国連人権委員会で、ユーゴ連邦・コソヴォ自治州紛争の政治的解決を改めて訴える。
・セルビア共和国の警察当局は、ベオグラード市内のホテル屋上で取材中の日本のテレビ局を含む外国テレビのカメラマンなど十数人を拘束して警察署に連行する。
・マケドニア共和国は、コソヴォ自治州との国境を閉鎖した模様。直前にコソヴォ自治州の南部の町ウロシェヴァツから避難してきた2人の子ども連れの母親は、「私たちの町にはもう誰もいない」と記者に話し、「セルビア政府がなかなかビザを出さないので、多くの人が国境の手前で待たされている」と言いながら後ろを振り返る。
・トニー・ブレア英首相は、「この戦争は新たな性格のものであり、われわれは価値のため、あるエスニック・グループ全体に対する残虐な弾圧を放置することはしないという新たな国際主義のため、そうした犯罪の責任者にはもう隠れるところがない世界を作るために戦うのだ」と語る。
03/25:
・NATO軍は3段階の空爆作戦計画を発表。第1段階;「巡航ミサイルを中心に、地対空ミサイルやレーダー、司令部や通信施設などユーゴスラヴィア側の防空システム関連施設を破壊、制空権を握る」。第2段階;「ユーゴスラヴィア領土の中央をはしる北緯44度線以南に限定して、防空施設以外の軍事拠点を攻撃する。コソヴォ内でアルバニア系武装組織、コソヴォ解放軍・KLAの掃討作戦を続けているユーゴ連邦軍とセルビア治安部隊の兵舎や武器庫、装甲車、戦車などを標的とする。第3段階;「北緯44度以北も含めた、ユーゴ内のあらゆる軍事拠点を標的とする」。現在は第1段階を実行中。
・ユーゴスラヴィア連邦政府は、米・英・独・仏と外交関係断絶を発表。
・米共和党ヘルムズ上院外交委員長は、「コソヴォ情勢が不安定な原因はミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領にある」として、ミロシェヴィチ大統領を政権から追放することを目指すセルビア民主化法案を提出。
・米国防総省ベーコン報道官は、米空母セオドア・ルーズベルトを中心とする戦闘部隊を投入すると述べる。
・ユーゴ連邦ドラシュコヴィチ副首相は、「これはヒロシマの再現で、我々はNATO軍による犯罪的な侵略行為の被害者だ。コソヴォに大幅な自治を与える用意はあるが、NATO軍によってアルバニア系だけに民族浄化されたコソヴォを作ろうという陰謀は受け入れられない」と記者会見で語る。
・ロシアのセルゲーエフ国防相は、NATO軍が2000人規模の地上部隊投入を準備している、と語る。
・セルビア共和国コソヴォ自治州内で、コソヴォ解放軍・KLAとユーゴ連邦治安部隊との戦闘が激化する。
・マケドニア共和国のスコピエの中心街にある米国大使館前で、ユーゴ空爆に反対する数百人の市民が石や火炎瓶を投げ、旗竿などを使って突入を図るなどの行為を行なう。
・ジェンキンス英国上院議員は、NATO軍のユーゴ空爆に抗議して党院内幹事を辞任する。「空爆は犯罪的な蛮行」と政府を批判。
・シュレーダー独首相は、ドイツ連邦軍がトルネード戦闘爆撃機を第1回攻撃から参加させるなど、戦闘行為への参加は第2次大戦後初めてと強調。
・スウェーデンのぺーション首相は、「このような軍事作戦に、国際法上の明確な根拠を求めるのは難しい」と語る。
・オーストリアは、「国連の委任のない軍事行動には協力できない」としてNATO軍の領空通過を認めず。
・ギリシア政府のスポークスマンは、「今こそ空爆を停止するために、対話の席に戻るべきだ」と呼びかける。ギリシアは、空爆には参加せず。
・ウクライナのタラシュク外相は、「ウクライナは、ユーゴ連邦とNATO軍の紛争で仲介役を務める用意がある」と述べ、ユーゴスラヴィア訪問を表明する。
・小渕日首相は、「ユーゴスラヴィア政府が和平合意案を頑なに拒否し、国連安保理の決議を無視していることから、さらなる犠牲者の増加という人道上の惨劇を阻止するためのやむを得ない措置だ」と述べる。
・マケドニア・スコピエの人道支援団体の「エルヒラル」のアブドゥラフ・フルチ会長は、現地から得られた情報として「アルバニア国境に近いジャコヴィツァで25日夜、連邦軍か同軍に支援された部隊に、学校にいた教師20人が殺されたほか、確認されただけでも住民13人が犠牲になる虐殺事件が起きた。遺体の埋葬さえ許されない状態だ」と語る。
03/26:
・NATO軍は、ベオグラード市の少なくとも10ヵ所を空爆。軍の燃料貯蔵庫やアバラのTV中継所、ゼムンの製薬工場、診療所、スレムチツァの化学物質貯蔵庫などが爆撃され、漏出したガスで喉をやられた人が続出する。
・NATOの欧州連合軍ウィルビー准将はユーゴ空爆について、「ユーゴ連邦の防空システムを破壊することを目的とする第1段階にある。2回の断続的な空爆は地対空ミサイルやレーダー、通信施設、指令関連施設など50ヵ所以上を破壊」と語る。
・NATOのシェイ報道官は、ユーゴ連邦軍のミグ29戦闘機2機がボスニア領空を侵犯したため、NATO軍機によって撃墜された、と発表。
・米国政府と欧州安保協力機構は、コソヴォ自治州内で2万人に近いアルバニア系住民がユーゴ連邦軍により強制的に歩かされている、との情報を入手したことを明らかにする。
・クリントン米大統領は、マケドニア共和国の米大使館の警備を強化するために、海兵隊100人を急遽派遣すると表明。
・ロシア政府は、NATO軍による「ユーゴ・コソヴォ空爆」の即時停止を求める決議案を国連安保理に提出する。
・ロシアのイワノフ外相は記者会見で、「モスクワ在住のNATO連絡事務所シャフタフチンスキー代表の国外退去を求めるとともに、ユーゴスラヴィアに人道援助を行なうことを決めた」と述べ、NATOに対し「いまやコソヴォ自治州のアルバニア系のテロリストや分離主義者を、公然と支援している」と非難。
・クリク・ロシア副首相はユーゴ連邦のボリスラフ・ミロシェヴィチ駐露大使に対し、「貴国の苦境を考慮し、ロシア政府は旧ソ連時代の対ユーゴ連邦債務の返済が可能か、早急に検討する」と約束。
・イタリア上下院はユーゴスラヴィア空爆への関与について、「1,後方支援と防衛に限定し、攻撃には加わらない。2,空爆停止と交渉再開に努力する」との決議を採択。
・国連安保理は、ロシア提出の空爆停止決議案を否決する。賛成はロシアと中国とナミビアの3ヵ国。
・台湾外交部は、マケドニア共和国政府にコソヴォからの難民の収容費用として200万ドルを提供する、と発表。
・ウクライナのタラシュク外相はクチマ・ウクライナ大統領の提案でベオグラードを訪問。
・ウクライナ最高会議は、ソ連崩壊後の91年に採択した「核兵器廃棄宣言」の撤回を賛成多数で採択。
・中国の江沢民主席はジュネーブ軍縮会議で演説し、NATO軍のユーゴ空爆について「軍事行動はバルカンの平和を悪化させる。国際社会は出来るだけ早く、危機を取り除くために協力するよう訴える」と述べる。
・マンデルバウム・ジョンズ・ホプキンス大学教授は、「誤算続きのコソヴォは欧州の嫌気に拍車をかけ、欧州の外で同じような紛争介入が繰り返されてはたまらないという気持ちが強まり、会議ではコソヴォ紛争介入のモデルと位置づける米国と、例外と看做す一部欧州諸国の溝が表面化した」と分析。
03/27:
・米軍のF117ステルス機1機が、ベオグラードの北西50キロの地点で撃墜される。米軍は、パイロットの救出のために航空機や大型ヘリなどを動員して大規模な作戦を展開し、パイロットは米軍部隊に救出される。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、コソヴォ自治州から1日4000人の市民が、隣国アルバニアとマケドニアに逃げ出した、と発表。
・NATO軍のウェズレイ・クラーク司令官は、セルビア人が残忍な行動に出ることは、「完全に予測出来た」と記者団に語
る。
・NATO軍高官は、「コソヴォ自治州で掃討作戦に参加しているあらゆる部隊や戦車、装甲車を攻撃する。兵士を殺すのが目的ではないが、戦車に乗員がいれば、それはその時のことだ」と述べる。
・NATO軍機を護衛していたイタリア軍機は、ユーゴ連邦軍がレーダー照射をしたことを理由にミサイル基地を攻撃。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は、ウクライナのタラシュク外相、クズムク国防相との会談後、「自由や独立、平等のために戦う力は、犯罪行為を行なう侵略よりも強い」などと述べる。
・コソヴォ解放軍・KLAのマフムティ在外広報担当は、コソヴォへのNATO地上軍の即時派遣を求める。マフムティはコソヴォ自治州の中部ジャコヴィツァで、住民70人が殺害されるなどセルビア治安部隊による虐殺や誘拐、放火などが続いていると説明。
・ユーゴ連邦軍は記者会見を開き、「今後、取材結果を事前に届けることに合意したもののみ取材許可を与える」と述べる。
・ロシア下院臨時本会議は、NATO軍によるユーゴスラヴィア空爆を非難する決議を、賛成368,反対4の圧倒的多数で採択。イワノフ外相は下院で、NATO軍のユーゴ空爆が今後も続く場合は、ロシアが国連総会の緊急開催を求める考えを示す。またロシアによるユーゴスラヴィア支援について、「今は人道支援だが、今後どのような支援が必要になるかは情勢の進展による」と述べる。
・「国際行動センター」が呼びかけたNATO軍の「ユーゴ・コソヴォ空爆」に抗議するデモが、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ワシントンDCなどで行なわれる。
03/28:
・NATOのシェイ報道官はコソヴォ自治州内の状況について、「ユーゴ連邦側が、組織的な民族浄化作戦をしている」と非難。さらに、空爆開始後に約5万人が避難民になり、現時点で 「コソヴォの難民と避難民は、人口の25%に当たる50万人に達した」と述べ、「戦争犯罪の証拠は全て旧ユーゴ戦犯法廷に送られ、実行したり、命令したりしたものは特定され、起訴される」と付け加える。
・シラク仏大統領はロシアのプリマコフ首相と電話で協議し、コソヴォ問題でミロシェヴィチ・ユーゴ大統領への説得に乗り出すよう要請する。
・フランスのペドリヌ外相はラジオのインタビューで、「空爆は数週間というより数日」で終了するだろうとの見通しを述べる。
・国連難民高等弁務官事務所の現地事務所によると、28日にマケドニアに入ったコソヴォ難民は500人。
・ロシアのガイダル元首相代行、ネムツォフ元第一副首相、フョードル元副首相の改革派政治家3人がハンガリー経由でベオグラードに向かう。空爆を中止させるための私的な仲介役を務めたいとの希望による。
・モスクワの米大使館脇の路上で、4輪駆動車から大使館に向けて自動小銃が発射されたが、建物に幾つかの弾痕が残っただけで負傷者はなし。大使館の警備員が短銃で応戦。
・国際行動センターのラムゼイ・クラーク代表(米元司法長官)とビデオ作家のグロリア・ラリバは、NATOの空爆の実態を調査するためにユーゴスラヴィアに入る。
・セルビアのベオグラードでは、エール・フランスのオフィスやアメリカ文化会館が住民に襲撃されて破壊される。
・NATO軍の空爆開始5日目の午後、ベオグラードで若者たちは共和国広場で空爆に抗議する野外ロックコンサートを開く。若者たちは「TARGET?」と書いたプラカードを掲げる。
・朝日新聞の記者が空爆5日目にユーゴスラヴィアのベオグラードに入る。記者によると、街のほとんどの店はシャッターを下ろしており、特にガソリン類の高騰が目立つという。
03/29:
・米国防総省ベーコン報道官、NATO軍のユーゴ空爆強化のために、B1Bステルス爆撃機5機を米国本土から投入すると発表。
・NATO軍はコソヴォ自治州の州都プリシュティナを中心に激しい爆撃を実行。プリシュティナの治安部隊の司令部が爆撃を受けたほか15以上の建物が破壊される。NATO軍は、コソヴォ内避難民数を28万人と推計。
・ユーゴ連邦軍は、NATO軍用機7機とヘリコプター3機、巡航ミサイル30発を撃墜した、との声明を発表。
・オルブライト米国務長官は、「域外の民族・国境紛争や大量破壊兵器がもたらす混乱と不安定は、NATOにとってソ連に代わる最大の脅威だ」と述べる。
・ユーゴ連邦当局は、コソヴォ自治州のアルバニア系穏健派住民組織の幹部で、ルゴヴァ・コソヴォ自治州大統領の側近であるフェフミ・アガニら政治指導者が処刑されたと伝える。ルゴヴァの消息は不明。
・シラク仏大統領は、ロシアのプリマコフ首相に電話でミロシェヴィチ・ユーゴ大統領への説得活動を要請。また、国民に向けてテレビでNATO軍による空爆への支持を訴える。
・フランスのパリジャン紙に掲載された世論調査によると、武力行使が拡大した責任者として62%がミロシェヴィチ大統領を上げ、軍事介入は不可避だったとする人は52%、空爆については反対が46%、賛成40%。
・ダレーマ・イタリア首相は、「軍事手段だけで和平をもたらすことは出来ない」と主張。
・中国の江沢民主席はクリントン米大統領に、「NATO軍による対ユーゴ軍事干渉を即時停止するよう要求する」との書簡を送付。
・モンテネグロ共和国のジュカノヴィチ大統領は、「空爆や難民流出で作りあげた危機によって、モンテネグロを不安定化し、自分にとって不都合な民主化を妨害しようとしている」と強くミロシェヴィチ・ユーゴ大統領を非難。
・註;ユーゴ連邦を構成するモンテネグロ共和国は人口70万足らずの小国。ジュカノヴィチ大統領は親西欧路線を採り、ユーゴ連邦からの離脱・独立を目標としている。
03/30:
・空爆開始とともに始まったユーゴ連邦軍とセルビア治安部隊によるコソヴォのアルバニア系住民の一掃作戦は続き、約10万人の難民がアルバニア領内に避難した模様。
・アルバニア政府は、NATO軍の空爆によりコソヴォ自治州からのアルバニア系住民の難民が10万人に達したことを明らかにするとともに、自治州に隣接する北部地域に非常事態を宣言。官公庁や自治体および民間団体に、難民輸送のための車輌を提供するよう指示。アルバニア政府は競技場や仮設キャンプに収容していたが、急激に増大する難民をティラナに集中させずに地方都市に分散させる方針で、北部クケスからこれまで4万人を地方に搬送。難民対策にあたる人道支援団体によると、セルビア当局は大勢のアルバニア系住民をトラックなどでアルバニア国境に強制連行し、身分証明書などを取り上げた上で追放している、という。
・NATOは、空爆開始以来の難民総数は38万人との推計値を発表。
・NATOのシェイ報道官は、コソヴォ自治州第2の都市ペチのアルバニア系住民は、セルビア治安部隊などにより完全に追い出された、と語る。
・NATOのウィルビー空軍准将は、ユーゴ軍機30機を撃墜したほか、ノヴィ・サドのヘリポートやニシュの空軍基地などを攻撃したと発表。「作戦には時間がかかる。即効の解決法はない」と述べる。
・フランスの保守系ラクロワ紙は、仏英米の特殊部隊がコソヴォ自治州内で活動を始めた、と報じる。
・ロシアのプリマコフ首相は、紛争の政治解決を求めてユーゴ連邦大統領と会談。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領はプリマコフ露首相と会談を行ない、交渉による政治解決の前提条件を提案。提案骨子;「『1,NATO軍のユーゴ空爆を即時全面停止する。2,マケドニア駐留のNATO部隊を撤退させる。3,NATO軍によるアルバニア系武装分離主義勢力への支援を全面停止する』。前提が受け入れられれば、ユーゴ連邦はコソヴォ駐留ユーゴ軍を一部撤収する。和平は、コソヴォのあらゆる民族、宗教集団に同等の権利を保障するものであること」など。
・クリントン米大統領は、「ユーゴ連邦側の提案を拒否する。ユーゴ連邦側はコソヴォのアルバニア系住民への攻撃を停止し、ユーゴ軍駐留部隊を撤退させ、ランブイエ和平案、『1,独立問題の3年間棚上げ。2,自治権の拡大。3,NATO軍主導の和平維持軍の駐留など』を受け入れること。この実現までNATO軍は軍事行動を続行する」と語る。
・仏ペドリヌ外相は、「NATO軍の空爆を停止して政治的な交渉に戻るには、アルバニア系住民への迫害を直ちに停止するだけでなく、部隊を撤退させなければならない」と述べる。
・ブレア英首相は北アイルランドで、「NATO軍の行動だけが民族浄化をくい止められる」と語り、空爆を強化するべきだと
強調。
・米国防総省ベーコン報道官は、NATO軍がベオグラードにある特殊部隊の本部を空爆したと述べる。
・朝日新聞によると、シラク仏大統領がロシアのプリマコフ首相に電話してミロシェヴィチ・ユーゴ大統領への説得を要請し、ギリシアは空爆の長期化に反対するイタリアと協力態勢を模索している。
・UNHCRによると空爆開始以来、1週間でアルバニアに10万人、マケドニアに2万9000人、モンテネグロに2万7000人、合計15万6000人が避難。多くは車やトラクターで移動したが、列車でも避難する。
03/31:
・ユーゴ連邦軍は、コソヴォ自治州とマケドニア国境付近で偵察活動をしていた米兵3人を拘束し、3人の映像を流す。
・バチカンのナバロ報道官は、トーラン外務局長がミロシェヴィチ大統領に宛てた法王の親書を持ってユーゴ連邦を訪れると発表。バチカンはNATO軍のユーゴスラヴィア空爆に反対し、国連と欧州安保協力機構が和平プロセスに参加すべきだと主張。
・米国内で、クリントン政権が「空爆は住民弾圧と難民の大量流出を招く」との報告を得ていたにもかかわらず「空爆に踏み切ったのは疑問だ」との批判が起こる。
・米ホワイトハウスのロックハート報道官は、「空爆に期限はない。ミロシェヴィチが態度を変えるか、その軍事力が失われるまで続くだろう」と述べる。
・クリントン米大統領はCBSとの会見で、ユーゴスラヴィア空爆について「成功する可能性は高く、この戦略を続けたい」。地上軍の投入については、「コソヴォやバルカンの戦闘地域に地上軍を投入したら、撤退できなくなるのが心配」と語る。
・セルビア国営放送は、略奪や放火が相次いで無法状態になっていると伝えられるプリシュティナ市で、普段通りの生活が続いている様子の映像を流す。アルバニア系住民の収容所となっていると伝えられる競技場からは、「空っぽで誰もいません」と記者が中継放送を行なう。また、マケドニアに向かう避難民が、「空爆が怖くて逃げてきた」と答える場面を放送。
・ロシアのセルゲーエフ国防相は記者会見で、ユーゴ情勢が緊迫しているとして、ロシアの黒海艦隊の艦艇7隻を地中海に派遣することを明らかにする。
・ドイツのフィッシャー外相は、EUの議長国として4月1日にユーゴ連邦周辺9ヵ国の外相、EUの前、次期議長国の外相、国連難民高等弁務官・UNHCR事務所代表をボン郊外に集め、緊急会議を開くと述べる。独外務省は、コソヴォから逃れる難民対策などバルカン情勢を話し合う、と発表。
・NATO軍のシェイ報道官は、ユーゴ連邦軍とセルビア治安部隊によるアルバニア系住民一掃作戦が続き、州都プリシュティナや南西部のオラホヴァツからも人々が家を追われていると述べる。
・イスラム諸国会議機構・OIC53ヵ国は、「全ての外交努力が失敗したため、決然とした国際的行動が必要になった」と空爆を黙認する声明を、国連本部で発表。
・アルバニア政府は、コソヴォとの国境付近に職員を派遣して、バス、タクシー、トラック、郵便配達車、トラクター、馬まで手配してアルバニアの山道を通して避難民を移動させる手助けをする。
・「国際行動センター」が呼びかけたNATO軍の「コソヴォ・ユーゴ空爆」に抗議するデモがニューヨーク市で行なわれる。
04/01:
・NATO軍機が、コソヴォ自治州北西部ペチ近郊のサビネボデを走行中のバスを攻撃し、コソヴォのアルバニア系住民20人が死亡する。NATO軍は誤爆を認める。さらにNATO軍は、セルビア北部のヴォイヴォディナ自治州の州都ノヴィ・サドの中心部と南部郊外を結ぶ、ドナウ川に架かる橋を空爆して破壊する。
・日本政府は、コソヴォ自治州の難民支援に1500万ドルを拠出するとUNHCRなどの国連機関に表明する。
・クリントン米大統領は、「空爆は住民弾圧と難民の大量流出を招く、との報告を得ていたのに空爆に踏み切ったのは疑問だ」との批判に対し、「行動を起こしていなければ、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は大手を振って破壊行為を始めていた」と空爆戦略を必死で正当化し、「1週間で空爆を失敗と決めつけないように国民に忍耐」を求める。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、31日に拘束した米兵3人に対する訴追手続きが軍事法廷で2日から始まるだろう、と伝える。ユーゴスラビア国営テレビは、ユーゴ連邦軍に拘束された米兵3人の映像を放送。
・クリントン米大統領は、ユーゴ連邦軍が拘束している米兵3人について、「兵士たちが拘束されたり、裁判にかけられたりする理由はない」と兵士の解放を要求。
・ユーゴ連邦軍のプリシュティナ軍管区は、コソヴォ自治州のアルバニア系住民に武器を捨てるように呼びかける。
・コソヴォ自治州の独立系紙「ブリッツ」は、この1週間にコソヴォ解放軍が89回の攻撃を行ない、警察官15人、民間人25人を殺害した、と伝える。
・ユーゴ連邦のミロシェヴィチ大統領とコソヴォ自治州のアルバニア系住民指導者のイブラヒム・ルゴヴァが、ベオグラードの大統領官邸で会談。コソヴォ問題は政治的な話し合いによってのみ可能であり、今後協議を続けることで合意。
・NATOのソラナ事務総長は記者会見で、「ルゴヴァ・コソヴォ自治州大統領が自由意思で行動しているとは思えない」と述
べる。
・EUとユーゴスラヴィア周辺9ヵ国外相およびUNHCRなどの緊急会議がフィッシャー独外相の呼びかけによってボンで開かれ、難民対策などで協議。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCR広報官は、「昨日1日だけでマケドニア国境に4万人、アルバニアに2万人のコソヴォ難民が到着した。予想以上の急増で救援活動が追いつかない」と述べる。UNHCRの集計では空爆が開始されて以来、新たに発生した難民は、マケドニアに7万人、アルバニアに12万人など23万人を超えている。マケドニアへの難民の多くは、ユーゴ連邦側が用意した列車にぎゅうぎゅう詰めにされて運ばれ、2キロ先で下ろされて、後は線路づたいに歩いて来たという。
・ロシアのエリツィン大統領はユーゴスラヴィア情勢について、主要国首脳会議参加8ヵ国の緊急外相会議を開くことをテレビ演説で提案。
・アナン国連事務総長はプリマコフ露首相に電話を掛け、ユーゴスラヴィアとの調停活動について話し合った模様。
・コソヴォ自治州ジャコヴィツァで、地下室に隠れた11歳のドゥリニ・ツァカ少年は、家族や親類が顔を迷彩色にした男たちに「お前たちはNATO軍を待っているんだろう。これがNATO軍だ」と言って銃で撃ち殺したと証言。
・米主要各紙は、CIA、国防総省などの首脳や当局者が空爆開始直前に、「ユーゴ空爆には民族浄化作戦で対抗するだろう」との報告書をホワイトハウスに提出していた、と報じる。
・バチカン公国のトーラン外務局長はベオグラードを訪れてミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。ローマ法王ヨハネ・パウロⅡ世の親書を手渡し、カトリックの復活祭の4日から正教の復活祭の11日までの間の休戦を提案。NATOおよびクリントン米大統領にも同様の書簡を送付したが、NATOはミロシェヴィチ・ユーゴ大統領がアルバニア系住民への攻撃を中止するのが先決として拒否する。
・国際行動センターが呼びかけた「ユーゴ・コソヴォ空爆」に抗議するデモが、ニューヨークで行なわれる。
04/02:
・NATO欧州軍のウィルビー空軍准将は、コソヴォ・ユーゴ空爆10日目のこの日、ユーゴ連邦軍やセルビア治安部隊の補給路となる橋などを含めて空爆を続けたと発表。また、アルバニア系武装組織・コソヴォ解放軍・KLAについて、「まだ敗退していない。応戦している」とKLAが健在であることを認める。
・クリントン米大統領は、「NATO軍がコソヴォ難民を無事に帰還させ、自治政府の下で安全に暮らせるような条件をつくる」と述べ、「一定期間、何らかの形の国際的な戦力の配備が必要になる」との認識を示す。
・ルービン米国務省報道官は、「コソヴォの自治の保証と和平合意後の平和維持部隊導入を柱とする和平協定案を復活させることが米政府の基本方針」と述べる。
・米国務省の難民担当官は、コソヴォ自治州で家を追われ、難民となって国外に逃げたりした住民は、68万9830人に上ると発表。
・米CNNテレビは、米情報当局者の話として、ミロシェヴィチ政権は、コソヴォ住民に対する「民族浄化」作戦を数日の内に終え、一方的に「停戦」を発表するつもりだ、との見通しを報じる。
・ロシア下院などの代表団がユーゴ連邦を訪れて国防相と会談。先月27日に撃墜したF117ステルス爆撃機の破片を、ロシアに引き渡すことなどを協議。、
・プリマコフ露首相は、アナン国連事務総長と電話でNATO軍のユーゴ・コソヴォ空爆問題を協議。
・アルバニア政府は、コソヴォ自治州からの流入難民が16万人に達したと発表。政府は、「国際社会にSOSを発する。この苦境をアルバニアだけに押し付けないよう望む」との声明を出す。
・アルバニアのイタリア語紙は、中部デュラス市の警察当局者の情報として、セルビア政府の秘密警察員が難民に混じってアルバニア国内に潜入した可能性があり、政府が検問と難民収容所の相互連絡を強化した、と伝える。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、「昨日1日だけで、マケドニア国境に4万人、アルバニアに2万人のコソヴォ難民が到着した。予想以上の急増で救援活動が追いつかない」と述べる。UNHCRは10万人の受け入れ能力しかないが、現在マケドニアに7万人、アルバニアに12万人など、23万人を超えている。
・集団安全保障条約機構・CSTOの有効期限延長に関する議定書に6ヵ国が署名。参加国はアルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ベラルーシ、ロシア。結成時に参加していたウズベキスタンは離脱し、ベラルーシが加わる。
・台湾外交部は、マケドニアに紅十字や医師団を派遣するための関係者の打ち合わせを行なう。
04/03:
・NATO軍は、ベオグラード中心部のユーゴ連邦内務省とセルビア共和国内務省を巡航ミサイルで空爆。隣接する大学病院に、怪我人が運ばれている模様で、新生児などは避難。NATO軍は、ヴォイヴォディナ自治州の州都ノビサドのドナウ川に架かる橋を空爆して破壊。パンチェヴォ市の石油精製施設も爆撃。
・ユーゴ連邦のドラシュコヴィチ副首相は、英スカイテレビに対し、NATO軍によるベオグラード中心部への攻撃によって、「非常に多くの犠牲者が出ている」ことを明らかにする。さらに、「セルビア内務省の直ぐ近くには病院もあった」と述べる。
・ボスニア和平安定化部隊・SFORは、ベオグラードとモンテネグロを結ぶ鉄道のうち、ボスニア領内を通る線路を爆撃して破壊。
・ロシア国防省のイワショフ国際軍事協力局長は記者会見で、NATO軍の空爆拡大への対抗措置として、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ和平安定化部隊・SFORに参加しているロシア軍部隊の撤収を検討していることを明らかにする。同局長は、「ロシアの戦闘準備態勢の手順を高める諸措置もとりつつある」とも強調。
・クリントン米大統領は、大量に発生した難民をコソヴォに無事帰すことを目標に掲げ、帰還後の安全はNATO軍の軍事力で保護する、との構想を発表。
・ブレント・スコウクロフト米元ブッシュ政権国家安全保障担当補佐官は、「クリントン政権は空爆でミロシェヴィチに和平案を受諾させようとしたが希望的観測過ぎた。不人気であってもNATO軍は地上軍を投入せざるを得ないだろう」と述べる。
・NATOは大使級理事会を開き、コソヴォ難民の流入が続くアルバニアに前線司令部を設け、難民への人道援助を支援することを決める。兵力は数千人から1万人規模とする方針。援助活動を支援するNATO緊急展開部隊は、「1,物資の輸送。2,難民キャンプの設営。3,航空管制」などを任務とする。
・NATO軍のシェイ報道官は、「コソヴォからの難民は過去10日で29万人に上り、昨年3月からの累計は75万6000人になった。このペースで流出が続けば、あと10日から20日でコソヴォ自治州のアルバニア系住民はいなくなるだろう」と述べる。
・UNHCRによると、空爆開始以来のコソヴォ自治州からの難民は29万人、避難民は3万8000人で、計32万8000人に達したと発表。アルバニアに17万人、マケドニアに11万5000人、ユーゴ連邦モンテネグロ共和国に3万2000人。
・マケドニア安全保障会議は、政治と経済が危うい状態になっているとして「コソヴォ自治州からの難民をこれ以上受け入れることは出来ない」との声明を発表し、近隣国とEUに協力を求める。マケドニア政府は、難民の不法入国防止のため、軍の一部に動員令を発する。
・イタリア外務省は、コソヴォ問題で旧ユーゴ連絡調整グループ6ヵ国と、G8の主要8ヵ国の高級事務レベル会議が、早ければ週明けにも開かれることを明らかにする。
04/04:
・NATOはコソヴォ紛争での難民問題でEU、UNHCRなどと協議し、EUやNATO加盟諸国で10万人以上の難民を受け入れる準備があることを確認。ドイツが4万人、トルコが2万人、ノルウェーが6000人、ギリシアが5000人、米国2万人、カナダ5000人。NATOは、3日だけでコソヴォ難民の流出が8万人を数え、なお6万人が飲まず食わずで国境を越えつつあり、マケドニアには13万人が押し寄せる。NATO軍は、救援兵力をアルバニアに6000人から1万人の派遣することを表明。
・NATO軍は、ベオグラードのドナウ川の対岸にある新都心のノビ・ベオグラード地区にある暖房供給公社を爆撃し、燃料タンク群が爆発炎上。警備員1人が死亡。さらに交通通信網や産業施設を空爆。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは空爆開始からこの日までに難民・避難民が40万人に達したと発表。
・フランス政府は、IMF内に「バルカン委員会」を設置し、コソヴォ自治州の難民を受け入れている周辺国の経済・財政支援を提案する意向を明らかにする。
・バチカンのヨハネ・パウロⅡ世は、コソヴォでいま起きているアルバニア系住民への民族浄化に触れ、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に対し、「人道的回廊」を設けるよう要請。
04/05:
・セルビア共和国南部のアレクシナツで、NATO軍がユーゴ軍旅団本部を狙ったミサイルが住宅地に着弾し、12名が死亡。NATO軍は軍事施設だけでなく、産業、エネルギー施設、交通通信網、など幅広い対象を空爆している模様。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、NATO軍はこの日少なくとも4都市を空爆。
・クリントン米大統領は、「ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が考えを改めるか、彼のコソヴォ支配に徹底的な打撃を与えるかの2つに1つだ。勝つまでやり抜く」と長期戦の覚悟を宣言。クリントン米大統領は空爆を停止するには、「コソヴォからのユーゴ連邦軍、セルビア治安部隊、民兵を撤退させ、アルバニア系住民に対する殺害や抑圧を止めるほか、全ての難民の無事な帰還の保障、難民保護のための多国籍軍部隊のユーゴスラヴィアへの展開の受け入れ、政治的な解決の枠組みへの前進」などの条件を満たさなければならないと強調。
・中国の人民解放軍機関紙「解放軍報」は50周年を迎えたNATOについて、「NATOの新戦略が、従来の前方展開戦略から、全方位危機対応型に転機しつつある」と分析。「防御的」だったNATO戦略が「拡張的」なものに変質と論評。
・コソヴォ自治州からのアルバニア系難民・避難民は、35万人を超える。
・セルビア国営放送は、ロシアのコトフ在ベオグラード大使はプリシュティナでコソヴォのアルバニア系指導者ルゴヴァと会談し、NATO軍による空爆の即時停止を求めることで合意した、と伝える。
・ユーゴ連邦を構成するモンテネグロ共和国で、ユーゴ連邦軍への召集令状を拒否する動きが広がりつつある。
・UNHCRの緒方貞子国連難民高等弁務官は朝日新聞のインタビューに応え、「NATO軍の空爆による難民は当初は10万人を想定していたが、もの凄い勢いで増えたので35万人に改めた。ところがそれを上回るペースで増加したので、6日の会議では60万人を想定した援助計画を出すつもりだ。90万人に達することも視野に入れている。この難民は、自然流出ではなく、強制流出だ」と述べ、「マケドニアは民族構成を崩したくないので国境を閉鎖しているため、7万人が国境に滞留している。アルバニアは政府の力が弱いので入国した難民が北部国境から移動出来ない」と語る。
・アナン国連事務総長は、安保理にコソヴォ自治州からのアルバニア系難民の救援について、NATO軍との協力を本格化させる方針を報告。
04/06:
・コソヴォ自治州の州都プリシュティナの中心部で、NATO軍が電話交換ビルを狙った爆弾3発のうち1発が住宅街に着弾し、10人死亡。
・ユーゴスラヴィア連邦政府は一方的停戦を発表。
・NATOは、ユーゴ連邦政府の停戦について受け入れを拒否する。
・欧州委員会は、コソヴォ自治州のアルバニア系難民のEU内受け入れに消極的な姿勢を示す。報道官は、「難民たちはコソヴォからこれ以上離れたくないと思っている上、手間も費用も膨大」と述べる。
・トルコ政府は、コソヴォ自治州からマケドニアに逃れた難民2万人をトルコに空輸する計画を進める。
・マケドニア共和国は国境を封鎖する。コソヴォ難民がマケドニア国境付近に10万人余りが押し寄せているが、赤子や老人以外は軍隊や警官が押し返している。マケドニアが難民受け入れに渋る理由は、人口200万人の小国であり、マケドニア人が67%、アルバニア人23%、その他10%の民族構成を激変させたくないという思惑が働いている。
・ユーゴスラヴィア政府系機関紙の「ポリティカ」は、マケドニアに向かったアルバニア系難民の内、3万人以上が州都プリシュティナに戻った、と伝える。
04/07:
・NATO軍は、6日深夜から7日未明にかけて延べ439回の最大規模の空爆を実行する。燃料・弾薬貯蔵庫などの他、戦車や装甲車、飛行機など28ヵ所を爆撃。
・ユーゴスラヴィア側は、地対空ミサイルSA6などで反撃したが、実害は与えられず。
・エリツィン露大統領は、主要国首脳国会議参加国首脳に、「コソヴォでの停戦やアルバニア系住民指導者との対話開始など、ユーゴ連邦への措置が何も前提条件を付けていないことは重要だ」とし、政治的交渉へと情勢を転換させるための主要国首脳に対応措置を早急にとることを求める」親書を送付。
・マケドニアの国境の検問所脇の空き地に5万人の難民が足止めされていたが、キプリヤノバ副首相はコソヴォのアルバニア系難民の9200人をアルバニアに移送したと発表。さらに、3万人をバスで国連難民高等弁務官事務所の運営するキャンプに移送したが、残りの人たちがどこに行ったかは分からない、と懸念を表明。
・ブルガリアのエフゲニー・バクルジェフ副首相が来日し、NATO軍によるユーゴスラヴィアの橋や幹線道路が破壊され、輸出ルートが寸断されたため、ブルガリアは「経済的に深刻な打撃を受けた」と述べ、今月開かれる債権国会議・G24での支援を要請。
・ユーゴ連邦軍は、NATO軍の空爆開始以来、初めてベオグラードにいる内外の報道陣の80人をコソヴォの州都プリシュティナに案内。ベオグラードからコソヴォに入ると、建物の殆どはNATO軍の空爆で破壊されて荒涼とした風景に変わり、連邦軍兵士以外の人は全く見当たらず、ゴーストタウンとなっている。
・アルバニア政府は、コソヴォ自治州とアルバニアを結ぶ国境がユーゴスラヴィア側によって一方的に閉鎖されたと発表。これに伴い、大量のアルバニア系住民の姿が国境地帯から消える。
・アルバニアでコソヴォ難民を狙った窃盗や強盗が相次いでいる。アルバニア北部のベリボヤで、国境からコソヴォ難民を移送していた警察車輌を武装した6人組が襲撃し、難民たちの所持金を強奪。
・日本の国際政治学者羽場久浘子は、朝日新聞の論壇にユーゴ空爆に疑問を呈する論考を寄稿。
・NATO諸国内では、ユーゴ連邦の停戦提案を全く相手にしない米・英両国に対し、フランス、ドイツ、イタリアは見解をことにしている。それぞれの政権内に空爆反対論が無視出来ないほどに存在するためでもある。フランスでは3人の閣僚を出す共産党が、空爆への抗議デモを組織。ドイツでは連立与党の緑の党の安全保障担当のベーア連邦議員が、「停戦発表を機に和平調停に入るべきだ」と主張し、仲介者にペレス・イスラエル前首相の名まで挙げる。ダレーマ伊首相は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の提案を、「最初の一歩としては評価する」と留保付きながら評価。
・EU議長国のドイツのフィッシャー外相はボンで記者会見をし、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の提案はNATO軍が空爆を停止するには不明確な点が多いとして、米・英・独・仏・伊5ヵ国の外相による5項目の合同質問を公表。質問内容;「1,全ての戦闘行為、殺戮の検証可能な停止および、暴力と抑圧の即時終結。2,コソヴォからの、軍、警察・治安部隊の撤退。3,コソヴォへの多国籍軍の平和維持部隊の駐留。4,全ての難民と強制退去者の無条件で安全な帰還、および人道援助団体による難民支援への協力。5,ランブイエ合意に基づく国際法と国連憲章に合致したコソヴォの政治的枠組み協定づくりへの協力」というもの。
註;この5ヵ国による5項目の合意事項は当初はユーゴ連邦への質問項目の形式をとっていたが、直ちにNATOが同意し、さらに、EU外相会議の声明に盛り込まれたことで、EUとNATOの要求事項に昇格した。
・コソヴォからの難民の一人は、「コソヴォでは兵士や警察部隊による追い立てが行なわれており、追い立てた家は破壊され火を付けられている。男たちはKLAとの関係をただすために連れ去られているが、処刑された者は見ていない。以前はアルバニア系住民とセルビア系住民とは仲良く暮らしていた。それを変えたのはミロシェヴィチだ」などと話す。
・オルブライト米国務長官はCNNのラリー・キング・ライブにおけるインタビューで、ユーゴ・コソヴォ空爆はオルブライトの戦争と言われているがとの問いに「アメリカの価値をめぐる戦い」であると述べる。
04/08:
・ロシアのエリツィン大統領の親書が、パノフ駐日露大使を通して日本政府に渡され、親書の内容が明らかになる。親書は、「ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の提案を拒否せず、彼の声明を受け止め、建設的に対応してくださるよう強く訴える」と日本政府の同調を求めている。野中官房長官は、「エリツィン大統領の努力を含めて、コソヴォ問題の政治的解決に資するものであれば、あらゆる外交努力を支持したい」と和平に向けた大統領の努力を評価しながらも、「一方的停戦の提案だけでは真の和平は困難だ」と述べる。
・NATOの報道官は、人道援助活動を支援するためにアルバニアに派遣するNATO軍部隊は8000人になると述べる。
・EUの臨時外相理事会が開かれ、議長国のドイツは「南東欧州安定協定」を提案し、これをもとに中長期的な地域戦略を協議する。またミロシェヴィチ・ユーゴ大統領らの戦争責任を「旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTY」で厳しく追及していくことも確認。
・EU議長国のドイツは、外相理事会にバルカン安定化を目指す「南東欧州のための安定協定」を提案。提案の趣旨は、「新旧ユーゴスラヴィアなどの関係国や周辺国、EU、NATOなどによる大型会議を開き、欧州安保協力機構・OSCEの下に円卓会議を設置し、少数民族や難民、経済協力などについて協議する。そこから生まれた2国間や多国間の合意を実行に移し、1つの協定にまとめ、安定が長続きする仕組みを用意する」という内容。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、マケドニア政府がアルバニア系難民をUNHCRに通告しないまま移送したことに対し、「重大な人権侵害」と非難。また緒方貞子難民高等弁務官は、ヘリコプターで国境付近を視察し、「あれほど大規模の難民の流れがほぼ完全に止まってしまう状況は異常な事態で、大変心配している」と述べる。
・ロシア下院のセレズニョフ議長は記者会見で、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領とコソヴォ自治州のアルバニア系穏健派指導者のルゴヴァが、「コソヴォに暫定政府を設立するための協定づくりに入ることで合意した」と述べる。
・エリツィン露大統領は、ユーゴ情勢を打開するために、「幾つかの新提案を準備している」ことを明らかにする。
・ユーゴ連邦政府は、コソヴォ自治州のアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAに対する治安部隊の掃討作戦が終了し、「コソヴォに平和が戻った」との声明を発表する。
・マケドニア共和国政府は、コソヴォ自治州との国境地帯でコソヴォ側から侵入した黒い戦闘服を着た男性と銃撃戦が起き、マケドニア軍兵士1人が死亡、と発表。黒い戦闘服の男がどの組織のものかは確認されず。
・ドイツの「ターゲス・ツァイトング」紙が、「ランブイエ和平交渉」時にオルブライト米国務長官がユーゴ連邦側に突きつけて交渉を決裂させた秘密文書「付属文書B」の存在を暴露する。
註;1,ランブイエ和平交渉は、米・英・独・仏・伊・露の6ヵ国による「連絡調整グループ」が中心に行なわれていたが、和平交渉が成立する直前になってオルブライト米国務長官が交渉に直接関与し、独自の「和平最終案」をユーゴ連邦側に提示した。オルブライト米国務長官がユーゴ連邦側に突きつけた最終和平案には、軍事条項である「付属文書B8」が含まれていた。内容は、「①,NATO軍の人員およびその車輌、船舶、航空機、装備は、ユーゴスラヴィア連邦共和国全土、その領空、領海における自由かつ無制限な通行が保障される。②,これには野営、演習、民家への宿泊、支援、訓練、作戦行動に必要ないかなる地域や施設の使用も含まれる」。この占領条項とも言うべき要求を突きつけ、ユーゴ連邦側に受諾を迫ったのである。
2,「付属文書B項」の付加条項は、英国以外の「連絡調整グループ」には秘匿された。ヨーロッパ諸国は、国連安保理決議抜きの軍事行動に懐疑的であり、クリントン米政権が主張するNATOは国連と関わりなく独立して行動できるという立場に異議を唱えていた。そこで、米国はEU諸国やロシアを引き込むための作為を凝らしたのである。それが「ラチャク村の虐殺事件」であり、「付属文書B8項」であった。当然ながら、ユーゴ連邦側はこの占領条項ともいうべ「付属文書B8項」の受け入れを拒否した。ユーゴ連邦の拒絶によってランブイエ和平交渉は決裂したが、これを国際社会はユーゴ連邦側の傲慢不遜な対応と解釈した。ユーゴ連邦の不遜な対応を改めさせるには、NATO軍の軍事行動も許容されると国際社会は判断させられたのである。
04/09:
・ユーゴ国営テレビは、NATO軍機が未明にベオグラード郊外の燃料備蓄施設を空爆して炎上している映像を放送。
・NATO軍は、コソヴォ自治州の州都プリシュティナの電話交換ビルを空爆した際、投下した爆弾3発のうち1発が別のところに落ちたので、住宅に巻き添え被害が出たかも知れない、と認める。
・クリントン米大統領は、ユーゴ連邦が「一方的停戦」など柔軟姿勢を示していることについて、「NATOが求めている平和維持部隊の受け入れなどの条件の部分的応諾ですらない」と述べて、一切評価しない姿勢を示す。
・コソヴォ自治州とマケドニアおよびアルバニアとの国境が閉鎖されたことに伴い、モンテネグロ共和国に流入する難民が増大している。同共和国内に流入したアルバニア系難民は6万3000人で、なお1日1000人が流入を続ける。
・コソヴォ自治州のアルバニア系指導者イブラヒム・ルゴヴァは、プリシュティナでシャイノヴィチ・ユーゴ副首相とマルコヴィチ・セルビア副首相と会談し、コソヴォ問題の政治的解決や自治州の恒久的地位について協議。
・コソヴォ自治州のデチャニでコソヴォ解放軍とセルビア治安部隊との間で大規模な戦闘が行なわれ、「デチャニはコソヴォ解放軍が解放した」とKLAが宣言。戦闘での死者は、ほとんどがユーゴ軍兵士だとコソヴォ解放軍は説明。
・アルバニアの北部の都市シュコドラで、コソヴォ難民の男性の運転する車が警官の制服を着た男に止められ、車を置いていくよう要求されたが、難民の男性が拒否すると射殺される。
・キプロスのキプリアヌ大統領代行はベオグラード入りし、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と、拘束されている米兵3人の解放問題を協議したが何らの成果を得ることなく不調に終わる。キプリアヌ大統領代行は報道陣に対し、「暴力と爆弾によっては事態は解決しない。それなのに、私がベオグラードに来たこの2日間、空爆は逆にその度合いを増した」と述べて空爆を続けるNATO軍を非難。
・イタリアのダレーマ政権はNATO軍の空爆の基地は提供しているものの、憲法上の問題があるため空軍機は直接の攻撃に参加していない。しかし、閣内の共産主義者党・PDCIと緑の党からコソヴォ危機への対応に異論が出ており、亀裂が起こり始めている。PDCIのディリベルト法相は、軍が攻撃に直接関与すれば辞任すると発言。同党のコスタ委員長は「国連安保理の主導の下に国連平和維持部隊を投入すべきだ」と主張し、パリ、モスクワ、ベオグラードを訪問して独自の外交を展開している。緑の党も、「武力ではバルカンの民族紛争は解決しない」と主張してダレーマ首相に圧力をかけている。
・アナン国連事務総長はユーゴ連邦政府に対し、「1,コソヴォの住民への脅威および強制退去の即時停止。2,コソヴォ自治州からの連邦軍や治安部隊の戦闘停止並びに撤退。3,全ての難民と避難民の無条件帰還。4,安全な難民帰還と人道援助を保障するための国際的部隊のコソヴォ内駐留。5,これらの遵守についての国際社会による検証」などを受け入れるよう呼びかける声明を発表。
04/10:
・NATOは、コソヴォ地域でのユーゴ連邦軍、治安部隊の活動が目立って鈍くなっている、との見方を示す。
・ダレーマ伊首相は、ロシアのエリツィン大統領およびプリマコフ首相とコソヴォ問題の解決策について、電話で相次いで会談。
・マケドニア共和国はコソヴォ自治州との国境を閉鎖したが、南部ウロシェヴァツから列車でマケドニア側に新に81人の難民が到着。
・パンデリ・マイコ・アルバニア首相は、ティラナの首相府で朝日新聞記者と会見し、自国に入って来るコソヴォ難民を全て国内に収容させる方針を述べる。
04/11:
・NATO軍は、ユーゴ連邦治安当局が兵員不足と燃料不足で機動力の弱体化が進行しつつあるが、これはNATO軍の空爆の効果によるものなので、さらに700機態勢でユーゴスラヴィアへの圧力を強めるとの方針を明らかにする。
・英サンデー・タイムズ紙は、NATO軍の空爆が続く中、コソヴォ解放軍とセルビア治安部隊との戦闘は激しく行なわれており、村々は炎上している。しかし、避難民・難民が話すような、村々で数千人の犠牲者が出ている様子は見られなかった、と報じる。
・アルバニアの主要紙「シュカル」は、コソヴォ解放軍・KLAとユーゴ連邦の部隊との間で大規模な戦闘があり、100人以上が死亡した、と報じる。
・アルバニア政府は、ユーゴスラヴィア軍がアルバニア側の村落に対し砲撃を加え、住民4人が死亡し、10人余りが負傷したことに対して、「アルバニアの主権への重大な侵害だ」とユーゴ連邦政府を激しく非難する。
・セルビア国営テレビは、ユーゴスラヴィアとクロアチアの国境付近で拘束したオーストラリアの援助団体「CAREオーストラリア」のユーゴ現地事務所職員は、「NATO軍のユーゴ空爆の効果を計るスパイ活動に従事していたことを認めた」として、職員の映像を放映。
・英国で、ユーゴスラヴィアの空爆に対し、「バルカンの平和ための委員会」が「空爆を直ちに止め、話し合いによる解決を図るべきだ」とのスローガンを掲げ、2000人のデモを組織してロンドンの中心部を行進する。
・イタリアのアビアーノNATO空軍基地では、共産党など左派系の若者たち1000人が集まり、空爆を批判するスローガンを掲げてデモを行なう。
・日本外務省の秋元義孝東欧課長は、コソヴォの難民支援に向けた調査のために、アルバニアのティラナを訪問。
・ユーゴスラヴィアの反ミロシェヴィチ大統領派の日刊紙「ドネブニ・テレグラフ」のスラブコ・チュルビヤ社主が自宅前で覆面の2人組の男に射殺される。
・セルビア当局は、コソヴォ自治州とアルバニアのモリーナに至る国境検問所を再開し、アルバニア系住民7600人がアルバニアに脱出する。
04/12:
・ベオグラード発ギリシアのテッサロニキ行きの国際旅客列車がグルデリツァ駅南の橋にさしかかったところ、鉄橋の破壊を狙ったNATO軍のミサイルが列車を直撃して2両目の車輌が大破し、3輌目も脱線して炎上。55人が死亡する。
・NATO軍は、ユーゴ南部のグルデリツァのモラバ川にかかる鉄橋を空爆したことに対し、「現場付近の鉄道橋を空爆した。詳細は調査中だが、死傷者が出たかも知れない」と述べ、「この橋はユーゴ連邦軍への補給路のため、攻撃対象にした」と説明。
・NATOは緊急外相理事会を開き、ユーゴ連邦軍によるアルバニアへの越境砲撃に対して強く警告を発する。NATO軍はアルバニアの難民救援活動を支えるために、8000人規模の兵力を投入し始め、同国の空港や港などの運用はNATO軍が実施。またNATO軍は空爆停止の5条件を提示。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、NATO軍の空爆によりコソヴォ自治州のプリシュティナ郊外で乗用車に乗っていた5人が死亡。ベオグラード郊外のパンチェヴォにある石油精製所が爆撃で炎上。またベオグラード郊外の空軍基地も爆撃される。北部のノヴィ・サドでも被害が出る。
・NATO軍機は毎夜ベオグラードに飛来して空爆を続け、対空砲も夜通し砲撃を続ける。
・クラークNATO欧州軍最高司令官は、ユーゴスラヴィア空爆のための航空機をさらに300機増やし、1000機態勢にするよう米国に要請。
・朝日新聞によると、米国防総省はF117ステルス戦闘機が撃墜されたことについて、ユーゴ連邦軍のSA3地対空ミサイルに撃墜されたという極秘報告をまとめる。
・日本政府は、コソヴォ自治州の難民支援のために自衛隊の医官や国立病院の医師らを派遣する検討に入る。
・オーストラリアのダイナー外相は、ユーゴ連邦のドラゴロヴィチ駐豪大使に対し、オーストラリアのスティーブ・ブラットは「難民援助活動に従事しているだけで、スパイ容疑は事実無根だ。即時釈放すべきだ」と伝える。
・アナン国連事務総長は訪問先のマドリードで記者団に、コソヴォ自治州からのユーゴ連邦軍・民兵組織の撤退や難民の無条件帰還など5項目提案について、ユーゴスラヴィアからは何の反応もないが、ユーゴ当局が5項目を実行すればNATO軍に空爆を停止するよう要請することを明らかにする、と述べる。
・国連安保理は、アナン国連事務総長がユーゴ連邦当局に求めたコソヴォ自治州での軍事活動の停止や、難民帰還の安全確保するための国際部隊受け入れなどの5項目提案に対し、歓迎する声明を発表。
・リシャール仏国防相はコソヴォへの駐留国際部隊について、「NATO軍が直接指揮しないことも十分考えられる」と発言。
・ロシアとベラルーシの人道支援物資の輸送団70台の車輌が、ハンガリー国境で2日間足止めされる。エリツィン露大統領は急遽ショイグ非常事態相をブダペストに派遣して協議した結果、条件付きでの通過に合意。8台が燃料を積んでいるほか、31台が軍事転用可能な物資を積載していたことによる。
・ルービン米国務省報道官は、NATO軍のユーゴ空爆停止の条件の1つに上げているコソヴォからのユーゴの治安部隊の撤退について、「主力部分が撤退すべきだ」と述べ、オルブライト米国務長官は、「撤退すべき人数は特定しない。そこは現実的で柔軟にならなければならない」と語ったことを受けてメディアに補足説明をする。
・クリントン米大統領は、「NATO軍がそのうち息切れして空爆を止めるだろうと、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が思っているなら、幻想以外の何ものでもない。我々は勝つまで作戦を続ける」と強調。
・ロシアは国連総会の「国連憲章と国連の役割強化に関する特別委員会」に決議案を提出。決議案は、「国際の平和と安全の維持に対する主要な責任が安保理にあることを確認し、武力行使は安保理の決定か、または個別的、集団的自衛権の権利に基づく場合に限って認められる」という内容。国連総会の決議は拘束力を持たないが、ある程度の制約は受けることになる。また、安保理決議のない武力行使の是非をめぐる法的見解について、国際司法裁判所・ICJに勧告的意見も要請する。
・コソヴォからの難民300人が、ウロシェヴァツから列車に乗せられマケドニアに到着。難民は、「私たちは2度、故郷を追われた」と証言。ある住民は、人口8万人の町に残っている住民は2000人だけだと語る。難民の話では、幹線道路には対戦車地雷が敷設されているという。
・イタリアのアドリア海側のアンコーナ港で、コソヴォ難民向けの援助物資を積んだ3台のトラックの内、2台の嵩上げした荷台の中から密輸の武器が発見される。武器の内訳;「手榴弾3000個、迫撃砲11台、対人地雷13個、擲弾筒6台、バズーカ砲42台、計30トン」。トラックはボスニアのサラエヴォにあるカトリック系非政府組織・NGOが準備し、物資はアルバニア系住民が用意。行き先はアルバニア北部のシュコダルで、別のカトリック系NGOのアルバニア人神父を受取人に指定している。
註;イタリア・アンコーナ港の財務警察によると、武器密輸は年間5件程度摘発している。コソヴォ解放軍・KLAは欧米諸国に武器供与を要請しているが、欧米諸国はゲリラ戦術の訓練強化は進めているものの直接の武器供与には二の足を踏んでいるので、密輸という形をとらざるを得ない。
04/13:
・オルブライト米国務長官とイワノフ・ロシア外相がオスロで会談。オルブライト米国務長官は、「1,現在の危機は、ユーゴスラヴィアのミロシェヴィチ政権の民族浄化など非人道的な強硬策に起因している。2,人道上の立場から、もはや『主権国家の権利尊重』などと放置しておける状態ではない」と主張。イワノフ露外相は、「1,NATO軍の空爆が危機を招いた。2,ユーゴスラヴィアは主権国家で、国際部隊のコソヴォへの展開は、ユーゴ連邦の同意が不可欠だ」との認識を示す。結局両外相は、「1,コソヴォからのユーゴ連邦部隊の撤退。2,難民のコソヴォへの無条件帰還」などの必要性で合意したのみ。
・ロシア政府は、国連総会の特別委員会に、国連安保理の承認がなければ武力行使をしてはならないとする原則を確認する決議案を提出。
・クラークNATO欧州軍最高司令官は、NATO軍がユーゴ空爆で列車を爆撃したことについて、誤爆したことを認めて謝罪する。
・NATO軍は、12日に国際列車を爆撃した際のミサイルの先端に装着されたビデオカメラの映像を公開。それによると橋の破壊を狙った1発目は列車に気が付いたときには遅すぎた。戦闘機が旋回して発射した2発目も列車に命中した。
・ジョスパン仏首相は国民議会で、コソヴォ自治州情勢をめぐりNATO軍などで議論されている国際部隊のコソヴォ駐留には、国連安保理の国連憲章第7章に基づく決議が必要だとの判断を示す。
・ブレア英首相は議会で、ギリシアとマケドニアに新たに1800人の部隊を派遣すると発表。英軍は既に、コソヴォ難民の安全帰還を確保するために4500人を駐留させている。
・クリントン米大統領は、ユーゴ空爆で膨れあがった戦費を緊急に追加調達する必要が出てきたとして、「30億ドルから40億ドル」程度の補正予算を議会に提出する意向を明らかにする。米議会ではユーゴ空爆に続く地上部隊派遣の是非をめぐって、激論が展開されている。民主党は慎重姿勢を示しているのに対し、共和党は地上軍派遣に積極姿勢を示している。
・国連人権委員会は、イスラム諸国会議機構を代表してパキスタンから提出されたコソヴォ問題でのセルビア非難決議案を、賛成40、反対1,棄権6で可決。
・オーストラリアのダウナー外相は、ユーゴスラヴィア政府が「ケア・オーストラリア」の職員2人を、スパイ容疑で起訴したことを明らかにする。
・アルバニアからの報道によると、ユーゴ連邦軍の部隊がコソヴォ解放軍を追って越境し、アルバニア北東部のカマニツァ村に侵入。複数の家が焼かれ、アルバニア側の治安部隊との間に銃撃戦が起こる。ユーゴ連邦軍部隊は同日中に引き上げる。
・ドイツのシャーピング国防相は、「NATO軍を地上戦に巻き込むための挑発ではなく、コソヴォ解放軍への攻撃がエスカレートしたものだろう」と述べる。
・オルブライト米国務長官は、「ユーゴ側が紛争をアルバニアに拡大すれば、深刻な結果を招く」と警告。
・朝日新聞は、アルバニア系難民の話として、ユーゴ連邦軍がコソヴォ自治州からアルバニアに至る幹線道路に対戦車地雷を埋設している、と報じる。NATO地上軍の侵攻に備えるためのものと見られる。
04/14:
・EUはアナン国連事務総長の参加を要請して特別首脳会議、コソヴォ・サミットを開催。議長国のドイツは、コソヴォ解決へ向けての新提案を行なう。要旨;「1,国連決議によって、ユーゴの治安部隊をコソヴォから撤収させる期限を設定する。2,撤収が始まればNATO軍は空爆を24時間中断し、一定期間に撤収が完了すれば空爆を終了する。3,コソヴォ解放軍・KLAは、国連決議に基づく平和維持軍の展開まで活動を止め、その後武装解除する。4,国連の権威下で過渡的行政機関を設立し、難民の帰還を進める」というもの。ドイツの提案は和平提案の部隊にロシアを引き込むことで、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の譲歩を引き出すことにある。
・ブレア英首相は、「どんな政治解決も、NATOが示した5条件を満たしていなければならない。コソヴォに展開する国際兵力は、NATO軍の指揮下に置くべきだ」とNATO軍主導の解決を主張。
・EUは、空爆終了後のコソヴォの処遇について、「1,暫定的な行政機構の運営をEUが引き受ける用意がある。2,新設する警察組織にはコソヴォ住民の構成比を反映させる。3,自由で公正な選挙を実施する。4.コソヴォ自治州の全住民を護る国際兵力を展開する」などで一致。即ち、国連コソヴォ暫定行政支援団・UNMIKの中心的役割を担うことを示唆。
・ユーゴ連邦軍当局者は、コソヴォ自治州南西部ジャコヴィツァの道路をアルバニア系住民が避難中に、NATO軍のミサイル攻撃を受け避難民70人が死亡し、31人が負傷したと発表。
・英ロイター通信によると、コソヴォ自治州のズルゼとメヤの2つの村にNATO軍の攻撃が行なわれ、メヤ村では輸送中の避難民64人が死亡し、警備に当たっていたセルビア人警官3人を含む20人が負傷。ズルゼ村では6人が死亡、11人が負傷。
・NATO軍は、コソヴォ自治州で避難するアルバニア系避難民を空爆したとの非難に対し、「パイロットによると、攻撃したのは軍用車輌のみだ」との声明を発表。のちに、これはパイロットの誤認だったことが明らかとなる。
・ブレア英首相は、記者会見で「ユーゴ当局の言い分を頭から信じるわけには行かない」と語る。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、NATO軍がアルバニア系避難民をジャコヴィツァ近郊で空爆した詳細を伝える。空爆は、3回にわたりミサイルと爆弾が投下され、現場からの映像によるとトラクターや馬車が破壊され遺体が散乱し、死者は少なくとも64人に及び、20人が負傷している。爆撃されたアルバニア系住民は、難民となってアルバニアに逃げていたが、この日ユーゴスラヴィア側に戻る途中だったという。
・シャーピング独国防相はNATO軍からの情報として、「全ての情報が示しているのは、避難民を攻撃したのはセルビア側の砲撃であり、それをNATO軍のせいに仕立てようとしているということだ」とテレビのインタビューで述べる。
・NATO軍機はベオグラード市内にある兵舎を爆撃。兵舎周辺一帯は停電となる。ベオグラード市内の停電は初めて。
・ルカシェンコ・ベラルーシ大統領はユーゴスラヴィアを訪れ、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。ルカシェンコ大統領は会談後の記者会見で、「ミロシェヴィチ大統領は、ユーゴ空爆に参加している国とは無関係の国連や国際組織の民間の監視団をコソヴォへ入れる用意があり、その監視団は非武装が条件であることを強調した」と述べる。
・ロックハート米大統領報道官は、ユーゴ連邦軍がコソヴォから撤退し始めればNATO軍の空爆を一時中断するとのドイツの提案について、「建設的な取り組みだ」と評価しながらも、「重要なのは、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領がまずNATOの示した条件を呑むことだ」とNATOの条件が満たされない限り、一時的にせよ空爆の停止はあり得ない、との立場を強調。
・エリツィン露大統領は、ユーゴ問題解決のための大統領特使にチェルノムイルジン元首相を任命。
・ユーゴスラヴィアのベオグラードでは、空爆の長期化による市民の不満が高まっており、ミリシェヴィチ大統領を批判する落書きが200以上に上っている。
・スイス外務省は、米国とフランスから「スイスがユーゴ連邦における両国の利益保護国になってほしい」との要請があったことを明らかにする。ユーゴ連邦当局に米国人3人が拘束されているが、彼らの権利保護にスイスが擁護の役割を果たしてほしいというもの。
・日本政府は、コソヴォ自治州からマケドニア、アルバニアなどに流入している大量の難民に対する医療などの人道支援と無償資金協力を柱とする支援策を検討。
・国連安保理で、オーストラリアのNGO援助職員がユーゴ連邦当局にスパイ容疑で起訴されている問題を協議。米国やカナダなどが「安保理として即時釈放を要求すべきだ」と主張したが、ロシアが、「スパイかどうなのか、もっと情報が必要だ」と反対。
・イタリア軍の戦闘機4機が、ユーゴ連邦軍の軍事拠点を爆撃。ダレーマ伊首相は、「ユーゴ連邦軍がアルバニアやマケドニアに越境したため、両国に展開するイタリア軍部隊や人道援助団体を守る責任上、軍事基地を爆撃した」と苦しい弁明をする。
註;イタリアの憲法は、「国際紛争を解決する手段としての戦争を否認する」と謳っており、またイタリアの上下院はNATO軍のユーゴ空爆に際し、後方支援に限定すると決議している。しかし、結局イタリア政府は、NATO軍の攻撃的雰囲気に引き込まれて戦闘行為に加わることになった。
・ドイツ在住のアルバニア系志願兵は、コソヴォ解放軍に参加するためアルバニアのデュラス港に到着し、ユーゴスラヴィアに入る。
註;欧米在住のアルバニア系は、コソヴォ紛争の軍事経費として収入の3%を納めることになっており、これが志願兵送り出しやコソヴォ解放軍の活動資金となっている。資金を管理していたのは「コソヴォ共和国」のブコシ首相である。後にコソヴォ解放軍が主導権を掌握し、解放軍のタチ政治局長がコソヴォ暫定政府首相に就任すると、タチが資金管理者になる。アルバニア系志願兵は、ユーゴスラヴィア国境に近いアルバニア北部のトロポヤやクルマ周辺にある訓練所で武器を受け取り、戦闘訓練を受けた後、小グループでコソヴォ自治州に潜入する。マケドニアの首都スコピエ北方30キロの国境の村で、対戦車地雷や重機関銃、迫撃砲などの武器が大量に発見されている。
04/15:
・NATO軍は、コソヴォ自治州南西部で多数のアルバニア系避難民が空爆によって死亡した事件で、「NATO軍機が14日爆弾1個を車列中の民間人の車に誤って落としたようだ。これによる死者は確認できない」との声明を発表し、誤爆を認める。シェイNATO報道官は、「悲劇的な事故で住民の命が失われたことは非常に残念だ。しかし、作戦を一つの事故で止めるわけには行かない。コソヴォ難民も作戦続行を望んでいる」と強調。
・コーエン米国防長官は上院軍事委員会の公聴会で、NATO軍による難民誤爆について遺憾の意を表明し、「様々な施設を攻撃していた約2時間の作戦中に起きた。その過程で、パイロットはユーゴスラヴィア軍から対空砲や地対空ミサイルの攻撃を受けた。事件はこのような異常な事態の中で起きたことを考慮しなければならない」と強調。
・NATO軍はベオグラード郊外のパンチェヴォの石油精製施設を空爆。またヴォイヴォディナ自治州の州都ノヴィ・サドの連施設も空爆する。
・ユーゴ連邦外務省は記者会見で、NATO軍の空爆でこれまで一般市民500人が死亡し、4000人が負傷したことを明らかにする。空爆被害は;「1,橋17ヵ所の内全壊8、一部損壊9。2,飛行場7ヵ所。3,工業施設31ヵ所。4,石油精製・貯蔵所13ヵ所。5,病院14ヵ所。6,学校150校。7,発電所4ヵ所。8,テレビ送信所12ヵ所。9,教会15ヵ所」など大きな被害が出ており、50万人が失業状態になっていることなどを発表。
・米国防総省当局者は、「ユーゴ空爆を強化するために、新に3万人前後の予備役と州兵を召集するよう、クリントン大統領に求めることを検討している」と述べ、「最大で3万3000人になる可能性もある」と語る。
・クリントン米大統領はユーゴ空爆後のバルカン諸国の将来ビジョンについて包括的な演説を行なう。要旨;「ユーゴスラヴィアを民主体制にする。ユーゴスラヴィアの民主化は、好戦的な専制国家の下では定着しない。コソヴォ自治州の独立は最善の解決策ではない。ユーゴ連邦やボスニア、クロアチア、マケドニアなどの諸国が民主的な多民族国家群として、国境の開放された新しい欧州の中に統合されていく。マーシャル・プランを参考に、EUや国際金融機関とも協力し、投資や、財政支援の計画をつくり、長期の戦後復興計画を具体化しなければならない」というもの。また、クリントン米大統領はNATO軍が14日にアルバニア系住民の避難民を爆撃して64人を死亡させた事件について、「高速で飛ぶ航空機が最善の任務を果たそうとすれば、避けられないことだ」と述べる。
・ブレア英首相は誤爆に関連して、「この紛争で住民に降りかかる災難は、すべてミロシェヴィチの責任」と力説。
・国連安保理は、NATO軍の誤爆について「悲劇的な事件を遺憾とする」との声明を発表。
・ユーゴ連邦外務省のブヨヴィチ報道官は記者会見で、ドイツが提案した和平案について、ユーゴ連邦政府が協議に応じる考えはないと述べ、「国際的な軍や警察などを受け入れることは絶対にない。NATO加盟国以外で構成する国際文民監視団であれば考慮出来る」とNATO軍の平和維持部隊の受け入れを拒否。
・ユーゴ連邦軍は、アルバニア北部のモリーナ国境付近のコソヴォ解放軍の拠点に、凡そ10発の迫撃砲弾を撃ち込む。アルバニア国境警察によると、1発が民家の直ぐ近くに落ちたが被害は出なかったという。
・コソヴォ自治州から避難してきたアルバニア系難民6000人がマケドニアに流入する。
・ロシア国営イタル・タス通信によると、フィッシャー・ドイツ外相は、チェルノムイルジン・ロシア大統領特使に、コソヴォ問題の和平について協議するためにボンを訪問するよう要請。
・高村日外相は衆院ガイドライン特別委員会で、コソヴォ難民が流入しているマケドニアやアルバニアを訪問し、難民支援資金協力などについて話し合う予定であることを明らかにする。
04/16:
・ユーゴ連邦政府は、4月9日に出された国連事務総長の5項目提案を拒否する。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、NATO軍のミサイルがベオグラードの南150キロにあるパラチン難民収容所に複数撃ち込まれたと伝える。収容所にはクロアチアとボスニアからの難民が収容されているが、防空壕に避難していたため死傷者は出ていない。
・UNHCRは、コソヴォ自治州でユーゴスラヴィア側によるアルバニア系住民の追い出し作戦が再び激しくなり、15日夜から16日未明にかけて、アルバニア、マケドニア共和国、モンテネグロ共和国などに1万2000人が流出している、と発表。UNHCRによると、近隣諸国に流出したコソヴォ難民はおよそ55万人で、アルバニアに31万人、マケドニアに12万人、モンテネグロに6万7000人、ボスニアに2万8000人、その他の国への難民2万人などとなっている。
・ロシア国営イタル・タス通信によると、ドイツのフィッシャー外相は、チェルノムイルジン露大統領特使にボンを訪問するよう要請。
・ノルウェーのアフテンポステン紙が掲載した世論調査によると、空爆支持が59%、反対23%、空爆開始後の54%を上回る。「ユーゴ連邦の譲歩までの貫徹」は67%。
・ベルギーのルソワール紙の世論調査では、空爆支持64%、反対20%。
・米国のギャラップ社の世論調査によると、NATO軍が空爆を開始した24日の時点ではNATO軍の空爆賛成50%、反対40%だったのが、4月の13日の時点では、空爆支持61%、反対35%と支持が上昇を続けている。
・英ガーディアン紙は社説で、「いま正しいのは、攻撃を続け、政治解決の機会を探り、次の動きに備えることだ。避難民の大量死でNATO軍が責められるとすれば、空軍力だけの攻撃では不十分という点だけだ」と主張。
・フランスの左翼系リベラシオン紙は社説で、「誤爆で2つの問題が浮上する。地上軍論議の加速と、空爆の効果がはっきりしないまま、住民が殺される半戦争状態が続くことで、国民がうんざりしないか」と記述。保守系のフィガロ紙は、「きれいな戦争はない。誤爆のあった昨日から本当の戦争が始まったのだ」と論じる。
・NATO軍報道官は、コソヴォ自治州南西部で起きた誤爆事故について、「誤爆したのはトラクターのようだ」と述べる。シェイ報道官は、「多数を救うために、少数を危険に晒すことはある」と誤爆に理解を求める。
・ロバートソン英国防相はハーバード大学で講演し、「ユーゴ連邦軍がコソヴォから撤退した際に、NATO軍の地上軍が直ちに必要になる。空爆が我々の要求を満たすと信じている。しかし、同時に、地上軍の展開計画を検討しておく必要がある」と語る。
・コソヴォ自治州のアルバニア系住民の穏健派政治指導者ルゴヴァは、ミルティノヴィチ・セルビア大統領ら政府要人と公開の場で会談。NATO軍による空爆の即時停止で合意する。
・朝日新聞は、NATO軍の「コソヴォ・ユーゴ空爆」について、「ペスト、それともコレラ」というドイツの国内議論の状態を照会。それによると「半世紀前、ドイツは他民族に酷いことをした。自分たちはそれを深く反省している。それと同じような悲劇が今コソヴォで行なわれている。かつてのナチス・ドイツによるユダヤ人迫害は許し難いことだ。同様にコソヴォ問題を黙ってみていると、心がひりひり痛む。空爆をしなければ悲劇を見過ごしたくなる」、という論評を掲載し、恰もナチス・ドイツのジェノサイドとコソヴォで起こっていることとを同列に並べて、NATOの空爆を肯定する論調の社説を掲載。
04/17:
・NATOのシェイ報道官は、「コソヴォ難民の証言を総合した数字として、コソヴォ自治州で殺されたアルバニア人は過去3週間で3200人に上る」との見方を示す。
・欧州委員会のドルシギ委員は、コソヴォからの難民や周辺国への支援のため、EUが7億8000万ユーロ(1000億円)の援助を実施すると発表。支援は、EUと加盟国がそれぞれ行ない、難民への人道援助に加え、難民流入が著しいマケドニアやアルバニアなど周辺国にも回す。
・アルバニアのティラナ空港に米国からのチャーター機が到着し、米国在住のアルバニア人志願兵第1陣100人が降り立つ。いずれも米国でコソヴォ解放軍に志願した者たちで、欧州からは既に1万人がティラナ入りしている。
04/18:
・アルバニア外務省は、ユーゴ連邦政府と国交断絶したと発表。
・NATO軍機は、ベオグラード郊外のパンチェヴォの製油所や化学工場などを激しく爆撃。ベオグラード北部のバタイニツァでは空爆により、3歳の子どもが死亡し、5人が負傷。ベオグラード市民のミラン・ビシッチは、NATO軍の空爆を見て、第2次大戦中の米軍によるベオグラード空爆を思い出したという。その空爆の目的はナチス・ドイツへの爆撃だったが、結果的にはベオグラード市民1000人が死亡した。
・NATO軍のシェイ報道官は、米陸軍の対戦車攻撃ヘリコプターAH64の第1陣がアルバニアに数日中に配備される、と述べる。配備されるのは24機で、多連装ロケットシステム・MLRSが18基と約2000人の支援部隊も配備される。アルバニア国境付近ではユーゴ連邦軍とコソヴォ解放軍・KLAが交戦中だが、米対戦車ヘリはアルバニア国境地帯を拠点にして、コソヴォのユーゴ連邦軍を攻撃することになる。また、米国はコソヴォ解放軍に衛星電話を提供し、NATO軍や米国務省とコソヴォ解放軍とは頻繁に連絡を取り合い、情報を交換している。
・クリントン米大統領は英サンデー・タイムズ紙に、「好戦的な専制君主がいる限り、地域の安全はない」とミロシェヴィチ政権打倒を主張するメッセージを寄稿。
・英サンデー・タイムズ紙は、「軍当局者は、今週のワシントンでのNATO首脳会議で地上軍投入が検討されるよう望んでいる」と記述。
・OSCEスポークスマンによると、アルバニア国境のモリーナ検問所近くのコソヴォ自治州の道路で、アルバニア系避難民を乗せた車が地雷に触れて爆発炎上。
註;UNHCRによると、アルバニアにコソヴォ自治州から流入した難民は、この日までに35万9000人と推定されている。この内7万人が一般家庭に引き取られている。アルバニアの人口は370万人で、一人当たりの国民総生産は750ドル(9万円)ほどしかなく、欧州最貧国の1つ。アルバニアの玄関港であるデュラスには、救援物資を積んだトラックが船で世界各地から運ばれてくるが、小麦、油、砂糖などの大量の救援物資は難民に届かず、横流しされているとの指摘があり、店舗や露店には救援物資とおぼしき商品が並べられている。
04/19:
・米ニューズ・ウィーク誌は、NATO軍関係者は、コソヴォ紛争に地上軍の派遣を考え始めた、と伝える。シラク仏大統領も23日から開かれるNATO発足50周年の首脳会議で、地上軍の派遣について協議するよう呼びかけることを検討していると述べる。
・米軍は本土から空挺部隊をアルバニアのティラナの基地に続々と送り込む。国防総省は、米陸軍の対戦車ヘリコプター・アパッチ24機を、イタリアの基地から20日にアルバニアのティラナに配備すると発表。これに伴い空挺部隊2600人の支援部隊が現地入りする。
・クリントン米大統領は、ユーゴ空爆やコソヴォ難民救援のため、60億ドルの緊急支出を議会に要請。内訳は、空爆関係が55億ドル、4億ドルが人道援助に、1億5000万ドルを周辺国支援に支出。
・米政府は、ユーゴスラヴィアへの石油輸入を妨げるため、海上封鎖の検討を始めるようNATOに提案。
・フランスは、安保理決議がないまま船舶の臨検をするのは法的根拠がなく、また海上封鎖は軍事への影響より市民への影響が多いと指摘して米提案に反対する。
・英ブレア政権は議会で、コソヴォ自治州の地位について、「1,アルバニア系住民にコソヴォ自治州を返還する。2,民主制度が確立されるまで、国際管理下に置くべき」との考えを示す。アルバニア系住民の独立容認に傾いた、と見られる。
・NATO軍は、コソヴォ西部のジャコヴィツァ近くで、14日に起きた避難民への誤爆事故の調査結果を発表し、軍用車とトラクターが混在する100台の車列に誤爆した可能性を初めて認める。リーフ司令官は、「1,14日午後1時過ぎにジャコヴィツァ北西で数台の車列を攻撃したが、これは確実に軍用車だった。2,同午後2時過ぎに、ジャコヴィツァの東南東の道路で100台以上の車列を発見し、先頭にいた20台の軍用車と見られる車を数次にわたり攻撃。3,基地からユーゴ連邦軍はそれほど長い車列はつくらないと指摘され、攻撃を中止した。4,この車列にはトラクターなどが混在していた可能性があり、避難民に死者が出たかも知れない」と述べる。
・ユーゴ連邦軍の第3陸軍のパブコヴィチ将軍は、「コソヴォ内は15万人が武装しており、NATO軍が地上軍を派遣すれば多大な犠牲が出るだろう」と警告。
・エリツィン露大統領は、「われわれは米国とユーゴスラヴィアを仲介する用意がある」と述べ、クリントン米大統領と電話でユーゴスラヴィア情勢の打開について協議。政治的解決に向けて、NATO軍が直ちにユーゴスラヴィアへの軍事行動を停止する必要を改めて指摘。また、エリツィン露大統領は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に帰還難民保護などのための多国籍平和維持部隊を受け入れるよう強く求める。ユーゴスラヴィア側が求めているロシア・ベラルーシ連邦の参加については、「拙速は利益にはならない」と慎重な姿勢を示す。
・NATO高官は、23日から開かれるNATO創設50周年首脳会議にエリツィン露大統領を招待したが断ってきたと発表。
・ユーゴ連邦軍は、モンテネグロ共和国のキリバルダ副首相に対し逮捕状を用意。容疑は、キリバルダ副首相が、「モンテネグロ人をコソヴォに送るべきではない」と発言したことが、戦時下では連邦軍が全権を持つと定める法律に違反した、というもの。
・アナン国連事務総長は安保理に対し、NATO軍のユーゴ空爆をめぐり分裂している安保理の結束を呼びかけるとともに、「国連が重大な役割を果たすべきだ」と訴える。さらに、NATO軍とユーゴ連邦との調停の可能性を探るために、26日からドイツとロシアを訪問する意向を伝える。またコソヴォ問題の事務総長特使を近く任命する方針をも表明。
・マケドニア北部のステンコバッチの難民キャンプの子ども達は、仮設の学校で授業を受けている。
04/20:
・英タイムズ紙は、「ユーゴ・コソヴォ空爆」で、NATO軍はユーゴ連邦軍と戦闘中のコソヴォ解放軍・KLAから、ユーゴ連邦軍の戦車や大砲の位置、難民の動きなどさまざまな現地情報を衛星電話を通じて得ている、と報じる。
註;NATO軍は、「コソヴォ解放軍の空軍」の役割を担うことを懸念し、コソヴォの戦闘現場から送られてくる情報は、一旦マケドニアの西側外交官に届けられ、これがNATO側に伝えられるという手順を踏んでいる。
・ロシア正教会のアレクシーⅡ世総主教は、ユーゴスラヴィアを訪問し、ベオグラード市内にあるサバ教会でセルビア正教会とともに、NATO軍による空爆に反対する「合同ミサ」を開く。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は、アレクシーⅡ世総主教との会談で、「できるだけ早い和平達成に向け、ロシアが貢献することになる」と述べる。
・中国外務省の孫玉璽副報道局長は記者会見で、コソヴォ紛争に対するNATO軍の空爆が続いていることについて、「NATO軍が国連安保理での議論を回避し、主権国家であるユーゴスラヴィアへの軍事干渉を続けていることは、国連憲章と国際法の基準に著しく違反している」と述べ国連の場での解決を求める。
・ユーゴ連邦軍は、モンテネグロ共和国が連邦政府の戦時体制を認めず、ビザを持たない外国人の入国も受け入れていたクロアチアとモンテネグロの国境に部隊を派遣して封鎖する。連邦軍は国境地帯を管理していたモンテネグロ警察に検問所から離れるように命じたが、応じないために、連邦軍はさらに内側に検問所を設けて出入りを禁じる。
・クロアチア国営通信HINAによると、ユーゴスラヴィア軍兵士300人が、モンテネグロ共和国とクロアチア共和国国境の国連監視下にある非武装地帯に侵入。安保理の要請による国連事務局の調査によると、非武装地帯にユーゴスラヴィア兵20名が侵入して検問所を設け、地元ナンバーの車輌以外の通行を強制的に阻止しているため、UNHCRの車輌も通行ができなかったことが明らかとなる。
・オルブライト米国務長官、コーエン米国防長官、バーガー米大統領補佐官の3人が記者会見で、米政府は23日のNATO首脳会議でユーゴスラヴィアに石油禁輸を中心とする経済制裁措置を科すよう加盟国に働きかける方針を決める、と述べる。コーエン米国防長官は、「空爆で石油の精製能力を奪い、燃料の補給を断つ一方で、石油の輸入を黙認しているのは一貫性を欠いている」と強調。NATO軍はこれまでの空爆で、全ての精油機能を破壊し、石油貯蔵施設の70%に打撃を与えている。
・バーガー米大統領補佐官はNATOの首脳会議の目的として、「1,ユーゴ連邦部隊のコソヴォ撤収、難民帰還を保護する国際部隊の配備など、NATOが設けた目標を再確認する。2,目標を果たす上で、ユーゴスラヴィアに対する軍事、経済、政治的な圧力を強めるというシグナルを出す。3,欧州南東部の安定化のため、緊急、長期両面の再建方針をまとめる」などを挙げる。
・マケイン米共和党大統領候補ら有力議員は、議会に地上部隊派遣を含む「あらゆる必要な兵力や手段を行使する権限」を大統領に与える決議案を提出。
・コーエン米国防長官は、「昨年8,9月に地上軍による越境攻撃の選択肢が検討されたが、空爆で合意した。いまはまだ、見直しは行なわれていない。軍事、政治的な決定が行なわれれば、計画はいつでも直ぐに変更出来る」と語る。
・OSCE報道官によると、ユーゴスラヴィア軍とアルバニア軍が国境付近で7時間にわたって交戦し、アルバニア兵1人が負傷。NATO軍の空爆後、両国が交戦したのは初めて。
04/21:
・EUは大使級会合で、フランスが提案したユーゴスラヴィアの石油輸入阻止策を含む経済制裁の強化策を話し合い、26日の外相級理事会で合意を目指すとしている。ユーゴスラヴィアの石油施設は70%が破壊されたが、タンカーによる輸入は続いている。
・英ガーディアン紙は、ブレア英首相が「政治や世論が受け入れる時間内に、NATO軍が目標を達成しようとするなら、地上部隊による攻撃が唯一の信頼出来る選択肢」とクリントン米大統領に地上軍投入を働きかける、と報じる。
・ブレア英首相は下院で、「ユーゴスラヴィア軍に対し、地上軍を投入するのは、極めて危険な仕事だが、全ての選択肢を検討しておく必要がある」と発言し、NATO首脳会議でクリントン米大統領にコソヴォへの地上軍投入を主張することを強く示唆。またブレア首相は議会で、BBCのジョン・シンプソン記者を名指し、「彼は自分の好むままに問題を提起している。だからこれらの報道は、ユーゴ連邦政府の指示と導きで行なわれている、と我々は言って良い」と攻撃。
・ロシアのインタファクス通信によると、チェルノムイルジン露ユーゴ問題特使は、ベオグラードを22日に訪問すると表明。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、コソヴォ自治州にあるセルビア人難民キャンプがNATO軍の空爆を受け、少なくとも10人が死亡、16人以上が負傷。
・ドイツ政府は、NATO軍の空爆を取材中に行方不明になった独民放テレビSAT1のピット・シュニッツラー記者が、ユーゴスラヴィア当局に拘束されていることが分かったと発表。
・米陸軍の対戦車ヘリコプターのティラナへの配備は、悪天候のためにが遅れていたが、この日6機がティラナ空港に到着する。
・NATO軍は、ベオグラード中心部にある高層ビル「USCEビジネスセンター」を空爆し、セルビア社会党の本部やテレビ・ラジオ4局が炎上して放送不能に陥る。北部ノヴィ・サドの中継施設も爆破され、テレビ中継は全面的に中断する。コソヴォ自治州でもテレビは視聴不能に陥っている。またNATO軍は、電子戦機を上空に飛ばして国営放送を妨害し、代わりにセルビア語のメッセージを空中から中継しようと試みる。さらに、オルブライト米国務長官はVOA放送を通じてセルビア語によるメッセージを読み上げて放送。コソヴォ自治州には「真実を伝える」とのビラを空中から散布。
註;この「USCEビル」への空爆で、ビル内に放送局の施設を持つ民間テレビ4局が中継不能に陥る。最大の民間テレビ局「BK」、ミロシェヴィチ大統領の長女が幹部を務める「コシャバ」、大統領の妻が率いる与党ユーゴ左翼連合系の「ピンク」などの4局。国営の「セルビア放送・RTS」、ベオグラード市営の「スタジオB」、米CNNもこのビルに入っていたが、事前に退去。
・ユーゴ連邦外務省プヨヴィチ報道官は記者会見で、「USCEビジネスセンター」へのNATO軍の空爆について、「テレビ・ラジオ局のほか、100以上の民間企業が入った民間施設への攻撃だ。民主主義や人権の擁護を主張しながら、やっていることは殺害だ」と非難。また、空爆で石油精製施設が炎上し、大気汚染が深刻化し、多数の市民が有毒ガスに曝されていると指摘。空爆による民間施設の被害は20日現在、「橋25ヵ所、崩壊11,一部損壊14。飛行場7ヵ所。工場10ヵ所。石油精製・貯蔵所16ヵ所。病院16ヵ所。学校190ヵ所以上。発電所4ヵ所。テレビ送信所17ヵ所。教会16ヵ所。などで被害額は約100億ドル(1兆2000億円)に達したとの概算を示す。
・地元の通信によると、NATO軍はユーゴスラヴィア北部ヴォイヴォディナ自治州の州都ノヴィ・サドを空爆し、3本の橋や国営テレビの送信所を破壊。これで、ユーゴスラヴィア領域のドナウ川に架かる橋は、全て破壊されたことになる。
・ソラナNATO事務総長はNATO軍司令官に対し、ユーゴスラヴィアへの地上軍投入計画を見直すよう指示。
・ユーゴ政府系「ポリティカ」紙は、大統領や政府を批判したとして、ヴォイヴォディナ自治州のスレムスカ・ミトロビツァ近郊の村民が懲役5ヵ月の有罪判決を受けた、と報じる。
註;ユーゴスラヴィアでは比較的政府批判は自由だったが、戦時体制の緩みを懸念した政府が引き締めを狙って批判に厳しく対処しはじめた。従来はメディアにこのような記事が出ることはほとんどなかった。
04/22:
・NATO軍は、ユーゴスラヴィアの大統領公邸を空爆し、破壊。大統領と家族は不在で無事。
・ロシアのチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使はユーゴスラヴィア訪問を前に、ウクライナとグルジアを訪問してコソヴォ問題について協議。それぞれの国と「1,NATO軍の空爆は問題解決につながらない。2,コソヴォをユーゴスラヴィアから分離しない。3,難民帰還の安全を保証するための条件をつくる」などの点で一致。
・チェルノムイルジン露特使はユーゴスラヴィアを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と協議を行なう。チェルノムイルジン特使はミロシェヴィチ大統領との会談後、国連主導の「国際的なプレゼンスを受け入れるなど6項目で原則的に合意。合意内容;「1,難民と避難民の安全な帰還。2,人道支援の実施。3,コソヴォの将来の自治に関する政治的枠組みつくりの再開。4,ユーゴ国境に集結したNATO部隊の進駐と引き換えにコソヴォに駐留するユーゴの軍・警察部隊を削減する。5,コソヴォ全体を含むユーゴ経済復興への国際的な協力。6,ユーゴスラヴィアと合意の上でロシアが参加する国連主導の国際的なプレゼンスを受け入れる」という6項目。
・クリントン米大統領は、チェルノムイルジン露特使とミロシェヴィチ・ユーゴ大統領との合意について、「本来の意味での国際的な部隊の駐留を認めたのなら、前進だと思う」と一定の評価を示す。
・英ロイター通信は、ブレア英首相とクリントン米大統領とが電話で会談した結果、チェルノムイルジン特使とミロシェヴィチ大統領の6項目合意を拒否することで一致した、と伝える。
・米英両政府は即時にミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の提案を拒絶し、民間施設を標的にする爆撃を強化する。
・オルブライト米国務長官はソラナNATO事務総長の地上軍投入見直し発言について、ソラナの方針を支持する、と語る。
・米ヘリテージ財団の国防専門家で海兵隊出身のアンダーソンは、NATO軍の地上戦投入に必要な兵員などのシミュレーションを発表。それによると、ユーゴスラヴィア全土に派兵する場合は最大50万人。ベオグラード占領15~20万人。コソヴォからのユーゴ軍追放には5万人から7万人、平和維持軍は3万人から4万人が必要と分析。
・エリツィン露大統領はブレア英首相と電話でコソヴォ問題について協議。
・中国のインターネットサイトが行なった調査によると、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に対しては90%が「民族英雄」と見なし、「そこつ者」が6%、「「戦争犯罪人」が2%。コソヴォ空爆に対しては、「短期に終息する」20%、「さらに拡大する」90%。「第3次大戦に発展する可能性」20%。
・米国の中立系世論調査機関「ビュー・リサーチ・センター」の調査によると、「NATO軍のユーゴ・コソヴォ空爆を支持する」は62%、米軍が被害を受けることについて、「非常に心配している」66%。財政負担について「非常に心配」38%。「和平に効果がある」34%、「合意しない方向に向かわせている」53%。「地上軍を投入する必要性」65%。
・ユーゴ連邦政府は、国連人権委員会にNATO軍の空爆被害を報告。報告書を紹介したロビンソン国連人権高等弁務官によると、500人以上の市民が死亡し、4000人以上が負傷、190以上の学校もしくは教育施設が破壊。
・コソヴォ自治州から流出した難民・避難民は、アルバニアに35万9000人、マケドニアに13万2100人、モンテネグロに6万8200人、ボスニアに3万2300人、欧州などへ1万7000人で、総数は60万8600人。
・NATO創設50周年を前に、専門家は次のように語る。
・ロバート・ハンター米前駐NATO大使は、「ユーゴスラヴィアでNATO軍が目的を果たしたとしても、真の問題が残る。NATO軍が将来、欧州の外のどの地域で何処まで危険を冒す用意があるか、という点だ。これは新戦略概念に関わってくる」と語る。
・フレデリック・ボゾ仏国際関係研究所研究員は、NATO軍の「空爆」について次のような分析を発表。「今回のコソヴォ危機で、堅固と思われていたNATO軍のもろさが浮き彫りになった。第1に,死活的利害が関係しない域外の危機で役割を果たすという、正当性の問題。国連との関係も危うくなっている。米国は国連安保理なしでNATO軍による攻撃を進めようとした。仏独などは、例外として認めた。将来は国連決議なしの武力行使は難しくなると感じる。第2に、軍事面で見た効率の問題がある。和平協定が成立し、NATO軍主体の平和執行部隊が展開した95年のボスニア紛争の危機管理と比べ困難だ。新戦略概念の論議は、①集団的防衛の中での米・欧のバランス。②国連決議なしに任務を遂行出来るのかという問題。新たな役割の枠組み。③活動領域をどこまで拡大するのかが中心となろう。欧州では対米依存を批判する意見が噴出している。西欧同盟・WEUを見直す気運が強まり、米欧間の調整をどうするかは重要な争点だ。私はNATOの将来には悲観的だ」と分析。
・セルゲイ・カラガノフ露科学アカデミー欧州研究所副所長は、NATO軍の空爆について次のように分析。「80年代にロシアとNATOの間にできた、協力して欧州と世界の安定を目指そうという合意は、全てNATO側に破られた。第1次東方拡大で損なわれた欧州の安定は、ユーゴスラヴィアへの侵略で完全に破壊された。国連安保理の承認抜きというだけでなく、NATOの責任領域を越えて軍事力を行使するという自らの憲章にも違反している。いつでもNATO軍の攻撃対象になりうるという点で、今後はどの国家も安全とは感じられない。このためNATOに対抗的な同盟の結成が進むだろう。ロシアはNATOとの協力を拒絶し、協力を約した基本文書を無効にすべきだ。だが同時にNATO軍の攻撃的な戦力に対抗するような軍拡は自制しなければならない」と述べる。
04/23:
・NATO加盟19ヵ国は、創設50周年首脳会議をワシントンで開く。
・クリントン米大統領は冒頭の挨拶で、「我々は勝つために戦う。必要な限り空爆を続ける決意を示す」と語る。
・NATO首脳会議は「コソヴォ問題に関する声明」を発表。声明の骨子;「1,コソヴォ危機はNATOが創設時から護り続けてきた民主主義と人権尊重、法の尊重という原則への挑戦である。NATOはミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の圧政、民族浄化を許さず、勝利する決意である。2,NATO軍の軍事行動は、ユーゴ政府の政策に対するもので、セルビア人に対するものではない。ミロシェヴィチ大統領は、『①コソヴォでのすべての軍事行動、暴力、抑圧の停止。②軍、治安部隊の撤退。③国際軍事部隊の駐留。④全難民の無条件で安全な帰還と人道支援機関の支障の無い立ち入り。⑤ランブイエ和平案に基づく政治的枠組み確立に努力するという保証』に同意しなければならない。3,この5条件を受け入れない限り、ユーゴ連邦の軍事機構へのNATO軍の空爆は継続する。4,NATO同盟国は軍事行動を強化する。同盟国はより厳しい対ユーゴ経済制裁、石油製品禁輸措置を取る。軍需物資の輸送を禁止し、首脳会議は各国国防相に対して海上軍事行動の具体策を検討するよう指示する。5,ユーゴ連邦側が5条件を受け入れ、コソヴォから撤退を始めれば、NATO軍は空爆を停止する用意がある。NATO軍は、セルビア軍の撤退、コソヴォの非武装化、難民帰還を保護する国際部隊の展開、およびユーゴ連邦下での自治を可能にするコソヴォ国際暫定統治機構の設置を謳う国連安保理決議を目指す。国連軍事部隊の中核はNATO軍だが、非NATO諸国の貢献も受け入れる。6,ロシアはコソヴォ紛争解決に重要な役割を持つ。ミロシェヴィチ大統領のこれまでの提案は上記の5条件を満たしていない。NATO軍はロシアと建設的に協力していく。7,NATO軍は旧ユーゴ国際戦犯法廷と協力して、コソヴォで戦争犯罪を犯した全責任を追及する。8,NATO軍はユーゴスラヴィアが近隣諸国を脅かすことを許さず、モンテネグロ共和国の民主政権を支持する」。
地上軍投入問題は、英国が選択肢の1つとして打ち出し、ユーゴ連邦側に圧力をかけるよう働きかけていたが、ドイツやギリシャなど多数の加盟国が反対を表明したため合意に至らず。
・NATO首脳会議は、「ワシントン宣言」に調印する。宣言骨子;「半世紀の世界の劇的な変化にもかかわらず、加盟国の共通の価値と安全保障上の利益は変わらない。脅威に対抗するための集団防衛の考えは、NATOの目的の中核であり続ける。欧州と北米の全国民の平和、安定、自由の維持が同盟の基本的目的である」。「民主主義、人権、法の支配に基づいて、我々の国民、領土、自由を護る。現在と将来の危機に対応し、新規加盟の道を開き、欧州と太平洋の安全と安定の促進のために域外の諸国との協力を強化する。21世紀の安全保障の課題に対応する上で必要な政治的な結束と軍事的な能力を維持する。北米と欧州の運命は一体である」と宣言。
・NATO加盟19ヵ国の国防相会議が首脳会議に引き続き開かれ、ユーゴスラヴィアへの石油禁輸措置を実効あるものにするため、アドリア海上で船舶の臨検を実施することに原則合意する。NATOのクラーク欧州連合軍最高司令官に対し、臨検の実施要領を策定するよう指示。
・ユーゴ連邦外務省の報道官は、「ユーゴスラヴィアは従来通り、コソヴォ自治州への外国軍の駐留には反対で、受け入れられるのは国連主導の文民監視団に限る」と説明。
・ロシア外交筋は、チェルノムイルジン・ユーゴ問題特使が国連主導の国際的なプレゼンスについて、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に対し「特使は国際部隊のコソヴォ駐留を必要とするロシアの立場を伝えた。ユーゴスラヴィア側の検討で肯定的な答えを期待している」と述べる。この後、セルゲーエフ顧問は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領との間の合意で、「軍服を着た人たちもいるが、武装部隊ではない」と述べ、チェルノムイルジン特使が「軍隊駐留で合意した」と語ったのは間違いだったと認める。
・中国の主要マスコミは、NATO軍がコソヴォ紛争を機に「侵略的な軍事集団の方向に変わりつつある」と警戒感を示し、発表する予定の「NATOの新戦略概念」について、危険な新戦略だなどと批判する論評を発表。
・NATO軍は、ベオグラード中心部にあるセルビア国営TV放送局・RTSの新館を空爆。建物の一部が崩壊して炎上。建物の中には70名の職員がいたが、そのうち15名が死亡する。国営TVは放送を中断。
・英国のクレア・ショート国際開発相は国防省での会見で、NATO軍によるセルビア国営放送に対する空爆について、「軍事目標として合法的なもの。このテレビ局は戦争を引き延ばし、コソヴォの人々に多大な苦痛を引き起こしている宣伝マシーンだ」と正当性を強調。
・イタリア外務省のスポークスマンは、ディーニ外相がNATO軍によるセルビア国営放送ビルに対する攻撃に不満を表明し、このような攻撃は「作戦計画の標的リストにはなかった」と指摘した、と述べる。
・NATOに新規加盟したチェコスロヴァキアのカバン外相はCNNテレビに出演し、「私が将軍だったら、セルビアのテレビ局を標的に選ばなかった」とNATO軍による爆撃を明確に批判。
04/24:
・NATOは結成50周年の加盟19ヵ国首脳会議をワシントンで開き、加盟国以外にも行動の範囲を広げる「新戦略概念」を採択。要旨;「欧州・大西洋地域は冷戦後の大きな変化を経て、新たな機会と危機に直面しているとした上で、「1,NATOは、人権、民主主義などの価値を護るため、加盟国の防衛だけでなく、地域全体の平和と安定に貢献する。政治目的を共有する他国との友好協力も促進する。2,紛争防止と危機管理のため、ケース・バイ・ケースで合意の下に危機対応作戦を取りうる。NATO内部の改革として、連合統合任務部隊・CJTF構想などを進め、速やかな戦力展開を可能にする。3,国連安全保障理事会は、国際的な平和と安全保障に主要な責任を負い、欧州・大西洋地域の安保と安定に重要な役割を果たす。4,加盟国に対する通常兵力による大規模攻撃の可能性は非常に小さいが、長期的にはその脅威が生まれる可能性もある。地域内や周辺の不確実性と不安定性の他、周辺で局地的危機が起こる可能性がある。5,NATOは、他の機構と協力して紛争防止と危機管理を追及する。NATO条約第5条の事態以外での作戦行動もあり得る。NATOは、国連安保理の承認や欧州安保協力機構・OSCEの責任の下での平和維持活動を支持する。作戦への参加は、加盟国がそれぞれ自国の憲法の枠内で決める。6,欧州大西洋協力理事会・FAPCを通じ、友好諸国と協力関係を強化する。NATOとロシアとの強力で安定したパートナーシップが地域に永続的な安定に不可欠である。7,新たな国の加盟に門戸は開かれている。加盟希望国の準備を支援する行動計画を策定する。8,平和を維持し戦争を防ぐため、予見できる将来において、核・通常の混合戦力を欧州に維持する。核戦力の基本目的は、平和維持、戦争抑止という政治的なものだ。加盟国の究極の安全保障は戦略核戦力によって与えられている。安保環境の急激な変化により、核使用の可能性は極めて遠のいているが、抑止力維持のため最小限の核戦力を保持する」。
註;この新戦略概念をまとめる当たり、オルブライト米国務長官は、その適用範囲を「中東から中央アジアまで」と主張。NATOはこの新戦略概念により、創設時の加盟国の集団安全保障から、域外にまで拡大した軍事組織に転換し、コソヴォ紛争への関与を追認したことになり、国連安保理の存在そのものが軽視されるようになる。
・シラク仏大統領は、国連の役割についてクリントン米大統領と交渉を重ねたことを明かし、「軍事機構の国連軽視を認めれば、他の機構も同様の態度を採りかねない。国際秩序が崩れる。フランス外交は勝利した。NATO軍は国連安保理の許可なしに軍事行動はとらない」と評価。
・ソラナNATO事務総長は国連のお墨付きについて、「コソヴォでとった対応が答えだ」と述べ、国連決議なしでの介入を正当化。
・クリントン米大統領は、「新戦略概念が特にコソヴォでの軍事介入を支持する内容になっていることを歓迎する」と述べる。
・NATO首脳会議は共同声明でNATO拡大第2陣としての加盟申請国に対し、ルーマニア、スロヴェニア、バルト3国、ブルガリア、スロヴァキア、マケドニア、アルバニアの順番で評価。
・シラク仏大統領は、NATO軍が計画している対ユーゴスラヴィア石油禁輸のための船舶臨検について、「公海上の臨検は国際法上の戦争行為になるので、慎重に対処すべきだ」と述べ、NATO軍の共同行動への参加を留保する姿勢を示す。
・ユーゴ連邦政府は、NATO会議の声明に対し、難民の大量流出については「空爆で引き起こされた」とし、「難民の安全な帰還を始めるには、NATO軍による空爆の停止が先決だ」とする声明を発表。
・ロシアのチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使は、シュレーダー独首相や他のNATO加盟国のリーダーからコソヴォ問題協議のために招待を受けたことを明らかにし、「近い内にワシントンやボンへ飛ぶだろう。いつでも何処でも要請があれば行く用意がある」と述べる。またコソヴォのアルバニア系指導者のルゴヴァとの会談の用意があることも明らかにする。
・ロシアのインタファクス通信によると、中東を歴訪中のイワノフ外相はNATO諸国がユーゴスラヴィアへの石油禁輸措置を承認したことに対し、「ロシアは輸出を続ける」と語る。
・プリホチコ大統領府副長官は、エリツィン露大統領がクリントン米大統領にコソヴォ問題について電話で協議し、エリツィン露大統領が「紛争の外交解決」を要請したことを明らかにする、クリントン米大統領は、コソヴォ紛争の収拾に「建設的な役割」を果たすよう要請。
・ヨバノヴィチ・ユーゴ連邦外相は国連安保理に対し、NATO軍の空爆をやめさせ、政治的解決に向けた対策をとるよう求める書簡を出す。この書簡の中で、国連憲章に明らかに違反するのに安保理が空爆を非難しないのは、「理解を超える。空爆は非軍事施設を主な標的にしており、大統領邸宅などへの攻撃はテロ行為にあたる」と非難。
・マケドニア共和国は、既に配備されているNATO軍に加え、英独両軍の駐留を受け入れる。ルーマニアやスロヴェニアも領空の使用を認める。
・英インディペンデントとガーディアン両紙は、NATO軍の空爆がユーゴ・セルビア共和国の国営放送ビルなどを対象にし始めたことについて、「民主主義による正義のための戦争は、道徳的に正しい方法で戦わなければいけない」などとNATO軍の暴走を諫める社説を掲げる。インディペンデント紙は、社会党本部、大統領官邸などが電話をそなえているだけで、「指令・統制センター」とされ、「問題ある目標設定が行なわれているようだ」と指摘し、民間人に対する無差別攻撃になりかねないと警告。
註;ジュネーブ条約・議定書など戦時下の国際法では、攻撃は軍事目標に限られ、民間人への攻撃は厳しく禁止している。
04/25:
・NATO首脳会議は最終日のこの日、ユーゴスラヴィアがアルバニアなど周辺7ヵ国を越境攻撃した場合、NATO軍が防衛と反撃に出る、との防衛協力方針を打ち出す。
・クリントン米大統領は加盟19ヵ国および周辺諸国7ヵ国を招いた特別会議で、「NATO軍の軍事作戦への協力を理由に、周辺諸国がユーゴスラヴィアの脅威を受ければ対応策をとる」と語る。周辺7ヵ国はこれを支持したものの、ユーゴ紛争で疲弊した周辺7ヵ国の受け取り方はさまざま。ルーマニアは領空通過を許可しただけで、世銀、IMFとの会談が実現し、ブルガリアはユーゴスラヴィアへの石油パイプラインのバルブを閉めただけで評価される。一方マケドニアは13万人の難民受け入れに対して十分な見返りがあるとはいえない。
・グリゴロフ・マケドニア大統領は、「バルカン半島復興策の資金計画が具体的でない。加盟国の難民受け入れの努力がたりない。マケドニアが正当に扱われなかったことに、国民は不満を抱くに違いない。マケドニアに駐留するNATO軍が戦闘のためにコソヴォに入る場合、自国領土の使用は認めない」と不満を述べてNATO軍を批判。
・ユーゴ連邦政府は閣議で、空爆を続けるNATO軍を、国際司法裁判所に提訴することを決める。政府声明で提訴の理由について、「他国の主権侵害や武力行使など、国際法に違反しているため」としている。
・プリマコフ露首相はテレビのインタビューで、NATO軍がユーゴ連邦に地上軍を投入した場合、「NATOとの関係を幾つかの点で見直すことになる。その場合、国家予算に修正を加えることになるかも知れない。国防費に一層の関心を払うだろう」と述べ、空爆反対の姿勢からさらに踏み込んだ強い対抗措置をとる可能性を示唆。
・ブレア英首相は、NATO首脳会議の合間を縫ってCNN、NBCなど米国のテレビに出演し、「これは領土的野心ではなく、正義の戦争だ」と空爆の正当性を強調。
・ドラシュコヴィチ・ユーゴ連邦副首相はベオグラード市営テレビの夜の番組「スタジオB」に出演し、「国連部隊は、世界のどこでも占領軍と見なされることはない」と述べ、ロシアが解決策として示している国連平和維持部隊のコソヴォ自治州派遣を容認する考えを示す。
・コソヴォ自治州のアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAが運営するコソヴァプレスは、コソヴォ中部マリシェヴォ周辺で、ユーゴ側に家を焼かれて周辺の山に逃げていたアルバニア系避難民の中から餓死者が出た、と伝える。
・高村正彦日外相は、NHKの番組でユーゴスラヴィア・コソヴォ自治州紛争について、「戦費を負担することは想定していないし、日本政府は現時点で戦費を負担するつもりはない」と明言。その上で、「難民支援が現時点で日本政府がやれる一番大きなことだ。UNHCRへの拠出を通じた支援や、マケドニア、アルバニアなど難民受け入れ国への支援を積極的に進める考えを強調。
04/26:
・ユーゴ連邦政府は国際司法裁判所・ICJに対し、NATOのユーゴ・コソヴォ空爆について欧米の10ヵ国、米、英、独、伊、スペイン、カナダ、オランダ、ベルギー、ポルトガルなどを相手に空爆停止の仮保全措置と損害賠償を求めて提訴する。
・日本政府は、コソヴォ自治州の難民・避難民問題で、復興支援と難民帰還支援のため、国連に1億ドルを拠出することや、受け入れ国のマケドニア、アルバニアに対し、2年間で6000万ドルの無償資金協力を実施することを盛り込んだ総額2億ドルの追加支援策を実施する方針を固める。政府の支援方針は、「1,国連難民高等弁務官事務所などを通じた難民支援。2,アルバニアやマケドニアなど難民受け入れ国に対する援助。3,和平後のコソヴォ復興や難民期間に対する支援」の3本柱。
・EUは外相理事会で、加盟国からユーゴスラヴィアへの石油供給を禁止する新規則を承認し、遅くとも30日までに実施することを確認。さらに、98年から続けているユーゴ政府に対する資産凍結措置を、同政府に近い企業や個人にまで広げるなど、新たに7項目の制裁強化策に合意。合意事項;「1,ユーゴスラヴィア当局者の他、ミロシェヴィチ大統領に近い人物へのビザの発給を停止する。2,ユーゴ連邦当局に近い個人、企業の資産を凍結する。3,ユーゴスラヴィアへの民間輸出保証の禁止。4,新規投資禁止の延長。5,空爆後の補修に使われる物資や技術の輸出禁止。6,国際競技会からのユーゴスラヴィア締め出しを各種スポーツ組織に要請する。7,EUとユーゴ間の航空旅客便の禁止」の7項目。EUはこの合意に基づき、各スポーツ協議団体に対し、国際競技会にユーゴスラヴィア代表チームや選手を参加させないよう呼びかける。ハンス・ファンデンブルック東欧・旧ソ連関係・共通外交安全保障政策担当委員は、「完全な締め出し処置をとらず、各競技団体に勧告する形をとった」と述べる。
・赤十字国際委員会・ICRCのソマルガ委員長は記者会見し、NATO軍によるユーゴ空爆で民間人に多数の犠牲者が出ていることに「深い憂慮の念」を示す。また、ユーゴ連邦軍に身柄を拘束されている米兵3人とこの日直接面会したことを明らかにする。
・タルボット米国務副長官はモスクワを訪問し、イワノフ露外相、チェルノムイルジン・ユーゴ問題特使らと緊急会談をする。
・ドラシュコヴィチ・ユーゴ連邦副首相は、ベオグラード市内のホテルで一部の外国報道陣と会見し、ロシアが提案しているコソヴォ自治州への国連平和維持軍派遣を容認するとの前日の発言について、「ミロシェヴィチ大統領も支持している」と述べる。
・ユーゴ連邦政府は、現在1ヵ月40リットルの配給制となっている自家用車用ガソリンを5月から20リットルにし、業務用車輌については現行の40リットルを35リットルに制限することを決定。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、ノヴィ・サドの鉄道橋がNATO軍の爆撃で破壊される。この鉄道橋はドナウ川に架かるノヴィ・サドの3つの橋の内のハンガリーに通じる通行可能な最後の橋だったが、この空爆で全く通行できなくなる。
註;ノヴィ・サドは北部のヴォイヴォディナ自治州の州都で、ハンガリー系の住民が多いこともありミロシェヴィチ政権に批判的な親西欧的な住民が少なくないが、NATO軍にとってそのような事情は全く考慮の余地はなかったと見られ、空爆で徹底的に破壊される。しかも、コソヴォから数100キロも離れていてほとんど無関係な地域であるにもかかわらず、橋や水道施設、電気設備が破壊され、ヴォイヴォディナ自治州だけで82の企業が完全に破壊され48億ドル相当の損害を受ける。ミロシェヴィチ大統領への反対が多い、中部のニシュ、クラグイェヴァツ、チャチャク、バリエヴォが激しい空爆を受ける。
04/27:
・ブルガリア国境近くの都市スルドゥリツァで、NATO軍が兵舎を狙ったとされるミサイルが住宅地を直撃し、住宅500棟が破壊され、20人が死亡する。
・NATO軍は、ユーゴ南東部の町スルドリツァの住宅密集地をミサイルで空爆。地下のシェルターにいた住民ら16人が死亡し、多数の負傷者が出る。市当局者によると、ミサイルは16発以上が撃ち込まれ、住宅の損壊は全壊50棟を含む500棟に達し、民間の被害としては空爆開始後最大のものとなる。ミロスラフ・ストイコヴィチ市長は、軍の施設は数キロ先にあるがこの町は軍とは全く関係がない」と説明。
・赤十字国際委員会・ICRCは、コソヴォ自治州内で人道援助活動を再開するための安全の保証を、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領から得たことを明らかにする。赤十字の担当者はNATO軍にも安全の保証を求めて交渉中だと述べる。
・ドイツ緑の党の幹部会は、党大会の議案のたたき台をまとめる。内容は、フィッシャー外相を盛り立て、連立離脱の考えはないことを強調する一方で、NATO軍が空爆を停止することも有意義とし、平和主義の党是は放棄しない、と宣言するなど和平を求める姿勢を鮮明にする。また空爆に抗議して離党した300人以上の活動家には復帰を求める。これに先立ち、幹部会は「NATO軍が一方的に空爆を一定時間停止すべきだ。仮に地上戦に突入する場合には、ドイツ連邦軍の参加には反対する」という意見書を政府に提出したが、フィッシャー外相はこうした要求は、「政府の機能を阻害し、連立崩壊をもたらしかねない」と警告。
・日本政府は閣議で、コソヴォ自治州の難民援助のために既に表明している1500万ドルを含め、総額2億ドルの支援を決める。これにはUNHCRへの4000万ドルの拠出も含む。
04/28:
・シェイNATO報道官は、スルドゥリツァの空爆による民間への被害について、「標的はユーゴ連邦軍の兵舎だったがレーザー誘導が誤り、狙いより2~300メートル外れた住宅地を爆撃したようだ」と述べ、誤爆だったことを認める。
・NATO当局者はスルドリツァでの空爆について、ユーゴ連邦軍の兵舎を狙った爆撃に成功したとし、「一般市民を標的としたとの主張は全く誤りだ」と述べ、「このような紛争の中では、民間人やその財産に損害が出る可能性は完全には否定できない」とも述べ、ある程度の市民の被害は避けられないとの見方を示す。
・NATO軍がユーゴ連邦軍の地上レーダーを狙ったミサイルは、ユーゴスラヴィア国境から東へ60キロのブルガリアのソフィア郊外の民家を直撃し、建物が半壊したが死傷者はなし。
・ヴ-ク・ドラシュコヴィチ・ユーゴ連邦副首相が解任される。
・ユーゴ連邦情報省によると、ブラトヴィチ連邦首相はドラシュコヴィチ連邦副首相を解任。解任理由は、ドラシュコヴィチ連邦副首相が行なったNATOとの妥協に積極的な一連の発言が政府の立場を逸脱しており、政権を傷つけるものだとしている。
・ロバートソン英国防相は、「ドラシュコヴィチ連邦副首相の発言や解任はミロシェヴィチ政権の中枢部に亀裂が広がったことを示す証拠」と述べる。
・ミハイロヴィチ・ベオグラード市長によると、ドラシュコヴィチ連邦副首相が「国連維持軍受け入れ構想」を公表したのは、ミロシェヴィチ大統領の許可を得ずにしたもので、「閣内クーデター」だった、「国民は破滅からの出口を示してくれる政党、政治家を求めている」と述べる。
・ブレア英首相は下院で、スルドゥリツァの住宅地爆撃について、「民間の犠牲が出たことは極めて遺憾だ。しかし、コソヴォではセルビア人の虐殺によって、昨夜も200人が死んだ。NATO軍は誤って人々を死なせたが、セルビア人は意図的に殺害した」と主張。
・英国議会下院で、労働党のトニー・ベン議員は、「空爆で無差別に破壊し、民間人を殺す。戦争犯罪に等しいではないか」とブレア首相に詰め寄る。トニー・ブレア首相は、「こうした状況下でどうしろというのか。傍観するのか、行動するのか」と反論。
・英ガーディアン紙は、「NATO軍は空爆を見直すべきである」と従来の空爆支持を変える論調の社説を掲げる。社説は空爆の目的は、「1,ユーゴスラヴィアの防空システムや兵力を抑え込むことだった。2,ところが、NATO軍は広範囲な爆撃目標を選び、政治的な効果を期待するようになった。3,爆撃目標が産業施設、交通網、放送局などに拡大した。NATO首脳会議は1ヵ月間の空爆の教訓を学ばず、爆撃延長という誤りの道を選んだ」と批判。日曜紙オブザーバーも「地上軍を派遣出来ないなら、和平のために創造的な条件をつくる必要がある」との社説を掲げ、空爆一本槍の政策を批判。
・米連邦議会下院は、民主党が提案した「コソヴォ・ユーゴ空爆」を支持する決議案について投票したが、賛成213,反対213、の同数で否決する。また下院は、ユーゴスラヴィアに地上軍を派遣する場合は議会の事前承認を必要とする決議案を、賛成249,反対180で可決。米軍の撤退決議案は、賛成139,反対290で否決。宣戦布告決議案は、賛成2,反対427で否決。
・クリントン米大統領はユーゴスラビア情勢について、「天候さえよければ、低空のあらゆる方向からいつでも空爆できるようになった。ユーゴスラヴィアの天候は、5月より6月、6月より7月と良くなっていく。我々はいまの戦略を貫くべきだと強く信じており、決意は非常に固い」と述べる。
04/29:
・NATO軍は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の出身地であるポジャレヴァツを空爆し、鉄道の駅付近の建物を破壊。さらに深夜、ベオグラード中心部にある、国防省、連邦参謀本部、セルビア共和国警察庁舎などを爆撃。この日、米空軍F15戦闘攻撃機は、「地中貫通爆弾・バンカーバスターGBU28」をプリシュティナの軍用飛行場で初めて使用。
・NATO高官はブルガリアの民家が爆撃されたことについて、「現在、ブルガリア政府とNATOが調査している」として、NATO軍による誤爆の可能性を示唆する。
・アナン国連事務総長は、イワノフ露外相、アクスワージー・カナダ外相、パパンドレウ・ギリシャ外相との4者会談を行ない、「コソヴォ紛争に関する国際的な決定は、全て国連安保理決議として採択されねばならない」との方針を確認。アナン事務総長は、またロシアのエリツィン大統領、チェルノムイルジン・ユーゴ問題特使とも会談。
・ロシアのセボードニャ紙はアナン国連事務総長の行動について、「安保理でのロシアの拒否権を抑え込み、NATO軍によるユーゴスラヴィア攻撃を国連の場でロシアに承認させる試み」と論評。
・ロシア政府は、ユーゴ・コソヴォ空爆が継続する中で、非公開の安全保障会議を開く。
・チェルノムイルジン露ユーゴ問題特使は、ドイツを訪問し、シュレーダー独首相と会談。会談後の記者会見で、コソヴォ紛争の打開策の中で、特に難民が帰還出来る条件つくりが重要だとの考えを強調し、ユーゴ連邦政府について「難民の安全な帰還を保証する方向へ動いていると信じる」と述べる。
・小渕恵三日首相はコソヴォ紛争に関する日本の支援について、「あくまでも難民の支援、あるいは難民を受け入れている周辺国への支援が中心であり、NATO軍による空爆などの戦費は、日本は支払うべきでないと考えている」と述べる。
・国際司法裁判所・ICJは、ユーゴ連邦政府が「NATO軍による空爆は主権国家に対する武力介入を禁じた国際法に違反する」として、NATO加盟19ヵ国の内の10ヵ国を相手取り、空爆の即時停止の仮保全措置と損害賠償を求める訴訟を起こしたと発表する。対象の10ヵ国は、米、英、仏、独、伊、オランダ、ベルギー、カナダ、ポルトガル、スペイン。
・ジェシー・ジャクソンSrが率いる民間人派遣団は、コソヴォとアルバニア国境地帯で拘束された米軍捕虜の釈放を求めるためベオグラードを訪問。
04/30:
・NATO軍は、ユーゴ連邦軍参謀本部ビルと国防省ビルを空爆。
・高村正彦日外相はギリシアから陸路でマケドニアに入り、コソヴォ難民キャンプを視察。その後、首都スコピエでグリゴロフ・マケドニア大統領、ゲオルギエフスキ首相らと支援などについて協議。
・日本外務省はコソヴォ難民支援に関連し、NGOの活動への支援策の拡充を決める。1500万円を限度に事業費を補助する制度では、補助率を2分の1から3分の2に引き上げる。
・イワノフ露外相は、NATOとEUによる石油禁輸措置について、「脅迫政策はいけない。ロシアはこれまで通り禁輸を受け入れない」との方針を表明。
・ロシアのチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使はベオグラードに到着し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領とコソヴォ紛争の打開策をめぐり会談に入る。6時間に及んだ会談で7項目を提案し、チェルノムイルジン特使は、「コソヴォ問題の平和的解決に向けて、幾つかの方針を作りあげた。NATO側の指導者がこれを真剣に受け止めてくれることを期待する」と述べる。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は米UPI通信と会見し、コソヴォ和平に向けた6項目の和平案を示す。和平案;「1,全ての軍事行動の停止。2,アルバニアとマケドニア国境に展開するNATO軍の撤退と、コソヴォ駐留ユーゴ連邦軍の10万人から1万2000人以下への削減を同時に実施する。3,ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、NATO加盟国以外のEU加盟国からなる、自衛の武器を携帯した国連平和維持軍の受け入れ。4,全ての難民の帰還。5,国連などによる難民調査受け入れ。6,NATO軍の侵略で甚大な被害を受けたユーゴ経済の復興計画」。チェルノブイルジン特使の7項目提案は、この6項目にコソヴォにおけるアルバニア系住民とセルビア人の各民族に対等の地位を与える、という項目を付け加えたもの。
・オルブライト米国務長官は、ベオグラードから伝えられたユーゴスラヴィア政府の解決策について「真剣な提案ではない。NATO軍が設けた空爆停止の条件からかけ離れており、偽りの希望を抱かせるものだ」と拒否する。
・国連安保理に、コソヴォ難民への援助を呼びかける「人道援助決議案」が、非同盟諸国113ヵ国を代表してガボンから提出される。
・カート・ウェルドン下院議員(共和党)、デニス・クシニッチ下院議員(民主党)など超党派の米連邦議員団11名はウィーンにおいてロシアの国会議員団ウラジミール・ルキン、アレクサンドル・シャバノフらとコソヴォ問題について会談し、共同和平案をまとめる。内容;「1、NATO軍による対ユーゴ空爆の停止。2、コソヴォ自治州からのセルビア軍の撤退。3、コソヴォ解放軍・KLAによる軍事活動の停止。すべての難民の帰還。5、コソヴォ自治州を管理するための国際部隊の駐留」など。
04/00:
・コソヴォ自治州の首相に、ハシム・タチが密かに就任する。
05/01:
・NATO軍は、コソヴォ北東部ルザネの橋を爆撃、通過中のバスが被弾し、40人以上が死亡。NATO軍機は、2度にわたって橋を攻撃。ユーゴ国営テレビは、ルザネ橋が爆撃され、バスがまっぷたつに割れて飛び散った凄まじい映像を放送。
・NATOのフライタグ報道官はルザネ橋の爆撃について、「現時点では何の情報も入っていない。明日までに調査する」と述べる。
・EUは、ユーゴスラヴィアへの石油販売・供給を全面的に禁止する。ユーゴスラヴィアの石油需要は、1日6万バレルで、3分の2が輸入で、ロシアから半分、リビアやクロアチアから残りを入れている。
・EUの新憲法である「アムステルダム条約」が発効する。EUは今後、共通外交・安全保障政策・CFSPが実施される。
・ユーゴ国営のタンユグ通信は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領がユーゴ連邦軍に拘束されていた米兵3人を釈放することを決めた、と伝える。
・高村正彦日外相はNATO軍のコソヴォ空爆について、「簡単な問題ではなく、主権国家の権力者が、主権国家の範囲内で何をやっても良いのかということが問われている。人権問題があれば直ぐに主権を侵していいということではない。その程度が民族浄化とまでいわれるほどの場合、国際社会が手を拱いていていいのかという、国際法上の新しい課題が人類に突きつけられている」と述べ、また日本政府のコソヴォ難民支援策について「国際社会から十分評価されている」と述べる。
05/02:
・ユーゴ連邦軍は、拘束していた3人の米陸軍兵士を釈放。ジェシー・ジャクソンSrが引き取り人として出向く。ジャクソン師は米テレビ各局の報道番組で、「交渉の機会を逃してはならない。クリントン米大統領はミロシェヴィチ大統領の呼びかけた会談に応じるべきだ。対立する両者の間に一方が橋を架けようとしている。もう一方も行動すべきだ」と語る。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は、ジェシー・ジャクソン師にクリントン米大統領への書簡を託す。書簡の内容;「1,コソヴォ難民の帰還。2,和平監視のための国際派遣団のコソヴォ展開。3,戦闘行動の停止。4,コソヴォ問題の政治的解決」の4項目。
・コーエン米国防長官はユーゴスラヴィア側の米兵釈放について、「釈放という意思表示があったにせよ、これでコソヴォの虐殺の事実は消えるわけではない。空爆は停止しない。一層強化する」と述べる。
・クリントン米大統領は、空爆続行に変わりはない考えを強調し、ユーゴ連邦への経済制裁強化を発表。
・NATO軍は、1日のルザネ橋のバスへの爆撃について「兵器の発射後にバスが橋を通過した」とNATO軍機による誤爆を認める。
・ユーゴ外務省の報道官は、ルザネ橋のバス爆撃による死者は47人、負傷者は16人であることを明らかにする。
・NATO軍は、セルビア共和国のニシュの発電施設を爆撃。セルビア全土に影響を与え、広範囲な停電となる。
・NATO軍のイェルツ報道官は記者会見で、ニシュの病院が爆撃され死傷者が出たことについて、「現在、調査中だ。民間病院を標的にすることはない」と述べる。
・シェイNATO報道官はNATO軍が最大規模の空爆を続ける中で、「空爆はコソヴォのユーゴ連邦軍の兵力を孤立させ、釘付けにし、排除することに焦点を当てている。天候回復で、ユーゴ部隊が身を隠す場所が日々少なくなっている」と述べる。
・NATO軍は、セルビア国内のコストラツ、オブレノヴァツなど複数の発電所を爆撃。セルビア国内は70%の所帯への配電が不能になる。この爆撃では、送電をショートさせて不能にする「ソフト爆弾」が使われる。停電によって水道も止まる。
・コソヴォ自治州のアルバニア人指導者ルゴヴァはユーゴスラヴィアから出国し、イタリアのダレーマ首相と会談。ダレーマ首相とともに行なった記者会見でコソヴォ難民については、「セルビア治安部隊などの撤退とNATO諸国を含む国際部隊の派遣が、帰還の条件だ」と述べる。コソヴォ解放軍・KLAとの関係については、「解放軍も含め、全てのアルバニア系住民が平和的な解決を望んでいる」と一体となって和平を目指していることを強調。ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領との会談については、「我々は平和的な解決に向けた共通基盤を既に築いている」と述べ、今後もコソヴォ和平に向けた政治協議を続ける考えを示す。
・ロシアのエリツィン大統領はクリントン米大統領にコソヴォ問題について電話で協議し、3日にチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使がクリントン米大統領とワシントンで会談することで合意。
・英サンデー・テレグラフ紙にNATO軍の空爆に対する相反する2人の文筆家の論考が掲載される。空爆賛成派のジャーナリストのアンドリュー・ロバーツは、「いまこそNATO軍は核兵器を利用することだ」と述べ、空爆反対派の劇作家ハロルド・ピンターは「いまこそ、政府によって繰り返される、歪曲、誤った情報の正体が暴露されるべき時だ」と説く。
05/03:
・ユーゴ連邦軍によると、NATO軍はコソヴォ自治州北西部ペチから隣接するモンテネグロのロジャイェに通じる道路を通っていた民間バスを空爆し、少なくとも20人が死亡、10人が負傷。
・NATOのイェルツ報道官は、NATO軍によるバス攻撃について、「現在調査中だ」と述べる。
・NATO軍の発表によると、4月29日から5月2日までの作戦機の出撃回数は600回で半数が爆撃を行ない、天候が悪かった4月中旬の2倍出撃している。3月24日の空爆開始から、出撃回数は1万4000回に上る。レーザー誘導の巡航ミサイルは残り少なくなってきたので、今後は操縦士の目視による爆撃が多くなる。先週からB52爆撃機10機が配備されたが、これも目視爆撃をすることになる。
・ロシアのチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使は、クリントン米大統領とユーゴ情勢をめぐりホワイトハウスで会談。会談後にチェルノムイルジン特使は、「外交的解決に近づいた」と述べたが、米政府高官は「ロシアの立場は我々に寄ってきたが、ユーゴスラヴィアも同じかどうか、特使の話からははっきりしない」と述べる。
・英ロイター通信は、コソヴォ自治州の武力による独立を目指すアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍の報道担当者が、コソヴォ出身のクロアチア共和国軍の元高官のアギム・チェク准将が、「軍事行動の責任を負っている」ことを明らかにした、と報じる。
・小渕恵三日首相はクリントン米大統領との日米首脳会談で、コソヴォ問題をめぐるユーゴスラヴィアへの経済制裁について「日本も協調する方針で、石油禁輸措置も歩調を合わせたい」と述べる。チェルノムイルジン・ロシア特使とも10分間会談。
05/04:
・シェイNATO報道官はバス爆撃について、「NATO軍の作戦と、事故を結びつける証拠は見つからなかった」と誤爆を否定。
・ヨバノヴィチ・ユーゴ連邦外相はCNN放送に対し、NATO軍のユーゴ空爆で、「ユーゴスラヴィア全土での死者は1200人、重傷者は5000人が出ている。300の学校が爆撃された」と述べる。
・イタル・タス通信は、G8・高級政治事務レベル会合に出席したロシアのアブデーエフ外務省第1次官が、「8ヵ国代表は、コソヴォ自治州への将来の国際的プレゼンスはすべて国連の旗の下に置くことで合意した」と述べた、と伝える。
・NATO最高軍事機関軍事委員会のナウマン議長は退任に当たり、「我々は、国際社会の要求をミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に受諾させること、民族分離・追い出し作戦を阻止するという目的を達成していない」と述べ、ユーゴスラヴィア空爆がアルバニア系住民弾圧の阻止という目的を達成していないことを認めた上で、NATO諸国の政治的制約が空爆の長期化を招いたと批判。
・ロンドンの国際戦略研究所は、世界情勢の「戦略概観」を公表。NATO軍のユーゴ空爆について「軍事力と外交の関係に重大な疑問を投げかけた事例」と述べ、「西側の軍事力がコソヴォの独立のために使われる可能性をミロシェヴィチに伝え、西側にその意志も能力もあると認識させていれば、彼はもっと柔軟な解決策を選んでいただろう」と指摘。
・菅直人日民主党代表は、小渕恵三日首相がコソヴォ問題で米国との協調を確認したことについて、「首相はNATO軍の爆撃で出口が見えなくなるのではないかという日本国民の心配を伝えないまま、総額2億ドルの支援策を約束した。首相のいう日米同盟強化とは、米国への100%追従だ」と批判。
05/05:
・クリントン米大統領は、米軍に拘束されているユーゴ連邦軍の捕虜2人の釈放を検討するよう、コーエン国防長官に指示。また、クリントン米大統領はブリュッセルのNATO本部を訪れ、ソラナNATO事務総長やクラーク最高司令官から戦況などの説明を受ける。クラーク最高指令官は、「我々は勝利を収めつつある」と強調。さらに「将来、アルバニア系難民がコソヴォに帰還できる日が来ても、食糧も家もなく、暫くはまともな生活は望めない」と人道援助や復興支援の重要性を付け加える。
・米国防総省は、アルバニアに配備されている米陸軍の対戦車ヘリコプター「アパッチ」1機が訓練中に墜落し、乗員2名が死亡、と発表。
・コソヴォ自治州のアルバニア系指導者のイブラヒム・ルゴヴァは、ユーゴスラヴィアを出国して空路ローマ入りし、ダレーマ首相およびディーニ外相と会談。
・国連安保理は、アナン国連事務総長が提案しているユーゴスラヴィアへの人道調査団の派遣について協議。ロシアを含むほとんどの理事国が支持を表明したが、米国だけが調査団の安全やユーゴ連邦当局に都合のいい場所だけを見させられるなどの懸念を指摘して難色を示す。
05/06:
・G8緊急外相会議がボンで開かれ、コソヴォに関する公式声明を発表。内容;「1,コソヴォにおける戦闘行為を即時かつ検証可能な形で終結させること。2,コソヴォからの軍、警察などの撤退。3,コソヴォへの国連で承認された効果的な国際的文民および治安部隊のコソヴォへの展開。4,国連安保理の決議に基づくコソヴォの全体統治機構の設置。5,避難民の安全かつ自由な帰還。6,ランブイエ合意およびユーゴ連邦と近隣諸国の領土の不可分性の原則を十分考慮し、コソヴォにおける実質的な自治を可能にするような暫定的な政治的枠組みに関する合意。7,地域の発展と安定への包括的アプローチ」の7項目。
・イワノフ露外相は、突破口というにはまだ早いが、前進はあったといえる」と一定の評価を示し、「長い期間を経て地域紛争を解決する本来の場である国連の胸元へ、コソヴォ問題を返すことに成功した」と語る。
・ユーゴ連邦政府は、G8案を大枠で受け入れると発表。それに基づく安保理決議を求める。
・NATO軍は、「ユーゴスラヴィアが、国際社会の妥協できない要求をのまない限り」爆撃を中止しないとの主張を繰り返し、空爆を続行する。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領側近とされるカリッチはBBCとのインタビューで、「大統領は空爆停止のために妥協する用意がある」と語り、「国連主導の国際部隊がコソヴォに展開する場合、警察に近い軽武装部隊であるべきで、重装備の軍隊は受け入れられない」。参加国については、「我々としては紛争に関与していないロシアやウクライナ、ベラルーシ、フィンランド、スウェーデンなどが望ましい」との立場を示す。
・ユーゴ連邦政府は国連に対し、アナン国連事務総長が表明していた人道援助調査団の派遣を受け入れると回答。
・NATO軍は、ユーゴ南東部ニシュの市街地の病院と市場を空爆し、病院などで死者15人、負傷者50人が出る。
・コーエン米国防長官は、ユーゴ空爆を強化するため、米軍機176機を欧州に追加派遣するよう指示。NATO軍は現在、916機をユーゴ空爆に投入しており、追加派遣で1000機を超える。
・クリントン米大統領は、シュレーダー独首相との会談後の記者会見で、G8の緊急外相会議の合意に関連し、「国連が和平提案を承認すれば非常に有益だ」と述べる。
05/07:
・NATO軍は、ベオグラードの中国大使館をミサイルで攻撃する。3発が命中し、中国大使館の一部が炎上し、3人が死亡、20人が負傷。空爆は、B2ステルス爆撃機から発射された3発の精密誘導ミサイルによる。この日のNATO軍は、中国大使館の他、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の別荘敷地内にある司令施設、民兵組織の指導者が司令部として使っているホテル、国防省ビル、軍および治安部隊の本部などを空爆する。
・中国の秦華孫国連大使は、「NATO軍の野蛮な行為は国連憲章に対する重大な違反である」と非難し、軍事行動を即時停止するよう求める声明を発表。中国政府は、「ミサイルが違う角度から撃たれている。故意の爆撃である疑いがある。中国政府は、さらなる措置を取る権利を留保する」との非難声明を発表。さらに王英凡外務次官は、サッサー駐中国米大使を呼び直接抗議。中国全国政治協商会議も非難声明を発表する。
・国連安保理は中国の要請を受け、深夜に緊急協議を開催する。
・米国ホワイトハウスは、「事態を注視している」とのコメントを発したのみ。後にオルブライト米国務長官は、「事実なら非常に遺憾で謝罪する」と伝える。
・ユーゴ連邦のマティッチ無任所相は、「これは理解しがたいほど愚かしい犯罪行為だ。NATOの国連無視をはっきりと示すものだ。空爆が続くこの1ヵ月半、我々は野蛮な行為だと繰り返し批判してきた。これで、国際社会がユーゴスラヴィアでいま何が起きているか理解してくれることを願う」と述べる。中国大使館前に、ヨバノヴィチ・ユーゴ連邦外相、マリャノヴィチ・セルビア共和国首相、内相など閣僚が続々と集まる。マリャノヴィチ共和国首相は、「平和と諸国の平等のために奮闘している国を、連中は攻撃したんだ」と語る。
註;後にCIAの分析官が述懐したところによると、爆撃目標の設定地点がユーゴ連邦の兵器調達庁ではなく、中国大使館であることに気づき、5月4日と当日の7日の2回にわたりにNATO軍司令部に誤りであることを電話で連絡したが、NATO軍の上層部には伝えられなかった。分析官は空爆の標的担当ではなかったため、中国大使館が標的とされていることは知らなかったと告白。G8のコソヴォ紛争の政治的解決に関する合意事項を、国連安保理決議に昇格させようとしていた矢先に、中国大使館爆撃事件が起こり、解決が遠のいたことになる。
・NATO軍が実行したセルビア共和国南東部のニシュへの空爆は、中央病院や、買い物客でごった返す市場、住宅街などが目標となる。被害は広範囲におよび、現地の医師によると15人が死亡し、70人が負傷。この爆撃で、非人道的なクラスター爆弾が使用された模様で、地面には30センチほどの穴があちこちに空いている。ニシュは人口25万人の都市で工業施設が多く、被弾した地点5キロ四方には軍事施設はない。
・NATO軍はニシュでの市街地爆撃について、NATO軍機による誤爆だったことを事実上認める。また声明で、「本日午前、ニシュの飛行場をクラスター爆弾を使って攻撃した。不幸にも、ほぼ間違いなく1発が誤って民間の建物群に命中したようだ。市民を傷つけるつもりはなかった」と発表。
・アナン国連事務総長は、コソヴォ紛争の政治的解決を目指して、NATOとユーゴ連邦、ロシアなどの間を仲介する特使に、スウェーデンのカール・ビルト元首相とスロヴァキアのエドゥアルド・クカン外相の2人を任命したと発表。
・ユーゴスラヴィアの政府系紙「ポリティカ」は、コソヴォ問題に関する世論調査を掲載。コソヴォへの国際派遣団について、「国連主導でNATO加盟国が加わらない外国軍なら受け入れられる、との回答が半数を超える。非武装の監視団であれば受け入れる75.1%、国連主導のNATO軍抜きの外国人であれば武装部隊でも受け入れる58%、NATO軍が加わっても国連主導であれば受け入れる14.2%、NATO軍主導でも良い5.4%。コソヴォからのユーゴ連邦軍の撤退は、44.2%が反対、平和時のレベルまでの削減であれば32.5%が容認。
05/08:
・国連安保理は中国大使館の要請による緊急非公開協議を開き、米国がNATO軍の爆撃かどうかの確認が取れないなどと抵抗したため堂々巡りの議論の末、「衝撃と憂慮」を表明する報道向けの声明を発表。
・NATOのソラナ事務総長は記者会見で、「悲劇的な過ちであり、被害に遭われた方々とご家族、中国政府に深くお詫びする」と謝罪。一方、ユーゴスラヴィア当局が国際社会の要求に従うまで、空爆を続けるとの考えも表明。
・米国防総省は記者会見で、「遺憾の意」を表明。コーエン米国防長官とテネットCIA長官は、「空爆の目標設定の段階で、本来の標的だったユーゴ連邦兵器調達庁を中国大使館と取り違えた情報が伝わったことが原因」とする声明を発表。
・ニューヨーク・タイムズ紙は、NATO当局の話として、CIAが現在のベオグラードとは異なる「古い地図」を使ったことが誤爆の原因と伝える。
・新華社電は、NATO軍による中国大使館爆撃による死者は3人となり、20人余りが負傷し、1人が行方不明。死者のうち2人は記者、と伝える。
・北京の大学生ら2000人が、、「侵略と覇権主義に反対」と叫び、米国大使館に向けて抗議デモを行なう。夜になると一般市民も加わり、米大使館に向けて煉瓦などを投げ込み、星条旗に火を付け、門灯を壊すなどの暴行を働く。警察当局は学生の行動を抑えることはなく見守るのみだったが、夜9時過ぎには排除。上海でも学生数千人が米総領事館前で抗議デモを行なう。
・ロシアのインタファクス通信は、イワノフ露外相が唐家璇中国外相に談話をかけ、在ベオグラード中国大使館の爆撃事件の犠牲者への哀悼の意を表するとともに、同外相はNATO軍によるユーゴスラヴィア空爆を早急に停止し、問題を政治的な方法によって解決する必要性で意見が一致した、と伝える。
・エリツィン露大統領は、江沢民中国国家主席に大使館誤爆の犠牲者に対する深い哀悼の意を伝えるとともに、NATO軍の攻撃を「野蛮で非人間的な行為」と非難。イワノフ露外相は、同日予定していた英国訪問を延期。チェルノムイルジン・ユーゴ問題特使は予定通り欧州歴訪のために出発し、ドイツのボンに到着。
05/09:
・中国の北京、上海、成都、瀋陽、広州、アモイ、杭州、南京などの主要都市で、NATO軍による中国大使館爆撃に抗議するデモが、いずれも数万人規模に拡大して繰り広げられる。成都では米総領事公邸構内に群衆が突入し、建物に放火。香港では星条旗が焼かれる。デモのスローガンは、「米国を打倒せよ」、「NATOは解散しろ」、「中国はノーと言うぞ」など。北京では武装警官5000人を含む7000人の警官が配置され、公安当局は「デモはコントロール下にある」と説明。広州市では5万人が参加した抗議デモがあり、そのうち1000人近い学生や民衆が、ドイツの総領事館の玄関のドアや窓ガラスを壊して館内に乱入し、武装警官に排除される。
・胡錦涛国家副主席はデモについて、「愛国の熱情からだ」と支持する一方、「過激な行為を防止し、一部のものが社会秩序を撹乱することを警戒し、断固として社会の安定を確保しなければならない」と呼びかける。
・香港の「中国人権民主化運動情報センター」によると、中国国内の民主活動家が、米国に対する抗議に対し、学生らに冷静になるよう求める声明を発表。
・サッサー駐中国米大使は、大使館から全米へ向けたTV中継で「我々は人質状態だ。中国政府がデモを助長している」と語る。
・NATO軍は、セルビア中西部ウジツェの郵便局・電話局などを爆撃。その他バリエヴォ、クラグイェヴァツ、コソヴォ自治州のジャコヴィツァなどを空爆する。NATO軍は、ユーゴ内の31の橋を破壊し、29の橋を使用不能に陥らせた結果、ドナウ川の輸送は完全に止まる。NATO軍は、この日ベオグラードを空爆せず。
・マケドニア共和国のスコピエで、NATO軍の空爆に抗議する集会があり、数千人が参加。
・クリントン米大統領は江沢民国家主席に対し、「大使館の爆撃は意図的なものではなく、あくまで誤爆である」と強調し、多数の死傷者が出たことについて遺憾の意を表明する謝罪書簡をワシントンの中国大使館を通じて送付する。
・チェルノムイルジン・ユーゴスラビア問題特使はボンでシュレーダー独首相やビルト国連特使らと会談後、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と電話で協議。その後記者団に、「ボンでの会談で新しい重要な局面が表された。それをミロシェヴィチ大統領に伝えたところ、非常に満足していた」と述べる。また、「国連こそユーゴ問題解決の主役」、「いまの最大の課題はNATO軍の空爆を止めることだ」とも述べる。
・ルゴヴァ・コソヴォ自治州大統領の側近のフェフミ・アガニの遺体が、プリシュティナ南方の村で発見される。
05/10:
・ユーゴ連邦軍最高司令部は、ユーゴ連邦軍および治安部隊の一部の部隊がコソヴォからの撤退を始めたと発表。コソヴォ自治州に駐留するユーゴ連邦側の兵力は4万人だといわれるが、そのうちのどの程度が撤退し始めたのかは明らかではない。
・オルブライト米国務長官は、ユーゴスラヴィア政府がコソヴォ自治州からの連邦軍と警察の一部撤退の表明について、「中途半端な撤退では不十分だ。明確で、検証可能な形の撤退が実現しない限り、我々が何らかの形の空爆停止をすることはない」と強硬姿勢を示す。
・NATO軍のシェイ報道官はユーゴ連邦軍の一部撤退について、「もし事実だとすれば空爆の効果が上がっているということだ。だが、NATOが要求する5条件が完全に受け入れられるまでは空爆を続行する」と述べる。
・クリントン米大統領は、「どんな小さな明かりや前進でも、これまでよりはましだ。言葉の上でも、良いことには勇気づけられる」と述べたが、あくまでユーゴ連邦軍の全軍撤退が前提であり、NATOの5条件をユーゴスラヴィアが呑まない限り空爆は続ける、との方針を強調。またクリントン米大統領はホワイトハウスでの演説の冒頭で中国大使館爆撃について、「中国の人民に謝罪する」と初めて公式の場で謝罪を表明。同時に、「このような悲劇的な過ちと、コソヴォの民族浄化のような組織的犯罪は区別されるべきだ」とも述べる。
・コーエン米国防長官は記者会見で中国大使館爆撃事件について、「NATO軍は中国大使館を攻撃する意図はなく、標的の選定に当たって幾つかの間違いが重なった。『1,攻撃目標だったユーゴ連邦兵器調達庁の場所を誤った。2,作戦で使った地図は中国大使館移転の翌年の1997年に改定されたが、大使館の位置はそのままだった』」と語る。これまで民間に及んだ攻撃は、12回しかないとも強調。
・中国政府は米政府に対し、「1,中国政府・人民・被害者家族への謝罪、2,全面的な調査、3,詳細な調査結果の公表、4,関係者の処分」など4項目の要求を伝えると共に、軍事交流の延期、人権対話の中止などの対抗措置を取る。
・江沢民国家主席は、エリツィン露大統領との電話会談でNATO軍の行動を、「徹頭徹尾の砲艦外交だ」と非難。
・クック英外相は下院の討議で中国大使館爆撃事件について、「誤りなしに、こうした大規模な軍事作戦は出来ない。今後、失敗がないと約束するのは正直ではない」と強気の発言をする。
・日本政府は、NATOの本部および米国大使館を通じ、「中国大使館に爆撃したような、人的、物的被害を出すことがないよう格段の注意を払ってほしい」と野中広務官房長官が申し入れたことを明らかにする。
・ロシア外務省筋は、コソヴォ自治州から連邦軍が撤退を開始するとのユーゴ連邦の決定に、「正しい方向に向けての大きな一歩である」と歓迎を表明。
・明石前国連事務次長はベオグラードを訪れ、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。ミロシェヴィチ大統領は、「コソヴォの治安は回復しており、軍や治安部隊の展開も空爆開始以前の段階まで回復することが可能だ」と述べ、さらに、「G8の提示した項目を大枠として認めたが、NATO軍の作戦に参加した国の駐留は認められない」と述べる。
・イタリアのカルファロ大統領は訪問先のマケドニアで、NATO軍が米国主導のユーゴ空爆を続ける現状を批判した上で、「空爆は停止すべきだ」と述べる。
・イタリア北部キオッジャ沖のアドリア海で漁師の網にコーラ缶のようなものが多数掛かり、爆発して3人が怪我を負う。
・コソヴォ解放軍・KLAの通信社コソヴァプレスは、ユーゴ連邦軍やセルビア治安部隊に撤退の動きはなく、逆に各地で新たな軍事作戦を始めている、と伝える。
・ブルガリアではドナウ川に隣接して原子力発電所が設置されているが、ミサイルなどの空爆への対策のために防空部隊を強化。
註;ドナウ川は物資輸送の大動脈だが、NATO軍の空爆でユーゴ国内の31の橋が破壊されて航行を妨げ、また誤爆を恐れて船は全く運航されていない。ドナウ川は工業用水や生活用水の供給源でもあるが、NATO軍のユーゴ空爆による精油所や化学工場の破壊で、領内から出る油のようなものが流れて汚染されている。
05/11:
・チェルノムイルジン露ユーゴ問題特使は北京を訪問し、江沢民国家主席、朱鎔基首相、銭其琛副首相と相次いで会談。江沢民国家主席は、「NATO軍が空爆を停止しなければ、どんな政治的解決も話のしようがないし、空証文になってしまう」と語り、銭其琛副首相は、「国連は武力の威嚇下で事を進めることはできない」と空爆停止とユーゴスラヴィアの同意を政治的解決に向ける絶対条件に挙げる。その上で国連を中心とした政治解決を図ることで一致する。G8外相会議の7項目合意については、「将来の解決策の基礎として検討する」との意向を中国指導部から取り付ける。
・中国から帰国したチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使は記者団に対し、「コソヴォ自治州に駐留する国連主導の国際部隊に中国が参加する可能性がある」と述べる。さらに、ユーゴ連邦軍のコソヴォ自治州からの撤退はNATO軍が同時に空爆を停止することと引き換えに合意が成立していたことを明らかにする。
・中国外務省の朱邦造報道局長は、在ユーゴスラヴィア中国大使館爆撃事件について、「NATOは政治的、法律的、道義的な全ての責任を負っており、刑事責任や民事賠償責任も含む」として、NATO側のあらゆる責任を追及していく方針を明らかにする。また、朱報道局長は、中国の学生の過激な行動を政府が支持しているとの欧米の見方について、「デモはすべて申請され、承認されたもので合法だ。中国政府は国際法や国内法に厳格に沿って外交官を保護している」と強調。
・中国は国連安保理に、NATO軍による中国大使館爆撃に対し、衝撃と遺憾の意を表明し、調査結果の十分な説明を求める新たな議長声明案を提出。沈国放次席国連大使は記者団に対し、「NATO軍による空爆の即時停止がコソヴォ問題の政治的解決の前提条件になる」と強調。
・ルービン米国務省報道官は中国大使館爆撃事件について、「大統領や国務長官は公式に謝罪した。徹底調査の終了後、中国に結果を伝える。処分について語るのは時期尚早だが、コーエン国防長官は『適切な対応を検討するだろう』と述べている」と語る。さらに報道官は、12日に予定されているタルボット米国務副長官とロシアのイワノフ外相、チェルノムイルジン・ユーゴ問題特使との会談が、「交渉の山場となる」と強調。
・NATO軍は、最大規模の空爆を行ない、高速道路と鉄道の橋8ヵ所、燃料貯蔵所3ヵ所、森に隠れた戦車や装甲車、大砲などを爆撃。出撃回数は623回。NATO軍のニシュの工場地帯への空爆で、視察中だったセルビア社会党のドゥシャン・マトコヴィチ副委員長が負傷する。
・シュレーダー独首相は中国を訪問し、G8で合意したコソヴォ紛争の政治的解決について中国首脳と会談。
・小渕日首相はユーゴ連邦軍の一部撤退について、「最終的には全面撤退でなければ合意には至らないと思う。ただ、一つの方向性を示すものなので今後を見守りたい」と述べる。
・日本の自民党の外交関係部会で外務省幹部は、コソヴォ・ユーゴ空爆について「国際法的にどう解釈するか、真に違法なのか、緊急避難などに該当するかどうか、もう少し検討する必要がある。はっきりいえるかどうかはなかなか難しい」と苦しい説明をする。
・ロックハ-ト米大統領報道官は、NATOの条件が満たされるまで空爆を続けると述べながらも、外交交渉を継続することも強調。
・ジョスパン仏左翼連立内閣を構成する「市民運動」、共産党、社会党左派、緑の党の4党の国会議員30人が、NATO軍による空爆停止、コソヴォ自治州紛争の平和的解決を求める緊急アピールをパリで発表。この緊急アピールには、伊、独、スウェーデン、ベルギー、オーストリアの左派系国会議員200人も署名。
・ユーゴスラヴィア当局は、スパイ容疑で身柄を拘束していたドイツ人の記者と学生の2人を釈放する。ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が釈放を決断したと説明された2人は、独民放SAT1のピット・シュニッツラー記者と政治学を専攻するボド・ウェッパー。シュニッツラー記者は4月4日に軍関係者から資料を受け取ったことがスパイ容疑とされたのだが、その資料は既に公開されたもの。
05/12:
・NATO軍は、ニシュなど5ヵ所で飛行場を攻撃するなどコソヴォ・ユーゴ空爆を最大規模で実行し、出撃は前回に続き600回を超え、攻撃を伴ったのは327回で、空爆開始以来の出撃回数は2万回に達す。
・ロビンソン国連人権高等弁務官はユーゴスラヴィア入りして記者会見し、「コソヴォ危機で生じた深刻な人権状況について調査してきたが、この機会に、無関係な市民に及んでいる空爆の被害状況を実際に確認したい」と述べ、NATO軍の空爆によって一般市民に死傷者が出た南部の主要都市ニシュなどを視察する意向を示す。
・ドイツ通信は、コソヴォ自治州の穏健派アルバニア系政治指導者のルゴヴァはドイツへの移住を希望している、と伝える。
・国連安保理は、非同盟諸国113ヵ国が提出したコソヴォ難民への援助強化と政治的解決を呼びかける人道援助決議案が、中国の反対で協議を先送りする。
・シラク仏大統領は、コソヴォ問題をロシア首脳と協議するために、モスクワを訪問。エリツィン露大統領がユーゴスラヴィアをめぐる交渉活動からの離脱に言及したことの真意をただすことと、プリマコフ露首相解任による内政の緊張下でもコソヴォ問題の調停で役割を果たすよう促すものと見られる。
・ソラナNATO事務総長はマケドニアのアルバニア系住民難民キャンプを訪れ、「難民が帰還するまでは、NATO軍は関与し続ける」と語る。
・ロックハート米大統領報道官は、ロシアのプリマコフ首相が突然解任されたことについて、「ロシアはこのところ、コソヴォ紛争の解決に建設的役割を果たしており、外交面の努力は続くだろう」と述べる。
・コーエン米国防長官は、「ユーゴスラヴィアの政府高官や軍幹部が家族を脱出させている。ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は、自分の国を政治、経済、軍事的な破滅に導いている事実を認めないかも知れないが、家族を逃がしている幹部たちは、明らかに現実を直視している」と空爆の効果が具体的な形となって現れ始めたと述べる。
・米国務省のセスタノヴィチ旧ソ連担当大使は、「ロシアでプリマコフ首相が解任されても、チェルノムイルジン・ユーゴ担当特使は大統領任命ポストなので内閣改造に影響されない、コソヴォ政策を決めているのはエリツィン大統領で、いまも完全な責任を負っている」と述べる。
・中国の江沢民国家主席はシュレーダー・ドイツ首相との会談で、「前事を忘れず、後の戒めとする」との確言を引用し、ドイツが過去の歴史を教訓とするよう求める。
・「ハーグ平和市民会議」が1899年第1回平和会議開催以来の100周年を記念し、オランダのハーグで開かれる。このNGO主催の会議は「21世紀の平和と正義」をテーマに、世界100ヵ国以上1万人が参加。分科会のテーマは、「コソヴォ・ユーゴ問題」、「軍縮と安全保障」、「国際人権、人道法」、「紛争防止と解決」、「紛争の根源」。「コソヴォ・ユーゴ問題」分会ではアルバニア系難民の女子学生が、「あなた方はコソヴォの現状を分かっていない。どうして空爆を止めろといえるのか。アルバニア系住民を助ける方法が他にあるのか」と叫び、圧倒的な空爆反対だった会場の雰囲気が沈黙に包まれる。この発言によって、予定されていた空爆反対声明は不発に終わる。あるドイツ人女性は、「ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領やNATO軍だけではない。平和運動もコソヴォで敗北している」と述べる。
註;このアルバニア人学生の発言に伴うやり取りには報じられなかった一面がある。ドイツの老婦人がアルバニア人女子学生に近寄り、抱きしめて「あなたの苦しみ、悲しみ、怒り、全てを私は理解します。でも空爆によって何が解決されるというのでしょう。毎日血が流れ、子ども達さえ殺されている。ユーゴスラヴィア、セルビアの人たちも、あなたと同じ苦しみにあっているのですよ」と話しかけ、しばらく抱き合っていた。女子学生はうなずいて席に戻っていった。この分科会で、日本のNGOが「NATO軍のユーゴ空爆の即時停止を求める声明を発表し、310人の参加者にアンケートをとった。「1,人道的武力介入を、支持する35,条件付き支持102,支持しない135。2,NATO軍によるユーゴ空爆を、支持する25,条件付き支持35,支持しない250」であった。
・朝日新聞に寄稿した斎藤ゆかりによると、イタリアではNATO軍ユーゴ空爆に対する賛否は国論を二分するほどのものとなっている。空爆支持は25%。NATO軍への協力を非軍事活動に限るべき50%、要請があれば参加も可能30%。ローマ法王を筆頭にして聖職者は60%が空爆を糾弾しているが、信者はそれを40%しか支持していない。少なからぬ進歩派知識人が空爆を正当化している。
・「南東欧安定会議」は5月27日に高級事務レベル協議が開かれることが決まり、日本政府も発言権のあるオブザーバーとして参加する。会議ではバルカン半島地域の、「1,民主化と人権問題。2,経済復興。3,域内外の安全保障」などについて協議することになる。
05/13:
・コソヴォ紛争での人道支援策を総合的に検討するため、アナン国連事務総長、緒方貞子難民高等弁務官、世界銀行、世界食糧計画、国連児童基金など国連関係諸機関のトップが集まり、高級レベル会合が行なわれる。14日には国際赤十字や非政府組織も参加することになる。会合では、「1,80万に達したコソヴォ難民や、家を追われた州内にとどまる避難民に対する緊急援助と冬に備えた緊急援助。2,和平が成立した後どのように難民を安全に帰還させるか。地雷除去や復興計画などの長期的対策。3,人権問題」などを協議する。会合の結果を踏まえ、セルジオ・ヒェイラ・デメロ人道・緊急援助調整担当事務次長を15日からコソヴォに派遣する。
・メアリー・ロビンソン国連人権高等弁務官はベオグラードで記者会見し、「コソヴォでの重大な人権侵害は放置しておけないが、空爆で無関係な市民に死傷者が出ていることも現実で、攻撃対象の設定について大きな懸念を抱かざるを得ない」と語る。
・ラブロフ・ロシア国連大使は国連本部で記者会見し、コソヴォ紛争の政治的解決を目指す国連安保理での決議案について、「NATO軍の空爆停止がなければ安保理での政治的解決は不可能だ」と断言。
・ユーゴ連邦軍は外国の現地記者団に対し、連邦軍のコソヴォからの一部撤退の移動の模様を公開する。コソヴォ自治州からセルビア側に出た連邦軍は250人。フランス通信によると、コソヴォ北東の州境の町メルダレからバスやトラックに分乗した120人がセルビア方面に向かって出発。その30分後に残りの兵士がバスに乗って同じ方向に向かっている。
・NATO軍のイェルツ報道官はユーゴ連邦軍が一部撤退を報道したことについて、「テレビ報道は見たが、規模がばからしいほど小さく、撤退を意味しない」と指摘。
・クリントン米大統領はユーゴスラヴィア情勢について国防大学で演説し、ミロシェヴィチ政権の民族浄化を批判する中で、第2次大戦中のナチス・ドイツによる「ホロコースト」に触れ、「2つは同じではないが、宗教的、民族的な憎悪に駆られ、凶暴で、計画的、組織的な抑圧を行なっているという意味では同類だ」と述べる。
・スイス外務省によると、スイス、ロシア、ギリシア3ヵ国合同による援助トラック6台が、マケドニア共和国のスコピエからプリシュティナに到着。
・モンテネグロ共和国議会のセルビア寄りの議員は、ユーゴ空爆下で親西欧の立場を採ってNATO加盟国の独仏などを歴訪しているジュカノヴィチ・モンテネグロ大統領を、「連邦政府に対する憲法上の義務違反」などを理由に解任する動議を提出。モンテネグロ議会はジュカノヴィチ派の議員が多数を占めているので、解任決議が採択される見込みはない。
・ドイツの緑の党の臨時大会で、ユーゴ空爆について激しい議論が交わされ、フィッシャー外相は赤い塗料を吹き付けられる。 緑の党の執行部はフィッシャー外相の外交努力を評価する一方、批判派はユーゴスラヴィアへの空爆の即時停止を主張して政権を激しく批判。フィッシャー独外相は、「90年連合・緑の党」の臨時党大会で、NATO軍によるユーゴ空爆の「即時停止決議案」が可決されれば、外相を辞任する考えを示唆。臨時党大会は執行部提案の、「期限付き空爆停止勧告決議」を444対318で採択。内容は、「1,NATO軍は期限付き空爆停止を宣言すべきである。2,ユーゴ連邦側はコソヴォでのアルバニア系住民の追放を止め、部隊の撤退を始めなければならない。3,ユーゴ連邦政府がこれを完遂するなら、空爆停止の延長もできる」などを明記。
・イタリア北部のベネチア沖で、NATO軍が投棄したと見られるコーラ缶のような爆弾が、漁網にかかるなどして相次いで見つかる。イタリア軍当局は現場海域を封鎖して調査を開始する。イタリアのANSA通信によると、ベネチアから40キロ離れた公海上で、網にパラシュート付きの円筒状の爆弾が100個以上見つかる。捜査関係者によると、爆弾は米国製のクラスター爆弾と見られ、米英空軍によって使用されたものという。
註;NATO19ヵ国が参加したユーゴ・コソヴォ空爆で、ユーゴスラヴィア全土の施設を無差別に爆撃したのは主に米・英軍機である。米英軍機は積み込んだ爆弾をほとんど投下して帰着したが、EU諸国はユーゴ・コソヴォ空爆に疑問を投げかけていたこともあり、EU諸国の空軍は爆撃を限定するという行為を取った。このため、投下しなかった爆弾を抱えたままで空港に着陸すると暴発する恐れがあるので、アドリア海に捨てて帰着する空軍機が続出する。NATO軍はアドリア海に6ヵ所の投棄地域を設定していたが、イタリア政府には知らされていなかった。この投棄された非人道的なクラスター爆弾などを網に引っかけた事件は既に4件起きており、暴発した爆弾の破片で負傷した漁師も出ている。そのため危険を避けて休漁する漁師も出ており、漁獲高が3割減となった。
05/14:
・NATO軍は、コソヴォ南西部で避難民を空爆。さらに、コソヴォ南部プリズレン近郊のコリシャ村をF16戦闘爆撃機がクラスター爆弾で爆撃し、アルバニア系住民150人が死亡、50人が負傷。また、主要都市の発電所5ヵ所などが標的にされる。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、コソヴォ自治州のコリシャ村がNATO軍の空爆を受け、多くのアルバニア系住民が少なくとも50人が死亡し、50人が負傷。コリシャ村の人口は3000人ほどで、住民のほとんどはアルバニア系。付近に軍事施設はないが住民は昼間近くの森に避難しており、夜になって戻ってきたところにクラスター爆弾8発が投下された。
・米国務省のルービン報道官は、コリシャ村での爆撃について「事実関係を調査中」としながら、「現場はセルビア部隊の激しい砲撃が行なわれた場所だ」と住民を死傷させたのはセルビア側の行為だった可能性を示唆。ベーコン米国防総省報道官も、「今回のセルビア側の報道については疑いを抱く十分な理由がある」と牽制する。
・アルバニア系コソヴォ解放軍・KLAの通信社コソヴァプレスは、NATO軍によるコリシャ村の犠牲について、犠牲者の多くは近くの村から強制的に連れ出され、セルビア検察官や民兵をNATO軍の空爆から護るための「人間の盾」にされていたと伝える。
・ユーゴ連邦当局によると、NATO軍による空爆開始以来、民間人の死亡は1200人、負傷は5000人に上る。13日未明から14日にかけてのNATO軍の出撃回数は過去最高の679回。3月24日の空爆開始からの出撃回数は、延べ2万772回。そのうち、爆撃を実行したのは、3分の1の7135回という。
・クリントン米大統領は、中国の江沢民国家主席に電話をかけ、ベオグラードの中国大使館爆撃事件について、改めて謝罪。ロックハート米大統領報道官によるとクリントン大統領は、「江沢民主席と中国国民に対する心からの遺憾の意とお悔やみ」を伝えるとともに、「今回の悲劇的な事件を乗り越えて、米中関係を前進させたい」との意向を示す。
・国連安保理は、中国が提出した「NATO軍による在ユーゴ中国大使館爆撃に対する『衝撃と遺憾』の意を表する」議長声明案を協議。米国側の意向により「悲しみと憂慮」で妥協が成立して、議長声明を採択。
・ロシアのチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使は、EU諸国がユーゴスラヴィアとの仲介に指名したアハティサーリ・フィンランド大統領と18日にユーゴスラヴィアのベオグラードを訪問すると表明。イタル・タス通信によるとこの会談にタルボット米国務副長官も参加する見通し。これに先立ち、チェルノムイルジン露特使は、シラク仏大統領とタルボット米国務副長官と会談。
・ジョン・スペラー英国防次官は、ユーゴ連邦当局がコソヴォ自治州内のアルバニア系住民をNATO軍の空爆目標になりそうな橋などに集め、空爆の盾にしていると批判。
・ジャンパー米国欧州空軍司令官は記者会見で、ユーゴ連邦軍の地対空ミサイルシステムは空爆開始時からほぼ半減させたが、携帯型地対空ミサイルが大量に導入されているので、アルバニアに配備した対戦車ヘリ・アパッチの投入を躊躇っていることを明らかにする。また同司令官は、ユーゴ空爆のやり方について、U2型機とプレデターで高々度から地上の写真を撮影して電送し、米本国の施設で数分以内に解析した後、出動中の空軍機に標的を指示するリアルタイム・システムを採用していると説明。
・国連諸機関の高級レベル会合は、コソヴォ難民の住居など冬に向けた準備を直ぐに開始すること、難民帰還や復興など中長期的計画策定に直ぐ取りかかるなどで合意。アナン国連事務総長は会議の中で、「コソヴォ和平は国連安保理を舞台とすべきだ。和平案は先進8ヵ国の案を基礎とすることで一般的合意ができている。国際的軍事力の駐留は安全確保のための条件」と述べる。
・朝日新聞は、NATO軍のユーゴ空爆に対する日本の主要政党の発言を掲載。石破茂自民党安保調査副会長は、「ユーゴ連邦のミロシェヴィチ大統領が殺戮、弾圧を繰り返してきたのは事実で、周辺諸国に難民があふれている。米国は日本の同盟国であり、同盟関係に重きを置くとすればかなり支持に近い理解であるべきだ」と述べる。藤田幸久民主党外務部会副部会長は、「軍事的手段に訴える前に、政治的、外交的手段をもっと尽くすべきだった。国連決議もないまま空爆を実行したことが解決を益々難しくしている。日本がやるべきことは人道重視の姿勢を明確にし、難民支援に積極的に参加していくことだ」と述べる。遠藤乙彦公明党基本政策部長は、「国連安保理決議のないままの空爆については法的には極めて疑問だ。日本政府の姿勢は、米国との同盟の立場から理解出来なくはないが、空爆停止を主張しても良いのではないか」と述べる。東祥三自由党外交・国防部長は、「空爆は国際法上の根拠がないといえばその通りだが、代替案があるのか。一国平和主義的な発想は変えなければいけない。私ならどこかの国から敵視されても支持すると言いたい」と述べる。松本善明共産党国会議員団総会副会長は、「空爆が国連憲章に違反しているのは明白ではないか。日本政府としては、はっきり空爆止めろ、平和的解決をしろ、というべきだ。主権の尊重、内政不干渉、武力の不行使といった原則に立ち、国際紛争を平和的に解決することが基本であるべき」と述べる。
・「ハーグ平和市民会議」において日本の国際法律家協会などNGO4団体が「NATO軍のユーゴ空爆の即時停止を求める声明」を出す。要旨;「1、NATOの空爆は新たな悲劇と憎悪を生み出しているのみで、容認できない。2、NATOの空爆は国連安保理決議の根拠を得ていない国際法違反の武力行使である。3、国際社会の秩序の維持と人権と正義の実現を、人間の理性と知性で行なうべきであり、空爆の即時停止を求める」。
・「国際行動センター」のラムゼイ・クラーク米元司法長官とサラ・フランダースらは、NATOの空爆を検証するためにユーゴスラヴィアに入る。
05/15:
・NATO軍は、コソヴォ自治州のコリシャ村近郊を爆撃した事実を確認し、「現場はユーゴ連邦軍の野営地で正当な軍事目標」との声明を発表。
・国際移住機構・IOMのマケドニア・スコピエ事務所によると、マケドニア共和国に滞在するコソヴォ難民は23万人で、この内27ヵ国への移送が4万5000人。トルコは5300人、ドイツは1万1000人。
・「ハーグ平和市民会議」は、最終日のこの日「21世紀の平和と正義のための課題・ハーグ・アジェンダ」を採択し、アナン国連事務総長に手渡す。このアジェンダは国連総会に提出されることになる。アジェンダの中に「公正な国際秩序のための基本10原則」を行動目標として掲げ、「第1項に、日本の憲法9条を見習い、各国議会は自国政府に戦争をさせないための決議をすべきだ」との文言を盛り込む。さらに、「2,各国政府に対し、政府、国際機関、市民社会の協力による新しい外交の追及。3,国際刑事裁判所設立条約と地雷禁止条約の批准。4,核軍縮交渉の進展。5,武力行使ではなく創造的な外交と国連の権威の尊重。6,小火器取引の規制。7,国際司法裁判所の裁判権の無条件受け入れ。8,平和教育の尊重。9,経済上の権利も重要な市民的権利として受け止めること。10,戦争回避のための世界行動計画を平和的な世界秩序の基礎とすること」などを提言。コソヴォ紛争については解釈に対立があり、何らのコンセンサスも得られず。
05/16:
・英日曜紙サンデー・タイムズは、先週ブレア英首相がクリントン米大統領に対し、コソヴォ自治州への地上軍投入を説得したが、米国の地上軍投入について同意が得られず、「強い不満を感じている」、と報じる。サンデー・テレグラフによると、英軍は既に、マケドニアとアルバニアに人道援助部隊として5000人を派遣しているが、戦闘部隊として2300人の出動態勢を固め、さらに2万人の投入態勢を準備中とのこと。
・ルービン米国務省報道官は記者会見で、ユーゴスラヴィアのインターネットへのアクセスを制限しないと、言明。
・イタリアの中道左派政権内で、NATO軍のユーゴ空爆への批判が強まる中、ダレーマ伊首相は、「ユーゴ連邦軍が撤退していない現場では停戦出来ない」との公開書簡を発表する。一方で、「国連安保理が国際平和維持部隊の派遣を決議した時点で空爆を停止する」との新たな考えを打ち出す。
・イタリアで、ペルージャからアッシジに向かう大規模なユーゴ空爆停止平和行進が10万人の市民が参加して実施されるなど、各地で平和・反戦集会が開かれる。
・日本では、空爆そのものに反対する市民やフットボール・ファンなど4団体が呼びかけて東京の檜町公園で集会を開き150人が参加。日比谷公園までのデモ行進の後、アメリカ大使館に「空爆反対」の署名を届ける。
05/17:
・EU外相理事会は、コソヴォ自治州のアルバニア系穏健派ルゴヴァ自治州大統領とモンテネグロのジュカノヴィチ大統領を招いた会合をブリュッセルで開く。EU理事会は、ルゴヴァに対して難民・避難民への最大限の支援および紛争解決後のコソヴォ暫定自治について、将来もこの地域の安定に政治的・軍事的に関わっていくと表明。ジュカノヴィチ・モンテネグロ大統領には、民主化路線を評価して経済支援を約束する。
・EU議長国のドイツのシュレーダー首相はフィンランドを訪問し、EU特使のアハティサーリ・フィンランド大統領とコソヴォ紛争の打開策について会談。会談後、アハティサーリEU特使は「NATO軍とユーゴスラヴィアとの紛争を平和的に解決するための基本方針を話し合った」と語る。
・コソヴォ解放軍・KLAに捕らえられ、米軍に引き渡されていたセルビア兵2人が、釈放される見通しとなる。
・セルビア共和国中部のクルシェバッツとアレクサンドロバツで、政府の戦争継続政策に反対する市民多数が、「棺桶でなく息子を返せ」などのスローガンを掲げる抗議集会を開き、政府与党側の人物を取り囲んだり、投石をする騒ぎを起こす。
05/18:
・中国の唐家璇外相は、日中友好議員連盟代表団との会談で、NATO軍のユーゴ空爆が、「4年前の地図を使って誤爆したというNATOの説明は、いかにもおかしい。こんないい方では子どもだって騙せない」と述べる。遅浩田国防相は、志摩篤元自衛隊陸上幕僚長らとの会談で「誤爆だ、誤ってやったというが、そういう解釈は絶対に許せない」と語る。
・イタリアのダレーマ首相はシュレーダー独首相と会談し、コソヴォ紛争などについて協議。主要8ヵ国G8の7項目原則を下敷きにした国連安保理決議案の採択を求めることで一致したことを明らかにする。ダレーマ首相は、「1,NATO軍は空爆停止に踏み切る。2,ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が決議に従わない場合、国連軍がユーゴスラヴィア側の同意なしに進駐する」とする新たな和平案を提示したが、シュレーダー首相は空爆停止については、「安保理決議の採択後に検討しなければならない」と述べる。
・訪日中のチェコのカバン外相はコソヴォ危機を打開するために、G8の7項目合意の実現に向けた調停案をギリシャと共同で作成し、近くユーゴ連邦のミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に提示する考えを明らかにする。
・ドイツ駐留米軍は、ドイツ・マンハイムの軍拘置施設に収容していたセルビア兵士2人を釈放する。
・チェルノムイルジン・ロシア特使とタルボット米国務副長官、アハティサーリEU特使の3者がコソヴォ紛争の和平案についてヘルシンキで会談。NATO軍の空爆停止問題について対立が解けず、19日に再度会談することになる。
・クリントン米大統領はユーゴスラヴィアへの地上軍派遣に関連し、「いかなる選択肢も排除すべきでない」と否定してきた地上軍派遣に含みを持たせる。
・セルビア中部の町のクルシェヴァツで、コソヴォ自治州への予備役動員に反対する市民数千人が集まり、抗議集会を開く。地元のテレビは、「特定の活動家が親たちを煽動し、利敵行為をしている。彼らに対して、戦時体制下で必要な法的手続きが進められている」とのユーゴ連邦軍クルシェヴァツ守備隊司令部の声明を伝える。
・クリントン米大統領は、セルビア軍の兵士2人の釈放を命令する。
05/19:
・ユーゴ国営タンユグ通信は、5月6日に主要8ヵ国G8の緊急外相会議で合意した「7原則」について、「積極的に評価しうる」との論評記事を配信。記事は、「1,ユーゴスラヴィアの主権と領土保全を認めている。2,問題の話し合いの場を国連に戻している。3,アルバニア系武装組織、コソヴォ解放軍の武装解除を予定している。4,ランブイエ合意案ではコソヴォだけでなくユーゴスラヴィア全体へのNATO軍の駐留を定めた秘密の軍事付属文書があったが、G8文書にはそれが言及されていない」などを積極的に評価。
・イタリア下院はコソヴォ紛争について集中審議し、国連安保理に和平協議の場が移った段階で停止すべきだとする決議を、一部野党の賛成を得て採択。ダレーマ伊首相は、ソラナNATO事務総長と20日に会談する予定を発表。
・ロシアのチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使とEUのアハティサーリ特使とタルボット米国務副長官の会談が18日に引き続き行なわれ、アハティサーリ・フィンランドEU特使は会談後、「大変満足のいく結果だった」と語る。
・ロシアのチェルノムイルジン特使は、ベオグラード入りしてミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。国営タンユグ通信によると、両者はG8の「7原則合意」を出発点として具体的な方針を定めることで合意したが、ユーゴ連邦軍およびセルビア治安部隊のコソヴォ自治州からの撤退や、国際部隊の展開などの詳細については詰め切れず。ロシアのイタル・タス通信によると、チェルノムイルジン露特使は記者団に対し、「政治解決への過程は国連の旗の下で進めることが大切だ。最大の難点は、ユーゴ連邦軍・セルビア治安部隊の完全撤退という要求と、国際部隊の展開にある」と指摘。
・シュレーダー独首相は、NATO本部でソラナNATO事務総長と会談。シュレーダー首相は、「空爆は徐々に効果を上げており、現時点で戦略を変える必要はない」と述べ、英国から出ている地上戦闘部隊の派遣案に強く反対する。
・シラク仏大統領はパリ北部の空軍司令部でコソヴォ情勢について、「外交、軍事両面で問題解決は近づいている」と述べる。
・G8は高級事務レベル会合をボンで開く。緊急外相会議でまとめた7原則合意を基にコソヴォに展開することになる「国際的な文民・治安部隊」の構成を詰めることになる。
・セルビア中部の町クルシェヴァツ出身の兵士たちが、コソヴォ自治州から数百人規模で集団脱走してクルシェヴァツに帰郷。きっかけは、クルシェヴァツの親たちが開いた抗議集会を当局が力で抑え込んだ、との情報が伝わったため。兵士たちは軍上層部に対し、「国境で侵略者から祖国を守って戦うのは構わないが、鳥のように殺される気にはなれない」と抗議。
・ベーコン米国防総省報道官は、セルビア軍兵士がコソヴォ自治州から脱走していることについて、500人から1000人がユーゴ連邦軍から離脱してクルシェヴァツに向かったことを確認した、と述べる。
・NATO軍の発表によると、2万5000回出撃したユーゴ・コソヴォ空爆の成果として、コソヴォ内のユーゴ連邦軍およびセルビア治安部隊の戦車など重装備の31%、固定式地対空ミサイルの75%、ミグ29戦闘機の70%、その他の戦闘機の34%、可動式ミサイル12%を破壊したと発表。ユーゴ連邦軍の重装備の3分の1しか破壊していない。
05/20:
・NATO軍は、ベオグラード市内の住宅地に大規模な爆撃をする。市南部のデディニエにあるミソヴィチ記念病院では、レーザー・ミサイル攻撃を受けて3人が死亡。産科病棟からは、妊産婦や新生児が避難する。この爆撃で、スウェーデンの大使公邸のドアや窓が壊れる被害が出る。
・リンド・スウェーデン外相は、「到底受け入れることはできない」とNATO軍を批判し、巻き添えで被害を受けたことについて釈明を求める姿勢を示す。
・NATO軍のシェイ報道官は、ユーゴ側がベオグラードの病院が攻撃されたと報道したことについて、同市内の兵舎を標的にした7発のレーザー誘導爆弾の内の1発が標的を500メートル外して建物に着弾したことを認めたが、その建物が病院かどうかは「確認出来ない」としている。
・ルーマニアのイリエスク大統領が訪日し、「NATO軍の空爆は、本質的には旧ソ連によるチェコスロヴァキアへの武力介入と同じだ」と批判。
・タルボット米国務副長官とEU特使のアハティサーリ・フィンランド大統領はモスクワを訪問し、チェルノムイルジン露ユーゴ問題特使と会談。この3者会談はG8の「7原則合意」のうち、コソヴォ自治州への国際治安部隊の編成やユーゴスラヴィアの軍・警察部隊の撤退規模などで米ロ間に見解の食い違いが残り、再度26日にモスクワで会談を再開する予定。
・オルブライト米国務長官とクック英外相は会談後にCNNテレビに出演し、「ユーゴスラヴィアへの地上軍投入問題をめぐる溝はない」と強調。クック英外相は、「然るべき時が来れば、難民を戻すために地上軍がユーゴスラヴィアに入る準備を進めるべきだ」と語る。オルブライト米国務長官は、「難民は、NATO軍を中核とする国際部隊の保護の下で帰還しなければならない。地上軍派遣の是非を見直すことでは、NATO加盟国の立場は一致している」と述べる。
・米連邦上院は、ユーゴ空爆の続行と米軍の態勢拡充のための119億ドルの追加支出を含む、総額150億ドルの補正歳出案を承認。
・ユーゴスラヴィアのベタ通信は、NATO軍によるベオグラード近郊のガソリンタンクへの空爆に伴う爆風で、近くのスイス、パキスタン、イスラエル、ハンガリー、ノルウェー、スペインの各大使公邸で窓ガラスが割れるなどの被害が出た、と伝える。
・イタリアのキオッジャのグアルニエーリ市長はスコニャミリオ国防相に対し、NATO軍がアドリア海に爆弾を投棄していることによる被害について、「関連産業も含めて市の経済は90%以上が漁業に依存している。休業補償などの対策を早急に講じてほしい」と申し入れる。
・クック英外相はワシントンを訪問し、ユーゴスラヴィアへの地上軍派遣について協議。
05/21:
・セルビア系のメディア・センターによると、コソヴォ自治州の北西部の町イストクにある刑務所がNATO軍の空爆を受け、少なくとも受刑者や職員ら19人が死亡し、10人が負傷。刑務所の収容者は、大半がアルバニア系の分離独立主義者やコソヴォ解放軍・KLAのメンバー。
・ギリシアのパパンドレウ外相およびスウェーデン元首相のビルト・コソヴォ担当国連特使が、モスクワでイワノフ露外相と会談。
・G8はボン郊外で高級事務レベル会合を開き、コソヴォ紛争について協議。議長国のドイツ政府は、「7項目合意」に基づいた国連安保理決議案の素案つくりを進めたい意向。
・NATO軍のクラーク欧州軍最高司令官はコーエン米国防長官と会い、夏から秋も空爆を続けなければならない状況を想定し、平和維持軍とは別に、地上軍のユーゴスラヴィア侵攻の準備も検討する必要がある、と伝える。
・ベーコン米国防総省報道官は、ユーゴスラヴィアが和平協定に応じれば直ぐにでもコソヴォに駐留できるように、4万5000人から5万人規模の平和維持軍をマケドニアにできるだけ早く集結させて置かなければならない、と述べる。
・ロックハート米大統領報道官は、在ベオグラード中国大使館誤爆事件に対する調査が終わり次第、政府特使を中国に派遣し、調査結果を説明する、と表明。
・ギリシア政府のレパス報道官は、トルコ軍機がユーゴ空爆のためにギリシア領空を通過することは拒否すると発表。
・朝日新聞によると、マケドニア国内に流入した難民キャンプは7ヵ所で、「ケア」、「オクスファム」、「国境なき医師団」を始め大小54のNGOが緊急支援活動を続けている。難民の中には「生活条件があまりにも悪い」と抗議集会を開いたりしている者もいるが、難民自身もキャンプのスタッフとして生き生きとして働いている。
05/22:
・旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷のルイーズ・アーバー首席検察官(カナダ)は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領をコソヴォに関する犯罪容疑で起訴すると発表。
・NATO軍は、ベオグラードの南50キロのラザレヴァツ近くにある火力発電所を攻撃して破壊。ベオグラードは停電に見舞われ、破壊された火力発電所の職員10人が負傷。ラザレヴァツ発電所以外のセルビア共和国内の発電・変電施設には、炭素繊維のグラファイト爆弾が投下されたため、各地への電力供給が不安定になり、各地は断続的な停電状態が続く。NATO軍はこれまで「攻撃目標は軍事関連だけで、セルビア市民は敵ではない」との公式見解を発表していたが、市民生活に直結した施設を攻撃目標にし始める。
・NATO軍は、コソヴォ西部のコサレにあるアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAの基地を21日に誤って爆撃したことを認める。このKLAの基地はユーゴ連邦軍の兵舎だったが、NATO軍が空爆を開始した直後の4月、コソヴォ解放軍・KLAが攻撃して占拠し、アルバニアからの補給基地として使用している。アルバニアのティラナに駐在する欧州安保協力機構・OSCEの監視員によると、この爆撃で少なくとも15人が負傷。
・NATO軍は、ハンガリーにFA18戦闘機24機を配備。今月末にはトルコにF15、F16戦闘機72機を、イタリアにA10攻撃機18機を配備し、空爆を強化する計画。
・アハティサーリEU特使は、アナン国連事務総長とスウェーデンのハルプスンドで会談し、3者会談について報告。
05/23:
・セルビア共和国のコソヴォ自治州から集団脱走した予備役兵士たちは復隊命令を不服とし、クルシェヴァァツで2000人以上が抗議集会を開く。ベオグラードで発行されている英文の「ニュース・レター」の情報では、警察や軍当局は表立って規制せず、当局が「要求については25日に回答する」との条件を告げたために夜になって解散する。
・ドイツの新大統領に就任したヨハネス・ラウ・ヘルツォーグは受諾演説で、コソヴォ・ユーゴ紛争について触れ、「戦争を長く続けてはならず、外交努力による解決を願う。首相の姿勢に賛成する」と語る。
・シャーピン独国防相は訪問先のマケドニア共和国でNATO本部と結んだ記者会見を行ない、G8首脳会議でのコソヴォ紛争の政治解決に強い期待を表明。
・コソヴォ自治州唯一のアルバニア系ラジオ局「rtv21」が、マケドニアのスコピエで放送を再開。「rtv21」は昨年コソヴォで初のインターネットの音声機能を使ったラジオ局として開局したが、NATO軍の空爆で3月末から活動を停止。現在のニュースはマケドニア、アルバニア、モンテネグロ、ブリュッセルのNATO本部で特派員が取材を続けている。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、NATO軍はセルビア共和国内の主な発電施設のオブレノヴァツ火力発電所および北部のノヴィ・サド、南部ニシュにある発電所や高圧送電線を爆撃。首都圏をはじめとする国内の大半が停電する。電力不足の影響で配水施設が深刻な打撃を受け、広範な地域で断水が続く。ベオグラードでは貯水量が通常の10%にまで低下し、給水できているのは市内の40%程度。セルビア電力当局は、病院や水道局、製パン工場、市電などの優先消費者に向けて電力供給を回復させるよう努力している、と発表。
ベオグラードで発行されている英文の「ニュース・レター」によると、コソヴォ自治州から脱走した予備役兵士らはセルビア共和国のクルシェヴァツで抗議集会を開き、2000人が参加。
05/24:
・米ニューズ・ウィーク誌は、ユーゴ空爆の打開策としてクリントン米大統領は、このほど地上作戦としてCIAによるにコソヴォ解放軍・KLAの訓練にゴーサインを出した、とCIA当局幹部の情報として伝える。同誌によると、「1,コソヴォ解放軍を訓練する。2,電話線の切断やユーゴ軍関連施設の爆破、ガソリン貯蔵施設への不純物混入などの破壊工作。3,ハッカーを使ってミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の国外銀行口座に侵入し預金を引き出すなどのサイバー戦争を実行させる」ことなど。
・ユーゴ国営放送によると、NATO軍が爆撃したコソヴォの刑務所の被害は、死者100人、負傷者200人に達する。
・ロシアのチェルノムイルジン・ユーゴ問題特使は、27日にベオグラードを訪問してミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と協議すると発表。
・ヨバノヴィチ・ユーゴ連邦国連大使は国連本部で記者会見し、コソヴォ紛争の政治的解決を目指す主要8ヵ国G8が作成に取り組む国連安全保障理事会の決議案について、「国連憲章第7章の下のものであれば拒否する」と述べる。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の起訴理由を公表。起訴理由;「98年11月から99年6月10日までの間、アルバニア系住民に対するテロ・暴力の軍事行動を計画、扇動、命令をした。ユーゴ連邦とセルビア共和国治安部隊は、武力により組織的かつ強制的に74万人のアルバニア系住民をコソヴォから追放し、財産を略奪した。99年5月27日ごろ、イズビチャ村で住民130人が銃殺された事件や、ラチャク村の虐殺など12件で、数百人のアルバニア系住民を殺害した。①,交戦規則・慣習違反。②,人道に対する罪」など。このとき起訴されたのは、ミラン・ミルティノヴィチ・セルビア共和国大統領、ヴライコ・ストイリュコヴィチ・セルビア内相、ニコラ・シャイノヴィチ連邦副首相、ドラゴリュウブ・オイダニッチ・ユーゴ軍参謀総長の5名。
・フランスのジャン・P・シュヴェヌマン内相はICTYの起訴に対し、「政治的なものに取って代わって、似非モラルの幻想」と批判。
・ドイツのヘルツォーク大統領は、ドイツ建国基本法公布50周年記念式典でコソヴォ紛争に触れ、「人間の尊厳不可侵は、ドイツの国境の外でも有効であるべきだ。人権のための出撃は、ドイツ外交政策の中心の考え方だ」と述べる。
・シャーピング・ドイツ国防省は、6月のG8首脳会議でのコソヴォ紛争の政治解決に強い期待を表明。
・クリントン米大統領は、シラク仏大統領とブレア英首相に「旧ユーゴ国際戦犯法廷」がミロシャヴィチ・ユーゴ大統領を起訴したことに関し、歓迎の電話をかける。
註;旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷のミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と側近の訴追の証拠は、ほとんどが米国務省から出されたもので、その内容の多くは空爆が始まった3月24日以降のもの。
05/25:
・中国の遅国防相はICTYの起訴について、「何を覇権主義、強権政治、砲艦政策と呼ぶのか、人々にはっきりと見せ
た」と非難。
・朝日新聞によると、コソヴォ・ユーゴ紛争に関わる各首脳の立場は次の通り
「コソヴォへの地上部隊派遣」について;
ブレア英首相は「ユーゴ連邦軍が弱体化した時点で投入を積極的に主張」。
クリントン米大統領は「米兵の犠牲を恐れて反対」。シラク仏大統領は「空爆が効果を上げつつあり、外交努力との組み合わせを重視して反対」。シュレーダー独首相は「空爆は徐々に効果を上げており、地上部隊派遣の議会承認が困難」。
ダレーマ伊首相は「国連安保理決議に基づく和平案を、ユーゴ連邦軍が拒否した場合は検討する」。エリツィン露大統領は「絶対反対」。
「ユーゴ空爆停止」について;
ブレア英首相は、「ユーゴ軍が撤退しない限り空爆を続行する」。
クリントン米大統領は、「ブレア英首相と同じ」。
シラク仏大統領は、「米英と同じだが、世論は空爆停止が上昇」。
シュレーダー独首相は、「現時点では米英と同じだが、連立政権内に空爆反対論がある」。
ダレーマ伊首相は、「安保理決議案がまとまり、中国への根回しが済んだ時点で停止」。
エリツィン露大統領は、「安保理決議案を成立させるための条件が整っていない」。
「国際治安部隊のコソヴォ駐留」について:
クリントン米大統領、ブレア英首相、シラク仏大統領、シュレーダー独首相、ダレーマ伊首相は、「主要8ヵ国外相会議で、国連安保理決議を受けた文民・治安部隊の駐留は合意している。ロシアなどを含めた国際治安部隊を編成するが、その中核はNATO軍とする」。
エリツィン露大統領は、「G8案に合意するが、NATO軍色は極力薄める」。
「ユーゴ連邦軍および治安部隊」について;
クリントン米大統領、ブレア英首相、シラク仏大統領、シュレーダー独首相、ダレーマ伊首相は、「国境警察とセルビア人保護に最低限の要員を残して全面撤退させる」。
エリツィン大統領は、「相当数の軍や治安部隊の残留」を主張。
・NATOは大使級理事会を開き、対ユーゴスラヴィア空爆停止後にコソヴォに派遣する国際治安部隊を5万人規模とする作戦計画を承認。
・中露は、第3回軍事専門家会議を開く。
05/26:
・チェルノムイルジン露特使とタルボット米国務副長官およびアハティサーリ・EU特使はモスクワで3者協議に入る。G8の「7原則合意」の中でNATOとロシア間に隔たりが残るが、コソヴォ自治州からのユーゴ連邦軍およびセルビア警察部隊の撤退などの調整が進めば、27日にもベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談することになる。
・シェイNATO報道官は、ユーゴスラヴィアへの石油輸入を阻むため、アドリア海で船舶検査を実施する基本計画を、NATO理事会が承認したことを明らかにする。
・経済協力開発機構・OECDは閣僚理事会を開き、コソヴォ自治州紛争終結後の復興支援策について議論。難民支援やコソヴォ難民を受け入れている周辺バルカン諸国に対してマクロ経済分析や政治改革、構造改革、社会政策について助言するなど、地域の安定に貢献していくことなどで合意。
・ダレーマ伊首相は、上院本会議でコソヴォ問題を審議した際、「ユーゴ連邦側部隊の撤退と国際部隊の派遣を求める国連安保理決議を準備しなければならない」と述べる。
・ユーゴ連邦の国連代表部筋は朝日新聞記者に対し、「ダレーマ伊首相の発言が事実とすれば、1,NATO側が政治的解決の選択肢を捨てて全面降伏まで軍事行動を続けることにした。2,ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領個人を追いつめる方針を明確にし、NATO側の求める方向で政治的解決を受諾するよう圧力をかけた。この2点が考えられる」との受け止め方を示す。
・国連人道援助調査団のデメロ団長はベオグラードで記者会見し、ユーゴスラヴィア全土を調査した結果として、コソヴォ自治州からの難民流出について、組織的な迫害があったとの見方を示す。一方、NATO軍による空爆についても市民生活に深刻な影響を及ぼしていると指摘。デメロ団長は、「空爆という異常な状況下で、民間人や武装部隊の一部が常軌を逸した無責任な行動に奔ったとしても、コソヴォでのアルバニア系住民に対する脅し、暴力、その家や商店への放火などは、それだけでは説明できない」と主張。
・日本の56の市民団体が連名で「NATO軍による空爆の即時停止を求める」NGOの声明を発表し、衆・参両議院の外交・防衛委員会、およびNATO加盟国の各国大使館に送付する。
05/27:
・旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷・ICTYは、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領など5人を正式に起訴したと発表。起訴したのは、ミロシェヴィチ大統領の他、ミルティノヴィチ・セルビア共和国大統領、シャイノヴィチ・ユーゴ連邦副首相、オイダニッチ・ユーゴ連邦軍参謀総長、ストイリュコヴィチ・セルビア内相の4人。起訴事実の要旨;「1999年初めから起訴の日までの間、スロボダン・ミロシェヴィチら5人はコソヴォ自治州のアルバニア系住民に対する恐怖と暴力の組織活動を計画し、煽動し、命令し、実施し、さもなければ支援し、教唆した。この活動は5人の指示、督励、援助の下、ユーゴ連邦とセルビアの兵力によって行なわれた。作戦の目的は、コソヴォからアルバニア系住民の相当部分を取り除き、この地域へのセルビアの継続的支配を確固たるものにすることだった。目的達成のため、ユーゴ連邦軍とセルビア軍は後述の通り綿密な作戦行動に出た」とし、コソヴォ自治州のアルバニア系住民に対する殺人や迫害など人道に対する罪と戦争法違反で起訴し、国際逮捕状を出した、と発表。現在までに、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYに起訴されたのは84人。7割以上がセルビア人で、判決が出たのは4人。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのアーバー首席検察官は記者会見で、「捜査は継続中だが、この5人を重大な犯罪で起訴するに足る十分な証拠が揃った、と先週末に判断した。信頼出来る、長続きする平和は、重大な罪を犯しても罰せられずにすむような不正の上に築くことはできない」と語る。
・ブレジンスキー米元大統領安全保障担当補佐官は、「起訴は、地上軍配備の議論を法的、道義的に補強する」と述べる。
・ロシア外務省筋は、イタル・タス通信に対し、旧ユーゴスラヴィアの戦争犯罪法廷にミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が起訴されたことについて、「そうした決定がなされたのなら、明らかに政治的であり、ユーゴスラヴィア危機を平和的に解決する努力の挫折を狙ったものだ」と批判。
・国連安保理でロシアは、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領を旧ユーゴ国際戦犯法廷が起訴した問題を取り上げ、「政治的動機に基づく決定だったとの印象を拭えない」と批判。
・中国国連代表部は、ロシアの見解を支持する。
・クリントン米大統領は、「旧ユーゴ国際戦犯法廷」がミロシェヴィチ・ユーゴ大統領を起訴したことについて、「コソヴォにおける我々の戦争の大義が正当であることを世界に伝えた。残虐行為の犠牲となった何十万人ものコソヴォ住民の声が届いた。弾圧を支持した者の責任を問うことは、将来の戦争犯罪を防ぐことになる」と歓迎するとともに、ユーゴ空爆を続ける意向を示す。
・オルブライト米国務長官は、「紛争の過程でミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の免責取引に応じる可能性はない。国家元首が戦犯法廷に起訴されるという史上初の事態を受けてもなお、ユーゴスラヴィアの体制が将来も続くとは想像しがたい」と指摘。
・シラク仏大統領はテレビで演説し、「民族浄化を止めさせようとする我々の戦いが正当化された」と述べる。
・中国外務省の朱邦造報道局長は、旧ユーゴ国際戦犯法廷がミロシェヴィチ・ユーゴ大統領を起訴したことについて、「コソヴォ問題の政治的解決に影響を与えるものであり、注視している」と述べる。
・マティッチ・ユーゴ政府無任所相は記者会見で、「同法廷は政治的な目的によって設立された私設の裁判所に過ぎない。平和的解決に向けた外交交渉を停滞させることを狙った宣伝工作だ」と非難。
・米連邦下院の民主党議員28人は連名でクリントン米大統領に書簡を送り、「空爆を72時間停止し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領にコソヴォからの兵力撤退の機会を与えるべきだ」と訴える。
・南東欧安定化会議の初会合がボンで開かれ、EU各国、米国、ロシア、日本、カナダ、アルバニア、マケドニアなど当事国を含め30ヵ国の外務省高官、NATO代表が参加し、コソヴォ自治州紛争の戦後復興を視野に入れ、バルカン半島の長期安定策を話し合う。
05/28:
・チェルノムイルジン・ロシア特使はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。ユーゴ国営タンユグ通信は、G8の「7原則合意」を踏まえ国連憲章に沿った形で、安保理決議採択に合意したと伝える。ロシアのイタル・タス通信によると、会談にはロシア軍やユーゴ連邦軍の制服組も参加してコソヴォからのユーゴ連邦軍・治安部隊の撤退や国際治安部隊問題についても具体的な話し合いが行なわれ、チェルノムイルジン特使は、「全ての課題について詳細な話し合いができた。大変満足している」と述べる。
・EU15ヵ国とNATOに加盟しているものの非EUの欧州6ヵ国が、ボンで非公式国防相会議を開き、西欧同盟・WEUを2000年までにEUに統合する構想について協議する。将来は「欧州合同軍」を目指すこの構想に、中立国のオーストリア、スウェーデン、フィンランド、アイルランドが反対の態度を表明したが、これにはユーゴ空爆への懸念があるとみられ、英独仏などとの考え方の隔たりが明らかとなる。
05/29:
・ユーゴ連邦軍の軍事法廷は、NATO軍のための情報活動に関わったとして、人道援助団体「ケア」ユーゴ支部長のスティーブン・プラットら2人のオーストラリア人とユーゴスラヴィア人の3人を、スパイ罪で4年から12年の禁固刑を言い渡す。
・ケア・オーストラリアの広報担当者は、「政治的に仕組まれた不当な判決だ」と批判し、直ちに控訴したことを明らかにする。
・シラク仏大統領とシュレーダー独首相は、28日にチェルノムイルジン露特使とミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の会談で、G8の提示した7原則を踏まえた国連安保理決議採択で合意したとの報道に接し、緊急にG8会議を開くべきだとの声明を発表。独仏両国は、「我々の求めている諸原則に則った政治的解決につながるかどうかを調べる必要があると考えるため」としている。
・ロシアを訪問中の高村正彦日外相は、ステパシン露首相、イワノフ露外相と相次いで会談し、ロシアが仲介を務めているコソヴォ紛争について、ロシアの努力を高く評価。
・ロシアのイタル・タス通信は消息筋の話として、チェルノムイルジン露特使は28日にミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談した際に新たな提案をし、ユーゴ連邦側が完全に同意した、と伝える。提案内容は、NATO軍の空爆停止とコソヴォ自治州からのユーゴ連邦軍・セルビア治安部隊の削減後に展開する国連主導の平和維持軍を3つの構成に分類し、「1,空爆に参加しているNATO加盟国は、アルバニアとマケドニアの領土内でコソヴォ解放軍兵士の流入や難民支援を実施する。2,空爆に参加していないNATO加盟国はコソヴォの国境付近で治安維持に当たる。3,ロシアや独立国家共同体・CIS諸国など中立的な国々がコソヴォ中心部に駐留する」。
・中南米の14の国や地域代表で構成する「リオ・グループ」の年次首脳会議がメキシコ市で開かれる。会議後の会見で、ウルグアイのサンギネティ大統領はユーゴ空爆に言及し、「NATO軍が防衛的な同盟から攻撃的な姿勢に変わって来ているのではないか」、と出席した首脳間で懸念が表明されたことを明らかにする。
05/30:
・NATO軍は、セルビア全土に大規模な爆撃を実行する。セルビア全土でセルビア正教の「3人の聖者の日」が行なわれる中、中部バルバリンの町を流れるモラバ川にかかる橋がミサイル攻撃で破壊され、通行していた礼拝参加者ら市民11人が死亡し、多数が負傷する。さらに、NATO軍はセルビアの首都ベオグラード南東のアバラ周辺など、首都近郊の複数地点を爆撃。中部ヤケシ村の祝祭でも、NATO軍の空爆で多数の死者が出る。
・NATO軍は、バルバリンの橋への攻撃について、「4機の作戦機が、重要な通信網であり、正当な標的である橋を攻撃した。セルビア側の報道にある負傷者数は確認出来ない」とする声明を発表。
・一方、アルバニア国境地帯で、ユーゴ連邦軍とコソヴォ解放軍との間で激しい戦闘が展開される。
・コソヴォのプリシュティナにあるセルビア系広報機関「メディア・センター」によると、コソヴォ南部のマケドニア国境近くを走っていた欧州のジャーナリストらの車列がNATO軍の空爆を受け、セルビア人の運転手1人が死亡、英タイムズ紙の特派員とフランス人の学者が負傷。車列が攻撃された場所は、マケドニア国境の山岳地帯のリゾート地ブレゾヴィツァからコソヴォ南部の都市プリズレンに通じる山道。ジャーナリストたちは前日の空爆地点を取材するために向かっていたのだが、イタリアの記者やポルトガルのテレビクルーも一緒に走行中だったという。
・英日曜紙「オブザーバー」と「サンデー・テレグラフ」は、27日に米・英・独・仏・伊の国防相がボンで秘密会議を開き、コソヴォ自治州に15万人規模の地上軍を派遣する計画について協議した、と報じる。秘密会合は、西欧同盟・WEUの会議でボンに集まった英・仏・独・伊の国防相にコーエン米国防長官とNATOのクラーク欧州軍最高司令官が参加。「コソヴォからのセルビア部隊排除には15万人規模の地上軍が必要」とする計画を協議し、3週間以内に派遣を最終決定するとしている。英国防省は、「ユーゴ空爆強化が会合の主要議題だった」と地上軍計画は否定。
・神戸で、ユーゴスラヴィア・ベオグラードの独立系ラジオ局「B92」が提唱し、96年から始められた「国際新音楽祭フェスティバル・リング・リング」に連帯する音楽祭が、「神戸アートビレッジセンター・ヒットパレット」主催で開かれる。呼びかけたベオグラードのラジオ局「B92」は、NATO軍の空爆下にあり、ラジオ局が政府に接収されたために開催できない状態にある。
05/31:
・ユーゴ南東部の都市スルドゥリツァの老人ホームと結核療養所5棟に、5発のミサイルが命中し、少なくとも11人が死亡。
・NATOのシェイ報道官はスルドリツァの療養所爆撃で11人が死亡したことについて、「正当な標的である兵舎を正確に爆撃した以上の情報は得ていない」と述べる。
・ロビンソン国連人権高等弁務官は、「コソヴォの人権状況」報告書を提出。それによると、「1,ユーゴ連邦政府軍や民兵によるアルバニア系コソヴォ住民に対する強制追放、処刑、暴力、レイプ等は事実である。2,強制追放は周到に計画されたもので、コソヴォ難民発生の責任がNATO軍の空爆にあるとするのは誤り。3,NATO軍の空爆によってユーゴスラヴィア市民にも大きな被害が出ている。ユーゴ連邦政府は市民の死者1200人以上、負傷者4500人としている。4,アルバニアの難民キャンプで不法出国、買春、子ども誘拐などの犯罪行為が行なわれるなど、周辺国に収容された難民の人権侵害も多い」と記述。その上で、ユーゴ連邦政府に対し、全ての軍事力のコソヴォ自治州からの撤退を求めると共に、NATO軍に対しても空爆の際の国際人権法の尊重を求める。
・クリントン米大統領は、ロシアのステパシン首相と電話で会談し、ユーゴスラヴィアがG8の和平原則を受け入れたことなどの説明を受ける。その後国立アーリントン墓地で、「ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領はNATO軍を中核とする国際部隊の配備を受け入れなければならない」と演説。
・ロシアのステパシン首相は、チェルノムイルジン露特使の28日のベオグラード訪問で、「ユーゴスラヴィア情勢の袋小路に有望な出口が現れた」と述べる。ロシアのイタル・タス通信によると、チェルノムイルジン特使は1日にボンでアハティサーリEU特使、タルボット米国務副長官との会談を開く予定。
・EU外相理事会は、ユーゴ連邦当局がG8の「和平7原則」を受け入れる意向と伝えられた問題で、アハティサーリEU特使をユーゴスラヴィアに派遣し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の意思を直接確かめることを決める。
・欧州安全保障協力機構・OSCEのティラナ事務所によると、ユーゴ連邦側からと見られる砲撃で、アルバニア側のモリーナ検問所近くの国境詰め所が破壊される。コソヴォとアルバニア国境地帯で、ユーゴ連邦軍およびセルビア治安部隊とコソヴォ解放軍・KLAとの間で激しい戦闘が続いている。
・日本の小杉隆自民党国会議員は29日からユーゴスラヴィアを訪問し、ヨバノヴィチ・ユーゴ外相と会談。会談で小杉衆院議員は、「1,NATO軍の攻撃は国際法に違反している疑いが濃い。2,コソヴォ問題はユーゴスラヴィアの内政問題である。3,空爆は一般市民の生活に重大な影響を与えており、人道に違反する」との認識を伝える。ヨバノヴィチ外相は、コソヴォ難民帰還支援の駐留部隊は国連の指揮下にある部隊なら受け入れに同意すると語る。
・ベオグラードのラジオ局が提唱した「国際新音楽祭フェスティバル・リング・リング」に連帯したソロ・ピアノコンサートが、神戸に次いで札幌の「ヤマハ・アベニューホール」で開かれる。
05/00:
・コソヴォ自治州プリシュティナ市の北西コソフスカ・ミトロビツァがミサイル攻撃され、住民多数が死傷。ホテル・ユーゴスラヴィアが爆撃され全館が炎上する。
・ロシア政府は、NATOのユーゴ・コソヴォ空爆に対応するため安全保障会議を開き、現在の国家安全保障概念の見直しを検討。ウラジミール・プーチン安全保障会議書記は、「外国の軍事侵攻を想定していない現在の国家安全保障概念を見直さなければならない」と述べる
06/01:
・NATOは理事会を開き、コソヴォ派遣の治安部隊の規模などについて協議する。加盟19ヵ国とパートナー国11ヵ国が集まり、「部隊編成会議」を開き、総勢4万8000人規模の各国別割当を決める。マケドニアには既に先遣隊1万6000人が駐留している。
・ロシアのチェルノムイルジン特使は、アハティサーリEU特使およびタルボット米国務副長官とボン郊外で会談。途中からシュレーダー独首相も参加。会談では、ロシアが用意している新提案を軸に、G8の「和平7原則」合意を肉付けする方向で調整するものと見られる。チェルノムイルジン特使は、「今週は、紛争を戦闘状態から平和的解決へ転換する節目となろう」と述べる。
・チェルノムイルジン露特使、アハティサーリEU特使、タルボット米国務副長官、シュレーダー独首相はそろって記者会見したが会談の内容には触れず。シュレーダー独首相は、「実質的な進展があった」と強調し、アハティサーリEU特使はさらに協議を続けることが必要だとの認識を示す。
・NATO軍は、ユーゴ連邦軍拠点を狙った爆弾がコソヴォ自治州国境に近いアルバニア北西部のアルバニア軍の機関銃座に誤って爆弾を投下したことを認める。
・ユーゴスラヴィアの独立系BETA通信によると、ユーゴ連邦軍空軍司令部は、リュビサ・ベリチュコヴィチ空軍副司令官が戦死したとの声明を発表。
・EUのスポーツ担当相は、コソヴォ問題についての対応を協議し、ユーゴスラヴィアを欧州で開催される全てのスポーツ協議会に出場させないよう呼びかける。15ヵ国の内、フランスは同調せず。
06/02:
・EUの特使としてアハティサーリ・フィンランド大統領とロシア特使のチェルノムイルジン露元首相がユーゴスラヴィア入りし、和平についてミロシェヴィチ・ユーゴ大統領と会談。アハティサーリEU特使はこの会談に先立ち、急遽タルボット米国務副長官と会談。ユーゴ連邦側との第1回会談後フィンランドの同行筋は、「ユーゴ連邦側は複数の疑問を出し、持ち帰って検討する方針を示した」と述べる。
・シラク仏大統領は、欧米とロシアが和平案をまとめたことは、「間違いなく政治解決に向けて大きく扉を開くものだ」と評価。
・NATOのシェイ報道官は、空爆停止後にコソヴォ自治州に派遣する国連治安部隊について、前日の会議でNATO加盟国19ヵ国、その他11ヵ国の30ヵ国が計4万7868人の派遣を申し出た、と発表。内訳は部隊の指揮を執る英国がジャクソン司令官の下に1万人、米・英・独・仏がそれぞれ7000人規模になる。報道官は、「ユーゴ連邦軍が撤退を開始し次第、展開出来るよう周辺諸国と通過、輸送経路などについて協議している」と述べる。
・クリントン米大統領は、コソヴォ自治州への国際治安部隊に7000人を派遣する、中核部隊と司令部はすでにアルバニアとマケドニアにあり、数時間でコソヴォ自治州に配備出来る態勢になっていると発表。
・OSCEのボッレベック議長はオスロで記者会見し、昨98年10月に結成された「コソヴォ停戦合意検証団・KVM」の解散を発表。「空爆停止後の文民活動に備え、150人規模の新組織に再編し、文民活動に専念する」と述べる。
・国連のデメロ人道問題局長は安全保障理事会に対し、「コソヴォのアルバニア系住民を永遠に排除するための、セルビア当局による組織的で計画的な暴力を示す決定的な証拠が見つかった」と報告。さらに記者会見で、「コソヴォを含むユーゴスラヴィアに援助食糧を陸送する許可をユーゴ連邦当局から得た」としてアナン国連事務総長に定期的な輸送計画を勧告する意向を明らかにする。
・アナン国連事務総長は国連本部の記者会見で、「元国連総会議長が、あなたのことを精神的に落ち込んでいると言っていたが」と尋ねられ、「我々が落ち込み、不幸で、やや途方に暮れたとしても、それは正当だと思う。誰が落ち込まずにいられようか」と答える。
・国際司法裁判所・ICJは、ユーゴスラヴィア連邦が、「NATO軍の空爆は国際法違反」だとして10ヵ国を相手に即時停止と損害賠償を求めた仮保全措置申請に対し、米国とスペインは管轄権が欠如しているとして除いたうえで、「ICJの管轄権が存在せず、仮保全検討のための充分な証拠がない」とし、暫定措置がないと却下。ただし、ウィラマントリー裁判長は、「ユーゴスラヴィアに対する武力行使は国際法上、重大な問題を提起した」と述べ、国連安保理決議なしのNATO軍の武力行使には懸念を表明。同裁判長はコソヴォ問題に対し、「訴訟の背景となったコソヴォの人命の損失と人々の苦痛を深く懸念している」と付け加た上で、「いかなる紛争も平和的手段によって解決されるべきで、当事国は紛争を悪化させないよう努力しなければならない」と強調。
・ロシアのイワノフ外相は中国を訪問し、江沢民国家主席、朱鎔基首相、唐家璇外相と相次いで会談。中ロ共同コミュニケで、「NATO軍による空爆の即時停止が政治解決の必要条件であり、国連が解決への役割を果たす」との立場を確認。また旧ユーゴ国際戦犯法廷がミロシェヴィチ・ユーゴ大統領らを起訴したことについて、「政治的行為と見なさざるを得ず、和平協議をより複雑にするだけだ」と批判。
06/03:
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は、アハティサーリEU特使とチェルノムイルジン・ロシア特使に対し、米・欧・露のコソヴォ和平案を受け入れると伝える。
・ユーゴ連邦議会と政府は激論を経て、アハティサーリEU特使とチェルノムイルジン露特使が前日に提示した和平案を承認する。和平案の要旨;「コソヴォ自治州内の暴力・迫害行為を検証する。2.ユーゴ連邦軍、警察、民兵はコソヴォ自治州から迅速に撤退する。3,国連憲章第7章に基づいて、コソヴォ自治州へ国際的な治安部隊、文民を展開する。4,国際部隊にはNATO軍の参加は不可欠で、その統一指揮下に置き、コソヴォ自治州の住民の安全と難民帰還のために活動する。5,国連安保理の決議に基づく暫定的統治機構を設置し、コソヴォの自治権を確立する。6,国際部隊との連絡調整、地雷撤去、国境管理のために、数百人規模のセルビア部隊の復帰を求める。7,UNHCRの下での難民、避難民の安全かつ自由な帰還と人道団体の自由な活動を保障する。8,ランブイエ合意を全面的に考慮し、ユーゴ連邦の主権領土保全の原則、コソヴォ解放軍の武装解除などの政治合意を尊重する。9,紛争地域での経済発展のための包括的なアプローチを実施する。10,セルビア部隊の撤退は、段階的で詳細な時間表と緩衝地帯の設置を含む。11,NATO軍の軍事行動は、これらの条項および付記事項の受け入れが確認された後に停止する。12,兵員のコソヴォ復帰には、装備、責任範囲、時間表、文民、治安部隊との関係を定めるルールを設ける」など。
付記;「1,撤退の迅速かつ時間表・7日間での撤退完了、防空兵器の48時間以内の撤去など。2,兵員のコソヴォ復帰は国際治安部隊の監督下で行ない、その規模は数千人ではなく、数百人に制限する」。
・ユーゴ連邦議会でセルビア急進党は、「外国軍の駐留は1兵たりとも認めない」と強硬に反対し、殴り合い寸前までの緊迫した激論が行なわれる。
・アハティサーリEU特使は、「建設的な話し合いができた。セルビア議会と政府が和平案を受け入れてくれてうれしい」と語る。和平案作成にはタルボット米国務副長官も参加。
・ベーコン米国防総省報道官は、「希望が持てるサインだが、詳細を検討しなければならない」と述べる。
・クリントン米大統領は歓迎の意を表しつつ、「これまでの経験を踏まえて、慎重に対処しなければならない」と述べる。
・コーエン米国防長官は、「ユーゴ連邦軍は撤退を始めていない。ミロシェヴィチ政権が説得力ある形で停戦を実現し、兵を引き、難民の安全な帰還を保証するNATO軍主導の部隊がコソヴォに入るまでは、空爆を続ける」と述べる。
・ルービン米国務省報道官は、「旧ユーゴ国際戦犯法廷」に戦犯として起訴されているミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の逮捕や連行は、空爆停止の条件ではない、と述べる。
・オルブライト米国務長官は、武力でコソヴォ自治州の完全独立を目指すコソヴォ解放軍・KLAに近く接触し、空爆前のランブイエ合意に基づく解放軍の武装解除を働きかける意向を示す。ルービン国務省報道官は、「ユーゴスラヴィア軍が撤収し、NATO軍主導の部隊がコソヴォに展開すれば、協力を解放軍から取り付けることができるだろう」と指摘。
・国連報道官はユーゴスラヴィアのコソヴォ和平案受け入れについて、「アナン国連事務総長は慎重に見守りながら、歓迎している」との見解を示す。
・国連安保理議長国のジャグネ・ガンビア国連大使は、G8の検討を待った上で安保理決議案の協議をできるだけ早く行なう意向を表明。
・中国の沈国放次席国連大使は、「NATO軍の空爆が終わらない限り、政治的解決の協議はできない」と表明。
・小渕日首相は記者団に、「和平の第一歩となることを期待している。合意に基づいて1日も早くユーゴスラヴィアが適切に対応することを期待している」と述べる。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、NATO軍はコソヴォの州都プリシュティナ近郊やゴラなどを攻撃し、工場などの建物に被害があり、ユーゴ連邦軍は対空砲火で応戦。
・和平協定成立までに、モンテネグロに避難した7万人の他に、ユーゴ連邦国境外に67万人の難民が発生したと発表。
・EUは首脳会議で、共通外交・安全保障政策を対外的に代表する新ポストに、ソラナNATO事務総長を内定。
06/04:
・ユーゴ連邦政府系紙「ポリティカ」の1面の見出しは、「ユーゴ、和平文書を受諾」、わき見出し「領土は保全」。市民の反応は複雑で、「力が圧倒的に違うのに、戦うこと自体が正気でなかった」、「何のための10週間以上空爆に耐えたのか。降伏するのは早すぎる」など。
・ブレア英首相は、「空爆はミロシェヴィチが約束を実行するまで続ける。彼は信用できない」と述べ、さらにミロシェヴィチ政権を、「民族浄化を推進する邪悪な政権であり、民主的な政権が取って代わって、諸国民で構成する家族の一員として治まるべきだ」と付け加える。
・シラク仏大統領は、「非常に重要なステップだ。欧州の歴史的勝利であり、欧州が一体感を持ち続けたことが良かった」と述べる。
・シュレーダー独首相は、エリツィン露大統領、朱鎔基中国首相と電話で会談。「ロシアなしに和平は考えられなかった」と述べる。
・エリツィン露大統領は、シュレーダー独首相と電話で会談。「ユーゴの和平案受け入れで、NATO軍が侵略を続ける理由はなくなった」として早急な空爆停止を求める。
・チェルノムイルジン・ロシア特使は、「コソヴォに展開する国際治安部隊にロシアが5000人から1万人を派遣する可能性があると述べる。セルゲーエフ露国防相は、「ロシアは参加を決めていない。大統領にもこの問題をよく考えるよう勧告した」と述べる。
・アハティサーリEU特使は、タルボット米国務副長官と会談し、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が和平案を受諾するとした会談内容を報告。ロシアのチェルノムイルジン特使はこの会談に加わる予定だったが、急遽出席を中止する。
註;チェルノムイルジン露特使が出席を中止した理由は、ロシア国内でチェルノムイルジン特使がG8主導の和平案をほぼ丸呑みし、ロシアが要求していた空爆の即時停止が反映されなかったことに対し、厳しい批判が寄せられていることがある。
・新華社電によると、中国の朱鎔基首相はシュレーダー独首相と電話で協議し、ユーゴスラヴィア政府がコソヴォ和平案受け入れを表明したことを受け、「NATO軍が直ちに空爆を停止してはじめて、国連安保理でユーゴスラヴィア問題を解決するのに必要な条件と雰囲気が生まれる」と述べ、国連での協議に入る前に空爆を停止する必要性を強調。
・NATOのシェイ報道官は、NATO軍のジャクソン司令官とユーゴ連邦軍高官が5日に会談すると発表。NATOはこの会談に、オブザーバーとしてロシアが参加することを要請する。さらに、「最優先課題は、先遣隊以外の兵力を早急に周辺諸国に集結させることだ」と述べる。
・ベーコン米国防総省報道官は、ユーゴ連邦軍が米欧ロの和平案に従ってコソヴォ自治州からの本格的な撤退を始めれば、NATO軍の空爆を6日から週明けにも停止することができる、と述べる。また空爆停止後に、コソヴォに駐留する4万8000人規模の国際治安部隊の第1陣としては、米海兵隊員2000人を予定。
・EU筋は、NATO軍が早ければ6日にも空爆を停止する可能性を示唆。
・クリントン米大統領はアハティサーリEU特使に電話をかけ、和平交渉をまとめたことに謝意を伝える。
・ロシアのステパシン首相はゴア米副大統領と電話で協議し、「ユーゴスラヴィアが受諾した和平案はロシアにとって同意しがたいものだったが、即時空爆停止を実現させる目的で呑んだ」と強調し、速やかな空爆停止を求める。
・ロシアのインタファクス通信は、チェルノムイルジン・ユーゴ問題特使がコソヴォに展開する国際治安部隊に5000人から1万人を派遣する可能性があると述べた、と伝える。
・ロシアのセルゲーエフ国防相は、エリツィン大統領とユーゴスラヴィア情勢にを協議。和平協議後の国際的な治安部隊の展開について、「ロシアは参加を決めていない。大統領にもこの問題をよく考えるよう勧告した」と述べる。
・アナン国連事務総長は、G8から提出される決議案をめぐり、国連安保理の協議が来週にも始まるとの見通しを示す。
・国連報道官はアナン事務総長の指示で8日にジュネーブで、ビルト・スウェーデン元首相やクカン・スロバキア外相の国連両特使と政治や平和維持活動・PKO、人道援助担当の国連幹部が集まり、統治機構の構成を協議することを明らかにする。報道官によると、アナン事務総長は近く任命する事務総長特別代表に統治機構の全権を与え、難民の帰還から警察活動の監視、復興や開発などNATO軍主体の軍事部門を除く全ての文民活動を運営させる方針。
・ロシアのアブデーエフ外務第1次官はコソヴォに展開する国際部隊について、「NATO軍が指揮権を握る場合、ロシアは参加しない」と述べ、米・欧主導でコソヴォ和平の実施面が仕切られることに不快感を示す。
・英国政府は、和平合意に基づいてコソヴォ自治州に展開する国際治安部隊に1万3000人を派遣すると発表。
・ベーコン米国防総省報道官はコソヴォ自治州に展開する国際部隊について、コソヴォを5地区に分け、「プリシュティナ地区を英軍、自治州東部を米軍、南部をドイツ、西部はフランス軍、北部はイタリア軍」が受け持つことを明らかにする。ロシアをどう取り込むかによってコソヴォ解放軍の反発を招き、民族別の分割にもつながりかねない、これが米国のジレンマになっている。
・日本の民主党の鳩山由紀夫幹事長代理は、「ロシアがしたような環境作りをすべきだったのに、しなかった」と政府を批判する。
・オーストリアのクレスティル大統領は訪日した先の記者クラブで、コソヴォ自治州紛争の解決案をユーゴ連邦が受け入れたことについて歓迎の意向を示し、「難民の帰還など、和平案の具体化の交渉には慎重さが必要だ」と述べる。
・UNHCRの報道官はコソヴォ難民帰還の優先順位について、「1,家や村を追われたがコソヴォ内にとどまっている避難民。2,近隣諸国に流出した難民。3,移送などで欧州など遠隔地にいる難民」の順であると述べる。難民・避難民の数については、「1,コソヴォ内にいる避難民が数十万人。2,現在、アルバニア、マケドニアなど近隣諸国に収容されている難民が80万人弱。3,欧州などに移送された難民7万人。4,空爆前から紛争を避けて欧州で難民申請している人たち数万人」で、難民は100万人程度と推計。
・EU首脳会議は、コソヴォ自治州の復興でEUが中心的な役割を担うことを表明。議長国のシュレーダー独首相は記者会見で「コソヴォの協議が中心だったが、冬になる前に難民帰還を急がねばならない」と述べる。
06/05:
・NATOマケドニア駐留軍のジャクソン司令官は、ユーゴ連邦軍のコバチェヴィチ参謀次長とユーゴスラヴィア国境に近いマケドニア共和国のブラツェ近くで協議。撤退の日程について、NATO軍側は和平案通り7日間を強要、コバチェヴィチ参謀次長は14日間を要求して折り合わず。
・NATOマケドニア駐留軍のケイト報道官は、「24時間以内の撤退開始を求め、始まり次第速やかに空爆を停止する」と述べる。
・マケドニアのスタンコヴァツ難民キャンプで、難民として収容されているロマ人がアルバニア系難民に襲われ2人が重傷を負う。
コソヴォ解放軍・KLAは難民キャンプ内でゲリラ兵士を募集しているが、そのことめぐる争いと見られる。
・ドイツ外務省は、コソヴォ紛争収拾のためのG8の緊急外相会議を週明けに延期する、と発表。
・ロシアのイワノフ外相は記者団に、「NATO軍のユーゴスラヴィア空爆が停止された後、ロシアは国連安保理決議案の協議に参加する用意がある」と述べる。エリツィン露大統領は、空爆の即時停止に全力をあげるよう指示。
・米国務省高官はユーゴ連邦セルビア共和国に対する復興支援について、「旧ユーゴ国際戦犯法廷」に起訴されたミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の身柄引き渡しと、国内民主化が条件となると述べる。ルービン米国務省報道官は、「ミロシェヴィチ大統領が犯した人道に対する罪の数々や、戦犯として起訴された事実を踏まえれば、セルビア支援に使う金はない」と述べる。
・フィンランドの通信社は、コソヴォの紛争の調停役を務めるアハティサーリ・フィンランド大統領がコソヴォ和平案について中国を訪問し、江沢民国家主席ら中国首脳と話し合うと報じる。
06/06:
・NATO軍とユーゴ連邦軍の和平協議がマケドニアのクマノヴォのNATO駐屯地で再開。協議には、NATO軍側がジャクソン・マケドニア駐留軍司令官、ユーゴ連邦側はマリャノヴィチ連邦軍大将ら十数人が参加し、具体的な撤退条件について話し合うが、20項目からなる軍事合意文書の内、ユーゴ連邦軍側は6項目しか同意せず。ジャクソン司令官は、「ユーゴ連邦側の対応は、アハティサーリEU特使とチェルノムイルジン露特使を含めて合意した和平案に合致するものではない」と述べる。フヨヴィチ・ユーゴ外務次官は、「われわれは特に和平案の内、コソヴォ自治州はユーゴスラヴィアの一部とする統治権の一体性と、コソヴォ内での国際部隊の展開を限定したものにする、という点を重視している」と述べる。ユーゴ連邦側は、コソヴォ自治州境との間の緩衝地帯の設置にも難色を示す。
・ドイツ外務省は、コソヴォ紛争収拾のためのG8緊急外相会議を7日にボン郊外で開くと発表。この協議で8ヵ国が安保理に諮る決議案をとりまとめることになる。
・米政府は、ユーゴスラヴィア軍の撤退交渉が物別れに終わった事態を受けて空爆継続の方針を確認すると共に、7日に開かれるG8の緊急外相会議で今後の対応を話し合う方針を決める。
・NATO軍は、この日も430回出撃してユーゴ・コソヴォを空爆。ロバートソン英国防相は、「ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の言葉は信用出来ない。約束を履行させるには、武力による脅しが必要だ」と空爆続行が不可欠との見方を示す。
・コーエン米国防長官とシェルトン統合参謀本部議長は、ユーゴスラヴィア側が「意図的な撤退先送りでない限り、日程は重要ではない」と朝のテレビ番組で語る。
・アハティサーリEU特使は、ユーゴ連邦軍とNATO軍の協議が合意に至らなかったことを理由に、中国訪問を延期。
・マケドニア共和国のゲオルギエフスキ大統領は、1月に外交関係を樹立した台湾を訪問する。
・コソヴォ自治州のアルバニア国境に近いところで、コソヴォ解放軍・KLAは撤退を間近に控えたユーゴ連邦軍に攻撃を仕掛け、激しい戦闘が続く。OSCEによると、アルバニア側の車輌にも砲弾が落下して被害が出ているという。
06/07:
・NATO軍は和平交渉が大詰めを迎える中、6日から7日にかけて483回出撃しコソヴォ内のユーゴ連邦軍の軍用車やプリシュティナの司令部などを爆撃。さらに、ノヴィ・サドおよびパンチェヴォの石油精製工場を爆撃する。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、ベオグラードの南100キロの丘にあるテレビ中継施設が、ミサイル2発の攻撃を受けて破壊される。
・G8の緊急外相会議がボンで開かれ、コソヴォ和平のための国連安保理決議案のまとめに入る。ロシアのイワノフ外相はボン到着時に、「NATO軍はコソヴォ紛争解決で要求をつり上げ、空爆もやめない」と懸念を表明。イワショフ露国防省国際軍事協力局長は、「ユーゴ軍部隊のコソヴォからの急速な撤退は力の空白を生み出し、25万人のセルビア系住民をコソヴォ解放軍の脅威にさらす」と述べる。ロシア軍事筋は、「交渉の枠組みから国連安保理が排除された。これはボンでの米欧露3者和平合意に反する」と指摘。この協議で20項目の内、ロシアは「1,コソヴォに展開する国際部隊の指揮系統。2,国連主導をめぐる表現。3,ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領を含む戦犯問題」の3点を留保したため、8日に再度協議を行うことになる。
・NATOは大使級理事会を開き、ユーゴ連邦側が異議を唱えた撤退の期限や治安部隊派遣の国連決議などをめぐり、加盟国間で意見の調整を行なう。NATO内での意見の食い違いは、和平案に明記されている治安部隊派遣への国連決議による支持に関するもの。英米はユーゴ連邦軍が撤退した時点で国連安保理決議が間に合わなければ決議なしでも先遣隊を派遣すべきだと主張し、独伊などは決議が前提だとの立場をとる。その後、NATO軍とユーゴ連邦軍は、実務者レベルで進駐と撤退条件について電話を通じて協議。ペドリヌ仏外相は、NATO軍の即時空爆停止を求めるロシアと中国を意識し、国連安保理決議の採決と同時に実施する案を示す。
・エリツィン露大統領はクリントン米大統領に電話をかけ、コソヴォ和平について協議。
・米政府は国連安保理で、G8の和平合意が成立し次第、安保理で協議を始めるよう提案。
・アナン国連事務総長は米CBSテレビ記者とのインタビューで、G8の合意が遅くとも9日までに成立するとの見通しを示す。ただし、中国が大使館爆撃事件の調査報告を求めているので、「中国に対して何らかの譲歩が必要になるかも知れない」と述べる。
・コソヴォ自治州との国境に近いマケドニア北西部の町ヤジンツェで、ユーゴスラヴィア側から砲撃があり、民家などに被害が出る。
・台湾の李登輝総統は、コソヴォ難民救援と復興事業に3億ドル相当の人道援助を行なうと発表。
・シラク仏大統領は小渕日首相に電話をかけ、コソヴォ紛争問題に関して「日本が連帯を示したものとして、欧州では高く評価されている」と述べるとともに、和平をめぐる国連安保理決議に向けて緊密に連絡を取り合うことで一致。
・日本の外務省の柳井事務次官は記者会見で、コソヴォ紛争をめぐる「国連安保理決議をできるだけ早くまとめることと、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に対して和平案の誠実な遵守を求めていくことが必要だ」と述べる。
06/08:
・NATO軍は、7日深夜から8日早朝にかけコソヴォ自治州に657回出撃し、戦車や装甲車、ミグ29戦闘機などに222回の爆撃を実行する。
・G8の緊急外相会議はケルンで開かれ、コソヴォ・ユーゴ空爆をめぐる和平合意の安保理決議原案を諸国が同意する。安保理決議案は前文と21項目の主文からなる。前文ではミロシェヴィチ・ユーゴ大統領を起訴した「旧ユーゴ国際戦犯法廷」の管轄権が及ぶことを明記し、強制措置の執れる国連憲章第7章に基づき、国連の後援を受けた国際的な文民機構と治安部隊の設置を定める。
決議案の骨子;「付属文書1・1,5月6日のG8外相による和平7原則と6月3日のミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が受諾した和平合意、の2件を確認する。2,文民・治安部隊のコソヴォ展開は、国連憲章第7章に基づいて行なわれ、国連の管轄下に置かれる。部隊は関係国際機関が設立。付属文書2・『相当数のNATO軍兵員が参加した統一的指揮系統と明記』に基づく。3,文民監視団は、国連事務総長が創設を承認する。4,旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷に対する関係国の協力を求める。5,支援国会議を早急に開催する。6,G8外相会議で最終合意した決議案を、国連に加え、マケドニア共和国でのNATO軍とユーゴ連邦軍による同軍撤退の協議の場に送り、撤退交渉の促進を期待する。7,付属文書2に沿って検証可能なユーゴ連邦軍の撤退開始の後、NATO軍が空爆を停止、その上で国連安保理が決議する」。
原文追記・「ロシア軍はNATO軍の指揮下に入らず、ロシア軍と国際駐留部隊との関係は更なる合意によって規定される」。
・国連安保理はG8の合意案を受け、決議案の審議を始める。米英仏露にオランダとカナダが加わり、オランダが決議案の提案国となることで合意する。安保理決議;原案に目立った変更を加えられることなく採択。その中には5月6日のG8合意、6月3日のコソヴォ和平合意の要素が含まれている。決議自体に、NATO軍への言及はなし。
合意文書の脚注;「NATO軍による相当の参加を伴う国際的な平和維持部隊とは、NATO軍による統一指揮統制下にあり、NATO軍を中心とする部隊を意味するというのがNATOの見解である。これはさらに、太西洋評議会・NACの政治的な管理のもとにおかれたNATO軍の統一的な指揮系統を意味する。NATO軍の部隊はNATO軍の指揮下に置かれる」。
この合意文書の脚注は後に消される。消去した理由は、脚注による補助的な見解ではなく、「加盟国および関連する国際機関」によって作戦が遂行されるという条項を、NATO軍がその機関であると解釈することですませようと考えたからである。
・クリントン米大統領はG8外相会議が国連安保理決議案で合意したことを受け、「重要な前進だ。合意案はコソヴォ住民の平和と安全を取り戻し、地域全体の安定をもたらす基本的な目標の実現にも役立つ」と歓迎の意向を示す。米大統領はこれに先立ち、エリツィン露大統領に電話をして国際部隊へのロシアの参加問題の細部を詰めるため、タルボット米国務副長官をモスクワに派遣する、と伝える。
・NATOは、G8外相会議の国連決議案合意を受け、中断されているユーゴスラヴィア軍とNATO軍との撤退協議の早期再開をミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に呼びかける。
・ユーゴ連邦外務省のブヨヴィチ報道官はアルバニア系住民の帰還について、「外国人や独立主義者たちが侵入しないように、セルビア人が国境に駐留しなければならない」と述べる。
・中国の江沢民国家主席は、EU特使として訪中したアハティサーリ・フィンランド大統領と会談。会談後、中国国家主席はロシアのエリツィン大統領と電話で会談し、「中ロ首脳はあくまでNATO軍の空爆停止を求めていくことで」一致。中国はこれまで、「1,NATOの空爆停止。2,国連での政治的解決。3,ユーゴ連邦の同意をコソヴォ和平の条件とする」と主張。
・オルブライト米国務長官は滞在先のケルンで、コソヴォ自治州のアルバニア系代表者のタチ解放軍政治局長および穏健派政治指導者ルゴヴァらと、紛争終結後の暫定統治機構などについて協議。タチ政治局長は、撤退するユーゴスラヴィア軍への攻撃を差し控えることを約束。
・ロシア国防省は、NATOの軍事専門家らが9日にモスクワ入りし、コソヴォ自治州に展開する国際治安部隊の指揮系統や規模についてロシア側と協議することを明らかにする。セルゲーエフ国防相は、「状況に応じて1万人まで部隊を派遣する提案を大統領に提出する」と述べる。
・ドイツ連邦議会は、コソヴォ自治州に展開する国際部隊として派遣する数を最大8500人とすることで承認。
・ジョスパン仏首相は国民議会で、コソヴォに展開する国際部隊に7000人を派遣すると述べる。
・UNHCRのマクナマラ特使は記者会見で、「和平が成立すれば現在近隣国にいる85万人の難民の内、40~50万人が最初の3ヵ月間に帰還すると推定している」と語る。
・朝日新聞によると、NATO軍はユーゴ・コソヴォ空爆で延べ3万2000機が出撃し、1万5000トンの爆弾とミサイルを投下。橋は29本が破壊され、ベオグラードから南へ140キロ、グラグイェヴァツにあるザスタバ自動車工場はトマホークと誘導弾で年産20万台の工場が完全に破壊される。ベオグラードの北東15キロのパンチェヴォの化学工場は完全に破壊され、ドナウ川に化学物質が流出し、北東のノヴィ・サドの製油所も爆撃で貯蔵タンクは全て焼けただれるなど、産業基盤は大打撃を受ける。ユーゴ軍兵士の死者は1800人、市民の死者は1200人。ユーゴスラヴィアは、自国の領土であるコソヴォ自治州にNATO軍の進駐を許し、連邦軍と治安部隊は全面撤退を強いられるという、降伏に等しい和平案を受諾させられることになる。
・米ウォール・ストリート・ジャーナルは、「コソヴォでの戦争は残忍で苦痛に満ち、野蛮だった。しかし、空爆前にコソヴォで起こった出来事は、ジェノサイドではなかった。証拠を見つけることはできなかった」と報じる。
・国際法学者のルイス・ヘンキンは、「人道的介入すら、あまりに容易に侵略行為の機会と口実に使うことができる。実際のところ、人権侵害は日常的に起こっており、外からの武力行使によってそれを改善することが許されるならば、ほとんど全ての国に対する武力行使は法律では禁止できなくなってしまうだろう」と語る。
・ロシアの作家ソルジェニツィンは、「攻撃者たちは国連を脇に追いやり、力が正義であるという新たな時代の幕を開いた。NATO軍がコソヴォ住民の防衛を目的としているという幻想に耽るべきではない」と語る。
・反ミロシェヴィチのドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首は、「現在の世界は法による統治ではなく、力による統治の下に置かれがちであることを認識しなくてはならない。われわれは勇気を持って妥協点を探さなくてはならない」と語る。
・米国のジャーナリストのトマス・フリードマンは、「コソヴォ問題は、最初から重要でない場所で何か悪いことが起きたときにどのように対応するかに関するものだった。難民追い立てが始まって以降、コソヴォを無視するのは間違っており、それゆえ目的を限定した大規模な空中戦が唯一妥当な方策であり、新たな千年紀の始まりである」と語る。
06/09:
・シェイNATO報道官は、「撤退開始を検証しない限り、空爆は続行する」と強調。
・オルブライト米国務長官は、コソヴォに治安の真空状態をつくらないよう「撤退開始→空爆停止→国連安保理決議採択→NATO軍進駐」を目指すとしている。
・ユーゴ連邦軍は、NATO軍とコソヴォ自治州からの完全撤退について合意する。合意撤退文書の骨子;「1,コソヴォ自治州との境界からユーゴ連邦側に幅25キロの安全空域と幅5キロの安全地域を設け、ユーゴ軍の進入を禁止する。2,ユーゴ軍はコソヴォで敵対行為をしない。3,撤退手順は、①調印から1日以内にコソヴォ北部から撤退し、NATO軍は検証後に空爆を停止する。②5日以内に南部、9日以内に中部から撤退する。③11日以内に全域と安全地域から撤退を完了する。NATO軍は空爆を終結する。4,ユーゴ軍は1日以内にコソヴォ上空と安全空域で飛行を停止する。3日以内に防空レーダーなどを撤去する。5,ユーゴ連邦とセルビア政府は2日以内に埋設した地雷、爆発物の情報を開示する」など。
・マリャノヴィチ・ユーゴ連邦軍大将は、午後10時半のニュースで「戦争は終わった。空爆停止が決定され、ユーゴスラヴィアへの侵略行為は終わった」とコメント。セルビア各地で人々が屋外に出て、銃を空に向けて発砲するなどの騒ぎとなり、開放感を表す。
・米国防総省は、NATO軍とユーゴ連邦軍が停戦協定に合意した文書を交換したと発表。合意文書:「1,コソヴォ自治州と境界からユーゴ連邦側に幅25キロの安全空域と幅5キロの安全地域を設け、ユーゴ連邦軍の進入を禁止する。2,ユーゴ連邦軍はコソヴォで敵対行為をしない。3,コソヴォ自治州からの撤収手順は、北部、中部、南部の3地区に分けた上で、『①北部からは9日の調印から24時間以内に撤退し、検証されたら空爆を停止する。②南部のアルバニア、マケドニアとの国境地帯からは6日以内に撤退する。③中部からは9日以内に撤退を完了する。④コソヴォ自治州からは調印から11日以内に撤退を完了する』。4,ユーゴ連邦軍は1日以内にコソヴォ上空と安全空域で飛行を停止する。3日以内に防空レーダーを撤去する。5,ユーゴ連邦とセルビア共和国政府は、2日以内に埋設した地雷、爆発物の情報などを開示する」。
・ユーゴ連邦側代表団のブヨヴィチ外務次官は、合意文書に署名後、これがユーゴの「道徳的勝利だ」と説明。
・ギリシア政府は国民世論に配慮し、コソヴォ自治州に展開する予定の米海兵隊が乗船した米海軍の艦船3隻に入港許可を出さず、米艦船はテッサロニキ沖の停泊を余儀なくされている。
・ロシアを訪問中の張万年中国中央軍事委員会副主席はセルゲーエフ露国防相と会談し、「両国はあらゆる問題で完全に一致した」と語る。
・ロシアのイワノフ外相は、「NATO軍がユーゴスラヴィア空爆を続ける間は、ロシアも中国も国連安保理でコソヴォ和平の決議案に賛成投票しない」と述べる。また、イワノフ外相はG8の外相が8日に合意した安保理決議案について、「中国も全体として肯定的に評価している」とも指摘。
・エリツィン露大統領は、ブレア英首相とシュレーダー独首相に相次いで電話会談し、「NATO軍側も、ユーゴ空爆の即時停止という緊急の英断を示す必要がある」と伝える。
・ロシア国防省は、コソヴォ自治州に展開する国際治安部隊の指揮系統などをめぐるロシアとNATO軍事専門家との協議は、10日にも行なわれることを明らかにする。
・クリントン米大統領は、「大変うれしい。我々がコソヴォで目指してきた目標の実現に向け、さらに重要な一歩を築いた」と評価。
・ワシントン・ポスト紙は、7日のNATO軍のユーゴ空爆で、米B52が投下した集束爆弾によってユーゴ連邦軍兵士800人から1200人が死亡した可能性がある、と報じる。
・国連のUNHCR、WFP、ユニセフなど9つの人道援助機関は、コソヴォ難民の帰還に向けた、今年7月から12月の援助活動費として総額4億7340万ドル(570億円)の特別拠出を各国政府などに求めるアピールを出す。
・コーエン米国防長官は、「ユーゴ連邦側が撤退の約束違反をしたときは空爆を再開する。コソヴォ住民に対する攻撃などの敵対行為も空爆再開の対象となりうる」と述べる。
・ラルストン米統合参謀本部副議長は、コソヴォ解放軍の報復攻撃について、「解放軍は我々との接触を通じて、撤退するユーゴ軍を攻撃しない、と約束している」と述べる。
・G8外相会議は、コソヴォ紛争について集中的に協議し、国連安保理決議を受けてコソヴォに展開することになる文民監視団の実質的な活動に入る必要性を確認する。難民帰還や経済復興およびコソヴォ自治州の行政・政治制度つくりは、UNHCRやEUなどで進め、暫定統治機構を早期に軌道に乗せることで一致。
・NATO軍のコソヴォ駐留軍は、中央部を英軍部隊が1万2000人、東部を米国部隊が7000人、西部をフランス部隊が7000人、南部をドイツ部隊が5000人、北部をイタリア部隊が5000人で管轄する。その他ロシア軍も派遣する。
06/10:
・国連安保理は、コソヴォ和平に関する自治政府樹立までの間の暫定統治機構の設置とNATO軍主体の治安部隊の展開などについて協議し、決議1244を、賛成14、棄権1で採択。決議の骨子;「1,ユーゴ連邦は全軍と治安要員らの撤退を迅速に進め、完了する。2,ユーゴスラヴィアの主権と領土保全を再確認する。3,コソヴォ住民の実質的な自治享受を再確認する。4,国連事務総長は暫定統治をする国際的文民組織国連コソヴォ暫定行政支援機構・UNMIKを設置し、コソヴォを国連の暫定統治下に置く。5,NATO軍が参加し、統一指揮の下で任務遂行する国際部隊・KFORを設置する。国際部隊・KFORの任務は、①停戦の維持と強制、②合意規模を超すユーゴ連邦軍などのコソヴォへの復帰の阻止、③アルバニア系武装集団の武装解除、④難民らが安全に帰還する環境の確保、⑤地雷除去の監督など。6,国際部隊などは旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷に全面的に協力する。7,国際的な文民組織と国際部隊の当初の任期は1年とする。安保理が廃止を決めない限り更新される。8,コソヴォとセルビアの境界線に、5キロの安全地帯・非武装地帯をセルビア共和国側に設定し、重火器の配備を禁止する。9,国連は、ランブイエ合意を考慮したコソヴォの将来の地位を定めるための政治プログラムを促進する」など。
・中国の沈国放次席国連大使は、「決議案はNATO軍がユーゴスラヴィアにもたらした災難に1字も触れず、国連憲章第7章の援用にも制限がない」と述べて、棄権する。
註;この和平合意は「ランブイエ和平交渉」で3月23日に提出された和平案との「折衷案」で成り立っている。そして、この合意には2つのバージョンがある。1つは原文であり、もう1つはNATO・米国による解釈である。
原文;「NATO軍による軍事的占領とコソヴォの政治的管理、およびユーゴスラヴィア連邦のその他の地域におけるNATO軍の自由な通行の要求は取り下げられた。さらに、ランブイエ和平交渉の 「付属B8項」のユーゴスラヴィア全土にNATO軍が駐留するとの条項は含まれていない。3年後の住民投票についても和平条項から削除されている。また、独立に向けての住民投票を提唱と目される部分も記載されていない。NATOについて言及されたのは、「NATO軍による相当の参加を伴う国際的な平和維持部隊の派遣」のみである。即ち、コソヴォへの平和維持軍は国連の承認による部隊か、安保理の委託による部隊が主体であることと了解されていた。
NATO・米国による解釈;、セルビア側が合意した「NATO軍による相当の参加を伴う国際的な平和維持部隊の派遣」について、国連決議は、「NATO軍の下で、我々は統一的な指揮系統を持つことになる。NATOという言葉は決議には出てこないかも知れないが、原案の一節には加盟国および関連する国際機関によって作戦が遂行される」と米政府高官は述べ、NATO軍によるコソヴォ自治州の軍事占領の実行を主張し、セルビア側がこれに抗議すると、6月7日にNATO軍は懲罰的にノヴィ・サドとパンチェヴォの石油精製工場を爆撃。そして、NATO軍の治安部隊として英国のグルカ兵がヘリコプターで送り込まれた。
この裏には協定書から表向き消滅したNATOの脚注があった。脚注は、「NATO軍による相当の参加を伴う国際的な平和維持部隊とは、NATO軍による統一指揮統制下にあり、NATO軍を中心とする部隊を意味するというのがNATOの見解であると理解されている。これは、北大西洋評議会・NACの政治的な管理の下に置かれたNATO軍の統一的な指揮系統を意味する、NATO軍の部隊はNATO軍の指揮下に置かれる」というものである。NATO軍は、この脚注に沿ってコソヴォ占領を実行した。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領はNATO軍が対ユーゴ空爆停止を発表した直後に国営TV・Rを通じ、「11週間にわたる我が国への侵略戦争は終わった。我々はコソヴォを渡さなかった。主権と領土保全は国連が保証し、コソヴォの独立問題は最早存在しない」と演説。空爆の被害については、軍人462人、警察官114人が死亡、と発表。
・NATOのソラナ事務総長は、ユーゴスラヴィア連邦に対する空爆停止を宣言する。78日間におよんだNATO軍のコソヴォ・ユーゴ空爆が終結する。以後、コソヴォ自治州は国連暫定統治機構の管理下に置かれ、NATO軍を中核とする平和維持部隊・KFORがコソヴォに駐留する。ソラナNATO事務総長は、「全ての紛争当事者は、この和平の機会を逃してはならない。いかなる暴力行為も黙認されることはない」と述べる。
・マケドニアのスコピエ中心部から約15キロの国際空港には、イタリアや英国から到着したNATO軍兵士が続々と到着。
・国連安保理は、NATO軍が空爆停止を通知する書簡を届けたのを受けて公開協議に入る。
・エリツィン露大統領は、「NATO軍は正しい方向へ第1歩を踏み出した。空爆停止だけでは不十分だ。ユーゴスラヴィアの復興に力を注がなければならない」との声明を発表。
・ロシア下院は激論を展開し、「ロシアのコソヴォ派遣部隊が、NATO軍の指揮下にはいることは許さない」とする決議案を
採択。ロシアの世論調査では、米国に対する感情は、空爆前では好感情59%、悪感情29%。空爆開始の1週間後、好
感情14%、悪感情72%と変化する。チェルノムイルジン特使に対する責任追及も渦巻く。「NATOの最後通告をユーゴ
に強制的にのませる陰の役割を果たした」との批判がある。
・ロシア国防省と米軍の専門家は、コソヴォ自治州に展開する国際部隊の指揮系統や派遣地域をめぐる協議に入る。タルボット米国務副長官は、「統一指揮でなければ事実上コソヴォ分割につながる」と強調。ロシア側は、NATO軍の指揮下に入ることを拒否する姿勢を崩さず。そのため11日に再協議することになる。
・高村日外相はG8外相会議に出席していたケルンで、NATO軍の空爆停止について、「停止の決定を歓迎する。和平実現へ向けて着実に前進している。次の段階として国連安保理決議が早急に採択されることを期待する」との談話を発表。復興については、「1,専門家の派遣、研修生受け入れによる技術協力。2,港湾、道路など社会資本整備への円借款の供与。3,ドナウ川の汚染対策など環境保全面での協力」などの3点を重視して支援に加わることを表明。
・小渕日首相は、NATO軍とユーゴ連邦軍の協議が合意に達したことについて、「大変大きな前進だ。1日も早くコソヴォが平和を取り戻し、平和な暮らしが戻ることを強く願う。双方が約束を守り、合意が粛々と実行されるよう期待する」と述べる。
・コソヴォ解放軍・KLAのタチ政治局長はKLAの通信社コソヴァプレスを通じ、停戦を宣言する声明を発表。宣言;「1,解放軍はユーゴ当局の攻撃中止・撤退開始と同時に停戦する。2,ただし、ユーゴ当局による解放軍や市民への攻撃には自衛する。3,セルビア人住民ら少数派住民の権利を尊重する。4,NATOや国連などとの協力を継続する」。
・ブレア英首相は、「勝利という気持ちは抱いていない。我々の大義が正しく果たされたということだ。文明を守るためには、時に戦争が必要なこともあり得る。これがその例だ」と述べる。
・クリントン米大統領は、「78日間の空爆があったからこそ、残虐行為の犠牲にあったコソヴォ住民は帰還の日を迎える。安全な世界、民主的な価値、強い米国のための勝利を収めた。空爆は、能力のある米国が主導したのだから、復興資金の大半は欧州が負担することを期待する。こうした事態の再発を防ぐために、米国も相応の貢献はする」と述べる。また、「旧ユーゴ国際戦犯法廷」に起訴されているミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が権力の座にある限り、セルビア復興の支援はしない」とも述べる。停戦後の課題として、「1,ユーゴスラヴィアに和平協定を守らせ、違反があれば、空爆再開の構えをとる。2,地雷の除去、家屋の建て直し、コソヴォ解放軍の非軍事化などを通じて、難民の安全な帰還を保障する。3,コソヴォやバルカン地域の復興に取り組む。4,セルビアに平和で民主的な統合欧州への参加を促す」を挙げる。
・ジャクソン・マケドニア駐留NATO司令官は、「民族の別にかかわらず、避難民の安全を保障する」と語る。
・コソヴォ・ユーゴ空爆による被害状況
ユーゴ連邦側の被害発表;「民間人死者・1200人以上、負傷者・5000人。工場・発電所・200ヵ所。学校・教育関係施設・300ヵ所。橋・50ヵ所以上。主要道路・15ヵ所。民間空港・5ヵ所。被害額・1億2000万ドル。失業者・50万人。
NATO軍の軍事力行使;出撃回数3万6000回、爆撃回数1万700回、爆撃機1000機。軍用機の損失、有人5機、無人22機。死者、アルバニアで訓練中の事故で米軍兵士2人。ユーゴスラヴィアの被害・ユーゴ連邦軍兵士の死者5000人、同負傷者1万人、軍用機100機以上。石油貯蔵施設の60%を破壊。
米国防総省発表;ユーゴ側の被害・対空迎撃能力80%以上破壊。ミグ29・14機。ミグ21・24機。SA-3ミサイル10基。第1陸軍(ベオグラード駐留)35%破壊。第2陸軍(モンテネグロ駐留)20%破壊。第3陸軍(コソヴォ駐留)60%破壊。戦車・装甲車輌120台破壊。兵員輸送車両220台破壊。軍車輌製造施設40%破壊・損壊。弾薬製造施設65%破壊。航空機製造施設70%破壊。指揮統制系統の通信施設があるセルビア社会党本部は重大な損害。大統領公邸は重大な損害。テレビ・ラジオ局・中継所など45%破壊。道路・鉄道・橋、ドナウ川沿岸の道路70%破壊、橋50%破壊。コソヴォ自治州への連絡道路50%破壊、鉄道・100%破壊。製油施設・10%破壊。電気系統の破壊・ベオグラード市の70%停電、セルビア共和国全体の35%を停電に追い込む。
註;NATO軍の爆撃機が出撃した最大の基地は、イタリアのアドリア海を挟む「アビアーノ空軍基地」である。アビアーノ市は人口8200人で、年間予算は10億円。94年に、米国とNATOは「アビアーノ2000」を打ち出し、総額500億円の基地改善計画を提示し、アビアーノ市はこれを受け入れた。イタリア政府は周辺市町に毎年2億8000万円を6年間交付する条件を提示した。基地の平時の兵力は、米軍のF16戦闘機48機が常駐し、兵員は3500人だが、ユーゴ空爆では英、スペイン、ポルトガル、カナダの作戦機が加わり、185機、軍人の数は市の人口より多い9000人となり、出撃回数は7000回を超えた。バレンティーノ・ピアンテ・アビアーノ市副市長は政府系ポリティカ紙に、「基地の目的は防衛だったはずだ。空爆の出撃に使うのは間違っている」と発言し、「抗議の辞任も考えたが、任期終了が目前に迫っていたので思いとどまった」と述べる。
・政府系のポリティカ紙は、「ユーゴへの野蛮な暴力終わる」、「われわれは祖国、人民、平和と国際秩序を守った」との見出しでユーゴ・コソヴォ空爆の終結を報じる。
・南東欧安定化会議がケルンで開かれ、EU加盟国、米国、ロシア、日本、カナダ、国連、NATO、周辺国など26ヵ国15機関が参加。G8が立案した欧州安定化協定に調印。安定化協定は議長国のドイツが主導し、民主化、市場経済化への支援、バルカン半島に長期的な安定をもたらすこと、など。
・G8外相会議は、コソヴォの復興支援を中心に、バルカン半島安定化で重要な役割を担うことを確認。
06/11:
・アナン国連事務総長は、旧ユーゴ国際戦犯法廷のアーバー検察官の求めを受け、コソヴォ自治州で起きた虐殺事件などの証拠収集に協力するため、国連加盟国に300人の法医学専門家の参加を要請。
註;「コソヴォ自治州和平」において、国連は徹底して無視された。NATO軍とユーゴ連邦およびロシアとの間の交渉を仲介するためにアナン国連事務総長が特使に任命したスウェーデンのビルト元首相ら2人の行動を妨げるように、EUは別にアハティサーリ・フィンランド大統領を特使に任命した。このため、空爆に批判的だったビルト国連事務総長特使は実質的な行動を制限されてしまう。また、アナン国連事務総長がコソヴォ和平を模索するために6月4日に安保理理事国を招いて開いた会議は、何らの実質的な協議が行われることなく20分で終わった。また安保理に提出された中国の修正案も米国によって拒否されている。
・ロシアのイワショフ国際軍事協力局長は、「NATO軍との協議がまとまらなければ、ロシアは独自にユーゴ当局と協議して、自分の担当地区を確保する」と述べる。
・ウェズレイ・クラークNATO欧州連合軍最高司令官は、ロシア機の進駐を阻止するために、プリシュティナ空港を強制的に閉鎖せよと英軍の司令官に命令する。英軍のマイケル・ジャクソン司令官は、「私は閣下のために第3次世界大戦を始める気はない」と拒否する。後に、この一連の経緯でクラーク司令官は解任される。
・NATO軍は国連安保理決議を受け、マケドニア国境のブラツェに集結し始める。
・ユーゴ連邦軍は、NATO軍による空爆の被害もさして受けた風もなく戦車や装甲車や火砲などを連ねて続々と撤退を進める。この日までに4万人のユーゴ連邦軍の内1万人が撤退。同時に、セルビア人住民も後に来るコソヴォ解放軍の報復を恐れてトラックなどで避難を始めている。
・ロシアのインタファクス通信によると、ロシアはボスニアに駐留する500人規模の空挺部隊をコソヴォに移動させるために境界に近いセルビア共和国内に移動させる。米ロ間での治安維持担当地域の協議では、ロシア側が駐留地区について北部のセルビア人多数居住地域を主張したがアメリカはこれを拒否し、米国軍が担当する東部を米国軍とともに派遣することを提案。これに対しロシア軍は、「米軍と兵舎を並べるつもりはない」と拒否。
・欧州安保協力機構・OSCEのティラナ事務所は、アルバニアのユーゴスラヴィア国境にあるラヒナなど3つの村にユーゴ連邦軍のものと見られる砲撃が相次いであった、と述べる。
・朝日新聞は、「無視され続けた国連」と題するコラムで、NATOが「国連憲章の第42条および第53条を飛び越えて軍事力を行使し、難民帰還や暫定統治機構の設置など、紛争の後かたづけ役に貶められた、と批判。
・日本の椎名素夫参議院議員は朝日新聞とのインタビューで、「NATO軍の空爆は必要だった。空爆でかえって状況が悪化したという人がいるが、もし放っておけばミロシェヴィチ・ユーゴ大統領に民族浄化を許し、アルバニア系住民を見殺しにすることになった」と語る。
・志位和夫日本共産党書記局長は朝日新聞とのインタビューで、「空爆の停止と国連が中心になって話し合いで平和解決の道をつくることを提案してきた。今回一番問題だったのは、国連の決定なしに国際法を無視してNATOが戦争を始めた点だ。人道的介入という議論は国連憲章で合法化され得ない議論だし、一回も国連の場で認められたことのない議論だ」と述べる。
06/12:
・ユーゴ連邦軍は、コソヴォ自治州からの撤退を継続。
・ロシア軍部隊200人は、未明にコソヴォ自治州の州都プリシュティナに入る。その後空港方面への移動を開始し、中心部から3キロの地点で停止する。イワノフ露外相は、米ロ間で指揮系統について協議中であることから、ロシア部隊駐留を「不適切なことが起きた。原因を調べている。部隊に対して直ちにコソヴォから退去し、次の指示を待つよう命じた」との声明を発表。大統領府のプリホチコ副長官は、ロシア軍部隊のプリシュティナへの進駐について「突然のものではなかった」と述べ、政府内部で事前に検討した計画だったことを認める。
・NATO軍の平和維持部隊・KFORの先遣隊はコソヴォのプリシュティナに入る。最初の英軍のヘリコプター部隊が5,6機の編隊を組み軍用車輌を吊して運んでいる。最終的には5万人規模となる予定。プリシュティナにNATO本部を設置。司令官は英陸軍マイケル・ジャクソン中将が就任。コソヴォ自治州は米・英・仏・独・伊がコソヴォを5地区に分けて管理する。
・英ジャクソンKFOR司令官は、「我々はこの国を横断するエネルギー回廊の安全を保障するために、ここに長期にわたって留まるだろう」と発言。
・フランス部隊は、マケドニア国境東部からコソヴォ自治州入りする。
・クラークNATO欧州連合軍最高司令官は、「軍事的に大事なことは指令1つで全部隊が動くかどうかだ」と述べてロシア側
を牽制。
・ユーゴスラヴィア航空の広報担当者は、定期便の運行を15日から開始すると発表。
・明石国連ボスニア和平担当事務総長元特使はコソヴォ和平について、「ユーゴスラヴィアやロシアの主張が退けられ、NATO軍の主張が通った形となった。しかし本来、上手な外交的解決はとはみんなを勝者にできるはずで、勝者や敗者を求めること自体がおかしい。今後注目されるのは文民のコソヴォでのプレゼンスだ。ランブイエではNATO軍を主体としていたが、どれだけ国連主体に切り替えられるか。人道的介入か、国家主権の尊重か、という問題をめぐって国際法にぽっかりと穴が空いていることが分かった。国連を回避したが本当に国連が対処出来ないかどうか、1度ためしてみれば良かった」などと述べる。
06/13:
・国連コソヴォ暫定統治機構・UNMIKが発足し、プリシュティナに本部を設置する。
デメロ国連暫定統治機構特別代表は、「治安維持を担当する国際部隊と協力し、政府機能を果たしたい」と述べる。暫定統治機構の緊急課題は、アルバニア系住民を中心とする難民・避難民150万人の帰還、さらに世界食糧計画・WFP、赤十字国際委員会・ICRC、NGOなどと連携して食糧配布、医療活動などの緊急人道援助や、地雷除去活動など。
・コソヴォ南部のカチャニク村では、国際部隊の代わりにコソヴォ解放軍が治安に当たっており、活動地域を拡大している。コソヴォのアルバニア系住民が自主帰還を始める。
・コソヴォ自治州のプリシュティナから30キロ離れたシュティムレ町にコソヴォ解放軍・KLAが入り込み、町役場を占拠。地元のKLA部隊の広報官だったルシュディ・ヤシャリを町長に任命。町には既にアルバニア系最大与党のコソヴォ民主連盟・LDKのアリ・サドリウ町長がおり、KLAとコソヴォ民主連盟が対立し抗争に発展する。
・UNHCRや世界食糧計画・WFPおよびNGOの援助団体は、40台のトラックの輸送隊で構成され、コソヴォ自治州入りす
る。
・コソヴォ自治州南部プリズレン近くで、ドイツ軍部隊とセルビア側の狙撃兵との間で銃撃戦が起き、セルビア兵1人が死亡、ドイツ兵も1人が負傷。プリシュティナの南40キロのデュリエでドイツ人記者2人が武装集団の銃撃を受け、2人は死亡。
・コソヴォ自治州プリシュティナ中心部の学生寮に、村を離れたセルビア系住民1500人が、アルバニア系武装勢力や住民の報復を恐れて逃げ込む。また、プリシュティナに通じる道路では、セルビア人住民が家財道具を満載した荷台を引いたトラクターを連ねて避難をし始める。セルビア正教の司祭は「NATO軍がもたらしたのは真の和平ではなく、セルビア人を追い出す和平だ」と述べる。
・クリントン米大統領はエリツィン露大統領と電話で協議し、コソヴォに進駐したロシア軍の取り扱いについて、NATO軍とロシアの現地司令官の協議によって決めることで合意する。
・オルブライト米国務長官は、中国大使館誤爆事件の釈明のために、ピカリング米国務次官を特使とする米政府代表団を北京に派遣することを明らかにする。
06/14:
・アルバニア系住民の国際機関による帰還が開始される。
・セルビア共和国で連立与党の一角を占めているセルビア急進党は最高幹部会を開き、政府がNATO軍占領を許したのは受け入れらない」として政権を離脱することを決める。党首のシェシェリ副首相らの閣僚は辞表を提出。
・NATO軍は、コソヴォ内に駐留する部隊が1万4000人に達したと発表。内訳は、英国軍・4300人、ドイツ軍・2500人、イタリア軍・2300人、米国軍・2100人。
・ユーゴ連邦軍は、コソヴォ自治州からの撤退を進める。
・コソヴォ解放軍・KLAは、自治州内での活動領域を広げる。これまでほとんど展開していなかったマケドニア共和国との国境に近いカチャニク村では、コソヴォ解放軍の作戦本部が設置され、NATO軍のかわりに解放軍が治安維持に当たっている。メフメト・バラジ第164師団副師団長は、「セルビア人側から攻撃があれば相当の対応はする」と述べる。
・コソヴォ自治州カチャニク村で、40体以上の集団埋葬された墓標が見つかる。虐殺された者たちの墓地だといわれる。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、カチャニク村での墓地が集団埋葬したとの情報はNATO軍側の捏造である、と報じる。
・コソヴォ自治州のアルバニア系難民は続々と帰還をしているが、一方でセルビア系住民がコソヴォ自治州から脱出している。ICRC国際赤十字委員会によると、ベオグラードの事務所が4ヵ所に設けた避難民のための連絡事務所に先週末の時点で3万人が立ち寄る。UNHCRによると、セルビア系住民の避難民1万3300人がロザイエ検問所を通ってモンテネグロ入りする。
・アナン国連事務総長は国連暫定統治機構・UNMIKについて、「国連コソヴォ暫定行政統治機構・UNMIK」として活動内容をEUなど周辺地域機構と分担する方針を安保理事会に報告。報告書ではUNMIKの活動は、「1,自治政府樹立までの間、財政や衛生、教育、司法などを担当する暫定行政。2,難民帰還や地雷除去などの人道活動。3,非政府組織・NGOや政党、報道機関などの育成、人権監視などを通じた機構つくり。4,インフラ再建などの復興」。この内、暫定行政は国連全体で行ない、難民帰還はUNHCRが担当し、自治政府の樹立はOSCEが担い、復興はEUが主体となる。
・クリントン米大統領とエリツィン露大統領は電話で協議。コソヴォ自治州に展開するNATO軍とロシア軍部隊との指揮権などの問題を協議するため、コーエン米国防長官とセルゲーエフ露国防相が近日中に会談することで合意。会談でエリツィン露大統領は、アルバニア系武装組織コソヴォ解放軍がコソヴォ入りしたロシア軍部隊に脅威を与え、セルビア系住民の放逐も始まっている、と指摘。クリントン米大統領も指摘に理解を示す。
06/15:
・日本政府は、ドイツでの主要国会議で行なわれるコソヴォ紛争に関する基本方針を決定。ユーゴ連邦のうちセルビア共和国についても保険・医療分野など人道支援をすべきだとの考えを打ち出し、2億ドル以上の追加支援の用意があることも明らかにする。
・ロシアのショイグ非常事態相はベオグラードに到着し、国際人道援助グループ「フォーカス」のメンバーであるロシア、スイス、ギリシア、オーストリアの4国の代表がユーゴ難民支援で協議す@@@る。
・コソヴォに進駐したロシア軍部隊は、米ロとの交渉が進展しない中で増派もならずに孤立し、補給のみボスニアからトラック8台で運び込む。
・コソヴォ自治州で射殺されたドイツの記者3人の内2人の遺体が、ドイツ連邦軍の輸送機でドイツに到着する。2人とも独週刊誌「シュテルン」の所属。
06/16:
・ピカリング米特使は北京を訪問して唐家璇中国外相に中国大使館爆撃事件について、「誤爆」であるとの調査結果を
説明。
・中国政府は、米政府の在ユーゴスラヴィア中国大使館への米軍の誤爆説を受け入れず。
・ロシアのセルゲーエフ国防相は、コソヴォ自治州でコソヴォ解放軍のテロ活動が活発化していると指摘し、「解放軍はコソヴォの正常化プログラムを破壊する火薬樽になりうる」と警告。
・コーエン米国防長官およびオルブライト米国務長官とセルゲーエフ露国防相およびイワノフ露外相は、フィンランドの大統領官邸でコソヴォ自治州に展開する国際部隊にロシア軍を参加させる問題で協議。ロシア側は、米・英・独・仏・伊の管轄地域と同じように独自の管轄地域を求めているが、米側はこれに難色を示す。
・UNHCRは、マケドニアの難民キャンプで、難民登録をNGOなどボランティア400人の協力の下に行なう。難民登録の上で、海外移住を希望する者は受け入れ枠12万人以内で行き先が決められる。既に8万5000人が移住先に出発している。
06/17:
・コーエン米国防長官とセルゲーエフ露国防長官は協議を再開。並行してオルブライト米国務長官とイワノフ露外相の協議も行なわれる。統一指揮権については妥協が図られるが、管轄地域については合意にいたらず、18日に再協議することで一致。
・クリントン米大統領とシラク仏大統領が会談し、セルビアに対する戦後支援はミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が政権の座にある限り、経済復興の支援はせず、人道支援のみに留めることで一致。
・米中は中国大使館誤爆事件について協議。米国側が古い地図を使用したことによる誤爆であることを説明したが、中国側は「誤爆」という結論は受け入れられないとして反論。
06/18:
・G8はケルン・サミットを開催。コソヴォ復興支援はEUを中心にG8が結束して進めていくことを確認する。この席上、ロシア軍はアルバニア系住民とセルビア系住民を平等、公正に扱うと表明。小渕日首相は、G8の夕食会で「エリツィン露大統領がユーゴ連邦との仲介や、G8の結束維持に大きな働きをしたことを評価する。今後の和平履行でもG8の結束と指導力が重要だ」と述べる。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのアーバー主任検察官は、NATO本部で記者会見し、コソヴォ調査団の第1陣が同日現地入りしたと発表。調査団は欧米の司法当局者や監察医らで構成し、12~14チームで契約100人が相次いで活動を始める。
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍はドイツ軍との協定で、西部の都市プリズレンで武器を携行しないことを明らかにする。20日からは戦闘服の着用もやめることにすることで合意。
・米ロ両国の国防および外務大臣・国務長官による、コソヴォ管轄に関する会談は最終的な合意に達する。合意内容の要旨;「1,ロシア軍部隊参加の基礎として、米ロは指揮権統一などの原則を受け入れる。2,米軍担当地域にはロシア軍の1ないし2個大隊が参加し、ロシア軍司令官が同大隊の指揮に当たる。3,独仏の担当地域にもロシア軍が参加出来るよう、米国はNATO軍に勧める。独軍担当地域には1ないし2個大隊、仏軍担当の地域には1個大隊が参加出来る。4,コソヴォに展開するロシア軍は5個大隊、計2850人に加え、空港、兵站基地要員として、最大750人、さらに連絡将校16人とする。5,プリシュティナ空港は国際部隊が決める手続きに沿って、全ての部隊が使用出来る。ロシア代表と国際部隊司令官が協議して詳細を決める。6,空港の警備にはロシア軍、管制はNATO軍が担当する。7,全ての指令は「指揮権の統一」の原則に従うが、コソヴォのロシア軍は政治的、軍事的にロシア軍司令部の管理下に置かれる」。付属文書;「ロシア軍の上限は3600人。ロシアは自国部隊司令部に対する指揮権を有する。欧州連合司令部や国際部隊司令部などNATO軍のあらゆる意思決定レベルにロシア軍代表を派遣する。ロシア軍部隊がNATO軍司令官の命令に従わなかった場合は、米・独・仏部隊がロシア責任地区で任務を遂行する権利を持つ」という1項も加えられる。
註;この会議で最後までもめたのは、ロシア軍側がコソヴォ解放軍・KLAの完全な武装解除を求めたのに対し、NATO軍は徹底的な武装解除には消極的だったからで、結局合意には至っていない。
・クリントン米大統領は、米ロが国際部隊の駐留について決着したことに対し、「ロシア軍が複数地域で活動することは、大きな責任を負うことを意味しており、セルビア民族に安心感を与えるだろう」と述べる。
・マケドニア共和国の首都スコピエでドイツ軍のトラックが爆破され、他の軍用車輌も被害を受ける。
06/19:
・ユーゴ連邦軍やセルビア警察は、コソヴォ自治州からの撤退の第2段階である中部からの撤退を完了する。
・ホワイトハウスは、クリントン米大統領が22日にマケドニアおよびコソヴォのアルバニア系住民の難民キャンプを訪問する、と発表。
・コソヴォのアルバニア系難民帰還は、15日に始まりこの日までに推定10万人に達す。
06/20:
・ユーゴ連邦軍やセルビア警察は、コソヴォ自治州全域からの撤退を完了する。セルビア民兵などの武装勢力の撤退については、撤退終了後にユーゴ連邦軍司令官が国際部隊に撤退完了の「確認書」を提出することになる。
・ソラナNATO事務総長は、ユーゴスラヴィアに対する空爆の終結を宣言する。
・国連コソヴォ暫定行政統治機構・UNMIKのデメロ国連事務総長暫定特別代表は記者会見で、ユーゴ連邦軍撤退後のコソヴォの行政区域毎に地方行政官を任命し、民政での行政活動を本格化させることを明らかにする。
・UNHCRはユーゴ連邦側からの情報として、コソヴォ自治州からのセルビア系住民の避難者は5万人上ると発表。
・G8はコソヴォ問題に関し、「我々の外相やEU、ロシア特使による精力的な努力を称賛する」との声明を発表。
・ブレア英首相はG8後に記者会見し、「コソヴォ紛争が大きなテーマになるなど普通とは違うサミットだったが、我々は難しい仕事を成し遂げた」と評価。復興支援については、「乱暴で野蛮な政権が存在する以上、資金を供与することはない」と強調。
・シラク仏大統領はG8後の記者会見で、「コソヴォでは今後、ロシアと米欧が手を携えて、同じ目的に向けて進むことができる。これは大きな前進だ」と述べる。
・クリントン米大統領は米ロのテレビ各局のインタビューに応じ、「大規模な民族的、宗教的な紛争が起き、戦争に拡大する恐れがあるときは、世界は虐殺や民族浄化をくい止めるべきだ」と今後も軍事介入に踏み切ることがあり得ると語る。
・ロシア軍高官は、米ロで合意したロシア軍部隊の展開について、上院の承認を得た後に最大で3600人の部隊を派遣する考えを示す。
06/21:
・NATO軍主導のコソヴォ安定化部隊・KFORのマイク・ジャクソン司令官とコソヴォ解放軍・KLAのハシム・タチ司令官は、KLAの敵対行為の停止と武装解除に関する非軍事化協定について合意し、調印する。合意内容;「1,30日以内に地対空ミサイルなど重火器類を提出する。2,60日以内に自動小銃など小火器の30%を供出する。3,90日以内に残りの小火器供出など非軍事化を完全終了し、国際部隊とKLAが武器を共同管理する。4,その後は国際部隊が管理する。5,地雷の敷設を禁止する。KLAの軍服を着た兵士が公衆の面前に表れることを禁じる」というもの。その他、コソヴォ自治州の民兵の戦闘も停止することを呼びかける。
・コソヴォ解放軍・KLAは、5000人のコソヴォ防衛隊・TMKに改組する。防衛隊の任務は「1、インフラなどの復興に寄与する。2,人道支援を提供する。3,災害対策能力を提供する。4,地雷除去を支援する。5,捜索と救出任務に従事する。6,法秩序に関する任務は負わない」など。コソヴォ防衛隊の初代最高司令官はコソヴォ解放軍・KLAのアギム・チェク前司令官が就任する。その他の武装組織は、武装解除に合意したが実施せず。
註;NATO軍主導のコソヴォ安定化部隊・KFORが、コソヴォ防衛隊・TMKを監督する。
・ユーゴ連邦当局は、「コソヴォ防衛隊の名を借りて、テロリストと戦争犯罪人を合法化するものである」と非難。
・コソヴォ解放軍は、コソヴォ自治州に居住するセルビア人の追放作戦を実行する。
・クリントン米大統領はNATO軍と非軍事化協定を交わしたKLAのタチ政治局長に電話し、「調印を重要なステップとして歓迎し、感謝する。コソヴォ住民が真の自治を実現できるよう密に協力したい」と伝える。
・コソヴォ自治州オラホヴァツ近郊で、NATO軍が投下したクラスター爆弾の不発弾が爆発し、処理作業をしていたグルカ兵2人とコソヴォ解放軍・KLAのメンバー2人が死亡。
・スタインバーグ米大使は、「コソヴォ内の地雷敷設地域はこれまで国連の調査で800ヵ所が確認されている。完全に撤去するには時間がかかるとしても、危険地域の地図をつくり、標識を立てるなどの安全対策を急ぎたい。こうした対策で住民が地雷の心配のないふつうの生活に戻るのに、3~5年はかかるだろう」と述べる。
・コソヴォ南部の米軍キャンプ地から5キロの小村で、銃を発砲しているグループがいるのを見つけて米軍が接近したところ、銃撃戦となり2人を拘束。グループがセルビア人かアルバニア人かは不明。
・セルビア共和国内に組織した、アルバニア系住民の民族解放軍「プレシェヴォ・ブヤノヴァツ・メドヴェジャ・UCPBM」がセルビア南部で活動を始める。
・ロシアは、NATO軍がロシアとベラルーシに侵攻したことを想定する大規模な戦略指揮所演習「ザーバド99(西99)」を26日まで実施する。演習は5万人を動員し、核兵器の使用を想定した大規模なものとなる。
06/22:
・クリントン米大統領はマケドニアのステンコヴァツ難民キャンプを訪問。
・コソヴォ自治州へ帰還した難民は28万人に達する。
06/23:
・米国防総省によると、コソヴォ自治州に進駐した米軍部隊が東部の検問所で数人の武装グループから銃撃を受け、米軍は応戦して1人を射殺し、2人を負傷させる。残りの5,6人は建物に立てこもったが説得に応じて投降。グループがセルビア系かアルバニア系かは現時点では不明。
・ルービン米国務省報道官は、米政府がユーゴスラヴィアの「民主化」を促進する目的で、ミロシェヴィチ政権に対抗する野党勢力を支援していることを認める。報道官は、「民主的な政権を目指す目的で野党の複数の人物と接触している」と述べ、さらに、ユーゴスラヴィアに対する米国の民主化支援は永年続けられているとし、空爆停止後はゲルバード・バルカン特使が野党勢力と接触していることを明らかにする。
・トラノヤフ・マケドニア内相は、スコピエでNATO軍車輌を爆破した容疑でセルビア系マケドニア人10人を逮捕し、内5人を国際テロの容疑で告発したと発表。逮捕者の家宅捜索で、時限装置のほか、対戦車地雷や擲弾発射装置など多数の武器が見つかる。
・英仏独伊4ヵ国の外相がコソヴォ自治州を訪問し、州都プリシュティナでアルバニア系とセルビア系双方の指導者と会談。4ヵ国外相は、国際部隊が住民の安全を守るとともに、お互い報復に奔らないよう求める。タチ・コソヴォ解放軍政治局長は、ユーゴ軍撤退後にコソヴォから脱出したセルビア系住民の帰還促進について同意する。フィッシャー独外相は、コソヴォ西部プリズレンでドイツ軍が20~40人を戦争犯罪容疑で身柄を拘束したことを明らかにする。
・セルビア中部のトルステニクで予備役兵士が給与支払いを求めて道路を封鎖。連邦軍は給与を支払う代わりに、電気や電話の割引、軍の購買所での物資購入割引券支給などを提示する。
06/24:
・EU環境理事会に、78日間に及んだNATO軍の空爆が大規模な環境破壊、深刻な水質・土壌汚染を起こしたことが報告される。緊急調査は欧州委員会の委託を受けた中東欧地域環境センターの専門家が、ユーゴスラヴィアと周辺の5ヵ国で初めて実施。汚染が激しいのは、NATO軍が攻撃を集中させたパンチェヴォやプラホヴォ、ノヴィ・サドの化学工業地帯。パンチェヴォの工場群からは1000トン以上のエチレン、3000トンの水酸化ナトリウム、1000トン近い塩化水素、大量の石油がドナウ川などに流出。
・ソラナNATO事務総長とクラークNATO欧州連合軍最高司令官はコソヴォに入る。ソラナ事務総長は、「来週から国際機関と協力して、組織的な難民帰還を始める」と述べる。
・ユーゴ連邦上院の市民院と下院の共和国院は、NATO軍の空爆開始直後に導入された「戦時体制宣言」の解除を審議する上下両院合同臨時会議を開き、賛成多数で解除宣言を採択。
・セルビア共和国中部クラリェヴォやクラグイェヴァツで、ユーゴ連邦軍に動員されていた予備役のグループが、手当の支払いに抗議して集会を開き道路を封鎖。
・朝日新聞によると、コソヴォ自治州ではアルバニア系住民が略奪、放火を行ないセルビア人が脱出している。人口10万人のペチ市ではセルビア人が避難した後の住宅からアルバニア系住民が財産を運び出し、家に火を放つ。町はずれのセルビア正教の修道院には、アルバニア系住民の報復を恐れて逃れてきたセルビア人数百人が暮らしている。コソヴォ自治州は、急速にアルバニア系住民による純化が進んでいる。
06/25:
・ロシア上院はコソヴォ自治州へのロシア軍部隊派遣を承認。規模は3600人で派遣費用は年間7000万ドル。
・コソヴォ自治州に展開している国際部隊のスポークスマンは、州都プリシュティナでアルバニア系住民がセルビア系住民への報復を行ない、14人を殺害したと発表。
・国連報道官は、コソヴォ自治州支援国会議をG8の外相会議から、中国やイスラム諸国機構・OICなども参加する「コソヴォ支援国会合」に衣替えして30日に国連本部で開催する、と発表。参加予定国は、G8、OICの他に、フィンランド、ギリシャ、オランダ、トルコ、EU、OSCEなど。
・クリントン米大統領は、セルビア共和国の戦後復興支援について、「セルビア国民はミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の行為に正面から向き合わないといけない。コソヴォの虐殺を承認し、ミロシェヴィチを支持するなら、セルビア復興にはびた一文出さない」と述べる。
06/26:
・米政府当局者は、NATO軍によるベオグラードの中国大使館爆撃事件で死亡した中国人3人の内、2人はジャーナリストではなく情報機関の要員だったと述べる。
06/27:
・朝日新聞によると、カナダ外交筋は「コソヴォは先例というよりも例外と認識している、と述べ人道的介入が各地でためされる可能性は低い、との見方を示す。また、フランスは国家主権の問題を指摘し、外部から介入する可能性に懸念を表明し、今後の対応には慎重な姿勢を示す。空爆を支持したスロヴェニアのトゥルク国連大使は国際法学者としての立場から、「人道的介入は純粋に人道的なものではなく、政治的な思惑も絡んでいる」と指摘。
・コソヴォ自治州に展開する国際部隊当局者は、州都プリシュティナで国際機関職員と通訳の2人が銃撃を受けて死亡したことを明らかにする。
06/28:
・朝日新聞が98年10月に開設した「朝日新聞アジアネットワーク・AAN」の安全保障研究チームは、提言をまとめる。「1,アジアにNATOの国連決議無視のやり方を持ち込んではならない。2,日米は中国との安保対話を急ぐべきである。3,武力による圧倒ではなく、多国間の協議と多様性の中の共存システムを確立すべきだ」の3点。研究員の佐々木芳隆主査は、「1,NATO軍が主権国の内部に武力で介入する冷戦後の秩序づくりに乗り出した。このやり方をアジアに持ち込んではならない。2,NATO軍の空爆は国連憲章違反である。3,アジアの安保は中国抜きには完結しない。中国との対話をすべきである」。藤原帰一客員研究員は、「1,欧州ではNATO軍が行動し、国連が追認するという先例が生まれた。冷戦後の欧州安全保障を今回のNATO方式で担えると即断することはできない。2,異なる政治体制をとる国が混在しているアジアの安全保障は、単独行動ではなく多国間協調が、武力による圧倒ではなく政治的合意形成が重要になる」。高原明生客員研究員は、「1,中国は、米国が一極支配を狙う新世界戦略が発動されたと認識している。2,中国では在ユーゴ中国大使館爆撃事件でナショナリズムが高揚して来つつある。米中の狭間にあって日本は双方に建設的対応を呼びかける立場にある」。水島朝穂研究員は、「1,紛争が暴力を伴う場合でも、紛争解決のための、市民的な非軍事手法を優先すべきだ。そこでは国連やOSCE、NGOの役割が重要。2,コソヴォ空爆は、NATOの新戦略をためす場だった。このコソヴォ空爆は安保理決議抜きで行なわれた国連憲章違反である。3,ドイツでコソヴォ空爆を推進したのは、94年当時に域外派兵は憲法違反だと訴訟を起こした人たちだったのは歴史の皮肉だ。空爆の法的根拠の希薄さをモラルと感情で乗り切ろうとした人々だった」と述べる。
・UNHCRは、アルバニア系住民の正式な難民帰還事業を開始する。マケドニアからの第1陣のバスが、北部の難民キャンプからコソヴォ自治州へ向かって出発する。
・NATO軍主体の国際部隊による「コソヴォ解放軍・KLA」の非軍事化の武器供出が始まる。
06/29:
・セルビアのチャチャクで1万人規模の反政府野党「変革のための同盟」による集会が開かれ、ミロシェヴィチ大統領の退陣と総選挙の即時実施を訴える。「変革のための同盟」によると、今後全国20ヵ所で集会を実施し、最後にベオグラードで全国集会を開く予定。
・オルブライト米国務長官は、「外交問題評議会」で講演し、この夏には中欧諸国と民主化支援の会議を開くと述べ、「ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が職から追放されるか、収監されればなお結構だが、そうでない限りセルビア共和国は人道援助以外は一切の援助は受けられないであろう」とイラク方式で進めることを強調。
・UNHCRによる、アルバニアからのアルバニア系住民の正式な難民帰還が始まる。現時点で、難民は既に41万5000人がコソヴォ自治州に戻っている。
・NATO軍主体の国際部隊の派遣は、計画の5万人を大幅に下回り、現時点で2万6000人しか駐留していない。そのため、アルバニア系によるセルビア人住民への報復を止めることができない状態が続いている。
・コソヴォの国際部隊は、プリシュティナの南15キロにあるリプリャンで、建物の中から短銃を撃とうとしていた男を英軍兵士が射殺したと発表。
・日本政府は、国連本部から要請のあった国連コソヴォ暫定行政統治機構・UNMIKへの文民警察官50人派遣を断る。
06/30:
・アナン国連事務総長はコソヴォ支援国会合で、「ユーゴスラヴィアへの人道援助には電気と水道への復旧も含めるべきだ」と述べる。さらに、「コソヴォだけではなくユーゴスラヴィア全体への人道援助について、内容を広げるよう」訴える。記者会見では、「薬をいくら援助しても、国民が汚い水しか飲めなければ病気になり、役に立たない」と語る。
・日本の町村信孝外務政務官は、18ヵ国が参加して国連本部で開かれるセルビア共和国コソヴォ自治州の支援国会議に出席。コソヴォ暫定行政統治機構・UNMIKに行政官や行政分野の専門家を派遣するため、調査団を派遣するとの意向を表明。
・コソヴォ暫定行政統治機構・UNMIKの文民警察官は、アメリカ450人、ドイツ200人など20ヵ国から1900人を派遣することが決まる。
・オルブライト米国務長官はコソヴォ支援国会議で、「ミロシェヴィチ政権が続く限り、食糧と薬だけにするべきだ」と述べる。
06/00:
・米軍はコソヴォに進駐後、直ちに南東部のウロシェヴァツ近郊に100エーカー余の土地を接収し、ボンド・スティール軍事基地を建設する。周囲14キロの恒久的な施設を持つ基地の建設を、チェイニー米元国防長官がCEOをしているハリバートン社が請け負う。
・「国際行動センター」のラムゼイ・クラーク米元司法長官は、「ユーゴ・コソヴォ空爆」を調査した報告書を公表。
07/01:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系難民・避難民80万人の内、50万人が帰還を果たす。アルバニア系難民・避難民の帰還の内訳は、アルバニアから29万人、マケドニアから18万人、モンテネグロから4万人で、残る難民は26万人。セルビア人住民は、コソヴォ解放軍の報復を恐れて7万人が脱出。
・セルビア共和国のベオグラードで、年金の支給が滞っていることに不満を持つ年金生活者200人が反政府デモを開き、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の退陣を要求。
・コソヴォ復興の経費は今後10年間で1000億ユーロ(12兆5000億円)といわれるが、英国、ドイツ、フランスなどは自国政府と緊密に連携をとりながら、事業の争奪戦を繰り広げている。英国では、コソヴォ復興の現地情勢報告会がロンドンで開かれ、250社の定員が予約段階で一杯になる。ドイツはボスニア復興では援助の27%を負担したが、自国企業が受注したのは5%だったこともあり、今回は熱が入っている。フランスは仏企業運動・MEDEFがバルカン調整局を設け、外務、国防など関係省庁と協力して事業獲得を目指している。オランダ経団連のブランケルト会長は、「橋が幾つ壊され、何本再建するのか知らないが、オランダ企業の得意分野であることは間違いない」と述べる。オランダ王立軍事アカデミーのスーテルス教授は「いまは軍部と民間の協力が最も重要な段階」と訴える。この他、イタリア、ギリシア、オーストリア、旧東欧の産業界も参入の機会を窺っている。
07/02:
・セルビア共和国ヴォイヴォディナ自治州の州都ノヴィ・サドで、野党の反政府集会が開かれ、数千人の参加者がミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の退陣を求めて気勢を上げる。集会を主催したのはヴォイヴォディナ自治州の自治権強化を求める地域政党の「改革民主党」など。
・セルビア共和国ラシュカで、コソヴォに動員されていた予備役のグループが手当の未払いに抗議し、コソヴォへ向かう幹線道路を封鎖する。
・アナン国連事務総長は、国連コソヴォ暫定行政支援団・UNMIKの事務総長特別代表に、フランスのクシュネル保健担当相を任命。UNMIKの副代表には米国外交官出身のコビーが就く。自治政府の機構づくり部門の副代表はオランダのエバーツ、復興部門を担当する副代表には欧州委員会のディクソンをそれぞれ任命する。
註;クシュネルは「国境なき医師団」の創設者で、NATO軍がユーゴ空爆の根拠にした「人道介入」を冷戦終結直後に提唱
した。
07/03:
・セルビア共和国コソヴォ自治州プリシュティナのセルビア共和国旧政府庁舎に向かって、車に乗ったアルバニア系住民が発砲し、同庁舎を警備していた国際部隊の英国部隊が応戦する。車から発砲したアルバニア系住民2人は死亡し、2人が負傷する。旧政府庁舎にはセルビア人住民50人が住んでおり、英兵が警備を担当。
07/04:
・NATO軍の空爆時にモンテネグロ共和国に逃れていたセルビアの野党指導者のジンジッチ民主党党首が、ベオグラードに戻ると、「ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領は辞任すべきだ」などと主張し、ユーゴ連邦の民主化を目指して活動することを誓うと述べる。
・CIAの調査によると、旧ユーゴスラヴィア各国の99年の1人当たりの国内総生産は、スロヴェニアは1万ドル、クロアチアは4500ドル、ユーゴ連邦は2280ドル、ボスニア・ヘルツェゴヴィナは1690ドル、マケドニアは960ドル。
・NATOの代表団がモスクワを訪れ、コソヴォ自治州へのロシア部隊の展開条件について協議し、最終的に合意。ロシア国防相はNATOの代表団との会談後、「5日からロシア部隊の活動に障害がなくなり、プリシュティナ空港へのロシア輸送機受け入れも可能になった」と表明。
07/05:
・緒方貞子国連難民高等弁務官は、マケドニア北部の難民キャンプからのアルバニア系難民200人とともに、セルビア共和国コソヴォ自治州の州都プリシュティナに入る。この日までに、コソヴォのアルバニア系難民はおよそ54万7500人が帰還。セルビア系とロマなど少数民族の避難民はセルビアとモンテネグロに移動していたが、アルバニア系住民から帰還を阻まれる。
・セルビア共和国コソヴォ自治州で、新しい政党「民主統一党」が結成され、バルトヒル・マフムティ総裁が就任。総裁は記者会見で、「この政党はコソヴォ解放軍・KLAが作った非合法の政治組織、『コソヴォ人民運動』と解放軍の政治指導部らによって創設された党で、アルバニアとの統一を目指す」と述べる。
・NATO軍は、ボスニア内戦中の戦争犯罪者として旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷から起訴されている、セルビア人民党のラドスラフ・ブルジャニン党首の身柄を拘束した、と発表。
07/06:
・緒方貞子難民高等弁務官はプリシュティナで記者会見を開き、「難民援助に必要な資金が1週間分しかない。米国や日本を初め、ヨーロッパ諸国からの支援を望んでいる」と語る。
・コソヴォ自治州の治安維持に参加するロシア部隊の第1陣が、空路で州都プリシュティナに到着。ロシアは今後、空路と海路で3600人を派遣する。
・赤十字国際委員会・ICRCは、ユーゴ連邦に逮捕・拘束されているアルバニア系コソヴォ住民は2000人おり、そのリストを今週中にユーゴ連邦側から受け取る予定だと発表。一方、アルバニア系コソヴォ解放軍に拘束されているセルビア系住民も140人いるが、その確認や訪問についての交渉が進展していない。
・セルビア共和国のウジツェなどの2都市で、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の退陣を求める反政府集会が行なわれる。「変革のための同盟」主催の集会では、ジンジッチ民主党党首らが反政府集会やゼネストへの参加を呼びかける。
07/07:
・UNHCRによると、コソヴォを脱出したセルビア系住民は7万人以上と見ているが、ユーゴ連邦政府は10万人以上と推定。
07/08:
・ユーゴ連邦の野党勢力の「変革のための同盟」の代表者の前ベオグラード市長のジンジッチ民主党党首らが、コソヴォ自治州を訪問。セルビア系住民居住区の町では、親ミロシェヴィチ派の住民らが抗議して一時騒然となる。
・セルビア共和国の南部プロプクリエで、野党勢力の「変革のための同盟」の集会が始まると社会党の地元幹部が突然発砲。怪我人はなし。
・セルビア社会党が集会を計画したが、参加者がなく集会は中止に追い込まれる。
・ロシア軍のコソヴォ派遣部隊は、黒海沿岸のトゥアプセ港から大型上陸用舟艇で出発し、ギリシャのテッサロニキ港に到着。兵士475人、戦闘車両80両。
・日本政府は、コソヴォ自治州に阪神大震災で使用したプレハブ住宅の一部を、外務省、兵庫県、UNHCR、NGOの連係プレーで活かすことを決める。数量は500戸程度にする予定。
07/09:
・UNHCRは、セルビア共和国コソヴォ自治州の中心部にある2000の村のうち141ヵ所について家屋などの被害を調査。全体の64%が深刻な損害を受けたり、完全に破壊されたりしていることが明らかになる。
・コソヴォ自治州のオラホヴァツで、ユーゴ連邦軍などとの戦闘で犠牲になったアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAの兵士5人を埋葬する儀式が行なわれる。オラホヴァツでは、ロシア軍の駐留に反対する集会が連日開かれ「コソヴォにロシア人はいらない」とのスローガンが叫ばれる。
・米国務省は、中国大使館爆撃事件に関する協議のために、デビッド・アンドリュース顧問を代表とする米政府団を来週半ばに中国に派遣することを明らかにする。
07/10:
・朝日新聞によると、コソヴォ自治州では急速にアルバニア化が進み、セルビア系住民は脱出している。プリシュティナ中心部では、セルビア人が所有していたカフェやバーなどの店のガラス窓に、「ここはアルバニア人の店だ。触るな」などとペンキで走り書きされたところが目に付き、セルビア人はほとんどいなくなっている。プリシュティナでの通貨は、ディナールに替わってマルクやドルが流通するようになっている。
07/11:
・セルビア共和国の南部ヴラーニェと北部キキンダの2ヵ所で、NATO軍の空爆中に召集された予備役兵が給与や手当の支払いを求める集会を開き、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の退陣を要求。
07/12:
・ボスニアに関する評議会運営委員会閣僚級会合がブリュッセルで開かれ、ボスニアのOHR上級代表にヴォルフガング・ペトリッチ・コソヴォ問題担当EU特使を指名。
・UNHCRは、独など西欧諸国や米、トルコ、豪などに移送したコソヴォ難民の帰還を、15日から始めると発表。
07/13:
・バルカン半島全体の景気浮揚策を話し合う支援国・財務相会議がブリュッセルで開かれ、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の体制が続く限り、セルビアへの復興支援を見合わせることを申し合わせる。
・ユーゴ連邦のセルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首は、空爆後初めてミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の退陣を要求。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷のルイーズ・アーバー首席検察官は、初めてコソヴォ自治州に入りプリシュティナを訪問。記者会見で、「司法解剖の結果など、ミロシェヴィチ大統領の起訴事実を補強する物証が多く得られている」と、これまでの捜査に満足を示す。さらに、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領ら5人に対する5月の起訴は殺人や迫害の罪になっているが、今後追起訴などによって大量虐殺など重い罪状に切り替える可能性がある」ことを示唆。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、判事14人と検察官2人を含めた法廷職員が766人。捜査には、米連邦捜査局やロンドン警視庁が捜査員や検視官を派遣したほか、12ヵ国から200人が現地入りして集団埋葬などの調査にあたっている。
・ユーゴスラヴィアの連邦制の見直し交渉をするため、セルビア共和国とモンテネグロ共和国の主要政党がベオグラードの連邦議会で協議を開始。モンテネグロ側は、連邦政府の権限は外交や防衛などに限定し、共和国に広範な権限を与えることを提案。
07/15:
・在ユーゴスラヴィア中国大使館爆撃事件に関する、米中間の補償交渉が北京で始まる。中国外務省の章啓月副報道局長は記者会見で、「大使館誤爆の原因説明と補償問題は別々の問題」と発言。
・コソヴォ自治州のルゴヴァ自治政府大統領は、NATO空爆の途中までコソヴォに留まっていたが、5月に突如イタリアのローマに出国。この日、滞在先のローマから帰国。その後一時行方不明になる。
・セルビア共和国議会は臨時本会議を開き、野党の新民主党の5議席を剥奪する議決をする。
・世界保健機構・WHOは、セルビア共和国コソヴォ自治州に残された地雷や不発弾で150人が犠牲になった、と発表。
07/16:
・高村正彦日外相は、記者会見でセルビア共和国のコソヴォ難民に対する支援に総額2000万ドルを追加することを明らかにする。この内1800万ドルは、UNHCRを通して住宅の確保や物資、人員の輸送などに当てられる。
・ベオグラード中国大使館の誤爆をめぐる米中協議は、月末に再協議することで一旦終了する。
・コソヴォ暫定協議会第1回会合が開かれ、アルバニア系4名、トルコ系1名、ムスリム人1名、セルビア人2名が参加し、複数民族からなる警察を設置することで合意する。
07/17:
・日本のユーゴ支援NGOの共催で集会が開かれ、3人のジャーナリストの「現地報告」がなされる。
07/19:
・EU外相理事会でコソヴォ復興支援事務所の場所をギリシャのテッサロニキに置き、実働部隊のオペレーション・センターをコソヴォ自治州の州都プリシュティナに置くことで妥協が成立。さらに、経済制裁措置の対象から、モンテネグロとコソヴォ自治州を除外する方法を工夫することで一致。欧州委員会の委員長は、プロディ前イタリア首相を選出。
07/21:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷が起訴している、ボスニア戦争中にセルビア人民兵組織「バルカンの虎」を指揮していた、通称アルカンことゼリコ・ラズナトヴィチが、ベルギー検察当局に接触する。
07/22:
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍・KLAの武装解除の第1段階の期限を迎えたが、武装解除に当たる国際部隊はKLAの武器所有状況を把握しておらず、完全な武装解除は難しい見通し。
・米下院情報特別委員会の公聴会で、国防総省とCIAは中国大使館爆撃について、NATO軍による空爆全体を通じてCIAが選定した地図と標的の指定に基づいて実行されたものだったと報告。テネットCIA長官は、「1,分析官が古い地図の上に不適切な手法で番地を推定して標的を設定した。2,CIAは本来標的選定を担当しないため、所定のマニュアルもなかった。3,誤りをチェックするデータベースに正しい情報が入力されておらず、実際に現場を知っている職員の知識は活かされなかった」などを挙げる。ヘームリ国防副長官は、「思っていたより長引いた戦争を早く終わらせるために、より多くの爆撃対象を探していた」と述べる。
07/23:
・コソヴォ自治州のセルビア人の村グラチェコの男たち14人が麦刈りに出かけたところ、アルバニア系の村ベリキァワシュの男たちに銃撃されて殺される。
07/24:
・ユーゴ連邦政府は国連安保理に対し、コソヴォ自治州で23日にセルビア人住民14人が虐殺された事件について協議するための緊急理事会を開くよう要請。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領はコソヴォ自治州でのセルビア人虐殺事件について、「責任はコソヴォに駐留する国際部隊にある」と批判し、国連に対しユーゴ連邦軍とセルビア治安部隊のコソヴォ帰還を認めるよう求める。
・セルビア共和国南部ニシュで、「セルビア再生運動」主催の反政府集会が開かれ2万5000人が参加。ドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首は、「平和的方法での政権交替と、すべてのレベルでの早期選挙実施」を主張。
07/26:
・EUの欧州委員会と世界銀行が主催するコソヴォ復興支援国会議は、当初の予想より少ない15億ユーロ(1900億円)以内に収まるとの見通しを明らかにする。
・オサリバン世界銀行南東欧復興特別代表らによると、コソヴォの住宅20万戸のうち、60%の12万戸がセルビア軍の焼き討ちなどで被災し、内4万戸は補修不能で建て直しが必要という。住宅の損害は11億ユーロ(1400億円)と見込まれる。
・緒方貞子難民高等弁務官は安保理で、コソヴォ自治州の陰でアフリカの難民援助が置き去りにされていると指摘。
07/27:
・米ロ首脳会談で、米国側はユーゴ空爆をめぐって溝ができた政治面での関係正常化を求めたのに対し、ロシア側は経済面での支援獲得が緊急の課題だと要請。米国側はロシアのステパシン首相に対し、IMFと世銀のロシアへの融資再開にはユーゴスラヴィアへの支援を取り止めることが条件だと要求。ステパシン露首相は、ユーゴ連邦への支援は人道援助だと説明。
07/28:
・EUと世界銀行の主催によるセルビア共和国コソヴォ自治州の第1回支援国会議が、52ヵ国と40の国際機関が参加してブリュッセルで開かれる。EU、米国、日本などが20億8200万ドル(2500億円)の緊急支援を表明。EUは、3億7800万ユーロを人道支援に、1億4500万ユーロを行政機構づくりに拠出する方針。日本は、コソヴォ支援枠の2億ドルと追加支援2000万ドルのうち、1億6000万ドルをコソヴォへの直接支援として提供すると表明。米国は、「ミロシェヴィチのユーゴスラヴィア」には復興支援しない方針を表明しているが、コソヴォへの本格的な復興支援も明確には表明せず。会議に報告された損害調査によると、コソヴォにある1400集落にある住宅20万6000戸の内12万戸が破損し、4万6600戸は損壊率が60%で立て直しが必要だとする。
註;米欧はミロシェヴィチ・ユーゴ大統領が退陣しない限りユーゴへは復興援助しない方針だが、元来コソヴォ自治州は農業と鉱業が主産業で、天然ガスのパイプラインや送電線、鉄道、道路網はユーゴ連邦に依存している。そのため、空爆で破壊されたユーゴスラヴィアの復興が進まなければコソヴォ自治州の復興も覚束ないということになる。
・コソヴォ自治州に展開する国際部隊の英国軍が、グラチュコ村のセルビア人住民14人虐殺に関与した疑いで、ベリキアワシュ村のアルバニア系男性4人の身柄を拘束し、取り調べる。
・クラークNATO欧州連合軍最高司令官は、任期が来年の7月までのところを4月に退任すると発表。空爆をめぐる国防総省との対立が原因、との更迭説が出ている。
07/29:
・セルビア共和国では、5都市でミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の退陣を求める集会が開かれる。大統領の退陣を求める署名は30万人分が集まる。
07/30:
・バルカン地域の安定化を目指す「南東欧州安定化協定」の初めての首脳会議がボスニアのサラエヴォで開催され、「サラエヴォ宣言」を採択。「サラエヴォ宣言」の要旨;「1,多民族、多宗教、多文化への尊重と寛容の象徴であるサラエヴォにおいて、民主主義、人権尊重、経済・社会発展といった分野における諸目標の達成に向けて共同で作業する。2,欧州・大西洋諸機構への統合を目指す南東欧諸国は、安定協定機構が統合プロセスを促進するものと信じる。欧州連合・EUなど国際諸機関は、統合プロセスを迅速に進めるための努力を払う。3,ユーゴ連邦が民主的変化を受け入れ、地域的和解のために積極的に努力することを求める。我々は同国の民主化を進めるために、モンテネグロ共和国が本協定の早期の受益者となる道を検討する。4,安定協定プロセスで重点を置くのは、民主化と人権・政治活動の自由やメディアの独立の保証、民族の多様性の保護など。経済発展および協力。安全保障・地域の平和・善隣関係の構築、軍縮など。5,南東欧地域会議が、協定の活動のために包括的な枠組みを作りあげる。同会議は9月に初会合を開く。民主化・人権、経済再建、安全保障の各作業部会は、同会議後1ヵ月以内に開催される」。
・クリントン米大統領は、バルカン地域への1億5000万ドルの投資促進基金の創設など包括的な経済振興策を明らかにする。
・米政権は、ユーゴスラヴィアへの復興支援はミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の退陣が前提だとの姿勢を強調。欧州側は、一部インフラの復興支援を進めるべきだとの意見もあり、足並みは必ずしも揃っていない。
註;「南東欧安定化協定」の会合では、バルカン諸国の歴史や文化や経済発展の違いによる民主化の度合いの違いに関する議論は行なわれなかった。また、ユーゴ連邦・セルビア共和国との関係もセルビア悪説を引きずり、支援から排除されてきたことが民族主義を煽る結果を招いたことへの反省は見られない。相変わらずミロシェヴィチに責任のすべてをかぶせている。
・米中両国による政府間交渉で、中国政府は、在ユーゴ連邦中国大使館爆撃に関する3人の死者と20数人の負傷者の賠償額について、5億3000万円で合意。建物など財産の賠償問題については引き続き協議する。
・朝日新聞によると、空爆停止後に国際部隊が展開し始めてからの6週間でセルビア人住民150名の命が失われる。
・NATOの次期事務総長に、英国は候補者として英国防相のジョージ・ロバートソンを指名。
・クロアチア共和国とボスニア・ヘルツェゴヴィナは、国境画定に関する条約に調印。
註;これまで、ボスニアのクロアチア人勢力がクロアチア共和国との統合を望んでいたこと、トゥジマン・クロアチア大統領がボスニア和平調印後も、「自らの主張を放棄し、降服することに等しい」と述べて調印を拒んできたために国境の確定ができずにいた。
・独立系ラジオ局「B92」はNATO軍による空爆をきっかけに政府に接収され、事実上廃止に追い込まれていたが、「B2・92」と改めて、音楽放送を開始する。
08/01:
・モンテネグロ共和国のジュカノヴィチ大統領は、セルビア共和国が民主化と経済改革の道を拒否し続ける場合、ユーゴ連邦からの脱退を検討する可能性を明らかにする。
・中国は、ユーゴ・コソヴォ空爆の意味するものを分析し、健軍72周年になるのに事寄せて、中国軍の在り方の検討を始める。傳全有総参謀長は、「戦場の情報化、作戦の一体化、軍隊のデジタル化、兵器の装備の知能化などの新たな趨勢が中国の近代化に対する新たな挑戦となっている」との論文を発表。
08/02:
・ユーゴ連邦の「変革のための同盟」が、セルビア南部のヴァリェヴォでミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の退陣を求める反政府集会を開き5000人が参加。集会には、セルビア正教会からアルテミエ主教が参加し、「ミロシェヴィチを戦犯法廷に送り込まなければいけない」と述べる。集会では、変革の代表にアブラモヴィチ元中央銀行総裁を選出し、暫定政権の首相に推薦。
・ユーゴスラヴィアの独立系ラジオ局「B2・B92」は、報道番組を復活。
08/03:
・国連安保理は、ボスニアに関するOHRウエステンドルプ上級代表の後任にヴォルフガング・ペトリッチ・コソヴォ問題特使の指名を承認する決議1256を採択。
・ユーゴ連邦では、「セルビア安定化協定」と名付けられた暫定政府構想の下に、野党勢力の大結集が図られる。
・ベオグラード大学のディンキッチ助教授が提唱した内容は、「1,現政権の即時退陣。2,専門家による暫定テクノクラート政権の樹立。3,野党党首は暫定政権に不参加。4,各政党の1年間を活動停止」などを定め、「政権の1年間の任期中に経済改革や自由選挙を実施することなどを公約とする」。「この公約の下に19日に大集会を実施する」など。
08/05:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国政府は、ユーゴ連邦政府の権限を大幅に縮小し、セルビア共和国とは緩やかな結び付きとする新たな連邦制度を定めた基本方針、「モンテネグロとセルビアの新たな関係に関する原則」を承認。
08/06:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア系コソヴォ解放軍・KLAのタチ政治局長は朝日新聞との会見で、「約3年の暫定自治政府機関を経た後に、住民投票で独立の信を問う」と述べる。
・NATO諸国は、マケドニア共和国には30%を超えるアルバニア系住民がおり、モンテネグロ共和国にも多数のアルバニア系が居住しているため、これらの旧ユーゴ諸国への波及を危惧してコソヴォ自治州の独立を認めず。
・セルビア共和国の野党「セルビア再生運動」のドラシュコヴィチ党首は朝日新聞との会見で、「ユーゴスラヴィアに孤立をもたらした指導者はその責任を取るべきだ」とミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の退陣を明確に要求するとともに、「変革のための同盟」と共闘していく考えを示す。
・ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は在外セルビア人代表との会合で、野党やセルビア正教会などが要求している退陣要求について、「NATO軍の侵略行為を、国内にいる手の汚れた政治家が続けさせているものだ」と演説。
08/10:
・モンテネグロ共和国のドギシャ・ブルザン副首相は朝日新聞との会見で、モンテネグロ政府の基本方針を述べる。セルビア共和国との関係を続けるとの前提に立つ提案として、「モンテネグロが極めて不利な立場に置かれている現在の連邦制は変えなければならない。モンテネグロが国際社会から支援を得るには、現在の連邦制では事実上不可能で、より独立性の高い枠組みが不可欠だ。セルビア側が受け入れない場合には、独立の是非を含め、民意を問うことになるだろう」と述べる。
08/11:
・国連安保理は、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのルイーズ・アーバー首席検察官の後任に、カルラ・デル・ポンテ・スイス検事総長を任命。首席検察官の任期は4年。
08/12:
・ユーゴ連邦政府は、与党セルビア社会党とマルコヴィチ率いるユーゴ左翼連合に、極右民族主義政党のセルビア急進党を新に加えた改造内閣の陣容を発表。
08/13:
・アルバニアのマイコ首相がコソヴォ自治州を初訪問し、UNMIKのクシュネル代表や、コソヴォ解放軍・KLAのタチ政治代表やアルバニア系のルゴヴァ政治指導者などと会談。
08/17:
・セルビア共和国の最大野党セルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首は記者会見で、19日に予定されている反政府集会に参加しないことを表明。不参加の理由として、「1,ミロシェヴィチ体制が強化される中、市民の支持を集める好機を失った。2,政府の転覆を謀ろうとする一部の野党と連携することはできない」というもの。表向きの理由とは別に、「変革のための同盟」に対し、演説者の数や顔ぶれに異議を述べていたが、それが受け入れられなかったことがある。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの和平復興を統括管理する上級代表事務所・OHRは、、ボスニア政府内の汚職や脱税などにより10億ドル以上が失われていることを、不正摘発チームが調査した結果を明らかにする。不正に使われた10億ドルの財源の大半は税収に係わるもので、51億ドルに上る援助資金は僅かな被害ですんでいる。
08/18:
・セルビアの首都ベオグラードで、ユーゴスラヴィアとクロアチアがサッカー欧州選手権の予備選で対戦する。結果は双方とも得点できずに引き分けとなる。
08/19:
・セルビアのベオグラードで開かれた反政府集会は、15万人が参加。不参加を表明したセルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首も突然壇上に現れて演説、「我々は連邦政府の監獄の中にいる。そこから出てできるだけ早く選挙をしなくてはならない」と述べる。同氏の登場に対し歓呼の声で迎えるもの、「裏切り者」とブーイングを繰り返すものの二様の反応が出る。
08/20:
・ロシア国防省のイワショフ国際軍事協力局長と外務省高官は、セルビア共和国コソヴォ自治州に展開しているNATO軍主体の国際部隊の活動がロシアにとって受け入れられない性格を帯びれば、国際部隊からロシア軍部隊を撤収するか、参加形態を変える可能性がある、と語る。
・セルビア共和国で19日に行なわれた野党勢力の大集会の主催者である経済学者らの政策集団「グループ17」代表のディンキッチ・ベオグラード大助教授は、野党内部の対立が明確になったことについて、「反政府勢力にとっては悲劇、ミロシェヴィチにとっては好機だ」と集会の成果に落胆の意を表す。
08/23:
・英経済紙「エコノミスト」の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット・EIU」は、NATO軍の空爆でユーゴ連邦が被った損害額がおよそ600億ドルに上る、との試算を発表。ユーゴ連邦の実質国内総生産・GDPは、マイナス40%程度まで落ち込み、89年の30%程度のGDPに縮小すると予測。欧州では最低水準の国家となる。
・セルビア共和国コソヴォ自治州南部のオラホヴァツで、アルバニア系住民1800人が、国際部隊のロシア軍の展開を阻止するために道路を封鎖。
・日本政府は、コソヴォの緊急支援のための調査に入る。日本政府はコソヴォ自治州の復興支援の一環として、750万ドル5000戸分相当の現金を、自力で家を修復する住民に直接支給する方向で現地での調整を始める。しかし、この現金支給の方法は、結局現金のばらまきに終わるのではないかとの批判が出されている。既に、日本からは7つのNGOが住宅づくりや医療支援に入っている。コソヴォの難民80万人の9割は帰還し、世界からは100を越すNGOが緊急支援にあたっている。
08/25:
・オーストリア外務省は、ボスニア紛争で残虐行為を働いたとして旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYから起訴されているボスニア・セルビア人共和国軍のモミル・タリッチ参謀総長をウィーンで逮捕したと発表。
08/26:
・NATO軍は、コソヴォ自治州のウグリャレ村でセルビア人の15人の虐殺死体を発見した、と発表。発見してから1ヵ月遅れの発表。
08/29:
・イワノフ露外相は、オルブライト米国務長官と電話でコソヴォ情勢について協議し、「1,コソヴォ自治州からの非アルバニア系住民の流出。2,コソヴォ解放軍の非軍事化の遅れ。3,ロシア平和維持部隊への挑発」などについて懸念を表明。
08/30:
・ユーゴスラヴィア北部のノビサドに、NATO軍の空爆で破壊されたドナウ川にかかる橋の代わりにする浮き橋が到着。
08/31:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYで、ボスニアのセルビア人共和国のモミル・タリッチ参謀総長が法廷に初出廷し、罪状認否で無罪を主張。
08/00:
・国連コソヴォ暫定行政機構・UNMIKのクシュネル代表は、コソヴォ防衛隊・KPC創設命令書に署名。
・註・この命令書に基づきコソヴォ防衛隊・KPCが創設されるが、要員のほとんどはコソヴォ解放軍・KLAの兵士。
09/01:
・ユーゴ連邦政府は、NATO軍の空爆時の3月末に同国国境付近で逮捕し、スパイ容疑で実刑判決を科していたオーストリアの援助団体のブラット職員ら2人を、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領が恩赦で釈放すると発表。
09/03:
・日本の山梨県にある日本航空学校に、全国から寄せられたコソヴォ難民に送るセーター10万着が集められ、全校生徒700人が荷造りをする。
09/05:
・国連のコソヴォ自治州暫定行政統治機構・UNMIKは、コソヴォ自治州の法定通貨をドイツ・マルクとすることを決定。また国境関税業務もUNMIKが担い、それをベオグラードではなくコソヴォ暫定政府に提供することも決める。
09/06:
・セルビア共和国コソヴォ自治州の東部グニリャネ郊外で、アルバニア系住民が乗っているバスをセルビア人住民が銃撃し、アルバニア系住民1人が死亡、1人が負傷。銃撃したセルビア人3人を、国際部隊・KFORのロシア部隊が射殺する。
09/14:
・国連コソヴォ暫定行政機構・UNMIKは、コソヴォ解放軍・KLAを災害援助部隊に再編し、一部をコソヴォ警察に採用するなどの方針を決める。訓練を開始した警察学校訓練生200人のうち、およそ半数がコソヴォ解放軍出身。
09/16:
・NATO軍は、ユーゴスラヴィア空爆に関する損害評価調査を公表。それによると、「コソヴォに展開したユーゴ連邦軍・治安部隊への攻撃結果は、戦車93輌、装甲兵員輸送車153輌、軍用車輌339台、大砲・迫撃砲389門を破壊。
・クラーク欧州連合軍最高司令官は、「ユーゴ連邦軍撤退、難民帰還という初期の目的を達成した空爆は、相手の損害の多少に関わらず成功だった」と強調。
09/18:
・コソヴォ自治州でアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍が、NATO軍による非軍事化を前にして「さよならパレード」を挙行。
09/20:
・NATO軍主体の国際部隊KFORとコソヴォ解放軍・KLAとの解放軍解体交渉は、期限のこの日に至るも決着に至らず、さらに48時間の交渉延長を決める。
・コソヴォ安定化部隊・KFORは、原則としてコソヴォ解放軍・KLAの非軍事化を目指しているが、KLA側は、「1,武器携行人員の増員。2,解放軍の制服や肩章の使用。3,より軍隊に近い名称の採用」などを主張して譲らず。深夜に至り解放軍側が「非軍事化」に合意し、調印する。合意内容;「コソヴォ解放軍・KLAを災害救助などにあたる文民組織『コソヴォ部隊』に改組する。チェク参謀総長を最高指導者とする」など。署名者はクシュネルUNMIK代表、ジャクソンKFOR司令官、タチ解放軍政治局長、チェク解放軍参謀総長。
09/21:
・ユーゴ連邦の反政府組織、「変革のための同盟」は20ヵ所で反政府集会を開く。ベオグラード集会には3万人が参加し、ノビサド、クラグイェヴァツ、ニシュなどでは1万人を超える市民が参加。ジンジッチ民主党党首は、「これから毎日、政権の責任者の公開模擬裁判を行う」と宣言。一部労組がゼネストを呼びかける。
09/22:
・中国の唐家璇外相は国連総会で、「コソヴォ自治州紛争をめぐるNATO軍の空爆について、「国連安保理」を迂回し、『人道主義』や『人権』の名目で主権国家に軍事行動を取ったことは、国際関係に不吉な先例を生んだ」と非難する演説を行なう。
09/25:
・ユーゴ連邦の野党連合「変革のための同盟」は、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の退陣を求める集会を連日開いていたが、この日のベオグラードの集会はデモ行進を主体としたことで4万人が参加する。
09/28:
・コソヴォ自治州のプリシュティナ南郊のコソヴォ・ポーリェの市場で、手榴弾によると見られる爆発が2度あり、セルビア人住民2人が死亡、40人が負傷。KFORがアルバニア系容疑者2人を逮捕。セルビア人住民は道路を封鎖して抗議行動を行なう。
09/30:
・朝日新聞によると、ユーゴ連邦周辺国は、NATO軍のユーゴ連邦への空爆時に協力したにもかかわらず、何らの見返りがないことに対する不満が鬱積しているという。
・セルビア共和国のベオグラードで「変革のための同盟」が集会後デモ行進をしたところ、当局が阻止行動を取り、参加者に警棒を振るい、10数人が負傷する。
10/01:
・日本政府は、コソヴォ自治州の帰還民に対する越冬対策支援として、住宅修復などに818万ドル(9億8000万円)の緊急無償資金を拠出することを決める。この無償資金は、国際機関や現地で活動している日本のNGOなどを通じて約2500戸の住宅修復や医療施設の復旧に充てられる。
10/03:
・日本政府支援のコソヴォ自治州住民の越冬用住宅として、神戸阪神大震災で使われた仮設住宅の組み立てが日本のNGOの手で始まる。11月初旬には入居が始められる見通し。
10/04:
・UNHCRの執行委員会で緒方貞子難民高等弁務官は、コソヴォ紛争での人道援助に関してNATOや各国政府の行動を厳しく批判。「NATO軍の直接支援は人道援助機関の効率性や影響力を奪い、協力関係を台無しにする。それどころか、難民の安全性を脅かし、難民を紛争の一方の当事者にすることさえある。軍は人道機関の代替は出来ない」と述べる。また、各国政府が人道機関を経由せずに、直接または相手を特定して援助資金を出す例が多かったことについて、「人道機関の活動力を削ぐ結果になる」と語り、さらに「南バルカンの援助は厚いが、同じように深刻なアフリカなどには援助の手をさしのべてくれない」と、不公平さを批判する演説を行なう。
・クロアチア共和国の裁判所は、第2次大戦中にヤセノヴァツ収容所で数千人のセルビア人住民を殺害したことに関与した、ディンコ・サキッチ元強制収容所長に、禁固20年の判決を言い渡す。
10/05:
・コソヴォ自治州北部のミトロヴィツァで、アルバニア系住民とセルビア系住民が衝突し、セルビア人1人が死亡、国際部隊の兵士を含む20人が負傷。
・ロシアはNATOが域外のセルビア共和国に対してユーゴ・コソヴォ空爆を行なったことに危機感を抱き、「安全保障会議」を開き新「国家安全保障概念」を策定。
10/06:
・ハビエル・ソラナNATO事務総長が退任。ソラナ事務総長は、「この4年の間に、ボスニアとコソヴォでの平和維持活動に見られるように、NATOは新たな役割を果たすようになり、加盟国も18ヵ国から19ヵ国に増えた」と変化を強調。
10/08:
・セルビア共和国ベオグラード市議会は、ミロシェヴィチ・ユーゴ大統領の辞任を求める宣言を賛成多数で採択する。
10/09:
・ロシアの「赤星」紙は、NATOの東方拡大の動きを軍事的脅威と捉える新「軍事ドクトリン」の草案を掲載する。
10/11:
・EUの外相理事会は、ユーゴ連邦の野党指導者らと初めて公式に「民主化」の道筋を話し合う。反体制派の動きを後押しする方策として、反体制派が強い自治体に暖房油を供給する「民主化エネルギー戦略」を検討課題とする。EU外相理事会が招いた反体制派は、ドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首、アブラモヴィチ変革のための同盟代表、ジブコヴィチ・ニシュ市長、セルビア正教会幹部ら30人とジュカノヴィチ・モンテネグロ大統領など。
・EU外相理事会は反体制派との協議後に、復興支援の前提として、「民主勢力が政権を握り、国連の旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴された戦犯容疑者が追放され、新政権が戦犯法廷に全面協力すること」を声明として発表。
・ユーゴ連邦の反体制派の有力な団体は、EUの声明の内容に反発してEU外相理事会に出席せず。EU外相理事会は欠席団体があったにもかかわらず、「民主化エネルギー戦略」を承認。米国は反対する。
・EU外相理事会を欠席した団体の指導者の一人は、「大統領は国内で裁くべきだ。これでは責任追及より、国土復興に期待する世論を逆撫でするだけ」と批判。
10/13:
・アナン国連事務総長は、ユーゴ連邦空爆後初めてコソヴォ自治州を訪問し、アルバニア系住民とセルビア人住民双方の代表と会談。さらにUNMIKの活動状況を視察。
10/14:
・ユーゴ連邦の野党勢力は、選挙の実施条件について合意し、ミロシェヴィチ政権に対し早期実施を求めることを決める。「1,最大8選挙区による比例制の導入。2,報道の自由を奪う情報法の撤廃。3,メディア、特に放送への平等なアクセス。4,第三国の選挙監視受け入れ」などを合意。
10/17:
・国連環境計画・UNEPなどの「バルカン調査団」は、NATO軍のユーゴスラヴィア空爆などによる環境破壊状況を報告。報告書の概要;「1,ベオグラード郊外の工場地域パンチェヴォは、破壊された工場から流出した水銀などが排水路に流れ出している。2,クラグイェヴァツの自動車工場では、PCBやダイオキシン汚染が見られる。3,ノヴィ・サドの製油所からの油の流出は、地域住民の飲料水を汚染している可能性がある。4,ボールの精錬所では、二酸化硫黄が大気中に放出され、PCB汚染も見つかる」と記述。NATO軍が使用した劣化ウラン弾については、「使われた場所に人々を近づけない措置を取るべきだ。何処でどのように使用したのかの情報が直ちに必要」とNATO軍への協力も要請。「バルカン調査団」はさらに、パンチェヴォ、クラグイェヴァツ、ノヴィ・サド、ボールの4ヵ所は事態の悪化をくい止めるためにも直ちに除去作業が必要であり、「国際社会はユーゴ連邦政府に対し、人道援助の一環としてさらなる健康被害を防ぐための援助に乗り出すべきだ」と勧告する。
10/27:
・アルバニア系武装組織が、ジャコヴィツァでセルビア系住民5人を拉致する。
10/31:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、コソヴォ自治州で行なっていた戦争犯罪の捜査に伴う集団埋葬地の発掘作業を、厳しい寒気の訪れにより中断。これまで欧米14ヵ国からの約400人がコソヴォ自治州に入り、500ヵ所の対象地域の内の150ヵ所の集団埋葬地や虐殺現場の捜査に当たる。
・ICTYのデル・ポンテ首席検察官は訪問中のコソヴォで、「ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領を、大量虐殺罪で追起訴する可能性もある」と述べる。
・スペインのエル・パイス紙は、国連のコソヴォ調査の一員として司法解剖にあたったスペイン人医師の話として、「1,大量虐殺の情報に基づいて調べた炭坑などに遺体はなかった。2,国連側は4万人の犠牲者を予測し、2000人を解剖出来る態勢を取っていたが、実際は200人に過ぎなかった」などとし、「欧米政府の主張しているような規模での虐殺はなかったのではないか」との見方を紹介。
・英サンデー・タイムズ紙は、空爆中に欧米政府がアルバニア系住民の犠牲者数を「数十万」などと繰り返していたが、「人道的介入」の正当性を空爆に与えるための世論誘導だった疑いがある、と報じる。
・マケドニア共和国大統領選挙が実施される。地元メディアの開票速報によると、野党社会民主同盟のペトコフスキ元国会議長が、トライコフスキ・マケドニア国家統一民主党を抑えて第1党となったが、過半数を獲得出来ず。14日に決選投票が行なわれる見通しと報じる。
11/01:
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領が腹部の不調を訴え、緊急手術を受ける。
11/03:
・オルブライト米国務長官は、訪米しているセルビア共和国の野党指導者と会談。その後の記者会見で、ユーゴ連邦セルビア共和国に科している石油禁輸と航空機乗り入れ禁止措置について、公正な選挙が実施されることを条件に停止する方針を示す。
11/04:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国は、法定通貨としてドイツ・マルクの導入を実施。当分の間、ユーゴ・ディナールも併用する。1マルクは実勢に合わせ17ディナール。ユーゴスラヴィア国立銀行の権限をモンテネグロ共和国当局に移す。
11/09:
・モンテネグロ共和国のブヤノヴィチ首相は朝日新聞との記者会見で、セルビア共和国との間で関係が悪化していることについて、「外交や軍事などの権限をモンテネグロ共和国に委譲する提案が受け入れられなければ、独立の是非を問う住民投票を実施する」と述べる。経済関係については、「NATO軍の空爆後にディナールが乱発されて価値が急落していることから、ドイツ・マルクを法定通貨にした。しかし政府予算は、7000万マルク(39億円)の財政赤字を見込まざるを得なかった。バルカンの安定とユーゴスラヴィアの民主化のために経済支援をして欲しい」と述べる。
・朝日新聞によると、コソヴォ自治州ではNATO軍の空爆が停止された後の4ヵ月間で、地雷やクラスター爆弾などの不発弾による死者は54人、負傷者は247人。英国の「ヘイロー・トラスト」によると自治州の4分の1の町村で、地雷や不発弾などへの恐れから畑や森、水源に近寄れないなど、住民の生活に影響を与えている。英国、日本などのNGOが地雷回避教育に携わっている。
11/10:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷のデル・ポンテ首席検察官は、コソヴォ自治州での虐殺に関する調査結果を報告。同法廷に寄せられた虐殺現場の情報の内、これまで195ヵ所で調査を終え、女性や子どもなど2108体の遺体を発掘。記者会見でデル・ポンテ首席検察官は、「1,犠牲者の多くはコソヴォのアルバニア系住民だが、セルビア系住民が埋められていた場所も少なくない。2,容疑者は『セルビア人民兵』だが、アルバニア系武装勢力『コソヴォ解放軍・KLA』についても調べを進めている」と述べ、さらに「既に暴かれて証拠のない墓地も多い。また多くの遺体は焼かれており、我々の手でどれだけ遺体を確認出来るか、分からない。全く裏付けのない虐殺報道も少なからずある。問題は数ではなく、ジェノサイドがあったかどうかを確定することだ」と語る。デル・ポンテ首席検察官は、遺体の識別については報告せず。
・国連の検視団が発見したのは、670遺体。トレチャプ鉱山では700人のアルバニア系住民が処刑されたと報道されたが、遺体は1体も発見されていない。国際戦犯は現在、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領に関する証拠調べに重点を置いており、法廷に寄せられている「虐殺現場」に関する情報は計529ヵ所で4256体が埋められているといい、殺された人は1万1334人との報告があるが、既に暴かれていて証拠のない墓地も多い。
・ユーゴ連邦セルビア共和国のポポヴィチ情報省次官はロイター通信に対し、「ユーゴ連邦の司法当局が現場に入れない以上、一方的な数字を信じるわけにはいかない」などと述べ、虐殺の事実はなかったとする政府の主張を繰り返す。
・米ニューヨーク・タイムズ紙は、西側政府高官の見方として、「コソヴォでの犠牲者は、空爆中に西側政府高官が主張していた数万や十数万人ではなく、最終的には5000人から7000人という数字になるだろう。NATO軍の空爆中も続いたユーゴ連邦当局とアルバニア系武装組織の戦闘や、NATO軍の空爆による犠牲者を差し引くと、空爆中に米政府が伝えた恐ろしい話に見合う数には満たないだろう」と報じる。
・米国務省筋は、空爆中も続いたユーゴ連邦当局とコソヴォ解放軍の戦闘や、NATO軍の空爆による犠牲者数を差し引くと、「空爆中に政府高官が伝えた恐ろしい話に見合う数には満たないだろう」と述べる。
11/11:
・クリントン米大統領は、記者団に「コソヴォに駐留している米国の平和維持部隊に謝意を伝え、部隊が和平の定着と人道活動にどのように携わっているかを見るために、14日からの訪欧の際、コソヴォ自治州を訪問する」と語る。
11/12:
・コソヴォ自治州への援助物資を積んでイタリアのローマからプリシュティナに向かった国連食糧計画のATR42型プロペラ機が、プリシュティナ北方10キロの地点で消息を絶つ。
11/13:
・コソヴォ北部で墜落した国連食糧計画・WFPの双発プロペラ機が、24人の遺体とともにKFORによって発見される。
11/14:
・マケドニア共和国の大統領選が行なわれ、与党マケドニア国家統一民主党のトライコフスキ外務次官が、野党社会民主同盟のペトコフスキ元国会議長を破り勝利する。
・中国は、ユーゴ・コソヴォ空爆を見据え、新「三打三防」訓練を強化すると「解放軍報」に掲載。
註・「三打」とは、ステルス機、巡航ミサイル、武装ヘリを打ち落とすことを意味し、「三防」とは、精密打撃、電子戦、偵察監視からの防御を意味する。
11/16:
・NATO軍主体の国際部隊KFORは、部隊が駐留を開始した6月からの5ヵ月間で、コソヴォで379人が殺害されたことを明らかにする。内訳はセルビア人135人、アルバニア系145人。2対8の人口比でいうと圧倒的にセルビア人の殺傷率が高い。
・非政府組織・NGOの「国際危機グループ・ICG」は、「NATO軍の空爆前のユーゴ連邦当局とアルバニア系武装組織が戦闘していたときと同じレベルで死者が出ている。一部のアルバニア系住民勢力が非アルバニア人の追い出しにかかっているのは間違いなく、国際社会は止めさせなければならない」と指摘。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、退任するガブリエル・マクドナルド裁判所長の後任にフランス人のクロード・ジョルダ判事を選出。
11/17:
・世界銀行と欧州委員会が主催する第2回コソヴォ支援国会議がブリュッセルで開かれ、EUなどが新たに10億ドル(1000億円)を超す支援を表明。2000年にかけて、主に復興支援に使われる。
11/18:
・欧州安全保障機構・OSCE首脳会議がイスタンブールで開かれる。この会議でチェチェン問題が取り上げられたが、ロシアはコソヴォ紛争へのNATO軍の対応を取り上げ、激しい議論となる。エリツィン大統領は、「人道的介入」について「それがたとえ人権の擁護という崇高な口実の下で行なわれても、どれほど不釣り合いな結果をもたらすかは、米国を先頭とするNATO軍のユーゴ侵略で明らかだ」と主張。
・ロシアはOSCEの最終宣言で、「チェチェン紛争の政治解決にOSCEは重要な高検ができる」と表現を受け入れ、OSCE調査団のチェチェン派遣を受け入れる。
11/19:
・欧州通常戦力(CFE)に条約加盟する30ヵ国は、OSCE首脳会議が開催されたイスタンブールにおいて、冷戦期の東西両陣営加盟国全体の通常戦力の軍事ブロックを基に決めていた戦力の上限を、各国毎に割り振る方式に改定する合意文書に調印し、加盟各国の通常戦力の配備上限はこれまでより10%削減することになる。
11/23:
・クリントン米大統領がコソヴォ自治州を訪問し、南部ウロシェヴァツで開いた住民集会で数千人のアルバニア系住民に向かって「セルビア人との和解に努めてほしい」と訴える。
11/24:
・クロアチア共和国議会は、トゥジマン・クロアチア大統領が癌で重体に陥っている事態に直面し、執務不能に陥った場合、国会議長が代行する法律を可決。
11/25:
・ユーゴ連邦のマティッチ情報相は、フランス情報機関に所属するセルビア人5人を逮捕した、と発表。情報相によると、「5人は『蜘蛛』というグループに属し、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の暗殺を企てていた」という容疑。
11/26:
・クロアチア共和国の憲法裁判所は、重体に陥っているトゥジマン大統領の代行に、国会議長の就任を決定。期間は60日間で延長は可能。
・EUがセルビア共和国の野党主導の自治体に暖房油を供給するとした、「民主化エネルギー戦略」による第1陣の油輸送トラックが、ユーゴスラヴィアに向かったもののセルビア共和国国境で税関によって足止めを受ける。
11/28:
・マケドニア共和国中央選管は、14日に行なわれた大統領選決選投票で一部の地域で不正があったとの異議申し立てを認め、12月5日に一部の選挙区で投票をやり直すことを決める。再投票が実施されるのは、アルバニア系住民が多数を占める地区の230投票所で、有権者16万人が対象。
・OHRのペトリッチ上級代表は、ミラディン・シミッチ・プラトゥナッツ市議会議長およびゾラン・ニコリッチ・スルプスカ共和国国会議員ら5人を、「他民族の難民・避難民の帰還を妨げている」として解任する。
・英オブザーバー紙は、NATO軍は中国大使館の位置を承知しており、中国大使館がユーゴスラヴィア軍への通信の中継基地として使われていたために、意図的に大使館を攻撃したのではないか、と報じる。
11/30:
・国連コソヴォ暫定行政統治機構・UNMIKは、コソヴォ自治州ではナンバーなしで走る車がほとんどで、盗難も横行し、頻発する犯罪の背景になっているため、コソヴォ独自の自動車ナンバー・プレートの発行を始める。
11/31:
・国際移住機関・IOMは、コソヴォ解放軍・KLA兵士の登録を完了し、25,723人と記載。
12/01:
・クロアチア共和国のフラニョ・トゥジマン大統領が重体に陥ったため、下院議長のパブレティッチ大統領代行が来年の1月3日に総選挙を実施することを決定する。民族主義的なトゥジマン大統領が率いてきたクロアチア民主同盟・HDZの支持率は、20%程度にまで落ちる。
・西側外交筋は、「バルカン安定を左右する大きな転換期だ」と見て注目。
12/04:
・朝日新聞によると、アルバニア人女性がコソヴォのアルバニア系難民をよそおって西欧諸国に入り込んでいる、という。推定3万人のアルバニア人売春婦が、西欧全域にいると見られている。
12/05:
・マケドニア共和国の大統領選は一部地域でやり直し投票が行なわれ、与党マケドニア国家統一民主党のトライコフスキ外務次官が勝利する。
12/06:
・欧州安保協力機構・OSCEは、コソヴォ自治州からユーゴ連邦軍が撤退した後、アルバニア系による組織的なセルビア人住民に対する迫害が続いている、とする詳細な報告書を発表。コソヴォ調査団のエバーツ団長は序文の中で、「頻発している人権侵害は、暴力の悪循環が止まっていないことを示している」と記述。報告書は2部構成で、第1部はNATO軍の空爆中にアルバニア系難民2764人から聞き取り調査をしたもので、「住民迫害はどの地域でも戦略的に行なわれ、指令系統に乱れはなかった」と指摘。第2部はNATO軍のKFORが進駐した6月以降の調査で、アルバニア系住民によるセルビア人やロマ人などの少数民族迫害の実態を報告、「殺害や誘拐、放火といった迫害の多くが、コソヴォからの少数民族追い出しを狙うアルバニア系武装組織コソヴォ解放軍・KLAによって行なわれている」と指摘。「少数民族の追放は、反乱軍により制圧された地域と、可能な進入路沿いに集中しており、軍事的な理由を見て取ることができる」。さらに元KLAメンバーが行政機関を支配していることに言及し、「アルバニア系社会も不寛容になっている」とし、「KLAに逆らう人々に対する嫌がらせや差別が、日常化している」と報告。
12/07:
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍・KLAは、セルビア人282名を誘拐する。
12/08:
・ユーゴ連邦軍の部隊が、モンテネグロ共和国の首都ポドゴリツァの空港を閉鎖する。モンテネグロ共和国のジュカノヴィチ大統領がミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の支配を嫌い、ポドゴリツァ、ティバット両空港をモンテネグロ共和国政府の管理下に置いたことに対する、連邦政府側の措置。間もなく当局者の話し合いにより、連邦軍は引き揚げて閉鎖を解除する。
12/09:
・米国務省は、セルビア共和国コソヴォ自治州で、この3月から6月までにセルビア側の軍人、警官、民兵に殺害されたアルバニア系住民は1万人に上ると推定した報告書を作成。「国連旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷」が収容した虐殺遺体の5倍近い数字になるが、NATO軍の空爆中に米政府が発表した10万人の行方不明者数を大幅に下回る。報告書は「虐殺された人が実際に何人いたのかは、つかめないかも知れない」と指摘。複数の米国務省高官は、コソヴォの犠牲者「1万人」の根拠として、「これまで発掘された遺体数をもとに類推すると、『①,500ヵ所余の現場に、6000を超える遺体が埋められていることになる。②,遺体を焼いたり、別の場所に埋め直したりした証拠隠滅が今回も繰り返されており、これ以上の犠牲者がいるのは明らかだ』」と述べる。
12/10:
・深夜、クロアチア共和国のフラニョ・トゥジマン大統領が死去する。享年77歳。
註;トゥジマン大統領が実行した政策は、クロアチア内外のクロアチア人の保護である。そのために、クロアチア内の少数派住民のセルビア人を弾圧・排除し、クロアチアの民族の純化を実行した。そのことが隣国ボスニアのクロアチア人による他民族に対する排他的な態度を助長した。さらに、独裁体制を維持するために、批判的なメディアに圧力をかけたり、野党に不利な選挙法を導入したりした。武力による独立は達成したものの、それに見合った有効な経済政策は持たず、大市場であったユーゴスラヴィアの市場を失ったことで経済は停滞し、失業者が増大することになった。
12/15:
・国連のコソヴォ暫定行政統治機構・UNMIKは、新しい行政機構「暫定行政評議会」を設置することを決める。暫定行政評議会はUNMIKのクシュネル代表が拒否権を持つ議長とし、アルバニア系住民3人、セルビア系住民1人で構成。
12/17:
・河野洋平日外相はフィッシャー独外相とベルリンで会談。セルビア共和国のコソヴォ自治州の復興支援をめぐり、空爆で破壊された送電施設の再建など、電力供給プロジェクトを日独両国で進めることで合意。
12/18:
・ユーゴ連邦政府は、アルバニアと断交する。
12/21:
・クロアチア共和国政府は閣議で、大統領選挙を来年1月24日に実施することを決める。
12/23:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナに駐留する平和安定化部隊・SFORは、旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴されているセルビア系治安部隊の元副司令官ゾラン・ブコヴィチ被告を逮捕。
12/24:
・ユーゴ連邦の上下院は、総額224億ディナール(2000億円)に上る2000年予算案を可決。72.2%の164億ディナール(1460億円)は国防費。
12/30:
・ICTYのカルラ・デル・ポンテ首席検察官は、「コソヴォ紛争におけるNATO軍の空爆に関し、一切調査は行なわない」との声明を発表。
12/31:
・ユーゴ連邦政府系紙「ポリティカ」は、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領のインタビュー記事を掲載。連邦からの離脱・独立の動きを見せるモンテネグロ共和国について、「国民が連邦の外で暮らしたいのならそうする権利がある」と述べ、モンテネグロ自身が選択すべきだとの考えを示した、と報じる。
99/00/:
・米軍は、新設したコソヴォ防衛隊の司令官に、クロアチアで「オペレーション・ストーム」の指揮官としてクライナ地方からセルビア人追放に貢献した、コソヴォ解放軍の前司令官だったアギム・チェク准将を任命する。
・コソヴォ自治州のオラホヴァツでは、NATO軍の空爆停止後、町の人口の1割に満たないセルビア系住民への襲撃や脅迫が相次ぐ。セルビア人のヨバン・イエフティチは、「妻を誘拐され、家に放火された。昔はアルバニア系とも兄弟のように付き合っていたのに、今は監獄にいるようなものだ」と語る。
・米エネルギー省長官ビル・リチャードソンは、「これはアメリカのエネルギー供給をいかに確保するかの問題である。したがって我々と価値観を共有しない者が、戦略的な横車を押すようなことは、断固阻止せねばならない。我々は今ようやく独立を達成したこれらの国々が西側諸国を志向するように仕向けたい。われわれはそれらの国が、別の道を進むことなく、西側諸国の貿易や政治の利害によくなじむことを望む。我々はカスピ海地域で、膨大な政治的投資を行なった。だから、パイプラインの地図と政治との調和が我々にとって極めて重要なのだ」と述べる。
・イスラエルの元諜報員アモス・ギルモアは、「NATOと米国が、愚かしくも新しいルールづくりをしようとしている。この新しいルールは、核兵器開発競争を激化させる可能性が強い。コソヴォの戦争は、自衛のための大量破壊兵器の拡散競争であることが、今後明らかになるだろう」と語る。
註;米国にとってユーゴスラヴィア連邦の解体は1980年代に遡る規定方針であり、米国の世界覇権を企図した過程の通過地点にすぎなかった。ユーゴ・コソヴォ空爆が「オルブライトの戦争」と言われたのもそこにある。セルビア攻撃の付加的効用は、軍需産業の取引の活性化であり、戦争の真の勝利者は軍需産業となった。破壊活動のもう一つの受益者は、建設会社であるハリバートン、ベクテル、ブラウン&ルートなどである。建設業者も道路や橋の再建に意欲を示した。