01/01:
・カーター米元大統領の仲介による、ボスニアにおける4ヵ月間の停戦合意が発効する。
・ボスニア政府がサラエヴォ近郊のイグマン山付近の部隊を撤収させることに合意したことで、4日までには国連保護軍の監視の下に撤収が完了する見通しとなる。イグマン山近郊は、先の停戦合意により武装勢力の展開が禁じられていた地域。
・ボスニアのサラエヴォ市中心部のホテルにミサイルが撃ち込まれるが、負傷者は出ず。ビハチでは、停戦協定に加わっていない民兵組織が戦闘を続ける。
・EU・欧州連合にオーストリア、スウェーデン、フィンランドが加盟する。
・全欧州安全保障協力会議・CSCEが改組され、より能動的な組織として「欧州安全保障協力機構・OSCE」が発足する。
01/02:
・ボスニアのヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国のズバク大統領と西ボスニア共和国のアブディッチ大統領が、UNPROFORボスニア方面ローズ司令官の立ち会いの下に、停戦合意に署名する。
01/04:
・ドール米上院院内総務は、ヘルムズ共和党議員や民主党議員15名の連名でボスニアへの武器禁輸を米国が単独で解除する法案を提出。米国務省は、カーター米元大統領の尽力で停戦が実現した「重要なこの時期にこのような行動をとるのは誤り」と強く反発。
01/06:
・国連安保理は、ボスニアの停戦監視のための国連保護軍の追加派遣を求める議長声明を採択。
01/10:
・ボスニアのセルビア人勢力は、ボスニア政府軍のサラエヴォ近郊からの撤収を条件としていたサラエヴォの補給路の封鎖を、無条件で解除すると発表。
01/12:
・トゥジマン・クロアチア大統領はガリ国連事務総長に対し、クロアチア駐留の国連保護軍・UNPROFORの3月までの期限を延長せず、6月末までには撤退させるよう書簡で要請。国連保護軍駐留地域がセルビア人勢力の聖域となっている現状から、駐留継続は和平に逆効果であるというクロアチア政府側の判断による。
・ガリ国連事務総長は、クロアチア共和国政府の決定に「重大な遺憾」の意を表明する声明を発表。
・米国政府は、クロアチア共和国政府の出した書簡の内容に遺憾の意を表明。
・国連安保理は、新ユーゴ連邦への100日間の経済制裁緩和を、さらに100日間延長する決議970を、賛成14で採択。
01/17:
・国連安保理は、クロアチア共和国政府が国連保護軍を撤収するように求めている問題に関し、「保護軍のクロアチア駐留は停戦維持に決定的に重要である」として、再考を促す議長声明を採択。
01/29:
・レオタール仏国防相はボスニアに派遣している国連保護軍に、「紛争当事者間の停戦を確実なものとするために」300人を増派すると表明。
01/30:
・NATO軍はボスニアの国連保護軍の撤収支援計画で、最悪の場合、最大5万人の地上勢力を投入することなどを決める。この決定は、拠点となるクロアチアが1万2000人の保護軍の退去を求めていることから難航が予想される。
・クロアチアのザグレブで、ガルブレイス米大使、ケレステギ露大使、アイデ国連代表、アレンスEU代表の「ミニ・コンタクトグループ」が、「クライナ、スラヴォニア、南バラニャ、および西スレムに関する協定案」いわゆる「Z-4案」を作成し、トゥジマン・クロアチア大統領とマルティッチ・クライナ・セルビア人共和国大統領に提示する。
01/31:
・ジュッペ仏外相はル・モンド紙への寄稿で、ボスニア紛争を中心とする旧ユーゴスラヴィア問題について、戦闘が再発する前に和平を話し合う緊急国際会議の開催を呼びかける。
02/03:
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は、トゥジマン・クロアチア大統領が要求するクライナ地方からの国連保護軍の撤収が実施されれば、クロアチア共和国側とセルビア人勢力側の戦闘が確実に起こると警告。さらにクライナ地方での戦闘が起これば、クロアチアの「クライナ・セルビア人共和国」とボスニアの「セルビア人共和国」との統合が直ちに行なわれる、と述べる。
・タルボット国務副長官は記者会見で、ボスニア政府とボスニアのクロアチア人勢力の連邦国家の体制立て直しを目指している米国が、日本政府に財政的支援を要請する可能性を示唆。
02/05:
・ボスニア政府とボスニアのクロアチア人勢力との間で、モスタル市周辺を中心に戦闘が断続的に起こる。両勢力の代表がホルブルック米国務次官補の仲介で会談を行ない、「連絡調整グループ」を仲裁者とする決定に従うことで合意。
・ボスニア政府内部では、イゼトベゴヴィチ大統領(幹部会議長)とガニッチ副議長を除くグループが、「軍隊は非宗教的でなければならない」とする声明を出す。
02/07:
・国連安保理は、クロアチア共和国が国連保護軍の撤収を求めている問題で、再考を促す内容とクロアチア共和国政府とクライナ・セルビア人勢力とが解決に向けた交渉を開始するよう求める議長声明を採択。
・ムスリム人勢力のイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、セルビア人勢力との和平交渉に応じる用意があると表明。和平交渉再開について、ボスニア政府は新和平案に調印してから交渉にはいるべきだと主張しているのに対し、セルビア人勢力は新和平案はあくまでたたき台と主張して事前調印を拒否。
・NATO軍は国連保護軍が撤退する場合、ドイツ軍の支援の約束を求める。
02/08:
・クロアチアのセルビア人勢力議会は、クロアチア共和国政府が国連保護軍の退去要求を撤回しない限り、経済交流を凍結し、話し合いも拒否すると決定。
02/10:
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、国連保護軍の代わりにNATO軍の駐留を要請する。
02/15:
・クリストファー米国務長官は上院外交委員会で、「連絡調整グループ」がミロシェヴィチ・セルビア大統領に対し、ボスニアとクロアチアを国家承認することおよびボスニアとの国境閉鎖の強化と引き換えに、「対セルビア経済制裁を2ヵ月間停止する」との新提案を行なったと証言。
02/18:
・新ユーゴ連邦のヨバノヴィチ外相は、「ボスニアおよびクロアチアの両共和国を承認するのは、全ての紛争が解決してからのことだ」と述べる。
・ボスニア紛争調停をめぐって、ロシアのコーズィレフ外相がミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。
・米国務省高官のフレイジャーは、トゥジマン・クロアチア大統領とボスニア紛争調停に関して会談。
02/21:
・ロシアとボスニア・ヘルツェゴヴィナは、外交関係樹立に向けて公式の国家関係を作ることで合意。
02/00:
・飛行禁止区域のボスニア北部トゥズラ空港のボスニア政府管理地域に、C-130輸送機が着陸するのを国連保護軍の監視要員が目撃する。監視員が確認のために入ろうとしたが、ボスニア政府軍に阻止されて確認できず。その後も、数回にわたり戦闘機の護衛をつけた輸送機が飛来し、着陸したり落下傘で物資を投下したりしている。NATO軍はそのような記録はないし、見間違いではないかと表明。明石国連特別代表は、「熟練した監視員が見間違えるはずがない。赤外線監視装置でははっきりしないこともあるのでレーダーを新たに設置した」と述べる。
03/11:
・明石特別代表や国連保護軍司令官の乗った飛行機がサラエヴォ空港に着陸した際、機関銃弾が飛行機に撃ち込まれ1発が貫通したが、明石特別代表は無事。
03/12:
・クロアチアのトゥジマン大統領はコペンハーゲンで記者会見を行ない、クロアチアに駐留している国連保護軍の兵員規模を半分以下に縮小し、委託任務についてはクロアチアとボスニアそして新ユーゴ連邦との国境管理を再検討した新部隊とすることなどを条件に、残留を受け入れる考えを表明。コペンハーゲンでトゥジマン大統領と会談したゴア米副大統領とガリ国連事務総長も、基本的に歓迎する意向を表明。
註;クロアチア政府が執拗に国連保護軍の撤収を求めている理由は、表面的な言説とは異なりクロアチア共和国軍の行動が監視され、自由な軍事作戦の妨げになっているからである。この後、5月1日のスラヴォニア「稲妻作戦」および7月26日の「95‘夏作戦」並びに8月4日のクライナへの「嵐作戦」が実行されたことで明らかになる。
03/19:
・ボスニアのサラエヴォ空港で、国連保護軍フランス部隊のC130輸送機に向けて迫撃砲弾が撃ち込まれ、仏軍は機関砲で応酬し、、難を逃れる。過去10日間で国連機が10回攻撃を受け、NATO軍機の出撃も要請。攻撃した武装勢力がどちらの組織かは確認できず。
03/20:
・ボスニア政府軍は、ボスニア北部トゥズラと中部トラヴニク周辺で、1000人規模の部隊を投入して攻撃を開始。セルビア人勢力が砲撃して応戦。
・ボスニア政府がトゥズラなどを攻撃したのは、シライジッチ首相が「セルビア人勢力に期限を切って和平案の受け入れを迫るように」米国に求めていることから、危機感を煽るのが目的と見られる。
03/23:
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領は国連のガリ事務総長に書簡を送り、国連保護軍の徹底的な見直しを行なわない限り、3月末で切れる駐留期限の延長を30日間だけにするよう要求。
03/25:
・ガリ国連事務総長は、旧ユ-ゴスラヴィア各地に展開する国連保護軍を第1クロアチア、第2ボスニア、第3マケドニアと地域ごとに3分割し、名称を「国連平和軍」と変更することを安保理に提案。
03/26:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表(スルプスカ共和国大統領)は、米ロ英独仏の首脳に「ムスリム人達が戦争への道を進むなら、大規模な戦争が起きざるを得ない。我々は必要な最大限の手段を講じて自衛する」との書簡を送り、ボスニア政府軍による最近の軍事行動を中止させるよう要請。カラジッチ代表はセルビア人勢力に向けて総動員令を発令し、ボスニア政府軍に対する反攻作戦に備えるよう指示。
03/27:
・米・英・独・仏・露5ヵ国で構成する旧ユーゴスラヴィア問題の「連絡調整グループ」は、ロンドンで今後の対応を協議。
03/28:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRが、ボスニア・サラエヴォの人道援助空輸を行なった日数が1000日を記録。輸送した物資は15万1000トン。
03/31:
・国連安保理は、決議981で国連保護軍・UNPROFORをクロアチア、ボスニア、マケドニアに3分割し、クロアチアに展開する国連軍をUNCROとする。決議982で国連保護軍・UNPROFORの展開地域をボスニアに限定し、期限を延長。決議983で国連軍UNPREDEPを編成してマケドニアに展開する。この決議により、クロアチアに配備される国連信頼回復活動・UNCROは、クロアチア政府の要請を受けて同国内のクロアチア共和国軍とセルビア人勢力軍の停戦監視および平和維持に加え、「クロアチアとボスニア、新ユーゴ連邦のセルビア国境を越える軍事要員、軍需物資輸送などの監視、報告」の任務が付け加えられる。
04/03:
・中国はクロアチアのザグレブでボスニア政府と大使級外交関係を樹立する内容の共同コミュニケに調印し、正式に国交を樹立。
04/11:
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領は、今月末で期限の切れる停戦の延長に応じる条件として、新ユーゴ連邦がボスニアを国家承認するか、セルビア人勢力が米・露などの調停グループが提示している和平案を受け入れるかのいずれかが満たされる必要がある、との声明を発表。
04/12:
・連絡調整グループの米・英・露・独・仏の5ヵ国は新ユーゴ連邦のミロシェヴィチ・セルビア大統領に対し、ボスニアを国家承認すれば、見返りとして国連制裁の通商分野の制限を停止し、徐々に制裁解除を拡大していくとの段階的制裁停止案を提示。
註;この提案の狙いは、ボスニアのセルビア人勢力を孤立化させるのが目的なので、ミロシェヴィチ大統領は消極的な姿勢
を示す。
04/13:
・明石国連特別代表はニューヨークで日本人記者団と会見し、4月末で期限が切れるボスニアの停戦協定について、ボスニア政府、ボスニアのセルビア人勢力ともに協定違反を重ねている現状から「協定の延長は至難の業だ」と述べ、協定更新に悲観的な見通しを示す。
04/14:
・ボスニアのサラエヴォで、国連保護軍の仏部隊の兵士が狙撃され、1人が死亡。
04/15:
・前日に続き、ボスニアのサラエヴォで国連保護軍の仏部隊の兵士が狙撃され、1人が死亡。
・フランス政府側は14日、15日の両日の事件とも、ボスニア政府軍による犯行との見方を示す。仏軍は、既に33人の犠牲者を出している。
04/16:
・レオタール仏国防相はボスニアのサラエヴォから帰国後、「ボスニアでの国連保護軍の活動が可能な限り、フランスは部隊参加を継続する」と表明。
04/18:
・パラデュール仏首相は緊急関係閣僚会議を開き、旧ユーゴスラヴィアに展開している国連保護軍のフランス部隊の撤退を検討。
・フランス政府は、国連緊急安保理の招集を要請するためにジュッペ仏外相をニューヨークに派遣し、ガリ国連事務総長と協議。
・国連安保理は、ボスニア駐留の国連保護軍・UNPROFORへの武力攻撃を非難する決議987を採択。
・明石国連特別代表は、フランス政府が兵士2人の殺害事件を契機に国連保護軍仏軍部隊撤収の可能性を示唆したことについて、「こうした事態が続けば、参加国は駐留継続を見直さざるを得なくなるだろう」と語る。この時点でフランスに追随する動きを見せている国はない。
04/20:
・明石特別代表はボスニア政府のシライジッチ首相とサラエヴォで会談し、今月末で期限切れとなる停戦の延長を要請したが、シライジッチ首相は拒否する。
・シライジッチ・ボスニア首相は、4ヵ月の停戦期間中にセルビア人勢力を説得して和平案を受諾させられなかったことについて国際社会を強く批判し、「我々は和平提案を受け入れ、武器禁輸解除の要求を6ヵ月間猶予することにも同意したのに、何も得られるものはなかった」と語る。
04/21:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表(スルプスカ共和国大統領)は、米国のオクラホマシティの爆破事件についてクリントン米大統領に弔意を表す書簡を送り、その中でボスニアでの戦闘を完全に停止するための恒久的和平条約の実現を目指して、早急に国際社会の主導による交渉の再開にクリントン大統領の力添えを要請する。
・ボスニアの和平調停のためにサラエヴォ空港に到着した米国とドイツの外交官ら4人が、「事前通告がなかった」と反発したセルビア人勢力の嫌がらせで市内に入れず、空港で一夜を過ごしてそのまま帰国。
04/24:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ共和国大統領、ラトコ・ムラディッチ軍司令官、ミコ・スタニシッチ元秘密警察首脳の最高幹部3人を戦犯容疑者に指名する。
04/26:
・ロシアのボスニア和平の交渉責任者アレグサンダー・ゾトフはボスニアの停戦が期限切れになった場合について、「現地の国連保護軍にとって耐え難い事態となるだろう」と述べ、ロシア部隊の引き上げを検討する考えを示す。
・ボスニア国連保護軍の英国部隊は、セルビア人勢力の攻撃を受けて陥落寸前のボスニア政府支配の東部地域からの配置転換を、ガリ国連事務総長に要請。
・国連保護軍のオランダ部隊もスレブレニツァからの配置転換を求める。
・ボスニア政府は、英軍およびオランダ軍の要請に対し、「国連部隊の撤収は侵略者の利益になるだけ」と駐留継続を求める。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYにボスニアのセルビア人勢力のドゥシコ・タディッチ被告が出廷し罪状認否を行ない、タディッチ被告は無罪を主張する。タディッチは、ICTYが起訴した22人の被告の内、初めて拘束された人物。
04/28:
・ボスニア和平調停「連絡調整グループ」の米・英・露・独・仏がパリに集まり、ボスニアの停戦延長の実現について協議する。次の会議を5月3日にロンドンで、5日にパリで行なうことを決定。
・国連安保理は、クロアチアに展開中の国連保護軍・UNPROFORを国連クロアチア信頼回復活動・UNCROに変更し、兵力を現行の1万2000人から8750人に削減する決議990を、全会一致で採択。
04/29:
・明石国連特別代表は、クロアチアを訪問中の河野洋平日外相と会談。明石特別代表はボスニアの停戦協定が30日で失効したことについて、「本格的な全面戦争の可能性はないと見ている。事態は緊張しているが、ボスニア政府もセルビア人勢力も全面戦争に入るだけの武器、食糧などの備えがない」と述べ、引き続き停戦を働きかけていく意向を語る。河野洋平日外相は具体的な支援策として、「1,ボスニアとセルビアとの国境監視団の活動経費として25万6000ドル。2,世界食糧計画・WFPを通じて『難民への食糧援助』 として1250万ドル。3,クロアチアでの和平促進に当たる国連ボランティアの人件費として28万ドル」の拠出を伝える。
・クロアチア領内の停戦ラインに近い高速道路E70で、セルビア人勢力がクロアチア人の車2台に発砲し、3人が死亡。5人が拘束される。前日にセルビア人がガソリンスタンドで刺殺されたことへの報復と見られる。クロアチア共和国当局は高速道路を封鎖し、スイス訪問中のトゥジマン大統領は急遽帰国する。
04/30:
・ボスニアの停戦協定が失効する。明石国連特別代表の協定延長の働きかけに対し、ボスニア政府は「国土の7割を占領されている現状を固定化するだけであり、セルビア人勢力が和平提案を受諾しない限り停戦の延長には応じられない」として拒否。セルビア人勢力は、「相手は軍備を進め、停戦違反を拡大している。新ユーゴスラヴィアに対する国連の経済制裁の解除」などを要求。
05/01:
・クロアチア共和国軍は、国連保護地域・UNPAの「西スラヴォニア」を制圧する「稲妻作戦」を発動し、クロアチア共和国軍部隊が戦車や重砲や装甲兵員車などを投入してクロアチアのセルビア人勢力に対し激しい攻撃を始める。この攻撃で国連の停戦監視所がクロアチア共和国軍の砲撃を受け、3人のヨルダン兵士が負傷。国連信頼回復活動・UNCROは、周辺地域にいる約2000人の国連部隊に緊急撤収を命じる。クロアチア共和国政府は、セルビア人勢力による同地域の高速道路の封鎖を解くための「限定的警察行動」を行なっていると発表し、セルビア人支配地域の奪還を目指す軍事行動ではないと強調。クロアチア共和国軍はザグレブ南方50キロ地点から離れた地域でも砲撃を加え、セルビア人勢力もクロアチア政府側の都市を砲撃して反撃する。
・クロアチア共和国軍は夕方になるとミグ戦闘機2機を投入して軍事作戦を拡大し、セルビア人支配地域に深く侵攻。大量の難民が発生する。
05/02:
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、西スラヴォニアの地域オクチャニをミグ戦闘機と戦車による攻撃で奪還し、高速道路と鉄道の通行を確保したことから、セルビア人支配地域への大規模な軍事行動の終了を宣言。一方、セルビア人勢力は首都ザグレブへのロケット砲攻撃を行い、5人が死亡し、120人が負傷する。
・明石国連特別代表は、クロアチア政府側とクロアチア内のセルビア人勢力側の交渉を仲介。
・ドイツおよびフランスなど欧州諸国は、クロアチア共和国軍に対して強い表現で戦闘の中止を要請する。
05/03:
・クロアチアのセルビア人勢力が、首都ザグレブをロケット砲などで攻撃。国連の仲介で、セルビア人勢力は国連に武器を引き渡すなど4項目の停戦協定に合意したが、クロアチア共和国側は新に獲得した地域の支配は放棄しないとの方針を表明し、停戦協定を受け入れるかどうかは不明。
05/07:
・ボスニアのセルビア人勢力がサラエヴォ近郊のブツミルに迫撃砲攻撃を行ない、ボスニア政府軍兵士11人が死亡し、13人が負傷する。
05/08:
・ボスニア国連保護軍・UNPROFORのスポークスマンは、セルビア人勢力によると見られるサラエヴォ近郊への迫撃砲攻撃に対し、空爆など武力による報復は行なわないとの方針を表明。明石国連特別代表らによる緊張を激化させないための措置。
・オルブライト米国連大使は、「これだけの事態が起きているのに、理解に苦しむ」と言明。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「我々に報復をしろ、という意味か」と強く非難。
05/10:
・ボスニアのセルビア人勢力は東部のジェパ周辺でボスニア政府の輸送ヘリを1機撃墜し、政府軍幹部ら12人が死亡し、11人が負傷。ヘリコプターはゴラジュデやスレブレニツァへの武器輸送をする途中と見られる。
05/12:
・ガリ国連事務総長は、明石国連特別代表などと旧ユーゴスラヴィア問題に関する協議を行なう。会議後に国連保護軍の役割を根本的に見直す必要がある、との内容の声明を発表。
05/13:
・ドイツのキンケル外相は、クロアチア共和国軍によるセルビア人勢力軍への攻撃が続けば、クロアチア共和国と欧州連合・EUの関係強化が阻害されることになるだろう、と警告する声明を発表。さらに声明はボスニア情勢について触れ、「憂慮を超える状態にある」とし、ミロシェヴィチ・セルビア大統領に対し、改めてボスニアおよびクロアチア両共和国の承認を求めている。
05/16:
・ボスニアのサラエヴォで、ボスニア政府軍とボスニアのセルビア人勢力との間で激しい戦闘が発生。サラエヴォとパレを結ぶ道路周辺でも激戦が展開される。北方や南方の郊外でも多数の砲撃があり、住民が避難を始める。
・ボスニアの政府軍とセルビア人勢力軍の双方とも相手が戦闘を仕掛けたと非難し、ボスニア政府はNATO軍の空爆を要請したが、国連保護軍は受け入れず。
・クロアチアに駐留する国連部隊UNCROのスポークスマンは、クロアチア共和国軍の大部分が国連管理の緩衝地帯から撤退した、と報告。
05/17:
・クロアチア駐留の国連信頼回復活動・UNCROは、国連管理地区のセルビア人地帯に侵攻したクロアチア共和国軍が全面撤退の約束を果たしていないことを明らかにする。
・クロアチア共和国軍が侵攻した西スラヴォニアのセルビア人避難民数千人は、東スラヴォニアに向けて逃避行を続けて
いる。
05/18:
・ドイツのキンケル自由民主党党首が辞意を表明。
05/20:
・クロアチアのクライナ地方のセルビア人勢力の議会は、国連保護軍・UNPROFORが信頼回復活動・UNCROに再編されることを拒否する議決を行なう。さらに議会は、ボスニアのセルビア人勢力とクロアチアのセルビア人勢力を政治的に統合する議決を行なうとともに、「統合が他のセルビア人の不利益になってはならず、新ユーゴ連邦との調整も行なわれる」との声明を発表。
05/24:
ボスニアのサラエヴォで、ムスリム人勢力のボスニア政府軍とセルビア人勢力軍との間で砲撃戦が展開され。6人が死亡し、30人が負傷。ボスニア政府軍は、「セルビア人側は神経ガスを使った」と非難。
05/25:
・ボスニアのサラエヴォ近郊に展開するセルビア人武装勢力が、国連保護軍に提出していた重砲4門を奪還し、それを通告期限までに再提出しなかったことから、国連はNATO軍に空爆を要請。NATO軍は、半年ぶりにサラエヴォ近郊のセルビア人勢力のスルプスカ共和国の大統領府のあるパレの弾薬庫などに空爆を実行する。
・スミスNATO南欧軍司令官は、「セルビア人勢力の挑発に対する警告的な限定攻撃である」と述べる。
・クリントン米大統領は、NATO軍による空爆実施を強く歓迎する声明を発表。ドール米上院共和党院内総務は、「限定的で遅きに失した」との声明を発表。
・ロシアはNATO軍による空爆について、「一方の当事者だけに対する空爆は、ボスニア紛争の必要な解決とはならず、政治的解決を困難にするだけだ」との声明を発表。
・ガリ国連事務総長は、「今回の空爆は、戦闘当事者に交渉の重要性を強く促すために行なった」と述べる。
・ボスニアのセルビア人勢力は、サラエヴォやトゥズラなど国連が設置した5ヵ所の安全地域に対して砲撃を加え、ボスニア政府軍との間で戦闘が激化する。NATO軍による空爆への報復攻撃と見られる。
05/26:
・NATO軍は、ボスニアのサラエヴォ近郊のセルビア人勢力に対し、空爆を行なう。
・ボスニアのセルビア人勢力は敵対的姿勢を強め、軽武装の国連保護軍の要員多数を各地で「人質」として拘束。
・クラースNATO事務総長は緊急記者会見で、「セルビア人勢力が続ける無差別攻撃、人道援助への組織的妨害は最悪の国連決議違反であり、国際社会への挑戦である」と強い調子で非難。
・ボスニア・セルビア人勢力は国連が定めた「安全地区」6ヵ所のうち5ヵ所を砲撃。トゥズラでは71人が死亡し、150人が負傷。ゴラジュデでは5人が死亡。サラエヴォ市内に対しても戦車で激しい砲撃を加えるなど、ボスニア全土で報復攻撃がエスカレートする。
・ボスニア・セルビア人勢力のムラディッチ司令官は、「安全地区への攻撃は、1回目の空爆に対する報復だ。交渉は今後一切しない」 と語る。
・ボスニアのセルビア人勢力の通信社SRNAはNATO軍の空爆続行を阻止するため、空爆目標地点に「予防措置」として拘束した国連保護要員3人を「人間の盾」として配置した、と伝える。
・米国防総省は、空母セオドア・ルーズベルトとミサイル巡洋艦をアドリア海に向けて派遣したと発表。
・エリツィン露大統領はNATO軍の空爆は遺憾だが、「我々も空爆があり得ると警告したのに、セルビア人勢力軍は何ら戦闘行為をやめなかった。そのために起きたことだ」と語る。
・メージャー英首相はエリツィン露大統領に電話をかけ、ボスニア内戦の平和的解決のために同大統領がミロシェヴィチ・セルビア大統領に影響力を行使するよう要請。
・ジュッペ仏首相は、「たびたび繰り返したように、ボスニアには和平解決を受け入れない勢力があり、国連保護軍の役割が失敗に終わるなら、国際社会は撤退を受け入れなければならない」と、セルビア人勢力が安全地域を攻撃したことを非難。シラク仏大統領は、「我が国の兵士がこれ以上の辱めを受けることは許さない」と憤りを表す。
・フランス政府は人質問題で、国連、NATO、「連絡調整グループ」などに緊急協議を呼びかける。
・国連はボスニア情勢が緊迫する中、フランスの要請で緊急安保理を開催。シラク仏大統領はガリ国連事務総長に、「現地に展開する国連保護軍の任務が変更されなければ、フランスはボスニアから兵員を撤退させる」との書簡を送付。
・ボスニアのセルビア人勢力はNATO軍の空爆を避けるための「人間の盾」に、国連保護軍のカナダ、チェコ、ロシア、ポーランド、ガーナ、スペインなどの兵士8人をポールなどに縛り付ける。
・ロシアのエリツィン大統領はコール独首相およびメージャー英首相との電話会談で、NATO軍がロシアとの意見交換なしでセルビア人勢力の武器庫などを爆撃したことに「深い不満」の意を表すと共に、ボスニアでの軍事行動停止のために出来ることは全て実行すると約束。
05/27:
・ボスニアの首都サラエヴォの国連保護軍のブルバニャ橋の監視所をボスニアのセルビア人勢力が襲撃し、国連保護軍も反撃して双方に20人ほど死傷者が出る。セルビア人勢力の襲撃の動機は、国連保護軍がブルバニャ橋の監視所をボスニア政府に移譲しようとした、というもの。
・シラク仏大統領は、エリゼ宮にジュッペ首相、ドシャレット外相、国防相、軍参謀長などを招集し、ボスニア問題で緊急協議。さらに、シラク仏大統領はミロシェヴィチ・セルビア大統領に電話をかけ、ボスニアのセルビア人勢力に人質問題であらゆる圧力をかけるよう要請。セルビア人勢力が人質にしている国連保護軍兵員は93人。足止めにしている兵員は127人。
・NATOは加盟16ヵ国の大使級緊急協議を開き、ボスニアの国連保護軍を支援するための追加措置を検討。
・クラースNATO事務総長は、「国連要員を殺し、人質に取るセルビア人勢力の振る舞いは国際原則と市民常識の侵害だ。要員の即時釈放を求め、安全確保と人質解放に向けた国連の努力を支援する」との声明を読み上げる。
・ロシアのコーズィレフ外相とグラチョフ国防相は、ボスニアのセルビア人勢力を説得するために現地に向かう。
・ペリー米国防長官はロンドンに赴き、リフキン英国防相、リューエ独国防相らとボスニア問題で緊急協議を行なう。
05/28:
・ボスニア政府のリュブリャンキッチ外相は、搭乗したヘリコプターがビハチ地方の上空でロケット砲により撃墜されて死亡。
・クロアチア共和国のセルビア人勢力が、ヘリコプターが領空を侵犯したために撃墜したとの声明を出す。一方ボスニア政府側のラジオ放送は、ヘリコプターへの砲撃はボスニア領内の反政府ムスリム人勢力の支配地域から行なわれたと報じる。
・NATO軍はこの日空爆を実行せず。NATO軍の偵察機にセルビア人勢力が対空砲を発射。トゥズラをセルビア人勢力が砲撃し、1人死亡、1人負傷。
・国連保護軍の要員でボスニアのセルビア人勢力に拘束されている員数は、フランス人174人、カナダ人55人、ウクライナ人41人、ロシア人37人、英国人34人など、367人に上ることが明らかになる。
・新ユーゴ連邦のヨバノヴィチ外相は、ボスニアのセルビア人勢力がNATO軍空爆への報復として国連保護軍要員を人質としていることについて、「あのような行為を非難する。保護軍に対する如何なる暴力にも反対する」と述べ、セルビア人勢力と一線を画する姿勢を明確にする。
・フランス政府は、空母フォッシュとフリゲート艦をアドリア海に派遣することを決定。
・英国防省は、ボスニアへ砲兵および工兵部隊1200人の兵員を急派し、空挺部隊5000人を待機させることを決定。英国は既に3400人を派遣している。
・米CNNの報道によると、米艦船3隻がNATO軍の要請で地中海からアドリア海に移動した、と報じる。
05/29:
・NATOは外相級会議を開き、ボスニア問題についての緊急協議に入る。
・「連絡調整グループ」の緊急外相会議がオランダのハーグで開かれ、保護軍強化のために、行動の自由、国連指定の安全地域への立ち入り自由の確保、敵対行為に対し即応できる能力を保護軍に与える必要性などを強調する声明を出す。また、新ユーゴ連邦の経済制裁解除と引き換えにボスニアを国家承認させ、ボスニアのセルビア人勢力への圧力を高める戦略を検討。
・ロシアのコーズィレフ外相は、 「軍事より政治を優先する、というのが最も重要な成果だ」と述べる。
・クリストファー米国務長官は「空軍力の使用はなお選択肢として残っている」と述べる。
・EUの外相理事会は、国連保護軍の自由活動の回復、安全確保、任務遂行のためには、「1,交戦規則の強化、任務の明確化。2,銃火器、通信手段など装備の補充。3,活動条件の悪い地域からの撤退と再結集など、補強策が欠かせない」との声明を出す。
・ファンデンブルグ欧州委員は、「国連保護軍を撤収してボスニア政府への武器禁輸を解除するか、保護軍自体を強化するか、選択肢は2つだけだ」と述べ、ハード英外相は、「先ず、分散している部隊の集結を急ぐべきだ」と述べる。
・北大西洋議会・NAAはボスニアに展開している国連保護軍について、任務や権限強化を国連安保理に求める決議を採択。
・ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ司令官は、NATO軍の空爆阻止のための国連保護軍要員の「人間の盾」をやめると国連側に伝える。ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ共和国大統領は、国連決議やNATOによる最後通告で、国連との合意事項は無効との声明を発表。
・クロアチアのセルビア人勢力の「クライナ・セルビア人共和国」議会は、ミケリッチ・クライナ・セルビア人共和国首相の不信任案を賛成多数で可決。ミケリッチ首相は交渉による解決を重視する穏健派だが、西スラヴォニアをクロアチア政府軍に制圧された責任を問われる。
・ドイツのリューエ国防相は、ボスニアのセルビア人武装勢力が大量の国連要員を拘束している状況を踏まえ、「犯罪行為をやめるようにきちんとものをいう必要性を、明石は本気で考えなければならない」と、明石国連特別代表を無能呼ばわりをする。
05/30:
・NATOの定期外相会議が開かれ、ボスニア紛争について交渉による解決を求める一方で、国連保護軍を守るためには「NATO軍の空軍力は依然として行使されることがある」という声明を発表。
・ドイツのコール首相は、「ボスニアからの国連保護軍の撤退は、全ての当事者にとって破滅的な結果を招く。むしろ自衛ができるように保護軍の任務を強化すべきだ」と述べる。リューエ独国防相はボスニアにおける国連の対応について、「完全に袋小路に陥っている」と批判すると共に、国連保護軍部隊の再配置を検討すべきだと語る。さらに同国防相は連邦軍が既にボスニア派遣部隊を決定し、「即時動員可能な態勢ができた」と閣議に報告。
・朝日新聞によると、新ユーゴスラヴィアへの経済制裁が行なわれて4年目に入り、地元の有力紙は1人当たりの年間国民所得は3000ドルから1000ドルに減少し、90年を100とすると93年には49に低下したという。シラドヴィチ商業相は、制裁措置に伴う貿易減少による直接被害は3年間で550億ドル、間接的な被害は1480億ドルにおよぶ、と述べる。
・新ユーゴ連邦は、昨94年にボスニアのセルビア人勢力との「関係断絶」の立場を表明し、「連絡調整グループ」の新和平案に同意したことから、制裁のうちの文化、スポーツ交流、交通の一部の緩和措置を受けているが、燃料や医療分野での物資不足は依然深刻。
05/31:
・クリントン米大統領はボスニアへの地上軍派遣の条件を緩和し、NATOからの要請があれば国連保護軍の配置換えや救出でも派兵に応じる方針を明らかにする。
・ベオグラード駐在のロバーツ英国臨時代理大使はセルビア人勢力が人質を取っていることについて、セルビア人勢力の指導者の一人コーリェヴィチに、人質の安全のみについて警告。
・ボスニアの安全地域に指定されているゴラジュデで、ボスニア政府軍とボスニアのセルビア人勢力との間で350回に及ぶ砲撃など、激しい戦闘が起こる。
・ガリ事務総長は安保理に、「1,『従来型PKO』で武力行使を自衛のみに限定し、交渉による紛争当事者の合意を追及し、現状に即した現実的活動に限る。2,『兵力増強、多国籍軍化』によって、最終的には国連が指揮権を手放してPKOから手を引く」との2つの選択肢を提示する報告書を提出。
06/01:
・ドイツのキンケル外相は、ボスニア駐留の国連保護軍が自らの安全確保のために再配置を行なうならば、援護のためにドイツ軍を派遣する用意があると表明。
・ボスニアの安全地域に指定されているゴラジュデで、31日から継続しているボスニア政府軍とセルビア人勢力との間で激戦があり、13人が負傷。
・ボスニアのセルビア人勢力軍事指導部のミラン・グベロ副司令官は朝日新聞との会見で、「政治交渉」への強い期待を表明するとともに、多国籍軍による軍事介入には「その部隊は大きな犠牲を払うことになるだろう」と語る。また、人質解放の条件として、「1,セルビア人勢力に対する空爆の中止が最重要であり、包括的和平に繋がる副次的な条件にもなる。2,国連が指定した安全地域の非武装化。3,ボスニアに対する武器禁輸の監視強化」をあげ、さらに「1日戦うより、1000日の交渉をしたい」と述べる。
・ボスニア政府のサシルベイ国連大使は、31日にガリ国連事務総長が提案した国連保護軍の任務の見通しについて、「ボスニアの現状に沿っていない」と批判。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ・スルプスカ共和国大統領はボスニア紛争の和平工作について、「日本や中国のように直接利害のない国が仲介に当たるのが望ましい」とテレビ番組で語る。
06/02:
・ボスニアの上空で監視飛行をしていた米軍機F16Cが、バニャ・ルカ付近でセルビア人勢力によると見られるミサイル攻撃で撃墜される。高度6000メートル上空まで到達可能なミサイルは、ロシア製のSA2かSA6だと見られている。
・クリントン米大統領は米軍機撃墜事件で、操縦士の捜索、救出を最優先する姿勢を示す声明を読み上げる。また、クリントン米大統領はホワイトハウスで、ペリー国防長官、シャリカシュビリ統合参謀本部議長、レーク大統領補佐官らと今後の対応を協議。
・国連安保理は、国連保護軍の要員がセルビア人勢力の人質になっていることについて、「人質を取る行為は、受け入れがたい国際法違反である」との議長声明を発表。
・赤十字国際委員会の代表団に、セルビア人勢力が人質として拘束中の国連保護軍要員を、「善意の明かしとして無条件で解放する」と伝える。
・ボスニアのセルビア人共和国のブハ外相は、セルビア人勢力が人質として勾留していた国連保護軍のフランス兵120人を解放することについて、「1,非公式の外交ルートを通じてミロシェヴィチ・セルビア大統領からの要請がある。2,最近の外国要人の言動の行間に今後空爆がないと読める、3,和平プロセスが今後展開すると判断する」と述べる。
06/03:
・EUおよびNATOに加盟している15ヵ国の国防相会議がパリで開かれ、ボスニアの国連保護軍の安全を確保する目的で仏英両国が提唱している「緊急防護部隊・RRF」の創設を決定。緊急防護部隊は、5000人規模の旅団が2つの計1万人で編成される。装備は攻撃用ヘリ、重火器などを備える。
・新ユーゴ連邦のミロシェヴィチ・セルビア大統領はシラク仏大統領に電話連絡し、「ボスニアでセルビア人勢力の人質となっている国連保護軍要員全員が早急に解放されることになる」と伝える。
・国連当局は、セルビア人勢力が撃墜した米兵を拘束していると明石国連特別代表に伝えてきたと発表。
・ボスニアのセルビア人勢力はスレブレニツァの監視ポストをめぐって、国連保護軍のオランダ部隊を攻撃し、監視ポストを一時占拠。オランダ部隊側の12人は装甲車で避難。
註;スレブレニツァをめぐる紛争は、ボスニア政府軍が国連安全地域に指定されたスレブレニツァを拠点にして、周辺のセルビア人住民の村々を襲撃し、殺戮していることに対する、セルビア人勢力の反撃が行なわれ始めたことによる。
06/04:
・ペリー米国防長官は、NATO軍が創設する「緊急対応部隊」に無人偵察機を提供し、ボスニアの情報収集活動に利用すると発表。
・シラク仏大統領はエリツィン露大統領と電話で協議。エリツィン露大統領は、国連保護軍兵士の解放のためにミロシェヴィチ・セルビア大統領に圧力をかけることを約す。
・ボスニアのゴルニバクフに駐留する国連保護軍の英軍部隊は、105ミリ砲を配備する。
・ボスニアのサラエヴォで砲撃や銃撃が続き、5人が死亡し、10人が負傷する。中部のマグライや東部のゴラジュデでも、セルビア人勢力の攻撃で3人が負傷。
・ボスニアのセルビア人勢力軍のムラディッチ司令官は、人質解放にはNATO軍の「空爆中止」の確約が必要と表明。
06/05:
・新ユ-ゴ連邦セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領はクリストファー米国務長官に、「拘束されている国連保護軍250人の解放は困難に直面している」と伝える。
・ロシア外務省高官はNATO軍の「緊急防護部隊」の創設に対し、条件次第では安保理で拒否権を行使することもあり得ると表明。
・シライジッチ・ボスニア首相はサアド・クウェート首相と会談し、石油供給の支援を求め、武器禁輸の解除などでイスラム諸国の支持固めなどを要請する。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ共和国大統領は、パレでギリシャのパプリアス外相とアルセニス国防相およびセルビア共和国のスタニジッチ公安長官と、国連保護軍の人質解放について会談。
・米国防総省は国連保護軍の撤退に備え、ドイツ駐留米軍の一部をイタリアの基地などに移動させ始めたことを明らかにする。またボスニア上空で撃墜された米軍機の操縦士の緊急無線装置の信号をキャッチしていると発表。
06/06:
・ボスニアのセルビア人勢力当局者は、国連保護軍の人質250人のうち100人を同日中に解放すると表明。
・マケドニアのツルベンコフスキ外相が訪日し、河野洋平日外相と会談。ヴァンス米元国務長官の仲介により、ギリシャとの間で国名や国旗にまつわる関係改善が進められている現状について、「近い将来、解決する可能性が見えてきた」との見通しを示す。
06/07:
・英仏などはボスニアの国連保護軍の安全確保を図るため、国連のアナン平和維持活動担当事務次長の派遣を求める。
・国連アナン平和維持活動担当事務次長は、英・仏などが決めた「緊急対応部隊・RRF」1万人は現行の国連保護軍・UNPROFORの増強という形を取り、指揮権も国連に属することで派遣国と国連が合意したと発表。「緊急対応部隊」はPKO活動を行ない、武力で平和を達成する「平和執行部隊」的な性格を持たない。
・ペリー国防長官は米上院軍事委員会で、「ボスニアへの米地上軍の派遣は、国連保護軍の緊急救出時に限る」と発言。シャリカシュビリ統合参謀本部議長は上院軍事委員会で、「1,保護軍が危険になった場合、米軍は数百人規模の兵士でヘリコプターによる救出をする。2,緊急対応部隊には空輸、装備、情報を提供し、地上兵は送らない。3,保護軍撤退の場合は地上軍を含む米兵2万5000人を提供する」と証言。
06/08:
・NATOは国防相会議を開き、ボスニアのセルビア人勢力との敵対関係が鮮明となる中、米英仏などが作る緊急対応部隊・RRFの性格付けや支援策を協議。RRFの任務は、「1,脅威にさらされた国連保護軍の再配置を支援。2,国連要員の移動の自由の確保」などを確認。リフキンド英外相は、「武力を使って任務を果たすというのではない」と強調。
・フランス軍部隊はサラエヴォ郊外の戦略の要衝イグマン山に、アドリア海に派遣している仏艦隊から60人の武装部隊と重迫撃砲6門を移動させて空輸し、降下させる。
・NATO軍の捜索チームは、ボスニア上空でセルビア人勢力に撃墜された米軍機F16Cの操縦士を無事救出。
・米下院は、ボスニアのムスリム人勢力への武器禁輸を解除するよう求める法律の修正案を、大差で可決。
・ボスニアのセルビア人勢力の拠点パレからサラエヴォに通じる道路をめぐって、ボスニア政府軍とセルビア人勢力は激しい攻防戦を繰り広げる。
・セルビア人勢力側はパレで、UNHCRの代表と6時間にわたって会談。会談後セルビア人勢力代表は、物資が不足しているサラエヴォへの人道物資搬入のルート再開に同意。
06/09:
・ロシア下院は、NATO軍がボスニアに緊急対応部隊を創設するための国連安保理決議が採決される場合は、国連保護軍を徐々にNATO軍に移行させる政策は危険性を伴うという理由で、拒否権行使することを求める決議を採択。
06/13:
・明石国連事務総長特別代表はジュネーブで記者会見し、ボスニアの国連保護軍の安全を求める緊急対応部隊が、重火器や戦車を装備するなどの重装備であることを明らかにする。
06/14:
・旧ユーゴ和平会議のEU代表として共同議長を3年間務め、このほど辞任したオーエン英元外相は、「この1年間、ボスニアの紛争当事者らの和平協議はうまく進まなかった。交渉が進展するためには米国が妥協する必要がある」と述べ、米政府がボスニアのムスリム人勢力寄りの姿勢を続けていることを批判。また、「EUは和平交渉を粘り強く支えるべきであり、国連保護軍を戦闘部隊に変えたいとする誘惑に駆られてはならない」、と国際社会に自制を求める。
06/15:
・サミット・G7はボスニア問題で、「すべての当事者の自制、および連絡調整グループが提示している和平案に基づいた政治的解決に早急に応じるよう」緊急声明を発表。クロアチア共和国政府とクライナ・セルビア人共和国に対しても軍事行動を控え、和平交渉の再開に踏み出すよう求める。
・明石国連特別代表は、ボスニアのサラエヴォなどへの物資搬送を阻止するセルビア人勢力を厳しく批判。
・ボスニアのセルビア人勢力当局は、「1,援助物資がボスニア政府軍の備蓄に回されている。2,援助物資にボスニア政府軍用の武器を隠して搬送している」と指摘し、国連平和維持活動への不信を募らせる。
06/16:
・国連安保理は、ボスニアに展開している国連保護軍・UNPROFORを現在の2万2500人に加え、緊急対応部隊・RRF1万2500人を増強する決議998を、賛成13、棄権2で採択。決議内容は、人質になっている国連保護軍の即時無条件解放をセルビア人勢力に要求し、国連保護軍には緊急対応能力を持たせる、というもの。指揮は国連保護軍の司令官が執るが、ブルーヘルメットは着用しない。内訳は、英・仏・オランダによる多国籍部隊。旧ユーゴスラヴィア全体で、国連平和維持軍・PKOは4万4900人から5万7400人に拡大し、費用は6ヵ月で4億ドル。負担は米国議会の反対で、分担金比例配分が不可能に陥っている。
・ラブロフ・ロシア国連大使は、ロシアが安保理決議に棄権した理由として、「1,緊急対応部隊が国連保護軍を戦闘に巻き込む恐れがある。2,その際には国連保護軍がムスリム人勢力側に立って戦うことになる」との懸念を上げる。
・明石国連特別代表は、「緊急対応部隊の先発として現地入りした英仏部隊は迫撃砲を装備しているので直ぐにでも活動できるが、本格的な展開は来月になる。人道的援助物資の搬送阻止に対する出動の可能性はある」と述べ、「保護軍派遣国には、犠牲者を出すばかりで平和を達成できない焦りや苛立ちがある」と付け加える。
・ボスニア政府軍とボスニアのセルビア人勢力との戦闘がサラエヴォ北部で激化し、セルビア人勢力が物資搬送を継続して阻んでいるため物資不足は深刻化している。06/17:・サミット・G7議長声明は、ボスニアでセルビア人勢力が国連要員を人質に取っていることを非難し、即時無条件解放、ボスニア内戦の即時停戦を組み込む。
06/23:
・オルブライト米国連大使は、明石国連特別代表がボスニアのセルビア人勢力に書簡を送り、新設される国連緊急対応部隊の任務が従来の国連保護軍と大きく変わらないと保証したことに対し、「極めて不適切」と激しく非難。
・国連緊急対応部隊のフランス軍部隊は、クロアチアのブローチェ港に到着。
06/26:
・コール独首相は、EU首脳会議に出席する前の臨時閣議で、ボスニアにトルネード戦闘爆撃機を含む兵力の派遣を正式に決定。歩兵など地上部隊は派遣しない、と述べる。
・EU首脳会議はボスニア問題についての集中協議で、セルビア人勢力によるサラエヴォ包囲の解除を最優先することで合意。旧ユーゴ和平国際会議ビルト共同議長を中心とした外交努力と共に、緊急対応部隊・RRFの支援で国連保護軍・UNPROFORの再配備を行なう。
06/28:
・NATO大使級理事会は、ボスニアの国連保護軍が撤収した場合のNATO軍の配備について協議。協議は、米軍2万500人を主体とする6万人の重武装兵力を投入する作戦計画など。
・ボスニアのサラエヴォ市街地に砲弾が撃ち込まれ、テレビセンタービルや住宅が大破し、4人が死亡し、30人以上が負傷。
06/29:
・明石国連特別代表は、ボスニアの国連緊急対応部隊の展開は遅くとも8月下旬には完了する、と言明。また緊急対応部隊の任務は、「『国連平和維持活動・PKO』原則の下に国連保護軍の安全を確保するもので、それを逸脱して武力行使することはない」と述べる。オルブライト米国連大使の非難については、「充分な証拠に基づいているかどうか疑問だ」。また西側の最近の報道については、「偏向ぶりが目に付く」。こうした報道がボスニア紛争に大きな影響を与えている、との見方を示す。
06/30:
・ボスニア政府のムラトヴィチ国連担当相は明石国連特別代表について、「これ以上彼とは話さない」と述べ、国連平和維持活動を指揮する代表との対話を拒否する姿勢を示す。
・ボスニア政府のガニッチ幹部会副議長が、交通事故で重傷を負う。
・ドイツ連邦議会は、ユーゴスラヴィアへの国連保護軍など平和維持活動に連邦軍を派遣する政府案を、賛成386,反対158,棄権1で承認。
06/00:
・ボスニアのセルビア人勢力は国連とサラエボ市のガス供給再開の受け入れを表明したが、ボスニア政府はこの地域を国連監視下に置くことを逆提案して、合意に至らず。
07/01:
・ボスニアのセルビア人勢力がサラエヴォの中心街をロケット砲で砲撃し、少なくとも7人が死亡、50人以上が負傷。
07/02:
・国連保護軍フランス部隊はボスニアのサラエヴォ市西郊外で、国連保護軍輸送部隊を機関銃で妨害したセルビア人勢力に迫撃砲を発射して警告。サラエボの国連司令部付近に3発の砲弾が炸裂し、国連保護軍兵士3人を含む6人が負傷。
07/05:
・フランスのランクサード参謀総長は、ボスニアに派遣する国連緊急対応部隊について、7月中に活動を開始できるとの見通しを示す。また、「もし、救援物資のサラエボ搬入をセルビア人勢力が邪魔をする事態が数日中に解決しないなら、対応部隊は行動を起こさなければならない」と述べる。
07/06:
・ボスニアのセルビア人勢力は、国連指定の「安全地域」であるスレブレニツァに向けて攻勢をかけ始める。
・ボスニア政府の駐クロアチア大使館は、ボスニア東部のスレブレニツァ地域でこの1週間に13人の餓死者が出たと発表。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、セルビア人勢力の包囲の影響で、2日までにビハチで2人の餓死者が出たことを明らかにする。
07/08:
・スレブレニツァ周辺を監視する国連保護軍のオランダ部隊は、セルビア人勢力の同地域に対する攻撃により監視ポスト3ヵ所を放棄する。
・ボスニア政府軍は、オランダ部隊が監視ポストを放棄したことに抗議して銃撃し、オランダ軍兵士1人を殺害。このためにオランダ軍兵士7人はボスニア政府軍側に逃げ込むより、セルビア人勢力側に拘束される方が安全と考えて敢えて現場に留まり、セルビア人勢力によってホテルに収容される。オランダ部隊はこの地域に1000人が駐留し、対戦車砲も備えている。
・ガリ国連事務総長は、明石国連特別代表および緒方貞子難民高等弁務官、アナン国連平和維持活動担当次長らとジュネーブでボスニア情勢への対応を協議。ガリ事務総長は、「旧ユーゴスラヴィアからの国連軍の撤退を回避するには、国連が活動できる環境づくりを内戦当事者に約束させる必要がある」と述べ、紛争解決への努力の強化を要請。
07/09:
・ボスニアの国連保護軍報道官は、セルビア人勢力軍・BSAがボスニア政府軍の支配する国連指定の「安全地域」のスレブレニツァに戦車数台で攻撃をかけ、市街地周辺まで1.5キロの地点に迫っている、と述べる。セルビア人勢力は、国連監視ポストのオランダ兵32人を拘束。
・国連保護軍側はセルビア人勢力に進攻をやめるよう求め、NATO軍による空爆も辞さない姿勢を文書で伝える。
・イタリア国営テレビは、セルビア人勢力はスレブレニツァ地域に約1000発の砲弾を撃ち込み、砲弾の中には有毒ガスも含まれていて死者数は100人以上に及ぶ、と放送。
07/10:
・ボスニアのセルビア人勢力は国連保護軍に対し、スレブレニツァから保護軍450人とムスリム人主体の住民4万人を退去させるよう求める。
・国連保護軍報道官は、「受け入れがたい要求だ」と述べる。
・国連人権委員会は、クロアチア共和国軍による西スラヴォニア侵攻作戦で、セルビア系住民が多数殺傷された、とのマゾビエツキ・ポーランド元首相を中心とする調査報告書を作成。報告書によると、5月1、2日の進攻によるクロアチア共和国軍に殺害されたセルビア系民間人は50人以上で、ボスニア側のセルビア人支配地域に逃げようとする民間人を、機関銃で殺傷した疑いがあり、また無抵抗の民家に無差別に発砲。さらにクロアチア政府軍は領土を奪回した後、政府軍の殺傷行為を隠蔽するために道路などの遺体を片づけて清掃した模様。
・クロアチアのトゥジマン政権は、停戦協定破りの侵攻作戦の正当性や、セルビア系住民の人権擁護の方針を強調。
・ボスニア政府軍のハリロヴィチ参謀長は、スレブレニツァに駐屯する第28師団に対し、撤退命令を出す。28師団の兵士8000人は、スレブレニツァの男性およそ7000人を引き連れ、未明に脱出する。
07/11:
・ボスニアのセルビア人勢力軍は、スレブレニツァの市街地を制圧し、セルビア人勢力による「文民統治の実施」を宣言する。国連指定の安全地域、6ヵ所の内1つが消滅。
・スレブレニツァ地域を保護していたオランダ部隊は、セルビア人勢力の攻撃に応戦していたが、北郊外の基地に一旦退去。
・シラク仏大統領はドイツのコール首相と会談後、「もし国連安保理のゴーサインが出れば、英仏などで構成する緊急対応部隊がスレブレニツァを奪回する用意がある。コール独首相も同じ意見だ」と語る。
・NATO軍は、ボスニアのスレブレニツァを攻撃するセルビア人勢力に対し、空爆を実行する。
・国連安保理は非公式協議を行ない、米、英、仏、独がセルビア人勢力にスレブレニツァからの即時撤退を求めるとともに、安全地域を回復するために武力行使を含む「あらゆる手段」をとるよう、ガリ国連事務総長に求める決議を採択することで各国が合意。
07/12:
・国連人権委員会の旧ユーゴスラヴィア問題特別報告官のマゾビエツキ・ポーランド元首相は、ボスニアのスレブレニツァがセルビア人勢力の手に落ちたことについて、「これは国連安保理決議の重大な違反であり、国際社会の信頼と原則を損なう。スレブレニツァ住民の安全と人権を保障するように」との声明を発表。
・ガリ国連事務総長はシラク仏大統領の提案に対し、「難しい選択だ」と述べる。ガリ事務総長は、国連軍が大規模な軍事行動に出ることには難色を示す。
・国連安保理は、ボスニアのスレブレニツァがセルビア人勢力に制圧された問題に関し、「同勢力の即時撤退、およびガリ国連事務総長に対し安全地域を回復するために、武力を含むあらゆる手段をとるよう求める」決議1004を、満場一致で採択。
・ボスニアのセルビア人勢力軍は、ジェパに攻撃を仕掛ける。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ共和国大統領はTV番組で、「NATO軍の脅しは何にもならない」と強気の姿勢を示す。同勢力を強気にさせているのは、5月にクロアチア共和国のトゥジマン政権がセルビア系住民の住む「保護区」の西スラヴォニアを、武力制圧した「停戦破り」を国際社会が事実上黙認している実態があり、二重基準は取れまいとの判断がある。
・米国政府は、スレブレニツァでムスリム人に対する大規模な虐殺があったと発表。
07/13:
・シラク仏大統領はボスニアのスレブレニツァ問題に関し、セルビア人勢力の行動はムスリム人らへの「民族浄化」の始まりであり、サラエボを含む他の安全地区でも同種のことが起こる可能性があると指摘。さらにセルビア人勢力に対し、限定的軍事行動をとることを国際社会に呼びかける声明を発表。
・ミヨン仏国防相はこの仏の声明を特に米英へ向けて48時間以内に回答するよう求め、「軍事的圧力なしに解決はない。米英は仏と共にセルビア人勢力に圧力をかけるべきだ」と語る。
・英国のリフキンド外相はフランス政府の提案に対し、「国連の安全地区を救う具体的でかつ実際的な方法があるなら、真剣な検討に値する」と注文をつける。
・スレブレニツァのセルビア人勢力は、ムスリム人住民の同地域からの退去が終わったと発表。
・スレブレニツァのムスリム人住民の女性と子どもや老人2万数千人は2日間でバスなどでポトチャリからトゥズラに護送されているが、戦闘員となる可能性のある16以上の男性は、プラトゥナッツにあるサッカー場に拘束されている模様。セルビア人勢力軍のムラディッチ司令官は、国連保護軍オランダ部隊約300人にも退去を求めたが、保護軍のカレマンス大佐は「オランダ部隊は避難民の安全を監視する」と述べて域内に残る。
・緒方貞子難民高等弁務官は、セルビア人勢力がスレブレニツァの住民を非人道的に扱っていると強く非難。「家族は引き裂かれ、住民への援助は長期にわたり妨害されてきた。これは基本的な人道原則の侵害であり、この内戦を通じて民族浄化の最も露骨な例である」と述べる。
・ボスニアのセルビア人勢力は安全地域の一つであるゴラジュデの国連保護軍基地を包囲し、保護軍ウクライナ部隊に対し威嚇射撃を行ない、武器の引き渡しを要求。
・ボスニア政府の発表によると、セルビア人勢力はジェパへの砲撃を始め、国連保護軍のウクライナ部隊に撤収するように
要求。
07/14:
・国連当局は、シュトルテンベルグ旧ユーゴ和平国際会議共同議長がガリ国連事務総長の特使としてボスニアを訪れることを明らかにする。国連スポークスマンは、シュトルテンベルグ共同議長がガリ事務総長の特使となったことについて、「同特使が明石特別代表に取って代わる」との報道を強く否定。シュトルテンベルグ国連特使は安全地域が制圧された事態を打開するという特定の目的のために派遣され、明石特別代表と協力しながら交渉に当たると強調。
・シュトルテンベルグ国連特使はベオグラードを訪れ、ミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。
・ボスニア政府は、シュトルテンベルグ国連特使とは協力しない方針との声明を発表。
・ボスニアのセルビア人勢力は、「安全地域」ジェパへの攻勢を強める。
・メージャー英首相は、「連絡調整グループ」の外相および国防相会議を21日にロンドンで開催するよう呼びかけた、との声明を発表。
・米政府はボスニア情勢について対応策を検討し、シャリカシュビリ統合参謀本部議長をロンドンで16日に開かれる同盟各国との協議に派遣することを決める。
・国連安保理は、セルビア人勢力がスレブレニツァを制圧して住民を強制排除し、住民を殺害し暴行したと伝えられる問題で、こうした行為は「民族浄化」であるとして、セルビア人勢力を強く非難する議長声明を採択。
・国連事務総長の顧問は、「安全地域」のジェパがセルビア人勢力の攻撃にさらされており、48時間以内に制圧されると説明。
07/15:
・ボスニアのセルビア人勢力は「安全地域」のジェパ攻撃を強化し、陥落も時間の問題となる。
・ボスニア政府軍は、ジェパの国連監視所のウクライナ部隊を攻撃し、武器と弾薬を略奪する。
・明石国連特別代表とシュトルテンベルグ旧ユーゴ和平国際会議共同議長はベオグラード入りし、セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領と会談。
・ロシアのチュルキン特使はセルビア人勢力の拠点パレでセルビア人勢力の指導者と会談し、ジェパ、ゴラジュデの「安全地域」攻撃の中止や国連保護軍要員の解放などを求める。
・エリツィン露大統領は新ユーゴ連邦リリッチ大統領に対し、西側諸国による空爆などの軍事行動に反対するとともに、国連の対ユーゴスラヴィア制裁の解除を目指すロシアの立場を表明した書簡を送る。
07/16:
・シャリカシュビリ米統合参謀本部議長、インジ英参謀総長、ランサード仏参謀総長など米・英・仏の軍隊制服組のトップが、ロンドンでボスニアのセルビア人勢力軍への「限定的軍事行動」に向けた緊急協議を行なう。協定内容;「1,セルビア人勢力が迫る東部の安全地域ゴラジュデを防護するため、緊急対応部隊・RRFを投入する。2,首都サラエヴォへの補給路を実力で確保する」ことを最優先事項として3つのシナリオを検討する。シナリオ1;「米軍の大型ヘリで仏部隊と重火器をゴラジュデに送る。セルビア人勢力にはジェパの攻撃までで思いとどまらせる」。シナリオ2;「ゴラジュデの防護強化に、セルビア人勢力が反発して先制攻撃などの対決姿勢を示せば、重武装のRRF部隊が交戦し、NATO軍の空軍機などを投入して大規模な戦闘に発展する」。シナリオ3;「大規模な軍事行動はリスクが高いので、再度『連絡調整グループ』で検討する」というもの。
・エジプトのムーサ外相は、イスラム諸国が今週末にモロッコかスイスでボスニア紛争への対応について協議する緊急会議を開く予定であると表明。ムーサ外相は、「今日の事態を招いた責任は全てイスラム諸国にもある」と指摘し、その上で「ムスリム人勢力への武器禁輸の早急な解除が必要だ」と語る。
・ボスニアのセルビア人勢力は、スレブレニツァ周辺で拘束していた国連保護軍のオランダ部隊64人全員を解放。
・セルビア人勢力は、「安全地域」ジェパへの侵攻作戦を続行。
・国連難民高等弁務官事務所や救援団体は、スレブレニツァ周辺からトゥズラに避難してきた2万3000人の避難民への救援活動を本格化させる。
・セルビア人勢力は赤十字国際委員会に対し、同勢力がスレブレニツァ近くで拘束しているムスリム人男性たちへの「面会許可」を出す。この拘束者の数は、ボスニア政府は4000人としているが、セルビア人勢力は700~1200人で、3500人くらいのムスリム人たちは山に逃げているとしている。
07/17:
・EU外相理事会は、ボスニア情勢への対応策を検討したが、明解な結論を出せず。
・コーズィレフ露外相はボスニア情勢について、「政治解決の道だけを追及すべきだ。如何なる理由でも、軍事行動の拡大には反対だ」と語る。
・ボスニアのセルビア人勢力は、国連が指定した「安全地域」ジェパ攻略の構えを見せ、郊外にあるウクライナ部隊のいる国連監視所の周囲に地雷を敷設して包囲。セルビア人勢力は、ボスニア政府側の住民や武装勢力と接触し、武力衝突を避けて武装解除し投降するよう迫る。イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、ジェパからムスリム人を避難させるために、セルビア人勢力と交渉する用意があると表明。
・ボスニア政府のサチルベイ外相はワシントンで記者会見し、国連保護軍を中心とする和平の「枠組みは終わっている」と指摘し、「任
期切れになる11月より前に、自主的に撤退すべきだ」と主張。さらに同外相は、武器禁輸の解除を強く求め、この戦力を基盤にボスニア政府を支援する勢力と「2国間協定を結ぶか、新たに国際的な枠組みを設けて」セルビア人勢力に対抗する考えを示す。
07/18:
・ボスニアのジェパではセルビア人勢力の砲撃が続けられている模様。
・ボスニア政府軍はジェパ北郊の国連保護軍監視所のウクライナ部隊を包囲し、NATO軍がセルビア人勢力への空爆を実施しなければ、79人のウクライナ部隊を「人間の盾にする」と脅迫。国連保護軍ウクライナ部隊は、武器が奪われて戦闘に利用されないように自ら破壊する。
・フランス政府高官は、ボスニア政府が国連保護軍の活動を妨害しており、状況が改善されない場合は仏政府は厳しい政治的対応を取らざるを得ないと警告。「問題はセルビア人勢力ではなくボスニア政府である」と強く批判。
・クリストファー米国務長官は、米議会で民主、共和両党指導者にボスニア政策に関する政府の意向を説明し、セルビア人勢力に対する空軍力の行使の拡大と、仏政府が要求している緊急対応部隊のための米軍ヘリ提供を検討していることを説明した、と記者団に語る。議会指導者への説明は、ドール共和党院内総務が提出している「武器禁輸解除」決議を避けるために行なわれたもの。
・国連安保理は、ボスニアのスレブレニツァから「ボスニア政府支配地域」に逃れようとしていた避難民のうち、3000人が死亡したという情報があることを明らかにする。
07/19:
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ・スルプスカ共和国大統領は、フランスなどがゴラジュデ地域を防衛するために軍事力増強を検討していることに対し「派遣されれば攻撃する」と述べる。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ共和国大統領は、ジェパに立てこもっているムスリム人勢力側との間で、セルビア人勢力による武装解除を実施することで合意した、との声明を発表。セルビア人勢力軍のムラディッチ総司令官とムスリム人勢力軍の現地代表の2人が合意書に調印。合意内容は、武装解除と制圧の承認以外に、国連保護軍ウクライナ部隊の安全の確保、ムスリム人住民の避難または残留の選択の保証など。
・クロアチア・セルビア人勢力軍とボスニア・セルビア人勢力軍が連携作戦を取り、ボスニア政府の支配地域のビハチを激しく攻撃する。
・明石国連特別代表はブリュッセルのNATO本部で、クラース事務総長らとボスニア情勢について協議。その後の記者会見で、「状況が許すなら、NATO軍への航空支援要請をためらうことはない」と言明。
・ジュペ仏外相は、「フランスは21日にロンドンで開催される『連絡調整グループ』会議に、ゴラジュデを防衛するための軍事介入を提案する」と表明。
07/20:
・ボスニアのセルビア人勢力軍のムラディッチ総司令官は、ジェパからのムスリム人住民の移送を始めたと発表。ムラディッチ総司令官は国連保護軍に、最初に負傷者、次ぎに女性と老人と子どもを移送すると通告。18歳から55歳までの男性は捕虜として拘束し、ボスニア政府軍に捕らえられたセルビア人捕虜と交換すると述べる。セルビア人勢力は移送のためのバス50台を用意。ボスニア政府はセルビア人勢力との降伏文書の中に、18歳から55歳までのムスリム人男性の拘束の項目があることに抵抗を示し、このために子どもや女性の移送も停滞する。
・国連当局者は、ジェパの住民移送を監視するために現地に向かう。
・ボスニア政府の大統領府において、旧ユーゴ和平国際会議のビルト共同議長とイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領が会談中、砲撃を受ける。砲撃が何者によるのかは不明。
・セルビア人勢力の拠点パレ市の中心部から1キロの地点に、砲弾数発が撃ち込まれる。
・エリツィン露大統領とコール独首相は電話で会談し、「ボスニアの流血に一刻も早く終止符を打ち、紛争を政治的に解決する」ことで合意。ロシア外務省は、「連絡調整グループ」の外相・国防相会議について、「ボスニア紛争を政治的に解決するための手段は、まだ全て使い果たされていない、というのが会議に臨むロシアの基本的な立場だ」と強調。
・ドイツのユダヤ人有力指導者であるドイツ・ユダヤ人中央協議会のイグナッツ・ブービス会長は、ボスニアのセルビア人勢力による民族浄化を阻止するため、ドイツが軍事介入をするように求める。ブービス会長は、「セルビア人勢力によるムスリム人追い立ては、ナチスによるユダヤ人虐殺に先立つユダヤ人追放と同様に危険だ。ドイツはもはや第2次大戦中にナチスが侵略した地域だということを理由にして、軍事的役割を回避することは許されない」と軍事介入を求める。
・国連安保理は、「ボスニアのセルビア人勢力軍が国連指定の『安全地域』ジェパを事実上制圧したこと、および住民に危害を加えないことを求める」、とのセルビア人勢力を非難する議長声明を採択。
・米上院共和党院内総務のドール議員はボスニア政府への武器禁輸解除決議について、クリントン米大統領が5ヵ国外相・国防相会議に出席するために延期を要請したことに応え、25日まで上院での決議を延期すると発表。
07/21:
・「連絡調整グループ」5ヵ国および国連保護軍派遣の全16ヵ国の外相・国防相拡大会議がロンドンで開かれ、米英仏の3ヵ国が提案したNATO軍による空爆を強化することで合意。リフキンド英外相の議長声明;「1,会議は、セルビア人勢力が国連指定の『安全地域』スレブレニツァとジェパを力で制圧したこと、および人権と国際社会が基盤とする価値に対する侵害であると非難する。2,会議は、ボスニアに展開する国連要員の安全に対する脅威は、兵員派遣国の国益にかかわる問題であると強調する。3,会議は、セルビア人勢力指導者に対し、国連要員に危害を加えられた場合には責任があると警告する。4,会議は、ゴラジュデ攻撃を抑止するため、同地域攻撃のような行為は実質的かつ断固とした反撃に遭うと警告する。空軍力動員を含むこの反撃については強い支持があったが、一方で重大な懸念も表明された。5,会議は、民間人への食料供給のため首都サラエヴォへの補給路確保への決意を示すとともに、補給路維持にあたる国連保護軍を守るため緊急対応部隊の動員への支持を強調した。6,会議は、国連保護軍の撤退はボスニアおよび地域全体に悲劇的な結果をもたらす恐れがあると指摘。7,会議は、同軍が直面する困難にもかかわらず、ボスニアでの任務を継続することを支持した」との内容を発表。「連絡調整グループ」は空爆に難色を示しているロシアなど、参加国の同意取り付けに全力をあげるが、グラチョフ露国防相が、「われわれは空爆の実施を拒否した」と述べたことで、参加16ヵ国の合意は成立せず。シャリカシュビリ米統合参謀本部議長は、「きわめて広範な目標に爆撃が実施されることになる」とレーダー基地や地対空ミサイルの破壊、重火器や弾薬庫、通信網など全ての戦闘手段を広く標的にすると強調。
・クリントン米大統領は空爆態勢強化に米英仏が合意したことについて、「共通の目的への結束に決心したようで、勇気づけられている」と語る。
・米当局者は16ヵ国拡大会議で、NATO軍のボスニア空爆に対する明石国連特別代表の権限を事実上拒否することを決めたと語る。
・シャリカシュビリ米統合参謀本部議長は、今後ボスニア空爆に当たっては現地駐留国連保護軍司令官が決定に関与すると述べる。
・ドール共和党院内総務はボスニア政府への武器禁輸解除について、「ボスニア人が自らを守るべきだ」と述べ、来週にも武器禁輸単独解除法案の可決を目指す考えを示す。
・フランス当局者は、ゴラジュデなどの安全地域周辺に「立ち入り禁止区域を設け、セルビア人勢力が侵入した際にはNATO軍の空爆を加えることに合意する」と表明。
・ボスニア政府のシライジッチ首相は、連絡調整グループの緊急会議の軍事対応策がゴラジュデ防衛に絞られているとして、「不完全な対応策だ」と批判。
・ボスニアのセルビア人勢力幹部はゴラジュデへの攻撃について、「同地域が非軍事化されれば、進攻はしない」と述べる。セルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ共和国大統領は、「我々の主権をないがしろにする行為には断固対決する」と述べる。
・新ユーゴ連邦閣僚会議は、ボスニアのセルビア人勢力に対し、国連安全地域であるゴラジュデへの進攻をやめるよう要求する声明を発表。
・フセイン・ヨルダン国王はヨルダン・テレビのチャリティ番組に出演し、イスラム教徒のために戦地に赴き、闘う用意があると言明し、「世界がボスニアの大虐殺をくい止める道を選ぶなら、兵員を増派する用意がある」と述べる。
07/22:
・ボスニアのセルビア人勢力は、ジェパへの戦車と迫撃砲による攻撃を継続し、ボスニア政府との間で激しい戦闘が続く。
・国連保護軍の監視部隊は、ジェパ域内への立ち入りをセルビア人勢力によって阻止される。
・ボスニア東部のビハチではクロアチアのセルビア人勢力およびボスニアの反政府ムスリム人勢力が、ボスニア政府軍と交
戦。
・NATOは、米英仏が合意したボスニアのセルビア人勢力への空爆態勢強化について協議に入る。加盟各国の軍事委員会を招集し、国連軍司令官との連携など、技術的問題点を協議。
・イスラム諸国会議機構・OICは、「OIC加盟国は、今後国連が実施しているボスニア政府への武器禁輸措置には拘束されない」との最終コミュニケを発表。エジプトのムーサ外相は、「我々は国連安保理の武器禁輸決議に拘束されない」と述べる。マレーシアのマハティール首相は、マレーシアとしてはボスニア政府に武器を提供する用意がある、との声明を発表。
・マコネル米共和党上院議員は、ボスニアへの武器禁輸を米国が単独でも解除する法案を来週中にも採決する方針を示す。
07/23:
・ボスニアの首都サラエヴォで、人道援助物資を搬送中の部隊とサラエヴォ中心部の国連保護軍基地にいた国連保護軍フランス部隊がセルビア人勢力から攻撃を受け、2人が死亡し、3人が負傷。この事件を受け、国連保護軍はサラエボに緊急対応部隊の派遣を要請。ボスニア中部の基地から、緊急展開部隊がサラエボとイグマン山周辺に向かう。
・サラエヴォでは、ボスニア政府軍とセルビア人勢力の間で砲撃の応酬が続く。
・ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ司令官は、ボスニア政府軍が国連安全地域を出撃基地として利用する事態が続いた場合、今週までにボスニアのゴラジュデを含む全ての安全地域を制圧する、と言明。
・パネッタ米大統領首席補佐官はテレビ出演で、武器禁輸単独解除法案が上下両院で可決されても、クリントン米大統領は拒否権を使うとの見通しを語る。
07/24:
・英軍の緊急対応部隊が、サラエヴォ近郊のイグマン山に到着する。
・NATOは大使級理事会をブリュッセルで開き、ボスニア情勢について協議。セルビア人勢力の進攻に対する空爆の技術的な詰めを25日の理事会で検討することを決める。
・NATO軍の対地攻撃機200機は、出撃可能な状態で待機。
・ペリー米国防長官は南北アメリカ国防相会議で記者会見し、ボスニアの国連安全地域のゴラジュデ防衛問題で、セルビア人勢力が「どんなレベルの攻撃を行なっても、空軍力使用という対応を招くことになる」と強く警告。
・ドール米共和党院内総務は、「ロンドン会議は重要な政策の変更を全く生み出さなかった」と厳しく批判し、予定通り25日に武器禁輸単独解除法案を採決に持ち込む考えを示す。
・明石国連特別代表は、国連事務局主催の紛争解決セミナーでボスニア紛争について講演し、「われわれはボクシングのサンドバッグのようなもの」と、緊迫の度を深めるボスニア紛争での平和維持活動の難しさ、苦悩を語る。明石特別代表はさらに国連の役割について、紛争のとげとげしさを和らげるクッション、当事者の対話をつなぐ橋、援助者であると規定。また、空爆を加えつつも、その一方でベビー・フードや食料を運ぶ人道援助トラックの通行を認めさせる交渉をしなければならない戦場下での難しさに言及し、「公平・不偏こそが平和維持活動の命であることを体得した」と語る。NATO軍の空爆実施が合意されたことについては、国連側の政治的判断も考慮されるべきだと、NATOと国連の「二重鍵方式」の継続を求める。
・コーズィレフ露外相は新ユーゴスラヴィアのベオグラードでミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談し、「1,ボスニアの解決は交渉による政治解決以外にない。2,軍事行動の激化を避けるために、紛争当事者が自制すべき」だという点で一致。
・ボスニア政府軍部隊とボスニアのセルビア人勢力軍は、ジェパのボスニア政府軍側の武装解除とムスリム人住民の避難実施で合意。
07/25:
・国連保護軍報道官は、ボスニアのセルビア人勢力が国連指定の安全地区のジェパに突入し制圧した、と発表。
・ボスニアのセルビア人勢力は、ジェパのムスリム人を移送するためのバスを派遣し、負傷したムスリム人の女性や子どもら150人を国連ウクライナ部隊の支援を受けてサラエヴォに向けて移送。ジェパの住民は通常は1万人だったが、スレブレニツァなどからの流入があったので1万数千人に膨れあがる。
・ボスニア政府のシライジッチ首相は、「ジェパのムスリム人勢力の武器は引き渡さない」と述べる。
・NATO大使級理事会は、セルビア人勢力がゴラジュデを攻撃した場合の空爆作戦計画の検討に入る。
・緒方貞子難民高等弁務官はジュネーブでボスニア紛争について講演し、「早期に解決する可能性はない。内戦が始まって4回目の冬を迎えることを考えるとぞっとする」と述べる。
・米連邦上院は、ドール共和党院内総務の提案した「ボスニア政府への武器禁輸単独解除法案」の審議を始める。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのリチャード・ゴールドストーン検察官は、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表、ムラディッチ司令官、クロアチアのセルビア人勢力のマルティッチ代表らセルビア人勢力の24人を大量虐殺などの罪で起訴し、逮捕状を出す。起訴理由は、敵対するムスリム人勢力とクロアチア人勢力の領土を奪うため、組織的な暴力や脅迫で領土から追い出す「民族浄化」を共謀し、指揮したというもの。
07/26:
・クロアチア共和国は「‘95夏作戦」を発動し、クロアチア共和国軍およびボスニア政府軍とクロアチア人勢力軍は共同作戦を展開。ボスニア南西部のボサンスカ・グラホヴォ近くのボスニア・セルビア人勢力支配地域を攻撃する。セルビア人住民数千人がバニャ・ルカなどをめざして避難。
・ボスニア政府の保健省によると、サラエヴォのセルビア人勢力が2発の砲弾を撃ち込み、市民2人が死亡、12人が負傷。
・UNHCRスポークスマンは国連指定安全地域ビハチで、セルビア人勢力の攻撃があり、8000人の住民が避難している、と述べる。
・反ボスニア政府ムスリム人勢力アブディッチ派およびボスニア・セルビア人勢力とクロアチア・セルビア人勢力は、「西ボスニア共和国」が首都としたビハチからボスニア政府軍を排除するため、連携して攻撃を強化。反ボスニア政府ムスリム人勢力アブディッチ派は、8000から9000の兵力を動員。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのアントニオ・カッセーセ裁判長はイタリアのウニタ紙との会見で、カラジッチ・スルプスカ共和国大統領らがボスニア和平交渉のテーブルにつくのは難しくなった、との見解を示す。
・ボスニアのセルビア人勢力幹部クライシュニク・セルビア人共和国国会議長は、旧ユーゴ国際戦犯法廷がカラジッチ・セルビア人共和国大統領(スルプスカ共和国大統領)らを大量虐殺罪で起訴したことに対し、「その法廷は人を裁く権限はなく、道義的な根拠もない」と述べる。
・コーズィレフ露外相は、ボスニアのセルビア人勢力はゴラジュデを攻撃しないと約束した、との声明を発表。
・ブリュッセルで開かれていたNATOの大使級理事会は、ボスニアのセルビア人勢力がゴラジュデを攻撃した場合の空爆計画を立案し、国連との速やかな作戦行動を協議することなどを承認。クラースNATO事務総長は、「空軍力による迅速、適確な対応を可能にする計画に合意し、セルビア人勢力がゴラジュデの脅威となるような動きを見せれば、即応することになる」と述べる。また、クラース事務総長はガリ国連事務総長に、空爆実施の判断を現地の国連保護軍司令官たちに委ねて欲しいと打診。
・米連邦上院は、ボブ・ドール共和党議員の提出したボスニア政府への武器禁輸単独解除法案を、賛成69,反対29で可決。法案は、「1,国連保護軍が撤退を決定すること。2、ボスニア政府が撤退を求めて12週間が過ぎた段階で、米国が国連決議に縛られずに禁輸を解除すること。3、米政府は、国連安保理や総会を通じて禁輸解除への努力をすること」などを求めたもの。
・ガリ国連事務総長は、ボスニアでの指揮権を現地の国連保護軍司令官に移譲することを承認する。明石国連特別代表が決定過程から外されたことについては、「国連内部の決定過程の効率化のため」と説明。国連筋は、明石国連特別代表を批判していた米国に妥協した決定と説明。
註;従来の手続きは、国連保護軍現地司令官 → 国連保護軍地域司令官 → 国連保護軍統括司令官 → 明石国連事務総長特別代表 → NATO南欧軍司令官 → NATO軍出撃指令となっているが、以後は、国連保護軍現地司令官 → NATO南欧軍司令官が出撃命令と簡略化され、制服組のみで運営されることになる。
07/27:
・国連人権委員会の旧ユーゴ問題特別報告者のマゾビエッキ・ポーランド元首相は、「ボスニアに対する現在の国連など、国際社会の対応は納得できない」と抗議し、特別報告者を辞任する意向をガリ国連事務総長に書簡で提出。
・クラースNATO事務総長は、米上院がボスニア武器禁輸単独解除法案を可決したことについて、「ボスニアにさらに武器を与えることは、平和の条件を創り出すものではない。かえって民間人の苦しみを増し、バルカン紛争を拡大しないという保証はない」と批判。
・リフキンド英外相は、米上院の武器禁輸解除決議に対し、「ボスニア住民の苦しみに対し、支援の手段を自ら引っ込め、戦闘を更に激化させるに任せることで応えるとは奇怪だ」と厳しく批判。更に同外相はイブニング・スタンダード紙への寄稿で、「このような政策が許されるなら、2万5000人の米地上兵を含むNATO軍の大規模な国連保護軍の撤収作戦が必要となり、あらゆる危険を伴う、より広範なバルカン戦争へとほぼ確実に発展する」と警告。
・明石国連特別代表は朝日新聞の電話インタビューに答え、NATO軍への空爆要請権限を移譲させられたことに対し、PKOの文民統制のあり方について懸念を示したものの、辞任は考えていないと述べる。インタビュー要旨;「1,明石外し・個人に焦点を当てる考え方は間違えている。国連平和維持軍・UNPFのシャンヴィエ司令官との間には、空爆に関する考え方の違いはない。2,PKOの文民統制・空爆の権限がジャンヴィエ司令官に移譲されたことは、国連のPKOに影響を与えるかも知れない。3,二重鍵方式・辛うじて維持されてはいるが、ガリ - 明石のシビリアンの線はなくなった。4,空爆実施・ボスニアのゴラジュデで一線を引いて守ろうということだ。セルビア人勢力もNATOの姿勢を勘案して行動すると思う。5,軍事情勢・ボスニア北西部のビハチの方が本格的な軍事行動にかなり近づいているといえる。クロアチアやセルビアを巻き込んだバルカン戦争の恐れがないとはいえない。6,UNPROFORの評価・ボスニア政府側とセルビア人勢力側との話し合いの仲介もしている。7,シュトルテンベルグ特使との関係・彼は特命であり私は総責任者である。厳密に言えばオーバーラップしているところもあるが、同じ仕事ではない。私と彼の関係は非常にうまくいっている。8,空爆拒否の有無・私というより、ジャンヴィエ司令官の方が反対した。ジャンヴィエ司令官からの勧告があれば、大体はオーケーしていた」と語る。
・国連高官は,明石特別代表について、「困難な状況の中で実に良くやっている。全面的に信頼している」と語り、更迭の可能性を否定する。
07/28:
・クロアチア共和国軍およびボスニア政府軍とクロアチア人勢力軍は、「‘95夏作戦」を継続し、ボスニア南西部の幹線道路の要衝ボサンスカ・グラホヴォを制圧し、次いでその東南に位置するグラモチュも制圧。この制圧により、ボスニアからクロアチア領内の「クライナ・セルビア人共和国」の拠点クニンに通じる輸送路を支配し、分断することになる。
・ザグレブの国連保護軍報道官によると、ボスニア南西部に展開するクロアチア共和国軍とクロアチア人勢力軍は、およそ1万人に及ぶという。ボサンスカ・グラホヴォおよびグラモチュからのセルビア人住民の難民は、2万人に及ぶ。
・エリツィン露大統領はクリントン米大統領との電話会談で、「ボスニア北西部のビハチ地域の戦闘にクロアチア共和国の部隊が関わるのを阻止する措置を取るように」と要請。
・ボスニアのセルビア人勢力は戒厳令と総動員令を布告し、カラジッチ・スルプスカ大統領は、「最終的勝利と戦争終結のため」と説明。
・旧ユーゴ国連保護軍のジャンヴィエ司令官とアナン国連事務次長がNATO本部を訪れ、ボスニアの空爆計画などを協議。ジャンヴィエ司令官は協議後の記者会見で、ビハチ地域への対応についてもNATO南欧軍司令部との間で協議に入っていることを明らかにし、「国連保護軍に安全地域を防衛するだけの権限と武力はない。ビハチでは市街中心に設定された『安全地域』と、各勢力が入り乱れて戦うビハチ地区全域を区別すべきだ。市街地はまだ攻撃を受けていない」、と現段階での空軍力行使に慎重な姿勢を示す。
07/29:
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ・スルプスカ大統領は、ボスニアのクロアチア人勢力がセルビア人勢力の軍事拠点バニャ・ルカの南方地域にも戦線を拡大したことに対し、クロアチア人勢力を支援するクロアチア共和国軍の軍事侵攻を止めるために、「あらゆる手段をとる」との声明を出す。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、明石国連特別代表と会談した後、セルビア人勢力と政治交渉をする用意があると表明。条件として、アドリア海側のスプリトからザグレブに通じる交通、通信物資輸送の確保を要求する。
07/30・:
クロアチアのセルビア人勢力は明石康国連特別代表との会談で、ボスニアのビハチを攻撃していた同勢力を、クロアチア領内の自派支配地域まで撤退させることで合意。合意内容は、「1,ボスニア政府軍が攻撃してこない限り、ビハチの政府軍支配地域に砲撃を加えない。2,ボスニア国境地帯に国連監視要員の派遣を受け入れる。3,国連の援助物資輸送部隊の通行を妨害しない」というもの。
07/31:
・クロアチアのセルビア人勢力は、明石康特別代表とビハチからの撤退について合意した後も全面撤退の動きは見せず。
・ポーティロ英国防相は、ワシントンを訪問してペリー米国防長官とボスニア問題について会談。会談後の記者会見で、米議会でボスニア武器禁輸単独解除法案を採決する動きに対し、「燃える家の窓を開けて、空気を送り込むようなもの」と批判。ポーティロ英国防相は、この後ゴア副大統領およびドール共和党上院院内総務とも会談。
08/01:
ベラヤチ・イラン外相はボスニアからの帰国後の記者会見で、「イスラム諸国がムスリム人勢力支援のため、武器などの支援をすることに対する障害は何もない」と述べる。
・明石国連特別代表はクロアチアのセルビア人勢力とクロアチア共和国が敵対している現状について、「全面戦争の危険が増している。このままではクロアチアでの戦争は避けられない」として、両者による政治交渉を求める声明を発表。
・旧ユーゴ和平国際会議は明石国連特別代表の声明を受け、クロアチア共和国とクロアチア・セルビア人勢力の両勢力に働きかける。シュトルテンベルグ・ビルト両共同議長は、8月3日にジュネーブで両勢力と会談することに合意したと発表。
・OSCE議長国のホルン・ハンガリー首相は、ボスニア内戦の政治的解決を話し合うために関係国による和平会議をブダペストで開催するよう呼びかける。
・米連邦下院は、ボスニアの武器禁輸を米国が単独でも解除することを決める法案を、賛成298,反対128で可決。クリントン大統領は拒否権を行使すると決めているが、議会はそれを覆すのに充分な賛成票を得ている。
・NATOは大使級理事会で、ボスニアの安全地域ビハチ、サラエヴォ、トゥズラ、ゴラジュデへのセルビア人勢力による攻撃に備えた空爆計画を承認。ただし、ビハチ全域における戦闘は各派が入り乱れていることもあり、空軍力行使は困難と見られている。
08/02:
・米連邦議会は、ボスニア政府への武器禁輸措置単独解除法案を可決した上下両院の法案を、クリントン大統領に送付。
08/03:
・旧ユーゴ和平国際会議シュトルテンベルグ・ビルト両共同議長は、クロアチア共和国と同国内のセルビア人勢力との対立解決の糸口を探すための会議を、両勢力の代表に呼びかけて招集。共同議長は、「1,最終的な政治解決を図る交渉を8月中旬に開く。2,ボスニア西部のビハチ地域に対する人道援助を妨げないこと」など7項目の和平案を提案。両共同議長は会議後に、「一定の前進はあった。会議前よりも戦争回避の可能性は高まった」と語る。
・オーストリア航空とスイス航空は、クロアチアのザグレブへの定期便運行を中止し、行き先をスロヴェニアのリュブリャナに変更。
・ボスニア政府のシライジッチ首相は、ゼニツァで開かれている議会に辞表を提出するとともに内閣に対する信任投票を要請。
・国連安保理は、クロアチア情勢について緊急の公式会合を開き、クロアチア共和国政府と同国内のセルビア人勢力に戦闘行為の停止と交渉の継続を求める議長声明を採択。
・クライナ・セルビア人共和国のバヴィチ新首相は、「ミニコンタクト・グループ」の「Z - 4和平案」の受諾をガルブレイス米大使に申し入れる。
08/04:
・クロアチア共和国軍は15万余の兵力を動員し、「オペレーション・ストーム・嵐作戦」を発動する。クロアチアのセルビア人住民居住地のクライナ地方に総攻撃をかけ、セルビア人勢力掃討を掲げた軍事行動を実行する。米軍事請負会社MPRIが背後で作戦の指導を行なう。
・クロアチア共和国軍のアギム・チェク将軍は、国連が指定した「安全地域」のクニン市に奇襲攻撃をかけ、逃げまどう難民の列に砲弾を浴びせる。
・NATO軍は、クロアチアのセルビア人勢力支配地域の対空ミサイル陣地に2発のミサイルを発射して爆撃し、クロアチア共和国の作戦を支援。
註:実際はミサイル基地ではなく、セルビア人勢力の通信施設を破壊することが目的の空爆。ミサイル攻撃したNATO軍の戦闘機は、空母ルーズベルトから飛び立った米軍のEA-6B電子戦闘機プラウラー2機。
・米国防総省スポークスマンは、NATO軍の空爆は戦闘要領にしたがって攻撃したものと発表。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「セルビア人との話し合いが失敗に終わった」と軍事行動を正当化。クロアチア共和国軍がセルビア人勢力のクライナ地方への「オペレーション・ストーム」を実行したのは、ボスニアのセルビア人勢力がNATO軍の空爆警告を受け、動きが取れない状態にあるのを見越した攻撃と見られる。クロアチア共和国のグラニッチ外相は、OSCE議長国を務めるハンガリーのコバチ外相と電話で会談し、「セルビア人に占領された地域の主権を回復するには、この機会をおいてないと判断した。クニンを含む南部地区と北部地区について数日間のうちに軍事的に制圧できる」との見通しを伝える。
・明石国連特別代表は、クロアチア共和国軍の銃撃で国連平和維持軍・UNPKFの要員1人が死亡、2人が負傷した、と語る。
・クロアチアに展開する国連信頼回復活動・UNCROの要員は1万人が配置されているが、シャンヴィエ司令官は安全確保が必要な場合、NATO軍の近接航空支援の要請も考慮していることを明らかにする。
・ビルト旧ユーゴ和平国際会議共同議長は、「クロアチア側の攻撃はセルビア人勢力が政治、経済面で実質的譲歩をする姿勢を示した直後に行なわれた。特に市民に対する攻撃は恐ろしいことだ」とクロアチア共和国を非難。
・ドイツのキンケル外相は、「シュトルテンベルグ旧ユーゴ和平国際会議共同議長によれば、クロアチア政府が軍事的手段に訴えたのは残念と述べている」と遺憾の意を表明。
・英国政府は、「クロアチア政府軍のクライナ地方への攻撃を強く非難する」との声明を発表。
・フランス政府は、「特にクロアチア政府が、和平合意達成のために全ての努力をしていないことを極めて遺憾に思う」とクロアチア政府の姿勢を非難し、即時停戦を呼びかける。
・ロシア外務省は、「ザグレブは、政治解決よりも武力解決を望んでいる」と非難。
・米ホワイトハウスのマカリー報道官は、クリントン米大統領が「憂慮している」と語り、米政府が問題を政治的に解決するよう両者の話し合いを呼びかけていると語る。
・ペリー米国防長官はロイターに対し、セルビア人勢力の動きに対するクロアチア政府側の不満に理解を示し、戦火拡大を自衛と評価する。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ・スルプスカ大統領は、ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ総司令官を解任して顧問とし、カラジッチ自身が最高司令官の地位を兼任するという人事を発表。
08/05:
・クロアチア共和国軍は、国連クロアチア信頼回復活動・UNCROの監視所12ヵ所を占拠、3ヵ所を包囲し、砲撃により国連要員3人を死亡させる。さらに、クロアチア共和国軍は国連・UNCROのクニン本部を戦車や装甲車で取り囲み、監視員に禁足令を出す。クロアチア共和国軍は、セルビア人勢力のクライナ・セルビア人共和国の拠点首都クニンを征圧。
・国連クロアチア信頼回復活動・UNCROの現地司令官は、クニンの陥落を確認。
・クロアチア共和国軍はクニン攻略後、東スラヴォニア地方への攻撃を始める。さらに、ボスニアのビハチ地域への展開の動きを見せる。
・クロアチア共和国軍がボスニア国境を越えてボスニア政府軍との共同戦線を形成し、セルビア人勢力に対する封じ込め態勢を強める。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ大統領は、新ユーゴ連邦指導部がセルビア人同胞を軍事的に支援しないことを非難し、セルビア国民にボスニアとクロアチアの同胞支援に立ち上がるよう呼びかける。
・セルビアのベオグラードの広場で「同胞を救え」との市民集会が開かれたが、参加者は2000人。
・ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ総司令官は、カラジッチの軍司令官解任命令は違法だと拒否する。
08/06:
・クロアチア共和国軍はクニン制圧に続いて、ザグレブ南東のペトリニャをはじめ、ベンコヴァツ、ウドビナ飛行場など次々とクライナ・セルビア人共和国の拠点を制圧し、クライナ地方の全土奪取へ向けて包囲網を強化する。
・クロアチア共和国政府の国防省報道官は、「作戦は最終局面に入っているが、東スラヴォニアへの武力進攻は行なわれないだろう」 と述べる。
・国連難民高等弁務官事務所は、ボスニアのバニャ・ルカなどセルビア人支配地域へ避難する住民は12万人に達し、なお9万人が避難を希望していると把握。
・ボスニア政府のムラトヴィチ国連担当相は、クロアチア共和国政府がクライナ地方を完全制圧すれば、20万人のセルビア人の避難民がボスニア側に流入し、そのうち6万人程度がセルビア人勢力の戦闘要員となる、との見通しを示す。
・国連保護軍報道官は、クロアチア共和国軍が侵攻作戦の際、国連クロアチア信頼回復活動・UNCROのデンマーク部隊を「人間の盾」に使ったとして、同部隊がクロアチア共和国軍に抗議したことを明らかにする。クロアチア共和国軍は4日に総攻撃を開始した際、デンマーク部隊の7人をセルビア人勢力の捕虜6人とともに、侵攻部隊の先頭を歩かせ、デンマーク部隊の抗議により解放。同様の行動は5日にも行なわれた。
・クラニッチ・クロアチア外相は、ジュネーブでシュトルテンベルグ・ビルト旧ユーゴ和平国際会議両共同議長と協議し、クロアチア内のセルビア人勢力に対する軍事攻勢を7日中に完了するとの見通しを述べる。
・クリストファー米国務長官はABCテレビの番組でクロアチア共和国軍のセルビア人への総攻撃について、「悲劇だが、交渉による解決に新たな基礎を与える可能性がある。われわれはそのために努力する」と述べ、クロアチア共和国の軍事攻勢を「望んでもいなかったし、要請もしなかった。しかし、われわれの利益になりうる新しい戦略的状況をもたらすかも知れない」と語る。
・新ユーゴ連邦のタンユグ通信は、「クロアチア東部東スラヴォニアのセルビア人勢力は、クロアチア共和国軍による侵略の危険が迫っている」と同地域を臨戦態勢下に置いたことを報じる。
・新ユーゴ連邦は、クロアチア国境とボスニア国境地帯に兵力を増強し、予備役の選別的招集を行なう。
・国連クロアチア信頼回復活動・UNCROの仲介で、クロアチア共和国とクロアチアのセルビア人勢力との間に、セルビア人勢力の武装解除とボスニアへの安全通行の保証に関する協定が結ばれる。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ指導者がムラディッチ最高司令官を更迭したことに対し、各司令官クラスの将校18人がバニャ・ルカに集まり、軍司令部のいかなる制度、組織、人員の変更にも反対するとの「ムラディッチ支持」の声明を発表。
・ボスニアのセルビア人共和国議会は、カラジッチ大統領がムラディッチ総司令官を解任し、自身が総司令官を兼任することを支持する決議を採択。
08/07:
英タイムズ紙は、クロアチアのトゥジマン大統領自身がボスニアを「クロアチアとセルビアに2分割」したスケッチを入手した、と報じる。スケッチはロンドンで開かれた戦勝記念式典に招かれた同大統領がメニューの裏側に万年筆で書いた、というもの。
・国連保護軍報道官は、ボスニアのセルビア人勢力がクロアチアのセルビア人勢力を支援するために、クロアチア中央部の5ヵ所を空爆したと発表。ザグレブ東の高速道路沿いの町などを空爆し、死者2人、負傷9人を出す。クロアチア国防相の発表によると、ザグレブ南東のクチナの石油化学施設を空爆。さらに、ザグレブ南西の政府軍拠点カルロヴァツにロケット弾を撃ち込み、5人負傷。
・クロアチア共和国軍は、セルビア人勢力軍が重火器などを温存しながら避難しているとして、安全避難協定を無効とすると国連に通告し、攻撃を始める。
・クロアチアのセルビア人難民十数万人が、ボスニアを経て新ユ-ゴスラヴィアに到着。ボスニアのバニャ・ルカなどを通って新ユーゴスラヴィアを目指す車やトラクターなどの列は数十キロに及ぶ。
・エリツィン露大統領は記者団に、クロアチアのトゥジマン大統領と新ユーゴ連邦のミロシェヴィチ大統領をモスクワに招いて3者会談を開き、停戦合意を取り付けたい、との意向を示す。
・明石国連特別代表は、クロアチア共和国軍が攻略したクニン市を視察。クロアチア共和国軍が国連信頼回復活動・UNCROの本部を取り囲んで出していた、禁足令を撤回させる。
・国連安保理は非公式協議を行ない、ロシアがクロアチア共和国軍の即時撤退と、制裁措置を含む対クロアチア非難決議の採択要請を協議。他の理事国は、「撤退」と「制裁」の字句を盛り込むことに難色を示す。
・クリントン米大統領は、クロアチア共和国軍によるクライナ地方攻撃などについてペリー国防長官らと緊急協議するとともに、欧州諸国の首脳と電話で会談。
・マカリー米大統領報道官は、クロアチアの攻勢をきっかけに米政府内では、「外交力強化のための方法を探り、ボスニア紛争をこれ以上の軍事行動なしに解決すべきだ、との点で一致した」と述べる。
・ジョンソン米国務省報道官は、米軍事コンサルタント会社・MPRIが政府の許可を受け、クロアチア共和国軍の軍事顧問として軍の指揮系統の改善などを指導していたことを認める。
・軍事コンサルタント会社「ミリタリー・プロフェッショナル・リソーシズ・インク・MPRI」は、クロアチア共和国軍がセルビア人支配地域クライナに仕掛けた総攻撃の戦術指導は、一切行なっていないと語る。
・クロアチア共和国政府のシュシャク国防相は、クライナ地方のセルビア人勢力支配地域を午後6時に完全に征圧した、と侵攻作戦の終了を宣言する。この作戦で、クロアチア共和国軍は、118人が死亡し、620人が負傷したと発表。
・ポーティリョー英国防相は、クロアチア共和国軍のセルビア人勢力への攻撃について、BBCに「人々が何世代にもわたって住んでいた町を追われるのは民族浄化に等しい」と述べ、クロアチア共和国の軍事行動を強く非難。
・新ユーゴ連邦は国連安保理に対し、クロアチア政府に軍隊の完全撤退を求め、経済制裁を実施するよう要求する書簡を送付。
・ボスニア政府軍はクロアチアのクライナ地方に越境攻撃し、セルビア人勢力の村を焼き討ちにする。さらに、ボスニア政府軍は反政府ムスリム人勢力の「西ボスニア共和国」の拠点ヴェリカ・クラドゥシャを陥落させる。
・朝日新聞の記者が、クロアチア共和国軍が陥落させたクライナ・セルビア人共和国の首都「クニン」に入り、その破壊の凄まじさを伝える。クロアチア共和国軍の「嵐作戦」は、4日未明に始まり、セルビア人勢力は本格的な反撃もできないまま陥落した。
08/08:
・ロンドンの軍事専門家は、クロアチア・セルビア人勢力の支配地域クライナに対するクロアチア共和国軍の侵攻作戦では、米国の退役軍人がクロアチア共和国軍兵士に秘密訓練を施し、旧ソ連製の密輸兵器が使われた、と述べる。
・キンケル独外相はクロアチア共和国軍のクライナ征圧電撃作戦が成功したことについて、「地域の平和のドアを開くことになるかも知れない」と閣議で評価する。
・赤十字国際委員会担当者は、クライナ地方からのセルビア人の難民・避難民は7日までに11万人に上ると発表。さらに4~5万人が越境を希望して国境地帯にいるので、難民全体は15~20万人に達するとの見通しを示す。
・クロアチアのボスニア国境に近いドボル付近でボスニアに避難するセルビア人住民の列に、ミグ戦闘機2機が4個の爆弾を投下。
国連保護軍の監視員によると、ミグ戦闘機はクロアチアのザグレブ空港から飛び立った戦闘機の可能性が高い、という。
08/09:
・クロアチアのトゥジマン大統領は、エリツィン露大統領が提案したミロシェヴィチ・セルビア大統領とのモスクワでの3者会談を断る。
・クリントン米大統領は、クロアチア共和国軍がクライナ地方を征圧したことを受け、レーク大統領補佐官らを英国、フランス、ドイツに派遣し、ボスニア紛争の和平交渉再開のための方策を探る方針を出す。
08/10:
・国連安保理は、クロアチア共和国政府に対し、クライナ・セイルビア人共和国への軍事行動の停止を求める決議1009を採択。また、ボスニア政府に対し、人道援助機関の立ち入りを求める決議1010を採択。
・エリツィン露大統領はミロシェヴィチ・セルビア大統領とクレムリンで会談し、「セルビア、クロアチア、ボスニアの首脳会談を仲介し、これを旧ユーゴスラヴィア問題に関する関係国サミットへと発展させたい」との声明を発表。さらに、「クロアチア内戦を東スラヴォニアやボスニアに拡大させてはならない」、また「難民の帰還と保護、国連保護軍の安全の保障、旧ユーゴスラヴィア全土でのあらゆる敵対行為の停止、『連絡調整グループ』がまとめたボスニア和平案の実現措置」を声明の内容とし、エリツィン露大統領は新ユーゴ連邦への経済制裁の撤廃が遅れるなら、ロシアが一方的に制裁解除に踏み切ることもある、との考えを示す。
・クロアチア共和国政府のグラニッチ外相はクロアチア共和国軍のクライナ征圧について、「セルビア人勢力の支配地域が大幅に減って、状況は一変し、新たな和平への動きを作りだした。米国政府高官が、英国、フランス、ドイツを訪問することに関心を持っている」と述べる。
・ワイツゼッカー・ドイツ大統領は、クロアチア共和国軍のセルビア人勢力支配地域征圧について、「道徳的観点および利害の点からも、これ以上、難民の数が増えるのは好ましくない」と語る。
・明石国連特別代表は、クロアチア共和国軍のクライナ地方制圧により、国連クロアチア信頼回復活動・UNCROの活動を見直し、1万3400人の規模を縮小する方針を発表。旧ユーゴスラヴィア全体の国連保護軍は4万5000人、クロアチアのクライナ地方には8200人が配備されている。
・オルブライト米国連大使は、国連安保理で衛星写真を示し、スレブレニツァ陥落後にムスリム人2000人から2700人がセルビア人勢力に射殺された可能性があると主張。
08/11:
・赤十字国際委員会・ICRCのシモネッタ・ソマルガ委員長は、ボスニア東部でセルビア人勢力がムスリム人住民を大量虐殺したとの、米国の主張を裏付ける証拠はない、との見解を示す。
・クリントン米大統領は、ボスニア政府への武器禁輸解除法案への拒否権を行使する。
・ロシア政府は、クロアチアのクライナ征圧に伴う難民支援のために、大規模な人道援助物資を送ることを決定。ロシア当局者は、「難民向けの医療品や食糧、日用品に限定しており、制裁破りではない」と語る。
・米仏両国の外交担当者は、ユーゴスラヴィア問題の和平対応策を協議。フランスは、「米国の外交努力にフランスは勇気づけられた」と述べ、「連絡調整グループ」の早期招集で一致。
・アルバニア政府は、クライナ地方からのセルビア人住民の一部がコソヴォ自治州に避難する動きが出ていることについて、住民の民族間紛争の可能性を増す、との懸念を表明。
08/12:
・ボスニアのムスリム人勢力軍は、ボスニア中部ブゴイノからセルビア人勢力支配地ドニャバクフに向けた大規模な攻撃を開始し、激しい戦闘が展開される。
・ドイツのリューエ国防相は、ユーゴスラヴィア紛争解決のために5・「米、英、露、仏、独」、プラス3・「新ユーゴ連邦、クロアチア、ボスニア政府」の8ヵ国首脳で構成される会議の準備を進めていることを明らかにする。
・ロシア下院は、新ユーゴ連邦に対する経済制裁をロシアが撤廃する決議を採択する。下院は、クロアチア共和国軍のセルビア人住民に対する「公然たる虐殺行為」に抗議し、クロアチアに経済制裁を導入するとの決議も採択。
・新ユーゴ連邦当局は、クロアチアのクライナ地方からのセルビア人難民のうち、男性の入国を拒否すると発表。男性の難民は、東スラヴォニア地方やボスニアのセルビア人勢力支配地域へ行くように促す。
08/13:
・コーズィレフ露外相はレーク米大統領補佐官と会談し、「新ユーゴ連邦、クロアチア、ボスニアに米・欧・露の主要国を加えた」首脳会談の開催を提案。
08/15:
・ボスニアのセルビア人勢力支配地域のバニャ・ルカで、ムスリム人とクロアチア人をクロアチア共和国へ追い出すいわゆる“民族浄化作戦”が始まる。
・UNHCRによると、バスでクロアチア側へ送られているという。
・ホルブルック米国務次官補は、旧ユーゴスラヴィア紛争調停のための新提案を携えてクロアチアに入る。米提案;「1,ボスニア、クロアチア、新ユーゴ連邦の相互承認の実現。連絡調整グループの和平案を交渉の基礎とする。ボスニアの分割比は、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力の連合が51%、セルビア人勢力が49%。3,ボスニアのセルビア人勢力とムスリム人勢力の領土交換およびサラエヴォの国連統治の可能性。4,紛争当事者と他国との国家連合形成などの取り決めの可能性。5,和平発効後の対新ユーゴ連邦経済制裁の解除。6,クロアチアの東スラヴォニア地方の地位に関する交渉。7,和平実現後のボスニア復興に関する確約」など。ボスニア政府はこの米政府提案を拒否。ボスニアのフィリポヴィチ駐英大使は、「セルビア人に時間稼ぎをさせるだけ。新提案にチャンスはない」と否定的発言をする。
・新ユーゴ連邦ではヨバノヴィチ外相が更迭され、後任に駐ギリシャ大使のミルティノヴィチ大使を任命。
08/16:
・クロアチアのトゥジマン大統領はスペインのソラナ外相との会談で、セルビア人支配下にある東スラヴォニアが「平和的手段によってクロアチアの主権の下に還ってくることを望む」と述べる。
・国連クロアチア信頼回復活動・UNCROの国連軍は、規模縮小の決定に伴い第一陣がクロアチアからの撤収を始める。
・フランス大統領府は、シラク大統領が8月末にイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領をパリに招き、和平問題を協議する予定と発表。
08/18:
・クロアチアのザグレブに置かれた国連保護軍本部のスポークスマンは、ボスニアの国連指定安全地区のゴラジュデに駐留する国連保護軍をほとんど撤収させることを明らかにする。
・米政府は、旧ユーゴスラヴィア紛争に関する新和平案を提示。提案は、「1,連絡調整グループ5ヵ国の和平案を交渉の基礎とする。2,ボスニア、クロアチア、新ユーゴ連邦の相互承認を実現する。3,ボスニアのセルビア人勢力とムスリム人勢力の領土交換およびサラエボの国連統治の可能性。4,紛争当事者と他国との国家連合形成などの取り決めの可能性。5,和平案発効後の対新ユーゴ連邦経済制裁の解除。6,クロアチアの東スラヴォニア地方の地位に関する交渉。7,和平実現後のボスニア復興に関する確約」の7項目よりなる。
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領は米国の新提案に対し、12項目の対抗提案をする。 「1,単一国家としてのボスニアの主権を認める。2,領土的統一性を堅持する。3,戦争犯罪者を処罰する。4,サラエヴォの中立化構想には反対する」などを盛り込んだもの。
・クロアチアのトゥジマン大統領は米ホルブルック国務次官補との会談後、米提案を 「これまでになく重要な提案だ」と評価。
・新ユーゴ連邦は、米新提案を概ね前向きに捉える。
08/19:
・ユーゴスラヴィア紛争の調停工作に当たっていた米政府高官ロバート・フレイジャーが乗った装甲車が、ボスニアのサラエヴォ近郊で国連の輸送トラックとすれ違おうとして谷に転落し、積荷の弾薬が爆発炎上し、4人が死亡。
・国連安保理は、ボスニアの安全地域防衛のために6月に設立が決まった「緊急対応部隊・RRF」の配備が、ボスニア政府とクロアチア政府の妨害で2ヵ月半経っても本格的な展開ができないことに対し、両政府を非難する議長声明を採択。
08/20:
・国連緊急対応部隊の英軍ヘリが、アドリア海で墜落する。
・「人権のための国際ヘルシンキ連盟」はクロアチアのザグレブで記者会見し、クロアチア共和国軍がクライナ地方を征圧した際、共和国軍が組織的に8割の建物に放火し、略奪を行なったと指摘。
08/22:
・欧州委員会のボニーノ委員は訪問先のベオグラードで記者会見し、クロアチア共和国軍が武力征圧したクライナ地方のセルビア人住民1万人が「行方不明」になっていると語る。
08/23:
・米ホワイトハウスは、ボスニアで事故死した和平仲介使節団の3人に代わり、弁護士のロバート・オーエンら4人を任命。
08/25:
・ガリ国連事務総長は国連安保理に、「1,クロアチアに展開している平和維持活動・PKO部隊、国連クロアチア信頼回復活動・UNCROの規模を11月半ばまでに1万3000人から2500人に削減する。2,クロアチアの東スラヴォニアには2大隊を残す」との報告書を提出。
・ボスニア政府軍が国連保護軍を攻撃する。
・サラエヴォの国連保護軍報道官は、ボスニア東部ゴラジュデに駐留していたウクライナ部隊80人が域外へ退去したと発表。
・クロアチア共和国軍と東スラヴォニアのセルビア人勢力は、停戦協定に調印。翌26日に発効。
08/28:
・米ホルブルック国務次官補は、ボスニア紛争の和平交渉でドシャレット仏外相やイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会
談。
・ボスニアのサラエヴォ市中心部のムスリム人居住区にあるマルカレ市場が砲撃され、病院関係者などによると、38人が死亡し、85人以上が負傷。
・ボスニア政府はセルビア人勢力による砲撃と非難したが、セルビア人勢力は否定。
・ボスニアのシライジッチ首相はマルカレ青空市場の砲撃を見て、米国の主導でこの日からパリで行なわれる和平調停工作の会談を中止するよう求める。
08/29:
・ボスニアのセルビア人勢力の議会は、クロアチア政府と東スラヴォニアのセルビア人勢力との停戦協定について、「危機を解決するための多くの要素を含んでいる」と肯定的に評価して歓迎する声明を出す。
・サラエボの国連保護軍はサラエボ中心部の青空市場への砲撃について、セルビア人勢力側を非難する声明を発表。
註;国連保護軍幹部のアンドレイ・デムレンコ大佐(ロシア)が、先月28日の青空市場砲撃はセルビア人勢力によるものとした国連保護軍の断定は、「でっち上げに基づくもの」 と、独自の弾道計算や地形調査を行ない、「1,数キロ離れたセルビア人勢力陣地から幅10メートルの道路の人込みを狙うのは至難である。2,一発の迫撃弾による死傷者数としては多すぎる」という指摘が複数の西側駐在武官の間からも出されている。可能性としては、「1,空爆を招くためのボスニア政府の自作自演。2,空爆推進派の欧米の国の工作。3,和平工作に反対するセルビア人勢力反主流派の妨害行動」が考えられると、「セルビア人勢力砲撃説」に疑問を呈す。
・米国防総省は、米空母セオドア・ルーズベルトがギリシャ沖の地中海から、ボスニア沖のアドリア海へ向かう。
08/30:
・NATO軍は「オペレーション・デリバリット・フォース・周到な力軍事作戦」を発動し、イタリア国内の空軍基地と空母から発進した230機で、サラエヴォのセルビア人勢力支配地域に波状空爆を実行する。さらに、セルビア人勢力の支配地域ゴラジュデ、トゥズラや同勢力の拠点パレ付近も空爆を行ない、また地上の国連緊急対応部隊・RRFも加わって攻撃。空爆は深夜まで続けられ、セルビア人勢力の戦闘能力に大きな打撃を与える。NATO軍の空爆は国連との協議の上で行なわれ、「第1段階は地上の国連保護軍に対する近接航空支援。第2段階は防空施設や指揮・通信施設などへの限定的空爆。第3段階は橋や道路などの民間施設を対象とした大規模空爆」を計画。今回の空爆は、第2段階の限定的攻撃に当たる。
・NATO軍と国連軍の攻撃は、明石国連特別代表を指揮系統から外し、NATO南欧連合軍のライトン・スミス司令官(米)と国連軍のジャンヴィエ司令官(仏)の両制服組トップの間での決断で実行。
・NATO軍の仏軍戦闘機1機が撃墜される。
・クラースNATO事務総長は、「新たな攻撃を準備中だ。空爆の範囲や期間はセルビア人勢力の出方にかかる」と語る。
・ガリ国連事務総長は、NATOの空爆を支持する声明を発表。明石国連特別代表は、「セルビア人勢力側がかなり思い切った譲歩をしない限り、今回の危機を回避するのは難しいだろう」と語る。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は、NATO軍によるセルビア人勢力への空爆に関し、「これで和平への道が開けてきた」と歓迎する。
・ホワイト米国防副長官は記者会見で、NATO軍のサラエヴォ近郊のセルビア人勢力への空爆について、武器弾薬、通信施設、重火器などを目標にし、「多数の目標の攻撃に成功した。これまで確認しただけでも相当な数の目標に損害を与え、重大な損害になったものも少なくない」と語る。
・米上院ボブ・ドール共和党院内総務はセルビア人勢力への空爆について、「強力に支持する」と述べ、対ボスニア武器禁輸措置単独解除法案の上院での採決を当面見合わせると表明。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表はNATO軍の空爆に対し、「われわれは自らを守るためにあらゆる手段を講じる。最後は勝つ」との声明を出し、空爆に屈しない姿勢を強調。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国のビツォ情報相は、ボスニアのセルビア人勢力と新ユーゴ連邦が、ボスニア紛争の和平調停に合同交渉団を組んで望む協定を29日に結んだと発表。
・ホルブルック米国務次官補は、ベオグラードでミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。米調停工作チームの一部がザグレブで、トゥジマン・クロアチア大統領、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と意見調整を行なう。
・セルビア人勢力のムラディッチ司令官はテレビ放送で、NATO軍による大規模空爆を受け、国連が要求した「サラエボからの重火器撤去を拒否する」方針を表明。
08/31:
・NATO軍は、ボスニアのセルビア人勢力の支配地域に対し、2日連続で大規模な空爆作戦「周到な力」を実施。スミスNATO南欧軍司令官は、「延べ300回の出撃で、ボスニア東部にあるセルビア人勢力軍の軍事拠点23ヵ所の90目標を攻撃、大半を破壊した」と発表。NATO軍の空爆は、学校や民家をも破壊。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はザグレブに飛び、トゥジマン・クロアチア大統領やイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は明石康国連特別代表に、「NATOの空爆や緊急対応部隊の砲撃は不必要なもので、これが続けばNATO諸国は和平調停を中断しようとしていると見なす」と書簡で伝える。
・米ホルブルック国務次官補は、「交渉は進行中だ」と和平案をめぐり具体的な検討に入っていることを示唆。
08/00:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのルイーズ・アーバー首席検事は、クロアチア共和国のチェク将軍の戦争犯罪についてカナダ軍の集めた証拠を退けて、チェク将軍の犯罪立証を放棄する。
註;アギム・チェク将軍は、クロアチア共和国が8月4日に発動した「嵐作戦」において、指揮官としてクライナ・セルビア人共和国のセルビア人住民の殺害、追放で武功をあげた。のちのコソヴォ自治州の独立闘争では、コソヴォ解放軍・KLAの指揮官を務め、その後にコソヴォ共和国の首相となった人物。
・世界銀行と米石油メジャー・アモコなどの多国籍企業は、ボスニアのディナリデス地域の油田および炭鉱を探査したが「石油埋蔵地の探査結果を、戦争に参加した政府に通報することはできない」と主張。クロアチアのサバ川周辺は油田があると見られているが、米軍が管轄地域に組み込む。
09/01:
・NATO軍は3日連続でボスニアのセルビア人勢力の支配地域に対して大規模な空爆を行ない、地上部隊の緊急対応部隊1万数千人は延べ600発の砲撃を行なう。
・NATO当局者は、セルビア人勢力のサラエヴォ包囲が完全に解除されるまで空爆作戦が続行されると述べる。この攻撃は安保理決議836の内容を超えている。
・ドイツ国防省は、ボスニアでの英仏主体の緊急対応部隊援護のために、ドイツ空軍のトルネード戦闘爆撃機が初めて任務に就いた、と発表。独のトルネード戦闘爆撃機は、イタリアのピアチェンツァ基地から発進。
・米ホルブルック国務次官補はベオグラードで記者会見し、新ユーゴ連邦政府、クロアチア共和国政府、ボスニア共和国政府の3者の外相級と「連絡調整グループ」との会議を来週後半にもジュネーブで開くことで、関係当事国と合意したと発表。
・国連保護軍のジャンヴィエ司令官は、ボスニア東部のセルビア人支配地域のズボルニクでムラディッチ司令官と会談。NATO軍の空爆の完全中止の条件として、同勢力が包囲しているサラエヴォ周辺の重火器撤去などを求める折衝を続けたが、最終結論には至らず。
09/02:
・ドイツのコール首相は、ボスニア問題について協議するためにモスクワを訪れ、エリツィン露大統領と会談。
・NATO軍は、ボスニアのセルビア人勢力への空爆を、同勢力が武器撤去の姿勢を見せたために一時中断。
09/03:
・NATO軍は、セルビア人勢力がサラエヴォ周辺から重火器を撤去しない場合は、空爆を再開する方針を決める。
・ボスニア政府のサチルベイ外相は、「NATO軍の空爆の中断が長引くなら、ジュネーブ外相会議への出席を再考する」 と表明。
・コール独首相とエリツィン露大統領との会談は、「武力による解決を避ける」との原則で一致し、エリツィン露大統領が提唱した10月にモスクワで連絡調整グループと3ヵ国による国際和平会議の計画について支持を表明。
・米議会の共和党有力議員は、空爆を中断したままならば、対ボスニア武器禁輸単独解除法案を採決すべきだとの発言が相次いでいる、と語る。
・米ホルブルック国務次官補はボスニアの各勢力の支配地域分割について、ボスニア政府とクロアチア人勢力で構成する「ボスニア連邦」に51%、セルビア人勢力の「スルプスカ共和国」に49%を分割する調停案に対し、各勢力が出す分割地図は「実態としては、自分の有利なように6割対4割の内容だ」と語る。
09/04:
・ボスニアのセルビア人勢力は、「1,サラエヴォ周辺からの重火器撤去はムスリム人勢力を含むすべての紛争当事者による撤去とその検証が必要。2,ボスニアでの敵対行為の停止」などを要求する立場を表明。
・NATO軍は、4日になってもサラエヴォのセルビア人勢力の重火器の充分な撤去の動きが見られないとし、空爆再開の検討に入る。
09/05:
・クロアチアのコストヴィチ副首相が、クライナ地方征圧作戦による犠牲者数を発表。それによるとクロアチア国外に避難したセルビア人12万人、民間人の犠牲者はクロアチア人43人とセルビア人116人、戦闘員の犠牲者はクロアチア共和国軍が211人、セルビア人勢力側が402人。
・NATO軍は、セルビア人勢力が4日の通告期限を過ぎてもサラエヴォから重火器撤去を完了しないとして空爆を再開し、首都サラエボ周辺に残る戦車などを爆撃。
・ボスニアのセルビア人勢力はNATO軍の空爆に対抗し、サラエヴォ市内の国連保護軍に砲撃を加える。国連緊急対応部隊が155ミリ砲で応戦。
・ロシア外務省は、「空爆はセルビア人勢力への懲罰以外の何ものでもなく、根拠が薄弱だ。NATO軍の軍事行動を断固として批判し、その停止と政治的な解決の強化を求める」との声明を発表。
09/06:
・NATO軍は、悪天候で中断していたボスニアのセルビア人勢力支配地域への空爆を再開。
・明石国連特別代表は、セルビア人勢力がサラエヴォから実質的な重火器の撤去をしなければならない、と語る。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ大統領は、「NATOの空爆停止を求めるとともに、これ以上停止の条件である重火器の撤去には応じられない」と語る。
・ボスニアのセルビア人勢力は、「NATO軍の空爆により非戦闘員が100人が死亡し、数百人が負傷した。NATOには良心のかけらもない」との声明を発表。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニアのクロアチア人勢力部隊の幹部イビツァ・ライッチを、「ムスリム人16人を虐殺し、人道に反する罪を犯した」として起訴。セルビア人以外では初めての起訴。
・朝日新聞によると、空爆の理由とされたサラエヴォの「マルカレ市場時砲撃事件」は、でっち上げの可能性があると報じられているという。国連保護軍のアンドレイ・デムレンコ大佐は独自に弾道計算や地形調査を行ない、「セルビア人勢力説」に疑問を呈した。国連保護軍報道官は、デムレンコ大佐以外にも国連公式報告を批判する複数の報告があることを明らかにしている。西側駐在武官の中からも、「1,数キロ離れたセルビア人勢力の陣地から、市場の人込みを狙うのは至難である。2,1発の迫撃砲弾による死傷者数が多すぎる」というもの。市場爆撃の犯人の可能性は、「1,空爆を招くためにムスリム人勢力軍が自作自演をした。2,空爆推進派の欧米の国が工作した。3,和平調停工作に反対するセルビア人勢力の反主流派が妨害行動として行なった」という見方が上げられている。
09/07:
・エリツィン露大統領は、「NATO軍がボスニアのセルビア人勢力に対する空爆をこれ以上続けるなら、NATOとの協力関係を再考せざるを得ない」との声明を出す。エリツィン露大統領はこの日スペインのゴンザレス首相との会談でも、欧州の対応を「二重基準」と批判し、「ロシア抜きの欧州安全保障体制は、欧州を再び戦場に変える。これは許されない」と語る。
・NATO軍は、サラエヴォ周辺からの重火器撤去を拒否するセルビア人勢力に対し、拠点のパレを主目標にした空爆を実施する。
09/08:
・ボスニア紛争解決のための「連絡調整グループ」とボスニア政府、クロアチア政府、新ユーゴ連邦政府の外相会議がジュネーブの米代表部で行なわれ、声明を発表。声明;「1,ボスニアが国際的に承認された現在の国境を持つ国として存続する。2,ボスニア・ヘルツェゴヴィナはボスニア連邦とセルビア人共和国の2つで構成され、その領土をそれぞれ51%と49%の割合で分割する。3,領土の分割は両者の合意で調整できる。4,ボスニア連邦とセルビア人共和国は和平基本原則を盛り込んだ現行憲法の下で存続する。5,両者は隣接する国とそれぞれ特別な関係を樹立する権利がある」などの和平の基本原則の合意事項。
・新ユーゴ連邦とボスニアのセルビア人勢力の合同交渉団は、和平交渉の基本合意を高く評価。
・ボスニア政府は、「いかなる領土交換も考慮しない」と分割地図作りの妥協を拒否する姿勢を示す。
・クリストファー米国務長官はボスニア紛争をめぐる3ヵ国合意について、「戦争の道から平和の道に転じる重要な一歩」と歓迎し、「世界が抜き差しならない問題に直面するとき、米国の指導は欠かせない」と強調。
・クロアチアの東スラヴォニアで対峙していたクロアチア共和国軍とセルビア人勢力軍の幹部が話し合い、軍事境界線付近からの重火器の撤去などで合意し、一部撤退の動きを示す。クロアチアのグラニッチ外相は、「兵力引き離しにもかかわらず、軍事オプションを放棄したわけではない」ことを強調。
・中国は、新ユーゴ連邦と貿易協定に調印する。
09/10:
・NATO南欧軍司令部は、ボスニアのセルビア人勢力攻撃に13発の巡航ミサイルによる爆撃を行なったことを認める。
・国連指定の安全地域サラエヴォやトゥズラ周辺のセルビア人居住地域では、NATOの空爆や国連の緊急対応部隊の攻撃に呼応するかのように、ボスニア政府軍が砲撃を開始する。
・NATOスポークスマンは、セルビア人勢力がサラエヴォから重火器を撤去しないため、NATO軍が巡航ミサイル・トマホークや空軍機によりセルビア人勢力陣地を空爆したと発表。8月30日以来、NATO軍機の出撃回数は、2500回以上に達している。
・サラエボのセルビア人勢力地域にある病院が国連の緊急対応部隊の砲撃を受け、10人が死亡し、12人が負傷したことに対し、医師や患者が激しく国連緊急対応部隊・RRFを非難する。
09/11:
・NATO南欧軍司令部当局者は、ボスニアのセルビア人勢力の防空システムが破壊しきれないので攻撃を継続していると発表。
・ロシアは国連安保理事国に、ボスニアのセルビア人勢力に対しNATO軍が行なっている空爆を直ちに中止する決議案を提出。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は、米軍がトマホークを使用したことについて「野蛮極まる行為で、和平交渉への参加を再考しなければならないかも知れない」と警告。
09/12:
・NATO南欧軍司令部は、ボスニアのセルビア人勢力への攻撃目標を拡大したことを明らかにする。
・イタリア政府は、米国がステルス戦闘機F117をボスニアのセルビア人勢力攻撃に使用するために、基地の提供を求めたことに対し、拒否の姿勢を示す。
09/13:
・ボスニア政府軍はクロアチア共和国軍の支援を受け、ボスニアのセルビア人勢力の軍事拠点バニャ・ルカの南にある要衝ヤイツェを制圧。さらに、ヤイツェ南方のドニバクフや西方のシポボ周辺にも進攻。セルビア人住民5万人が脱出して避難を始める。
・チェルノムイルジン露首相はNATO軍の空爆について、「欧州の再分断の危険性は明白だ」と深刻な懸念を示し、NATOが中・東欧に拡大すれば具体的な対抗措置を取ると警告。
09/14:
・クラースNATO事務総長は、ボスニアのセルビア人勢力への攻撃を一時停止すると決める。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領と米ホルブルック国務次官補との会談で、ミロシェヴィチ・セルビア大統領はNATO軍が空爆を停止すれば、セルビア人勢力もサラエヴォからの重火器の撤去に応じるだろうと伝える。
・イスラム諸国会議機構・OICは外相・国防相会議をクアラルンプールで開き、ボスニア政府に武器を供与することで合意。
・マレーシアのアブドラ外相は、「われわれは援助・動員グループを作ることで合意し、ボスニアへの武器供与やさまざまな援助をしていく」と語る。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ・スルプスカ大統領およびムラディッチ軍司令官と、国連およびNATO軍との間で、サラエボ市中心部から20キロの「重火器排除地域」から重火器を撤去することに合意する文書に調印。NATO軍および国連緊急対応部隊は、これに伴って空爆などの攻撃を3日間停止すると発表。
・米タルボット国務副長官はNATO軍の空爆に関し、ロシア政府との意見を調整するために訪ロしてコーズィレフ露外相と会談。
09/15:
・ボスニアのセルビア人勢力、サラエヴォ周辺から戦車など重火器の移動を始める。
・サラエヴォ空港は5ヵ月ぶりに再開し、援助物資を積んだ輸送機が着陸する。
・サラエヴォの国連保護軍報道官は、セルビア人勢力が撤去に合意した重火器の対象は80ミリを超える迫撃砲、100ミリを超える大砲などで、すべての対空砲は撤去の対象になっていない、と説明。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、サラエボ周辺からセルビア人勢力が撤去する重火器の種類が緩和されていること、さらにサラエヴォ周辺のボスニア政府軍の重火器が国連保護軍の監視下に置かれることに、強い不満を表明。
・コーズィレフ露外相は、米国がボスニア政府に対し、ロシアがセルビア共和国やセルビア人勢力にそれぞれ影響力を行使し、ボスニア紛争の政治的解決に共同して当たることで合意した、と語る。
・クリントン米大統領はNATO軍の空爆一時停止について、「適切な対応」と評価したが、期間内に合意が守られない場合「必ず空爆を再開する」と強調。
・クロアチア共和国軍とボスニア政府軍はボスニア中西部のクレンバクフやボサンスキ・ペトロヴァツなどに進攻し、支配地域を拡大。
・ボスニアのセルビア人勢力のクライシュニク議会議長は、「NATOと国連は、すべての敵対行為の中止を保証しなければならない」と要求。
09/16:
・ガリ国連事務総長は、明石国連特別代表およびシュトルテンベルグ旧ユーゴ和平国際会議共同議長らとボスニア情勢について協議し、ボスニア国連保護軍の撤退・縮小とNATO軍部隊との入れ替えなどを安保理に提案する。
09/17:
・ボスニア政府軍は、ボスニア北西部のサンスキ・モストを制圧。NATO軍の空爆に乗じ、ヤイツェ、クリュチ、ボサンスキ・ペトロヴァツに次いでバニャ・ルカに通じる要衝も制圧する。
・国連ジャンヴィエ平和維持軍司令官とNATOスミス南欧軍司令官は、ボスニアのセルビア人勢力への空爆停止期限について協議し、17日からさらに72時間延長するとの声明を発表。
09/18:
・サラエヴォの国連保護軍報道官は、ボスニア政府軍がボスニアの領土の約半分を征圧し、セルビア人勢力の軍事拠点バニャ・ルカまで30キロの地点に迫っていると語る。
・ガリ国連事務総長は安保理に、「和平交渉の成功失敗にかかわらずボスニアの国連保護軍を撤収させ、NATO軍主体の多国籍軍と入れ替えること。国連は難民高等弁務官事務所の人道援助、難民の帰還促進に限るべきこと」などを勧告する書簡を送付。
・リフキンド英外相はクロアチア共和国のグラニッチ外相に対し、クロアチア共和国軍の軍事行動を停止するよう要請し、グラニッチ外相は侵攻をやめる意向だと伝える。
09/19:
・クロアチア共和国のグラニッチ外相は、トゥジマン大統領がボスニア西部で侵攻を続けるボスニア政府軍への軍事支援の停止を決定したことを明らかにする。
・米ペリー国防長官は、国連保護軍をNATO軍主体の多国籍軍に入れ替えるべきだとの提案に対し、「和平が最終的に合意された場合に限り、NATO軍指揮下の平和維持部隊に参加する用意がある」と述べる。
09/20:
・ボスニアのサチルベイ外相は訪問先のイタリアで記者会見を開き、ボスニア西部でのセルビア人勢力支配地域に対する最近の攻勢について、「われわれは停戦していない」と軍事攻勢を継続していること語る。
・ジャンヴィエ国連平和維持軍司令官とスミスNATO南欧軍司令官は、ボスニアのセルビア人勢力がサラエヴォ近郊から大型重火器を撤去したことを評価し、NATO軍の空爆を停止するとの共同声明を発表。
・NATOは、ボスニアの和平が実現した場合のNATO軍派遣計画の具体化に着手する。
・朝日新聞は、ジョージ・ケニー米国務省元担当者と会談。それによると、ケニー担当官はかつてセルビアに対する強硬姿勢を主張したが、その後の知見によると、「1,米国はボスニア紛争発生当時から悪者探しをし、セルビアが悪者にされた。2,スロヴェニアとクロアチアそしてボスニアが独立国家として承認されたことで、セルビアは侵略者にされた。3,共産主義の匂いを残すミロシェヴィチよりイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領により同情的だった。4,メディアや民間援助団体の不確かな情報が、世論に影響を与えた。5,ボスニアの犠牲者は20万人だといわれ、その膨大な数にホロコーストが重ね合わされて影響を受けたたが、聞き取りで得られた推定数は2万5000人から6万人が妥当なところだ。6,戦闘の過程での残虐行為は多少の違いはあるものの、3民族共通している。7,米政府がもう少し柔軟な対応をしていれば、1,2年前に和平は実現出来ていた」などと語る。
09/21:
・米ホワイトハウスは、ボスニア政府、クロアチア政府、新ユーゴ連邦政府の外相会議を26日に開き、「連絡調整グループ」の代表およびホルブルック米国務次官補も参加すると発表。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は、ウィーンでボスニア西部での攻防の焦点となっているバニャ・ルカについて、セルビア人勢力の軍事指導部が街から撤退することを条件に、周辺での60日間の停戦に応じる考えを明らかにする。さらにボスニア全土での停戦の条件として、ムスリム人勢力が孤立状態になっているゴラジュデについて、首都との自由な通行を確保するための安全ルートを開くよう求める。
・国連安保理は、ボスニアにおける戦闘停止を求める決議1016を採択。ロシア提出の案では現在進攻を続けているボスニア政府軍を非難する内容が含まれていたが、「ボスニアにおける軍事行動を憂慮する」と変更。
09/22:
・ボスニア政府のサチルベイ外相は、イスラム諸国会議機構・OICの加盟国からボスニアに武器が入っていることを認める。さらに同外相は、国連保護軍の任務は破綻しており、NATO軍による肩代わりが実現しない場合は、イスラム諸国による平和執行部隊を導入する見通しを示す。
・EUの非公式首脳会議は、旧ユーゴスラヴィアに対する復興支援計画の検討に着手することで合意。議長のゴンザレス・スペイン首相は米国・日本・イスラム諸国にも資金負担を求めていきたい、と語る。
09/24:
・ボスニア政府は、26日に予定されているボスニア紛争の政治的解決を図るための3カ国プラス「連絡調整グループ」の外相会議に、欠席すると表明。
・米国務省のバーンズ報道官は、参加国外相会議にボスニア政府の参加を求めて説得を続ける姿勢を示す。
09/25:
・ボスニアのシライジッチ首相は、米国の説得を受けてボスニア紛争3ヵ国外相会議にサチルベイ外相を出席させる意向を表明。
・グラチョフ露国防相は、国連総会でエリツィン露大統領がボスニア紛争解決のため、NATOとロシアの合同平和維持軍を創設する提案をすると発表。
・クリストファー米国務長官は、ボスニア和平問題でボスニア政府外相、新ユーゴ連邦政府外相、クロアチア政府外相と緊急会談を行なう。
09/26:
・ニューヨークの国連代表部で、ボスニア紛争の3当事共和国、ボスニア政府、新ユーゴ連邦政府、クロアチア政府の外相および「連絡調整グループ」の代表が参加し、ホルブルック米国務次官補の共同議長の下に和平会議が行なわれ、「1,移送の自由の保障など条件が整い次第、自由で民主的な選挙を行なう。2,欧州安保協力機構・OSCEなど国際機関による監視を受け入れる。3,選挙後に最高行政機関、議会、憲法裁判所を設置する」ことの3項目を合意。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ・スルプスカ大統領は、「平和へのさらなる一歩だ」と合意を評価。
・クリストファー米国務長官はボスニアの和平協定締結後のNATO軍の駐留について、「9ヵ月から1年程度で済むだろう」との見通しを示す。
09/29:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、今年7月以来セルビア人勢力がスレブレニツァを制圧し、クロアチア共和国軍がクライナ地方を制圧したことなどで、旧ユーゴスラヴィアに41万7000人の難民が新に生まれたことを明らかにする。旧ユーゴスラヴィア全体で、UNHCRの支援を受ける難民は350万人に達している。
09/00:
・ガリ国連事務総長は訪問した河野洋平日外相に対し、ボスニア和平のための国連保護軍の費用が毎日500万ドル費やされるため、他の活動に支障が出ているとして「支援」を要請。
10/01:
・英日曜紙「サンデー・タイムズ」はNATO軍の空爆の口実とされ、ボスニア紛争の転機となった8月28日のサラエボの市場砲撃事件について、現地を調査した国連の英専門家はセルビア人勢力の攻撃だった証拠は一切なく、むしろムスリム人主体のボスニア政府軍の仕業だった可能性があると報告したが、国連保護軍側によって却下された、と報じる。
・ムスリム人勢力とクロアチア人勢力の連携攻勢によって、ボスニア西部を追われたセルビア人住民12万7600人がバニャ・ルカに流れ込む。新ユーゴ連邦が難民の受け入れを拒否していることから、難民・避難民の移住が困難に陥っている。セルビア人共和国のブラドシッチ難民担当相は、「国際的な人道援助を至急要請したい」と呼びかける。
・ボスニアの「クロアチア人とムスリム人による連邦」陣営で両者間の武力衝突が頻発し、クロアチア人勢力側のトゥジマン・クロアチア大統領がイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領を怒鳴りつけるまでに険悪な関係になる。ムスリム人勢力とクロアチア人勢力が連携してボサンスキ・ペトロヴァツやヤイツェ周辺に大攻勢をかけセルビア人勢力を撤退させたが、先にヤイツェ市街を占拠したクロアチア人勢力がムスリム人勢力のボスニア政府軍の進軍を阻止したため、両者間で小競り合いが続いている。
10/03:
・旧ユーゴ和平国際会議のビルト共同議長は、ボスニア紛争終結の道を探っている「連絡調整グループ」の米・英・独・仏・露に日本・カナダ・スペインも加えて5,6日にローマで開催すると発表。
・ガリ国連事務総長は、ボスニアの平和維持活動に当たっていた国連保護軍・UNPROFORの去就につき、NATO軍主体の多国籍軍に入れ替えるよう安保理に勧告する。
・シュトルテンベルグ旧ユーゴ和平国際会議共同議長は記者団に対し、「クロアチア政府と同国の『東スラヴォニア』地域を支配するセルビア人勢力が、紛争解決の『基本原則』に合意した」と語る。
・マケドニア共和国の首都のスコピエで、グリゴロフ大統領が乗っていた車の近くに停車していた車が爆発。グリゴロフ大統領が負傷し、運転手は死亡する。
・ボスニアのシライジッチ首相はロシアを訪問し、チェルノムイルジン露首相およびコーズィレフ露外相と会談。チェルノムイルジン首相は、中断していたボスニア向けの天然ガス供給を、近く再開する用意があると伝える。
・ペリー米国防長官は、NATO国防相会議でボスニア政府軍を平和維持要員として訓練することの必要性について協議が行なわれることを明らかにし、「ボスニア政府軍が自衛出来るようになるまで、NATO軍の部隊は現地に留まる必要があるだろう」との考えを示す。
10/04:
・NATO南欧軍司令部当局者は、ボスニア上空の監視飛行中にボスニアのセルビア人勢力の対空ミサイル・レーダーから照射を受けたとして、自衛のためにNATO軍機がミサイル陣地の3ヵ所に対してミサイル攻撃をした、と語る。
・ボスニアのセルビア人共和国のコーリェヴィチ副大統領は、NATO軍のミサイル攻撃に対し「和平プロセスに反するもの」と抗議。
・クラースNATO事務総長はNATO国防相会議に出席するために訪れているワシントンでの講演で、「ボスニア和平達成後に派遣が検討されているNATO軍の平和維持部隊に米国が参加するよう」強く要請する。
・ホルブルック米国務次官補はボスニア紛争関係国間のシャトル外交を精力的に繰り広げ、「1,クロアチア人とムスリム人の連邦が51%、セルビア人勢力のスルプスカ共和国が49%とする領土の分割。2,中央機関の基本構造などの基本原則」で合意させる。
10/05:
・クリントン米大統領はボスニア紛争の当事者が10日から全面的に停戦することで合意した、と記者会見で発表。ボスニア和平調停の原則;「1,停戦合意。2,和平後の国家の枠組みの決定。3,ボスニアの国家としての存続。4,支配地域の確定」で進める。「①,クロアチア人とムスリム人によるボスニア連邦が51%、セルビア人共和国が49%の領土に分割する。②,現在国際的に承認されている国境を持つボスニア・ヘルツェゴヴィナ国家を存続させる。③,その中での「セルビア人共和国」の存続を認知する。④,中央機関と議会を設置する。⑤,自由選挙を実施する。⑥,同機関と議会の定数比率は、ボスニア連邦が3分の2とセルビア人共和国側が3分の1」などとする内容。
・国連スポークスマンは和平交渉が進展したことを受け、ボスニア駐留の国連保護軍を現在の3万500人から2万2000人に削減する、と発表。削減の内訳は、「1,バングラディシュ、カナダ、オランダ、パキスタン、英国の部隊の帰還で計4000人以上を削減。2,規模の大きすぎる部隊の人数を、1大隊当たり1000人未満に適正化することで2000人以上を削減。3,緊急対応部隊・RRFとして配備されていた英国軍24空挺旅団約3000人の帰還」など。3万人規模の保護軍を維持するには、1日500万ドルの計費が必要となるため、経費の削減が目的。
・カナダのウェレット外相は、ボスニア駐留国連保護軍の全面削減の一環として、カナダ部隊820人を撤収させると発表。
・メージャー英首相は、「和平へのドアが開いた。停戦は恒久的な政治の安定への道を固めるはずだ」と歓迎する声明を発表。英国防省スポークスマンは停戦に伴い、英国派遣部隊のうち3300人を帰還させる方針を明らかにする。
・ボスニア紛争解決を図る「連絡調整グループ」は、米・英・仏・独・露に伊・日・スペインを加えてローマで開かれる。会合には、新ユーゴ連邦のミルティノヴィチ外相とボスニア政府のサチルベイ外相、それにクロアチア共和国のサナデル外務次官も招かれる。
・セルビア人勢力は、ボスニア政府軍とクロアチア人勢力が支配するクリュチを奪回するために激しい攻撃をし掛ける。
・エリツィン露大統領は、ボスニアの停戦合意について当事者に厳守を呼びかけるとともに、ロシアの天然ガスを供給する方針を確認し、さらに「旧ユーゴスラヴィア全土の紛争の解決のために、新ユーゴ連邦に対する経済制裁を解除することが必要だ」と指摘。
10/06:
・クリントン米大統領は、ボスニアにNATO軍の指揮下で米軍を2万人から2万5000人派兵する方針を確認。
・NATO国防相会議は、ボスニアの国連保護軍を編成替えし、NATO軍の多国籍軍の指揮権下に集中することで合意。
・英仏の残留UNPROFORは、多国籍軍に組み入れられることになる。
・バーンズ米国務省報道官は、ボスニアの停戦合意にクロアチア共和国も加わることをトゥジマン・クロアチア大統領が米側に確約した、と語る。
・国連保護軍報道官は、クロアチア共和国政府軍400人がボスニア西部のムスリム人支配地域のビハチに入ったと伝える。
・米ワシントン・ポスト紙は、ボスニア和平の関係3国による米国での交渉が30日に行なわれることを明らかにする。
10/07:
・G7が米国財務省で開かれ、ボスニア復興支援について国際社会が乗り出す方針を声明に盛り込む。
10/08:
・ペリー米国防長官とグラチョフ露国防相は、ボスニアに派遣する部隊の指揮権や「ボスニアに平和をもたらすためにロシアとNATOはどう協力すべきか、米ロによる平和維持要員の共同訓練の可能性、NATOの平和のための協力協定・PFPの中でのロシアの役割」などについてジュネーブで会談。ロシア軍の参加には基本的に意見が一致したものの、指揮権については合意に至らず。
・ボスニア北部のトゥズラ南方のボスニア政府支配地域ジビニチェ難民センターが砲撃を受け、少なくとも10人が死亡する。
・ボスニア政府のシライジッチ首相は、「セルビア人勢力は交渉の一方で人殺しをしている」と非難。
・NATO南欧軍司令部報道官は、ボスニア北部の「安全地区」トゥズラ周辺が砲撃されたために、ルパート・スミス国連保護軍司令官(英)の要請を受けてセルビア人勢力の重火器を爆撃するため、NATO軍機を出動させたと発表。
10/10:
・ボスニアの停戦協定の合意が、発効定刻を迎えたが停戦は発効せず。
・サラエヴォ空港ではボスニア政府とセルビア人勢力とが国連保護軍・UNPROFORの仲介の下で協議を行っているものの、ボスニア政府が停戦の前提条件としたサラエヴォへの電気、ガスの供給が遅れていること、およびセルビア人勢力指導部から停戦受け入れの許可が出ていない、として発効せず。
・ガリ国連事務総長は、明石康ユーゴ問題担当国連事務総長特別代表が辞任し、後任に平和維持軍・PKO局長のコフィー・アナンを暫定的に充てる、と安保理に書簡で報告。明石特別代表は国連の中立重視と武力に頼らない和平調停の姿勢を貫いてきたが、期待された活動が出来なかった理由として、「1,当事者に紛争を止める意思が出来ていなかった。2,安保理など国際社会が一致して国連を支えなかった」などと指摘する。
・ボスニア政府は明石特別代表が辞任したことについて、「歓迎すべき決定だ。明石代表は犠牲者と侵略者を同等に扱った」と激しく批判する声明を発表。
・バーンズ米国務省報道官は明石特別代表の辞任について、「我々が求めたことではない」と述べる。オルブライト米国連大使スポークスマンは、アナンPKO局長の特別代表任命に対し、「国連、米国、NATOの間の有効な協力関係が前進する」と述べる。
註;明石国連特別代表が和平達成に十分な力を発揮できなかった背景には、周囲の欧米大国の思惑があり、それが旧ユーゴ和平国際会議の活動を制約し、NATO軍が前面に出てきて国連保護軍をも退場させる、という国連を軽視する力が働いていた。
10/11:
・ボスニアのセルビア人勢力は、ボスニア全土における停戦について12日零時から開始することに合意し、協定に調印。
・コール独首相はキンケル外相とリューエ国防相と協議し、NATO軍のボスニア平和維持部隊派遣に協力するために、ドイツの兵士2000人から5000人を派遣する方針を決める。
・NATOは大使級理事会を開き、ボスニアの和平協定が成立した場合のNATO軍による多国籍軍「ボスニア和平実施部隊」の派遣計画の基本方針を決める。期間は1年間で、派遣兵員数は6万人規模になる見通し。
・クリントン米大統領はボスニアで停戦が発効したことに関し、「全当事者が停戦を遵守し、交渉の席に着くことを求める。これで外交努力への気運が高まる」と述べる。
10/12:
・ボスニア政府とセルビア人勢力が11日、停戦協定に調印したことにより12日零時からボスニア全土で60日間の停戦が発効。
・ボスニアの停戦合意は30回を超えている。10月31日から3勢力による領土分割交渉が行なわれることになる。
・ボスニア北西部ではこの日もボスニア政府軍とセルビア人勢力軍間で戦闘が続き、双方は互いに「停戦破り」と非難。
・中国外務省の陳健報道局長は、「明石特別代表はボスニアではカンボジアのような成果は得られなかったが、彼の意見は考慮に値する」とコメント。
10/14:
・ボスニア北西部のサンスキ・モストでは、ボスニア政府軍とクロアチア人勢力軍との戦闘が続く。
・セルビア人勢力は国連に停戦違反を訴えると共に、カラジッチ代表が反撃を命じる。国連保護軍筋によると、ムスリム人勢力軍はセルビア人勢力軍の拠点バニャ・ルカに迫る勢いという。
10/15:
・第11回非同盟諸国外相会議がコロンビアのカルタヘナで始まる。
・セルビア人勢力のSRNA通信は、昨年夏以来のムスリム人とクロアチア人の両勢力による攻勢で支配地域を失ったことについて、カラジッチ代表は、「責任のある軍の司令官らは更迭されるべきだ」と発言したことを伝える。
・ベオグラードの独立系BETA通信は、セルビア人勢力が臨時議会を開き、ボスニア北西部でボスニア政府軍およびクロアチア人勢力軍の攻勢で大幅に支配地域を喪失した責任問題を取り上げ、コージッチ首相を引責辞任させるとともにムラディッチ軍最高司令官の側近のグベロ副司令官など軍幹部4人を退役させることで合意した、と報じる。
10/17:
・旧ユーゴ問題に取り組む「連絡調整グループ」がモスクワで会合し、ボスニア全土での停戦を厳守するよう紛争当事者に呼びかける。ロシア軍がボスニアに派遣する多国籍軍にどのような形で参加するかについては、合意が得られず。
10/18:
・第11回非同盟諸国首脳会議・NAMがコロンビアのカルタヘナで開かれ、113ヵ国が参加。
冷戦後の新たな国際情勢の中で、国連安保理を改革して発展途上国の発言力を強化すること、および先進国との「対立と協調」の両路線を模索する。6年ぶりにカストロ・キューバ国家評議会議長ほか、アラファトPLO議長、スハルト・インドネシア大統領が参加。
日本は、北朝鮮の反対で公式ゲスト国として認められずに議長招待国となったためにボイコットする。
・開催国のサンペール・コロンビア大統領は開幕演説で、「冷戦の終結は、貧困問題の終結を意味するものではない。大量破壊兵器や通常兵器拡散防止などで非同盟運動は重要な役割を果たすことができる」と述べ、環境や麻薬問題など幅広い分野での活動目標を提唱した。このサンペール大統領は、麻薬組織から選挙資金を受け取った疑惑の最中にある。
・スハルト・インドネシア大統領は、「途上国のすべての対外債務は削減されるべきだ」と述べる。
・新ユーゴ連邦の資格継承問題はイスラム諸国の反対で宙に浮いており、ボスニアの参加もジンバブエの反対で実現せず。コスタリカはイスラエルのエルサレムに大使館を設置したことから、加盟を認められず。日本はゲスト国としての参加を認められず。
・ホルブルック米国務次官補は、ボスニアのサラエヴォで、ボスニア政府と新ユーゴ連邦政府が相互に連絡事務所を開設することで合意したと語る。
・ボスニアのセルビア人勢力軍最高司令部は、セルビア人共和国議会が求めていたグベロ副司令官ら軍幹部4人の罷免要求を拒否。その上で、カラジッチ・セルビア人共和国大統領の長女である外国報道担当者が職務を十分に果たしていない、と批判。
・クリストファー米国務長官は米下院国家安全保障委員会で、31日から予定されているボスニア和平協議の開催場所を、オハイオ州デイトンのパターソン空軍基地に決定した、と証言。
・ドイツの赤十字は、サラエヴォ市内の40の小学校に牛乳とサンドイッチを届ける給食サービスを開始する。
・デンマークやノルウェーのNGOは、砲撃を受けて壊れた学校の修理を進める。
10/19:
・ホルブルック米国務次官補は、ザグレブでトゥジマン・クロアチア大統領と会談。後の記者会見で、和平交渉が行なわれている間は「東スラヴォニア地方」に武力侵攻はしないと大統領が確約した、と語る。
・国連報道官は、ボスニアの国連保護軍の司令官を務めていた英国のルパート・スミス中将が、同じ英国のマイケル・ジャクソン中将と今年末に交代すると発表。
10/20:
・第11回非同盟諸国首脳会議は、最終文書を採択して閉幕。
「最終文書」;「超大国の1つの崩壊は、一層の不平等と不公正をもたらす不安定な破壊的な一極構造になりかねない」と指摘。「1,国連安保理の拒否権制度の見直し。途上国への常任理事国議席割当の必要性。2,核実験の即時停止。3,貧困、飢餓、紛争問題への解決。4,経済成長を平和への糸口と位置づけ、先進国との緊張ある協調路線を選択する。5,新世界秩序作りへの役割」など。
・クロアチアの港湾都市リエカにある警察施設付近で、車爆弾によるテロ行為があり、建物の窓ガラスが壊れ、多数の怪我人が出る。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はサラエヴォ近郊で開かれた与党民主行動党の集会で、31日から米国で始まる和平交渉に強硬な姿勢で臨む方針を表明し、「統一ボスニアの選挙には戦争犯罪容疑者は排除されるべきだ」との見解を強調。さらに「1,NATO軍と共にロシア軍部隊が展開する場合は、イスラム諸国軍部隊と同数にする。2,多国籍軍が駐留する期間は1年とし、期間延長はボスニア政府の中央機関のみが要請できる。3,ゴラジュデやブルチコをムスリム人支配地として確保すること」などをあげる。
10/22:
・エリツィン露大統領は国連総会で演説し、「ボスニア紛争中、安保理の役割が脇に置かれ、大規模な軍事力が行使された」ことに懸念を示し、ボスニアに派遣されることが検討されている多国籍軍は、「安保理の明確な決議に基づかなくてはならない」 と強調。
10/23:
・ボスニアのセルビア人共和国議会は、ボスニア和平協定が成立した場合に現地に展開する多国籍軍の編成について「ロシアやウクライナなど友好国の部隊だけを、自派支配地域の境界地帯に受け入れる」方針で一致。
・エリツィン露大統領とクリントン米大統領がニューヨークで会談。ボスニア和平協定成立後の平和維持活動に、ロシア軍が参加する際の指揮権について話し合われたが合意に至らず。
10/24:
・ドイツ政府は閣議で、NATO軍がボスニアに派遣する多国籍軍の平和維持活動に、国防軍4000人を派遣することを決める。現地でのドイツ軍の主な任務は、「ナチス時代に侵略した経緯から戦闘部隊には参加しない。輸送機、ヘリコプター、輸送装甲車、偵察用装甲車のほか、護衛任務の空挺部隊を派遣する。アドリア海での哨戒任務には、軍艦1隻と哨戒機3機を派遣する」など。
10/25:
・ドイツ民主党・SPDのシャーピング党首は、ドイツ軍のボスニア派遣の決定を支持すると表明。
10/27:
・米国務省は、ボスニア紛争終結への道筋を探る旧ユーゴスラヴィア和平協議の基本方針である、「1,兵力引き離し。2,選挙。3,憲法。4,領土分割。5,再建。6,難民援助」の6項目を発表。
10/29:
・ボスニア和平会議の共同議長のカール・ビルト・スウェーデン前首相はワシントンで記者会見を行ない、「和平交渉は永く困難なものになろう」との見通しを示す。
・ニューヨーク・タイムズ紙は、米国務省が新ユーゴ連邦に対する経済制裁について、一時停止を提案したが、ホワイトハウスが28日になってこれを拒否した、と報じる。この提案は27日ホルブルック米国務次官補が行ない、クリストファー米国務長官は賛意を示したものの、オルブライト米国連大使が強く反対。ボスニア政府も強硬に反対したためホルブルック国務次官補は取り下げる。
・ボスニア北部のセルビア人支配地域に入った米クリスチャン・サイエンス・モニターのデービッド・ロード記者が、セルビア人民兵に拘束される。
10/30:
・ホルブルック米国務次官補はボスニア和平交渉について、3当事者が協議を前に、「立場を硬化させている。和平合意に至るのは、非常に難しい」と記者会見で述べる。
・米下院はボスニア和平合意後の2万人の派兵について、議会の承認を求める議案を可決する。
11/01:
・ボスニア和平会議が、米オハイオ州デイトンのライトパターソン空軍基地で開かれる。米国主導の「連絡調整グループ」米・英・露・独・仏は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領およびボスニア紛争当事者を参集させ、期間を定めない協議が実施される。共同調停者は、ビルト旧ユーゴ和平国際会議共同議長、イワノフ・ロシア第1外務次官が務める。
註;和平会議は、紛争の当事者であるカラジッチ・セルビア人勢力の指導者(スルプスカ共和国大統領)およびムラディッチ司令官を除外する中で行なわれた。理由は、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYが両者を起訴していたことによる。
・クリストファー米国務長官はデイトンの和平交渉の冒頭、「1,国際的に承認された国境を維持した統一国家としてのボスニアの存続。2,首都サラエボの歴史的特殊性と重要性を考慮した解決。3,全ての人々の人権保障。4,東スラヴォニアのクロアチア領への平和復帰」の4点を和平の基本条件として強調。
・デイトンでの和平交渉は、基地内の報道関係施設が閉鎖されるという徹底した情報管理の下に行なわれ、発表は米国務省の1日1回の記者会見のみとされる。
・明石国連特別代表が22ヵ月の任務を終え、ザグレブを離任する。明石特別代表は離れるにあたり、戦争によって避難させられた200万人以上の人たちへの援助で、国連の平和維持活動が成功を収めたことを強調する。
11/02:
・イタリア政府は閣議で、ボスニアの和平合意後に派遣されるNATO軍主体の多国籍軍に、イタリア部隊2500人を参加させると決定する。
11/03:
・ボスニア西部のヤイツェで、ムスリム人の避難民2500人が先祖の墓参などのために市内に入ろうとしたところ、クロアチア人勢力が「許可書類がない」との理由をつけて阻止。
11/04:
・NATO欧州軍最高司令官ジョージ・ジョルワン将軍はジュネーブのUNHCRを訪問し、ユーゴスラヴィアにおける軍民双方の協力関係について協議。
11/06:
・ボスニアのサラエヴォ駐留の国連保護軍スポークスマンは、モスタル市近郊の保護軍基地でフランス部隊が何者かに銃や手投げ弾で攻撃され、7人が負傷したと発表。
・米国務省のバーンズ報道官は、セルビア人勢力がデービッド・ロード記者を拘束していることを非難し、即時釈放を求める。
11/07:
・クロアチアのトゥジマン大統領は、マテシャ前経済相を首班とする新内閣を発足させる。グラニッチ副首相兼外相、シュシャニク国防相は留任し、経済相にはシュテルン前無任所相が就任。
・UNHCRのボスニア担当のダマソ・フェチ代表は、ボスニア連邦で最近避難民の自由な移動が妨げられている事例が相次いでいるとして、強い懸念を表明する声明を発表。声明では、ボスニア連邦憲法が移動の自由を認めているにもかかわらず、クロアチア人勢力が避難民の帰還を妨げており、また植民政策的な移住を実施している、などを警告。
11/08:
・ペリー米国防長官とグラチョフ露国防相がブリュッセルで会談し、ボスニア和平成立後に派遣されるボスニア平和維持軍での指揮権について大枠で合意。合意内容は、平和維持軍全体の指揮権はジョルワンNATO欧州軍最高司令官の下に一本化されるが、ロシアは副指揮官を送り、ロシア部隊への指示は「ジョルワン米軍大将」からロシアの副指揮官を通じて伝えられることになる。政治意思決定問題については、今後の交渉に持ち越される。
11/09:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、旧ユーゴ連邦人民軍の高級将校3人を「人道に対する罪」で起訴。3人は91年11月、クロアチアのヴコヴァルで非セルビア人260人以上を殺害した容疑。
・国連安保理は、ボスニアのスレブレニツァ、ジェパ、バニャ・ルカ、サンスキ・モストで起きた強制連行や虐殺など非人道的な事件を解明するよう、ガリ国連事務総長に要請する決議1019を採択。
11/10:
・デイトンでのボスニア和平交渉で、「ボスニア・ヘルツェゴビナ中央政府」の権限と「ボスニア連邦」の権限配分について大筋で合意する。
・ボスニア中央政府の権限は、「外交、貿易、税関、金融政策、複数の軍隊の相互関係の調整」などに限定し、ボスニア連邦(ムスリム人勢力とクロアチア人勢力で構成)は「防衛、司法、財政、エネルギー、商業、農業、教育、難民、都市計画」など広範な権利を有する。この合意文書にイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領とクロアチア人勢力のズバク大統領が調印。「セルビア人共和国」の権限もこの線に沿った形で決められることになる。
11/12:
・クロアチア政府と同国のセルビア人勢力は、「東スラヴォニア地方」をクロアチア政府が統合することなどに合意し、調印する。
合意内容:「①東スラヴォニア地方は、国際的な管理の下での1年間の移行期間を設け、セルビア人勢力の支配からクロアチア政府の統治に移す。②移行期間は当事者の要請で1年間の延長ができる。③国連安保理の決議に基づき、セルビア系住民を含め、全ての住民の人権保護などのために多国籍軍部隊を創設し、派遣する。④多国籍軍部隊の展開後、30日以内に同地域を非武装化する」など。
11/13:
・旧ユーゴ戦犯法廷・ICTYは、ボスニア紛争でムスリム人迫害を支持した疑いのあるクロアチア人共和国の政治指導者のコルジッチと軍事指導者のブラスキッチ将軍ら6人をラスバ渓谷などで住民虐殺や追放をした「人道に対する罪」などで起訴。同法廷が起訴したのは52人で、セルビア人が45人、クロアチア人は7人となる。
・緒方貞子UNHCR弁務官は、ボスニア和平達成後の難民帰還には約2年を要する、との見通しを示す。
・国連は、ユーゴスラヴィア内戦で犠牲になった国連要員の概要を発表。死者210人、負傷者1451人。
11/14:
・ボスニアのセルビア人共和国指導部は、カラジッチ大統領とムラディッチ総司令官は退陣する意向はないとの声明を発表。
・ボスニア東南部のゴラジュデは停戦合意後、活気が戻る。援助物資が倉庫に山積みされ、物価は下落し、市場が開設する。ゴラジュデは人口4万5000人で、ムスリム人が7割を占める。
・ボスニアのクロアチア人勢力は、トゥジマン・クロアチア大統領がボスニア東部の回廊をセルビア人に与えようとしている、と激しく非難する。
11/16:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニアのセルビア人共和国のカラジッチ大統領とムラディッチ総司令官を、スレブレニツァでの虐殺に関与した疑いで「人道に対する罪」で追起訴する。
・ベーコン米国防省報道官は、NATO軍がボスニア和平実現後の地上軍派遣に備え、1500人の先遣隊を現地に派遣することを明らかにする。
11/17:
・旧ユーゴスラヴィア紛争に伴うボスニア和平交渉は開始されてから2週間あまりを経て、クリストファー米国務長官とペリー米国防長官が参加して大詰めの協議が行われる。協議の最終局面では、「1,ボスニア領土の分割線引き。2,新憲法制定。3,新選挙制度。首都サラエヴォの分割問題」などが課題となっている。
・ドイツ社会民主党は、政府がボスニアへトルネード戦闘爆撃機を派遣したことを非難する決議を採択する。
・ボスニア連邦のズバク大統領は、米国で進められている和平交渉で領土分割などの内容に反発し、議会に辞表を提出する。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、旧ユーゴスラヴィア和平交渉で合意が成立し、国連の対新ユーゴ連邦制裁が解除決定された後に、新ユーゴ連邦との関係正常化を図ることで基本合意したことを明らかにする。
・米下院は、ボスニア和平交渉で包括的和平交渉の合意が成立した後に、ボスニアへ派遣される米軍に関し、事前に議会から予算上の同意を得ることを義務づける法案を可決する。
11/18:
ボスニア政府のサチルベイ外相は記者会見を行ない、辞意を表明。クロアチア人勢力との確執を示唆する。
・バーンズ米国務省報道官は、記者会見が禁じられていたにもかかわらず、サチルベイ外相の行為について好ましくないとしながら、「言論の自由はある」と理解を示す。
11/19:
・バーンズ米国務省報道官は記者会見で、「ムスリム人は犠牲者、セルビア人が加害者。我々はずっとそう考えてきた」と指摘。
11/21:
・米オハイオ州のデイトンで開かれていたボスニア和平会議は、ボスニアの紛争当事者が包括和平協定に合意して仮調印する。
ボスニアに関する協定文書:「1,『ボスニア・ヘルツェゴヴィナ』を中央国家の国名として現在の国境を維持し、単一国家として存続する。2,ムスリム人、クロアチア人両勢力の『ボスニア連邦』とセルビア人勢力の『スルプスカ共和国』で構成され、それぞれ領土の51%と49%を支配する。3,中央政府は外交、貿易、出入国、通信、航空管制などの権限を持つ。4,2院制の議会は、上院を15人、下院を42人とし、幹部会は『ボスニア連邦』から2人、『スルプスカ共和国』から1人で構成し、憲法裁判所、中央銀行、単一通貨を持つ。5,6~9ヵ月以内に幹部会と議会の選挙を実施する。6,欧州安保協力機構・OSCEが選挙実施を監督する。7,北大西洋条約機構・NATOの多国籍主体の和平実施部隊・IFORを創設し、停戦と兵力引き離しを監視する。和平実施部隊は米国の将軍が率いる。8,停戦ラインの両側に幅2キロの非武装地帯を設ける。各派は、30日以内に停戦ライン沿いから兵力を後退させる。9,各派は、120日以内に重火器と兵力を後方に撤収する。10,戦争犯罪人として起訴されている者で、戦争犯罪法廷の命令に従わない者は選挙に立候補できず、公職には就けない。11,新憲法は、全ての国民に1953年に定められた欧州人権保護条約の最高水準の人権と自由を保障する。同条約は、あらゆるケースでボスニアの法律に優先する。12,国連安保理に、旧ユーゴスラヴィアの全ての国家に対する武器禁輸を解除する決議案を提出する。13,サラエヴォはボスニア連邦の領土として再統合される。セルビア人とムスリム人両勢力の地域を隔てたチェックポイントと閉鎖された橋は撤去される。14,ゴラジュデはボスニア連邦に帰属する。15,ブルチコの地位は、1年以内に調停によって決定する。16,和平合意は、パリで正式に調印される」という内容。
和平協定の実施面:「軍事をNATO軍が担い、行政および人道援助や人権擁護などを国連の各機関が行ない、再建・復興を欧州連合・EUが行ない、選挙監視をOSCEがそれぞれ受け持つ」という方向で調整を進める。
付随規定:「1,米国およびEUは、ボスニアにボスニア出身ではない最高代表(HR・High Representative)を設置する。最高代表の権限は『ボスニア連邦(ボスニア政府とクロアチア人共和国で構成)』と『スルプスカ共和国(ボスニア・セルビア人共和国)』双方の政府を統治する権利を保有し、かつ全ての市民の問題に対して絶対的な行政能力を保有することになる。2,国際文民警察隊は、国連事務総長が任命し、警察官は15ヵ国から1700名を派遣する。費用はボスニア政府の負担となる。3,EUは、ボスニア中央政府の政治的・経済的主権を認めず、IMFおよび世界銀行とヨーロッパ銀行・EBRDが決定権を持つ再建計画を発表する。ボスニアの中央銀行総裁はボスニアおよび周辺国と無関係な者をIMFが任命する。中央銀行は『最初の6年間、貨幣の発行を通じた貸し出しを拡大することができない』との制限を科せられる。4,ヨーロッパ銀行は、ボスニアのエネルギー、水資源、逓信、道路、などを含めた公企業を管理する公企業委員会を管轄する。ヨーロッパ銀行の総裁が、公企業委員会の代表を任命する。
5,ボスニア中央政府は、復興資金として470億ドルが必要との試算を出した。しかし、西側諸国は30億ドルのみの支援を約束する。西側の支援金は一部は支給するが、ほとんどは銀行からの借款の返済に流用される。また新規借款は、IMFの返済に充当される。この資金援助や借款は、債務返還にのみ使用されるシステムによって、ボスニアは戦後復興が不可能な状態におかれることになる。6,和平後に米軍基地が、ボスニアのトゥズラの油田地帯に置かれる。7,ディトン合意後に米中央情報局・CIAおよびドイツ情報局・BNDが協力し、アルバニア北部に訓練基地を設置する。訓練兵はヨーロッパ在住のアルバニア人、ボスニアからアラブ諸国に移住したイスラム主義者などが主なメンバーである。8,ディトン合意後、ボスニアに存在したイスラム過激派はアルバニアに移り、犯罪組織と結びつきヘロイン密輸と武器密輸に関わるようになる。
・国連安保理は非公式協議で、新ユーゴ連邦への経済制裁を停止する決議案と、ボスニア・ヘルツェゴヴィナを含む旧ユーゴスラヴィア諸国への武器禁輸について段階的に解除する決議案を、大筋で合意。
・ガリ国連事務総長は、「国連は紛争による被害を終わらせ、生活を正常化させるために、安保理で認められた範囲で成し得ることをする」との声明を発表。
・ボスニアのセルビア人勢力議会のクライシュニク議長は仮調印したボスニア和平合意について、「分割地図も含め合意は極めて不利な内容で、セルビア人勢力は仮調印に同意していない。合意は大きな過ちだ」と語る。
・メージャー英首相は、「合意への多くの困難を克服した当事者たちの勇気を称えたい。全ての紛争当事者が力を合わせるなら、国際社会は支援を惜しまないだろう」との談話を発表。
・ドイツのコール首相は和平合意を、「旧ユーゴスラヴィア全域に平和を回復する上で決定的な一歩だ。直ちに、全面的に実施されることが大切だ」との声明を発表。
・フランスのドシャレット外相は、「和平合意は、関係国と連絡調整グループの努力の成果である」と強調。
・EU議長国のスペインはボスニア和平の合意を受けて、復興援助などを通じた民生面の支援を中心に和平実施に貢献する、との声明を発表。
・明石国連事務総長特別顧問は、「セルビア政府側が合意しても、ボスニアのセルビア人勢力やその分派が合意に従うかどうか、という問題が残っている」と指摘。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「こんな内戦では、誰もが敗者だ。平和だけが勝者なのだ」と語る。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「公正な和平とはいえないかも知れない。でも戦争を継続するよりましだ」と話す。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「満足している」と述べる。
・クリストファー米国務長官は、「銃撃をかいくぐって走る日々が終わる。冬の最中に真新しい墓穴を見ることもないだろう」と
語る。
・セルビア共和国のベオグラード・テレビは、ボスニアのセルビア人支配地域では花火が打ち上げられ、祝砲が鳴らされた、喜びの様子を放映。
・クロアチア共和国では冷静に受け止められる。市民は、「合意はクリントン米大統領の求めに応じて結ばれただけだ」と語る。
・ボスニアのサラエヴォ市民は、冷静に受け止めている。
・旧ユーゴスラヴィアのミロシェヴィチ・セルビア大統領、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領の3首脳は和平協定後にボスニアに派遣されるNATO軍の各兵士の安全を、「全ての可能な手段で保障する」との署名入り誓約書をクリントン米大統領に提出。
・米共和党のギングリッチ下院議長は、包括的和平の発表に先立ってクリントン大統領と電話で会談し、10日以内に議会による現地調査団をボスニアに送り、現地情勢の把握につとめる考えを示す。
・クリントン米大統領は、ホワイトハウスからテレビで世界と全米に向けて包括的和平を発表し、「われわれの指導力がこの和平協定を可能にした」と語る。
11/22:
・国連安保理はボスニア和平合意を受け、新ユーゴ連邦への経済制裁を即時停止する条件付き決議1022を、賛成14,棄権1で採択。条件は、「1,ボスニアのセルビア人勢力が和平合意によって設定された『分離地帯』の後方に撤退したのが認められた場合に実施する。2,新ユーゴ連邦やボスニアのセルビア人勢力が違反した場合、自動的に5日後に制裁が復活する」との条件付き制裁解除決議。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は記者会見で、「2,3ヵ月内に合意が履行されない場合は、合意を破棄する」と述べ、米国の派兵実現にも強い期待を示す。
・赤十字国際委員会はセルビア人勢力の拠点バニャ・ルカに入り、避難民が厳冬期を迎え「衣料や医薬品不足で、生活の困難が予測される」との警告を出す。
・河野洋平日外相は旧ユーゴスラヴィア紛争の包括的和平合意が成立したことに対し、「心から歓迎する。冷戦後最大の地域紛争が国際社会の協力で解決に導かれた点でも大きな意義がある。復興支援について、我が国として積極的に協力していく」、との談話を発表。
・緒方貞子難民高等弁務官はデイトンの和平交渉についての記者会見で、「米国が国連を外した」と述べる。さらに、難民帰還問題に触れ、280万人の帰還には2年間はかかる、「1,ボスニア内で難民化している人々は130万人。2,旧ユーゴスラヴィア諸国内の難民82万人。3,ヨーロッパ諸国で保護を受けている難民70万人に関して3段階に分けて順次進めていく」と説明。軍事部門はNATO軍が国連保護軍に代わることが決まっているが、民生部門については明確になっておらず、国連の役割も定かではない。これは『米国の国連外しが影響している』」と語る。
・英政府は、ボスニア和平の「デイトン合意」を受け、12月上旬にロンドンで和平実施のための国際会議を開く準備を始める。
・ドイツ政府は、軍備管理のための国際会議をボンで開くことを表明。
・マカリー米大統領報道官は、クリントン大統領が27日にボスニア・ヘルツェゴビナ和平合意の意義を説明するとともに、米軍派遣への理解を求める全米演説を行なうと発表。
11/23:
・ロシア対外経済相は、国連安保理が新ユーゴ連邦に対する経済制裁停止を決議したのを受け、貿易経済協力協定など3つの協定が発効する、と表明。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ大統領は、ベオグラード近郊でミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。デイトン合意について、「我々には同意するしか選択肢はなかった。合意内容の幾つかは痛みを伴うが、完全に履行する」と述べ、一部に反論したものの受け入れを表明。
・サラエヴォの国連保護軍担当官は、デイトン合意の領土線引きについて、「1,ボスニア北部でボスニア政府とクロアチア人勢力が今年9月に奪取した、セルビア人勢力支配地域の一部を返還する。2,サラエヴォ周辺の政府側支配地域を大幅に拡大し、セルビア人勢力の前線は同市の西から東側に移動する。3,ボスニア政府側は、ボスニア東部の国連安全地区ゴラジュデとサラエヴォとの回廊を確保する」と説明。
・ペリー米国防長官はマケドニアでの記者会見で、ボスニアの平和維持のための「和平実施部隊・IFOR」に25ヵ国が部隊を送ることを表明している、と述べる。
11/24:
・ジョナサン・アイル英統合軍研究所長は、「ボスニア和平後の協定の実現は困難だろう。ムスリム人は米軍の派遣を望み、それは成功した。協定での勝者は誰かといえば、それはクロアチア共和国だ」と述べる。
11/25:
・ボスニアのサラエヴォ郊外のセルビア人勢力支配地域イリジャ地区やグルバビツァ地区の住民が、デイトンの包括和平交渉合意での「サラエヴォ統一」に反対する集会を各地で開く。住民は「ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領は、国連経済制裁の解除を取り付けるために、サラエヴォ統一に応じ、自分たちが売られた」と語る。
・国連保護軍は、「ボスニアのクロアチア人勢力の兵士が、セルビア人勢力側に移管されることになった中部の町ムルコニチグラードで組織的な略奪や放火を行なった。町の上空は煙に覆われ、10万人が住んでいたこの町で無傷の建物は殆ど残っていない」と証言。ダナット国連保護軍司令官は、ムルコニチグラード現地の破壊状況を視察後、「和平合意は調印されたかも知れないが、互いに憎しみ合う人々の態度は変わっていない」と語る。
11/26:
・ペリー米国防長官は、ボスニアのセルビア人勢力が和平協定を批判していることに関連し、「セルビア人勢力が協定履行を拒否するなら、米国は和平実施部隊を現地に送らない。ボスニアの両勢力間の軍事力均衡が軍備管理によって達成出来ない場合、米国は他の諸国と協力してムスリム人勢力側に武器供与、部隊訓練の形で軍事援助を与える用意がある」と述べ、さらにミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領がセルビア人勢力を代表して調印したことをあげ、「協定の再交渉はしない」とTVインタビューで語る。
・朝日新聞は、コラム「ボスニア和平」①~④を掲載。欧米が、クロアチア、ボスニアの独立をあっさりと承認したことに重い責任があり、国連の掲げる「予防外交」に反していた、と指摘。
11/27:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ大統領は、仏アンフォマタン紙のインタビューで「もし私や、私の仲間が逮捕されるようなことになれば、ボスニアで大虐殺が起きることになるだろう」と述べる。
・英外務省は、ボスニア復興支援会議を12月8,9日にロンドンで開く、と発表。
・クリントン米大統領はテレビ演説で、「ボスニア派兵には強力な部隊を送り込み、停戦違反には徹底的に反撃する。我々はボスニアで成功できるし、そうなる」と平和維持に自信を示す。
・ガリ国連事務総長は、旧ユーゴスラヴィア国連保護軍の活動期限が11月末で切れるため、さらに2ヵ月延長させる決議を採択するよう安保理に要請。
11/28:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ大統領は、パレでボスニア和平合意に伴う和平実施部隊への米軍派遣について、「もし完全に公平に行動するなら、ここで友人を見つけるだろう」とCNN・TVの生中継で述べる。
・ドイツ政府は閣議で、ボスニア派遣のNATO軍に4000人の部隊を参加させることについて、議会の承認を求めると決める。
・ペリー米国防長官とグラチョフ露国防相はボスニア「和平実施部隊・IFOR」の政治的統制について会談し、「NATO16ヵ国とロシアで構成する防護委員会を設ける『16プラス1』方式を採用する」ことで合意。
・国連安保理は、クロアチア信頼回復活動・UNCROに代わる、新たな国連平和維持活動・PKOを派遣する方向で検討に入る。
11/29:
・クリントン米大統領は、欧州歴訪初日にメージャー英首相と会談。ボスニア派遣の平和実施部隊の中核となる米英が、連携をより深めていくことを確認。
・ガリ国連事務総長は、ボスニアのスレブレニツァでの虐殺について、難民や強制退去された住民および国連保護軍などの証言を基に、3500人から5500人が行方不明になっている、との報告書を安保理に提出。遺体の発見などの直接の証拠は示されず。
・フランス外務省は、ボスニア和平協定の調印式が12月14日にパリで行なわれる、と発表。
・シラク仏大統領はクリントン米大統領に書簡を送り、和平協定を変更する必要はないが、ボスニアのサラエボに住むセルビア人に米仏など関係国は安全の保障を与えるべきだ、と提案。
11/30:
・国連安保理は、旧ユーゴスラヴィアの包括和平合意を受け、クロアチア信頼回復活動・UNCROを1月15日で終了させる決議1025、国連保護軍・UNPROFORの活動を来年1月末で終了させる決議1026,、マケドニア共和国に駐留するUNPREDEPの職務権限延長決議1027、の3つの関連決議を採択する。
・ペリー米国防長官は米下院国際関係委員会の公聴会で、ボスニア紛争そのものの「主要な原因」がムスリム人勢力とセルビア人勢力との軍事力の不均衡にあった、との考えを示す。ボスニア連邦とセルビア人共和国との「軍事力の均衡」が和平協定の発効後6ヵ月を経過しても達成されない場合、劣勢にあるボスニア連邦の軍備強化に米政府が乗り出す、との方針を明らかにする。
・クリントン米大統領は、ボスニア和平実施部隊の一員として派遣する経費を含む、国防予算2430億ドルの歳出法案に署名。
・ドール米共和党院内総務は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに近く派遣することになる和平実施部隊への米軍の参加に慎重だった姿勢を変更し、支持する考えを表明する。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、スロヴェニア共和国が新ユーゴ連邦を承認すると共に、外交関係の正常化を提案した、と伝
える。
11/00:
・UNHCRはデイトン合意の時点で、難民・避難民はボスニア・ヘルツェゴヴィナ内に129万7000人、旧ユーゴスラヴィアの他の共和国内に82万人、欧州の各国に70万人、凡そ300万人の難民・避難民が存在していると推定。
12/01:
・NATOは大使級理事会で、ボスニアへの「和平実施部隊・IFOR」先遣隊として2600人をボスニアとクロアチアに配置することを決める。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、セルビア社会党の重要幹部であるヨヴィチ副党首、マルコヴィチ副党首、ベオグラード市とヴォイヴォディナ自治州の現地党委員長など、デイトンでの包括的和平交渉において「経済制裁解除」を優先した大統領の方針に疑問を呈した党幹部を更迭する。独立系新聞のナシャ・ボルバ紙は、この解任劇を「大粛清」と報じる。
・「ボスニア和平」デイトン合意により、ボスニアのサラエヴォ地区がボスニア連邦の統一支配下に入ることで、セルビア人弾圧が行なわれるのではないかとの恐れを抱いたセルビア系住民が離脱を始めている。
・ボスニア政府側のラジオ放送は、サラエヴォのセルビア人居住地のイリジャで、戦闘要員を除いた女性や子どもが避難を始めた、と報じる。サラエヴォ市が和平合意によって、ムスリム人とクロアチア人両勢力による「ボスニア連邦」が統一支配することになった影響と見られる。
12/02:
・クリントン米大統領は、ボスニアに派遣されるIFORの米軍部隊第1機甲師団の将兵を激励するために、ドイツ・バウムホルダー駐屯地を訪問。「諸君が行かなければ、平和のドアが閉まり、再び戦争になる。そうさせてはならない」と演説。
・ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ総司令官はデイトン和平合意について、「賛成できない。サラエヴォのセルビア人地域はパリ会議でもっと良い解決を見出すべきだ」と統一サラエヴォに対して再交渉を求める姿勢を示す。
・ボスニア連邦のクロアチア人勢力のズバク大統領が辞意を表明する。イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領がデイトン和平合意でポサビナ回廊をセルビア人に与えたことに、反対していたことが辞任の理由になっていると見られる。コルジッチ・クロアチア民主同盟党首も同時に辞任する。コルジッチ党首は、旧ユーゴ国際戦犯法廷からムスリム人大量殺戮に加担した罪で起訴されている。
・米共和党のジョン・マケイン上院議員は、ボスニアへの米軍派兵に対し消極的承認を与えるとともに、米軍の役割限定やボスニア連邦政府側の軍事力増強などの条件を示す。
12/03:
・クリントン米大統領はマドリードで記者会見し、ボスニア和平実施部隊・IFORの先遣隊として700人を送ることを承認したと語る。
・ボスニアのサラエヴォ市で、デイトン和平合意によってサラエボがボスニア連邦の統一支配下に置かれることに反対する集会が、北郊のイリアシュ地区で3000人を集めて開かれる。
・ボスニアのセルビア人共和国のアレクサ・ブハ外相は、ボスニアのサラエボ市がボスニア連邦の支配下に移行することについて、「2,3年の猶予期間が必要だ」と述べ、14日のパリ和平会議の正式調印までに国際的に承認されることを要求する立場を表明。サラエボ市は人口55万人で、セルビア人は30%を占める。
・シャリカシュビリ米統合参謀本部議長は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領がイスラム諸国からの義勇兵を入れて同国政府軍を支援させてきたことに対し、その義勇兵の出国を要請する方針であることを明らかにする。
12/04:
・ボスニアのサラエヴォのセルビア系住民が新に設置した「サラエボ市議会」は、「1,サラエヴォのセルビア人支配地域を連邦に帰属させる分割地図案に反対する。2,セルビア人居住の権利を保証する」との特別文書を作成。この文書内容を、パリ和平会議で採用することを求める特別宣言を採択し、さらにデイトン和平合意の賛否を問う住民投票を、12日に同地区で行なうと表明。
12/05:
・NATO加盟16ヵ国の外相と国防相の合同会議が開かれ、ボスニアの「和平実施部隊・IFOR」への6万人派遣計画を承認する。作戦名は「ジョイント・エンデバー」で、ボスニアを3地域に分けて兵力引き離しや停戦監視活動を行なう。
・シャリカシュビリ米統合参謀本部議長は、和平実施部隊は大型戦車や攻撃ヘリ、重火器などで重装備をしており、停戦違反や同部隊に対する「敵対行為」だけでなく、「敵意」にも強力な攻撃が許される、と述べる。
・河野洋平日外相は、8,9両日にロンドンで開かれるボスニア復興支援会議への出席を決める。
・緒方貞子難民高等弁務官は、ボスニアの難民270万人を3段階で帰還させる計画を発表。
12/06:
・ドイツ連邦議会は、NATO軍を主体としたボスニアへの和平実施部隊・IFORにドイツ連邦軍4000人を派遣する政府提案を、賛成543,反対107、棄権6で承認する。派遣期間は1年と限定する。
・コール独首相はボスニアへのドイツ連邦軍派遣の提案説明の中で、「セルビア共和国からの独立を求めているコソヴォ自治州のアルバニア系住民の権利保護を求める。コソヴォ問題はセルビア政府に対する要求の中心をなす。旧ユーゴスラヴィアでの包括的で正義にかなった和平は、コソヴォ問題の公正な解決抜きでは不可能だ」と述べる。
12/07:
・欧州安全保障協力機構・OSCEの外相理事会が、ハンガリーのブダペストで開幕する。デイトン和平合意でOSCEに求められているのは、「1,自由で公正な選挙の実施。2,人権の監視。3,ムスリム人およびクロアチア人両勢力とセルビア人勢力の軍備管理・軍縮の枠組み作り。4,軍事的信頼醸成措置の促進」など。
・米下院議員184人が、ボスニアに平和実施部隊として派兵しないよう要請する署名書簡をクリントン米大統領に送付する。
・米上院軍事委員会で共和党のハッチンソン議員は、「米兵を危険な目に遭わせるのは、米国の国益が関わっている場合に限るべきだ。ボスニアは内戦で、周囲に広まる恐れもない」と派兵を批判。
・米国の世論調査では、ボスニア派兵反対が57%、賛成が30%。
・ペリー米国防長官はボスニアに派兵する米軍に対し、「ボスニア紛争ではムスリム人が虐待されてきた。我々は心理的には中立ではない。しかし、和平実施活動に当たっては、各派を公平に扱うよう」指示するとともに、「ボスニア政府軍の訓練などは行なわない」と言明。
12/08:
・ボスニア和平実施会議が、国際的な支援体制をつくるためにロンドンで開かれる。メージャー英首相は、「目的は、国際社会がこれまでに劣らない多大な努力をする用意を示すことにある」と冒頭で演説。「1,ボスニア和平実施会議で、『旧ユーゴ和平国際会議』に代わり和平実施評議会・PICを創設する。2,和平実施評議会は、ロンドン会議に参加した44ヵ国と10の国際機関で構成する。3,日常的な運営機関として、主要7ヵ国の一員として日本も加わった運営理事会を設置。4,運営理事会はカール・ビルト旧ユーゴ和平国際会議共同議長を議長とし、主要7ヵ国とロシア、欧州委員会、EU、イスラム諸国会議機構・OICが参加する。5,文民部門上級代表事務所・OHRを設置し、上級代表にはカール・ビルト共同議長を全会一致で任命する」などを決める。
和平協定の文民部門の内容については、詰めが遅れる。文民に関わる機関は、国連難民高等弁務官事務所・UNHCR、欧州安全保障協力機構・OSCE、赤十字国際委員会、世界銀行、国際金融機関など。これらの各機関の調整は、国連決議による文民部門上級代表が行なう。ただし、和平実施部隊・IFORは文民上級代表への協力を任務とせず、文民上級代表にはIFORへの指揮系統に介入する権限が付与されていない。
・欧州安全保障協力機構・OSCE外相理事会は、ボスニア和平協定で同機構に委ねられた選挙の実施・監視や人権擁護、軍備管理などの業務を担当するために200~300人規模の派遣団を1年間現地に送ることと、費用2億4500万オーストリア・シリング(25億円)を決める。1月12,13日に詳細を検討する。
・河野洋平日外相はリフキンド英外相と会談し、ボスニア復興支援などに積極的に貢献していく考えを表明。河野洋平日外相は日本の貢献策として、「1,当面の緊急課題になっている難民の越冬資金などの緊急人道援助。2,世界銀行などが中心となる復興支援策づくりへの協力。3,来夏以降に予定される国政選挙の選挙監視委員会への派遣」など。
12/09:
・ボスニア和平実施ロンドン会議は、2日間の日程を終了する。この会議では、「1,軍備管理会議を12月18日にボンで開くこと。2,ボスニアの中長期的な復興や開発のために必要な資金を提供する国や国際機関が拠出額を決める復興支援会議を来年3月に開くこと。3,さらに、和平の実施状況を検討する『和平実施評議会・PIC』を来年6月にイタリアで開催すること」などを決める。
・緒方貞子難民高等弁務官は紛争3カ国の首都を廻って大統領や首相と会い、難民帰還についての協力を依頼する。帰還に当たっては、「難民1人1人の意思を尊重しながら、先ずこの冬を乗り切ることに力を注ぐ」と今後の活動について語る。
・ボスニア和平会議に参加したウォルフェンソン世界銀行総裁は、ボスニアを復興させるために向こう3年間で49億ドルの資金が必要との見積もりを、基調報告の中で明らかにする。
12/10:
・「ロシアの声」放送は、ロシアの原子力空母「アドミラル・クズネツォフ」 が、旧ユーゴスラヴィア地域へのNATO軍の和平実施部隊・IFORの活動に参加するため近日中に地中海へ向かう、と報じる。
12/11:
・クリントン米大統領は米議会に書簡を送り、NATO軍を中心としたボスニア和平実施部隊への米軍の参加を承認するよう正式に求める。
12/12:
・フランス大統領府は、昨年のNATO軍の空爆の際にボスニアのセルビア人勢力に撃墜されたフランス人パイロット2人が釈放された、と発表。
・ボスニア・サラエヴォのセルビア人居住地区で、デイトン和平合意で定められたボスニア連邦の統治を受け入れるかどうかの住民投票が、セルビア人住民14万人が住むサラエヴォ周辺地区の117ヵ所で行なわれる。
12/13:
・ボスニア・サラエヴォのセルビア人居住地区で行なわれた、ボスニア連邦の統治を受け入れるかどうかの住民投票は、投票率91.74%で、反対が98.78%、賛成0.83%、と選挙管理委員会が発表。
・ボスニア・パリ和平会議を前に、関係国の外相級会議がパリ郊外で開かれる。参加した関係国は、連絡調整グループの5ヵ国にOSCEなど欧米関係国・機関を加えた拡大連絡調整グループと旧ユーゴスラヴィア紛争当事国のボスニア、クロアチア共和国、新ユーゴ連邦、イスラム諸国会議機構・OICなど。共同宣言で、「異なる勢力が相違を認めながら、統一ボスニアを再建設する和平の実施は、全ての当事者の意思と国際社会の協力にかかっている」と発表。さらに、南東欧安定化条約の締結に向けた円卓会議の開催提案を共同宣言に盛り込む。
・米上院は、下院が議決した経費に議会承認を義務づける法案を否決することで、米軍のボスニア和平実施部隊・IFORへの派兵に消極的承認を与える。
・ガリ国連事務総長は、クロアチアへ派遣する部隊は強力な軍備を持つ多国籍軍が望ましいとする報告書を安保理に提
出。
・オルブライト米国連大使は、平和維持活動・PKOの派遣を求めるべきだと反対声明を発表。
・ドシャレット仏外相は記者会見で、新ユーゴ連邦とボスニア・ヘルツェゴヴィナおよびクロアチア共和国とが14日にも相互承認する可能性があると語る。
12/14:
・パリの大統領府で「ボスニア和平協定・デイトン合意」に関する正式調印式が開かれる。調印式には、ムスリム人、クロアチア人、セルビア人の各代表、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、クリントン米大統領、シラク仏大統領らが参加し、協定文書に正式調印。
和平協定文書:「1,『ボスニア連邦』と『スルプスカ共和国(セルビア人共和国)』は隣国と特別な関係を持つ権利を有する。2,ボスニア議会は上院と下院の二院制を設置する。上院は15人の代議員で構成され、3分の2は『ボスニア連邦』、3分の1は『セルビア人共和国』とする。下院の定数は42で『ボスニア連邦』から3分の2、『スルプスカ共和国(セルビア人共和国)』から3分の1を選出。
憲法:「1,『ボスニア・ヘルツェゴビヴィナ』は、現在国際的に認められた国境線の中で単一国家として存続し、中央政府の首都はサラエボとする。2,中央政府は外交、対外貿易、関税、金融、航空管制などに責任を負う。3,『ボスニア・ヘルツェゴヴィナ』はムスリム人勢力とクロアチア人勢力の『ボスニア連邦』と、セルビア人勢力の『スルプスカ共和国(セルビア人共和国)』で構成される。4,ボスニア幹部会はムスリム人、クロアチア人、セルビア人各1人の3人で構成し、幹部会員は『連邦』と『共和国』の中から直接選挙によって選出する。5,旧ユーゴ国際刑事法廷で有罪判決を受けた者、および同法廷の出廷命令を拒否した者は公職に就くことは出来ない」。
軍事:「1,北大西洋条約機構・NATOが指揮する『和平実施部隊・IFOR』を創設する。任務は停戦監視や兵力の引き離しとする。2,ボスニア内にいる外国の軍事勢力は30日以内に撤退する。3,紛争各勢力は30日以内に停戦ラインから完全撤退し、ラインの両側各2キロ計4キロの非武装地帯を設置する。違反者に対してはIFORが軍事力を行使する。4,紛争各勢力はIFORへの権限移譲後、120日以内に全ての重火器を武器庫に撤収させる。重火器とは、戦車、装甲車輌、75ミリ以上の砲門、81ミリ以上の迫撃砲、20ミリ以上の対空砲をいう。5,IFOR司令官と紛争各勢力代表を含む合同軍事委員会を創設する」。
地域の安定:「1,協定発効後1週間以内に、『ボスニア・ヘルツェゴビナ中央政府』、『ボスニア連邦』、『スルプスカ共和国(セルビア人共和国)』は欧州安保協力機構・OSCEの支援のもと、相互信頼醸成のための交渉を開始する。2,協定発効後90日間はいかなる武器の輸入も禁止する。3,協定発効後180日間は重火器、地雷、軍用機、ヘリコプターの輸入を禁止する。4,重火器、戦闘機、攻撃ヘリコプターの保有数量制限に関する交渉を30日以内に開始する」。
領土・地図:「1,領土は『ボスニア連邦』が51%、『スルプスカ共和国(セルビア人共和国)』が49%を管理する。1,ブルチコ地域のポサビナ回廊の扱いは、協定発効後1年以内に国際調停によって決定する。2,協定発効後半年以内に『ボスニア連邦』と『スルプスカ共和国』がそれぞれ1人の調停者を指名する。3,首都サラエヴォは、『ボスニア連邦』の領土内で再統合される」。
選挙:「1,協定発効後6ヵ月以内に新国家である『ボスニアヘルツェゴヴィナ中央政府』、『ボスニア連邦』、『スルプスカ共和国(セルビア人共和国)』の幹部会と議会の自由かつ公正、民主的な選挙を実施する。OSCEが選挙の延期を必要と認めれば、これら選挙は協定発効後9ヵ月以内に実施する。2,OSCEに対して選挙の監督を要請する」。
人権:「1,欧州人権保護条約に定められた最高水準の人権と自由を保障する。2,人権侵害を調査するための人権監視委員会を設置する」。
難民・避難民:「1,全ての難民と避難民は、自分の家に自由に帰還する権利を有する。2,難民・避難民が民族や宗教、政治的立場によって迫害や脅迫、差別を受けることなく、安全に帰還できることを保障する」。
民生:「1,和平合意の民生的側面を実施するため、上級代表を指名する。2,上級代表は、民生に関する各機関、委員会を調整し、監督する」。
・註・この協定において上級代表の権限が明確に規定されなかったことから、当初は各機関の調整を主任務としていた。しかし、97年に上級代表の交代が行なわれるに伴って次第に権限を拡大解釈するようになり、やがて国家としてのボスニア・ヘルツェゴビナにおける最高意思決定機関に変貌していくことになる。
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領は、「苦いがよく効く薬を飲んでいるようだ。私たちは誠意を持ってこの協定に調印した。私たちの目標は統一されたボスニアである。それを達成するのは私たち次第であろう。私たちが何を求め、何が出来るのかにかかっている。私たちはセルビア人に戦争が終わったと分からせなければならない。復讐ではなく正義を求める」と述べる。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「この協定が何年間も戦争をしてきた人々の問題を全て解決するものではない。国際社会が平等に3ヵ国を処遇しないなら協定は崩壊する」と語る。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「私たちは今、私たちの時代で最も複雑で悲惨な戦争を終わらせるため、歴史的かつ大きな一歩を踏み出した。これは新しい国際秩序の形成に欠かせない」と述べる。
・クリントン米大統領は、「和平協定の内容を実際の生活の中で実現し、希望に転じていかなければならない」と述べる。
・コール独首相は、「平和をもたらすために、我々は兵士を送り、様々な手助けをしようとしている」と述べる。
・シラク仏大統領は、「この希望が、紛争で亡くなった10万人の人々の記憶を消し去ることは出来ない。当事国の指導者たちが戦争と憎しみのページをめくるように望む」と語る。
・チェルノムイルジン・ロシア首相は、「新ユーゴ連邦への経済制裁解除によって真の平和を築くための環境が整う。ロシアとしても積極的に和平実施部隊に協力していきたい」と述べる。
・ボスニアのサラエヴォでは式典もなく、夜間の外出禁止令が出されたままとなる。
・サラエヴォ南方で、国連保護軍のフランス部隊のヘリコプターがボスニア政府軍から銃撃を受け機体に4発が命中。
・サラエヴォのセルビア人勢力が、サラエヴォ南部の墓地など3ヵ所にロケット弾6発を撃ち込んだ、と報じられる。
・ボスニア中部のジェプチ近郊では、クロアチア人勢力と中東諸国からムスリム人勢力を支援するために入り込んだイスラム義勇兵とが交戦し、死傷者が出る。
12/15:
・国連安保理は、NATO軍主導の多国籍軍ボスニア和平実施部隊・IFOR創設を承認し、「あらゆる必要な手段」で武力行使を容認し、OHR上級代表のポストを是認する決議1031を全会一致で採択する。
12/16:
・NATOは臨時大使級理事会を開き、ボスニアへの「平和実施部隊」派遣をする、「ジョイント・エンデバー」作戦発動を決定。
・「和平実施部隊・IFOR」にはNATO加盟15ヵ国にロシア、「平和のための協力協定・PFP」参加の13ヵ国やパキスタンなどイスラム諸国を加えた31ヵ国が参加する。
12/18:
・新ユーゴ連邦のリリッチ大統領は訪中して江沢民中国国家主席と会談し、投資奨励と保護協定に調印。経済復興に向けて協力関係を強化することを約束。
・米軍は、輸送機27機で、ボスニア和平実施部隊・IFORに参加するための兵士、武器などをボスニア北東部のトゥズラ空港に輸送。
・ボスニアの紛争当事者による軍縮会議を、ボンで開催。
・クロアチアのグラニッチ外相は、「セルビア人勢力が支配している東スラヴォニア地方がクロアチアに帰属することを新ユーゴ連邦が承認しない場合、会議から退席する」と表明。
・リフキンド英外相は、「デイトン協定に調印したクロアチア共和国が、同協定に基づく和平プロセスを破壊することは許されない」と記者団に述べる。
・ボスニア紛争当事者による軍縮会議は、次の合意を見て閉幕。「A:ボスニアのムスリム人、クロアチア人、セルビア人の3勢力による交渉は1月4日から1月26日まで行なう」。「B:新ユーゴ連邦、クロアチア共和国、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの3ヵ国の交渉は1月4日から5ヵ月にわたって行なう」。
12/19:
・国連は、ボスニアの国連保護軍・UNPROFORの権限をNATO軍中心の和平実施部隊・IFORに、20日に移譲すると発表。
・欧州安保協力機構・OSCEは、ボスニアで選挙実施・監視や人権保護を担当する派遣団の代表にロバート・フロウィック米外交官を任命。
・ボスニアのセルビア人勢力支配地域のブルチコ地域のボサビナ回廊で、米軍部隊がセルビア人武装勢力に包囲されて
撤退する。
12/20:
・国連保護軍・UNPROFORからNATO軍への権限移譲が行なわれ、ソラナNATO事務総長はボスニア・ヘルツェゴヴィナの和平実施部隊・IFORとして1万7000人が到着したと発表。
・IMF・国際通貨基金理事会は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの加盟および当面の緊急援助として4500万ドルの融資を承認する。
12/21:
・国連安保理は、国際警察タスクフォース・IPTFおよび国連ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・ミッション・UNMIBHを設立し、この問題に引き続き取り組むことを含む、決議1035を採択する。
12/22:
・米ホワイトハウス報道官は、ボスニア政府軍の支援活動をしていたイスラム義勇軍が撤退を始めた、と発表。
12/24:
・ボスニアの和平実施部隊・IFORは、北西部のクロアチア人勢力支配地域のヤイツェ上空で銃撃を受けた、と発表。弾は外れたが、IFORの軍用機が銃撃を受けたのは3度目。
12/28:
・ボスニアの和平実施部隊・IFORのサラエヴォ周辺の兵力引き離しを担当しているフランス部隊担当者は、ボスニア政府とセルビア人武装勢力が計40ヵ所の主要な陣地を27日にIFORに明け渡して撤退した、と発表。
・クリントン米大統領は新ユーゴ連邦に対する経済制裁措置の解除を決定し、旧ユーゴスラヴィア諸国に対する武器禁輸措置も段階的に解除するよう、クリストファー米国務長官に指示。
12/30:
・ボスニア北部でボスニア和平実施部隊の米軍兵士が地雷に触れて、1人負傷。
12/31:
・ボスニア和平実施部隊・IFORの米軍部隊が、クロアチアのジュパニャ付近の国境地帯にある幅300メートルのサバ川に浮き橋を完成。米軍2万人の主力部隊がボスニア領内へ本格展開する重要路となる。
12/00:
・日本政府は、ボスニアの人道援助として2000万ドルを拠出すると表明。
・国連保護軍に代わり、NATO軍を主力とする重装備の7万人の多国籍軍部隊がボスニアをそれぞれに分割駐留し、活動を開始する。
1995/00:
・IMFおよび国際債権団は、旧ユーゴスラヴィアの各共和国の債務をそれぞれの共和国に分割し、「新ユーゴ連邦(セルビア・モンテネグロ)・36%、クロアチア・28%、スロヴェニア・16%、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・16%、マケドニア・5%」と決定する。
・マケドニア共和国は株式市場を開設したが、市場は民営化機構の付属機関と化す。
01/02:
・ボスニア政府は、「サラエヴォ西部のセルビア人勢力支配地域で、セルビア人勢力が市民16人を拉致した。これは首都での通行の自由を決めた和平協定違反だ」と非難。
・NATO軍主体の和平実施部隊・IFORは、拉致の事実を確認していない、と述べる。
・ボスニア北東部トゥズラの和平実施部隊の地雷処理担当官は、「200万から700万個の地雷が敷設されていると思う」と述べる。米軍が展開する北東部の30~40%が地雷原となっているが、2週間程度で撤去作業は終了するという。
01/03:
・ボスニアの和平実施部隊スポークスマンは、英国兵2人がサラエボ郊外で地雷または不発弾により、負傷したと発表。
・ペリー米国防長官はボスニアのサラエヴォを訪問して記者会見を行ない、「サラエヴォに新しい時代が来ると信じている」と述べる。ペリー国防長官は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談した後、トゥズラを視察。
01/04:
・ボスニア和平協定による紛争当事者間の信頼醸成措置のための交渉が、欧州安全保障協力機構・OSCEの仲介でウィーンで始まる。今回の交渉は、「兵力の引き離しや情報交換、相互査察を通じて戦闘再開の危険を回避するために、重火器の前線からの撤去や武器数についての情報交換」をするなど、9項目の信頼醸成措置を達成するもので、26日まで続けられる。
・ボスニア和平実施部隊・IFORのNATO軍スポークスマンは、サラエヴォのセルビア人勢力が拘束していたムスリム人市民16人のうち先に3人を解放し、後に13人を解放したと発表。
・ボスニアのサラエヴォ市で、和平実施部隊のイタリア部隊兵士が銃撃を受け、NATO軍が狙撃者に反撃して自動小銃を発砲。
01/05:
・ロシア上院は、ボスニアに展開するNATO軍主導の和平実施部隊・IFORに、ロシア軍1個旅団1600人を派遣する方針を圧倒的多数の賛成で承認。国防省参謀本部作戦総局次長のシェフツォフ大将は、ロシア軍はポサビナ回廊東部のセルビア人勢力の地域に展開するほか、米軍と共同でブルチコの巡回に当たる、と語る。
・欧州安保協力機構・OSCEが明らかにしたことによると、ウィーンで行なわれているボスニア紛争当事者間の信頼醸成措置交渉で、ボスニア連邦とセルビア人共和国(スルプスカ共和国)が相互に連絡事務所を設置することで合意。連絡事務所は、先ずサラエヴォに設置する。
・米国務省はボスニア和平実施担当特使に、ガルーチ朝鮮問題担当大使を任命する。
・ボスニアのモスタルのムスリム人とクロアチア人両勢力の支配地域を分ける道路で、ムスリム人警察官2人がクロアチア人勢力側から銃撃を受け、重傷を負う。
01/06:
・ボスニア南部モスタルに駐在のEUの報道担当者は、ムスリム人とクロアチア人両勢力の支配地域を分ける道路で、クロアチア人警察官が銃撃され1人が死亡した、と発表。
01/07:
・ボスニアの和平実施部隊・IFORに参加しているNATO軍は、フランス軍のファルコン50輸送機がサラエヴォ空港に着陸する際に銃撃を受けた、との声明を発表。声明では「銃撃が紛争当事者によるものであることは明らかであり、各派の指導者による統制が不十分であることを示している」と述べる。
・ボスニア中部のムスリム人勢力とクロアチア人勢力で構成する管轄地域のトラブニクとビテズの間の道路で、英国人兵士の乗った車輌に向かって数発の発砲があり、英国兵側も応戦したが負傷者はなし。
01/09:
・UNHCRが指揮してきたボスニアのサラエヴォへの人道援助物資の空輸は、この日をもって終了する。UNHCRによると、飛行回数は1万3000回に上り、食料や医薬品など16万トンの空輸は「ベルリン空輸」をはるかに上回る。
・ボスニアのサラエヴォで、市電に小型ロケット弾が命中し乗客の市民1人が死亡し、6人が負傷する。IFORスポークスマンは、「サラエボのセルビア人勢力のグルバビツァから発射された」と発表。ロケット弾が撃ち込まれた後の銃撃に、フランス部隊が応戦。
・サラエボのセルビア人勢力は、市電へのロケット攻撃を否定。
・サラエヴォ北部のセルビア人勢力支配地域で、ボスニア連邦に管轄が移管されることに不満を募らせたセルビア人勢力が自派陣地を破壊。
・ボスニア政府は、「戦争犯罪人以外の市民の安全を保障する」とセルビア人住民に対して公言しているが、信頼はされず。
・ボスニア南部のモスタル市で、クロアチア人勢力支配地域からムスリム人居住区にロケット弾が撃ち込まれ、ムスリム人勢力側も重火器で応戦。家屋数棟に被害が出たが負傷者は出ていない模様。
01/10:
・ボスニア政府とサラエヴォのセルビア人勢力との間で、サラエヴォからのセルビア人住民の大量脱出回避策について協
議。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はNATO軍のスミス司令官との会談で、サラエヴォの市電に小型ロケット弾を撃ち込んだ事件はセルビア人勢力が関与したものではない、との見方を示す。
01/11:
・ボスニアのサラエヴォ市全域がボスニア連邦の管理下に入ることに脅威を抱いたセルビア人住民12万人が、グルバビツァ地区などから集団脱出を図る。サラエヴォからパレに至る30キロの2車線の幹線道路は車で大渋滞を来たし、路肩が崩れてロシア軍の装甲車が崖下に転落するという事態にまで至る。セルビア正教会聖職者は、「最終的には、9割のセルビア人住民人が脱出するだろう」と語る。
01/12:
・国連安保理は、5000人規模の軍事部門を持つ新たな国連平和維持活動・PKO「国連東スラヴォニア・バラニャ・西スレム暫定行政機構・UNTAES」をクロアチア共和国に派遣することで大筋合意。同地域がクロアチア共和国に移行するまでの1年間、この地域を統治して武装解除などに当たる。暫定行政機構は民生部門と軍事部門を持ち、民生部門は「1,警察の創設。2,難民の帰還支援。3,選挙の実施。4,経済再建の支援」などを行なう。軍事部門は、「武装解除の促進や監視の他、駐留することで平和と安全の維持に貢献する」任務を行なう。
・クリントン米大統領は、ボスニアの和平実施部隊・IFORに参加している米軍を慰問するなどのため、歴訪に出発。
・ロシアの和平実施部隊の第一陣がトゥズラに到着し、米軍と合流。
01/13:
・国連本部は、ボスニア和平合意に基づく「国連特別編成国際警察・UNIPTF」の要員として、日本政府に文民警察官の派遣を要請。日本の外務省当局は、「現地の情勢が安定しておらず、今のままでは国民の理解を得るのは難しい」と派遣要員の安全を理由として断る。
・クリントン米大統領は、ボスニアの和平実施部隊として派遣されている米軍現地司令部のあるトゥズラに到着し、7000人の米軍兵士を激励。帰途大統領はザグレブに立ち寄りトゥジマン・クロアチア大統領と会談し、ボスニア連邦の維持が、和平協定の「主要な柱の一つ」だとしてボスニアのクロアチア人、ムスリム人両勢力間の緊張緩和の必要性を強調。
01/14:
・朝日新聞によると、ボスニア和平協定によってサラエヴォ市がムスリム人の支配領域とされたことから、協定締結直後の12月14日頃からセルビア系住民12万人が居住するグルバビツァ地区からは大量の住民が脱出し始め、1ヵ月を経ても道路は渋滞状態が続く。最終的には、9割を超す人々がサラエボヴォを脱出するであろうという。
01/15:
・国連安保理は、5000人規模の軍事部門を持つ新たな国連平和維持活動「国連東スラヴォニア・バラニャ・西スレム暫定行政機構・UNTAES」をクロアチアに派遣する決議1037を、全会一致で採択。 さらに、ユーゴ連邦のモンテネグロに接するクロアチアのプレブラカ半島に、軍事監視団・UNMOPを派遣する決議1038も全会一致で採択。
01/16:
・ボスニアの難民・避難民の帰還計画を話し合うための、旧ユーゴ問題国際会議の人道問題作業部会がジュネーブの国連本部において、40ヵ国が参加して開かれる。
・日本政府代表は、UNHCRが計画している家屋修復に使う「住宅信託基金」設立に賛意を表す。
01/17:
・ガリ国連事務総長は、クロアチアへ派遣される「国連東スラヴォニア暫定行政機構・UNTAES」に必要な要員が、軍事・民生部門合わせて6750人となることを安保理に報告。
01/18:
・ソラナNATO事務総長は、20日に期限が設定された「全武装勢力の停戦ライン沿いの兵力引き離し、緩衝地帯設置、捕虜の相互釈放」などのボスニアの和平実施状況について、「各派の撤退が実行されている」と楽観的な見通しを述べる。
・ボスニア連邦(ムスリム人勢力とクロアチア人勢力で構成)は、捕虜の全員釈放を拒否する。
01/20:
・G7がパリで開かれ、ボスニアの緊急復興支援として世界銀行の日本基金を通じ、総額5000万ドルを準備することを表明。
01/22:
・シャタック米国務次官補は、ボスニアのスレブレニツァの虐殺事件の捜査・立証のために、NATO軍の協力を得られるとの見通しを明らかにする。
・NATO軍のルパート・スミス司令官(英)はスレブレニツァの虐殺事件の捜査について、旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷・ICTYのゴールドストーン判事と会談した結果、「適切な次期に、適切な支援をする」との声明を発表。
註;スレブレニツァの虐殺事件の疑いは、現時点では害者側のムスリム人住民の証言が基になっており、証言に見合う遺体などの物証は得られていない。
01/23:
・ソラナNATO事務総長はガリ国連事務総長宛てに、「紛争当事者は、分離地帯からの撤退要求を満たしている」との書簡を提出。
・日本政府は閣議で、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ」を国家として承認することを決める。
・「旧ユーゴ国際戦犯法廷」は、これまでに人道に対する罪で52人を起訴。52人のうち、45人がセルビア人、7人がクロアチア人。
01/26:
・ドイツ連邦と16州は合同の内相会議を開き、ボスニアの和平が確実になり次第、ボスニア難民32万人を7月から段階的に母国に送還することを決める。
・ボスニア連邦政府のズバク大統領は、セルビア人勢力議会のクライシュニク議長とパレで捕虜問題について協議し、双方が拘束している捕虜の全員釈放で合意する。
01/27:
・ボスニア政府当局者は、同勢力が拘束しているセルビア人捕虜323人を釈放する方針を確認。
01/28:
・サラエヴォのイリジャ地区のNATO軍司令部の本部付近で、米兵が銃撃され1人が負傷。
・赤十字国際委員会は、セルビア人勢力がサラエヴォ空港で拘束していたムスリム人74人やクロアチア人150人を釈放し、またボスニア連邦政府やクロアチア人勢力がサラエヴォやゼニツァ近郊などで拘束していたセルビア人を釈放したことで、計530人が釈放されたと発表。赤十字が掴んでいたリストには、900人分が記載されているので、まだ拘束されている者がいると指摘。
・ボスニア和平実施部隊・IFORの英国部隊が、ボスニア中部の町ムルコニチグラード付近を移動中に装甲車が地雷に触れて爆発し、兵士3人が死亡。
・IFORスウェーデン部隊の装甲車がボスニア北部で川に転落し、兵士1人が死亡。
01/29:
・赤十字国際委員会は、ボスニアの捕虜釈放に関し、紛争勢力各派が依然として112人を拘束し続けているとして懸念を表明。112人のうち63人は戦争犯罪の容疑があり、捜査の対象になるとしても、49人は和平協定に基づいて即刻釈放しなければならない。また、ムスリム人勢力がセルビア人勢力の捕虜を拘束しているトゥズラ収容所への赤十字による検証を理由なく拒否している、と批判。
01/30:
・ボスニア東部を支配しているセルビア人勢力の現地師団幹部は、「和平実施部隊・IFORが和平協定に定められた領土分割ラインを尊重せずに、セルビア人勢力側の領土を不当に占拠している」と非難。IFORが占拠している地域は、トレビニェ、リュビニェ、ストラッツ、ネベシニェ周辺などの117.8平方キロ。
・ボスニア政府当局は、セルビア人勢力のジュキッチ中将をIFORとの会合に出席するために車で向かう途中、身柄を拘束する。
・ボスニア連邦議会の最大与党である民主行動党は、シライジッチ首相が中央政府への集権を強硬に主張して妥協しないことを理由として党から除名し、議会はムラトヴィチ国務相を新首相として選出する。
01/31:
・ボスニアのサラエヴォのイリジャ地区郊外で、IFORの米軍と英国軍の各車輌が小火器で銃撃される。
01/00:
・「ボスニア連邦」と「スルプスカ共和国(セルビア人共和国)」および、「クロアチア共和国」と「新ユーゴ連邦」の四者の軍縮協定交渉が、欧州安保協力機構・OSCEの事務所があるウィーンで始まる。OSCEとしては、4者の軍縮協定が纏まらなければ、新ユーゴ連邦の戦力を5とし、クロアチア共和国を2、ボスニアを2、とする意向。
・OSCEがボスニアに暫定選挙管理事務所を設置し、選挙法の制定などを検討。
02/01:
・ボスニアのサラエヴォに駐留する和平実施部隊・IFORのフランス軍部隊は、サラエヴォのセルビア人勢力支配地区イリジャで、セルビア人狙撃兵1人を射殺し、1人を拘束。
・ボスニアのNATO軍報道官は、和平協定による「ボスニア連邦」に移管されるサラエボ周辺のセルビア人勢力支配地域4000平方キロから、3日の退去期限を前にセルビア人武装勢力の大半が退去したことを明らかにする。
02/03:
・ボスニア北東部トゥズラの北40キロの検問所で、IFORの米軍兵士1人が地雷に接触して爆死する。
・ボスニアのサラエヴォ郊外のセルビア人支配地域で、警戒中のIFOR英軍兵士3人が何者かに狙撃され軽傷を負う。
02/04:
・ボスニアのスレブレニツァの虐殺の検証を行なっている、国連人権問題特別報告官のエリザベス・レン前フィンランド国防相は、ボクチンポトック山中に入り現地調査を行ない、20ほどの遺体は発見したものの虐殺の確証はつかめず。
・チャニチェ・スレブレニツァ市長は、「米軍が埋葬地の衛星写真があるというなら、撮影責任者がここに来て、何処のことか教えて欲しい。我々はいつでも発掘の協力をする」と語る。
・クリストファー米国務長官はベオグラードを訪れてミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談し、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ大統領の旧ユーゴ国際戦犯法廷への引き渡しに協力するよう強く求める。クリストファー米国務長官は記者会見で、戦犯引き渡しなどが旧ユーゴスラヴィア復興のための援助の前提条件であり、「紛争の全当事者に、和平合意の完全履行を求める」と語る。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、和平合意の完全履行と戦犯法廷のベオグラード事務所開設について、クリストファー米国務長官に同意する。
・ボスニア中部のムルコニチグラード、シポヴォおよびその周辺地区は、ボスニア連邦のムスリム人およびクロアチア人両勢力から、セルビア人勢力のスルプスカ共和国への権限委譲が行われる。クロアチア共和国軍・HVOは撤退するに際し、支配していた町を完膚無きまでに破壊。
02/05:
・ボスニア政府はセルビア人勢力の将校ら8人を逮捕し、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYに対して8人を訊問するよう要請。
02/06:
・ボスニアのセルビア人勢力は、ボスニア連邦政府がセルビア人勢力の軍高官を拉致し、「戦争犯罪容疑者」として拘束していることに反発し、全員が解放されるまでボスニア政府との接触を中断すると発表。
・エリザベス・レン旧ユーゴ国連人権問題特別報告官は、ボスニアのセルビア人勢力指導部のコリェヴィチらと会談し、「スレブレニツァ虐殺事件」の真相究明への協力を要請する。
・ボスニアのセルビア人勢力指導部のコリェヴィチは、客観的な調査には全面的に協力する意向を表明し、さらに会合を重ねることで一致。
02/07:
・ボスニア南部のEUの管理下にあるモスタルで、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力の対立解消のためのEUの仲介工作に反発したクロアチア系住民が、EUの現地本部に乱入する。クロアチア人勢力側は、同派支配地域に夜間外出禁止令を発令。
02/08:
・ボスニアのセルビア人勢力軍部は、ボスニア連邦政府がセルビア人勢力軍部高官11人を拘束していることに反発し、高官全員が解放されるまでは、IFOR・和平実施部隊との全ての接触を中断すると発表。さらに、セルビア人勢力支配地域を通行するムスリム人やクロアチア人に対し、戦争犯罪容疑などで拘束して取り調べる方針を明らかにする。
02/12:
・ボスニア政府は、拘束していたセルビア人勢力軍高官のジュキッチ中将とクルスマノヴィチ大佐を旧ユーゴ戦争犯罪法廷に引き渡すことを決め、同日中にサラエヴォからオランダに移送。
註;ジュキッチ中将は、「旧ユーゴ国際戦犯法廷」から起訴されているわけではないが、ボスニア政府は独自の判断で逮捕してハーグに送致したもの。
・ボスニアのセルビア人勢力指導部は、ボスニア政府が同派の軍高官を旧ユーゴ戦犯法廷に移送したことに反発し、13日に開かれる予定のボスニア和平協定に基づく信頼醸成措置へのウィーン会合に欠席することを決める。
02/16:
・ボスニアの和平実施部隊・IFORは、ボスニア連邦の管轄地域で届け出のない軍事訓練キャンプを摘発し、イラン人と見られる3人を含む11人を拘束した、と発表。
・赤十字国際委員会報道官は、1月20日までに釈放するという和平協定に違反し、ムスリム人勢力が77人、セルビア人勢力が20人の捕虜を依然として拘束し続けているとし、紛争勢力に即時釈放を強く求める見解を明らかにする。
02/17:
・ボスニア和平協定の完全履行を図るための、連絡調整グループの米・英・仏・独・露とイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の3当事国首脳による会議がローマで始まり、アニェリ伊外相は難民の帰還、選挙実施など難問が山積していることを指摘し、「約束を守り、国際社会の期待に応えて欲しい」と述べる。
・ボスニアのセルビア人勢力系のテレビが、和平協定で「ボスニア連邦」側に移管されるサラエボ市周辺のセルビア人居住地域からの「セルビア人住民の大量脱出が始まった」と報じる。
02/18:
・ローマで行なわれていたボスニア紛争当事国3首脳会議は終了。確認事項;「1,サラエヴォ、モスタルの再統一。2,ボスニアのセルビア人勢力の『スルプスカ共和国』と『セルビア共和国』に対する国連制裁の解除。3,戦争犯罪者の訴追の方針」などについて確認。さらに、「1,『ボスニア連邦』へのサラエヴォ周辺地域の移管は、協定通り3月20日までに完全実施するが、事前にボスニア連邦側の警察官の展開は認めない。2,モスタルのムスリム人勢力とクロアチア人勢力に分割している領域の再統一に向けて、20日に両勢力間の自由往来を実現すること。3,戦犯法廷への協力については同法廷が起訴した人物に限って、逮捕拘束することが出来る」なども確認。仲介役のホルブルック米国務次官補は記者会見で、「和平協定を揺るがすような危機は、回避された」と述べる。
・ホルブルック米国務次官補はローマで記者会見し、「米政府が極めて近い将来、新ユーゴ連邦のコソヴォ自治州の州都プリシュティナに情報・文化センターを開設する」予定であることを明らかにする。
02/20:
・タンユグ通信は、ユーゴ連邦が駐バチカン大使を3年ぶりに任命し、バチカン側も大使交換に応じた、と報じる。
註;バチカンは、91年にクロアチア共和国が独立を宣言した際いち早く承認し、その後の旧ユーゴスラヴィアの解体を決定づけ、ボスニア紛争でもセルビア人勢力を非難し続けたため、ユーゴ連邦とは険悪な関係が続いていた。
02/21:
・UNHCRのヤノスキー報道官はボスニアからのセルビア人の脱出について、「セルビア人勢力指導部が、住民の不安を煽って脱出騒ぎの種をまいている」と、セルビア人勢力指導部を批判。
02/22:
・ホルブルック米国務次官補は国務省を去り、CSファースト・ボストン投資銀行の副会長に就任する。
02/23:
・エリツィン露大統領は、ボスニアのセルビア人勢力への経済制裁について、ソラナNATO事務総長が1月23日に出した書簡を根拠として、停止する大統領令に署名。
・米国連代表部スポークスマンは、「ロシアの決定は、時期尚早だ。領土交換によって、新に出来た境界を反映した分離地帯からの完全撤退は確認されていない」と反論して批判。
・ボスニア政府は、心臓疾患で入院したイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領の代行に、ボスニア連邦のガニッチ副大統領を当てることを決める。
・ムスリム人住民とクロアチア人住民で構成する「ボスニア連邦」の警察部隊は、サラエヴォを「ボスニア連邦」に3月20日に統合するのに先立ち、確認事項に反してサラエヴォ市周辺のセルビア人居住地域のボコシチャ地区に配備し始める。同地区のセルビア人住民は報復を恐れ、1万7000人のうち1万5000人が町から去り、パレに向かう。脱出する者の中には、自身の家屋に火を放つ者もいる。他の4つの移管地区でも大量脱出が続き、既に6万人が居住地を去る。
・UNHCRのヤノスキー報道官は、ボスニア連邦警察部隊がサラエヴォに居残ったセルビア人住民を威嚇していることを認める。
02/24:
・ボスニアに展開しているNATO軍のルパート・スミス司令官は、「ボスニア連邦」に移管されるサラエボのセルビア人勢力支配地区からセルビア人住民が大量に脱出するのを助けるため、「人道的な支援」に限って、既に撤退したセルビア人勢力軍がサラエボに戻って車輌を使うことを認める方針を明らかにする。
02/27:
・国連安保理は、93年から続けてきたボスニアのセルビア人勢力に対する経済制裁を停止する決議について、オルブライト安保理議長が発効を表明する。
02/00:
・コソヴォ自治州のコソヴォ解放軍・KLAは、ユーゴ解体紛争時に難民となってコソヴォに逃れて設営したセルビア人のキャンプ5ヵ所を武装攻撃する。
03/01:
・旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷・ICTYは、ボスニアのセルビア人勢力のジュキッチ中将を、サラエヴォ砲撃に加担した人道に反する罪などで起訴する。
03/06:
・NATO欧州連合軍元最高司令官のジョン・ガルビンは、ボスニアのNATO和平実施部隊・IFORの駐留延長について、「紛争各勢力が共存できる環境を今後作っていかなければならないのに、IFORの駐留を1年に区切ったことは残念だ。見直しを望む」との考えを述べる。
03/07:
・セルビア共和国当局は、昨年7月にボスニアのセルビア人勢力が国連指定の「安全地域」スレブレニツァを陥落させた際の市民の大量虐殺に関わった疑いで、セルビア人のドラゼン・エルデモヴィチ容疑者1人を逮捕。当人は容疑を認めている模様で、旧ユーゴ国際戦犯法廷で起訴される見込み。
03/15:
・ボスニア和平関係国会議が、32ヵ国の参加を見て開かれる。この協議では、欧州諸国から米軍によるボスニア連邦軍の軍備強化に反対する意見が多数出る。
・米国務省ディビーズ副報道官は、ボスニア連邦軍の軍備強化と軍事訓練のための費用として、米国が1億ドルを拠出するとの方針を明らかにし、「ボスニアの和平実施部隊・IFORが撤退する12月の時点で、軍事力を均衡させるのに十分な条件を整えるためには、軍備強化を助け、軍事訓練をする必要があると判断した」と述べる。ただし、ボスニア内に残留して米兵の安全を脅かしている、イラン人ら外国人民兵が退去した後に連邦軍の強化に着手する、と語る。
03/16:
・クリストファー米国務長官は、NATOのソラナ事務総長と会談。会談後の記者会見で、「ボスニア和平実施部隊・IFORが年末に撤退した後も、ムスリム人勢力側の軍備強化が必要」との米国の立場を改めて強調。
03/18:
・クリストファー米国務長官は、ジュネーブでミロシェヴィチ・セルビア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領とボスニア和平協定の実施状況について会談し、セルビアとクロアチアから旧ユーゴ国際戦犯法廷への容疑者の引き渡しや、9月に予定されているボスニア総選挙に向けての環境整備や信頼醸成を進めることなどで合意。会談後の記者会見でクリストファー米国務長官は、「トゥジマン・クロアチア大統領がボスニア連邦内のクロアチア人勢力軍のトップを、ミロシェヴィチ・セルビア大統領はスレブレニツァ陥落でムスリム人虐殺容疑の2人の兵士の引き渡しを約束した」と述べる。
03/19:
・ボスニアのサラエヴォが、ムスリム人とクロアチア人で構成する「ボスニア連邦」に統合する。ブルチコ地域のポサビナ回廊などの一部を除き和平協定通りに「ボスニア連邦」に51%、「セルビア人共和国」に49%の割合に基づき、国土を管理する新体制が20日から出発することになる。一方、「ボスニア連邦」内のムスリム人勢力とクロアチア人勢力の反目は、深まるばかりに見える。
03/20:
・ボスニアのサラエヴォで、路上に設置された狙撃よけのコンクリート板の撤去作業が始まる。
註;紛争中、ムスリム人勢力側は貨物列車用のコンテナなどを街頭に並べて通行路を確保し、セルビア人勢力側は古いカーペットを路上に吊して狙撃よけとしていた。
03/21:
・クロアチアの東スラヴォニアのヴコヴァルを訪れたオルブライト米国連大使に対し、セルビア人住民が「ファッシスト」などの激しい罵声を浴びせ、車などに投石。同行取材のバスの窓ガラスが割れるなどとなったため、オルブライト米国連大使は視察を中止する。同地区を含めてセルビア人勢力の支配地区は、クロアチア共和国政府とセルビア人勢力が昨年11月に国際的な監視の下に1年間の移行期間を設け、同政府の統治を受け入れることで合意しているが、移行期間の延長をめぐって対立している。
03/22:
・日本政府は旧ユーゴスラヴィア難民・被災民の支援をしている国連の4機関に対し、2585万ドルの緊急援助をすることを決める。国連が年内に8億2300万ドルが必要、との緊急アピールを出したことに応えたもの。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニアのセルビア人を対象とした収容所を運営し、殺人、拷問、レイプをしたとしてムスリム人勢力の幹部ら4人を新に起訴したと発表。セルビア人勢力に対する罪で起訴されたムスリム人は初めて。
03/23:
・ボスニア和平の拡大「連絡調整グループ」外相会議がモスクワで開かれ、米・英・独・仏・露・EUおよびボスニア、クロアチア、ユーゴスラヴィア連邦が参加。
・チェルノムイルジン・ロシア首相は冒頭の挨拶で、「ボスニアの和平はまだ、後戻り出来ない段階に達していない。セルビア人住民の首都サラエボからの悲劇的な脱出や、民族が互いに向けあう憎悪で、軍事衝突の再開の懸念が生まれている」と語る。サラエヴォ周辺のセルビア人住民およそ10万人が、「ボスニア連邦」のムスリム人勢力の迫害から逃れるために脱出する。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ文民部門上級事務所・OHRのカール・ビルト上級代表(スウェーデン元首相)は、「ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ大統領、ムラディッチ総司令官が現在のポストに留まる限り、挑発的な要因となる」と批判。
・サラエヴォ駐在の赤十字国際委員会の担当者は、「ボスニア連邦」政府がトゥズラの収容所に拘束していた109人のセルビア人捕虜を釈放した、と発表。和平協定では、1月20日までに捕虜全員を釈放することが定められていたが、「ボスニア連邦」はなお20人の捕虜、セルビア人勢力は23人の捕虜を拘束している。
03/25:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、ボスニアに留まっている外国人民兵5,60人は「非武装の文民」として国内にいる、と説明。
03/26:
・NATO軍は、ムスリム人勢力を武力支援したイスラム系外国人民兵がボスニア国内に留まっていることを、「和平協定違反だ」と非難し、ボスニア政府に対して国外に即刻撤退させるよう要求。
03/30:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニア東部スレブレニツァでセルビア人勢力が虐殺行為を行なったとされる問題で、、戦争犯罪を立証するための「証人」2人を留置施設に収容したことを明らかにする。証人は、ユーゴ連邦当局によって拘束されていたセルビア人勢力軍兵士のクロアチア人ドラジェン・エルデモヴィチとセルビア人ラドスラブ・クレメノヴィチの2人。
・ボスニアのカラジッチ・セルビア人共和国(スルプスカ共和国)大統領は、戦争犯罪人を除く全てのムスリム人とクロアチア人の捕虜を4月1日に釈放すると表明。
04/03:
・ボスニア復興支援に絡む米企業のビジネスチャンスを探るため、ブラウン米商務長官ら米主要企業15社の関係者が同乗していた米空軍機が、ボスニア東部のトゥズラからクロアチア共和国のドブロブニクに向かう途中の付近に墜落し、乗員を含む33人全員が死亡。操縦ミスと考えられる。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、戦争犯罪容疑で「証拠不十分」として不起訴処分にしたセルビア人勢力のアレクサ・クルスマノヴィチ大佐を、セルビア人勢力に敵対する「ボスニア連邦」政府に引き渡す。
04/05:
・ロサンゼルス・タイムズ紙は、クリントン米政権がボスニア政府へのイランの武器密輸を容認していた、と報じる。同紙によると、94年初めにクロアチアのトゥジマン大統領が米国務省にボスニアへの武器密輸について問い合わせたところ、米国務省の上級外交官は「武器提供には反対しない」と答えた、という。この密約により、94年から96年の1月にかけてイランからボスニアへ小火器や迫撃砲、対戦車砲などの相当量が、月8便にも上る頻度で輸送機により送り込まれた。CIAは、この密約を知らされていなかったために、密輸阻止に動いた。
・ボブ・ドール共和党院内総務は、ボスニアへの武器供与の黙認が国民に対する二枚舌であるのみか、法律違反の疑いがあるとして、緊急調査をするよう上院の各委員会に文書で申し入れる。
・ディビーズ米国務省副報道官はボスニアへのイランからの武器密輸容認問題について、「外交チャンネルを通じた対話については、コメント出来ない」と逃げる。
・ボスニア東部のスレブレニツァから昨年7月に脱出したムスリム人男性6人が、9ヵ月の逃亡生活の末、「ボスニア連邦」の支配地域トゥズラにたどり着く。
04/06:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのOHRの次席担当官は、セルビア人勢力が捕虜釈放を遅らせているとして非難すると共に、ボスニア復興支援に同勢力を加えない可能性があると警告。和平協定では1月中に全ての捕虜を釈放することが条件となっているが、セルビア人勢力は16人の捕虜を釈放しておらず、「ボスニア連邦」も4月5日にセルビア人捕虜46人を釈放したものの、26人を戦争犯罪者として拘束している。
04/08:
・訪日中のボスニアの国連文民部門のビルト上級代表は、「当事者に和平協定の遵守を促すためにも、経済復興への援助が今後の民族和解への鍵となる。和平協定の実施で、除隊した兵士が大量の失業者になりかねない。早急に電力、通信など社会基盤の再生を図ることが、経済活動を活性化し、政治の安定に繋がる」と強調。さらに9月に予定されている選挙について、200万人に上る難民・避難民の選挙人登録は期間前にも可能だ、と付け加える。
・マケドニア共和国とユーゴ連邦の両外相が、ベオグラードで国交正常化条約に調印。旧ユーゴ連邦各共和国では初めて。
04/09:
・英国外務省は、ユーゴ連邦を正式に国家として承認したとの声明を発表。
・ボスニアのセルビア人勢力は捕虜の扱いについて、「ボスニア連邦」と同等の扱いをすると発表。
04/10:
・ボスニアの国連文民部門のビルト上級代表は、12,13日に開くボスニア復興支援会議にボスニアのセルビア人勢力の「セルビア人共和国」も招くと発表。
・ボスニアのセルビア人共和国のカサギッチ首相は、ブリュッセルで開かれるボスニア復興会議に「セルビア人共和国」としての独自の立場での処遇が認められない限り、セルビア人勢力は出席しない、と文書でビルト上級代表に通告。
04/12:
・ボスニアの第2回復興支援会議が、「セルビア人共和国」の欠席のままブリュッセルで開催。
04/13:
・ボスニア第2回復興支援会議は、ボスニアのセルビア人共和国の代表が欠席したままで閉幕となる。
04/17:
・ドイツ政府、新ユーゴスラヴィア連邦を承認し、国境を樹立する。
04/19:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのマクドナルド裁判官(米)は、米国政府が同法廷に50万ドルを提供すると表明したことに対し、謝意を表す。
04/21:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナで、セルビア人がアルバニア系住民の学生を射殺。
04/22:
・セルビア共和国のコソヴォ自治州で、アルバニア系住民の武装グループが複数の地域でセルビア人所有のレストランを襲撃するなど武力行動を起こす。
04/23:
・ターノフ米国務次官は米下院国際関係委員会で、ボスニア紛争でボスニア政府軍が総崩れになる事態を避けるために、イランによるボスニアへの武器供与に「我々は賛成も反対もしないと決定した」と証言。イランからの武器は、クロアチア経由でボスニアに送り込まれていた。
・NATOの軍事委員会がブリュッセルで開かれ、和平実施部隊・IFORの維持体制について協議。
・シャリカシュビリ米統合参謀本部議長は、「9月の選挙実施に必要な、安全な環境を確保するため、派兵規模の縮小は行なわないことを勧告する」と語る。
04/00:
・コソヴォ解放軍・KLAは、「コソヴォ解放闘争を、完全独立まで続ける」と発表。
05/02:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、ボスニアのセルビア人を虐待・殺害した容疑で起訴している2人のムスリム人を、ボスニア政府が逮捕したと発表。
05/07:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニアのセルビア人勢力のオマルスカ強制収容所元看守のタデイッチ被告の初公判を開く。
註;タディッチ被告の裁判は、97年に禁固20年の判決が出される。
05/09:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷の調査団は、ボスニア北西部のサンスキ・モスト郊外で、セルビア人勢力によって虐殺されたイスラム教徒と見られる20体の遺体を発見。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYの検察官は、NATO事務総長およびNATO軍最高司令官と会合し、NATO軍最高司令本部と検察官のオフィスの間の了解覚え書きに調印。
05/11:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、クロアチアのザグレブでトゥジマン・クロアチア大統領と会談し、ボスニア連邦の強化や両勢力間の難民・避難民の帰還の促進を図ることなどで一致。
05/12:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのマグドナルド裁判官はニューヨークの外交関係の会議で、「米国政府は非常に寛大に、50万ドルの提供および他の国の寄付を促進するための支援に合意しました」と演説。最初の法廷予算は3200万ドル。
05/14:
・米国務省は、「ボスニア連邦」のムスリム人、クロアチア人両勢力の部隊を共通の指揮系統の下に統一するボスニア連邦防衛法を制定することで合意したと発表。合意文書;「1,「ボスニア連邦」は防衛省を設立する。2,ムスリム人、クロアチア人両勢力の部隊は、同省の下で統合される。3,指揮命令系統は議会の承認後直ちに統一されるが、両勢力の末端の兵士が同一の部隊に統合されるまでに、3年間の猶予を設ける」。
・人権擁護などの分野で活動している欧州会議は、クロアチア共和国の加盟申請を当面認めないことを決める。認めない理由として、欧州会議は報道の自由の抑圧などクロアチア国内の民主主義に問題があることや、旧ユーゴ国際戦犯法廷裁判にクロアチアが非協力的であることを挙げる。
05/15:
・ボスニアのセルビア人共和国のカラジッチ大統領は、カサギッチ首相を解任する。
・ユーゴ連邦議会上下両院は、与党セルビア社会党から提出されたアブラモヴィチ中央銀行総裁の解任決議を、賛成多数で可決。アブラモヴィチ総裁の経済政策は、外資導入を図るために「1,インフレ抑制方針の維持。2,公営企業の民営化の強制的促進。3,IMFへの早期復帰」を打ち出し、野党は支持していたものの、ミロシェヴィチ・セルビア大統領が民営化に慎重な上、IMFの復帰条件についても新ユーゴ連邦が旧ユーゴス連邦の唯一正当な承継国家の地位にあることに固執していることなどが、解任の理由に挙げられている。
05/16:
・解任されたカサギッチ・セルビア人共和国首相は、「解任手続きは違法」と述べ、対決する姿勢を見せる。
05/18:
・ボスニアのセルビア人共和国国会は、臨時議会でカラジッチ大統領が解任したカサギッチ前首相の後任に、ゴイコ・クリチコヴィチを当てることを、賛成多数で承認。カサギッチ前首相も、新首相承認を認める意向を表明。
05/21:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は9月に予定されているボスニア選挙について、選挙を監視する欧州安保協力機構・OSCEの代表団と会談し、「1,住民の移動の自由。2,メディアの自由。3,難民・避難民の帰還が実現していない。4,セルビア人共和国のカラジッチ大統領の退陣を選挙実施の最重要条件とする」との現状認識と見解を表明。その後の記者会見で、「現時点では選挙の条件が存在しない」と語る。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのリチャード・ゴールドストーン首席検察官は、同法廷で起訴しているセルビア人共和国のカラジッチ大統領やムラディッチ軍司令官を逮捕するための兵力派遣をNATO軍が拒んでいることについて、「壊れやすいバルカンの平和を脅かすものだ」との懸念を表明。
05/23:
・ユニセフ親善特使の黒柳徹子さんが、6日間の予定でボスニアを訪問。同行した取材陣は、ボスニア西部のクロアチア人支配地区のドルバルで地元警察に足止めされ、フィルムを押収される。
05/24:
・ボスニア南部の都市モスタルを管理する欧州連合・EUのカサド行政官は、31日に実施する予定のモスタル市議会選挙の実施を6月後半に延期すると発表。
05/26:
・ドイツのキンケル外相はウェルト・アム・ゾンタークとのインタビューで、旧ユーゴ国際戦犯法廷で起訴されているボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ大統領とムラディッチ軍司令官について、7月に逮捕状が出ることになりそうだと語る。
05/29:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、ボスニアのスレブレニツァの虐殺に加担したセルビア人勢力軍の兵士1人を人道に対する罪などで起訴。
・黒柳徹子ユニセフ親善大使は、ボスニアの他クロアチアの難民キャンプなど10ヵ所以上を廻ったが、その間ボスニア西部の町ドルバルで地元のクロアチア人警察に足止めされた上、フィルムを押収されて取り調べを受けたばかりか、バスの運転手がムスリム人だったことから長時間足止めされてなじられるなどの妨害を受ける。黒柳徹子親善大使は、「こんな事件でもなければ、ボスニアに平和が来るものとばかり思っていた。言い掛かり的な取り調べで自分たちの力を誇示するような行動が続く限り、民族間の心のわだかまりは消えないだろう」と話す。
05/00:
・ボスニアの首都サラエヴォに、国連の地雷撤去専門機関「地雷行動センター」が設置される。このセンターによると、地雷原はおよそ1万8000ヵ所、埋葬された地雷は「推定数100万個」だといわれるが、正確には不明。
06/02:
・クリストファー米国務長官は、ボスニア和平協定の完全履行を協議するために、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領の3首脳をジュネーブに招いて会談。クリストファー米国務長官は、「我々の軍隊は、これまでより積極的なパトロールをボスニア全土で展開する。これまで住民の通行の自由が改善される一方で、戦犯が逮捕される可能性が高まる」とIFORの任務の拡大と戦犯追及の方針を表明。さらに、「ボスニア統一選挙と、セルビア人勢力のカラジッチ大統領の公職からの追放」がその方針であることを確認。その上、セルビア共和国のコソヴォ自治州に、「情報・文化センター」の設置を認めるよう要請。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、米政府がコソヴォのプリシュティナに、「情報・文化センター」を設置することに同意。
06/04:
・ボスニア問題の「連絡調整グループ」はベルリンで外相会議を開き、ボスニアでの選挙を和平協定通りに、9月上旬に実施することで一致。
06/05:
・米国政府は、セルビア共和国コソヴォ自治州の州都プリシュティナに、「情報・文化センター」を開設する。コンブルム米国務次官補は、「米国がコソヴォ問題に関与し続けることの一例である」と述べる。
註;世界各国に設置されている米国の情報・文化センターは、ほとんどがCIAの拠点となっている。
・クロアチアの東スラヴォニアを支配していたセルビア人勢力は、95年11月のデイトン和平協定に従って国連平和維持活動「国連東スラヴォニア・バラニャ・西スレム暫定行政機構・UNTAES」の監視の下、本格的な武装解除を始める。
06/06:
・ボスニアをめぐる軍備管理・軍縮交渉は1月以来5ヵ月にわたって続けられてきたが、協議期間とされた6日にも妥結出来ずに持ち越しとなる。仲介してきた欧州安保協力機構・OSCEによると、軍備水準の上限などの主要な部分では合意を見ているものの、セルビア人共和国の表記などの問題で難航している。
06/07:
・ボスニアをめぐる軍備管理・軍縮交渉は、「セルビア人共和国」の表記に対してボスニア連邦政府が反対姿勢を崩さず、仮調印を断念して閉幕。
06/11:
・ボスニアの紛争当事者による軍縮交渉が、ノルウェーのオスロで再開される。ボスニア連邦政府が、国家と国家内の「セルビア人共和国」の表記の同等の扱いは容認出来ない、との反対で調印出来ず。軍備管理と軍縮については合意が成立。
06/12:
・クリントン米大統領とサンテールEU委員長およびプロディ・イタリア首相とがボスニア問題で協議し、ボスニアの選挙を9月に実施することで合意。欧州安保協力機構・OSCEは9月実施に消極的だが、クリントン米大統領は11月に大統領選挙を控え、ボスニア和平の成果を誇示したい意向で9月実施に拘っている。
06/13:
・ボスニア和平協定の履行状況を検討する「ボスニア和平実施会議」が、60の国や国際機関が参加してフィレンツェで始まる。ビルト和平文民部門上級代表は、「軍事部門での和平協定の履行は順調であり、統一選挙や難民帰還、経済復興など民生分野の問題に取り組む重要性を強調。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、スルプスカ共和国(セルビア人共和国)のカラジッチ大統領とムラディッチ軍司令官の拘束と出廷を、「選挙実施の絶対条件」と主張。
06/14:
・フィレンツェで開かれている「ボスニア和平実施会議」は、ボスニア統一選挙を和平協定が定める最終期限の9月14日に実施することで合意し、閉幕。選挙は、統一ボスニアの幹部会と議会、統一ボスニアを構成するボスニア連邦とセルビア人共和国の各議会選挙などで、選挙を担当するOSCEが正式な選挙日程の確認作業をすることになる。議長総括では、セルビア人勢力のカラジッチ大統領を名指し、政治指導者の地位を退くよう要求。
・ボスニア紛争当事者による軍備管理・軍縮協定の調印が、「ボスニア和平実施会議」の場で調印される。
06/15:
・欧州安保協力機構・OSCEがボスニア軍備管理・軍縮協定の内容を発表。協定は、「戦車、重火器、戦闘用航空機、攻撃用ヘリコプター」などの現有している戦力を基本にして7月から16ヵ月以内に、現有戦力から、新ユーゴ連邦が75%、クロアチア共和国が30%、ボスニア・ヘルツェゴビナ内の「ボスニア連邦」が20%、「セルビア人共和国」が10%、に縮減させるというもの。この数量によると「ボスニア連邦」はほぼ現状維持なのに対し、「セルビア人勢力」は30%の戦車削減をすることになる。
・ボスニアのシライジッチ前首相が、ボスニア北部のツァジンでの「ボスニア・ヘルツェゴヴィナのための党」の旗揚げ会議中、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領率いる与党の看板を持った暴徒が雪崩れ込み、シライジッチ党首を金属棒で頭を殴るなどをして暴れまわったため、会議は混乱して流れる。 「ボスニア・ヘルツェゴヴィナのための党」は民族融和を掲げ、支配地域を超えて選挙運動をしようとしているが、ボスニアの与党は警察を抱き込み、与党以外の党を暴力的に妨害している。
06/18:
・国連安保理の旧ユーゴ制裁委員会のソマビア議長は、安保理決議によって91年以来課せられてきた旧ユーゴスラヴィア地域に対する武器禁輸措置について、「全面的に撤廃された」と禁輸措置の解除を宣言。
06/20:
・米政府は、ガリ国連事務総長の再選を拒否すると表明。
06/21:
・国連東スラヴォニア・バラニャ・西スレム暫定行政機構・UNTAESは、クロアチアの「東スラヴォニア」を支配していたセルビア人勢力の武装解除が期限内に終了した、との声明を発表。
06/22:
・朝日新聞によると、ボスニアのブルチコにムスリム人、セルビア人、クロアチア人の3勢力が集まる「青空市場」が誕生。青空市場にはクロアチア人が洗剤や化学肥料、セルビア人が農産物、ムスリム人は衣料や喫茶店を営み、小麦粉、塩、バナナ、洗剤、Tシャツ、牛、羊などが並び、喫茶店も繁盛している。決済は、ドイツマルクで行なっている。
06/26:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のクリチコヴィチ首相は、カラジッチ大統領が9月のボスニア統一選挙に出馬せず、スルプスカ共和国(セルビア人共和国)大統領職からも退く方針であることを明らかにする。同首相によると退陣の条件として「1,セルビア人共和国の主権擁護。2,国際社会による同共和国の安全保障。3,要衝のブルチコをセルビア人勢力の支配地域に確定する」の3点を上げる。ブルチコの帰属については、実質的な協議が進まず。
06/28:
・リヨン・サミットの外相夕食会で、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ大統領の公職排除が合意される。
06/29:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のセルビア民主党は、党首にカラジッチ現大統領を再選出。
・橋本龍太郎日首相はリヨン・サミットで、ボスニアに対する貢献策として資金的、人材的な支援を行ないたいと述べ、ボスニア総選挙に監視団を数十人規模で送ることを表明。
06/30:
・ボスニア和平協定の和平文民部門上級代表事務所・OHRは、ボスニアのスルプスカ共和国のカラジッチ大統領が大統領職を辞任した旨の文書を大統領側から受け取ったと発表。
・プラブシッチ・スルプスカ共和国(セルビア人共和国)副大統領はパレで記者団に対し、カラジッチ大統領が依然として大統領職にあることを確認して辞任説を否定。
・ムスリム人勢力のボスニア政府のムラトヴィチ首相は、ビルト和平文民部門上級代表がカラジッチ・スルプスカ共和国(セルビア人共和国)大統領の辞任を発表したことについて、「法的手続きを踏んでおらず、辞任したとは認めない」と述べる。
・ボスニア連邦のムスリム人勢力とクロアチア人勢力によって2分されている南部のモスタル市で、EUの選挙管理の下で市議会選挙が実施される。有権者数は9万9000人で、議席数は48。民族別議席配分は、ムスリム人16議席、クロアチア人16議席、その他の民族は16議席。
06/00:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)の内部で、反カラジッチ派の動きが見られる。セルビア共和国の政権党であるセルビア社会党は「セルビア人共和国社会党」の結成に資金援助をし、バニャ・ルカのラディッチ市長は「クライナ民主愛国ブロック」を結成し、地方政党など7団体と統一戦線を組む。さらに、知識人らの支持する「独立社会民主党」も政党として登録し、主にバニャ・ルカが野党の拠点となる。
07/02:
・ボスニアのサラエヴォ空港の地下に、ムスリム人勢力が掘った秘密のトンネルがあることが明らかになる。地下トンネルは、サラエボ空港の滑走路を横切り、幅1.6メートル、高さ1.2メートルで、全長760メートルにわたる。
07/03:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)は、カラジッチ大統領が9月14日のボスニア統一選挙に出馬しないことを正式に発表。これによりカラジッチ大統領は、セルビア人共和国の大統領職も辞任することになる。プラブシッチ副大統領が後任の大統領候補になり、幹部会員候補には、クライシュニク国会議長がなる。
07/08:
・欧州安保協力機構・OSCEのボスニア選挙実施責任者である米国人のフロウィック団長は、「戦犯容疑者が主要政党の党首に座っているような選挙は、OSCEとして容認出来ない」と表明。
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)クリチコヴィチ首相は、「中立であるべき国際機関が、悪質な選挙干渉を行なっている」と抗議。
07/09:
・ボスニア連邦議会はムスリム人、クロアチア人両勢力の軍部隊を統合してボスニア連邦軍を結成するための連邦防衛法案を、賛成多数で可決。連邦軍に対し米軍は1億ドル、イスラム諸国は1億4000万ドルを援助することを明らかにする。
07/11:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニアのセルビア人共和国のカラジッチ大統領およびムラディッチ軍司令官に対し、国際逮捕状を出すことを決める。
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)議会は、現行議会の1院制に、新に上院を創設して2院制にする憲法改正案を可決。上院は、大統領が各界から指名する有識者55人の議員からなり、重要案件について討議する。
・国際司法裁判所・ICJは、新ユーゴ連邦が提起した裁判所の管轄権などに関する先決的抗弁に対し、ボスニアの請求は受理可能であり、裁判所に管轄権があると認定する判決を出す。
07/12:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、ボスニア東部のスレブレニツァ付近で60体以上の遺体が発掘され、それらは戦死者ではなく虐殺死体と見られる、との見解を示す。遺体はいずれも死後1年以上経っており、中には針金で後ろ手に縛られていた遺体もあるという。
・セルビア人勢力は、戦死者であると主張。また軍服であるかないかは虐殺の証拠にはならず、現場の薬莢などがどの勢力のものかなどの、精査も必要と主張。
・ボスニアのカラジッチ・スルプスカ共和国(セルビア人共和国)大統領は、「スレブレニツァの占拠の際も軍司令部は虐殺行為に関与していない。92年から93年にかけてムスリム人勢力側がセルビア人住民を1260人殺害し、その埋葬地の50ヵ所が確認されている」と主張。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷がカラジッチ・スルプスカ共和国(セルビア人共和国)大統領とムラディッチ総司令官に国際逮捕状を出したことに対し、ボスニアの北部の町のセルビア人住民5000人が抗議集会を開く。
・ボスニアの南部モスタル市での市議会選挙結果を、EU選挙監視委員会が発表。48議席のうち、今回の選挙対象の37議席中、ムスリム人勢力の民主行動党が21議席、クロアチアのクロアチア民主同盟が16議席を獲得。その他の民族にも5議席が割り当てられているが、その5議席分もムスリム人勢力が占める。クロアチア人勢力側のブライコヴィチ市長は、海外投票で不正があったにもかかわらず、EUが選挙の成立を認めている姿勢を批判し、選挙に基づく市政制度には参加しない方針を表明。
・ボスニアのサラエヴォのボスニア連邦の管轄地域で、米大使館の女性職員の乗った車が通りかかった別の車から銃撃され、女性職員は負傷。
07/14:
・ミヨン仏国防相は訪問先のサラエヴォで、ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のカラジッチ大統領やムラディッチ総司令官を追跡し、逮捕する任務については、国連安保理で決定すべきだ、との見解を明らかにする。
07/15:
・ボスニアの統一選挙を管理するOSCEは、この15日から公式選挙運動の開始を許可する予定を、19日まで延期すると発表。理由は、「カラジッチ大統領に、スルプスカ共和国(セルビア人共和国)の与党党首を辞任する時間的余裕を与えるため」と語る。暫定選挙管理委員会は、登録した49の政党について資格審査をする予定。
07/16:
・ボスニアの国連報道官は、和平実施部隊・IFORがセルビア人共和国のカラジッチ大統領らを軍事力を使って逮捕に乗り出した場合、国連国際警察部隊の要員が人質にされる可能性がある、との懸念を表明。
・ホルブルック前米国務次官補は米国務省顧問の資格でサラエヴォ入りし、NATO軍やボスニア政府首脳と会談。会談で、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のカラジッチ大統領が与党党首から退かない場合、ボスニア統一選挙をボイコットする可能性もあり得ると強硬に主張。
・米国主導のボスニア連邦に対する軍備や訓練強化のための総額4億ドル規模の支援協定に、「ムスリム人勢力、クロアチア人勢力、米政府代表、米の民間軍事コンサルタント会社」などが正式調印。
07/17:
ホルブルック米国務省顧問はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。
07/19:
・ホルブルック米国務省顧問は、スルプスカ共和国(セルビア人共和国)のカラジッチ大統領が、「1,選挙不出馬。2,選挙後の大統領退陣。3,セルビア民主党党首辞任と『即時完全退陣』を受け入れた」と発表。ミロシェヴィチ・セルビア大統領がこの合意の証人となり、国際的責任を事実上負うことになる。
・欧州安保協力機構・OSCEのボスニア選挙管理責任者のフロウィック団長は記者会見で、これでセルビア民主党が選挙に参加できる見通しとなった、と述べる。
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)の与党セルビア民主党は、「カラジッチ大統領は、現時点では退陣を求める国際社会に抵抗しても得るものが少ないとの見解だ」としてカラジッチ大統領が党首を辞任した、との声明を発表。
07/20:
・国際司法裁判所・ICJは、ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)の東西地域を幅5キロでつなぐポサビナ回廊の中心都市ブルチコの帰属の協議にあたる調停者として、旧ユーゴ和平国際会議のオーエン元共同議長を指名。この調停内容は、セルビア人勢力側が共和国内の補給路として死活的意味を持つ同回廊の拡大を要求し、ムスリム人勢力側は紛争前に回廊一帯に住んでいた権利を主張し、割譲を求めている。
07/24:
・ボスニア政府のガニッチ幹部会副議長はベオグラードを訪問し、ボスニアとセルビア間の電話回線復旧、航空便や鉄道、バス交通網の再開に関する合意文書に調印。さらに、貿易事務所の相互設置でも合意。
07/30:
・ボスニアのサラエヴォとクロアチア南部のアドリア海沿岸都市プロチェを結ぶ鉄道が復旧し、92年5月以来途絶えていたサラエボからの旅客列車の第一便が出発する。
07/00:
・UNHCRが調査した現時点でのボスニア難民は、ドイツに33万人、スウェーデンに12万2000人、オーストリア・8万人、オランダ・2万3000人、デンマーク・2万2000人、スイス・2万人、英国・1万3000人、その他・5万3000人で合計67万8500人。
08/01:
・ボスニア政府のムラトヴィチ首相は、スレブレニツァの虐殺事件をめぐり、「当時スレブレニツァは「安全地区」として指定されていたにもかかわらず、セルビア人勢力が侵攻。そのことで駐留していた国連保護軍が『人質』となり、国連保護軍の解放の条件として保護軍が同地域を売った。保護軍の撤退で無防備になったムスリム人数千人がセルビア人勢力に殺害されることになった」、と厳しく批判。この責任問題を明確にするために、当時のジャンヴィエ国連保護軍司令官、明石国連ユーゴ問題担当特別代表、ガリ国連事務総長の3人を、旧ユーゴ国際戦犯法廷に証人として出廷させるよう要求するとともに、安保理でも取り上げるよう求める。
08/06:
・ボスニア南部のモスタルの市議会選挙をめぐる、クロアチア人勢力とムスリム人勢力の軋轢は、両勢力が協定に調印したことで終止符を打つことになる。
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)プラブシッチ副大統領は、カラジッチ大統領の辞任を受けて大統領代行を兼任する。プラブシッチ大統領代行は、「カラジッチ大統領は私人となり、最早政治判断を仰ぐこともない。9月14日の統一選挙は、和平協定で定めた同共和国の存在と複数政党制の実現が確認されることになる」と述べる。さらに、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領が自著で「イスラム国家の建設」という目標を捨てていない点に強い警戒感を示し、「選挙はセルビア人の民族的利益を擁護するもので、ボスニア再統合を目指すものではない」と強調。カラジッチ大統領とムラディッチ総司令官の旧ユーゴ国際戦犯法廷の引き渡しについては、「我が国の憲法は、自国で裁くことを優先している。憲法を曲げての引き渡しには応じられない」と拒絶。
08/07:
・セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領とクロアチアのトゥジマン大統領が、アテネ郊外で国交正常化について合意。
08/10:
・ボスニアの統一選挙を管理するOSCEは、旧ユーゴスラヴィア以外の海外にいる難民、推定90万人の内62万人が登録をすませたと発表。
08/12:
・クリストファー米国務長官は、ボスニア和平協議のための欧州訪問を始める。
08/13:
・クリストファー米国務長官は、ソラナNATO事務総長と選挙を控えたボスニア情勢について会談。クリストファー米国務長官は会談後、「東方拡大を抱えるNATOにとって、当面主要な焦点はボスニア選挙だ」と記者団に語る。
・米国防総省のベーコン報道官は、「ボスニアに展開している米軍を狙ったテロの徴候があるため、可能な限り最高度の警戒態勢を敷いている」と述べる。
08/14:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷のR・ゴールドストーン首席検察官は、「ボスニアのセルビア人共和国のカラジッチ大統領とムラディッチ総司令官を裁判にかけるには、和平実施部隊・IFORが政策を変更して積極的に逮捕に乗り出す必要がある」との考えを示す。
・NATO軍のサラエボ駐在報道官は、IFORがボスニア東部のハンピエサクのセルビア人勢力軍の施設を視察した際、勢力軍側が施設に滞在しているムラディッチ総司令官が同行しない限り施設の視察には応じられないと申し出たのに対し、IFORはムラディッチ軍司令官への逮捕行動をすることなく視察を断念したと発表。
・クリストファー米国務長官は、ジュネーブでイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、ミロシェヴィチ・セルビア大統領3首脳と会談し、ボスニア連邦の中のクロアチア人国家の解体を今月末までに終えることなどで合意。
・ボスニア南部のモスタルでは、市議会選挙をめぐるムスリム人勢力とクロアチア人勢力間の軋轢があったが、ようやく両勢力が参加した市議会が開かれ、クロアチア人のイバン・プルスカロを全会一致で新市長に選出。
08/15:
・ボスニアのサラエヴォ空港への民間機乗り入れが、92年の紛争勃発以来4年ぶりに再開。
08/18:
・ボスニアのNATO軍主体のIFORは、サラエヴォの東郊にあるセルビア人勢力の武器庫に隠されていた300トンの弾薬を処理するため、戦車と装甲車200台と1500人の作戦部隊を展開する。
・セルビア人勢力側は、IFORの弾薬処理作戦について、「危険な挑発行為だ」と反発。
08/20:
・ボスニアのNATO軍主体のIFORは、サラエヴォの弾薬庫の地雷などを爆破処理し始める。
・ユーゴ連邦のベオグラードの航空機博物館で、軍備管理・軍縮協定に沿うために中古のミグ21戦闘機やガレブ戦闘練習機などを売りに出す。
08/23:
・ユーゴ連邦のミルティノヴィチ外相とクロアチア共和国のグラニッチ外相は、ベオグラードで国交正常化の合意書に調印。
合意書による国交正常化の過程:「1,ユーゴ連邦とクロアチア共和国の両国は、15日以内に大使を交換する。2,セルビア人勢力が支配した、東スラヴォニア地方のクロアチアへの再統合を目指す和平協定を支持する。3,帰還難民の安全保障や財産補償を図る。4,領有権が問題になっているプレブラカ半島については、現状の国連管理を継続して交渉による解決を目指す。5,クロアチアは、新ユーゴ連邦が旧ユーゴスラヴィアの承継国家であることを認めるが、承継に伴う国家財産分割問題などは交渉で解決する」。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ユーゴ連邦の首都ベオグラードに連絡事務所を開設。ゴールドストーン主任検察官は、「悪循環を断つためには、戦争犯罪の真相を究明し、だれが戦争犯罪を指揮し、実行したのかという個人の責任をはっきりさせることが不可欠だ」と語る。 現在、旧ユーゴ国際戦犯法廷で人道の罪に問われている者は、セルビア人53人、クロアチア人18人、ムスリム人3人の74人で、そのうち勾留されている者は7人。公判にこぎ着けた者は、オマルスカ強制収容所の看守役でムスリム人やクロアチア人の虐待・殺害に加担した容疑をかけられているタディッチ被告のみ。ゴールドストーン首席検事は、「政治的に偏った起訴だ」との批判に対し、「セルビア人に対する起訴が多いのは、ムスリム人、クロアチア人側が捜査に積極的に協力して、被害証言などの情報入手が早めに進んだ結果だ。セルビア人にも捜査協力を求めてきたが、やっとベオグラードに事務所を開設できるようになった。今後セルビア人が被害者となった戦争犯罪についても、情報収集が進むだろう」と反論。
08/24:
・ボスニアの統一選挙を監視する欧州安保協力機構・OSCEは、サラエヴォにおける「ボスニア連邦」管轄地域でムスリム人勢力の警察が野党の選挙活動を弾圧していることを指弾する緊急声明を発表。
08/25:
・ドイツのリューエ国防相は、「今年いっぱいで任務が終わるボスニア和平実施部隊・IFORが、97年には全く別の新しい平和維持任務を帯びた部隊の編成で合意することになる」との見通しを示す。
・ボスニアの統一選挙実施をめぐり、ボスニア政府与党の民主行動党・SDAは、9月14日に予定されている統一選挙を管理する欧州安保協力機構・OSCEに対し、選挙の1ヵ月延期を要求することを決める。延期要求の理由は、「1,難民・避難民は旧居住地で投票すべきであり、現在の居住地での投票を認めている選挙原則に反対する。2,23万人分の海外有権者の登録もれ」をあげる。ムスリム人の民主行動党・SDAの狙いは、セルビア人共和国の管轄になったブルチコ、ドボイ、スレブレニツァなどはセルビア人住民が多く入り込んでおり、チェブリナやバクフなどではクロアチア人住民が既に優位になっているが、その支配権の奪回を目指したもの。そのためには、これらの地に住み着いたセルビア人住民の現地での投票権を停止することが、最も有効な手段となる。現状では、ムスリム人の民主行動党が選挙で負けると見て、この時期に敢えて選挙原則の変更を要求し始めたと見られる。
08/27:
・OSCEのボスニア統一選挙監視団のフロウィック団長は、ボスニアの民主行動党・SDAの要求を取り入れ、9月14日に予定されている国政・地方レベルの一連の選挙のうち、地方自治体の選挙の実施延期を発表。フロウィック団長は延期の理由として、「何処で投票するかを、各有権者が自分で決められる方式が、大規模に不正利用されており、このまま実施すれば選挙結果が大きく歪められることになると判断した」と述べる。ムスリム人勢力のボイコットの可能性を回避するための延期、というのが実態。
・セルビア人共和国のクリチコヴィチ首相は、「セルビア人地域内では和平協定通り、全ての選挙を実施する」と言明。
08/28:
・ボスニアの統一選挙を監視するOSCEは、海外有権者への投票用紙の発送が大幅に遅れていることで、投票期間を延長せざるを得ないとの判断をする。
・ボスニア統一選挙の国際監視団の第1陣が、サラエボ空港に到着。民間人を中心としたボランティアで、ボスニア全土の4400ヵ所の投票所を分担する。
・ボスニアのムスリム人勢力の最大与党であるイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領が率いる民主行動党など4つの政党が、海外で始まった不在者投票を一時停止するよう難民たちに呼びかけるとともに、選挙監視のOSCEに対し有権者登録をめぐる不正を是正するよう要求。ボスニアの4つの与党は、セルビア人勢力が選挙を通じて「民族浄化」を固定化しようとしている、として選挙規則の変更を求めている。一方、海外の難民の中からは、「なぜ、セルビア人共和国の大統領選挙や議会選挙に投票しなければならないのか」との不満が続出。
08/29:
・ボスニアのIFORスポークスマンは、北東部のセルビア人勢力管轄地域となったマハラ村でムスリム人避難民に対する発砲騒ぎが起き、セルビア人勢力46人を拘束したと発表。
註;マハラ村は、人口700人のムスリム人居住地だったが、紛争初期にセルビア人勢力に追い出されて避難。そのムスリム人の元住民20人が投票のために戻り、壊れた家の整理をしていたところを武装したセルビア人警官が襲ってきた、という。セルビア人は、この村に住んでいない。
・ボスニアのセルビア人勢力側は、武装したムスリム人が帰還を装って管轄地域を侵したと主張。
・ボスニアのマハラ村を管轄していたIFORは、結局双方が武器を所持していたとして、セルビア人警察官を釈放。
・ボブ・ドール米共和党大統領候補はボスニア統一選挙について、「選挙の条件が整っていない」として、延期させることを求める書簡をクリントン米大統領に送る。
・ゲルバード米国務次官補は現地視察後の記者会見で、「各指導者とも選挙のルールは守ると約束しており、選挙は実施出来る」との見通しを強調。
08/31:
・米国が約束したボスニア連邦軍強化のための1億ドル相当の武器などの援助が、サラエヴォに届き始める。米国務省によると、サラエヴォ空港に到着したのはM16ライフル1000丁、重機関銃200丁、作戦用無線通信システム200台と弾薬など。来週までにM60A3戦車45両、多目的ヘリコプターUH1H15機、対空ロケット砲などが供与されることになる。西側外交筋はこのボスニア側への米政府の武器供与に関し、セルビア側は旧式の装備が多く、補給にも難渋するのに対し、ムスリム側が入手するのは最新型の兵器で補給も万全なので、「比率以上の軍事格差が生じる危険がある」と見ている。
08/00:
・サラエヴォ近郊のセルビア人居住地がムスリム人地域に編入され、ムスリム人の若者たちがしばしばやってきて、「出ていかないと、殺すぞ」と脅して立ち退きを迫るなどをしたため、およそ5000人いたセルビア人は100人ほどに減少する。
09/01:
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領とセルビア共和国コソヴォ自治州のルゴヴァ大統領との間で教育協定が結ばれ、調印署名される。
・ボスニアのクロアチア人勢力の「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国」は、米国および旧ユーゴスラヴィア首脳が合意した解体期限を迎え、これまで実施してきた徴税や通関など国家機能を「ボスニア連邦」に移譲する。09/02:・ボスニアの選挙を管理・監視するOSCE報道官は、延期を決めた地方選挙についての選挙規則を見直す方針を明らかにする。報道官は、選挙延期の理由として、ムスリム人勢力の異議申し立てが絡んでいることを認める。
09/04:
・ボスニアの選挙を管理・監視するOSCEサラエヴォ派遣団は、6つの選挙の立候補者が3398人に上ると発表。統一ボスニアの中央機関となる幹部会の3議席には、ムスリム人のイゼトベゴヴィチ大統領とシライジッチ前首相、クロアチア人のズバク・ボスニア連邦大統領、セルビア人のクライシュニク・セルビア人共和国国会議長など16人が立候補。中央議会の下院選挙には、ボスニア連邦側の28議席に対し13政党、スルプスカ共和国(セルビア人共和国)側の14議席に15政党が立候補。セルビア人共和国の大統領選挙にはプラブシッチ大統領代行を始め7人が立候補。同じくスルプスカ共和国(セルビア人共和国)の国会選挙には、19政党から立候補。ボスニア連邦議会選挙には、13政党が立候補届をそれぞれ提出。
09/05:
・ボスニア和平実施会議の運営理事会がブリュッセルで開かれ、14日の統一選挙実施後にできるだけ早期に幹部会、内閣、議会の3つの中央機関を発足させることで一致。ボスニア統一選挙に向け、和平を軍事面で支えてきた和平実施部隊・IFORが、投票箱や名簿などの移送と管理を実質的に行なうことになる。
・ドイツは、第二次大戦でナチス・ドイツがユーゴスラヴィアを侵略した経緯から、旧ユーゴスラヴィアへのIFORとしての駐留は比較的抵抗の少ないクロアチアに限り、野戦病院や工兵隊など後方支援に限定していたが、リューエ国防相は「ドイツの役割は評価されており、IFORの後継部隊には装甲車、偵察用戦車などを備えた歩兵部隊をボスニアに派遣出来る」と平和維持活動への全面参加を示唆。緑の党は、「なし崩しの戦闘行動参加を目指している」と批判。
09/07:
・ボスニア和平連絡調整グループ6ヵ国は、ドイツのフランクフルトで会議を開き、ボスニアの地方選挙を今年中に行なうよう求める。
・EUは非公式外相会議を開き、ボスニアの統一選挙終了後の2年間を「和平強化期間」として国際的な実力部隊を維持していくなど、国際社会が様々な形で関与していくことで合意。
09/08:
・ボスニアのサラエヴォで、統一選挙の投票用紙などを保管しているOSCEの倉庫を警備中の和平実施部隊・IFORのウクライナ人兵士が、何者かに銃撃されて死亡。倉庫の内部に、被害は出ていない。
09/09:
・ボスニア和平実施OHRのビルト上級代表は記者会見で、次回国政選挙が行なわれる予定の98年秋までの2年間に、戦闘の再発を抑止出来るだけの規模を持った国際的な軍事部隊が駐留する必要がある、との考えを表明。
09/11:
・ボスニア統一選挙のOSCE監視団は、これまでの各勢力の違反行為について、罰則を言い渡す。罰則の細目;「1,セルビア人勢力にはドボイで、『ここで投票しないと人道援助物資を渡さない』と避難民を脅していた行為に対し、罰金3万7500ドイツマルクと公式の謝罪をすること。謝罪が1日遅れる毎に候補者2人ずつを失格させる。2,クロアチア人勢力与党のクロアチア民主同盟には、地方選挙管理委員会から有権者名簿を持ち出した行為に対し、罰金1万ドルと候補者1人の失格。3,ムスリム人与党の民主行動党には、野党候補に暴力をふるった行為に対し、候補者8人の失格」。という制裁を科す。
・ボスニアのモスタルの西側のポドフムで、クロアチア人警察官が元の住居に戻ろうとしたムスリム人を警棒などで殴りかかり、負傷者が出る。
・ボスニアのクロアチア人勢力側は、ポドフムに戻ってきたのは私服のムスリム人警官や元兵士で、クロアチア民主同盟の選挙集会を妨害するための挑発行為だった、と主張。
09/12:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)の治安当局者は、14日の統一選挙で同共和国を訪れる難民・避難民は20万人以上に上る、との見通しをまとめる。このうちユーゴ連邦から投票に訪れる有権者は13万人で、「ボスニア連邦」などから「スルプスカ共和国」へは12万人、ボスニア連邦へは1万人が戻ると予測。
・ボスニアのサラエヴォは、統一選挙を前にして復興景気に湧く。46の国と10の国際機関が、これまでに19億9000万ドルの復興援助を約束し、既に3億6000万ドルを支出。48の大使館が開設し、2000人を超す各機関の出張者に加え、ボスニア全土に展開する6万人の和平実施部隊・IFORなどの外国人が、金を落としていることによる。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、民主行動党・SDAの統一選挙運動集会で10万人を集め、「ボスニア統一のために、選挙で圧勝しよう」と訴える。
・ボスニアのIFORは、セルビア人共和国の管轄地域に入ったドボイを「緊張地域」に指定。ドボイは、紛争前は10万人の都市でムスリム人住民とセルビア人住民が半々だったが、現在はほとんどがセルビア人居住区となっている。これから、どれほどのムスリム人が戻ってくるのか見当がつかない状態。
09/13:
・ボスニア中部のブゴイノで、クロアチア人の地方選挙管理委員長の自宅前に手榴弾が投げ込まれたが、怪我人は出て
いない。
09/14:
・ボスニア統一選挙が実施される。統一選挙は、「1,統一国家ボスニア幹部会員3人。2,統一議会下院。3,ボスニア連邦の下院。4,ボスニア連邦の州議会。5,セルビア人共和国の大統領。6,セルビア人共和国の下院」の6つの選挙についての投票。有権者の6割にあたる170万人が、故郷を追われた難民・避難民となっている前例のない選挙となる。4400ヵ所の投票所を19の「安全ルート」で結び、鉄条網を張り巡らしIFORが警戒に当たる。
・ボスニアの民主行動党は、セルビア人支配地域では和平協定などが定めた自由で公正な選挙のための条件が存在しなかったとし、同地域の選挙結果は法的に無効である、と訴える書簡を国連安保理に送付。
・ホルブルック米元国務次官補はサラエヴォで記者会見し、統一選挙後に関係国で会合を開き、国連国際警察部隊の増強など和平協定を強化するための枠組みを作るべきだ、との考えを示す。
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のプラブシッチ大統領代行は、ホルブルック米元国務次官補ら米政府派遣団と会談し、「和平協定に基づく統一機構への協力、参加」の意向を伝える。
・ボスニアのセルビア人共和国の検察当局は、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領を、「紛争中にセルビア人の捕虜や民間人の虐待を命じ国際法に違反した」として戦争犯罪人として起訴。
09/16:
・ボスニア・サラエヴォの国連スポークスマンは、ボスニア統一選挙の有権者は170万人で海外から郵便などで投票した人は50万人以上。ムスリム人支配地域とセルビア人支配地域の境界を越えて投票した難民・避難民の有権者は1万4700人、ボスニア連邦からセルビア人共和国に投票した人が1万3500人、セルビア人共和国からボスニア連邦に投票した人が1200人、と発表。「越境投票者」の数の少なさに、関係者は衝撃を受ける。
・サラエヴォの上級代表事務所・OHRスポークスマンは、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領とミロシェヴィチ・セルビア大統領が、パリで会談することに原則合意する。
09/17:
・ボスニア統一選挙を管理するOSCEの開票速報によると、統一ボスニア幹部会の初代議長にムスリム人のイゼトベゴヴィチが72万9000票で当選が確定。イゼトベゴヴィチ大統領は、「私の目標は、国の統合とその国における正義だ」と統一ボスニア実現への意欲を示す。他の2人の幹部会員で、セルビア人の幹部会の当選者はクライシュニク・スルプスカ共和国(セルビア人共和国)国会議長、クロアチア人の幹部会員はズバク・ボスニア連邦大統領がそれぞれ当選。
09/18:
・ボスニア統一選挙の選挙管理者OSCEは、セルビア人共和国大統領選挙にセルビア民主党のプラブシッチ大統領代行が72%を獲得して当選、と発表。
・NATOのソラナ事務総長は、ボスニアの地方選挙は11月下旬から12月に初めに実施されると想定し、NATO軍のIFORが全面的に支援する方針を明らかにする。
09/19:
・ボスニア・OHRのビルト上級代表は記者会見で、ムスリム人勢力、クロアチア人勢力、セルビア人勢力の各代表と会談し、新たな共同機関創設に向けて各勢力が協力する姿勢を確認したことを明らかにする。
・NATOのソラナ事務総長はロンドンでの講演で、首脳会議を開く前提として、「1,第1次の新規加盟国の決定。2,第1陣に漏れた加盟希望国などを考慮した『平和のための協力協定・PFP』の強化。3,ロシアとの協力関係の制度化。4,IFORの後継部隊の任務や規模の決定。5,欧州主体の軍事行動の可能性を睨んだ機構改革の推進」をあげる。第1陣の加盟候補は、ポーランド、ハンガリー、チェコと見られる。
・ドイツ連邦政府と各州政府の内相が会合し、ドイツに滞在するボスニア難民32万5000人の送還開始を決める。
09/21:
・ボスニアの統一選挙を管理・監視しているOSCEは記者会見で、集計ミスが判明したため最終確定に遅れが生じていることを明らかにする。大量ミスの原因の一つに、通信・連絡体制の悪さが指摘される。
09/23:
・ボスニア統一選挙についてOSCEが再集計した結果は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア民主行動党の得票数は73万1024票、クライシュニク・セルビア民主党は69万130票、ズバク・クロアチア民主同盟は32万9891票。
・ボスニア統一選挙による下院議員選挙で、ボスニア連邦の28議席分ではムスリム人勢力の民主行動党の得票率54.2%、クロアチア人勢力のクロアチア民主同盟が25.3%。セルビア人共和国の14議席はセルビア民主党が54.6%を獲得。選挙による42議席の全てが確定。その他州議会及び市町村議会も実施。
統一議会・上院は各勢力5人ずつの15人。下院の定数は42議席で、ボスニア連邦28,セルビア人共和国14が割り当てられ、内訳は「民主行動党が19議席,セルビア民主党が9議席,クロアチア民主同盟が8議席,政党連合・共同リストが2議席,ボスニア・ヘルツェゴビナ党が2議席,自由平和国民同盟が2議席」の配分となる。
ボスニア連邦の下院は140議席・内訳はムスリム人の「民主行動党が78議席,クロアチア民主同盟が35議席,政党・共同リストが11議席,ボスニア・ヘルツェゴヴィナ党が11議席,民主国民同盟が3議席,クロアチア権利党が2議席。
中央幹部会選挙・「ムスリム人勢力はイゼトベゴヴィチ、セルビア人勢力はクライシュニク、クロアチア人勢力はズバク氏」を選出。
ボスニア連邦は、連邦大統領が連邦議会で選出され、上院は定数60で州議会で選出することになる。
スルプスカ共和国(セルビア人共和国)選挙・共和国大統領はプラブシッチが選出される。共和国議会・定数83議席で、セルビア民主党が45議席,民主行動党が14議席,自由平和国民同盟が10議席,セルビア急進党が6議席,民主愛国ブロックが2議席,ボスニア・ヘルツェゴヴィナ党が2議席,その他4議席。その他市町村議会選挙も実施される。
09/24:
・ロシアのプリマコフ外相は国連総会の演説で、統一選挙後のボスニア情勢について、「新たな対立や敵対行為を生む危険はなお残っている」と指摘。さらに、和平実施部隊・IFORの活動期限となっている12月以降も 「ロシアが貢献している国際的な軍事組織と警察は、一定の期間、和平に必要だ」と国際監視軍の駐留を継続させるよう主張。
09/25:
・NATOの国防相会議がノルウェーのベルゲンで始まり、12月に任期切れになるボスニアの平和実施部隊・IFORの後継部隊の任期を明確にするため、作戦計画の作成を始めることで一致。IFORの後継部隊の任務は、「1,全面撤退。2,新たな戦闘の抑止。3,広範な安全保障を担うための抑止力。4,文民部門の支援を含めた現状維持」の4つの選択肢を念頭に置いて、計画の具体化を図る。NATOは中・東欧への加盟国拡大や対ロシア関係の調整を本格化させ、来年にも地ならしとしたい意向を持つ。
09/28:
・ボスニアの市民警察の育成を目指す、「ボスニア法執行支援国際会議」がダブリンで開かれ、議長のアナン国連事務次長はボスニアの警察が国家の統制機関から、人権保護を重視した民主警察に移行するために必要な装備、訓練、技術支援プログラムの費用として、1億ドルの拠出を要請。米政府は1700万ドルを約束。
09/30:
・ボスニアの統一選挙で選出された幹部会の初会合が開かれ、「1,10月5日に統一議会下院を招集する。2,10月30日までに組閣する。3,内閣には外相や通商相などを置くが、小規模なものとする。4,全ての捕虜の釈放をする」などの声明を発表。
10/01:
・国連安保理は、ユーゴ連邦への経済制裁について、直ちに全面解除する決議1074を全会一致で採択。
・ドイツのベルリン市、ボスニア難民に対し本国への送還通告を出す。
・オーストリアは、来年8月末までボスニア難民への経済支援を継続し、その後は「自発的帰還」を促す方針。
・スイスは、ボスニア難民を来年4月までに帰還させる計画を決める。
10/03:
・ユーゴ連邦セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領とボスニア・ヘルツェゴビナのイゼトベゴヴィチ幹部会議長はパリで会談し、外交関係を樹立することで合意。両者は新ユーゴ連邦が旧ユーゴ連邦を継承し、ボスニア統一を尊重することでも合意。
10/05:
・ボスニア統一議会の下院が招集されたが、セルビア人勢力は安全確保を再検討するように要求して欠席。
・ボスニア文民部門上級代表事務所・OHRの担当官は、セルビア人勢力を「子供じみていて、愚かしいこと」と非難。
10/07:
・ボスニア連邦の軍に対する米国の民間軍事顧問会社・MPRIによる訓練が、サラエボ郊外で始まる。
10/09:
・ボスニアの和平実施部隊・IFORに参加している米軍部隊1万5000人の内、第1陣240人が撤退を始める。
10/11:
・ボスニア東部のユシチ村の3ヵ所で爆発事件が起こり、スルプスカ共和国(セルビア人共和国)の警察官がムスリム人住民3人を爆発物所持の容疑でズボルニクの警察署に連行。ユシチ村のムスリム人200人は、爆発事件に絡む武器所持で警官に逮捕されたムスリム人住民の釈放を求め、和平実施部隊・IFORのロシア部隊の兵士を人質に取る。ロシア軍の戦車の前に女性や子どもが立ちふさがり、ロシア兵士たちを立ち往生させる。
・国際警察の最高責任者のイクバル・リザ国連事務総長特別代表は、「IFOR、国際警察、そして地元の警察、この3つが関係しており、極めて複雑だ。この国では単純なことは何もない。国際警察には強制力がない。出来るのは報告だけだ。現場に行って『プリーズ』というしかない」と述べる。
10/19:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)議会が、選挙後初めてバニャ・ルカで開会。新たに選出されたムスリム人議員は、スルプスカ共和国(セルビア人共和国)やセルビア正教への忠誠を誓う就任宣誓を拒否する。
10/22:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ幹部会の第2回会合がサラエボで開かれ、イゼトベゴヴィチ・ボスニア幹部会議長、セルビア人のクライシュニク幹部会員、クロアチア人のズバク幹部会員の3民族の代表者が、3週間振りに顔を合わせて就任宣誓を行い、幹部会が正式に発足する。
・ロシアのアファナシェフスキー外務次官は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア幹部会議長と会談し、近くロシアがボスニア・ヘルツェゴヴィナと全面的な外交関係を樹立することで合意。
10/24:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷が、クロアチア東部のヴコヴァル近郊で発掘された200人の遺体の死因について、ザグレブで暫定調査結果を発表。暫定調査では、クロアチア独立戦争の際の91年11月にヴコヴァル一帯を制圧した旧ユーゴ連邦軍によって、病院から連れ出されて処刑されたと見られる、としている。
11/03:
・ユーゴ連邦議会のセルビアおよびモンテネグロの議席配分別の、下院選挙が行なわれる。
11/06:
・ユーゴ連邦の選挙管理委員会は、議会の下院選挙結果を発表。下院138議席の内セルビア側108議席、モンテネグロ側30議席。内訳は、セルビア側108議席のうち「セルビア社会党を主軸にした左翼連合が64議席、右派民族主義者の野党連合ザイェドノが22議席、民族主義のセルビア急進党が16議席」。モンテネグロ側30議席のうち「ミロシェヴィチ支持の社会主義民主党が20議席を獲得し、その他10議席」。
11/07:
・NATO軍事委員会はボスニアのIFORの後継問題について、「1,完全撤退。2,戦闘再発の抑止。3,戦闘抑止に加え、文民部門が活動出来る安全な環境の確保。4,部隊の規模は縮小されるものの広範な文民部門の支援を含むIFOR型」の4案の検討作業を行なう。
11/08:
・クリントン米大統領は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの和平実施部隊・IFORの後継となる「多国籍軍部隊」に米国の参加はあり得る、と述べる。
11/09:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のプラブシッチ大統領は声明を発表。「ムラディッチ軍司令官を解任し、後任にチョリッチ将軍を任命。またグベロ副司令官を含む、参謀本部メンバー全員を更迭」したとの声明。
11/10:
・スロヴェニア共和国の下院90議席の選挙が行なわれる。中間発表で、90議席の過半数を獲得する政党はなく、01年までにEU加盟をめざして経済改革を唱える中道左派のドルノウシェクに自由民主主義党・LDSが、得票率27.1%で第1党の座を維持。
11/11:
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)管轄地域のズボルニク付近で、ムスリム人600人が集団で越境する動きを見せ、その際の発砲でセルビア人1人が負傷。
11/12:
・ボスニア北東部のスルプスカ共和国(セルビア人共和国)管轄地域のズボルニク付近で、セルビア人勢力の武装部隊とボスニア連邦側から集団で越境・帰還を図ったムスリム人住民が衝突し、ムスリム人1人が死亡、双方に数人の負傷者が出る。
・ボスニア和平実施部隊・IFORの報道官はムスリム人の越境帰還について、セルビア人勢力関係者の事前の了解がないまま実施された、「計画的、挑発的なものだ」として、住民を制止しなかったムスリム人勢力当局の責任を非難する。
11/13:
・ボスニア和平実施評議会の運営理事会は、ボスニア・ヘルツェゴビナ幹部会と共同で「文民部門強化計画の指導原則」を作成して採択。指導原則;「1,経済復興。2,国際警察任務部隊の強化を含む法秩序の回復。3,人権の保護。4,報道の自由などの民主化。5,移動の自由の確保。6,国民和解」などの13分野を挙げる。ボスニア幹部会に対しては、「閣僚会議、議会、中央銀行など、統一政府の機構を早急に樹立、稼働させる」ことなど、和平協定の完全実施を求める。
11/14:
・ボスニアの和平実施評議会の運営理事会が、ムスリム、セルビア、クロアチア3勢力の幹部会員3人が出席して開かれる。合意事項;「1,紛争当事者の協定遵守の決意。2,国際社会の支援体制の確認。3,98年の次の選挙までの間を『和平強化期間』として、難民帰還や経済復興など文民部門を中心に和平実施の促進を図る」ことなどで。
・クリストファー米国務長官は、難民帰還をめぐって衝突が繰り返されていることについて、「重大な和平協定違反には、国連安保理の制裁措置もあり得る」と警告。
11/15:
・米国防総省は、「ボスニア和平実施部隊・IFORが、NATO軍の軍事行動で前例のない成功を収めた」との声明を出す。
11/17:
・セルビア共和国のベオグラード地方裁判所は、ベオグラード市議会選挙で、定数110議席のうち60議席以上を獲得した野党連合「ザイェドノ」に対し、一部の選挙区で不正があったとして、無効・やり直しを命じる。
・野党連合のドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首は、「与党の敗北を帳消しにするためだ。この国ではまともな選挙が出来なくなった」 と非難。
11/18:
・NATOは臨時大使級理事会を開き、12月20日で任期が切れるボスニア和平実施部隊・IFORの後継部隊として「和平安定化部隊・SFOR」を派遣することで合意し、軍事部門に作戦計画の作成を指示。米国がSFORの任期を1年半とするよう提案したため、このあと派遣規模や任期、任務などについて詰めることになる。SFORの規模は、IFORの最大6万人から、2.5万人ないし3万人規模に縮小される見通し。
・セルビア共和国のベオグラード地裁が市議会選挙のやり直しを命じたことから、ミロシェヴィチ政権に対する反政府市民デモに発展する。
11/19:
・米政府は、ボスニア連邦政府の中のイランとのつながりの深い高官を解職させる。
註;米政府は、ボスニアのムスリム人勢力を支援してきたイランの影響力を排除しようと、ボスニア政府に圧力をかけながら独自に武装強化の支援を図っている。
11/21:
・米政府は、ボスニア連邦への戦車や装甲兵員輸送車などの供与を始める。
・ボスニアのセルビア人勢力内では、「対米協調」に傾いたミロシェヴィチ・セルビア大統領の影響力を排除しようとする動きが強まる。プラブシッチ・スルプスカ共和国大統領が、ムラディッチ軍司令官を解任したのも影響力排除の一環。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの「統一政府」つくりが、デイトン合意後1年を経て大幅に遅れる。3民族で構成する最高機関のボスニア・ヘルツェゴヴィナ幹部会は首相、外相、対外貿易相などの指名が出来ず。ムスリム人勢力とクロアチア人勢力で構成する「ボスニア連邦」は、統一政府の機能強化を図るため、財政や軍事などのポスト設置を要求。セルビア人勢力の「スルプスカ共和国」側は、閣僚数を少なくとどめ、セルビア人共和国の独立性を堅持したいとの思惑がある。その双方の思惑から閣僚数などの調整で手間取る。
・ムスリム人勢力側では、民族主義を抑制した紙面つくりをしてきた穏健な新聞「オスロボジェニェ」紙が減少し、強硬な民族主義路線を採る「アバス」紙が部数でトップの座を占める。
11/25:
・セルビア共和国のベオグラードで、ミロシェヴィチ政権に対する反政府デモに10万人が参加。ミロシェヴィチ大統領に対する反発は、ユーゴ連邦への経済制裁解除を図るために欧米との協調姿勢をとり、クロアチアやボスニアのセルビア人への対応が冷淡であったことにある。
11/26:
・ユーゴ連邦の最高裁判所は、ベオグラードの市議会の無効・やり直しを命じた地裁決定の取り消しを求める野党連合「ザイェドノ」の訴えを却下。この決定により、110選挙区のうち55選挙区で、27日に投票やり直しをすることが確定。野党連合「ザイェドノ」は最高裁決定を不服として、27日の選挙をボイコットする方針。
・セルビア共和国の野党連合の抗議デモがこの日もベオグラード中心部で2万人が参加して行なわれ、国営テレビ本社などに卵やトマトを投げつける。
・セルビア共和国のベオグラード市選挙管理委員会は、抗議デモを選挙運動と認定し、投票前日に選挙運動を行なうのは違法と認定する見解を発表。
11/27:
・セルビア共和国ベオグラード市議会議員の55選挙区で、やり直し選挙の投票が行なわれる。
・ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)議会は、プラブシッチ大統領によるムラディッチ司令官解任を承認。
11/28:
・ボスニアのセルビア人勢力の軍司令官ムラディッチ将軍は、司令官職を27日付けで辞任し、全ての権限をミロバノヴィチ将軍に移譲した、との声明を発表。
11/29:
・欧州安保協力機構・OSCEは、ユーゴ連邦で実施された選挙で大規模な不正が行なわれたことを指摘し、「極めて憂慮する」との緊急声明を発表。
11/30:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの幹部会はサラエヴォ市内で会合を開き、統一中央政府の閣僚ポスト数などを決定。首相にあたる閣僚会議議長は、ムスリム人とセルビア人の2人による共同議長制を敷く。副議長はクロアチア人、外相はクロアチア人、対外貿易相はムスリム人、民生・通信相はセルビア人とする。3閣僚毎に次官2人ずつを配置し、閣僚会議は少なくとも週1回開催する。難航していた組閣は、OHRカール・ビルト上級代表の強い圧力を受けて決まる。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ幹部会は、ローマ法王ヨハネ・パウロⅡ世を首都サラエヴォに招待することで合意。バチカンは、旧ユーゴ連邦からのスロヴェニアやクロアチアの分離独立を支持・支援し、ユーゴスラヴィア連邦解体促進に大きな影響を及ぼした。
11/00:
・米国防総省は、ボスニアの「IFOR」の後継部隊の「和平安定化部隊・SFOR」に8500人を投入することを決める。
・NATOの大使級理事会は、ボスニアの「和平安定化部隊・SFOR」の最終駐留期限を98年6月とすることで合意。
・ボスニアのサラエヴォで、ムスリム人難民・避難民ら1000人以上が、「国際社会は我々を見捨てている」と訴えるデモを挙行。ムスリム人当局の概算によると、この1年間で和平実施部隊・IFORに費やされた金額は80億ドル、海外在住の難民支援にも80億ドル。これに対し、国内難民・避難民の帰還費用は2億5000万ドルに過ぎない、としている。ただし、サラエヴォから脱出したムスリム人は戻ってくるものの、大量脱出したセルビア人は帰還の意思を示していない。
12/01:
・セルビア共和国のベオグラード市議選が無効と決定されたことに対する野党連合の抗議デモが、各地で連日行なわれており、ベオグラードだけで15万人が参加。警察はベオグラードとノビサドなどで、数人を逮捕。
・ドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首は「我々に脅しは通用しない」とあくまで前回の選挙結果を尊重するよう求めていく姿勢を崩さず。
・セルビア共和国は即決裁判で、反政府デモの5人の参加者に対し拘禁刑を言い渡す。
・ボスニアの選挙管理にあたっているOSCE派遣団のフロウィック団長は、ボスニアの地方選挙を来年実施することに各勢力が同意した、と発表。
12/02:
・セルビア共和国のベオグラードでの野党連合のデモは、雪をついて7万人が参加。ベオグラード警察は、デモ参加者32人を器物損壊などで逮捕。
12/03:
・セルビア共和国のデモを生中継するなどしていた独立系ラジオ「B92」の放送が、突然中断する。ラジオ放送局当局者によると、政府当局者から正式な許可がない違法な業務を続けている旨の指摘がファクスであり、電波管理当局が技術的措置を講じたことによる中断だとする。放送局幹部は、国営ラジオとの放送許可契約が90年末に切れており、契約料金未払い状態で放送を3日まで続けてきたことを明らかにする。直ちに、正式契約の手続きをする方針を表明。
・この日に同時に放送中断になったラジオ局「インデックス」は、正式許可に基づいて放送していたことが確認され、同日中に放送を再開する。
・米政府は、ユーゴ連邦セルビア共和国の政府当局がラジオ局を閉鎖するよう命じたことについて、「メディアへの弾圧を非難する」との声明を発表。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、旧ユーゴスラヴィア内戦に伴ってセルビア人勢力が支配していたクロアチア東部の東スラヴォニア地方の中心都市ヴコヴァルを訪問。
12/04:
・米政府は、セルビア共和国の非政府系ラジオ局「B92」の番組を、米政府の海外向けラジオ放送「VOA・アメリカの声」として中継する、と発表。
・セルビア共和国の野党連合「ザイェドノ」の反政府デモは、17日目のこの日もベオグラードなどで行なわれ、主催者によると延べ100万人以上が参加。
・ブーク・ドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首は、「平和的なデモを続ける。我々全員を逮捕してセルビア中を監視しても構わない。最後にその監獄に残るのはミロシェヴィチだ」とデモ継続の方針を確認。デモ収束の条件として、「1,11月17日に投票された、ベオグラード市議選などの地方選での野党連合勝利の認知。2,市議選やり直しを命じた裁判官の処分。3,選挙結果を操作した疑いのある、セルビア社会党の刑事責任の追及。4,メディアの自由拡大」などを挙げる。ボスニア和平については「ミロシェヴィチ・セルビア大統領、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領ら紛争指導者が総退陣しなければ、ボスニアに平和は来ない。旧ユーゴ国際戦犯法廷へは全面協力する」と述べる。
・ゾラン・ジンジッチ民主党党首は、「今のユーゴは、民族的利益を追求するより、国際社会の信頼を得ることだ。政権打倒は民主化のために必要だ。国の近代化はセルビア正教の力や神話、伝統では実現しない。良いマネジメントをする人がリーダーになるべきだ」と語る。ジンジッチ民主党党首は、選挙管理当局への選挙不正の申し立ての理由として「1,投票所からの30メートルの地面に、野党連合の選挙ビラが落ちており、これが選挙結果に影響した。2,投票所の野党連合の選挙立会人にサンドイッチの差し入れがあったが、与党側立会人には差し入れがなく、与党支持者になるとサンドイッチさえもらえないという不利な印象を広めた」などという些細なものだった、と主張。
・ボスニア和平実施評議会の全体会議はロンドンで56の関係国・国際機関が参加し、ボスニア和平の定着を目指す2年目の行動計画策定を協議。
・ドイツ政府は、ボスニアに駐留しているNATO軍の和平実施部隊・IFORの後継和平安定化部隊・SFORにドイツ軍3000人を派遣し、このうち2000人を地上部隊とすることを決める。地上部隊2000人は、フランス軍とともに中部ボスニアのサラエボ圏に展開する。ドイツは第2次大戦中にナチス・ドイツがユーゴスラヴィアを侵略した歴史から、地上軍派遣には慎重な態度を採ってきたが、その態度を変えることになる。
12/05:
・ボスニア和平実施評議会の全体会議は2日目を迎え、和平協定の民生面の重要課題である経済復興や難民帰還などについて協議し、来年1年間の具体的な「行動計画」を盛り込んだ最終文書を採択して閉幕。「行動計画」:「1,経済復興は、ボスニア連邦とスルプスカ共和国(セルビア人共和国)にまたがるプロジェクトを優先的に実施する。2,難民帰還は、UNHCRが指定した優先地域を中心に、約200万人とされる難民・避難民の自発的な帰還を促進するための条件を整える。3,96年6月に結ばれた、軍備管理協定の完全実施による地域の安定を図る。4,国際通貨基金・IMFとの安定化計画の含意などによる市場経済を建設する。5,逮捕の乱用の防止や交通・通信の整備に基づいた移動の自由を確保する。6,中央銀行を、97年初めまでに稼働させる。7,旧ユーゴ国際戦犯法廷への全面協力、戦争犯罪被告人の速やかな引き渡しに協力する」などを列挙。
・リフキンド英外相はボスニアの各派の態度について、「国家再建のために力を合わせて働こうとする確かな証拠も、本物の政治意思も、ボスニアの当事者たちは示していない」と語る。
・セルビア共和国のベオグラード市選挙管理委員会は、11月17日の一部で不正があったとして無効にした地裁の決定について、再審査するよう最高裁に請求。
12/06:
・セルビア共和国のティヤニッチ情報相が辞任。辞任の理由についてティアニッチ情報相は、「自分に何の相談もなく、トップダウンで反政府報道を抑圧する政策が取られていた。この国のメディアの現状と、自分の考えが違っていた」と語る。
・セルビア共和国の独立系政治週刊誌「ニン」が世論調査行ない、11月17日に選挙結果を無効とした裁判所の決定に対し、不当が57.5%、正当が17%。野党のデモで成果は得られない71%、デモの要求は実現する14.5%。「信頼の置ける政治家」は、ミロシェヴィチ大統領16.5%、ジンジッチ民主党党首10%、ドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首3.5%。シェシェリ急進党党首6.5%、コシュトニツァ民主党党首6%、信頼の置ける政治家はいない62.5%」。
・NATOは大使級協議を開き、ボスニアの和平安定化部隊・SFORの作戦計画を固める。計画の概要;「ジョイント・ガード」と名付けた、「1,IFORと交代、部隊配置を終える『移行・展開期』を45日間とする。2,任務遂行が本格化する『安定化期』を97年秋までか、同年末までとする。3,部隊の大幅な削減と再配置を行ない、戦闘抑止に任務の重点を絞る『抑止期』。4,部隊の撤収に向かう『任務完了期』を98年春から夏までとする」の4段階で実施するとの内容を決める。派遣規模は、最大で3万人とするため偵察・情報収集など、空からの支援を強化し、文民部門への支援は地方選挙などに焦点を絞ることになる。
・セルビア共和国の反政府系紙の「ナシャボルバ」紙は、コソヴォ自治州のアルバニア系独立派のアデム・デマチの、「鉄鎖につながれたアルバニア人は、友好的なセルビア人に手をさしのべる」と、野党連合「ザイェドノ」の反政府デモとの共闘を呼びかける書簡を1面に掲載。
・新ユーゴスラヴィアで反政府報道の急先鋒に立つ「ブリッツ」紙は、「コソヴォ民主同盟のルゴヴァ議長は、近く米国でクリストファー国務長官と会談する。デモが、セルビア政府とコソヴォのアルバニア系住民グループとのコソヴォの自治権をめぐる交渉に影響を及ぼす」と報じる。
・コソヴォ自治州の分離独立派は米政府の全面的な支持を得ているが、さらに米政府が圧力を強めることを期待して、セルビアの反政府勢力との連帯を探り始める。
12/07:
・セルビア共和国の最高裁判所は、11月17日に行われたベオグラード市議選の一部を無効とした地裁の決定に異議申し立てをした野党連合「ザイェドノ」の訴えを却下する。
・セルビア共和国の野党連合の反政府デモは、この日も25万人が参加して行なわれる。
・クロアチア共和国のトゥジマン政権は、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYが起訴したボスニアのクロアチア人勢力のブラシュキッチ将軍に対し、ボスニア紛争中にセルビア人勢力支配地域を制圧した武勲を讃えて「勲章」を授与する。
12/08:
・ベオグラード市選挙管理委員会は、11月27日に行なわれた再選挙を含む市議選の結果を発表。110議席中、与党セルビア社会党と左翼連合が66議席を獲得し、野党連合「ザイェドノ」が32議席、セルビア急進党が10議席、セルビア民主党が2議席と発表。
・セルビア共和国の野党連合「ザイェドノ」は、デモで逮捕されたデアン・ブラトヴィチが拘置所内で暴行を受け重傷を負ったと主張。弁護団によるとこの1週間で40人が逮捕され、その多くは拘置所内で正当な処遇を受けていないという。
12/09:
・NATOの大使級理事会は、12月20日からボスニアに展開する「和平安定化部隊・SFOR」の作戦計画を承認。
・ボスニアのムスリム人勢力の政府与党の民主行動党は、ボスニア和平協定に基づいて成立した統一政府の共同議長のムスリム人枠に、シライジッチ前首相を指名すると決める。
12/10:
・ユーゴ連邦議会の下院本会議が招集されたが、野党連合「ザイェドノ」所属の議員22人が出席を拒否する。
・ドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首は、「セルビア共和国政府が、ベオグラード市議選での野党連合の勝利を認めない限り、出席拒否を続ける」と述べる。
12/12:
・国連安保理は、ボスニアへの和平安定化部隊・SFORの派遣を承認する決議1088を、全会一致で採択。1年半の任期について、「1,当初の『移行・展開期』を45日間とする。2,任務遂行が本格化する『安定期』を97年秋か年末までとする。3,部隊の大幅な削減と再配置を行ない、戦闘抑止に任務の重点を絞る『抑止期』を98年春までとする。4,部隊の撤収に向かう『任務完了期』を98年6月30日までとする」の4段階を想定。
・ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領はベオグラード市議選挙への批判に対し、「我が国に対する国際批判は、いわれがない。選挙見直しや、その後の関連訴訟は完全に民主的、合法的に行なわれ、既に公正な結論が出ている。地方選挙問題での政権側の正当性を証明するために、OSCEの代表調査団を招く」との内容の書簡を、クリストファー米国務長官に送付。
・クロアチア共和国の税関は、投資家のジョージ・ソロスが主催する基金を持ってクロアチアに入国しようとした関係者から、6万5000ドルを不法所持したとして差し押さえる。トゥジマン・クロアチア大統領は、ヤルニャク内相を取り締まらなかった責任で解任する。
・ジョージ・ソロス投資家は、「東欧民主化支援」を名目に、クロアチア共和国内の非政府系メディアに資金援助をしている。また、ソロスはユーゴ連邦のセルビア共和国の反政府メディアにも資金援助をしており、軋轢を起こす。
12/13:
・ドイツ連邦議会は、ボスニアの「和平安定化部隊・SFOR」に、ドイツ軍の総派遣数およそ3000人およびその内の2000人を実戦部隊とすることを、賛成499,反対93,保留21で承認する。
12/15:
・セルビア共和国の反政府デモは、この日もベオグラードで25万人を集めたが、独立系ラジオ「B92」は南部の主要都市ニシュでも1万5000人が反政府デモを行なった、と伝える。
12/16:
・クロアチアのマテ・グラニッチ外相が訪日して記者会見を行ない、セルビア共和国情勢について、「現在はミロシェヴィチ大統領が国内を統制しているが、それが明日どうなるか分からない。デモが拡大して、政権が一段と不安定になることもあり得る。反政府デモを組織している野党政治勢力の中に民族主義者がいる。干渉はしないが、事態を注意深く見守りたい」と語る。
・セルビアのジンジッチ民主党党首は、「ザイェドノは新年までデモを続ける」と対決姿勢を示す。
12/17:
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はニシュ市の学生代表と大統領府で会見し、学生たちは選挙結果の公正な調査・発表を求める。ミロシェヴィチ大統領は真相解明を約束。
・NATO国防相会議がブリュッセルのNATO本部で開かれ、IFORと交代して20日から任務に就くボスニアの和平安定化部隊・SFORへの移行を円滑に進めるための作戦計画を、前倒しして発動することを決める。
・セルビア共和国の政府系「ボルバ」紙は、野党連合の反政府デモが米英独の国旗を掲げていることに関し、「自分たちの自由や独立を要求するのに、外国の国旗を掲げるのはおかしい」と批判。
・リリッチ・ユーゴ連邦大統領は、反政府デモを続ける野党連合「ザイェドノ」が問題にしている地方選挙について、「裁判所の決定を尊重すべきだ」と強調。
・欧州安保協力機構・OSCEは、ゴンザレス・スペイン前首相を団長とするセルビア地方選挙調査団を派遣する、と発表。
・来日中のグラニッチ・クロアチア外相は、「平和のための協力協定・PFP」に、97年中に調印したいとの意向を表明。スロヴェニアとマケドニアは既に調印済み。
12/20:
・OSCEのセルビア地方選挙調査団がベオグラード入りし、団長のゴンザレス前スペイン首相は、「対立する与野党間の仲介ではなく、選挙についての真実を見出すのが目的」と述べ、ミロシェヴィチ・セルビア大統領や野党連合の「ザイェドノ」の指導者らに事情を聴く。
・ユーゴ連邦の自主労組連合のドラガン・ラドロヴィチ議長は、「ザイェドノ」のデモや集会は、労働者の生活向上につながるものではない」と述べる。
12/21:
・OSCEのセルビア共和国の地方選挙問題に関する調査団は、関係者の聞き取り調査を終えて帰還。報告書は年内に出す予定。
12/24:
・セルビア共和国の与党セルビア社会党が組織する「集会と政府支持デモ」が、ベオグラードで行なわれる。20万人を集めた政府支持デモは、野党連合「ザイェドノ」の本部前に押し掛けて乱闘騒ぎとなり野党側に50人の負傷者を出し、1人が銃撃されて死亡。この集会で、ミロシェヴィチ・セルビア大統領は「一部の外国勢力が、セルビアの不安定化を目指しているのは許せない。ただし、学生は別だ。現体制で必要な改革はする」と演説。
・セルビア共和国の警察当局は、野党連合「ザイェドノ」支持者を銃撃した疑いで、ジブコ・ザンディッチ容疑者を逮捕。
12/25:
・ベオグラードで学生たちが反政府デモを行ない、国営ラジオ・テレビ局前で、正確な情報を国民に伝えよと抗議。
12/26:
・セルビア共和国内務省は「交通妨害のデモをこれ以上、容認しない」と警告し、ベオグラードではこの日2万人の治安警察隊が出動して市内の要所を固め、野党のデモを規制して中心部には入れず。
12/27:
・OSCEのセルビア共和国地方選の実態調査をした調査団は、少なくとも13の町とベオグラードの9選挙区で、野党連合「ザイェドノ」の勝利を認める調査報告書を、OSCE議長国のスイスに提出。
・ユーゴ連邦のミルティノヴィチ外相はOSCEの調査団報告について、「バランスは取れているが、事実誤認がある」と国営テレビで述べる。
・セルビア共和国の独立系ドネブニ・テレグラフ紙は独自の調査で、24日に野党支持者を銃撃したジブコ・サンディッチ容疑者はノビサドのセルビア社会党地方幹部、と報じる。
12/28:
・セルビア共和国のベオグラードで、政府支持者のデモと野党支持者のデモとの衝突で死亡した男性、プレドラグ・タルチェヴィチの葬儀が雪の中で行なわれ、1万人が参加する。
・セルビア共和国の都市ニシュの選挙管理委員会は、11月に行なわれた地方選挙の一部について選挙をやり直すと発表。ニシュの選挙については、野党が開票に不正があったと抗議しており、OSCEの調査団も不正を認める報告書を提出している。
12/29:
・セルビア共和国の司法省は、選挙のやり直しを発表したニシュの選挙管理委員会に対し、「再選挙は認めない」と命じる。
・ユーゴ連邦のベオグラードの独立系ボルバ紙は、ユーゴ連邦軍の南部に配置されている10の部隊の基地の将校と兵士が、野党側の民主化運動を支持する声明を報道機関に送った、と報じる。声明文は、「ミロシェヴィチ大統領は、11月の地方選挙での野党の勝利を認めなければならない。われわれは民主化を求める学生を全面的に支持する。国民に銃口を向けず、必要なら民衆の先頭に立つ」と記している。
12/00:
・米政府は、セルビア共和国の反政府支持の立場から、ミロシェヴィチ政権の民主化がなければ経済支援などを断つ構えを示し、「1,国際通貨基金・IMFなどへの復帰を遅らせる。2,新ユーゴ連邦を旧ユーゴ連邦の承継国家とは認めず、国連総会出席も認めない」と新ユーゴ連邦が国際社会へ復帰するための「壁」を維持すると表明。
・セルビア共和国のミロシェヴィチ政権がIMFの条件を全面的に呑むことを表明したにもかかわらず、IMF調査団はユーゴ連邦への調査団派遣を延期する。
・イタリアのディーニ外相は、野党連合が勝利したという投票結果の無効決定の取り消しを期待するのは非現実的」と語る。
1996/00:
・デイトン合意後1年間で、英国やフランス、カナダが新ユーゴ連邦と国交を回復し、ベオグラードに全権大使を配置する。
・映画監督ゴダールは「フォー・エヴァー・モーツアルト」を制作し、ボスニア・セルビア人勢力軍の野蛮性を表現。
・英ザ・ユーロピアン誌は、ドイツの軍事情報組織が、コソヴォの反乱組織の訓練と装備強化に関与している。目的は、バルカン半島
地域にドイツの影響力を拡大するところにある、との記事を掲載する。
01/01:
・コフィ・アナン(ガーナ)国連事務次長が、ガリ事務総長の後任として事務総長に就任する。
01/03:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの統一下院が本会議を開き、統一政府の共同首相にムスリム人勢力のシライジッチ・ボスニア元首相とセルビア人勢力のボシッチ・スルプスカ共和国前首相を選出。
01/08:
・セルビア共和国政府は、反政府デモのきっかけになった昨年11月の地方選挙結果を司法省が再調査し、ニシュの市議会選挙について定数70議席のうち野党連合ザイェドノが37議席(後41議席と再訂正)、社会党が32議席となり、野党連合が過半数を制したことを認める。
01/14:
・ユーゴ連邦セルビア共和国の首都、人口200万人のベオグラード市選挙管理委員会は、昨年11月に行なわれた市議選について、野党連合ザイェドノが定数110議席のうち60議席を占め、与党は23議席、その他27議席は諸派と再投票分と認める。
・セルビア共和国の社会党は、ベオグラードのチョヴィチ市長が学生などのデモを支持したことを理由に、除名すると発表。
・セルビア共和国の野党連合「ザイェドノ」の構成組織の一つ、「市民連合」のペーシッチ党首は訪問中のパリで記者会見し、市選管が市議選の結果を訂正したことについて、「政府が正式に認めるまで、反政府デモは続ける」と述べる。
01/15:
・セルビア共和国の野党連合ザイェドノは、ベオグラードとニシュの市議会議員が確定した後も、全市14都市について勝利が確定するまで闘争を続けると表明し、デモを続ける。
・セルビア共和国のセルビア社会党中央委員会は、ミロシェヴィチ政権に対する抗議行動を続ける学生に支持を表明したチョヴィチ・ベオグラード市長の党除名を正式に決定。
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国のブラトヴィチ大統領ら指導部は、ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領に対し、「セルビアの野党連合が勝利した地方選挙結果を受け入れること。受け入れなければモンテネグロが独自通貨を導入して自立を強め、連邦体制を 『緩やかな連邦制』へと移行させる方針」との書簡を送る。
01/23:
・セルビア共和国のクラグエヴァ市で、野党連合ザイェドノが市議会の多数を制した余勢を駆い、ラジオ・テレビ局を管理下に置こうとしたところ、与党のセルビア社会党当局が明け渡しを拒否して立てこもる。それに抗議して野党支持グループが路上に座り込みをしたところ、警官隊が実力排除して20人以上が重軽傷を負う。
01/27:
・セルビア共和国のベオグラード第一裁判所は、ベオグラード市選管が再調査し、11月の市議選について野党の勝利を認めたことについて、与党の異議申し立てを審理した結果、選挙管理委員会の決定を無効とする判決を下す。ベオグラード市選管のラザレヴィチ委員長は、選管側が求めていた裁判長の忌避請求を審理しないまま下した違法な判決として抗議。
02/04:
・ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領は、昨年11月に行なわれた地方議会選で野党勢力が勝利したことを政府が認めないことに対し、 「欧州安保協力機構・OSCE調査団が報告した通りに、地方選挙の結果を認めるための緊急法案を議会に提出するようセルビア政府に要請する」と、特別立法を成立させるよう政府に促す書簡を送る。
・米国務省のバーンズ報道官は、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の書簡を「正しい方向への第1歩として歓迎する」と評価しながら、「この約束を実行に移す、具体的な行動が見えるまでは懐疑的な見方を維持する」と述べる。
・EU議長国のオランダは、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の緊急立法について「条文を精査する」方針を強調し、国際社会の要請を受け入れるよう重ねて求める。
02/06:
・セルビア共和国の野党連合ザイェドノの中核政党である「セルビア再生運動」のドラシュコヴィチ党首は、シャレット仏外相と会談し、「地方選挙での野党側の勝利を議会が認めれば、反政府デモをやめて対話への道を開く用意がある」と述べる。
02/07:
・ボスニアの国連国際警察隊報道官は、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力とが対立するモスタル市のクロアチア人勢力支配地域で、集合住宅ビルにロケット弾が撃ち込まれる事件が7件発生したと発表。負傷者はなし。
02/10:
・ボスニア南部のモスタル市で、イスラム教の犠牲祭の墓参りのムスリム人にクロアチア人の武装グループが発砲し、男性1人が死亡し、22が負傷。ムスリム人勢力は、夜間外出禁止令を出す。
02/11:
・セルビア共和国議会は、ベオグラードを含む14都市で野党勢力の勝利を認める特別立法を、賛成多数で可決承認。セルビア政府は、「こんどの措置は、選挙記録による結果の確定であり、OSCE報告の容認ではない」と説明。
02/14:
・ボスニア和平に継続する国際調停委員会は、ボスニア・ヘルツェゴビナのブルチコの帰属について、最終調停の決定を1年間延期し、その間国際管理下に置くと発表。ブルチコは、セルビア人勢力にとって補給の最重要戦略拠点であるポサビナ回廊に位置する。
02/15:
・セルビア共和国の野党連合ザイェドノの指導者ジンジッチ民主党党首は、「セルビア共和国政府に、言論の自由を保障する時間的余裕を与えるため」野党の街頭行動を、3週間中止する方針を明らかにする。
02/25:
・アナン国連事務総長は、クロアチアに残る唯一のセルビア人支配地域の「東スラヴォニア・バラニャ・西スレム」地方選挙を1ヵ月延期し、4月13日に実施するよう安保理に提案。「東スラヴォニア」は、7月まで国連東スラヴォニア・バラニャ・西スレム暫定統治機構・UNTAESが暫定統治する。
03/03:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷のカッセーセ裁判所長は、視察に訪れたアナン国連事務総長に、「国連事務総長殿、このままでは国際司法の権威が危ぶまれます。スタッフや予算がたりず、多くの被疑者が逮捕されていない」と窮状を訴える。この時点で起訴された74人の内拘束されたのは7人。
03/06:
・欧州安全保障協力機構・OSCEは、ボスニア和平のための地方選挙を7月の実施予定から9月13日、14日両日に再延期することを決定したと、議長国オランダのペーターセン外相が発表。
03/07:
・ボスニア和平協定の文民部門上級代表事務所・OHRのカ-ル・ビルト上級代表は、帰属が決まらないボスニア北部ブルチコの行政を監督する副代表に米国の外交官ファーランドを任命。
・セルビア共和国のベリチコヴィチ国立ベオグラード大学総長は、反政府デモに参加した学生たちから学内改革に積極的でないとして退陣を要求されて辞任。
・アルバニア共和国では「ネズミ講暴動」が過激化し、武装組織化して政府への抵抗を始める。アルバニア政府は、非常事態宣言を布告。
03/08:
・アナン国連事務総長は、「アルバニア情勢は、バルカン半島全体の安定を揺るがしている。今回の危機は、マケドニア共和国内でも懸念材料になる」として、マケドニアで活動している国連予防展開軍・UNPREDEPの軍事要員1100人から300人に削減する決議を停止するよう、安保理に勧告。UNPREDEPに、米国軍は498人の部隊を派遣している。
・アルバニア政府は、イタリアのファッシーノ外務次官が「アルバニアのベリシャ大統領は辞任すべきだ」と発言したことについて、駐ティラナのイタリア大使を外務省に呼び強く抗議する。
・イタリア上院は、イタリア軍主導のアルバニアへの多国籍軍派遣について承認。
03/11:
・アルバニアの中西部のデュラス港およびティラナ空港に、イタリア軍先遣隊が到着。
03/00:
・ボスニアのスルプスカ共和国の週刊誌「ヤブノスト」やボスニアのセルビア人勢力軍関係者の証言によると、NATO軍が95年ごろセルビア人勢力を攻撃した際に、「劣化ウラン弾」を使用していたことが明らかになる。「ヤブノスト」によると、NATO軍はセルビア人支配地域のボスニア北部ドボイやオズレン山地などで「劣化ウラン弾」を使用。その後、この地域にいた国連保護軍オランダ部隊の中に、「脱力感や吐き気、などの症状を訴える事例が相次いだ」として、放射性物資を含む「劣化ウラン弾」攻撃の疑いを指摘。
・ボスニアのセルビア人勢力軍の広報班は、95年8月末のNATO軍の大規模空爆の直後に、サラエヴォ近郊のハジチ地区などで「劣化ウラン弾」の破片を採集したと発表。
04/10:
・トゥジマン・クロアチア共和国大統領は東スラヴォニアの選挙実施を前に、「クロアチアの憲法や法律に従うなら、セルビア人の全ての権利を認める」と語る。
04/13:
・クロアチア共和国のセルビア人居住地域「東スラヴォニア」で、国連東スラヴォニア暫定統治機構・UNTAESの監視の下、クロアチア上院と地方選挙の投票が行なわれる。東スラヴォニアは、人口14万人の内12万人がセルビア系住民。
・ローマ法王ヨハネ・パウロⅡ世はボスニアのサラエヴォを訪れ、市内のコシェボ競技場でカトリック教徒3万5000人を集めて野外ミサを行ない、「セルビア正教のセルビア人、カトリックのクロアチア人、イスラム教のムスリム人の3民族の和解と共存」を訴える。
・クロアチアの「東スラヴォニア・バラニャ・西スレム」の上院と地方選挙は、投票開始から2時間以上経っても171ヵ所のうち100ヵ所ほどしか開かず、投票用紙が不足するなどのトラブルが相次いだことから、UNTAESは投票期間を14日まで一日延長すると発表。
05/07:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、ボスニアのセルビア人勢力のオマルスカ収容所で看守役をしていたといわれるタジッチ被告に対し、処刑や虐待に加担した罪で、有罪の評決を下す。起訴容疑31件のうち、11件について有罪を認定。量刑は7月1日に出す予定。
05/10:
・ニューヨーク・タイムズ紙は、米政府が「ボスニア連邦」軍に対し、155ミリ榴弾砲116門を10月までに供与する、と報じる。
05/22:
・オルブライト米国務長官は、ボスニアに駐留する米軍主力の和平安定化部隊・SFORについて、これまで軍事面に限定されていた役割を拡大し、難民帰還や民間航空路線の復旧なども担当させる方針を表明。またボスニアのクロアチア人勢力の拠点モスタル市と、スルプスカ共和国のバニャ・ルカにも連絡事務所を開設し、各都市に対する経済援助も強化すると述べる。
註;ボスニア和平安定化部隊・SFORの役割が、オルブライト米国務長官の提案で文民部門にも拡大されることになる。現時点での主な任務は、ボスニアの橋梁62ヵ所、鉄道2500キロの復旧、通信回線の復旧、460キロにわたる地雷処理なども行なう。
05/30:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの和平実施評議会・PICの運営理事会がポルトガルのシントラで開かれ、OHRビルト上級代表が退任するのに伴い、後任にウェステンドルプ・スペイン元スペイン外相・国連大使を選出する。この運営理事会において「政治宣言」が採択され、上級代表の権限を拡大してメディアの政治操作に対する強硬措置を付与する。
・高村日外務政務次官は、「ボスニアが国際社会の援助を当然視し、その限界を試すような行為」は止めるよう求める。
06/12:
・国連安保理は、OHRの上級代表にウエステンドルプ・スペイン元外相を指名する決議1112号を採択。
06/22:
・デンバー・サミットでボスニア問題の特別声明を採択。内容はボスニアの各勢力およびクロアチア共和国とユーゴ連邦政府に対し、「1,難民の帰還。2,旧ユーゴ国際戦犯法廷への戦犯引き渡し。3,95年の和平協定の実行」などを含む。
07/01:
・ボスニアのスルプスカ共和国で、デイトン和平協定の履行を忠実に進めようとするプラブシッチ大統領が内相を解任しようとしたことから、それを西欧寄りとして批判する与党セルビア民主党との間で対立が表面化。
07/02:
・アルバニアのベリシャ大統領が、総選挙での敗退を受けて辞任を表明。ベリシャ体制が崩壊したこの時、軍の武器庫と政府機関が略奪を受け、1万点の重火器と10万通のパスポートが行方不明になる。このとき、武器の多くがコソヴォ解放軍・KLAにわたる。
07/03:
・ボスニアのスルプスカ共和国のプラブシッチ大統領は、対立している議会からの退陣要求を回避するため、議会の解散を命じる。
07/04:
・クリントン米大統領とオルブライト米国務長官およびコーエン米国防長官は、NATOの東方拡大をめぐって東欧各国を歴訪。この中には旧ユーゴスラヴィア連邦のスロヴェニア共和国が含まれる。
07/10:
・ボスニアの和平安定化部隊・SFORは、セルビア人共和国北西部のプリエドルなどで、旧ユーゴ国際戦犯法廷の戦犯として起訴されている被告を逮捕するための作戦を実施。コバチェヴィチ病院長を逮捕し、また非公開容疑者の元警察署長を抵抗したとして釣場で射殺する。病院長の容疑は、92年に市長として強制収容所を運営し、虐殺を実行させたというもの。
・ボスニアでのSFORの戦犯逮捕作戦計画については、クリントン米大統領の事前承認を得ていたという。
・EUの欧州委員会は、旧ユーゴ国際戦犯法廷が起訴しているボスニアのカラジッチ・スルプスカ共和国前大統領が逮捕されるまで、スルプスカ共和国への復興援助を凍結する、との声明を発表。
07/11:
・モンテネグロ共和国の与党モンテネグロ民主社会党はジュカノヴィチ首相派が実権を掌握し、執行委員会でブラトヴィチ大統領の党首解任を決める。ブラトヴィチ大統領は決定を無効として、臨時党大会を8月に開くと表明。
07/14:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷は、ボスニアのセルビア人勢力の収容所で処刑や虐待を行なったとするタジッチ被告への終身刑の求刑に対し、禁固20年の量刑を言い渡す。現在、法廷は77人を起訴しているが、拘束できたのはタジッチ被告を含め10人のみ。
07/15:
・ユーゴ連邦議会は上下両院で本会議を開き、6月25日に任期の切れたリリッチ前連邦大統領の後任に、ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領を選出する。連邦大統領の就任は23日に行なわれ、後任のセルビア共和国大統領は9月に選出する見通し。ユーゴ連邦大統領は儀礼的な地位に過ぎないが、陰りの見える実力者として影響力を行使できるかどうかは未知数。
07/16:
・EUの欧州委員会は、EUへの新規加盟国交渉について、ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロヴェニア、エストニア、キプロス、の6ヵ国を対象に開始するとした意見書「アジェンダ2000」をまとめ、欧州議会に報告。この後、EU外相理事会での協議を経て、12月の首脳会議で正式決定される。EUの参加基準は、「1,民主主義や人権、少数民族の保護を保障する体制を持つ。2,市場経済が維持され、競争に対応出来る。3,EUメンバーとしての義務を果たす能力がある」というもの。
・ボスニアのバニャ・ルカで、SFORの英国軍部隊の駐屯地に手榴弾のようなものが4発投げ込まれて爆発したが、負傷者はなし。英国軍とセルビア警察が4人を逮捕したが、身元や犯行理由は不明。
・ボスニア東部では、SFORの米軍兵士が鎌を持った男に襲われ、肩に軽い怪我を負う。和平安定化部隊・SFORが、戦犯法廷の容疑者逮捕作戦に踏み出したことへの報復と見られる。
07/18:
・ボスニアのスルプスカ共和国駐留のSFORで3件の爆弾事件が起き、米兵1人が軽傷を負う。
07/19:
・ボスニアの和平安定化部隊・SFORが、旧ユーゴ戦犯法廷に起訴されているスルプスカ共和国のカラジッチ前大統領の自宅近くに装甲車などの車輌10台とヘリコプターを終結させ、1時間後に引き揚げる。
07/23:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの再建を目指すボスニア復興支援会議がブリュッセルで開かれ、11億ドルの援助資金の拠出が約束される。
・アルバニアの人民議会は、社会党のレジェプ・メイダニ書記長を大統領に選出。メイダニ大統領は、元首相のファトス・ナノ社会党議長を首相に指名し、組閣を要請。
・スロボダン・ミロシェヴィチが、ユーゴ連邦大統領に正式に就任する。
07/30:
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYで、ボスニア和平安定化部隊・SFORに逮捕されたセルビア人の病院長ミラン・コバチェヴィチ被告は、罪状認否で無罪を主張。コバチェヴィチ被告の起訴状による罪状は、「北西部の町プリエドルでセルビア人勢力幹部として、92年4月から同年末にかけてムスリム人やクロアチア人の収容キャンプ3ヵ所の設置計画、運営に携わり、組織的な大量虐殺の首謀者の容疑」というもの。
・米国務省は、ボスニア和平をめぐるデイトン合意の実施を促進させるため、リチャード・ホルブルック米元国務次官補を含む米代表団を来週旧ユーゴスラヴィア諸国に派遣し、「首脳に難民の帰還や旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷への戦犯引き渡し問題などで、具体的な行動を取るよう強く要請する」と発表。
07/00:
・ボスニアで96年1月から97年7月までに除去された地雷は、3245個。地雷を主に除去している会社は、ワシントンに本社を置く地雷除去専門会社ロンコ社やEUの委託を受けた機関、およびノルウェーのNGOなど10余りの会社と組織、地元の軍隊。
・コソヴォ解放軍・KLAが、コソヴォ自治州に公然と姿を現して解放軍の再編成を行なう。米中央情報局・CIAおよび独連邦情報局・BNDが組織再編を支援。KLAのメンバーは、コソヴォ自治州のアルバニア系住民、隣国のアルバニア人イスラム主義者、麻薬取引など犯罪組織のアルバニア人たちで組織される。
08/04:
・米国務省は、ボスニア政府が旧体制の大使にそのまま任務を続けさせていることに対し、米・仏・独・スウェーデン・オーストリアなど各国が現大使を認証しないよう、協調する措置を取ったことを明らかにする。欧米各国はボスニア政府に対し、8月1日までに大使を任命するよう要請していたが、ムスリム人、クロアチア人、セルビア人各勢力が33のポストをめぐり、重要ポストの取り合いで新大使を任命出来ず、期限までに合意形成しないことに対する制裁措置。
08/08:
・日本政府は、外国に駐在しているボスニア・ヘルツェゴヴィナ大使と日本政府関係者との、接触の停止を決める。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの3民族勢力は、大使のポスト配分などで合意する。合意内容は、国連大使はムスリム人、米国大使はセルビア人、日本大使はクロアチア人など33のポストを各派で分け合うとする内容。
08/09:
・ホルブルック米ボスニア問題特使は、「カラジッチ前大統領が政治介入を続けるなら、軍事作戦による逮捕も辞さない」と強く警告。
08/12:
・米ABCテレビが、ボスニア紛争で旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴された戦争犯罪人の逮捕のための秘密軍事訓練を、米英仏3ヵ国の特殊部隊が実施している、と報じる。
08/15:
・クリントン米大統領は国家安全保障会議・NSCを開き、ボスニア和平などについて現地から戻ったホルブルック米大統領特使らの報告を受け、9月のボスニア地方選挙を前にSFORの米軍を増強し、治安維持にあたる方針について協議。
・マカリー米大統領報道官はカラジッチについて、「戦犯の裁判が実現しないことに、国際社会はしびれを切らしつつある」と述べる。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの「スルプスカ共和国」の憲法裁判所は、プラブシッチ大統領が議会の解散と選挙の実施を決めたことについて、大統領の決定を無効とする判断を下す。
・「ボスニア連邦」内務省によると、「スルプスカ共和国」との境界線に近いラゼ村で、ムスリム人たちが自動小銃と見られる銃で撃たれ、男性2人が死亡し、4人が負傷。
08/17:
・ボスニアのスルプスカ共和国のプラブシッチ大統領派の警察部隊が、バニャ・ルカで反大統領派が実権を握る警察施設を占拠し、反大統領派の特殊警察部隊とにらみ合いになる。ボスニア駐留の和平安定化部隊・SFORが緊急配備したため、大統領派の警察部隊は一旦撤退。NATO軍は、SFORの管理下になかったスルプスカ共和国の特殊警察部隊について、SFORが武装解除や監視の対象とするとの新方針を打ち出していたが、この度のプラブシッチ大統領派の行動により、逆に特殊警察部隊を警護するというねじれた行動をとることを余儀なくされた。
08/20:
・国連国際警察部隊はSFORとともに、バニャ・ルカのプラブシッチ・スルプスカ共和国大統領の執務室などに反大統領派が盗聴装置を仕掛けたことなどを理由とした要請に応え、市内の警察組織の一斉捜査に踏み切る。捜索の結果、反大統領派の警察施設からロケット弾や大量の爆薬を含む違法な火器類を押収する。
・和平安定化部隊・SFORは、パレのカラジッチ・スルプスカ共和国前大統領の自宅上空に、2機のヘリコプターを監視飛行させる。
08/21:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ政府の幹部会のセルビア人代表のクライシュニクは、「スルプスカ共和国の混乱は、独善に陥るプラブシッチ大統領に原因があり、さらにそれを支持する国際社会が事態を悪くしている」と大統領や欧米諸国を批判。さらに、クライシュニク幹部会員は戦犯法廷について、「公正な裁判が期待出来ないため、セルビア人はハーグを信頼していない」と指摘。
・クロアチア共和国とイスラエルは、政府間協議で今週にも国交を樹立することで合意。
08/22:
・ボスニアのスルプスカ共和国のプラブシッチ大統領派と、議会与党セルビア民主党主流派クライシュニクとの対立が激しくなり、大統領派はバニャ・ルカ周辺の警察や放送局を勢力下に置く。
・OHRのウェステンドルプ上級代表はスルプスカ・ラジオTV放送について、「故意に歪められた報道によって、緊張が高まる恐れがあり、注視しなければ必要な手段をとる」とする警告書簡をクライシュニク幹部会員に送付。
・ボスニアのスルプスカ共和国の与党・セルビア民主党(反大統領派)の影響力が強いスルプスカ・ラジオTV放送は、大統領派のバニャ・ルカ放送局長らを解任する。背景には、スルプスカ放送がナチス・ドイツ軍と和平安定化部隊・SFORの映像を交互に放送するなど反SFOR色を強めていたため、OHRのウエステンドルプ上級代表から対処を求める書簡が送られていたことがある。しかし、新しく任命された反大統領派の新放送局長が、入局しようとしたところ、職員に入局を阻止される。職員側は、「報道には余りにもウソが多い」と述べ、情報相の解任を求める書簡を公表する。
・ボスニアのスルプスカ共和国軍は中立を保っていたが、「プラブシッチ大統領は、国を二分しようとしており、看過出来ない」と非難する声明を発表。
08/23:
・ボスニアのスルプスカ共和国の議会与党の反大統領派は、プラブシッチ大統領との関係断絶を発表し、SFORとの対決姿勢を深める。
08/25:
・OHRのウエステンドルプ上級代表は、スルプスカ共和国の公共放送「スルプスカ・ラジオTV」のクライシュニク理事会議長に対し、放送内容を改めるよう警告する書簡を送付。
08/26:
・ボスニアのスルプスカ共和国議会は、9月13,14日に予定されている地方選挙について、ボスニア和平協定などで規定されたOSCEによる実施・管理を、拒否すると決める。
・ボスニアのスルプスカ共和国議会議長は、プラブシッチ大統領の議会解散について憲法裁判所が違法と認定したにもかかわらず、OSCEがこれを無視していることに対し、「国民のOSCEに対する信頼は、既に失われている」と述べ、地方選挙のボイコットを検討している、と表明。
・ボスニアのスルプスカ共和国プラブシッチ大統領は、軍最高司令官として主要司令官を本拠地のバニャ・ルカに緊急招集。チョリッチ参謀長およびパレを管轄する第4軍管区司令官などが欠席したが、兵力の3分の2を掌握。
08/27:
・ボスニアのスルプスカ共和国のプラブシッチ大統領派が、バニャ・ルカ周辺のラジオ送信所を制圧する際、反大統領派と銃火を交える。和平安定化部隊・SFORがヘリコプターを飛行させて監視したため、大規模な戦闘にはならず。
08/28:
・ボスニアのスルプスカ共和国のポサビナ回廊にある複数の町で、プラブシッチ大統領派の特殊警察部隊が、反大統領派の勢力下にある警察署や放送施設を制圧する動きを見せたため、ボスニア駐留の和平安定化部隊・SFORが治安維持のために緊急展開する。その際、反大統領派と見られる住民たちとの間に小競り合いがおこり、ブルチコでは住民が投石や火炎瓶などで襲撃し、SFORが催涙ガスを撃ち込むなどをしたため怪我人が出たほか、国連の車輌15台が奪われるという事態も起こる。ブルチコの町では商店がすべて閉まったままで、大勢の住民が通りに出て緊張した雰囲気が続き、SFORだけでなく住民による検問も行なわれる。住民は、「どこが平和維持軍なんだ」と吐き捨て、NATO軍によるSFORの和平体制と、それを主導するアメリカへの敵意を口々に語る。
・ボスニアのビェリナではSFORが出動したところ、住民たちが警察署とラジオ送信所が通じる道路を封鎖。この地域一帯は、大統領派は1割程度であるため大統領派が制圧することは困難で、SFORが町を制圧した形となる。
・ボスニアのスルプスカ共和国のプラブシッチ大統領は、議会与党のセルビア民主党・SDSを除名されたのち、「セルビア人民同盟」を結成し、大統領官邸で開かれた党大会で党首に選出される。
・シャリカシュビリ米統合参謀本部議長は、ブルチコでのSFORと住民との衝突について、「付近に多数のバスがあり、動員された上でデモを始めたものだ」と、カラジッチ・スルプスカ共和国前大統領ら民族主義強硬派が群衆を組織したとの見方を示す。
・米ホワイトハウス・スポークスマンはブルチコでの衝突について、「SFORに対して、暴力を煽動することは許されない」と、スルプスカ共和国指導部に住民らを統制するよう警告。
・欧州安保協力機構・OSCEのブルチコ事務所は、鉄格子付きのドアを閉めたままとなる。
・ボスニアOHR上級代表のブルチコ事務所も、門を閉ざす。
・SFORは、プラブシッチ・スルプスカ共和国大統領に対抗する与党セルビア民主党が陣取る南東部の拠点パレ近くでも、検問を始める。その検問所では、セルビア人住民数十人と米兵がにらみ合う。米兵は「我々はただ検問をしているが、彼らが道路をバスでふさぎ、解散命令にも応じない」と手を上げる。
08/30:
・米国のゲルバード特使は、ボスニア幹部会のセルビア人クライシュニク幹部会員およびプラブシッチ大統領と会談後、「ボスニア駐留の和平安定化部隊・SFORや国際機関に対する暴力、それを煽動するメディアの使用には武力行使も辞さない。ブルチコのようなやり方では、犠牲になるのは自分たちでしかない」と警告。
・ボスニアのスルプスカ共和国のプラブシッチ大統領は、東部パレを拠点に権力闘争を続ける与党主流派について、「政府組織が正常に戻り次第、混乱に責任のある人物は逮捕することもやむを得ないだろう」と、国営テレビのインタビューに答える。
08/31:
・ボスニアのファラン・ブルチコ行政管理官(米)はブルチコでのSFORとの衝突について、「外国から来た人物が、混乱を計画実行した」と述べる。
・ボスニアのプラブシッチ・スルプスカ共和国大統領は28日の混乱について、「煽動された住民には責任がない。国境を越えたユーゴスラヴィアからも、犯罪者が入った」との見方を示す。
09/03:
・NATOのクラーク欧州軍最高司令官は、スルプスカ共和国のカラジッチ前大統領に対し、投降して旧ユーゴ国際戦犯法廷の裁判を受けるよう勧告。ブルチコでの群衆のSFORへの暴力行為については、「必要なら、武力行使も辞さない」と述べる。
09/04:
・米国防総省のダブルディ副報道官は、スルプスカ共和国住民との間で緊張が高まっているボスニア和平安定化部隊・SFORを支援するために、F16戦闘機18機からなる米空軍遠征部隊を8日から22日の間、一時的に編成すると発表。
09/07:
・ボスニアのスルプスカ共和国プラブシッチ大統領は、反大統領派が8日にバニャ・ルカで予定している大統領批判集会をはじめ、全ての集会を11日まで禁止すると決める。
・ボスニアのスルプスカ共和国の反大統領派が支配しているテレビ局が、大統領の禁止決定を無視して集会への参加を呼びかける。
09/08:
・ボスニアのスルプスカ共和国の与党セルビア民主党・SDS主流派は警察の禁止命令を無視し、プラブシッチ大統領派の拠点バニャ・ルカで集会を強行。しかし、大統領派警察とSFORが合同で市街各所に検問所を設置し、バスで集まる参加者を市内に入れないよう阻止。そのため、集会は200人程度が参加する小規模なものに終わる。
・セルビア正教のパブレ総主教が仲介し、プラブシッチ大統領とクライシュニク・ボスニア幹部会員が会談。総主教は、大統領選と議会選挙を同時に実施することを妥協案として示したが、両者ともに拒否する。
09/09:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのクロアチア民主同盟がモスタル市で党大会を開き、13,14日に予定されているボスニア地方選について、「95年のデイトン和平協定違反が多く、選挙が自由で民主的、公平に行なわれる状況にない」としてボイコットするよう呼びかける声明を発表。
・ボスニア政府の外交筋は、「現在、欧州主要国とクロアチアの間で外交折衝が行なわれており、ボイコットが確定的だとは言えない」と述べる。
09/10:
・ボスニアのスルプスカ共和国議会はサラエヴォ郊外のパレで会合を開き、13,14日両日に行なわれる地方選挙に参加することを確認。セルビア民主党・SDS主流派はOSCEと交渉し、旧ユーゴ戦犯法廷に起訴されている被告を投票所などで逮捕しないこと、ブルチコで有権者登録を拒否されている2900人の登録を認めることで合意。
09/12:
・朝日新聞は、ボスニア内戦で工場を破壊されたり持ち去られたりしたための損害額が280億ドルに上る、と統一ボスニア貿易相が話したと伝える。
・ボスニアのクロアチア人政党「クロアチア民主同盟・HDZ」は、ボスニアOHRのウェステンドルプ上級代表がトゥジマン・クロアチア大統領と会談して圧力をかけた結果、態度を軟化させて地方選挙に参加する意向を示す。
・ボスニアのムスリム人勢力は、「選挙を監督する欧州安保協力機構・OSCEとクロアチア人政党が、同党の投票ボイコット取り下げと引き換えに、裏取引で妥協した疑いがある」として一部で選挙ボイコットを辞さない構えを見せる。ムスリム人勢力が問題にしたのは、ムスリム人とクロアチア人が二分して支配しているモスタル市の市議選で、7つの選挙区を6つに減少させたこと。この変更はクロアチア人に有利になるとして、モスタル市議選で過半数を占めることが確実視されていたムスリム人勢力が反発。
09/13:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの地方選が始まる。南部のモスタル市では、ムスリム人勢力がラジオを通じて投票を見合わせるよう呼びかけたため、ほとんどのムスリム人が投票せず。
・ムスリム人民族政党「民主行動党」のモスタル支部は、「OSCEは、クロアチア人政党と妥協はしないといいながら、モスタルの一部地区で投票を中止するのは約束違反だ。納得ある説明があるまで、投票には応じない」と話す。
09/18:
・ボスニア南部のモスタル市で深夜、車に仕掛けられた爆発物が破裂し、近くの住民など30人が負傷。
09/22:
・セルビア共和国で、大統領選挙が実施される。35%開票の非公式集計の中間報告で、与党セルビア社会党中心の左翼連合のリリッチ前連邦大統領が39%を獲得、セルビア急進党のシェシェリ党首は29%を獲得、セルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首は22%を獲得。
09/24:
・ボスニアのスルプスカ共和国のプラブシッチ大統領派と反旗を翻した議会与党の主流派が対立を深めていたが、ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の仲介で主流派のクライシュニク・ボスニア幹部会員とプラブシッチ大統領が会談。合意事項;「1,プラブシッチ大統領が7月に解散した議会選挙を、OSCEの監視の下に11月15日に実施する。2,新に選ばれた議員によって構成する選挙委員会が、共和国大統領とセルビア人のボスニア幹部会員の選挙を12月7日に実施する」などを条件とする和解調停案。
・ボスニア問題の欧米関係国外相会議がニューヨークで開かれ、95年暮れのパリ和平協定の「実施を妨げる勢力」に対し、強硬な措置を取ることを確認。
・「連絡調整グループ」の米・英・仏・独・伊・露の6ヵ国が会合を開き、コソヴォ問題を取り上げ「コソヴォの独立は支持しないが、アルバニア系住民の権利の完全な擁護を要求する」との声明を発表。
09/25:
・セルビア共和国の選挙管理委員会は、大統領選挙の最終開票結果を発表。与党左翼連合のリリッチ候補が147万票、セルビア急進党のシェシェリ候補が113万票、セルビア再生運動のドラシュコヴィチ候補は85万票。いずれも過半数に達していないため、上位2人の間で10月5日に決選投票が行なわれることになる。
・ボスニアのトゥズラの女性組織「トゥズラ婦人会」は、「ボスニア連邦」の教育文化スポーツ省が、民族別教育に関するアンケートで両親の民族を訪ねる項目を立てたことに対し、「差別主義を助長させる」との抗議声明を発表。「傷痍軍人会」や「子どもを戦争で亡くした女性の会」などの市民団体も、「我々は民族共存のために戦った」と同調。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYのアーバー首席検察官(加)は記者会見で、「現状で戦犯を逮捕に踏み切れるのは、SFOR以外にない。その責任を果たしていないのは言語道断だ」と強い調子で批判。
09/27:
・ボスニアのスルプスカ共和国のドボイで深夜、プラブシッチ大統領支持の新聞社の事務所で爆発があり、周囲の建物などが破壊されたが、負傷者はなし。
09/28:
・ボスニアのトゥズラ市の地方選で、民族共存を掲げた「ボスニア民主同盟・UBSD」中心の連合体が、ムスリム人の「民主行動党・SDA」およびクロアチア人の「クロアチア民主同盟・HDZ」の両民族与党を、大差で破ることが確実となる。
註;トゥズラが民族共存の風潮が強いのは、「1,工業都市で人の出入りが多く、外国から来た工場の技師などが住む多国籍的な街だったこと。2,民族間の結婚が自然で、ユーゴスラヴィア人を名乗る人が多かったこと。3,激しい戦闘がなく、内戦の影響を余り受けなかったこと」などが挙げられる。ベシュラギッチ市長は、ムスリム人でありながらユーゴ連邦維持を支持する改革党に入党し、91年に市長になってからも内戦中に民主行動党・SDAとは距離を保っていたことが支持を集めた理由。
09/30:
・セルビア共和国の首都ベオグラード市議会は臨時市議会を開き、民主党党首のジンジッチ市長の解任動議を賛成多数で可決。
・民主党支持者はベオグラード市議会がジンジッチ市長を解任したことに抗議して数千人が市中心部で集会を開き、出動した警察部隊と小競り合いが起き、警察部隊が十数人を拘束。
10/01:
・ボスニアの和平安定化部隊・SFORは、スルプスカ共和国の国営放送がボスニアOHRの警告に従わず、過激な民族主義を煽動する放送を流したとして、同放送のテレビ・ラジオ送信所4ヵ所を制圧する作戦を実施。OHRのウエステンドルプ上級代表は、「同放送局の返還条件として、理事会全員の辞任」を要求。
・セルビア共和国のコソヴォ自治州のプリシュティナで、アルバニア系学生3000人がアルバニア語による教育を求めたデモを行なったためセルビア警察隊と衝突し、少なくとも30人が負傷。この衝突で、学生リーダーや「地下大学の学長」などが一時拘束される。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの地方選の管理を行なっているOSCEは、投票された136自治体の内4ヵ所の開票結果を発表。
ロガティツァは、内戦前はムスリム人住民が多数の街であり、ムスリム人与党民主行動党を主体とする連合勢力が、セルビア人与党のセルビア民主党やセルビア急進党を抑えて第1党となる。ただし、セルビア人諸政党の議席数を合計すると、ムスリム人連合を上回る。
ボサンスキ・ブロドでは、セルビア民主党が第1党とはなったものの、内戦前多数を占めていたクロアチア人やムスリム人の政党が21議席を獲得し、セルビア人与党を上回る。「ボスニア連邦」の2自治体では、現在の支配勢力が順当に勝利する。
・NATOは非公式国防相会議をマーストリヒトで開き、ボスニアの和平安定化部隊・SFORの撤退期限が、98年6月に設定されていることについて協議。10/05:・ユーゴスラヴィア連邦の構成国であるセルビア共和国およびモンテネグロ共和国で大統領選が行なわれる。モンテネグロ共和国の大統領選挙の投票は、ブラトヴィチ現職大統領に対するジュカノヴィチの挑戦という形で行なわれる。ブラトヴィチ大統領は、唯一旧ユーゴ連邦共和国時代から連邦維持を貫いてきたが、ジュカノヴィチは民営化や外資導入による経済改革派で、「モンテネグロの経済停滞は、セルビア側の改革の遅れによる」と批判している。
・セルビア共和国の大統領選の決選投票は、リリッチ・セルビア社会党候補とシェシェリ・セルビア急進党の2候補間で行なわれる。
10/06:
・セルビア共和国の選挙管理委員会は、大統領選挙が有効となる50%の投票率に満たなかったため、選挙を無効として2ヵ月以内にやり直し選挙を実施すると発表。シェシェリ急進党党首は、独自の集計で投票率は52%で有効だと主張。
・モンテネグロ共和国の選挙管理委員会は、投票率が大統領選挙に有効な50%に満たないため、10月19日に再投票を行なうと発表。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYから起訴されていたボスニア内戦中のクロアチア人勢力の軍事指導者ら10人が、同法廷に出頭するためにクロアチアからハーグに向い、到着後即刻拘束される。10人の中にはクロアチア人勢力ナンバー2のダリオ・コルジッチ将軍が含まれており、93年のムスリム人との戦闘の際、ムスリム人住民を虐殺した罪で起訴されている。
10/09:
・ボスニアの地方選を管理しているOSCEは、9月13,14日に行われた136自治体の地方自治体選挙の大半について結果を発表。殆どは、現在支配している民族勢力が勝利。旧住民が過半数の議席を占めたのは、スレブレニツァ、ドルヴァル、ヤイツェなど。
スレブレニツァ市の開票結果は、45議席のうち25議席を旧住民のムスリム人勢力が占める。スレブレニツァでは、30日以内に議会が招集されることになる。
ドルヴァル市は、現在クロアチア人勢力が支配するが、30議席のうち旧住民のセルビア人が過半数を超える19議席を獲得し、クロアチア人は11議席を得たのみ。
ヤイツェ市は、クロアチア人支配地域だが、旧住民のムスリム人の政党が過半数の議席を占める。
ブルチコ市およびモスタル市では異議申し立てが相次ぎ、不正票などの疑いから開票のやり直しを行ない、発表は遅れる見通し。
10/10:
・ボスニア地方選を管理しているOSCE選挙監視団は、北東部ブルチコの地方議会選挙で定数56議席のうち、セルビア人政党が30議席、ムスリム人政党が23議席、クロアチア人政党が3議席を占めたと発表。
ボスニアのモスタル市議選の結果は、定数24議席のうち、ムスリム人政党が14議席を獲得、クロアチア人政党は10議席を獲得、と開票結果を発表。
10/19:
・モンテネグロ共和国の大統領選挙のやり直し選挙が行なわれる。
・OHRのウエステンドルプ上級代表は、「ボスニア連邦」および「スルプスカ共和国」両政府から公営放送局を1党支配に後戻りさせないこと、包括的再建プランおよび法改革プランについて、合意を取り付ける。
10/21:
・モンテネグロ共和国の選挙管理委員会は、ジュカノヴィチ候補が17万4700票を獲得し、ブラトヴィチ現大統領の16万9200票を上回り、新大統領として当選したと発表。
・セルビア共和国のトミッチ大統領代行は、セルビア大統領選のやり直し選挙を12月7日行うと発表。
10/00:
・テネット米CIA長官は情報公開法に基づき、CIAの97年度予算を266億ドルと公表。
11/05:
・オルブライト米国務長官は、ボスニアの和平安定化部隊・SFORが来年6月に撤退期限を迎えることに対し、「SFOR以降も、何らかの形で米軍が存在すべきだとの合意に達しつつある」と述べる。
11/07:
・NATO当局者はボスニアの和平安定化部隊・SFORについて、「来年6月以降も何らかの軍事的要素なしでは和平の維持は不可能、という考え方が全ての関係国政府に受け入れられつつある」と述べる。
11/09:
・ボスニアの地方選が9月13,14日に行われて40日あまりを過ぎたものの、135の自治体のうち議会が招集出来たのは106自治体で、19の自治体では招集のめどすら立たず。スレブレニツァは議会を招集できず、ブルチコやモスタルでは選挙結果が宙に浮いたままの状態に置かれる。
11/15:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナは和平計画の4段階の、「1,移行・展開期。2,安定化期。3,抑止期。4,任務完了期」のうち2,の「安定化期」を迎えている時期に当たるが、現実のボスニアは1,の「移行・展開期」の段階にとどまる。
11/20:
・緒方貞子難民高等弁務官は、プラブシッチ・スルプスカ共和国大統領およびイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談し、「サラエヴォやバニャ・ルカを、諸民族が自由に戻れる、『開放都市』として宣言して欲しい」と要望。
11/21:
・緒方貞子難民高等弁務官は、ボスニア和平の「デイトン合意」から2周年になるのを機にサラエヴォを訪問。
・OSCEは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナとユーゴスラヴィア連邦とクロアチア共和国の旧ユーゴスラヴィア3国が合意通りに、「戦車や火砲など5種類の兵器、計1600を削減した」と発表。
・緒方貞子難民高等弁務官は、「少数派の帰還につながる住宅の供給が、国際支援の課題である」と述べる。
11/22:
・ボスニアのセルビア人共和国の定数83の議会選挙が、22日と23日の両日に実施される。
11/23:
・スロヴェニア共和国で、大統領選挙の投票が行なわれる。有権者は150万人。現職のクチャン大統領など8人が立候補。即日開票の結果、現職のミラン・クチャン大統領が55.6%を獲得し、他の7候補を引き離して91年来の再選をはたす。
11/25:
・ボスニアのスルプスカ共和国の議会選挙は中間集計で、プラブシッチ大統領派のセルビア人民同盟がバニャ・ルカやプリエドルで善戦。反大統領派のセルビア民主党・SDSやセルビア急進党は、第2の都市ビェリナなど東部を中心に確実に得票を重ねる。
11/26:
・英フィナンシャル・タイムズ紙は、OHRのウェステンドルプ上級代表が、「平和維持軍の必要がなくなるまで、最低あと2,3年はかかる」と駐留延長論を述べた、と報じる。ウェステンドルプ上級代表はさらに、「いま撤退すれば、必ず内戦が再開する。小規模の削減は可能かも知れないが、目に見える形で駐留を続けることが必要で、現在のSFORの人員約3万5000人にほぼ近い数字が来年も必要になるだろう」と指摘。
11/28:
・ニューヨーク・タイムス紙は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにイランの秘密工作員が200人以上浸透して、広範な工作活動をしている、と報じる。
・国連安保理は、マケドニア共和国に派遣された国連予防展開軍・UNPREDEPが30日の期限切れを前にして、米国とロシアが期間延長問題で対立しているため、とりあえず来月4日まで延長する先延ばしの決議1140を採択。ロシアは、来年5月末までの6ヵ月延長を最後とすることを求めている。その背景には、現時点で米軍がバルカン半島に唯一派遣している国連平和維持軍が、定着することをロシアは望んでいない。また、CIAが既に活動拠点としていることに対する根強い警戒がある。
11/00:
・コソヴォ解放軍・KLAは米CIAの支援の下、テロ行為をステップアップする作戦を展開。セルビア共和国側はこれに対抗してKLA掃討作戦を開始する。
12/07:
・ボスニア選挙を管理するOSCE選挙監視団は、スルプスカ共和国の議会選挙の最終結果を発表。定数83議席のうち、プラブシッチ大統領に反対するセルビア民主党は24議席、セルビア急進党は15議席で過半数に満たず。大統領の新政党セルビア人民同盟は15議席、中道左派のセルビア社会党は9議席、民主行動党を中心とするムスリム人政党は16議席を獲得。
12/09:
・ボスニア和平実施評議会・PICが、約50ヵ国の外相や大使、ボスニアの3民族代表、国際機関の代表が参加してドイツのボンで始まる。「統一国家の再建や難民帰還、戦犯被告の逮捕問題」などについて協議する。
12/10:
・ボスニア和平実施評議会・PICは引き続き会議を開き、OHR上級代表の権限強化を決める。権限強化の要旨;「1,法律の強制発効。2,中央政府および『ボスニア連邦』並びに『スルプスカ共和国』への政策の決定。3,経済制裁や議員資格の剥奪を含む最終決定」権などの強い措置を講じられるようにすることで合意する。これは「ボン・パワー」とも称され、ボスニアにおける最高意思決定機関の地位を占めることになる。
12/13:
・仏ルモンド紙は、旧ユーゴ国際戦犯法廷のアーバー首席検察官(カナダ)の、「戦犯の大半、特に大物はフランス部隊が管轄している区域に住んで安心しきっている。フランスは、以前にボスニアに駐留した国連保護軍・UNPROFOR時代の幹部が戦犯法廷で証言に立つことも認めず、書面で済まそうとするなど、意図的に法廷の業務を妨げている」とのインタビュー記事を掲載。
12/16:
・NATO外相理事会が開かれたが、ルモンド紙のアーバー首席検事の発言をめぐって紛糾する。
・ベドリヌ仏外相はアーバー首席検事のインタビュー記事について、「根拠のない言い掛かり。仏部隊は、NATOで定められた規則通りに行動している。国連部隊時代から兵士70人の死者を出しているのに、怠慢呼ばわりは我慢がならない」と反論。
・オルブライト米国務長官は、ボスニア派遣部隊として「憲兵隊のような組織も、検討する必要がある」と提唱。
12/17:
・米政府高官は、クリントン米大統領が来年6月で期限切れになるボスニアの和平安定化部隊の後継部隊に米軍を参加させることを決定した、と表明。
12/18:
・クリントン米大統領は、ボスニア和平安定化部隊・SFORの後継部隊に米軍部隊を参加させることを正式に発表し、「1,任期は特定の期限を切らずに、具体的な目標を達成した時点で終了する。2,参加部隊の規模は縮小する」などの原則を示す。
12/21:
・セルビア共和国の大統領選の決選投票が、ミルティノヴィチ・ユーゴ連邦外相とシェシェリ急進党党首との間で行なわれる。
12/22:
・セルビア共和国の選挙管理委員会は、やり直し大統領選挙の決選投票で投票率が50.53%となって成立すると発表。与党セルビア社会党のミルティノヴィチ・ユーゴ連邦外相が58.66%、シェシェリ急進党党首が38.14%をそれぞれ獲得したことで、ミルティノヴィチ・ユーゴ連邦外相が大統領に当選したと発表。急進党は、投票率は49.21%で選挙は不成立だったと発表。さらに、社会党による組織的な不正が各地であり、「結果は、到底受け入れることはできない」と述べる。
・クリントン米大統領は、ボスニアに派遣している和平安定化部隊・SFORの米軍部隊を慰問するためにサラエボ入りし、ボスニアの幹部会員とも和平協定促進についても会談。
12/23:
・セルビア共和国の選挙管理委員会は、やり直し大統領選の確定票を発表。投票率は50.98%、ミルティノヴィチ候補が218万1808票で59.23%を獲得、シェシェリ候補が138万3868票で37.57%を獲得。ミルティノヴィチ候補が、大統領に当選となる。
・コール・ドイツ首相は、ボスニア和平安定化部隊・SFORに参加する独連邦軍2700人を激励するためにサラエボを訪問し、「我々は必要とされる限り、パートナーとしてここに留まる」と述べる。
1997/00:
・ジョージ・テネットCIA長官は、アルバニア人グループを結集させるなどバルカン工作を実施する。
・クロアチア共和国軍司令部は、アメリカの支援の下にセルビア共和国コソヴォ自治州に兵士を潜入させる。
・米連邦貿易開発局が出資し、石油パイプライン敷設会社AMBO社を設立。黒海沿岸のブルガリア・ブルガスからマケドニアを経由zし、アルバニアのブローレに至る全長900キロの石油パイプライン計画が立てられる。