01/02:
・国連及び欧州共同体・ECが共同主催する旧ユーゴ和平国際会議ボスニア和平交渉がヴァンス国連特事務総長使およびオーエンEC和平会議特別代表の両共同議長による仲介の下にジュネーブで開かれる。ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ幹部会議長(大統領)、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表およびクロアチア人勢力のボバン代表と3勢力の軍事代表、さらにチョシッチ新ユーゴ連邦大統領、トゥジマン・クロアチア大統領が参加。ヴァンス・オーエン両共同議長が、「戦争と平和、死と生を隔てるプロセスに入った」とする声明を付した裁定案を提示する。
裁定案・国家形態;「1,ボスニアは全土を民族、地理、経済、道路などを総合的に考慮した10の自治州で構成する非中央集権国家とする。2,中央政府は外交、国際関係などのみを担う。その他ほとんどの政府機能は自治州の権限とする。3,ボスニア内では移動の自由を保証する。4,憲法で、3つの構成民族、他のグループの存在を確認する。5,自治州と中央政府は民主的に選ぶ立法、行政、司法府を持つ。初回選挙は国連、欧州共同体・EC、全欧州安全保障協力会議b・CSCEの監視下に実施する。6,全土を段階的に国連、ECの監視下で非軍事化する」。
裁定案・停戦取り決め;「1,合意文書署名から72時間後に、全ての戦闘行為を停止する。2,重火器を首都サラエヴォ周辺から5日以内、他の都市周辺から15日以内に撤去する。3,サラエヴォを非軍事化した『開放都市』にする。4,各勢力は、45日以内に指定された地域・州に兵力を撤退する」などの10の原則と10の州・カントンの分割地図を示し、ボスニアの将来のあり方の裁定案を提示。
01/03:
・国連とECが共同主催するボスニア紛争の解決を目指す旧ユーゴ和平国際会議において、ヴァンス・オーエン両共同議長提案をめぐって協議が続けられているが、ムスリム人勢力はサラエヴォを特別地域にし、非軍事化するのはおかしいと述べて修正を要求。ムスリム人勢力側のイゼトベゴヴィチ大統領(幹部会議長)は、「進展はない」と評価し、セルビア人勢力側のカラジッチ代表は「大きな進展があったと思う」と述べる。
・ブッシュ米大統領はモスクワでの第2次戦略兵器削減条約・STARTⅡ調印の後にパリを訪れ、ミッテラン仏大統領と会談。その後の共同記者会見でボスニア情勢について触れ、「米国は他国が兵力を派遣していることを十分承知しており、それらの兵力を危険にさらすような一方的な行動は取らない」と語り、さらにボスニア上空の軍用機の飛行禁止措置の決議案が近く採択される、との見通しを示す。ボスニア情勢について、米国の即時軍事攻撃の姿勢に対し、仏政府側は飛行禁止措置の強化を主張。
・ECは、セルビア人の民族純化策を非難し、集団レイプ事件があったと発表。
・WHOのアチソン特使はサラエヴォを視察後、「この冬サラエヴォでは、70歳以上の病気の高齢者や赤ん坊など数千人が死亡するだろう」と語り、毛布や寝袋を早急に送る必要があると述べる。
01/04:
・ヴァンス・オーエン両共同議長は修正裁定案を提示。骨子;「1,ボスニアを10の自治州で構成する非中央集権国家と規定した国家形態。2,戦闘終結と和平に関する取り決め。3,領域分割は、セルビア人勢力が50%、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力が50%」。この再提案をクロアチア人勢力のボバン代表は了承。一方、ムスリム人勢力は人口の43%を占めているのに地域が狭すぎると異議を唱え、セルビア人勢力は自らの支配地域が70%に及んでいることが十分に反映されていないと難色を示す。
註;米政権はこのヴァンス・オーエン和平案に反対し、密かにボスニア政府に拒否するようアドバイスした。そのために、この和平案は結局暗礁に乗り上げることになる。
・旧ユーゴ和平国際会議のボスニア紛争解決協議は、ボスニア政府側の「一つの主権国家」か、セルビア人勢力の「3つの民族別の国家連合」か、をめぐって膠着状態に陥る。イゼトベゴヴィチ大統領は「非中央集権的な国家として独立、主権、民主主義の原則を保持」および「重火器の撤去と国連の実質的管理」の2点が実現しなければ今後の話し合いに参加する意味がない、と強硬に主張。自治州を10に分割する構想についても領域や位置をめぐって対立する。
01/06:
・ボスニア紛争の和平会議で、3民族の各代表は首都サラエヴォを非軍事化して各派の兵力を市域から30キロの地点まで撤収することで合意する。
・旧ユーゴ和平国際会議のヴァンス・オーエン両共同議長は、ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領と会談し、ボスニアのセルビア人勢力を説得するよう要請したが、具体的な進展はなし。
01/07:
・ボスニアのセルビア人勢力指導者カラジッチは、ジュネーブで行なわれている和平会議で示されたボスニア和平案を拒否する方針を表明。
・アスピン米次期国防長官は、上院外交委員会の承認審査会で旧ユーゴスラヴィア情勢について証言し、「良心に基づいた行動」の必要性を強調し、軍事介入に積極的な姿勢を示す。
・ボスニア政府のクロアチア人閣僚ヨシップ・ゴガラ国税長官が、サラエヴォで殺害される。
01/08:
・ユーゴ国営タンユグ通信は、ジュネーブで10日から再開される和平会議にミロシェヴィチ・セルビア大統領は参加しない、と報じる。
・ボスニアのセルビア人国民議会はビイェリナで会議を開き、旧ユーゴ和平国際会議提案の「10の自治州による非中央政権国家」構想に対し、「我々は、セルビア人が地理的に分断され、新しい国家の国民になることは受け入れられない」と拒否する声明を発表。
・ボスニア共和国のトライリッチ副首相が空港から国連保護軍の装甲車で市内に戻る途中セルビア人民兵に射殺され、射殺を実行した兵士は逮捕される。ワシントン訪問中のイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「国連保護軍の装甲車でさえ、身の安全が保障されていない」と強く非難。
・国連安保理は、ボスニアのトライリッチ副首相がセルビア人勢力に射殺された問題で緊急協議を開き、議長声明で「この行為は国際法の重大な違反であり、国連保護軍に対する挑戦である」と非難。
01/09:
・旧ユーゴ和平国際会議のヴァンス・オーエン両共同議長は、ボスニアのトライリッチ副首相殺害事件を糾弾する声明を発表。「この事件は、ボスニア内戦を終結させる必要性を改めて示した」と述べる。
01/10:
・旧ユーゴ和平国際会議ボスニア紛争協議が、ジュネーブで再開される。しかし、「1つの主権国家形態」を主張するムスリム人勢力であるボスニア政府と、「民族別の3国家の連合体」を唱えるセルビア人勢力との対立は解けず。
・ボスニアのセルビア人勢力は和平会議に、「ボスニアを非中央集権的な『複合国家』にするよう」、8項目からなる提案を行なう。
01/11:
・国家形態をめぐって対立するボスニア和平会議に、ミロシェヴィチ・セルビア大統領が参加。ミロシェヴィチ・セルビア大統領はヴァンス・オーエン共同議長の裁定案を、「交渉のための良いベース」と評価。さらに記者会見で、「3民族が平等に尊重される原則」を強調し、セルビア民族の自決権が確保されれば、議長裁定案に反対しない姿勢を示す。
・国連スポークスマンは、ガリ事務総長がボスニアのトライリッチ副首相殺害事件を調査する特別委員会を設置した、と述べる。
・新ユーゴ連邦モンテネグロ共和国の大統領選挙の決選投票で、ブラトヴィチ幹部会議長の当選が確実となる。
01/12:
・旧ユーゴ和平国際会議ボスニア紛争協議で、ボスニアのセルビア人勢力が「国家形態」について「一つのボスニア」とする裁定案を拒否し、暗礁に乗り上げた形となる。
・ヴァンス・オーエン両共同議長は記者会見で、「チョシッチ新ユーゴ連邦大統領とミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領は裁定案を受け入れた。だが、セルビア人勢力のカラジッチ代表が拒否した」と発表。「国連事務総長には、交渉を行き詰まらせたのはセルビア人勢力と報告し、安保理が事態を検討するだろう」との見通しを明らかにする。
・ボスニアのセルビア人勢力は夜になり、「議会の7日以内の承認」を条件として「1つの主権国家」の裁定案受け入れを表明。カラジッチ・セルビア人勢力代表は、「1,民族別のボスニアという我々の目的を達成する多くの可能性がある。2,幅広い自治『国家の中の国家』があり得る」と言明。
・EC議長国のデンマークは、旧ユーゴ和平国際会議の結果を受け、緊急外相会議を招集することを決める。
・朝日新聞は、「ユーゴ解体」を連載し始める。
01/13:
・英国防省スポークスマンは、ボスニアで援助物資輸送の護衛に当たっていた英軍の兵士1人が射殺された、と発表。
・EC加盟12ヵ国外相がパリで臨時会議を開き、ボスニアのセルビア人勢力に対して旧ユーゴ和平国際会議の裁定案を6日以内に受け入れるよう通告することで一致。議長国デンマークのイエンセン外相は、セルビア人勢力が調停案を受け入れない場合には、ECは国連に対し追加制裁を要請すると述べる。
01/14:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、救援物資80トンをトラック8台に積んでベオグラードを出発したが、ボスニア東部のムスリム人の町ジェパの手前でセルビア人勢力に通行を阻止される。
01/17:
・国連の救援物資は、「寒さと飢えに苦しむ」ジェパの町にようやく到着。
01/20:
・ボスニアのセルビア人議会(議席87)はパレで臨時議会を開き、激しい議論の末にボスニアの「国家形態」に関するジュネーブ和平会議の裁定案を、賛成55,反対15、棄権1で受け入れることを決める。
01/22:
・クロアチア共和国政府軍は、「マスレニツァ作戦」を発動する。国連保護区域内にある交通の要衝マスレニツァの橋を攻撃し、同保護区域内に砲撃を加えてクライナ地方に侵攻。南部海岸地帯を結ぶ回廊を確保するなど戦線を100キロに拡大。ザダル市郊外のゼムニク空港も砲撃され、国連保護軍のフランス部隊の兵士が砲撃を受けて負傷。メダックの戦場でクロアチア共和国軍のアギム・チェク大佐は、取り残されたセルビア人200人を殲滅虐殺。クロアチア共和国軍は、この攻撃でマスレニツァを制圧。セルビア人勢力はクロアチア共和国政府軍の攻撃を受け、国連保護軍が配備されたことで引き渡した重火器を取り戻そうと国連保護軍に迫る。
註;この時期、クロアチアのトゥジマン政権が武力攻撃に踏み切った理由は、「1,2月7日に迫った上院選挙と全国地方選挙を前に、公約である『クロアチア領土の全面回復』を国民に行動で示す必要があった。2,クロアチア共和国軍の装備が計画通り整ってきたため、実践力を試した。3,クロアチア側の攻撃に対する国連保護軍とセルビア人勢力、および国際的な反応を確かめた。4,さらに、セルビア人共和国の首都クニンを包囲すること」などが挙げられる。なお、国連安保理で旧ユーゴスラヴィアに対する武器の禁輸決議がなされているにもかかわらず、クロアチア共和国は武力と軍備を増強してきている。
・クロアチア共和国クライナ地方のセルビア人指導者ハジッチは「戦争状態」を宣言し、「総動員令」を発令。さらにセルビア人勢力は、国連保護軍に引き渡した重火器を取り戻してクロアチア共和国軍の攻撃に対抗する。
・国連保護軍・UNPROFORのナンビアール司令官は、「クロアチア共和国軍は、国連保護軍がいることを承知で攻撃した」と述べ、ボベトコ・クロアチア軍最高司令官に抗議。さらに、トゥジマン・クロアチア大統領に対し攻撃を中止するよう要請する。
・国連安保理は、クロアチア共和国軍が同国の国連保護地域内のセルビア人勢力を攻撃した問題で、クロアチア共和国軍の撤退を求める議長声明を発表。
・新ユーゴ連邦のチョシッチ大統領は、「国連保護軍がセルビア人を守ることができなければ、新ユーゴ連邦が守る権利と義務を持つ」との書簡を国連安保理に提出。
・ボスニアのセルビア人勢力指導者のカラジッチは、「クロアチア共和国軍の攻撃が続くなら、セルビア人の支援に向かう」と話す。
・ボスニア政府軍は、東部スケラニ村からドリナ川を挟んだセルビア共和国の町バイナバシタを砲撃。新ユーゴ連邦軍も応戦。
01/23:
・クロアチア共和国軍は、クライナ地方のスクラジン周辺の国連保護区域内に戦車部隊を投入して侵出し、ザダル市の空港に攻撃を加える。クロアチア共和国軍は海岸からの回廊の要衝ザダルを制圧する。
・旧ユーゴ和平国際会議が、ジュネーブで再開される。ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領、セルビア人勢力のカラジッチ代表、クロアチア人勢力のボバン代表、新ユーゴ連邦のチョシッチ大統領、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、ブラトヴィチ・モンテネグロ大統領、トゥジマン・クロアチア大統領が参加。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はクロアチア軍の攻撃について、「国連保護地域やセルビア人側に、犯罪的な攻撃が行なわれている」と記者団に述べ、チョシッチ新ユーゴ連邦大統領は「攻撃中止がなければ、交渉は出来ない」と述べる。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「セルビア側が、交渉の進展を阻もうと試みている」と語る。
01/24:
・トゥジマン・クロアチア大統領はクロアチア共和国軍の攻撃による戦闘の結果、同国南部との交通路が確保出来たとして「マスレニツァ作戦」の終了を宣言。さらに、この戦闘でセルビア人側が120人死亡、クロアチア人側には10人の死者が出たと述べる。
・チョシッチ新ユーゴ連邦大統領は、「クロアチアは空軍と海軍を動員してクライナのセルビア人居住地域を攻撃している。これは戦争だ」と非難。
・旧ユーゴ和平国際会議のボスニア紛争に関する協議は、国家の形態をめぐって3民族の主張が対立した上、クロアチア内でのクロアチア共和国軍のセルビア人居住区攻撃が陰を落として行き詰まりを見せる。
・コンティッチ新ユーゴ連邦副首相は、国連安保理に「クロアチア軍の攻撃によりセルビア人民兵50人と市民500人が死亡し、多数の負傷者が出た。これらの地域とその住民を守るため、強硬な手段をとる用意がある。国連安保理を緊急に招集するよう要請する」との書簡を送付。
・旧ユーゴ和平会議のヴァンス・オーエン両共同議長は、クロアチアでの戦闘再開について、セルビア側に最大の自制を求めるとともに、「クロアチアの戦闘に、新ユーゴ連邦やボスニアのセルビア人勢力が巻き込まれないよう」それぞれの指導者に要請。「彼らから、国連安保理に処置を委ねる用意がある、との回答を得た」と発表。
・クロアチアのクライナ地方のセルビア人勢力は、国連保護軍の文民警察官21人を拘束。セルビア人勢力はクロアチア側の砲撃からの安全を確保するためと説明。国連保護軍は、「全く受け入れられない」と全員の解放を求める。
・クロアチア共和国軍の攻撃を受けているクロアチアのセルビア人居住地に、新ユーゴ連邦とボスニアのセルビア人勢力からのセルビア人義勇兵1000人が到着。
・緒方貞子UNHCR難民高等弁務官は、各政治指導者や国連保護軍との協議のため、ザグレブ、ベオグラード、サラエヴォを相次いで訪問。
01/25:
・クロアチア共和国軍はラジオを通じ、ゼムニク空港、マスレニツァ橋、ザダル市に至る道路やその他のクロアチア人の村からセルビア人勢力を追い出して支配下に置く、と発表。
・クロアチア共和国軍は攻撃中止の条件として、セルビア人勢力支配地域を20キロ南東に後退させる停戦ラインを要求する、と国連保護軍を通してセルビア側に伝える。
・国連安保理は、クロアチア共和国軍がマスレニツァ、ザダルなどダルマツィア北部の複数の拠点に攻撃を加えていることを非難し、クロアチア共和国軍の戦闘の即時停止を求める決議802を採択。国連安保理は、ボスニア共和国の情勢を深く憂慮する、とする議長声明を採択する。
・新ユーゴ連邦の最高国防評議会は、連邦軍の戦闘準備態勢を強化するとの声明を出す。
・ボスニア中部のゴルニイバクフで欧米系通信社が乗った車が地雷に触れ、3人が負傷。
・ロシアのチェルキン外務次官は、「クロアチア共和国軍がセルビア人居住地に対する軍事行動を停止しなければ、ロシア外務省はクロアチアに制裁を科する問題を国連に提起するつもりだ」と語る。ロシア外務省はクロアチアによるセルビア人居住区攻撃を、「国連安保理要求に違反」していると批判する声明を発表。
・国連保護軍・UNPROFORによると、クロアチアで同保護軍がセルビア人勢力とクロアチア人勢力の戦闘に巻き込まれ、フランス軍兵士12人が死亡、3人が負傷。
・ニューヨーク・タイムズ紙は、旧ユーゴスラヴィアにはボスニアを中心に135の収容所が存在し、7万人の捕虜が収容されている、と報じる。
01/26:
・クロアチア共和国政府軍は、クライナ地方の国連保護地域で新たな侵攻作戦を始める。東部のスラヴォニアへの攻撃準備も始めている模様。トゥジマン・クロアチア大統領は、「マスレニツァとザダルにおける軍事行動は完了した」と勝利宣言を表明。
註;クロアチア共和国が安保理の停戦要求にもかかわらず攻勢を強めている背景には、国際世論が依然独立国家クロアチア共和国に味方しているとのトゥジマン政権の判断がある。なお、トゥジマン政権は事前に欧米諸国から、「制裁を伴うものではない」との情報を得た上で作戦を実行したともいわれる。
・国連保護軍のボイド報道官は、「クロアチア共和国軍の砲撃が引き続き、国連保護軍による緩衝地帯からセルビア人住民が住んでいる内陸部に向かっているようだ」と述べる。
・ジョックス仏国防相は、仏海軍の空母クレマンソーをアドリア海に派遣すると表明。派遣理由について「クロアチア共和国軍の反撃によって、我が軍が危機に直面している」と説明。
・ドイツでは、ボスニア上空の軍用機飛行禁止区域の監視として早期警戒管制機・AWACSを派遣するかどうかで与党内がもめる。コール独首相のキリスト教民主同盟・CDUは派遣を主張しているが、連立与党の自由民主党・FDPが改憲なしに実現するなら連立を解消すると主張。ドイツの基本法では、NATOの域外への派遣を禁止している。
・新ユーゴ連邦は経済制裁の中、タグボートがドナウ川で6隻の荷船を曳航してルーマニアとブルガリアの港湾当局の制止を振り切り、6000トンのディーゼル油を運び込む。さらに24隻の荷船を牽いたタグボートも制止を無視し、ユーゴスラヴィアに向かう。
01/27:
・クロアチアのセルビア人勢力が、ザダルの東約25キロのスカルブルニェ村をクロアチア政府軍から取り戻し再占拠する。
・ボスニアのサラエヴォの北西50キロのブソバツァ周辺一帯で、ボスニア政府軍とクロアチア人勢力が激しい戦闘を展開。サラエボの西ゴルニバクフでも、ボスニア政府軍とクロアチア人勢力の間で戦闘が行なわれている。
・国連保護軍のナンビアール司令官は、クライナ地方のクニンを訪れてセルビア人勢力のハジッチ代表と停戦について会談。
・ガリ国連事務総長はクロアチア共和国軍の攻撃について、「紛争の継続は、保護軍の任務行使をめぐる安保理の検討に深刻な影響を及ぼす」と安保理に緊急報告する。
・国連安保理は、ガリ事務総長の報告を受け、「国連決議の履行のため、必要なさらなる措置を検討する」との議長声明を出す。
・トルコのオザル大統領はワシントン市内で講演し、ボスニア問題で米国などがより強硬な政策を取るよう求め、「勢力が均衡して戦闘が膠着状態にならない限り和平はあり得ない」と述べ、ムスリム側に武器の供与を主張。
01/28:
・国連安保理は、ドナウ川の石油の密輸に関して「悪質な違反行為だ」と非難する緊急の議長声明を出すとともに、ブルガリア、ルーマニアに対し航行を阻止するために必要な措置を取るよう求める。
・クロアチアの国連保護軍のナンビアール司令官はザグレブで記者会見し、クロアチアでの戦闘について、「このままでは壊滅的な結果をもたらす」と述べ、クロアチア共和国軍の軍事行動を非難。
・クロアチア共和国軍は、スプリトの北45キロのペルチャ・ダムの奪回作戦を発動して制圧する。国連保護軍のフランス部隊は一時撤退。セルビア人勢力が撤退に際して地雷を爆破したことでダムの壁に亀裂が走り、下流の住民は避難の検討を始める。
・クロアチア共和国軍は、クライナ地方の中心クニン市に向けて進軍を開始する。
・セルビア人勢力代表によると、クロアチア共和国軍の攻撃でセルビア人民兵が150人、民間人が830人死亡。
・セルビア人勢力は、ザダルの東ベンコヴァツのホテルに監禁していた国連保護軍の文民警察官21人のうち11人を解放する。
・米政府はボスニア問題についての国家安全保障会議の高官会議を開き、具体的な行動を検討。そこでとりまとめた内容は、「1,ムスリム人勢力に武器がわたるよう、武器禁輸を解除する。2,セルビア人武装勢力への制裁のための空爆を行なう。3,禁輸確保のための多国籍軍によるセルビア包囲を実施する。4,ムスリム人の保護区を設置する」など。
・欧州各国は、イーグルバーガー米国務長官がムスリムへの武器供与を打診したところ、強い反対を表明。英国は、派遣している保護軍への報復を恐れ、軍事力行使については慎重な態度を示す。
01/29:
・クロアチアのセルビア人居住地域クライナのセルビア人勢力の指導者は、国連保護軍の仲介でクライナ南部のペルチャ・ダム修理のため、クロアチア共和国軍と一時停戦することで合意した、と発表。
・クロアチア共和国のサリニッチ首相はペルチャ・ダムを視察し、「ダムの被害は大きいが、修復は可能だ」と述べ、決壊するとの懸念は根拠がないと強調。
01/30:
・旧ユーゴ和平国際会議は、ボスニア和平協議の全体会合を開き、裁定案を提示する。クロアチア人勢力側は裁定案に合意したものの、ムスリム人勢力側が「10の自治州の線引き」と「停戦取り決め」について拒否し、セルビア人勢力側が「10の自治州の線引き」について拒否したため、和平会議は合意に至らず。ヴァンス・オーエン両共同議長は「国連安保理が共同議長裁定案を支持し、この実現に必要な措置を取るよう要請する」と発表。
・セルビア人勢力のカラジッチ代表は、「内戦では、セルビア民族が最大の犠牲者となっている。強制が行なわれてはならない。自治州の構成は停戦後に住民投票で決定されるべきだ」と主張。
・ムスリム人勢力のイゼトベゴヴィチ大統領(幹部会議長)は、「議長裁定案の線引きは、民族浄化を進める勢力の下に、犠牲者を留め置くことになる」と述べる。
・ボスニアのサラエヴォを、セルビア人武装勢力が激しく攻撃する。
・ボスニアのセルビア人支配地域の付近に軍事施設は存在しないイリジャで、イスラム人勢力の砲撃を受けた地元のラジオ記者とカメラマンの2人が死亡し、テレビ記者の1人が重傷。
01/31:
・英サンデータイムズ紙は、メージャー英首相がクリントン米大統領に「早計な行動は、戦闘の激化やボスニアに展開中の多くの英軍兵の命が失われる恐れがある」とのボスニアなどへの空爆に反対する書簡を送付した、と報じる。メージャー英首相は、同様な内容の書簡をミッテラン仏大統領にも送る。
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領は記者団に、国連での和平交渉には「出席する理由が私には全くない」と不参加の意向を表明。
・クロアチア内の「クライナ・セルビア人共和国」議会は、48時間以内にクロアチア共和国軍がクライナ地方から撤退するよう最後通告を出す。
・ボスニアのサラエヴォにあるコセヴォ病院周辺にセルビア人勢力が2時間にわたって砲撃を加え、2人が死亡し、7人が負傷。コセボ病院周辺にはボスニア政府の野砲が配備されていることによる砲撃戦。
・フランスの空母クレマンソーが、支援艦艇8隻を従えてアドリア海に到着する。
・緒方貞子難民高等弁務官はダボスの「世界経済フォーラム」で、「92年中に旧ユーゴスラヴィア紛争、ソマリア内戦などを含めて世界で300万人が難民になった」と述べ、「難民問題を解決するためには、紛争当事国市民が難民とならないよう、国際社会が保護していく方法を考えることが重要になっている」と語る。
02/01:
・クロアチア共和国政府軍はクライナ地方の南部一帯で総攻撃を開始する。セルビア人勢力代表によると、今回の攻撃でセルビア人側の死者は民間人800人、兵士150人に及んでいるという。
・ボスニア和平交渉がヴァンス・オーエン旧ユーゴ和平国際会議共同議長の仲介の下、ジュネーブ会議に引き続き国連で開かれる。
02/02:
・ボスニアの人道援助を行なっているUNHCRのデンマークの輸送トラックが、南部モスタルの北東10キロのポトチ付近で帰路何者かに襲撃され、通訳1人が死亡し、司令官が重傷を負う。
・緒方貞子高等弁務官は輸送トラック襲撃事件について、紛争当事者に厳重抗議をするとともに「完全な説明が得られるまで」事件の起きた地域には人道援助を停止する、と言明。
02/03:
・英紙タイムズは、フランスがボスニア紛争に関し、米英仏3ヵ国の2万人の部隊でサラエヴォ周辺の防衛に当たる極秘計画を立案し、クリントン米大統領に提出したと報じる。
02/04:
・クロアチア共和国政府とクライナ地方のセルビア人勢力が、国連保護軍の仲介でクロアチア紛争解決のための話し合いをニューヨークの国連本部で行なうことを合意する。
・クロアチア共和国軍は、クライナ地方の第2の都市ベンコヴァツの陥落を目指して攻撃を開始し、セルビア人武装勢力との間で激しい戦闘となる。
・国連保護軍・UNPROFORのソーンベリー民生担当官は、クロアチア共和国軍が前線の陣地を強化して前進を図っている、と語る。
・全欧州安全保障協力会議・CSCEの高級事務レベル会議が、国連の対新ユーゴ制裁措置を強化するため、制裁が守られているかを監視する調整担当官を早急に任命することを決める。特にドナウ川の制裁違反を監視することに力を入れる。
・米政府当局者は旧ユーゴスラヴィア紛争について、当面武力行使はせずに外交努力を通じて解決を図る方針だが、和平会議のヴァンス・オーエン両共同議長が提案した和平裁定案はムスリム人勢力に不公平なものなので、紛争当事者が受け入れられるよう修正を求める方針であることを表明する。
02/05:
・クリントン米大統領はカナダのマルルーニ首相との会談後、旧ユーゴスラヴィア紛争について「外交解決のためにはエリツィン露大統領の関与が必要だ」と述べ、和平裁定案については「各勢力が誠意を持って和平提案を受け入れない場合は、ムスリム人勢力の立場が極度に不利になる可能性」があると指摘。
02/06:
・クロアチアのクライナ地方のセルビア人勢力は、「クロアチア共和国軍のクライナ地方からの撤退などを求める国連決議が実現されるまでは、国連での和平交渉に参加しない」との方針を伝える。
・人道援助物資をクロアチアのザグレブからボスニアのサラエヴォへ輸送していたドイツの輸送機が、クロアチア北部のカルロバツ付近でセルビア人武装勢力の対空砲火を受け、プロペラに損傷を受け乗員1人が重傷を負う。
・クロアチアのセルビア人武装勢力側はドイツ輸送機への発砲を認めたが、ドイツ側が事前に飛行許可を受けることなくセルビア側の領空に侵入したためだ、と主張。
02/07:
・クロアチア共和国上院と地方選挙の投票が実施される。投票率は71%。
・ボスニア和平交渉のヴァンス・オーエン両共同議長が、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表と「10自治州の線引き」について会談したものの進展は見られず。
02/08:
・クロアチア共和国の上院と地方選挙の中間集計では、与党のクロアチア民主同盟が43%を獲得し、野党の社会民主党は25%。この結果は、クライナ攻撃が国民に支持されたことを示している。
・ボスニア和平交渉をジュネーブから国連本部に移したヴァンス・オーエン両共同議長は、国連安保理の非公式協議で議長裁定案をめぐる交渉経過を説明し、安保理での和平協議が始められる。
・トゥジマン・クロアチア大統領は記者会見で、セルビア人勢力に支配されている国土の3分の1をクロアチア共和国政府の管理下に戻すことを国連保護軍が保証する場合のみ、2月下旬に期限が切れる保護軍の駐留延長に同意する、と語る。
02/09:
・新ユーゴ連邦のチョシッチ大統領は、パニッチ前首相の後任にコンティッチ首相代行を連邦首相に正式に指名し、組閣を要請。
02/10:
・クリストアファー米国務長官が、旧ユーゴスラヴィア紛争の終結を目指した米国独自の6項目の和平案を作成して発表。和平案;「1,バーソロミューNATO大使を特使とする。2,ボスニア共和国のムスリム人、セルビア人、クロアチア人各勢力への説得工作を行なう。3,セルビア人勢力に対する政治的圧力拡大のための経済制裁を強化する。4,一般市民を対象とした人道支援を拡大する。5,和平合意後に平和維持活動・PKOを参加させる。6,関係各国との協議を重視する」として武力行使は当面見送り、各民族勢力との停戦合意を優先するというもの。
・国連人権委員会の特別報告者のマゾビエツキ元ポーランド首相は記者会見で、ボスニアで起きている対立民族の女性に対する暴行が、「極めて大がかりな規模で行なわれ、主としてムスリム女性が犠牲になっている」と発表。真相究明は困難としながら、「主にセルビア人とその武装勢力によって行なわれている」と指摘し、報告書を11日に人権委に提出すると語る。
・セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領は、選挙後の新内閣首相をボジョヴィチからシャイノヴィチに替えて指名。
・クロアチア共和国のボベトコ司令官は、「我々は国連保護軍とチェトニクの緊密な関係を示す大量の文書と写真を持っている」と暴露し、国連保護軍・UNPROFORへの不信感を表明。
02/11:
・ガリ国連事務総長は旧ユーゴスラヴィアに展開する2万3千人の国連保護軍について、3月末まで延長することを安保理に勧告。
・サラエヴォ空港のイリジャ地区でボスニア政府軍がセルビア人勢力に新たな攻撃を開始し、空港内の国連保護軍・UNPROFORの装甲車にも砲弾が直撃。フランス兵1人が死亡し、3人が重傷を負う。
02/12:
・国連人権委員会の旧ユーゴ問題特別報告者マゾビエツキ元ポーランド首相は、ボスニアなど旧ユーゴスラヴィアで起こっている人権侵害について包括的な報告書を人権委に提出。報告書;「紛争の全ての指導者らは、その武装兵力によって行なわれている残虐行為と無関係とは言えない」とし、国連保護軍・UNPROFORに人権侵害に介入し、調査する権限を与えることを提唱。規模については、「極めて大がかりだが、数字で表す信頼できる方法がない」とし、ECが女性に対する暴行の被害は2~3万人とした調査を退ける。マゾビエツキ報告者はさらに、「1,全ての拘束されている人々の即時釈放。2,ボスニア内に、迫害にあっている人々を守る『安全地域』 を設置する。3,都市包囲などを即時中止し、人道援助の活動ルートを確保する。4,国連保護軍・UNPROFORに人権侵害に介入し、調査する権限を与える」などを提唱。
02/13:
・コーズィレフ露外相はバーソロミュー米特使と会談し、ボスニアの和平に向けてヴァンス・オーエン両共同議長裁定案を実現するため、米ロが協力する意向を確認。
・ボスニア政府は、東部のゴラジュデ、チェルスカ、スレブレニツァ、ジェパなどムスリム人地域への食糧輸送が実現されない限り、サラエヴォへの国連の食糧援助の搬入を拒否すると通知。このボスニア政府の断食作戦で、サラエヴォの住民35万人は飢えと寒さと銃弾の極限状態に追い込まれている。ボスニア政府は、「セルビア人勢力側はムスリム人市民を餓死させて民族浄化を図ろうとしている」と主張し、欧米の強硬策を引き出そうとしている。
・ボスニア駐留国連保護軍・UNPROFORのモリヨン司令官は、ボスニア政府の作戦は市民を犠牲にするものと非難し、「ガンジーは決して他人に断食を強制しなかった。東部ボスニアの山岳地帯では国連の食糧援助なしでも何とか生き延びる手段があるが、サラエヴォのような都市ではそれは不可能だ」と、ボスニア政府のムスリム人地域の飢餓状況の誇張を暗に非難する。
・ボスニアのサラエヴォ放送は、東部のムスリム人の村チェルスカで子ども40人を含め108人の村民が食糧難と寒さで死亡した、と報じる。さらにゴラジュデの町でも、58人の市民が飢えと寒さで死亡した、と報じる。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はサラエヴォ・テレビのインタビューで、対セルビア強行策に出ないクリントン米政権の姿勢を非難し、「もし軍が権力を握ったら、最大の悲劇が起こる」と述べ、政府軍内部に不穏な動きがあることを牽制する。
・セルビアのベオグラードの「ポリティカ」紙は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領がテレビのインタビューで、「ボスニア側は既に独立前の91年後半に、戦争に備えるために3万人から4万人の『愛国同盟』という準軍事組織を作っていた」と語った、と報じる。
・トルコのオザル大統領は、バルカン全域に戦火を広げないためにボスニアのセルビア人勢力が攻撃を中止することが必要だ、とボスニアのムスリム人を支援する集会で演説。
02/14:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、セルビア共和国側の了解を得てセルビアのベオグラードからボスニア東部のチェルスカ村などムスリム人地域に向け、トラック10台で食料、医薬品の輸送に着手したが、ボスニア内のセルビア人勢力に通行を拒否され、国境を越えられないままロズニッツァの町で立ち往生する。
・ボスニアのサラエヴォ放送は、東部の村チェルスカで新たに11人の子どもを含め23人が飢えで死亡した、と報じる。
02/15:
・NATO軍事筋は、ボスニアでの平和維持活動に、ロシアがNATO軍の指揮下に入った形での兵力派遣を検討していることを明らかにする。
02/16:
・UNHCRは、セルビア共和国のベオグラードからボスニア東部のムスリム人居住区ゴラジュデへ、トラック10台に72トンの食料と医薬品を積んで第2陣物資輸送を実施したが、ボスニア国境でセルビア人勢力に通行を阻まれる。
・国連本部で、「旧ユーゴ和平国際会議」の仲介によるクロアチア共和国政府とクロアチアのセルビア人勢力との武力衝突を解消するための和平交渉が始められる。ヴァンス・オーエン両共同議長は、先ずセルビア人勢力と協議。クロアチア共和国政府は、17日にニューヨーク入りの予定。
・米国務省バウチャー報道官は、「ボスニア政府は、サラエヴォへの人道物資搬入を阻止すべきではない」と批判。同時に、セルビア人勢力の人道物資搬入阻止も批判。
・ボスニアのサラエヴォ議会は、ボスニア東部のムスリム人の飛び地が人道上悲惨な状況に陥っているとして、抗議のためにUNHCRの援助物資の輸送と配布をボイコットするとの決議を行なう。
02/17:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、サラエヴォ市議会の決議とボスニア政府が援助物資の配布を拒んだことに対し、4つの措置を含む声明文を発表。声明文の要旨;「1,通行妨害を受けている輸送隊を基地に戻し、セルビア人勢力支配下にあるボスニアにおけるすべての救援活動を直ちに停止する。2,サラエヴォにおけるUNHCRの活動を全面的に停止し、包囲下にあるこの38万人の都市には最小限の要員だけを残し、ほとんどの職員を引き揚げる。3,サラエヴォへの物資輸送および空輸を一時停止する。4,UNHCRの活動が継続出来るボスニアの地域では、UNHCRの救援事業の規模を縮小して維持する」。その上で、「政治指導者側が援助の再開を要望し、輸送隊の通行を妨害しないと保障するなら、即座に再開」とする。
・国連安保理は、ボスニア政府によるサラエヴォへの人道物資搬入阻止と、セルビア人勢力が東部への物資輸送を阻止していることに対し、「市民の生活を危機に陥れる」と両勢力を非難。早急にUNHCRの援助活動が再開出来るよう、妨害行動の即時停止を求める議長声明を採択。
・UNHCRのボスニア東部ゴラジュデへの人道援助物資輸送隊は、ボスニア国境を越えて15キロ手前のロガティツァまで進んだが、セルビア人勢力がボスニア政府との間で捕虜交換が行なわれるまで通行を許可しない、との条件を突きつけて進行を阻む。チェルスカ村へ向かった第一陣のUNHCRの輸送隊も、依然ボスニア国境で通行を認められず。
・旧ユーゴ和平国際会議のヴァンス共同議長は、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表に電話を掛け、東部ボスニアへの物資輸送阻止を止めるよう要請。カラジッチ代表は、ゴラジュデへの輸送阻止は止めると述べたが、他の地域は戦闘中なので輸送は認められない、と述べる。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は、UNHCRがボスニアの大半の地域で援助活動を停止したことを受け、クリントン米大統領に緊急援助物資をパラシュートで投下するよう書簡で要請。
・ボスニア駐留国連保護軍のモリヨン司令官は、緒方貞子難民高等弁務官がボスニアへの人道物資輸送を停止すると発表したことに関連し、「国連保護軍・UNPROFORは、東部ボスニアへの輸送を継続する」と語る。UNHCRの支援物資の輸送は実際には国連保護軍が行なっており、阻止されている輸送隊に対し作戦を続行するよう指示を出す。夜になり、ゴラジュデへの物資輸送は通行許可が出たと述べる。
02/18:
・国連安保理は非公式協議で、「旧ユーゴ国際戦争犯罪特別法廷」の設置に関する基本草案を、理事国の多数が合意。
・コーズィレフ露外相は、ボスニア紛争解決に向けた平和維持活動で、ロシアの兵力をNATO軍の指揮下に入れる形での派遣の可能性も示唆。
・ロシア最高会議は、ロシアが安保理でクロアチア共和国への制裁を導入するか、あるいは新ユーゴ連邦への制裁の段階的緩和から撤廃を提案すべきだ、との政府への提言を採択。
・ロシアのチュルキン・ユーゴ和平交渉特使は旧ユーゴ和平国際会議のヴァンス・オーエン両議長に会い、ボスニアでの国連保護軍の参加について、「ロシア軍派遣に関して克服出来ない問題はない」と述べて参加条件を提示。「1,ロシア以外のNATO非加盟国も合同軍に参加する。2,兵力の主力はNATO軍で構成する。3,ロシア軍はNATO軍の指揮下に入らない」など。
02/19:
・国連安保理は公式協議を開き、旧ユーゴスラヴィアに展開する国連保護軍の駐留期限を3月末まで期間延長すると共に、自衛のための武力行使を認める決議807を採択する。
・ガリ国連事務総長は、緒方貞子UNHCR高等弁務官に対し、ボスニアでの人道援助を出来るだけ早く再開するよう指示。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、ガリ国連事務総長の援助再開への指示を歓迎し、拒否していたサラエヴォへの物資搬入について再開交渉に入る用意がある、と述べる。
・ボスニアのサラエヴォ放送は、東部の町スレブレニッツァは2日間で157人が飢えと寒さにより死亡した、と報じる。
02/20:
・朝日新聞の百瀬和元記者は旧ユーゴスラヴィア紛争で、「民族自決権の尊重と、国家主権の適用に欧米は二重基準を使っている」 と批判的記事を掲載。
・東部ボスニア地区の市民グループ代表は、国連難民高等弁務官事務所・UNHCRの代表に会い、サラエヴォへの人道援助再開を訴える。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、国連保護軍の現地司令官やUNHCRの現地責任者と会談し、サラエヴォへの人道援助物資の搬入ボイコットを中止することで合意。イゼトベゴヴィチ大統領は、サラエヴォへの人道援助物資搬入を拒否する「断食作戦」の中止と、ボスニア全域での一方的停戦を政府軍に命令する声明を発表。イゼトベゴヴィチ大統領は、「国際社会の訴えが強く出ているため、今回の決定をした。我々はボイコットによってボスニアの状況を国際社会に分かってもらうという目的を達成した」と語る。
・国連保護軍による人道援助物資輸送隊は直ちに輸送を開始し、3つの輸送隊の内ジェパにはトラック10台が物資を満載して到着。
・緒方貞子UNHCR高等弁務官は、紛争の駆け引きに人道援助が利用されないようボスニア救援活動を停止した決定は、有効であったことを確認。
・クリントン米大統領は、ボスニア東部でセルビア人勢力包囲下にあるイスラム教徒救援のための食料、医薬品の米軍機からの投下を検討していることを明らかにする。
02/21:
・英政府筋は、英米両国が今週中にもボスニアに向け、空軍機を動員した大規模な緊急物資の輸送作戦に乗り出す方針であることを明らかにする。
・緒方貞子UNHCR高等弁務官はボスニアにおける人道援助について、紛争当事者の3勢力が「救援物資の輸送や配給を妨げない」と改めて約束したことを受け、援助活動を再開するとの声明を発表。
・クリントン米大統領はボスニアへの食料や医薬品援助の可能性について、「国連安保理と協議を開始するよう指示した」と述べ、「一両日中に何らかの発表が行なえるだろう」と語る。マイヤーズ米大統領報道官は、クリントン米大統領が23日にガリ国連事務総長とボスニア情勢について会談する、と発表。支援策発表はその後になるだろうとの見通しを述べる。
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領は、サラエヴォにおける救援物資配布ボイコットを中止し、UNHCRに対し早期に救援物資の空輸を求めるメッセージを伝える。
02/22:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ボスニアのサラエヴォへの人道援助物資空輸を5日ぶりに再開する。
・国連安保理は、旧ユーゴスラヴィア紛争の国内の戦争犯罪を裁く、「旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷I・CTY」設置を承認する決議808および827を、全会一致で採択する。国際法廷は判事15人で構成し、禁固刑が最高刑で死刑はない。戦犯法廷の設置について、昨年から米国とフランスが主張しており、フランスとイタリアが共同で私案を出している。
02/23:
・クリントン米大統領はガリ国連事務総長とホワイトハウスで会談し、ボスニアの住民を対象とした救援物資の空からの投下作戦に関し、国連を通じて実施する方向で基本的に合意。
・ガリ国連事務総長は記者会見で、投下作戦は地上のトラックでの輸送を補完するものに過ぎないことを強調。
・ボスニアのセルビア人武装勢力のグベロ副司令官は、米軍の投下作戦は、紛争を制御不可能なほどエスカレートさせると警告。
・国連人権委員会は旧ユーゴスラヴィアでムスリム女性らに対する性的暴行がセルビア人勢力によって、戦争や「民族浄化」の手段として組織的に行なわれていることを非難する決議を全会一致で採択。また、人権委員会は旧ユーゴスラヴィアの全ての紛争当事者によって、あらゆる人権侵害や人道的取り決めの蹂躙が行なわれていると指摘し、その主たる責任がセルビア人勢力支配地域、セルビア人武装勢力、新ユーゴ連邦の政治、軍事面の指導者たちにある」と非難する決議を全会一致で採択。
・旧ユーゴ人権問題特別報告者のマゾビエツキ元ポーランド首相は、セルビア人勢力に主な責任を問いながらも、婦女暴行が「全ての紛争当事者によって行なわれている」と報告しているものの、人権委員会の決議には反映されず。
・ハード英外相は、米国が決定したボスニア東部への援助物資投下作戦に英軍は参加しないと下院で答弁。「欧州の仲間として軍事介入だけは避けようと、ECは継続的な努力をしている」と述べる。
・デュマ仏外相は、「米国の投下作戦を、和平プロセスの主役にしてはならない」と語る。
・キンケル独外相、「欧州で米国の投下作戦に、共同行動を取る国はないだろう」と強調。
・英国のシンクタンク国際戦略研究所・IISSは、クリントン米政権のボスニア戦略が、「1,和平国際会議のヴァンス議長らの和平案に米国の承認印を押す。2,ロシアをNATO戦略の枠内に取り込む。3,米国が、欧州安定化の原動力であることを米国民に見せる」ために策定されていると指摘。
02/24:
・NATOのウェルナー事務総長は、米国が検討しているボスニア東部への援助物資投下作戦について、「紛争終結に寄与することを望む」とする支持声明を出す。
・メージャー英首相はホワイトハウスでクリントン米大統領と会談した後、米軍のボスニア住民への援助物資投下作戦に同意。
・新ユーゴ連邦のジュキッチ外相は、「米国から、空中投下に関してユーゴ連邦軍が介入しないよう警告があった」と明かす。
・新ユーゴ連邦軍参謀本部は米軍の援助物資投下作戦について、「1,この計画の背景には、米軍機の撃墜と米軍パイロットの死によって軍事介入の条件をつくり出そうとする異常な熱意が感じられる。しかも、セルビア人の非戦闘員を犠牲にするべく想定されている。2,人道援助の必要は認めるが、武装勢力の多くが無管理状態にあるボスニアでは援助物資の投下は不合理で危険だ」 との声明を発表し、「ユーゴ連邦軍は最高国防会議の決定に従って、適切な措置を取るであろう」と警告。
・国連安保理はボスニア和平交渉について、紛争当事者の交渉への参加による即時再開を求める、議長声明を採択。
02/25:
・ボスニアのセルビア人勢力の軍司令部は、ボスニア東部に援助物資を投下する米軍機に対する攻撃を控えるよう命じ、「ムスリム人勢力が米軍機を攻撃し、セルビア人側に責任をかぶせる懸念がある」と表明。
・UNHCRはボスニア東部の町ゴラジュデに120トンの食料、医薬品を載せた12台のトラック輸送隊を到着させたと発表。
・サラエヴォ・ラジオは、東部のムスリム人の町スレブレニッツァでは飢えと寒さのため市民34人が死亡した、と報じる。
・国連保護軍・UNPROFORがボスニアのサラエヴォ空港から西のライロバツ地区に人道援助物資を運んでいたが、何者かに狙撃されてエジプト兵が死亡する。国連保護軍の旧ユーゴスラヴィアへの展開で、1年足らずの間の死者は30人。ボスニアでの死者は8人となる。
02/26:
・ボスニアの東部の町ブルチコおよびグラダチャツでは、ムスリム人勢力のボスニア政府軍とセルビア人武装勢力との間で戦闘が激化する。
・NATOの臨時外相会議がブリュッセルで開かれ、米国が近く実施するボスニア東部への援助物資投下作戦を協議し、各国は支持を表明したが投下作戦への参加を申し出た国はなし。
・クリストファー米国務長官はボスニア和平成立後の平和維持軍参加について、「国連やEC、NATOなどに加わり、軍事面を含め協力する用意がある」と述べる。
02/27:
・米軍、ボスニア東部への援助物資投下作戦を告知するビラを撒く。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はワシントンで、「米国の介入は重要であり、和平交渉の大きな弾みになる」と期待を表明。
・ボスニアのセルビア人勢力およびクロアチア人勢力の代表は、ボスニア駐留国連保護軍のモリヨン司令官と会談し、「食料の投下はいらない。それより、自分たちの上空を飛行しないよう米軍に伝えて欲しい」と訴える。
・UNHCRボスニア現地代表は、ボスニア東部のイスラム教徒たちへの陸路の物資輸送計画を中止した、と発表。
02/28:
・米軍は、在独米軍基地のC130輸送機3機を使用し、ボスニアのムスリム系住民への食糧など援助物資投下を開始。クリストファー米国務長官は、「数日間投下を続けて様子を見る。うまくいけば続行し、他国が参加するかも知れない」とテレビインタビューに応える。
・ボスニアのセルビア人勢力は、「ボスニア政府による米軍を巻き込む作戦が、一歩一歩進んでいる」と、今後の動きを警戒する声明を発表。
・ボスニアのクロアチア人武装勢力クロアチア防衛評議会は、ボスニアからクロアチア共和国に通じる国境をムスリム人を対象に閉鎖する、との声明を発表。声明は、「ボスニア政府軍が、ムスリム人の兵力を集めて政府軍とは別の不法な軍事組織作りを進めており、これはクロアチア人とムスリム人の武力衝突を引き起こそうとするものであり、ボスニア情勢をさらに悪化させる」としている。
02/00:
・ボスニア共和国のシライジッチ外相は、「正確な数は分からないが、1万4000から3万人のボスニア女性が侵略者によって暴行された」と訴える。
・ECの調査団は、「1万人のムスリム女性が被害に遭っている」と指摘する目撃者などの証言による報告書をまとめる。
・セルビア人勢力側は、「一方的な非難。セルビア女性も犠牲になっている」と反論。
・ムスリム人勢力側は、「この犯罪が戦争という状況下で起きた偶発的な結果ではなく、敵対民族を追放する『民族浄化』を進めるための組織的な犯行」と主張。
03/01:
・米軍はボスニアへの援助物資投下作戦を実施した後、米軍スポークスマンが、「当初は4機で行なう予定だったが、1機が故障したため3機で行ない、1機当たり7トンの食料と医薬品を投下した」と述べる。パイロットは「目標地点の65メートル以内に物資を落とすことが出来た。地上からの敵対行動はなかった」と語る。
・アスピン米国防長官とパウエル米統合参謀本部議長の連名による声明は、「作戦はボスニア東部のムスリム人地区チェルスカを対象とし、物資のほとんどはその目標地域に落下し、残りの物資も目標地域近くに落下」したと述べる。
・ボスニア共和国のラグムジャ副首相はフランス通信に、「東部に米軍機が投下した援助物資が、セルビア人の手に渡った」と述べる。
・現地のアマチュア無線家は、「我々が知る限り、チェルスカに投下された物資はすべてセルビア人にわたった」と連絡。
・スロヴェニア通信は、米軍機による投下された梱包物が30キロ離れたボスニア北東部のトゥズラで発見された、と伝える。
・米国の衛星によると、投下された30個ののうち9個が放置されたままの状態にあることが確認される。
03/02:
・ボスニアのサラエヴォ・ラジオは、チェルスカで米軍が投下した1回目の援助物資の一部をムスリム人勢力が発見した、と伝える。さらに、サラエヴォ・ラジオは、チェルスカの町をセルビア人が自由に歩き回っている、と報じる。
・ボスニアのガニッチ幹部会副議長は、「投下直後はセルビア人勢力の銃撃戦が激しすぎ、物資を発見回収するのは難しかった」と述べる。
・UNHCRは、ボスニア東部に投下された米軍の救援物資を回収しようとした住民数人が狙撃されて死亡した、との未確認情報があることを明らかにする。また、UNHCRはチェルスカの住民の内、負傷者や病人1500人が村を出たいとの要請を受け、赤十字国際委員会・ICRCとともに協力してセルビア人勢力側と交渉を開始する。
・米国防総省スポークスマンは、ボスニアに投下した援助物資の3分の1に、ムスリム人が食べない豚肉が含まれていることを認める。MREと呼ばれる米軍用インスタント食品には豚肉が含まれているが、「食べたくない人は、食べないだろう」と述べる。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は米国人への公開書簡で、「軽率な米国の人道援助が、一夜にしてバルカン地域紛争を世界紛争に変えてしまうこともあり得る」と警告。
03/03:
・UNHCRによると、ベオグラードから出発した国連の医薬品などを積んだ輸送トラックが、ボスニア国境でセルビア人勢力によって輸送を阻まれている、という。
・ロシア政府は、米国のボスニアへの物資投下作戦への参加を表明する。
・クリントン米大統領はボスニアへの人道救援物資投下作戦は、「計画通り進行中である」と語り、アスピン国防長官の一時停止発言を否定。マイヤーズ報道官は、「米国は引き続き、人道物資を送り続ける」と発表。
・アマチュア無線によると、ボスニア東部の2ヵ所で米軍が投下した救援物資21個を発見したが、3個を回収したのみで18個は戦闘が激しいために回収出来ずにいる、という。
・国連安保理は、ボスニア東部で米軍の援助物資投下後に起きた激しい戦闘を抑制するために、国連保護軍の緊急展開を要請する緊急議長声明を採択し、ガリ国連事務総長に提出。
・旧ユーゴ和平国際会議の国連本部内でのボスニア和平交渉で、最後まで認めなかったボスニア政府が「停戦取り決め」に合意し、署名する。クロアチア人勢力とセルビア人勢力は、この「停戦取り決め」に合意済み。
・セルビア共和国のベオグラード米国大使館前に手投げ弾が投げられて爆発し、大使館の窓ガラスが割れる。
・米軍は、ボスニア東部への第4回目の人道援助物資投下作戦は、ドイツのラインマイン空軍基地から輸送機4機で実施すると発表。
03/04:
・国連保護軍当局者はボスニアのセルビア人勢力との交渉で、同勢力が包囲しているボスニア東部のチェルスカ、ジェパ、スレブレニツァなどの地域からのムスリム人市民と人道援助団体の自由で安全な通行を、6日から24時間認めることで暫定的に合意した、と発表。
・クリントン米大統領は、ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ代表の3月2日の公開書簡について、「彼は大変な誤りを冒した。とても承服出来ないし、重大な懸念を抱いている」と強く批判。
・フランスの民間慈善団体の人道援助物資輸送隊が狙撃され、フランス人女性が死亡。
・米軍は、第5回目のボスニア東部への物資投下作戦を実行。
03/05:
・UNHCRは、ボスニア東部で孤立しているムスリム人居住地域チェルスカに、国連保護軍と合同で実情調査隊を向かわせつつあると発表。
・クリントン米大統領は記者団に、「セルビア禁輸強化を実施しようとしているところだ。間もなく発表する」とボスニアのセルビア人武装勢力の攻勢激化を受け、セルビアへの圧力を一層強化する方針を明らかにする。
・米・ロ軍事専門家代表はボスニアへの物資投下作戦について協議し、ロシアが12日から参加し、イリューシン76型輸送機2機を用意して2週間で260トンの援助物資を投下することで合意。
03/06:
・ボスニア駐留国連保護軍モリヨン司令官は、ボスニア東部のチェルスカ、コニェヴィチ・ポリェなどを視察後にサラエヴォとトゥズラで記者会見し、「1,国連保護軍の通行は自由だった。2,チェルスカでは家が焼かれ、砲撃が激しかったが、ムスリム人虐殺の証拠は認められなかった。セルビア人兵士が村を闊歩していた。3,米軍が投下した援助物資はムスリム人住民の手に届いている。4,コニェヴィチ・ポーリェでは一軒一軒尋ねたが避難を必要としている負傷者は75人で、困難であるが餓死に直面している状況ではない」と、ボスニア政府が流したセルビア人勢力によるムスリム人女性の虐殺などの情報を否定する。
・国連本部で行なわれているボスニア和平交渉は、「ボスニアを10の自治州に分割する」との案を、ムスリム人勢力のボスニア政府、セルビア人勢力とも受け入れなかったために中断する。
03/07:
・米軍は、ボスニア東部への7回目の援助物資投下を輸送機6機で、食料37.2トンと医薬品0.9トンを投下実施と発表。
03/08:
・ボスニア政府軍のハリロヴィチ司令官は、ムスリム人住民を救うためにセルビア人勢力に対する攻撃を開始するよう命令。
・米欧州統合軍司令部は、ボスニア東部への8回目の物資投下を実施。
・ドイツ国防省は、ボスニア東部のムスリム人地区への援助物資投下作戦に、今月末から参加することを明らかにする。
03/09:
・UNHCRがボスニア東部コニェヴィチ・ポーリェに向けた救援物資をベオグラードから輸送したが、ボスニア国境でセル
ビア人勢力に通過を拒否される。
・ミッテラン仏大統領はワシントンでクリントン米大統領と首脳会談を行ない、旧ユーゴスラヴィア問題などについて協議。
03/11:
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、パリのエリゼ宮で「旧ユーゴ和平会議」のヴァンス・オーエン両共同議長と会談し、ボスニア和平交渉を進展させるためにセルビア人勢力に圧力をかけることを受諾する。
・UNPROFORのモリヨン司令官はスレブレニツァに視察に赴く。スレブレニツァ周辺は避難民で溢れかえっており、モリヨン司令官は避難民に帰還を阻まれる。
03/13:
・ドイツのボンで、セルビア共和国のコソヴォ自治州の独立を求める集会とデモが行なわれ、2万人が参加する。
03/16:
・朝日新聞によると、新ユーゴ連邦への経済制裁措置が間もなく4ヵ月を迎え、海上封鎖の臨検は488隻で違反船は5隻の1%。エジプト船籍の船が武器を大量に積んでいるとの情報で臨検しようとしたらUターンして戻って行ったこともあり、リベリア船籍のタンカーはガソリンを積んでいると見られていたが巧みにモンテネグロ港に入ったため、公海に出て来次第臨検する予定というのもある。
03/19:
・国連保護軍のモリヨン司令官は、国連の援助物資のスレブレニツァへの搬入をセルビア人勢力と交渉を重ねた末に交渉を成立させる。9日ぶりに国連保護軍のモリヨン司令官に先導された輸送トラック16台は食料や医薬品175トンを積んで町に入る。モリヨン司令官は、ボスニア東部のスレブレニツァに2キロの地点までセルビア人勢力が迫っており、同町の陥落は間近だろうと語る。
・緒方貞子UNHCR高等弁務官はスレブレニツァの6万人のムスリム人住民が孤立状態に置かれているとして、米国に1日当たり60トンの投下物資と負傷者の救出や医薬品搬入のための大型ヘリコプターの動員を要請。
・国連安保理は、ボスニア上空に設定した飛行禁止区域に違反した軍用機を撃墜することを認める決議案を、22日にも採択することで合意。
03/20:
・国連保護軍のモリヨン司令官の輸送部隊は、スレブレニツァから負傷者100人など700人を収容する。次いで、モリヨン司令官はトゥズラに向かう。
・ボスニア共和国政府は、国際司法裁判所・ICJに新ユーゴ連邦政府がボスニア内戦における人権侵害を行なっているとし、「集団虐殺禁止条約、戦争犠牲者保護に関する4条約、国連憲章などの国際合意を根拠にし、『1,人権侵害の即時中止。2,ボスニアが外部から軍事支援を受ける権利の確認』」を求めて提訴する。
03/21:
・フランス国防省は、ボスニア東部への米軍による援助物資投下作戦にフランスも参加することを決めたと発表し、輸送機2機をフランクフルト空軍基地に派遣すると述べる。
03/23:
・オーストリアのレシュナク内相は、旧ユーゴスラヴィアからの難民がこれまで6万人流入しており、経済的圧迫を理由に今後受け入れない方針を明らかにする。
03/24:
・国連安保理は、ボスニア上空の軍用機飛行禁止区域に違反した軍用機への武力行使を認める決議案が、ロシアの異議申し立てで、採択を23日に次いで延期する。
03/25:
・ウェルナーNATO事務総長はボスニア領空の飛行禁止強化に関し、NATO軍が具体的な計画を策定していることを明らかにし、「作戦実施に十分なNATO軍兵力が参加するはずだ」と述べる。さらに、和平協定が成立した場合の平和維持活動にも「NATO全加盟国の間で、参加の合意はある」と語る。
・国連の諸機関が、旧ユーゴスラヴィアの人道援助についてジュネーブで国際会議を開き、協議する。
・WHOの代表は記者会見で、ボスニア東部のスレブレニツァでは1日30人前後の死者が出ている、サラエヴォなどで上下水道が麻痺していることから深刻な衛生問題が起きつつある、と指摘。
・ボスニア和平交渉で、初めてボスニア3勢力の代表が顔を合わせて交渉する。「ボスニアを10自治州に分割する」改訂和平案と「暫定政府案」に、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領が署名。クロアチア人勢力は既に大筋で受諾。セルビア人勢力は未だ署名に応じていない。
・米政府スポークスマン、「米政府は制裁などを通じて、セルビアに署名させるために圧力をかける」と述べる。
註;ボスニア政府が裁定案の領土分割を受け入れたのは、分割案を承諾したのではなく、関係国に好印象を与えようとの意図から出たものにすぎず、ボスニア政府はあくまで武力によるボスニア全土の統一を目指している。逆にセルビア人勢力は、分割案を拒否した形を取っているが、分割案そのものは受け入れる意向を示しながら、その割合に異議を唱える、というねじれ現象を起こしている。
03/26:
・旧ユーゴスラヴィア全体を管轄する国連保護軍のスウェーデン人のウォールグレン司令官と、ボスニア地域を管轄する国連保護軍のフランス人のモリヨン司令官が、セルビア人勢力のムラディッチ司令官と会談。28日から停戦に入ること、さらに足止めされていたスレブレニツァへの国連の援助物資輸送トラック20台の通過を許可すること、などの合意を取り付ける。モリヨン司令官は、ムスリム人勢力のガニッチ幹部会副議長とクロアチア人勢力のボバン代表からは、既に停戦遵守の確約を得ている、と述べる。
03/28:
・ドイツ連邦空軍は、ボスニア東部への米軍の援助物資投下作戦に初参加する。
・国連救援部隊は、スレブレニツァからトラックで女性や子どもおよそ1600人を移送する。
03/29:
・NATOと旧ワルシャワ条約機構などで構成する北大西洋協力会議・NACCは、NATO本部で国防相会議を開き、ボスニア内戦の終結を目指す裁定案にセルビア勢力も合意するよう求める声明を採択。
03/30:
・ボスニアは全土でほぼ停戦協定が守られており、国連保護軍はトラック19台で東部のスレブレニツァから2000人以上のムスリム人住民を移送する。この移送の際の混乱で、数人が圧死する。
註;ムスリム人勢力のスレブレニツァ当局もトゥズラ当局も、住民がいなくなることでセルビア人勢力が占拠することをおそれ、ムスリム住民の避難には反対している。ボスニア政府は同様の理由で、戦争の全期間を通して住民の安全な場所への避難には反対の態度を示してきた。セルビア人勢力は住民の避難は支持したが、援助物資の輸送には妨害行為を行なっている。
03/31:
・国連安保理は、決議781および816で定めたボスニア領空の軍用機飛行禁止空域を違反飛行した軍用機に対し、あらゆる必要な措置を取ることを認める武力行使容認決議816を、賛成14,反対0、棄権1で採択。
・ボスニア東部のスレブレニツァで、ムスリム人を移送する国連救援部隊のトラックに住民が殺到し、数人が押しつぶされて死亡する。このときは、およそ3000人がトラックで移送される。
04/01:
・NATO軍は、ボスニア領空への軍用機飛行禁止強化の国連決議を受け、違反機排除にあたる戦闘機の出動準備態勢に入る。
・英国防省のエイトキン物資調達担当次官は、下院でボスニア領空の飛行禁止措置を強化する作戦について「原則的に、この任務遂行のために軍用機を提供する用意がある」と表明。
・旧ユーゴ和平国際会議共同議長のヴァンス米元国務長官は、健康上の理由で議長を辞任すると表明。
04/02:
・ドイツのコール首相は、ボスニアの飛行禁止空域の監視にドイツ空軍の早期警戒管制機・AWACSを派遣することを閣議にかけて決定。
・コール政権の連立与党の自由民主党・FDPは基本法に違反すると反対し、連邦裁判所にAWACSの参加差し止めの仮処分申請と違憲訴訟を提起する。
・NATOは大使級協議で、ボスニア領空の飛行禁止強化の国連決議を受けた違反航空機の排除活動に、加盟国の戦闘機を投入することを正式に決める。米、英、仏などから100機が参加する見込み。
・ノルウェー外務省は、旧ユーゴ和平国際会議ヴァンス共同議長の後任にシュトルテンベルク外相が、外相を辞任して就任すると発表。
04/03:
・ボスニア共和国内のセルビア人共和国議会がビレチャの町で開かれ、「ボスニア10自治州分割」裁定案に対し、「セルビア共和国との国境に接した地域にムスリム人の自治州が設定されていること、さらに70%の領土を確保していたにもかかわらず43%に削られていること」などを理由として満場一致で拒否する。
・クリントン米大統領は、ボスニア駐米大使にビクター・ジャコヴィチ広報文化交流局高官を指名。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、ニキツァ・バレンティッチを首班とする新内閣の閣僚を任命。新内閣の主要閣僚には、サリニッチ前内閣のグラニッチ副首相、セクス副首相、シュクラバロ外相、スサク国防相、ヤルニャク内相などが就任。
04/04:
・UNHCRは、ボスニア東部スレブレニツァへの食料、衣料、医薬品など人道援助物資72トンの輸送を8台のトラックで再開する。
・国連保護軍は、サラエヴォへの物資空輸を2週間ぶりに再開する。
・クリストファー米国務長官は、「セルビアに対する制裁強化を検討している」と述べ、ボスニアのセルビア人勢力が裁定案を拒否したことに対し、国連安保理で新たな対セルビア制裁を討議する方針を明らかにする。
04/05:
・EC外相理事会は新ユーゴ連邦への制裁強化について、「和平案の受け入れ拒否は、新ユーゴ連邦の国際的孤立を決定づける。いまやその方向で具体的な方策を講じる時だ。具体的な行動を取るべき時が来た。EC加盟国は制裁強化に向けて可能な手段を検討済みである」と支持する声明を採択。
04/06:
・クロアチア共和国政府とクロアチアのセルビア人勢力の「クライナ・セルビア人共和国」の代表が、停戦協定に調印する。
04/07:
・国連安保理は、マケドニア共和国の国連加盟申請を暫定国名「マケドニア旧ユーゴスラヴィア共和国・FYROM」として承認し、加盟推進を総会に勧告する決議817を採択。。翌8日に、国連総会の加盟決議が採択される。
・UNHCRによると、ボスニア内戦が始まって以来1年間で、難民・避難民は228万人に及んでいる
・国連関係者の推定では、ムスリム人勢力の兵士だけで死者8700人、セルビア人勢力の兵士や市民などを含めると、少なくとも5万人が死亡したと見られる。
・サラエヴォには5万232トンの食料や医薬品を運び込まれているが、半数は闇に流されている、という証言がある。
・国連保護軍スポークスマンによると、クロアチア南西部バニャ地方のセルビア人勢力が支配する村で、正体不明の一団がナイジェリアのUNPROFOR要員2人を射殺、1人を負傷させる。
・ボスニア共和国政府のビシッチ国防相はアルバニアを訪問し、軍事協力について協議するとともに、ムスリム人難民1万人の受け入の合意を取り付ける。
・アルバニアのジュラリ国防相は、ブルガリアを訪問してアレクサンドロフ国防相と5年間の軍事科学技術協力に関する合意文書に調印。ジュラリ国防相は、「我々は旧ユーゴスラヴィア紛争の直接の脅威、他地域への拡大の直接的な脅威を受けている」と述べる。
04/08:
・国際司法裁判所・ICJは、ボスニア政府が新ユーゴ連邦を対象に提訴した「集団虐殺禁止条約、戦争犠牲者保護に関するジュネーブ4条約、国連憲章などの国際合意」を根拠にした訴えを、3週間足らずの審理で結論をまとめる。新ユーゴ連邦に対し、「ボスニアでの虐殺行為防止のために、あらゆる努力をするよう求める」との裁定を下す。
・NATOは大使級協議をブリュッセルで開き、ボスニア領空の軍用機飛行禁止強化作戦の細部を承認。第1波は、米国がF15Cなど24機、フランスがミラージュ2000を10機、オランダがF16を12機などの他、AWACS、偵察機、給油機など50機が参加する。
・ボスニアのサラエヴォで、国連の人道支援物資を輸送するトラックから、ムスリム人勢力向けの大量の武器など、7500発の弾丸が発見される。サラエヴォ空港の小麦粉のコンテナの中からは、火薬と8000発、計2万4500発の弾丸などが発見される。
・セルビア人勢力軍は、「再度、武器が発見された場合、国連の車輌と人員を没収し逮捕する」と警告。カラジッチ・セルビア人勢力代表は、「我々は、空路や陸路による国連の活動を通じてムスリム人勢力側に武器が供給されてきたことを知っていた。今回の事件で国際機関の信頼は失われた」と述べたが、今回の事件を理由に、「セルビア人勢力が今後、国連の人道援助を阻止する考えはない」と語る。
註;人道援助物資は、ザグレブやスプリト港からサラエヴォ空港に運ばれ、UNHCRの空港倉庫から市内に運ばれるが、荷物のチェックはUNHCRが行ない、輸送は国連保護軍が護衛している。
04/10:
・ボスニアの国連保護軍・UNPROFORは、ボスニアのセルビア人勢力が対空砲火をサラエヴォ空港近くに移したとして、少なくとも3日間人道援助物資の空輸を中断すると発表。
04/12:
・NATO軍は、セルビア軍の航空機の飛行禁止強化のため、米、英、仏、オランダ、トルコから計50機の戦闘機に加え、偵察機など60機の戦闘機による監視活動を北イタリアの4基地およびアドリア海上の空母を使用して実施。1949年にNATOが創設されて以来、交戦の可能性を伴う初の集団行動に入る。
・NATO軍の作戦について、セルビア人勢力のカラジッチ代表は「我々は、違反行動はしていない。むしろムスリム人勢力やクロアチア人勢力がNATO軍の地上への軍事介入を実現するため、攻撃に出る恐れがある」と警告。
・ドイツ連邦軍は、NATO軍のボスニア領空監視活動に空中警戒管制機AWACSを参加させる。
・ドイツの市民は、ボスニア領空監視活動にドイツ連邦軍のAWACSが参加することに対する抗議デモを各地で行なう。
・UNHCRのスポークスマンは、ボスニア東部のスレブレニツァをセルビア人勢力が激しく攻撃し、56人が死亡、73人が負傷と発表。
04/13:
・UNHCRの緒方貞子高等弁務官は、旧ユーゴスラヴィアにおける民族紛争の被災者救援の資金や食料が底をつき始めたとして、国際社会に向けて危機を訴える声明を発表。救援活動の経費は1ヵ月3700万ドルが必要だとして、4月から12月までの必要額8億1700万ドルの拠出をジュネーブ会議で各国に呼びかけたが、未だ反応は得られず。
・国連救援部隊は、スレブレニツァから避難民800人を移送する。
04/16:
・ボスニア東部のスレブレニツァ付近をセルビア人勢力が攻撃し、スレブレニツァまで1キロ余りまで迫ったところで、ボスニア政府軍はセルビア人勢力側に降服の用意がある、として交渉を求める。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ代表は、「ムスリム側が攻撃を止めて武器を国連保護軍に引き渡せば、我々はスレブレニツァを攻撃しない」と繰り返し主張。
・ボスニアの国連保護軍とUNHCRは、スレブレニツァの住民3万人の避難計画を進めているが、ムスリム人勢力は「セルビア人勢力による民族浄化につながる」として避難を拒否。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、スレブレニツァが陥落すれば、現在の和平案は破棄されるだろう、と述べる。
・国連安保理は、ボスニアのスレブレニツァが陥落寸前になっている状態を受けて緊急協議を開き、非同盟諸国会議が提出した「安全地域を指定する決議819を採択。要旨;「1,関係勢力に対し、スレブレニツァと周辺地域を攻撃に曝さない『安全地域』とするよう要求する。2,同スレブレニツァ地域に国連保護軍を急派するよう、事務総長に要請する。3,現地に、早急に安保理の調査団を派遣する」など。安保理は、スレブレニツァを「安全地区」とする決議819を、全会一致で採択。
・クリントン米大統領はボスニア東部へのセルビア人勢力の進攻に憂慮を表すとともに、セルビア人勢力への対応を関係国と協議している、と述べる。クリントン米大統領は宮沢日首相との共同記者会見で、「米国の地上兵力投入を除いて、どんな選択肢も排除しない」と述べる。
・英外務省報道官は新ユーゴ連邦のセルビア共和国に対し、制裁の強化で米英仏3ヵ国が合意したと述べ、「国連安保理でセルビアに対し、早急な制裁強化を求める決議を採択するよう働きかける」ことで一致したと語る。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長は英スカイ放送で、セルビア人勢力の補給路の爆撃を検討していることを明らかにする。
04/17:
・国連は、ボスニアの「安全地域」と指定されたスレブレニツァに、ボスニア駐留国連保護軍としてカナダ部隊を派遣。UNHCRは、ベオグラードからスレブレニツァに向けて食料と医薬品を積んだ9台のトラックを派遣したが、激しい砲撃が行なわれているとの情報で中止する。
・フランスのジュッペ外相は、国連安保理を開いてスレブレニツァ攻撃を強化しているセルビアに対する制裁決議を行なうよう求め、EC加盟12ヵ国にも制裁強化を呼びかける。
・国連安保理は、新ユーゴ連邦に対する経済制裁の強化策として、決議820を採択。要旨;「1,新ユーゴ連邦への物資輸送や領内通過は人道援助を除いて禁止する。2,ドナウ川などの通行貨物船の臨検を徹底する。3,新ユーゴ連邦の外貨資産を凍結する」を26日から発効させる。和平裁定案にセルビア人勢力が調印すれば、新ユーゴ連邦への制裁の段階的解除も可能としている。
・ボスニア中部の町ビテスでは、ボスニア政府軍とクロアチア人勢力軍との間で激しい戦闘が行なわれる。
・ボスニア政府軍のハリロヴィチ司令官とセルビア人勢力のムラディッチ司令官が国連保護軍ラース・エリック・ウォールグレン司令官の仲介で交渉を行ない、11項目に合意して調印する。要旨;「1,18日早朝から停戦する。2,国連保護軍カナダ部隊が18日にスレブレニツァに展開する。3,その後72時間以内にスレブレニツァを非軍事化する。4,重傷者500人を空輸する。5,スレブレニツァの非軍事化のために全ての武器弾薬を国連保護軍に引き渡す。6,国連の人道援助物資の輸送作業を再開する。7,捕虜を交換する。8,セルビア人武装勢力はスレブレニツァには入らない」など。
04/18:
・国連保護軍カナダ部隊145人は、スレブレニツァに到着する。国連保護軍のウォールグレン司令官とモリヨン司令官は、スレブレニツァに入ったカナダ部隊が紛争当事者の武器解除を開始したことを明らかにする。
・国連保護軍のフランス部隊は、ヘリコプターでスレブレニツァの負傷者をトゥズラの町に搬送する。
・ベルギーのクラース外相は、ボスニアのセルビア人勢力がスレブレニツァへの攻撃を止めない場合、外部からの限定的な武力行使に繋がると思うと述べ、「選択的な爆撃の目標は、先ずボスニア域内に限られるが、その後はセルビア領土内へ拡大される可能性もある」と付け加える。
・コロンボ・イタリア外相は攻撃目標として、「武器集積所や火砲陣地、通信手段への攻撃を考えている」と述べる。
・オーエン旧ユーゴ和平国際会議共同議長は、「セルビア人勢力の補給線を断つための爆撃が必要になるかも知れない」との見解を示す。
04/19:
・ボスニア中部の町ビテスでボスニア政府軍とクロアチア人勢力の戦闘が続いており、4日間で150人以上の死者が出ている模様。
・英政府は閣議で、「いまセルビア人勢力への空爆に乗り出すなら、国連保護軍に派遣している2400人の英軍部隊の撤退も検討する」ことを確認。ハード外相は下院で、「地上兵力の支援がなければ空爆の軍事効果は大きくない」と政府見解の背景を示す。
・サッチャー英前首相は、「ボスニアの全勢力を対象とした武器禁輸措置を、ムスリム人に限り自衛のために解除するよう呼びかけることを首相に求める」など、党内強硬派がメージャー首相に圧力をかける。
・NATO軍機は、ボスニア領空の飛行禁止区域を監視飛行中に、ヘリコプターが違反飛行をしているのを確認。
・ステファノプロス米大統領広報官はボスニア情勢について、クリントン米大統領が「幅広い事項を検討している。その中には軍事的選択も含まれる」と述べたことを伝える。
・米クリントン政権内ではアスピン国防長官とレイク国家安全保障問題担当補佐官が空爆を主張しているが、クリストファー国務長官とパウエル統合参謀本部議長が空爆に反対を主張。議会では、ミッチェル民主党院内総務、ドール共和党院内総務、バイデン民主党上院議員などが、セルビア人勢力への空爆やボスニアに対する武器禁輸解除への支持を表明している。
04/21:
・ボスニアのスレブレニツァで、ムスリム人勢力は停戦協定に基づく武器の引き渡しを始め、ウォールグレン国連保護軍司令官は当日中に武装解除が終了すると発表。1万7000人のムスリム人武装勢力が引き渡した武器は、装甲車1台と自動小銃など30丁のみで、ほとんどのムスリム人勢力の兵士は姿を隠す。
04/22:
・クロアチア共和国軍は、クライナ・セルビア人共和国の周辺に1万6000人を集結させる。
・NATOのウェルナー事務総長はボスニア問題について、「ボスニア上空の飛行禁止などより、もっと断固とした手段」が必要だと語る。
04/23:
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長は、「国連とECによるボスニア紛争の和平裁定案を手直しし、セルビア人中心の3つの自治州に関し、クロアチア人、ムスリム人の自治州を通って結ぶ国連管理の非武装回廊を設置し、セルビア人勢力が孤立しない方策をとる」との提案をしたことを明らかにする。
・ボスニアのセルビア人議会は、セルビア人勢力のカラジッチ代表にオーエン共同議長と交渉する権限を与えることを採択。
・新ユーゴ連邦最高軍事評議会は、旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長の修正裁定案を、原則的に受け入れる方針を決める。
・クリントン米大統領は記者会見で、「ボスニアのムスリム人勢力への武器禁輸解除と、セルビア人勢力の軍事行動を抑止するための限定的な空爆」の2つを欧州の同盟国とともに真剣に検討していることを明らかにする。米国務省のバルカン半島地域担当の職員12人が、政府のボスニア政策を不満として「直訴」の書簡を提出する。詳細は明らかではないが、「これまでの米国や西側諸国のボスニア政策の結果は、『セルビア人勢力の侵略への屈服』だった」として軍事力行使を求める。
・WHOはボスニアのスレブレニツァについて、「衛生状態が悪化し、発疹チフスなど伝染病の発生の恐れがある」と発表。
04/24:
・ECの外相会議がデンマークのミルファルトで開かれ、ボスニア紛争について協議。米政権が提案しているムスリム人勢力への武器禁輸解除とセルビア人勢力軍事拠点への空爆に対し、欧州側では英・仏が7000人以上の地上兵力を人道援助に派遣していることもあり、戦火拡大につながる強行策には慎重な意見が多数を占める。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長の修正裁定案について、「条件付きで、この修正案を受け入れることは可能かも知れない」との姿勢を示す。
・新ユーゴ連邦のコンティッチ首相は、「国連安保理の新ユーゴ連邦に対する制裁強化決議が26日に発効すれば、経済を統制経済に変更すると共に、国防力の強化に当たる」と述べる。
04/25:
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長は、新ユーゴ連邦のチョシッチ連邦大統領およびミロシェヴィチ・セルビア大統領を
通じ、ボスニアのカラジッチ・セルビア人勢力代表を説得。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は、オーエン和平国際会議共同議長の説得を受け、セルビア人議会で裁定案受け入れを求める演説を行なう。内容;「修正裁定案の審議がボスニアのセルビア人だけでなく、バルカン半島全体のセルビア人の運命を決める」と強調。これを受けてセルビア人議会は、旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長の修正裁定案について長時間協議したが、反発が根強く、結局拒否を決定する。
・EC外相会議はボスニア紛争について、新ユーゴ連邦への新たな経済制裁を徹底させ、修正裁定案の受け入れを迫る方針を確認。
04/26:
・河野洋平日内閣官房長官は記者会見で、ボスニアのセルビア人勢力に対する制裁策として、米国が空爆の実施を検討していることに関連し、「空爆が行なわれれば支持するのか」との質問に対し、「それはそうだと思う」と答える。
・クリントン米大統領はボスニア情勢に関し、米国による空爆が紛争を終結させることはないだろうと語り、「民族浄化」を止めさせるために何をするべきかはまだ決めていない、と述べる。
・イスラム諸国会議機構の21回外相会議に、オブザーバーとして出席していたボスニアのシライジッチ外相は、武器援助を求めて数ヵ国の外相と個別に会談する。
・ドイツ外務省スポークスマンは、新ユーゴ連邦に対する国連の経済制裁の強化策発効を控え、ドイツは28日から実施すると発表。
・フランス外務省は、新ユーゴ連邦に対する国連の制裁強化策に関し、実現に向けて「あらゆる措置を講じる」と発表。
04/27:
・クリストファー米国務長官は、ボスニアへの空爆実施のためには、「1,目的が明確でかつ米国民に理解出来るものであること。2,成功の可能性が非常に高いこと。3,『引き揚げる』ための戦略があること。4,米国民の支持があることの4条件が満たされることが必要」との考えを表明。
・エリツィン露大統領は25日の国民投票で信任を受けたことを踏まえ、ボスニア情勢について「世界の意思に抵抗する者をロシアは擁護しない」と言明。
04/28:
・国連安保理は、新ユーゴ連邦を国連経済社会理事会からの排除を勧告する英、仏、スペイン共同提出の決議821を、賛成13,棄権2、で採択。
04/29:
・国連総会は、新ユーゴ連邦を経済社会理事会から追放する決議を、賛成107,反対0,棄権11、で採択する。
・国連保護軍のベオグラード駐留フランス部隊が、「経済制裁強化による、報復を受ける恐れがある」として撤退を開始。
・ステファノプロス米大統領広報官は旧ユーゴスラヴィア紛争について、「米国の軍事行動は、あくまで他国との協調行動であること、また地上部隊参加の意思はないこと」を強調。
05/01:
・ボスニア和平に関する全紛争当事者を集めた会議が、アテネで開かれる。オーエン和平国際会議共同議長は、「分割地図案は暫定的なものであり、最終的な自治州の境界はユーゴ和平国際会議の枠組みの中で、3当事者の合意に基づいて決められる」と説明。
・クリントン米大統領は、ボスニア問題を協議するためにクリストファー国務長官、アスピン国防長官、パウエル統合参謀本部議長、レイク国家安全保障問題担当補佐官などをホワイトハウスに招集し、「1,ボスニアのムスリム人勢力への武器禁輸措置解除。2,米軍機によるセルビア人勢力への空爆。3,ムスリム人のための安全地域の設置」などの強行策を決定。
・クリストファー米国務長官は、「大統領は最終決定を行なった訳ではなく、方向を示しただけだ。ボスニア問題は欧州の将来の核心に関わる。米国はその役割を果たす用意があるが、他国もその必要がある」と述べる。
05/02:
・ボスニア紛争全当事者によるアテネ会議で、ヴァンス・オーエン旧ユーゴ和平国際会議両共同議長の修正裁定案をボスニア政府のムスリム人勢力、クロアチア人勢力、セルビア人勢力のカラジッチ代表など3民族勢力が合意し調印する。
修正裁定案;国家形態に関する憲法原則・「1,ボスニアは、10の自治州で構成する非中央集権国家とする。2,中央政府は外交、国際関係のみを担う。その他、ほとんどの政府機能は自治州の権限となる。3,ボスニア内では、移動の自由を保証する。4,憲法で3つの構成民族、他のグループの存在を確認する。5,自治州と中央政府は、民主的に選ぶ立法、行政、司法府を持つ。初回選挙は国連、EC、CSCEの監視下で実施する。6,全土を段階的に、国連、ECの監視下で非軍事化する」。
停戦取り決め;「1,合意文書署名から72時間後に、全ての戦闘行為を停止する。2,重火器をサラエヴォ周辺から5日以内、他の都市周辺から15日以内に撤去する。サラエヴォは非軍事化する。3,各勢力は、45日以内に指定された地域・州に兵力を撤退させる。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、「1,我々の裁定案署名は5月5日のセルビア人議会の支持が得られない場合、無効となる。2,セルビア人議会の支持が得られれば、裁定案に盛り込まれたボスニア暫定政権に派遣する我々の代表3人を指名する用意がある。同時に、今後分割地図案に関し、我々は多くの問題を提起する。3,この文書を公的な文書に盛り込むよう旧ユーゴ和平国際会議に送付する」。さらに、「自治州の線引きは飽くまで暫定的なものであり、和平会議および実施の過程で変更される。これを前提として、セルビア人議会が和平案を受け入れることを期待する。議会が同案を受け入れない場合は、指導者の立場から降りる」 との声明を出す。
・ボスニアのセルビア人共和国のドティナ外務次官は、「セルビア人議会が、これまでの立場を変えることは困難だ」と語る。
・クリストファー米国務長官は、「セルビア人勢力が真剣で、誠実に行動すると国際社会に確信させるには、和平案の署名以上のものが必要だ」と重ねて具体的な行動を求める。
・クリントン米大統領は、イタリアのチャンピ首相に電話をかけ「国際社会による断固たる措置がもたらした最初の結果である」と述べる。次いで、クリントン大統領はエリツィン露大統領に電話をかけ、ボスニア内戦当事者会議の結果について満足の意を表明しあう。
・ゴア米副大統領は、セルビア人勢力が和平を受け入れたと認める具体的な条件として、「1、停戦の遵守。2,ムスリム人支配地域の包囲、攻撃の停止。3,援助活動への妨害の停止」を挙げる。
・クリストファー米国務長官は、メージャー英首相を訪問してボスニア問題について協議。共同声明で、もし裁定案が実行されなかった場合、「同盟国がさらに強硬な手段を講じることで、英国と米国は合意した」と発表。
・米ドール共和党上院院内総務は、クリントン米大統領から受けた電話の内容について、「1,セルビア人陣地への空爆。2,イスラム教徒への武器禁輸解除」の2点だったことを明らかにする。
・ヴァンス旧ユーゴ和平国際会議共同議長が、引退を表明する。「後任に決まっている、シュトルテンベルク・ノルウェー前外相にバトンタッチする」と述べる。
05/03:
・ガリ国連事務総長は、旧ユーゴスラヴィアの戦争犯罪人を裁く「国際法廷」の運営を具体化するための報告書を、安保理に提出する。内容;「1,判事は11人とし、安保理が提出したリストの中から総会が選ぶ。2,任期は4年とし再選もできる。3,検事は事務総長の指名に基づき、安保理が任命する」など。
・世界保健機構・WHOは年次総会において、新ユーゴ連邦をWHOの活動から排除する決議を、賛成125,反対3,棄権26で採択
する。
05/05:
・ボスニアのセルビア人共和国は議会をパレで開き、ボスニア和平修正裁定案を反対多数で否決する。理由は、「1,セルビア人が分断される。2,3つのセルビア人自治州から50万人がはみ出し、難民化する」というもの。最終決定は、15,16日に行なわれる住民投票に委ねられることになる。
・ロシアのエリツィン大統領とコズィレフ露外相は、訪ロしたクリストファー米国務長官とボスニア情勢について協議し、セルビア人勢力が和平裁定案を受け入れれば、ロシアは米国とともに国連保護軍に部隊を派遣する用意があると表明。
05/06:
・新ユーゴ連邦政府は、ボスニアのセルビア人議会が和平修正裁定案を拒否したことを受け、「セルビア人勢力に対する支援を、これ以上続ける理由がなくなった。人道援助を除く燃料、工業用原料、資金など全ての援助を停止する」と発表。
・クリストファー米国務長官は、NATOのウェルナー事務総長およびEC外相と相次いで会談。クリストファー国務長官は会談後に、「セルビア人議会の決定は、ボスニアの人々を一層苦しめる非常に愚かな結論だ。地上での行動も含め、強硬な手段を検討する必要が高まった」と語る。
・ホッグ英外務担当相は、「空爆は選択肢の一つとして検討しているが、平和執行軍的な地上兵力の投入は検討対象外だ」と述べる。
・クリントン米大統領はボスニアのセルビア人議会が和平裁定案を拒否したことについて、「国際社会は、セルビアが和平努力を失速させることを許してはならない。欧州は我々とともに進んで行動しなければならない。セルビアの過去の行動は国際法に違反する。民族浄化は世界の良心に刃向かうもの」と強く非難。さらに、「この問題には、国際社会の一員として米国の利害かかかっている」と強調する。
・ステファノプロス米大統領広報官は、セルビアへの軍事行動を含む強硬措置に関連し、「これまで以上の行動を取る場合には、新たな国連決議が必要となるだろう」と述べる。
・エリツィン露大統領は、「和平案を拒むものを、ロシアが大目に見ることはない。ボスニアのセルビア人が議会と異なって責任感を示し、和平案を承認することを望む」との声明を発表。
・国連安保理は、ボスニアでムスリム人居住地域がセルビア人勢力に攻撃されていることを受け、「『サラエヴォ、トゥズラ、ジェパ、ゴラジュデ、ビハチ』を『安全地域』と指定して攻撃や敵対行為を禁じる決議」824を採択し、国連の軍事監視団50人を派遣するようガリ事務総長に求める。
05/07:
・ハード英外相は、5月1日に出された米国のムスリム人勢力への武器禁輸措置解除提案について、「民族紛争の危機を拡大する」と難色を示す。
・ジュッペ仏外相は、米国のムスリム人勢力への武器禁輸解除提案について、「その決議案は保留する」と回答。
・ハミルトン米上院外交委員長は、「外交と軍事のどちらを選ぶかの岐路にある」と、議会内で意見が分かれていると述べる。米国内の世論調査でもセルビアへの空爆に過半数が反対しており、ボスニア問題は欧州の問題だと見る人が多数を占める。
・ボスニア東部のムスリム人の町ジェパがセルビア人勢力の攻撃に曝され、これまで市民200人が死亡、と報じられる。
05/08:
・セルビア共和国のシェシェリ急進党党首は、新ユーゴ連邦政府がボスニアのセルビア人勢力への援助停止を決めたことに対し、「米国などの大国の脅しに、恐れを抱いていることの表れだ。安保理が新ユーゴ連邦に実施していることと同様なことを、新ユーゴ連邦がボスニアのセルビア人勢力に行なうというのか」と激しく非難する。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、国連保護軍・UNPROFORがボスニアのムスリム人の町ジェパとゴラジュデに展開するとの協定を拒否する。
・新ユーゴ連邦のコンティッチ首相は、ガリ国連事務総長と安保理常任理事国に対し、「欧米諸国がボスニアへの軍事行動を取れば大惨事となり、その結末は予測出来ないほどのものとなる」と警告する書簡を送付。
・ボスニア政府軍のハリロヴィチ司令官とセルビア人勢力のムラディッチ司令官は、9日正午からボスニア全土で停戦に入ることで合意。ムスリム人居住地域のスレブレニツァでは10日、ジェパでは11日、ゴラジュデでは13日にムスリム人勢力の武器を国連保護軍・UNPROFORに引き渡し、それが終了した時点でセルビア人勢力も包囲していた部隊を撤退させること、ジェパとゴラジュデには国連保護軍の軍事監視団が入ることで合意。
・クリントン米大統領は、新ユーゴ連邦がボスニアのセルビア人勢力への援助停止を発表したことに対する強制策を、欧州同盟国などと検討する方針を示す。
・ロシアのエリツィン大統領はカナダのマルルーニ首相との会談後の共同記者会見で、ボスニアのセルビア人勢力の拠点への爆撃の可能性について、「突発的な決定を下してはならない」と述べる。
05/09:
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長は、米国が検討しているセルビア人勢力の拠点への空爆について、「内戦に空から対応出来るという考えは妄想だ」と実効性に疑問を投げかけ、米国が国連保護軍として2000人程度を派遣するよう求める。
・NATO軍のガルビン司令官は、セルビア人勢力への空爆が圧力をかけるための選択肢であることを認めつつ、「それだけでは戦闘を終わらせることはできない」、と他の政治的手段で対応する必要性を強調。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は、ボスニア和平案を拒否したことについて、クリントン米大統領とセルビア人勢力代表との会談を提唱。
・ボスニア南部のモスタル市でネレトバ川を挟んで、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力が激しい戦闘を交える。
・朝日新聞によると、国連の経済制裁によって新ユーゴ連邦の物価が高騰し市民生活を直撃している。失業率は50%に上り、石油確保量は25%で燃料不足により車は動かず。1月と比較しても、牛乳1リットルは1000ディナールから2万8000ディナールに、パン1キロが770ディナールから4万1400ディナールに急騰。ドル・レートは、1ドル750ディナールが7万2000ディナールになる。
05/10:
・ムスリム人勢力のイゼトベゴヴィチ大統領とクロアチア人勢力のボバン代表が、ボスニア南部のモスタルとネレトヴァ川の戦闘の停戦に合意。この間クロアチア人武装勢力は、バス10台でムスリム人数百人をモスタル市から搬送する。
・ボスニアのムスリム人勢力は、モスタル市の近くのコーニッツァでクロアチア共和国政府軍の航空機による攻撃があった、と非難。
・国連保護軍のウォールグレン司令官はクロアチア共和国政府に対し、市民への圧迫や戦闘を中止するための介入を要請。
・新ユーゴ連邦当局は、ボスニアのセルビア人勢力の幹部の入国を禁止する措置を取り、カラジッチ・セルビア人勢力代表はこれを非難。新ユーゴ連邦のボグダノヴィチ内務次官は、非難は妥当性を欠くと否定する。
・EC外相理事会は、新ユーゴ連邦がボスニアのセルビア人勢力への援助停止を確実なものにするため、国境地帯での監視活動に協力することを決める。
・キンケル独首相はクロアチアを訪れ、トゥジマン・クロアチア大統領と会談。クロアチア共和国軍が国境を越えてボスニアのムスリム人勢力への攻撃に参加していることに対し、武力攻撃への自重を求める考えを示す。
・バウチャー米国務省報道官は、ボスニアのセルビア人勢力が和平案を住民投票によって決めることについて、「欧州が住民投票の結果を見たいと望んでおり、米国の最終決断を遅らせることになっている」と述べる。
・EC外相理事会議長のピーターセン・デンマーク外相は理事会後の記者会見で、「国連が設定したボスニアの安全地域監視のため、米国とロシアに兵力の派遣を求めたい」と表明。
・NATOのウェルナー事務総長は、国連の平和維持活動に協力する条件として「指揮命令系統の統一」を挙げる。
05/11:
・ボスニア南部モスタル市では、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力間で停戦協定が成立したにもかかわらず、戦闘は続く。
・クロアチア共和国のラジオ放送が、モスタルの重要拠点をクロアチア人勢力側が制圧した、と報じる。
・ボスニアのサラエヴォ放送は、モスタル市の建物はほとんど破壊されるか炎上した、と報じる。
・クリントン米大統領は、2日間の「米国再生計画」に関する遊説における演説で、「先ず、紛争をボスニア領内に封じ込めること。そして紛争を終わらせ、民族浄化を止めさせるために、何が出来るかということだ」と述べ、封じ込めを優先する方向を示唆。記者団の質問には、「ボスニア紛争の周辺国への拡大を防ぐため、マケドニア共和国に地上兵力を派遣することを選択肢の一つとして検討している」と述べる。
・セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領は、ボスニアのセルビア人勢力指導部に対し、15,16日の住民投票を行なう代わりに、14日にベオグラードで新ユーゴ連邦とそれを構成するセルビア共和国およびモンテネグロ共和国、さらにクロアチアのセルビア人居住地域のクライナ共和国の各指導者らとともに合同の協議を開き、国連・ECの和平裁定案の受け入れについて協議することを提案。
05/12:
・ユーゴ国営タンユグ通信は、ボスニアのセルビア人勢力がミロシェヴィチ・セルビア大統領の提案を拒否した、と報じる。
・クリストファー米国務長官は、ガリ国連事務総長とボスニア問題について会談。マケドニアへの米軍派遣については提案せず。
・カナダのマクドーガル外相は、「米国の強行策は、目的が明確でない」と述べる。
05/13:
・国連保護軍所属のスペイン部隊100人が、モスタル市に再展開する。
05/14:
・クリントン米大統領は記者会見で、米国が主張してきたボスニア政策におけるムスリム人勢力への武器禁輸解除とセルビア人勢力への空軍力の使用についてはまだ生きている、と欧州との合意を期待するとの原則論を繰り返す。
・ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領が提唱した各地のセルビア人勢力の合同会議がベオグラードで行なわれる。新ユーゴ連邦とセルビア共和国、モンテネグロ共和国の3議会がユーゴ和平会議裁定案を支持するとの声明を採択。しかし、合同会議の開催に反対しているクロアチアのクライナ・セルビア人共和国とボスニア・セルビア人共和国はオブザーバーとして議員が参加する形を採り、裁定案の受諾を拒否する。
・ボスニア・セルビア人共和国のカラジッチ代表は、セルビア人合同会議の和平裁定案への支持宣言を拒否すると述べる。
・キンケル独外相は、クロアチアのザグレブを訪問してトゥジマン・クロアチア大統領と会談し、ボスニアのクロアチア人勢力のムスリム人勢力に対する戦闘を中止させるよう、影響力を発揮することを求める。
・フランス政府は、ボスニア内戦の打開策として国連保護軍の任務に侵略の抑止を加え、サラエヴォなど6ヵ所の「安全地域」に最高4万人の平和執行部隊的な性格を持つ大軍の増派を、国連安保理に提案。提案の内容は、「1,1万人を投入して停戦監視や侵略の抑止に当たる。2,4万人の大軍で拠点を確保し、反撃に備える。3,空軍力を投入する」などの選択肢を示すもの。
05/15:
・英インディペンデント紙は、セルビア共和国とクロアチア共和国がボスニアのムスリム人を窮地に追いやる一方で、ボスニア包括和平案の主要部分を葬り去ることにつながる旧ユーゴスラヴィア内戦の解決策を秘密裏に協議している、と報じる。
・米国在住のムスリム人たちは、「ボスニアへの武器禁輸解除と、セルビア人勢力に対する空爆を求める」デモを、ワシントンで1万5000人の参加者を集めて行なう。
・ボスニアのセルビア人勢力は、新ユーゴ連邦からの度重なる中止要請にもかかわらず、ボスニア和平裁定案の諾否を求める住民投票を強行する。
05/16:
・ボスニアのセルビア人共和国は、ボスニア和平裁定案への賛否を問う住民投票は投票率が70%を超える。
・新ユーゴ連邦の第2党の急進党シェシェリ党首はボスニアのセルビア人共和国のパレで、「西側諸国がボスニアのセルビア人勢力に対して軍事介入を始めれば、セルビア共和国やロシアなどから義勇兵が駆けつけ、ボスニアの首都サラエヴォを攻撃するだろう」と述べる。
・ボスニアのクロアチア人勢力とセルビア人勢力は、18日からの停戦合意に調印する。
・キッシンジャー米元国務長官がワシントン・ポスト紙に寄稿、「ボスニアの各民族は、外部勢力の支配下でのみ共存してきた。国際社会が統一国家としてボスニアを承認したことは誤りだった。今となっては、各民族の共存は不可能という現実を受け入れるべきだ。小さなムスリム人国家を作り、セルビア人勢力、クロアチア人勢力の地域はそれぞれ母国と合併することが最善」と指摘。
05/17:
・米タイム誌は、政府のボスニアへの米軍派遣の是非をめぐる公式発表とは異なり、国防総省は既に米軍特殊部隊をボスニアに派遣して活動を始めている、と報じる。
・コーズィレフ露外相は、ボスニア和平の国連裁定案実施のためにベルリンやベオグラードおよび米国などを訪問すると発表。
・ボスニアのセルビア人共和国のカラジッチ代表はCNNとのインタビューで、ボスニア紛争解決のため「キッシンジャー米元国務長官を調停役に指名するよう望む」と述べる。
05/18:
・ボスニアのセルビア人共和国で行なわれた和平裁定案の賛否を問う住民投票は、圧倒的多数で拒否が確実となる。
・クリストファー米国務長官は下院外交委員会の公聴会で、ボスニア紛争の国連・EC和平裁定案を「段階的に実施」するというロシアの提案に反対すると表明。またボスニアを3つの民族の地域に分割する案について、「全当事者が、そのような案に合意できるなら希望が持てる」と述べ、これを排除しないとの立場を明らかにする。
05/19:
・英国際戦略研究所・IISSは、1年間の世界情勢を分析した年次報告で、「冷戦の終結で、安保理がやっと機能するようになった。しかし、カンボジアに限らず、旧ユーゴスラヴィアやアンゴラなどでも国連平和維持活動・PKOが思ったほどうまくいかないのは、国連に潜む官僚的体質と、財政的人的資源不足にもよる」と原因を挙げる。
・ボスニアのセルビア人共和国の和平裁定案賛否の住民投票は、96%が受け入れ反対に投票したため、裁定案を拒否することが決まる。セルビア人共和国のカラジッチ代表は「裁定案はいまや死んだ」と述べる。
・ボスニアのセルビア人共和国のカラジッチ代表は、ボスニアを「3民族別の国家連合」にする構想を提案。この構想がムスリム人主導のボスニア政府に受け入れられない場合、ボスニアのクロアチア人勢力も独立を望んでおり、両勢力とともにそれぞれ独立国家の宣言をせざるを得ないだろう、と語る。
05/20:
・クリストファー米国務長官は、訪米中のコーズィレフ露外相とボスニア問題について協議。会談は、主にロシアが提唱しているボスニア和平裁定案の段階的実施について、話し合われた模様。
05/21:
・新ユーゴ連邦のチョシッチ大統領は、「ボスニアのセルビア人勢力へ武器などがわたるのを防ぐため、国連保護軍を新ユーゴ連邦とボスニア共和国国境に派遣しようという考えは、受け入れられない」と、安保理決議構想を拒否する姿勢を示す。
05/22:
・米、英、仏、露、スペイン5ヵ国の外相がワシントンでボスニア問題を協議し、「安全地域」の早期実現を進めることなどを内容とする行動計画を策定する。行動計画;「1,ムスリム人の『安全地域』を実現する手段を、国連で早期採択するよう努める。2,ボスニアのセルビア人勢力への支援を止めるというセルビアの約束の実行を確保するため、監視活動、偵察などを通じて各国が協力する。3,ボスニアでの戦争犯罪を裁くための戦争犯罪法廷の早期設置を支持する。4,マケドニアに派遣されている国連保護軍の増強、およびセルビア共和国コソヴォ自治州での国際監視活動強化を支持する」などを共同声明として発表。
・一方で米・ロなどの5国外相会議は、ボスニアのクロアチア人勢力を支援するクロアチア共和国に対し、制裁もあり得ると警告する。
・ボスニアのサラエヴォでセルビア人勢力による砲撃が激化し、ボスニア政府のラグムジャ副首相を含む少なくとも6人が死亡し、51人が負傷。
05/23:
・ボスニアのセルビア人共和国カラジッチ代表(大統領)は、米欧5ヵ国の「行動計画」について、「我々の主権が尊重される限り、これに応じる」との考えをBBCのインタビューで述べる。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領(幹部会議長)は米欧5ヵ国の「行動計画」について、「絶対に受け入れることが出来ない」と述べる。
05/24:
・EC委員会の域内定期世論調査によると、旧ユーゴスラヴィア内戦への軍事介入について、賛成が55%、反対28%、わからない17%。国別の賛成はイタリア64%、英国とフランス60%、ドイツ44%。
・アメリカ公共放送網・PBSのテレビ番組の「マクニール・レーラー・ニューズ・アワー」で、オルブライト米国連大使は、国連が指定した「安全地域」について6ヵ所の安全地域が指定されたのは、国連保護軍がボスニアのムスリム人を防衛するためであると強調し、「領土がない国家はない。こうした安全地域の設置を通じてわれわれが試みようとしていることは、これらの安全地域をいずれはボスニア国家となる地域として確立することである」と述べる。
註;「安全地域」はオルブライト米国連大使が述べたように、ムスリム人勢力の中核であるボスニア政府側にとっては、自軍の軍隊の駐留場所であり、そこからセルビア人勢力軍へ向けて攻撃する拠点であり、国土分割の際には自国の領土として担保する地域となった。ムスリム人勢力は「安全地域」を拠点として周囲のセルビア人居住地への攻撃を行っているため、セルビア人勢力側はこの攻撃を排除するために安全地域を攻撃の対象することになった。
05/25:
・国連安保理は、旧ユーゴスラヴィアの戦争犯罪や人権侵害を裁く国際法廷の設置を正式に決める決議827を、全会一致で採択。法廷は今週にもオランダのハーグに設置される予定。具体的な内容は5月3日にガリ国連事務総長が提出した報告書によるが、法廷は2つの一審(判事3人)と1つの控訴審(判事5人)からなる。判事は安保理の推薦リストから国連総会で決める。検察官は、安保理が任命する。量刑の最高刑は終身刑で、死刑は適用されない。訴追の対象は、91年から安保理が定める旧ユーゴスラヴィア地域で起きた「国際人権法規の重大な違反」で、大量虐殺や、集団婦女暴行、残虐行為によって多民族を支配地域から追放する「民族浄化」、などが裁かれることになる。
・NATOの国防相会議がブリュッセルで開かれ、ボスニア問題について協議。
05/30:
・ボスニアのサラエヴォにセルビア人勢力が激しい砲撃を加え、少なくとも6人が死亡し、93人が負傷。
05/31:
・ボスニアのサラエヴォ放送によると、サラエヴォおよびゴラジュデで、ムスリム人勢力とセルビア人勢力の間での戦闘が激化し、少なくとも70人以上が死亡し、400人以上が負傷。ブルチコ、トゥズラ、ドボイなどではムスリム人勢力による攻撃が激化する。
06/01:
・朝日新聞によると、「経済制裁を受けて1年が経過した現在、新ユーゴスラヴィアは瀕死の状態に陥っている。輸出産業だった衣料業のベコ社は3200人の従業員のうち2600人を一時帰休にして細々と操業し、売り上げは2000万ドルが400万ドルとなり8割減。給与は5分の1の60ドル。国民総生産の内、輸出は30%だが、原材料がなくなれば壊滅的な打撃を受ける。インフレ率は月200%。国民総生産は90年の3分の1で、1人当たり1000ドル以下。失業率は50%。経済制裁は経済に留まらず、学術論文も英国やオランダで掲載を拒否され、学会への出席も参加を断られる。郵便物も25グラム以上は海外から届けてもらえない、という状況に至る。
・新ユーゴ連邦の上下両院は、チョシッチ連邦大統領のボスニア政策に対する反発から、大統領の不信任案を賛成多数で可決。
・セルビア共和国のベオグラードで、「セルビア再生運動」党首のドラシュコヴィチ率いるデモが連邦議会前で警官隊と衝突し、警官1人が死亡、20人が重軽傷を負う。議会内に入ろうとした、ドラシュコヴィチや参加者が警察に連行される。
・国連保護軍当局は、旧ユーゴスラヴィアに派遣されている国連保護軍の死傷者が500人に達し、死者は42人になる、と発表。
・UNHCRはカナダの国連保護軍に護衛され、ボスニアのマグラムに12台編成で人道支援物資を輸送していたが、途中で砲撃を受け、トラック運転手2人と通訳1人が死亡し、5人が負傷する。
06/02:
・独仏両国の首脳会議にミッテラン仏大統領、バラデュール仏首相、コール独首相が出席し、ボスニア問題について協議する。コール独首相は、5月22日に5ヵ国外相が合意したボスニアへの「安全地域」設置を支持。
06/04:
・国連安保理は、旧ユーゴスラヴィア派遣の国連保護軍にボスニアの「安全地区」防衛の権限を与え、米軍などの空軍に空爆を認める決議836を、賛成13,棄権2で採択。決議836は;「1,安全地区の防衛。2,同地域への攻撃の抑止。3,拠点の確保。4,保護軍に武力を含む『必要な手段の行使』を容認。5,国連加盟国に対し、安全地域周辺での空軍力の使用を容認する」など。
註;この決議により、国連軍はソマリアに次いで、「平和執行部隊」としての役割を担うことになる。
06/06:
・ボスニアの3民族による戦闘が、各地で激化。ムスリム人居住地域のゴラジュデでは、セルビア人勢力が供給ルートを遮断する。中部のトラヴニクでは、ボスニア政府軍とクロアチア人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、数十人が死亡し、100人以上が負傷。
06/08:
・ボスニア中部の7万人のトラヴニクでのボスニア政府軍とクロアチア人勢力との戦闘は、ムスリム人勢力側の激しい攻撃でクロアチア人勢力側に兵士、市民など250人の死者が出る。トラブニクは和平裁定案では、クロアチア人地域に指定された地区。
06/09:
・EC12ヵ国の外相とクリストファー米国務長官がボスニア紛争について協議し、旧ユーゴ和平国際会議のヴァンス・オーエン裁定案を解決の基本とすることで一致。フランスと英国はこのために新に必要になる5000人の完全武装部隊派遣について、これ以上兵力を送ることに難色を示し、米国もこのための地上軍派遣はしない意向を示す。
・ボスニア政府軍のデリッチ新司令官は、トラブニク一帯のクロアチア人勢力に対する攻撃中止を命令。
06/10:
・NATO16ヵ国外相会議はボスニア問題について協議し、共同声明を発表。内容は、国連が設定した「安全地域の国連保護軍が攻撃された場合、NATO軍は防御の空軍力を提供する」と記述し、NATO創設以来初めて武力を加盟国外に使用することを明記。
・NATO外相会議は、年内に首脳会議を開催すると発表。
・クリストファー米国務長官はNATOでの演説で、米国が旧ユーゴ連邦のマケドニア共和国・FYROMの国連平和維持活動・PKOに、地上要員300人を派遣する用意があることを明らかにする。長官は、「この決定は象徴的なものであり、セルビア共和国政府とボスニアのセルビア人勢力に対する米国の警告が、深刻なものであることを強調する狙いがある」と語る。マケドニアの首都スコピエには、既に国連保護軍・UNPROFORの一部として800人が駐留している。
・マケドニア共和国政府は、米国の国連平和維持活動部隊の派遣を受け入れる、との声明を発表。
・クリストファー米国務長官は、年内に米・ロ首脳会議の開催を検討中であると表明する。
06/11:
・北大西洋協力会議・NACC(NATOと旧ワルシャワ条約機構の38ヵ国で構成)の外相会議が開かれ、ボスニアの「安全地区」防衛のための国連保護軍・UNPROFOR増員について協議し、旧東側の諸国に兵力提供を要請。ウェルナーNATO事務総長はイスラム諸国からの兵力提供について、「NATOの全加盟国が歓迎するだろう。これは宗教戦争ではない」と語る。
06/13:
・サラエヴォ放送によると、ムスリム人の町ゴラジュデで仮設病院がセルビア人勢力のロケット弾による攻撃を受け、患者52人が死亡。
06/14:
・ガリ国連事務総長は、ボスニアの「安全地域」防衛のため、とりあえず7500人の重武装部隊の派遣が必要であると安保理に勧告。
06/15:
・ボスニア駐留国連保護軍のモリヨン司令官は、「ボスニアは無政府状態になりつつある。紛争当事者が協力しないならば、国連保護軍は撤退する」と危機感を表明。
・ボスニアのムスリム人勢力、セルビア人勢力、クロアチア人勢力の武装3勢力が、新たな停戦に合意。
・ホール米国防総省副報道官は、マケドニアでの国連平和維持活動に参加する米軍先遣隊5人を、17日に派遣すると表明。
06/16:
・ガリ国連事務総長はオーストリア議会での演説で、国連がボスニア紛争でイスラム系勢力を支援するための旧ユーゴスラヴィアに対する武器禁輸制裁を解除する可能性を否定。「3民族勢力間の紛争で一勢力に武器を渡すことは、ボスニアでの国連の平和維持活動を苦況に追い込む」と指摘する。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長はボスニア和平交渉について、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領、セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領、クロアチア共和国のトゥジマン大統領、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表、ボスニアのクロアチア人勢力のボバン代表などボスニアの3民族の代表を招集して打開策を模索するための協議を始める。
06/17:
・ボスニア和平交渉で、「10の自治州に分割」するとのヴァンス・オーエン裁定案のみではなく、「ボスニア3分割案」が検討課題として急浮上する。
・オーエン和平国際会議共同議長は、「ヴァンス・オーエン案を諦めているわけではないし、純粋な民族国家をつくることは不可能だ。だが、ボスニアは軍事的にも経済的にも極めて悪化している。平和実現のために現実を直視して、有効な手段を生み出さなければならない」と述べる。
・ロジャーズ英ブラッドフォード大教授は、「ソマリアに派遣された国連部隊がアイディード派に大規模な攻撃を仕掛けたことは、米国がボスニアでの空爆を欧州に呼びかけたのと、基本的に同じ思考型だ」と批判。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はコール独首相との会談で、「ボスニアが生き残るためには、自衛のための武器が必要だ。国連の対ボスニア武器禁輸解除のための協力」を要請。ボスニア3分割については、「民族の境界は流動的であり、分割は不可能だ」と拒否する意向を伝える。
06/18:
・国連安保理は、ボスニアのムスリム人居住地域に設定された6ヵ所の「安全地区」防衛のための重武装国連保護軍・UNPROFOR・7500人増派決議844を、全会一致で採択。また米国提案の、マケドニアへの米軍部隊300人の派遣を承認する決議も採択し、米軍は即日実施。
06/19:
・ボスニアの3民族勢力による停戦合意が18日に発効したものの各地で戦闘は続き、ゴラジュデではセルビア人勢力の攻撃で多数の死傷者が出る。
・クリストファー米国務長官はUSAトゥディ紙のインタビューで、「旧ユーゴスラヴィアの各共和国独立の早期承認の過程で、深刻な誤りがあった。独立承認について、ECを説得したドイツに特に責任がある」と、積極的に進めたドイツのクロアチア共和国およびスロヴェニア共和国承認を名指しで批判する。
・デュマ・フランス外相は、「ユーゴスラヴィア紛争を複雑にした、ドイツの責任は大きい」と発言。さらに、ゲンシャー独前外相の強引な説得工作の結果、足並みを揃えざるを得なかった事情をうち明ける。
・在米ドイツ大使館は、「各共和国の早期独立承認がなければ、ムスリム人を国際社会の保護なしにセルビア人勢力の侵略に曝していただろう」と反論。
06/20:
・ECはコペンハーゲンで緊急外相会議を開き、急浮上したボスニア3分割案への対応を協議。
06/21:
・EC首脳会議がコペンハーゲンで開かれ、ボスニアの3分割案などについて協議。
・クロアチア共和国内のセルビア人地域「クライナ・セルビア人共和国」で実施された、ボスニアのセルビア人地域の「スルプスカ共和国」との統合を問う住民投票は、中間集計で95%が統合に賛成する。
・ドイツのシュワルツシリング前郵政相は、ドイツが旧ユーゴスラヴィア各国の早急な独立承認が混乱をもたらしたとの批判に対し、「批判されるべきは、英、仏だ。米国が軍事面で介入する用意があるとしているのに、それに反対しているのは欧州であり、欧州はドイツに責任をかぶせようとしている」と批判。
06/22:
・EC首脳会議がボスニアに関する共同声明を発表。内容は、「1,ムスリム人勢力の損害のもとに、セルビア人、クロアチア人両勢力が勝手に決める解決案は認めない。2,現ボスニア領土の一体性と国家主権の維持の原則を確認する。3,国連決議に基づく『安全地区』の防衛に、ECは人的、資金的貢献をする。4,国連保護軍7500人増派には、域内から応じる用意がある」と現実を重視しつつ、ムスリム人擁護の姿勢を示す。
・ボスニア政府の幹部会メンバー10人がクロアチア共和国のザグレブで緊急会議を開き、ボスニア和平交渉に参加すべきかボイコットすべきかを協議。イゼトベゴヴィチ大統領とガニッチ副議長の2人がボイコットを主張したものの、7人が交渉に賛成する。ボスニア「3民族分割案」が交渉の課題となる中、「統一国家」を主張して分割案を認めないイゼトベゴヴィチ大統領とガニッチ副議長を交渉団から外し、フラニュ・ボラス幹部会員(クロアチア人)を団長としてアブディッチ幹部会員などが和平交渉に臨むことを決定。強硬派のイゼトベゴヴィチ大統領と、他の穏健派の幹部との対立が表面化する。
06/23:
・ボスニア和平交渉をジュネーブで再開。「統一ボスニア」から方向転換し、現実に沿った解決策が模索されることになる。オーエン・シュトルテンベルグ両共同議長は、ボスニア政府のアブディッチ幹部会員、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領と個別に会談。
・EC首脳会議の合意に従ってフランスは、「安全地域」の防衛のために800人の部隊をサラエヴォなど2地区に派遣。フランスは、既に5000人を旧ユーゴスラヴィア地域に派遣。
・レオタール仏国防相は、「国連保護軍のボスニア駐留部隊のモリヨン司令官が近く交代し、他の任務に就く」と述べ、また旧ユーゴスラヴィア全体の国連保護軍のスウェーデン人のウォールグレン司令官も近く交代し、フランスのジャン・コット将軍が就任すると発表。
06/24:
・旧ユーゴ和平国際会議のボスニア和平交渉は、原則案を策定。原則案は「 『憲法上の9原則』を定め、1,3民族それぞれ共和国を作り、国家連合とする。2,連合は限られた権限しか持たず、幹部会議長は各共和国大統領が回り持ちで務める。3,民族別の3分割の地図案を提示する」など。3民族の代表は持ち帰って検討することになるが、セルビア人勢力とクロアチア人勢力は合意する。
オーエン和平共同議長は 「国連、ECの和平裁定案の主要な点のいくつかは、9原則に含まれている。その意味では、やっと代替案が出来たといえる」と語る。ボスニア政府幹部会のボラス、アブディッチ両幹部会員は記者会見で 「この新しい案は、今後十分検討しなければならない。連合形態など、これまでの和平裁定案とは異なる9つの原則が盛られている。ボスニアでの平等を保証する提案には、耳を傾ける」と語る。セルビア人勢力のカラジッチ代表は、「ムスリム人勢力と、早期に合意に達したい。ムスリム人はボスニア内で最も価値ある部分を取得し、40の都市がある。経済価値で見ると、全体の半分以上になるだろう。国土の広さでは、25%程度だ」と語る。
・世界人権会議がウィーンで開かれ、イスラム諸国などの提案による「1,ボスニア政府への武器禁輸解除を国連安保理に求める。2,国連の対応が内戦を長引かせていることを非難する。3,国連・ECの和平裁定案の履行を求める」などの特別宣言を、賛成88,棄権54,反対1で採択。
・米国防総省のホール報道官は、「マケドニア共和国に派遣する平和維持活動に参加する米軍地上部隊は、ドイツに駐留するベルリン旅団第502歩兵連隊から選ばれた中隊」であることを表明。本隊は7月中旬に派遣する見込み。
・ガリ国連事務総長は、今月末で期限切れを迎える旧ユーゴスラヴィア駐留の国連保護軍を、9月30日まで3ヵ月駐留延長するよう安保理に勧告する報告を提出。
06/25:
・新ユーゴ連邦の上下両院、チョシッチ大統領の後任に社会党のゾラン・リリッチを選出。
06/26:
・ガリ国連事務総長はBBC放送で、旧ユーゴスラヴィアに展開する国連部隊の安全状況がこれ以上悪化するようなら、部隊の撤退を勧告するつもりだ、と警告。
・ボスニア政府の幹部会メンバー7人は、ブリュッセルでEC外相代表との協議。イゼトベゴヴィチ大統領は、参加せず。
・ボスニアのサラエヴォの旧市街に砲撃が加えられ、市民の男女7人が死亡。
06/28:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、和平国際会議でムスリム人勢力側の同意が示されない場合、ボスニアはムスリム人を除外し、クロアチア人勢力とセルビア人勢力の間で2分割されることになるだろう、と警告。
・旧ユーゴ和平国際会議がジュネーブで開かれ、3民族の紛争当事者と国連・ECのオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長とがボスニア民族別3分割について協議。ボスニア幹部会委員7人が、セルビア人勢力、クロアチア人勢力の共同提案の内容を聞いただけで一旦終了。
06/29:
・ボスニア幹部会は、サラエヴォでイゼトベゴヴィチ大統領など10人全員が集まり、「民族別3分割案」について協議。ボラス幹部会員(クロアチア人)は会合の後の記者会見で、「イゼトベゴヴィチ大統領は、もはやボスニア政府を代表しない。同大統領が、政府代表かムスリム人代表かを選択しなければならない」と語る。
06/30:
・国連安保理は、米国とイスラム諸国会議機構が共同提案した「ボスニア共和国に対する武器禁輸措置の解除とボスニア空爆を求める」決議案が採決に持ち込まれたが、米など6ヵ国の賛成に対し、英、仏、日本など9ヵ国が棄権したため否決される。
・ギリシャ政府は、不法滞在するアルバニア人1万3000人を追放すると表明。ギリシャには、アルバニア人が20万人滞在している。
07/01:
・ボスニアのクロアチア人武装勢力はクロアチア人に総動員態勢を取るように命じ、支配地域に夜間外出禁止令を出す。
07/02:
・ボスニアのムスリム人勢力支配下の町マグライを、セルビア人およびクロアチア人両勢力が包囲して砲撃を加える。さらにゼプチ、ザビドビチもセルビア人とクロアチア人両勢力が共同戦線を組み、ムスリム人武装勢力と交戦。
07/03:
・パキスタン外務省報道官は、ガリ国連事務総長の要請に応えてボスニアの国連保護軍に5000人規模のパキスタン軍を派遣する、と発表。
07/04:
・バラデュール仏首相は、ボスニア内の「安全地区」の確保のために仏空軍の投入もあり得る、との考えを明らかにする。
07/06:
・ダニエル・ミッテラン仏大統領夫人はベオグラード入りしてミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談し、「セルビア再生運動」党首ドラシュコヴィチ夫妻の釈放を求めるが、ミロシェヴィチ・セルビア大統領は「司法当局が決めること」と答える。
07/07:
・ロシア政府は、「セルビア再生運動」のドラシュコヴィチ党首の釈放を要求するエリツィン大統領の声明を発表。
・オーストリア政府もドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首の釈放を要求する。
・ボスニアのクロアチア人勢力軍が、マグライ地方の戦闘でボスニア政府軍兵士2000人を捕虜にする。
07/08:
・世界保健機構・WHOの中嶋宏事務所長はボスニアについて、「燃料などの物資がサラエヴォなどに届かないと、近い将来多数の命が失われる。人間らしさへの最低基準が無視される状況では、第2次大戦後経験したことのない惨状に見舞われるだろう」との緊急メッセージをガリ国連事務総長に送付。
・東京サミットで、ボスニア紛争に関する政治宣言を発表。政治宣言は、「1,国連安保理決議・836の実施を求める。2,より強い措置も排除しない。3,セルビア人勢力とクロアチア人勢力に対し、武力による国境変更を認めない。4,3民族当事者の合意が得られない限り、いかなる領土的解決も受け入れられない」というもの。
・ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領はサラエボ放送のインタビューで、「もし、『分割』と『終わりなき戦争』のどちらか一方を選ばなければならない場合には、分割になれば不幸なことながらそれは民族別分割になると言わざるを得ない」と語る。
07/09:
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領はサラエヴォで記者会見し、「1,ボスニアは民族別単位にはならない。2,ボスニアの3分割はあり得ない」の2点を強調。さらに、「クロアチア人勢力とセルビア人勢力が原則合意している『民族別3分割案』をボスニア幹部会は拒否する」、と表明。そして新たな和平案として「連邦国家案」を提案することを明らかにする。イゼトベゴヴィチ大統領によると、幹部会に出席した7人全員が同意し、6人の幹部会員が10日にザグレブに赴き、出席しなかった3人と話し合って最終決定をすることになるという。
・「セルビア再生運動」のドラシュコヴィチ夫妻は、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の決定により釈放される。
07/11:
・ボスニア政府幹部会はザグレブで開いた会合の後、「連邦国家案」を和平案として提案することで正式に合意。「連邦国家案」の詳細は明らかではないが、「1,3分割ではなく18自治区に分割すること。2,各自治区の分割ラインは民族別に分割することは実行不可能なので、経済ラインに基づくべき」というもの。
07/13:
・イスラム諸国会議機構・OICは、加盟51ヵ国のうち16ヵ国が参加してパキスタンのカラチで特別外相会議を開き、ボスニアの要請に応じて機構加盟国が7600人の部隊を現地に派遣する「行動計画」を決める。
・元ユーゴ和平会議議長のキャリントン卿(英)は、フランスのフィガロ紙のインタビューで「早すぎるスロヴェニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの独立承認は、国際社会の大きな過ちだったが、そのことをヨーロッパの指導者たちに警告したが、誰も耳をかさなかった」と述べる。
07/14:
・クロアチア共和国とセルビア人居住地域「クライナ・セルビア人共和国」の境界付近で、クロアチア共和国軍がオブロヴァツ、カリンに砲撃を加え、セルビア人勢力が反撃するという砲撃戦が展開される。その後、セルビア人勢力はクロアチア共和国の要衝カルロバツに攻撃を行なう。
07/15:
・米国防総省は、ボスニアの「安全地域」に展開する国連保護軍・UNPROFORを防衛するためのNATO軍として、ボスニアに米軍機40機を追加派遣すると発表。内容は、「A10対地攻撃機12機、海軍のA5対地攻撃機またはFA18戦闘機6機、海兵隊のFA18を8機、空軍のAC130対地攻撃機4機。給油機などの支援機10機」など。
07/19:
・EC外相理事会がブリュッセルで開かれ、オーエン旧ユーゴ和平国際会議共同議長が当事者協議の現状を報告。オーエン共同議長は、「ムスリム人勢力を説得して、セルビア人勢力、クロアチア人勢力との直接交渉の席に着かせることが緊急課題だ」と述べる。外相理事会は、ムスリム人勢力への対決姿勢を強めるクロアチア人勢力に対し、警告を発することで一致。クラース・ベルギー議長が近く現地入りし、関係者との調停をはかることを決める。
・EC外相理事会は、クロアチア共和国政府に対し「ボスニアのクロアチア人勢力がモスタルその他ムスリム人への民族浄化や攻撃をやめなければ、クロアチアに制裁を科す」と警告する。
07/22:
・ボスニア共和国幹部会は、23日からジュネーブで開かれる予定のボスニア紛争3当事者による和平交渉に、サラエヴォがセルビア人勢力に攻撃されているとの理由で不参加を決める。幹部会は、「攻撃が中止されなければ、交渉には応じられない」と強調。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長は、和平交渉を25日に延期することを明らかにする。
・NATO軍は、ボスニアの国連保護軍に対する上空からの援護活動の準備を整え、出動体制に入る。
・ガリ国連事務総長は、地上の準備不足を理由に作戦の延期を申し入れる。
07/24:
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長は、ボスニア紛争3当事者によるジュネーブでの和平交渉を27日に開くことで、各当事者が同意したことを明らかにする。
07/25:
・ボスニアのサラエヴォに駐留する国連保護軍のフランス部隊に、セルビア人勢力が砲撃したと伝えられる。セルビア人勢力側は関与を否定。
07/27:
・旧ユーゴ和平国際会議のボスニア和平会議がジュネーブで開かれ、紛争3当事者が顔を揃え、協議に入る。
07/28:
・ガリ国連事務総長はボスニア情勢について、NATO軍の空軍機は来週初めにも国連保護軍援護のための作戦を開始出来る、との見通しを示す。
・クリントン米大統領は、ボスニアのセルビア人勢力に対する空爆の実施について、「ガリ国連事務総長の要請があれば、いつでも空軍力を提供する用意がある。空爆がセルビア人勢力による侵略を防ぎ、サラエヴォへの爆撃を止め、全当事者を和平会議の席に着かせることになるかは分からない。しかし、米国は役割を果たす用意がある」と語る。
・ボスニア駐留の国連軍スポークスマンは、「我々は現在、空軍力を要請するような状況ではない」と述べる。
07/29:
・旧ユーゴ和平国際会議のスポークスマンは、「ボスニア内戦の3当事者が即時停戦で合意し、それぞれの司令官に命令した」と発表。
・米国は英仏と、ボスニアのセルビア人勢力への空爆について協議。米国はムスリム人の保護や救援活動の援護まで拡大して空爆を実施したいと述べたのに対し、英仏は国連保護軍への攻撃に対する反撃に限定するよう求める。
07/30:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、ガリ国連事務総長宛の書簡で25日の国連保護軍フランス部隊への砲撃が、セルビア人勢力によるものであることを認める。カラジッチ代表は書簡の中で、「この攻撃が、誤って行なわれた可能性は大きい。既に現地の司令官を解任し、発砲容疑者を逮捕した」と述べる。
・旧ユーゴ和平国際会議のオ-エン・シュトルテンベルグ両共同議長は、新たな「ボスニア共和国連合」協定案を提案。同案は、「1,中央政府はボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国連合とし、ボスニア共和国、スルプスカ共和国、ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共同体で構成される。2,各共和国は独自の憲法を持つなど大幅な権限を与えられるが、中央政府は国際機関で国家を代表する。3,各共和国は国家連合の利益に反しない限り、国際機関に加盟できる。4,各共和国大統領で構成する幹部会の議長は、4ヵ月毎の輪番制にする。5,国家連合の議会は1院制とし、定員は120名で各共和国議会が比例制で選出する。6,国家連合政府も各共和国政府も軍事力を持たない」など、中央政府には限られた権限しか与えられないというもの。
・ボスニアのセルビア人勢力とクロアチア人勢力は、旧ユーゴ和平国際会議の新たな「ボスニア共和国連合」協定案に、満足の意を示す。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「ボスニア共和国連合」案に難色を示すが、中央政府には通貨発行やマクロ経済政策立案の権限を持たせるよう要求。
・米ワシントン・ポスト紙は政府筋の話として、クリントン米大統領がガリ国連事務総長に対し、サラエヴォの事態の悪化に緊急に対処するため、セルビア人勢力への空爆に踏み切るよう求める、書簡を送付。
07/31:
・ボスニア政府軍は、東部ゴルニ・バクフ周辺でクロアチア人勢力の村2つを制圧する。
・旧ユーゴ和平国際会議のボスニア3分割の基本的枠組みについて、3民族とも合意。
・ボスニア・ムスリム人勢力側の在ジュネーブ・ボスニア代理大使は、「これまでの合意は、あくまで包括的解決の一部だ」と述べる。イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「国連代表部を損なわない保証の下での合意」と和平会議議長に書簡を送付。
・ジュネーブのボスニア和平交渉が行なわれている国連欧州本部に、ボスニア・ムスリム人300人のデモが押し掛ける。
・NATOスポークスマンは、米国の要請を受け、旧ユーゴスラヴィアのセルビア人勢力への空爆に関する協議を、ブリュッセルで2日に行なうと発表。
07/00:
・スロヴェニアの空港で、密輸された武器が発見される。
08/01:
・ボスニア政府法律顧問のフランシス・ボイル弁護士は、ボスニア紛争当事者が合意した国家形態の基本的枠組みに関し、「国際司法裁判所にボスニアの国連代表権問題を提訴した結果、8月25日に審問が開かれるとの回答を得た」と語る。
・旧ユーゴ和平国際会議に出席したボスニア代表団の幹部会のメンバー3人は記者会見で、ボスニアの将来について、「1,ボスニア・ヘルツェゴヴィナは、主権国家であること。2,その構成員は国際的に主権国家として認められないこと。3,民族別分割には反対する」など、国としての統一性を重視する従来の考えを強調する。
・マカリー米国務省報道官は、米政府のボスニアのセルビア人勢力に対する空爆計画は、たとえ欧州関係国の同意が得られなくても実施する決意である、との強硬姿勢を明確にする。
・ボスニアのセルビア人勢力軍筋は、セルビア人勢力がサラエヴォを見下ろす戦略拠点ビエラシュニツァ山を奪取したと述べる。
08/02:
・NATOは米政府の要請を受け、緊急高官会議をブリュッセルで開く。米国はこのNATO高官会議で、ボスニアで劣勢のムスリム人勢力を支援するために、サラエヴォ周辺などで攻勢を強めているセルビア人勢力に対する空爆を実施する、という拡大案を提案。国連安保理決議836は、「安全地域」保護のための国連保護軍が危険にさらされた場合にのみ、防衛のための空爆を承認しているが、、この国連決議を越える軍事行動をNATO軍が実行しようという拡大策。
・クリントン米大統領はボスニアのセルビア人勢力への空爆について、「同盟国は、サラエヴォが陥落するのも飢えるのも許さないと信じる」と語り、欧州同盟国が共通の立場を採ることに自信を示す。
・オーエン和平国際会議共同議長は、「ボスニアでのあらゆる軍事行動は、国連決議に沿うべきだ」と米国の性急な姿勢を戒める。
・ロシア外務省高官は米国が計画しているボスニア空爆について、「不適切な行動は、政治的解決の失敗をもたらす」と懸念を示す。
・旧ユーゴ和平国際会議のスポークスマンは、セルビア人勢力のカラジッチ代表が、ビエラシュニツァ山に国連保護軍・UNPROFORを展開させることに合意したと発表。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン共同議長は、米国がセルビア人勢力を単独でも空爆するとの強硬姿勢を示したのを受け、ムスリム人勢力代表のイゼトベゴヴィチ大統領が戦況好転を期待して「会議の席を立たないよう望む」と会議決裂への懸念を表明。
・ジュネーブで開かれた旧ユーゴ和平国際会議ボスニア和平交渉に参加しているムスリム人代表のイゼトベゴヴィチ大統領は、記者会見を行ない、「サラエヴォ付近のセルビア人勢力の攻撃停止と、占領地域からの撤退が確認出来るまで交渉を中断する」との考えを述べる。
08/03:
・ボスニア情勢をめぐるNATOの緊急高官協議は、ムスリム人居住地域への攻勢を続けるセルビア人勢力に対し、「包囲を続ける場合は空爆などの準備に入る」との警告声明を発表して閉幕。NATOは軍事スタッフに対し、現地の国連保護軍司令官と協力して空爆計画の具体化を図るよう指示。
・クリントン米大統領は、セルビア人勢力軍がサラエヴォなどの包囲を解かなかった場合に、NATOがセルビア人勢力に対する空軍力行使を認めたことを「国連軍や援助活動を守る決意を示した」として歓迎すると語る。
・マイヤーズ米大統領広報官は、「サラエヴォの状況悪化を懸念する米国の主張が認められた。大きな前進である」と評価。
・旧ユーゴ和平国際会議にボスニア政府代表として参加していたアクマジッチ・ボスニア首相らクロアチア人幹部会員3人は、「ボスニア幹部会の下にあるボスニア政府軍が、中央ボスニアのクロアチア人を攻撃し迫害していること、幹部会のムスリム人との協力がうまくいかないこと。イゼトベゴヴィチ大統領は、ムスリム人の代表に過ぎないこと」などを理由としてボスニア共和国幹部会を離脱し、ボスニアのクロアチア人勢力代表団に加わると発表。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、米国が空爆作戦を実施すれば、「事態は混乱を極め、外国人に対する報復で、国連要員を含む全ての外国人が危険にさらされることになる」と警告。
・ガリ国連事務総長のスポークスマンは、ボスニア問題に関するNATOの決定が国連決議の履行を助けるとして、「セルビア人勢力に対する空軍力の行使を支持する。ただし、国連決議を受けた軍事行動を支持する権限が、事務総長にあること」を強調した書簡を、クリストファー米国務長官に対して送付したことを明らかにする。
・マイヤーズ米大統領広報官は、米国防総省とホワイトハウスはNATO軍がセルビア人勢力に対して空爆を実施することは、「援助活動の保護のため、あらゆる手段を講じることが出来る、とした安保理決議770で認められている」から新たな国連決議は必要ない、との見方を示す。
・国連保護軍スポークスマンは、ボスニアのセルビア人勢力がサラエヴォを見下ろすイグマン山に対し、攻撃を加えていることを明らかにする。
08/04:
・ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ司令官は、イグマン山を制圧したと宣言する。
・ボスニア共和国イゼトベゴヴィチ大統領は、ボスニアのセルビア人勢力の攻撃が続く限り、4日の交渉には参加しない」と、旧ユーゴ和平国際会議に通告。
・米国務省のボスニア問題担当官マーシャル・ハリスは、セルビアへの軍事介入を逡巡するクリントン政権に抗議して辞任。
08/05:
・イスラム諸国会議機構・OICの代表団サッタル・パキスタン外相は旧ユーゴ和平会議共同議長と会談し、ボスニアへの空爆を支持する考えを述べる。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はサラエヴォ放送で、ムスリム人・クロアチア人共和国」の創設をクロアチア共和国のトゥジマン大統領に提案したことを明らかにする。
・ボスニアのクロアチア人勢力は、「ムスリム人・クロアチア人共和国」構想を拒否。
・セルビア人勢力のカラジッチ代表は、ボスニア駐留国連保護軍・UNPROFORのブリクモン司令官と会談し、イグマン山とビエラシュニツァ山を国連保護軍の管理に委ね、サラエヴォへの補給路を開くことなどで合意。
・ホワイトハウスのマイヤーズ報道官は、ボスニアのセルビア人勢力がサラエヴォの2つの山から撤退することに同意したことについて、「言葉以上のものが必要だ」と述べる。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長は、ボスニアの紛争3当事者による交渉を9日から再開することでムスリム人、セルビア人、クロアチア人各勢力とも合意した、と発表。
08/06:
・オーエン旧ユーゴ和平国際会議共同議長は記者会見で、「ムスリム人勢力に割く領土は、30%を切らないことでは合意出来ている」 と語る。分割案としてセルビア53%、クロアチア17%、ムスリム30%の案が出ている。
・NATO同盟諸国は、ボスニアのセルビア人勢力への空爆を開始するには、ムスリム人勢力が和平交渉の席に戻らなければならない、との考え方をボスニア政府に伝える。
・米国務省の職員が、ボスニア問題に対する米政府の弱腰を批判して辞意を表明。
・サラエヴォ放送が、セルビア人武装勢力がサラエヴォを見下ろす拠点イグマン山から撤退を始め、国連保護軍フランス部隊150人が監視のためにイグマン山に到着した、と報じる。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長が、ボスニア和平会議の経過をガリ国連事務総長に書簡で報告。報告によると、「ボスニアの民族別3分割案で最も難航しているのはサラエヴォの扱いであり、この取り扱いを棚上げにして全体の解決を探るべき」と記述。
08/09:
・NATO高官協議が開かれる。NATO軍当局がまとめたセルビア人勢力への空爆計画は、ボスニアに展開している国連保護軍による救援活動の支援に限定して承認し、実施の時期についてはガリ国連事務総長の判断に委ねることを決める。この計画は3段階で構成されており、「1,第1段階は、先ずNATOの強い決意を示すとともに、心理的効果を狙って少数の目標に空爆を加える。2,第2段階は、サラエヴォ攻撃に使われている砲撃陣地を空爆する。3,第3段階はセルビア人勢力の司令部や通信施設、補給線などに空爆対象を広げる」というもの。
・クリストファー米国務長官はNATOの決定を、「米国の主張を、大きく前進させたものであり、これで同盟国はセルビア人に対し強制力のある行動を取るのに必要な全ての手段を手にした」と評価。マカリー米国務省報道官は、NATOが数日中にボスニアへの空爆問題で協議を行なう可能性を示唆。
・旧ユーゴ和平国際会議のボスニア和平交渉が、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領、セルビア人勢力のカラジッチ代表、クロアチア人勢力のボバン代表が参加してジュネーブで再開される。
・国連安保理は、全欧州安全保障協力会議・CSCEが新ユーゴ連邦のコソヴォ自治州の人権抑圧状況を調査していることに対し、新ユーゴ連邦政府が退去を求めている問題で、CSCEの駐留を支持し新ユーゴ連邦に再考を求める決議855を、賛成14,棄権1で採択。
08/10:
・米ABC放送とワシントン・ポスト紙の世論調査によると、ボスニアのセルビア人勢力に対する空爆について、国連保護軍援護のための支持が85%、サラエヴォ救援のための支持が60%。
・ボスニアのサラエヴォ周辺から一時撤退したセルビア人勢力が、再び展開し始めたことを国連保護軍のフランス部隊スポークスマンが明らかにする。
08/11:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、サラエヴォ周辺のイグマン山とビエラシュニツァ山に再展開したとのフランス部隊の報告について、「全くの嘘である」と述べ、イグマン山の部隊の半分は既に撤退していると語る。仏軍部隊が再展開と見たのは、部隊後退がそのように見えたものだと主張。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長は、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表に対し、イグマン山から12日朝までに武装部隊を完全撤退させるよう強く要請。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「撤退に2日間の猶予を与える。これでも駄目なら、交渉から引き揚げる」と警告。
・メージャー英首相は、ボスニアのサラエヴォから戦火で重傷を負った子供や大人41人を、緊急に英国およびスウェーデン、アイルランドの3ヵ国に救出させる計画を発表。国外で治療を受けるには、国連の許可が必要とされている。
08/12:
・英国の緊急人道支援の「イルマ作戦」と名付けたサラエヴォからの41人の患者救出行動は、子どもが数人しか含まれておらず、また比較的元気な患者が多いことで、英政府内に当惑が広がる。
・ボスニアのセルビア人勢力のスポークスマンは、サラエヴォ近郊のイグマン山からのセルビア人武装勢力の撤退が完了し、7月30日に調印された停戦の位置に戻った、と発表。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「独自の情報によれば、イグマン山からのセルビア人武装勢力の撤退は完了しておらず、交渉の条件は整っていない。セルビア人勢力軍が今日中に撤退すれば、交渉は続ける」と述べる。
・国連保護軍・UNPROFORスポークスマンは、サラエヴォ近郊のイグマン山からのセルビア人武装勢力の撤退は完了しておらず、相当数のセルビア人が残留していることを明らかにする。
08/13:
・ボスニア駐留国連保護軍のブリクモン司令官は、セルビア人勢力がイグマン山から14日中に全面撤退をすることで同意したことを明らかにする。セルビア人勢力はビエラシュニツァ山から撤退するに際し、ロッジなどの建物がムスリム人勢力の軍事用に使用出来ないように、放火や破壊などをしているために撤退が遅延。
・ブリクモン国連保護軍司令官によれば、ムスリム人勢力もイグマン山には展開しないことに同意し、イグマン山は国連保護軍が展開する「緩衝地帯」になる、と述べる。
・イスラム諸国会議機構の代表団は、ワシントンを訪れてクリストファー米国務長官と会談し、ボスニアのセルビア人勢力への空爆を実施するよう要請。クリストファー米国務長官は、ボスニアをめぐる関係各国の苦しみを「共有する」と表明。
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領はジュネーブで記者会見し、ボスニアの民族別3分割案についてムスリム人の領土は全体の40%程度を占めなければならない、との考えを述べる。
08/14:
・ボスニア駐留国連保護軍のブリクモン司令官は、サラエヴォ近郊の拠点イグマン山からセルビア人武装部隊の撤退が完了したことを明らかにする。
08/15:
・ボスニアの患者を救出する「イルマ作戦」は、新たに子どもの数を増やして実施。この中には戦火で負傷した人の他に、髄膜炎などの一般の患者も含まれる。
・ボスニアのヴィテズで、UNHCRの職員が運転する車輌が銃撃され、職員は死亡。
08/16:
・旧ユーゴ和平国際会議スポークスマンは、ボスニア紛争3当事者による直接交渉が再開され、首都を「サラエヴォ地区」として統治に国連の行政官が参加し、2年の間に恒久的な解決策を探ることで合意したと発表。
・UNHCRスポークスマンによるとボスニアで緊急医療を必要とする負傷者、病人に対し、欧米など15ヵ国が560人以上の受け入れを表明。イタリア400人、フィンランド、チェコ、ヨルダン、オランダ、フランス、スイス、米国、カナダ、トルコなど。
・マカリー米国務省報道官は、ボスニアのセルビア人勢力がイグマン山から完全撤退したとの情報に対し、「撤退は必要なステップではあるが、それで十分というわけではない」と述べ、「サラエヴォおよびムスリム人地域で食料、電気、水、薬品などが住民の手に入ることが、包囲、圧迫の緩和と判断する条件となる」ことを強調。
08/18:
・英国の軍事誌ジェーン・ディフェンス・ウィークリーは、今月の第1週に東部ズボルニクでムスリム人勢力が塩素ガスの入った迫撃砲弾による攻撃を行なったとのセルビア人勢力の主張に基づき、ボスニアの国連保護軍が化学兵器使用の疑いについてはじめて公式調査を開始した、と報じる。
・旧ユーゴ和平国際会議のボスニア和平交渉でボスニアの紛争3当事者は、首都サラエヴォを国連保護軍の管轄下に置く期間を2年以内とするなど、将来の扱いについて正式に合意する。
・ガリ国連事務総長は、「ボスニアで、国連保護軍・UNPROFORを支援するための空軍力を行使できる状態になった」ことを安保理議長のオルブライト米国連大使に伝える。
08/19:
・旧ユーゴ和平国際会議スポークスマンは、ボスニア和平交渉にミロシェヴィチ・セルビア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領を招待する、と発表。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は記者団に、「イグマン山に100人以上のセルビア人兵士がいることが、いま分かった。抗議する。交渉中止もあり得る」と述べる。
08/20:
・旧ユーゴ和平国際会議オーエン・シュトルテンベルグ両共同議長は3民族当事者に対し裁定案を提示し、各民族代表に受け入れを要請。共和国連合構成上の原則;「1,ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国連合は3つの共和国、3つの民族で構成される。2,共和国連合として国連に加盟する。3,各構成共和国は独自の憲法、議会、司法制度を持つ。4,共和国連合の幹部会は共和国の大統領または共和国議会の任命した代表で構成し、幹部会議長は4ヵ月の輪番制とする。幹部会は総意により決定を下す。5,共和国連合の首相は幹部会が任命または解任出来る。任期は1年の輪番制とする。6,共和国連合議会は120人で構成、各共和国からそれぞれ3分の1が選出される。7,全ての市民は、共和国連合領内のいかなる場所にも住む権利を持つ」。
関連合意事項;「1,サラエヴォ地区の国連の管理期間は2年とする。2,モスタル地区のECの管理期間は2年とする」。
軍事協定;「1,調印7日以内にすべての戦闘行動を停止する。2,14日以内に全面停戦し、合同委員会を設置する。3,36日以内に部隊および重火器の撤収を開始する」。
・旧ユーゴ和平国際会議ボスニア和平交渉は引き続きジュネーブで行なわれ、ボスニアの民族別3分割のための地図案の詰めの協議を行なう。この会議でセルビア人勢力が譲歩した結果、和平会議共同議長はムスリム人勢力側にボスニア全土の32%を配分し、東部ボスニアにあるムスリム人居住区を結ぶ回廊を認める、などの案を示す。
・クロアチア共和国とボスニアのクロアチア人勢力およびセルビア人勢力とセルビア共和国は、議長裁定案の受け入れを示唆。
・ボスニアのムスリム人勢力スポークスマンは、「議長裁定案には、満足していない」と述べる。
・ボスニア和平交渉でモスタルの国際管理案が浮上し、ECによる管理が提案される。オーエン共同議長は「モスタルもサラエヴォと同様の国際管理下に置くべきだ、との議論になったが、国連はサラエヴォで手一杯なのでECが浮上した」と説明。ただし、ECは軍事力を持たないため、西欧同盟・WEUやNATO軍など別の組織の協力が必要になる。
・国連人権小委員会は、新ユーゴ連邦セルビア共和国のコソヴォ自治州のアルバニア系住民に対する人権侵害を非難し、人権侵害の即時中止と差別的法律を廃止することを求める決議を採択。
・国連安保理は、旧ユーゴスラヴィアの戦争犯罪を裁く旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYの判事候補23人を投票で決める。9月に開かれる国連総会で、最終的に11人の判事を決めることになる。
08/21:
・ボスニアのモスタル市ではクロアチア人勢力とボスニア政府との戦闘が続いているが、国連の援助物資輸送部隊のトラック8台が医薬品を届ける。住民の中からは、食料が含まれていないことに失望の声があがる。
08/23:
・米国務省のクロアチア問題担当のスティーブン・ウォーカーが、クリントン政権のボスニア政策に抗議して辞任。
08/24:
・ボスニアのモスタル市で、クロアチア人武装勢力とムスリム人武装勢力が、激しい戦闘を展開。
・国連は、ザグレブからモスタルへ200トンの食料の緊急援助物資を輸送。
・ボスニアのサラエヴォのムスリム人居住区に砲弾が撃ち込まれ、市民1人が死亡、7人が負傷する。
・ボスニアのクロアチア人勢力のクロアチア民主同盟・ボバン党首は、ムスリム人が多数居住するモスタル市を首都とする「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国」の樹立を宣言。
・ボスニアのクロアチア民主同盟のボバン党首は、28日にクロアチア人勢力が暫定議会を招集し、民族3分割案を検討すると表明。
08/25:
・国連の緊急援助物資輸送隊が、ボスニアのモスタルに250トンの食料と医薬品を搬入する。
08/26:
・ボスニアのセルビア人勢力は、旧ユーゴ和平会議の包括的和平案を協議するためサラエヴォ近郊の町パレで議会を開いたが、結論が出ずに継続審議となる。
・国連スポークスマンは、ガリ国連事務総長が30日から欧州を訪問し、旧ユーゴ和平国際会議の共同議長やNATOのウェルナー事務総長などと会談することを明らかにする。
・ボスニアのモスタルのムスリム人住民は、クロアチア人勢力の攻撃からの盾として利用するために、国連保護軍と輸送隊が緊急援助の食料と医薬品を搬入して積み荷を降ろした後の帰途を阻止する。
08/27:
・ボスニア政府は、旧ユーゴ和平国際会議の包括的和平案について協議するために議会を開く。イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「現在の形では裁定を受け入れることは不可能だが、同案が将来の交渉の基礎になるので、30日に予定されている和平交渉は今後も継続するべきだ」と主張。ボスニア議会は結論を出せず。
・ボスニアのモスタル市のムスリム人居住地域をクロアチア人勢力が砲撃し、市民3人が死亡、5人が負傷。クロアチア人勢力はモスタルのネレトヴァ川の西岸をほぼ征圧しているが、さらに東岸のムスリム人居住地域の制圧を目指す模様。
註;モスタル市のネレトヴァ川を挟んだムスリム人勢力とクロアチア人勢力のこの時の戦闘で「ネレトヴァの古橋」が砲撃で破壊された。
・ボスニアのセルビア人勢力はパレで開いていた議会で、圧倒的多数のセルビア民主党は民族3分割案の支持を表明したが、一部に強硬意見があり議論は紛糾。28日に再開することになる。
08/28:
・ボスニアのクロアチア人勢力は、ボスニア南西部のグルデで開いた議会で、「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国」の樹立を正式に宣言。
・ボスニアのセルビア人勢力の議会は3日間の協議の結果、賛成55,反対14,棄権3で和平裁定案受け入れを決める。
・ボスニアのクロアチア人勢力は、「ヘルツェグ・ボスナ共和国」の最初の議会を開いて和平裁定案を協議し、セルビア人、ムスリム人両勢力が裁定案を受け入れることなどを条件に、裁定案を受諾する方針を決める。
・ボスニア共和国議会は和平裁定案の大幅な修正を要求し、今後もジュネーブにおいて和平交渉をしていくとの方針を決定。ムスリム人側は、「この決定は裁定案を明確に退けたものではない」と説明。
08/29:
・ボスニアのクロアチア人勢力は、「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国」に通信社「ハベナ」を創設する。
08/30:
・ボスニアのモスタル市で国連の緊急援助部隊の帰途を阻止していたムスリム人住民は、UNHCR職員や民間人などの半数を解放したが、国連保護軍のスペイン人兵士ら60人は住民に取り囲まれたままで出発できず。
・旧ユーゴ和平国際会議のスポークスマンは、ボスニアの民族別3分割案の協議再開を31日に延期すると発表。
08/31:
・旧ユーゴ和平国際会議ボスニア和平交渉を、ジュネーブで再開。ムスリム人勢力は分割の修正を要求。
・ボスニアのモスタルを包囲していたクロアチア人武装勢力は、ムスリム人勢力に48時間の停戦を申し入れる。
・ボスニアのモスタルのムスリム人住民は、盾として拘束していた国連保護軍と輸送隊を解放する。
09/01:
・ボスニア和平交渉で、オーエン和平国際会議共同議長は民族別領土3分割案、「セルビア52%、ムスリム30%、クロアチア17%」に分割してそれぞれが民族別に共和国をつくり、中央に形式だけの中央政府を設ける、との裁定案を提示する。セルビア人勢力とクロアチア人勢力は大筋で受諾の意向を示したが、ムスリム人勢力を代表するイゼトベゴヴィチ大統領は、「1,セルビア人勢力が内戦で奪ったムスリム人居住区だった都市をムスリム領に加え、領土配分率を最低率より多い34%に増やす。2,アドリア海への出口としてクロアチア人領にある港町ネウムをムスリム領とする。3,ボスニア東部にあるムスリム人の飛び地ジェパ、ゴラジュデを結ぶ道路の幅を広げて回廊とする」との修正を要求。この修正に対しセルビア人勢力は回廊を幅3キロとするとの譲歩をしたが、他の点ではセルビア人、クロアチア人両勢力とも拒否したため、決裂する。
・オーエン和平会議共同議長は記者会見で、「しばらくく様子を見るしかない」と打開策に悲観的な見通しを語る。
09/05:
・UNHCRのスポークスマンは、ボスニア中部と南部でムスリム人勢力とクロアチア人勢力の戦闘が激化しているため、クロアチア共和国のスプリトからサラエヴォに向かっていた国連の緊急援助物資輸送が、途中のゴルニ・バクフ近くで足止めされていることを明らかにする。
09/07:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は国連本部を訪れて安保理の全メンバーと非公式に会談し、「安保理は国連憲章の原則や安保理決議を守るよう和平会議のシュトルテンベルグ国連代表に求めるべきだ」などと述べ、国連を間接的に批判。さらに空爆の圧力で、即時無条件停戦を実現させるよう求める。
・ボスニアのサラエヴォ放送は、ボスニアのモスタル市でムスリム人勢力とクロアチア人の両武装勢力が激しい戦闘を再開し、子ども5人を含む市民8人が死亡した、と報じる。
09/09:
・クロアチア共和国軍は「メダック・ポケット作戦」を発動してクロアチア西部ゴスピッチ周辺をを攻撃し、セルビア人支配地域の2つの村を占領。
09/10:
・クロアチアのセルビア人勢力が、前日のクロアチア共和国軍が村を占領したことに報復するため、ザグレブの南の町を砲撃。
09/12:
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、防衛評議会で24時間以内に停戦を図るよう命じ、クロアチア共和国軍に対しセルビア人勢力の挑発に乗らないよう指示。
・トゥジマン・クロアチア大統領は旧ユーゴ和平国際会議のシュトルテンベルグ共同議長と会談し、停戦が守られるよう国連保護軍の支援を依頼。
・クロアチアのセルビア人勢力は、クロアチア共和国政府軍が制圧したセルビア人の3つの村から撤退しなければ、首都ザグレブなどに全面攻撃を加えると警告し、クロアチア共和国政府と国連保護軍当局にリストを送付するとともに、これらの地域から民間人を避難させるよう勧告。
・クロアチア共和国軍スポークスマンは、国連保護軍がセルビア人勢力の武装勢力の武装解除を実現していないとして、セルビア人勢力が要求している南部メダック地区近郊の3つの村からの撤退を拒否。
09/13:
国際司法裁判所・ICJは、原告のボスニアと被告の新ユーゴ連邦にそれぞれ仮保全措置をとるよう指示する。
09/14:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領が会談し、ボスニア中部でのムスリム人、クロアチア人両武装勢力間の戦闘を即時停止することで合意。
09/16:
・旧ユーゴ和平国際会議スポークスマンは、オ-エン・シュトルテンベルグ両共同議長がボスニア紛争当事者を招集し、21日にサラエヴォ空港で和平会議を再開すると発表。さらに両共同議長はトルコ、マケドニア共和国、セルビア共和国を訪問し、各国首脳にボスニア和平合意への協力を要請。
09/17:
・クロアチア共和国軍の「メダック・ポケット作戦」は、ザダルからゴスピッチに至る回廊を制圧して作戦を終える。92年6月から開始した、「ミリェフツィ・プラトー作戦」、「マスレニッツァ作戦」、「メダック・ポケット作戦」の3つの作戦によって、クライナ・セルビア人共和国の首都クニンへの南西部からの包囲が完了する。
・クロアチア側の報道によると、アドリア海沿岸の町をセルビア人勢力が砲撃し、クロアチア共和国軍兵士3人が死亡。
・国連保護軍・UNPROFORは、クロアチア共和国内のクライナ地方のセルビア人勢力とクロアチア共和国軍の間に入り、緩衝地帯を設置する。
・オーエン・シュトルテンベルグ両共同議長はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。オーエン共同議長は、「隔たりは狭まってきた」と述べ、21日の当事者会談で和平合意調印への期待を表明。
09/20:
・旧ユーゴ和平会議ボスニア和平交渉がアドリア海の英空母インヴィンシブルで、オーエン・シュトルテンベルグ両共同議長と紛争3派のイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領、カラジッチ・ボスニア・セルビア人勢力代表、ボバン・ボスニア・クロアチア人代表に加え、トゥジマン・クロアチア大統領、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、ブラトヴィチ・モンテネグロ大統領が参加して行なわれる。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領以外は和平調停案に合意して調印する。
09/25:
・ボスニアのムスリム人勢力とクロアチア人勢力が、南西部の街モスタル市をめぐる戦闘の停戦に合意。
09/27:
・ボスニアの北西部ビハチ地区で、ムスリム人住民が中央政府の支配から離れ、「西ボスニア自治州」として自治州樹立を宣言する。ムスリム人のアブディッチ・ボスニア幹部会員を指導者と決める。
註;ビハチ地区のムスリム人が中央政府からの統制を嫌って「自治州宣言」をした背景には、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領の非妥協的な独断専行に対する穏健派ムスリム人の異議申し立ての思惑が含まれる。
09/28:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、自治州樹立宣言を出したムスリム人地区、「西ボスニア自治州」のビハチ地区に対して軍の出動を命じる。
・ボスニアのムスリム人の知識人や宗教関係者が会合を開き、「武力で奪われた地域を、将来のムスリム人国家に返還する」との条件付きでの裁定案受け入れを決める。
・オーエン・シュトルテンベルグ和平会議両共同議長が提示したボスニア民族別3分割案について、ボスニアの議会が諾否を協議。
・クロアチアのトゥジマン大統領が国連総会で一般演説を行い、クロアチアに展開している国連保護軍・UNPROFORの任務が強化されなければ保護軍の撤退を求める、と安保理で保護軍の大幅延長が検討されていることを牽制する。
09/29:
・ボスニア共和国議会は、ボスニアの「民族別3分割」裁定案に対し、「武力によって奪われた領土を、将来のムスリム人共和国に返還する」との条件付きで受け入れるとの決議を、80人中、賛成58で決定する。セルビア人勢力とクロアチア人勢力は、既に裁定案を受け入れる意向を示している。
・クリントン米大統領は、「和平を逸した場合の代償は、非常に高いと思う」と述べる。
・ボスニア政府は、「西ボスニア自治州」として自治州樹立宣言を出した北西部のムスリム人地区ビハチに政府軍を動員したが、ビハチ地区の町ペチグラードで地区住民1万5千人の女性や子どもが人間の鎖を作り、ボスニア政府軍の行動を阻止する。
09/30:
・ボスニア政府軍は、「西ボスニア自治州」樹立を宣言したビハチ地区の町ツァジンで、抗議のために集まっていた住民に向けて発砲する。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は、ボスニア議会が和平裁定案に条件を付けたことについて、「これまでムスリム人側に与えた領土面での譲歩を、取り消す」と警告。
・国連安保理は、クロアチア共和国政府が旧ユーゴスラヴィアにおける国連保護軍の撤退を迫る中、新ユーゴ連邦への経済制裁拡大をめぐって対立し、駐留期限を1日だけ延長する決議869を、全会一致で採択。
10/01:
・ボスニアのクロアチア人勢力は、ボスニアの南西部の港町ネウムで議会を開き、セルビア人、ムスリム人両勢力がボスニア和平裁定案を15日までに受け入れなければ、これまでの和平交渉でボスニア政府に対して譲歩してきた内容を全て撤回することを決める。クロアチア人勢力のボバン代表は、総動員態勢を取るよう呼びかける。クロアチア人勢力はボスニア政府との間で、アドリア海への出口についてクロアチア共和国内の港ブローチェの租借権を99年間ムスリム人に与える、との合意を取り交わしている。
・国連安保理は、旧ユーゴスラヴィアへの国連保護軍・UNPROFORの駐留期限を4日間だけ延長する決議870を採択。
10/03:
・ボスニア政府軍は、「西ボスニア自治州」のビハチ地区の地方放送局を急襲し、警官1人を射殺。
10/08:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領はウィーンで共同記者会見を開き、NATO軍に対してボスニアとクロアチア共和国に平和維持軍を派遣するよう、共同提案したことを明らかにする。
10/12:
・世界食糧計画・WFPは、ボスニアなど旧ユーゴスラヴィア情勢について、「このままでは、冬に数百万の人々が食糧のない状況に陥る」と警告。WFPによると、現在420万人以上の人々が食糧援助を必要としている。12月までは86%の食糧が確保されているが、1月以降は17%しか確保の見通しがない。ボスニアでは、270万人が食糧援助を必要としている。
10/15:
・ボスニアの「西ボスニア自治州」のビハチ地区では、自治州宣言をしたムスリム人住民が警察署などを占拠。ボスニア政府軍も同地区の武装住民を拘束し、占拠された建物を奪回。
10/16:
・ボスニアのクロアチア人勢力は、これまでの和平交渉でボスニア政府に対して示してきた譲歩の撤回を確認する、との声明を発表。
・ボスニアからの報道によると、セルビア人勢力がサラエヴォへの砲撃を行ない、ムスリム人少なくとも10人が死亡。
10/17:
・ボスニア中部のマグライなどのムスリム人の町に対し、クロアチア人、セルビア人両武装勢力が攻撃する。
・クリントン米大統領はニューヨーク・ポスト紙とのボスニアに関するインタビューで、「英仏は、一国を救うより武器禁輸解除しない方がより重要と思っているようだ」と批判。
10/20:
・セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領は、シャイノヴィチ内閣に対する不信任案が出されることに対し、先手を打ってセルビア共和国議会を解散。12月19日に議会選挙を行なうと発表。
・米上院本会議はボスニアの平和維持活動への米軍の参加について、議会の承認を事前に求めるべきだとする「態度表明決議」を、99対1の圧倒的多数で採択。
10/22:
・ボスニアの「西ボスニア自治州」のアブディッチ代表は、カラジッチ・セルビア人勢力代表と単独で和平合意に調印。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのトゥズラ、ゼニツァ、トラブニクなどでもボスニア中央政府の支配から離れようとする動きが見られる。
・セルビア急進党は、新ユーゴ連邦のコンティッチ内閣に対する不信任案を提出。
10/25:
・ボスニア・ラジオは、ボスニア政府と内務省警察が、ボスニアの旅団司令官2人と兵士146人に対し外国人報道陣や援助関係者を標的にした恐喝や強盗事件に関与したとの容疑で身柄を拘束し、逃亡した指揮官を指名手配したと報じる。
10/29:
・ボスニア幹部会は、8月にクロアチア人のアクマジッチ首相が幹部会を離脱した後を受け、強硬派のムスリム人のシライジッチ外相を首相に任命し、新内閣の閣僚名簿を承認する。新内閣の21閣僚の内、4人はムスリム人勢力に近いセルビア人とクロアチア人で、残りは全てムスリム人で構成。
・EC首脳会議は、ボスニア紛争に関する「人道援助の輸送確保のため、適切と思われるあらゆる措置を取る」との特別宣言を発表。
11/01:
・マーストリヒト条約の発効により、欧州連合・EUが発足する。
11/08:
・国連総会は、国際刑事裁判所設置について論議を始める。国連関係機関の国際法委員会・ILCの起草部会が67条の法案を作成する。
11/09:
・ジュネーブ米国際機関代表部に着任したダニエル・シュピーゲル大使は、ボスニアの人道援助支援強化を国連難民高等弁務官事務所・UNHCRとともに行なう、との声明を発表。
・ボスニアのサラエヴォの小学校に砲弾が落ち、児童ら9人が死亡し、70人が負傷。
・ボスニアのモスタル市でクロアチア人勢力とムスリム人勢力との間で激しい戦闘が行なわれ、1566年に建造されたネレトヴァ川にかかる由緒ある石橋・スターリ・モストがクロアチア人勢力側の砲撃で破壊される。
11/10:
・ボスニアのサラエヴォが砲撃を受け、子ども3人を含む8人が死亡、40人が負傷。
11/11:
・独・仏両政府はボスニア紛争の打開策として、「ボスニアのセルビア人勢力が領土面で譲歩すれば、新ユーゴ連邦への経済制裁を緩和する」との共同提案を提示。
11/12:
・新ユーゴ連邦のセルビア社会党は独仏の提案について、「領土問題で取り引きすることはない」との声明を発表。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、「新ユーゴ連邦への経済制裁解除は、和平案調印と同時に実施されなければならない」と述べる。
・ボスニアで戦闘を展開しているのは、サラエヴォを除くと、モスタル市その他でのクロアチア人勢力とムスリム人勢力間の攻防戦のみとなる。
11/14:
・ボスニアのクロアチア人勢力とムスリム人勢力との間で戦闘が激化したバコヴィチとフィニツァで、ムスリム系の2つの病院から職員が570人の入院患者を置き去りにしたまま避難する。
11/15:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「セルビア人、クロアチア人、ムスリム人の3民族による統一国家は最早不可能になった」との声明を発表。
11/16:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ボスニアの紛争地帯への避難民向けの物資輸送の安全を確保するための紛争3当事者会合に、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領とセルビア人勢力のカラジッチ代表およびクロアチア人勢力のボバン代表が参加すると発表。
11/17:
・「旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTY」の開所式がオランダのハーグで開かれ、フライシュハウアー国連事務次長が声明を読み上げ、11人の判事が宣誓。検察官に就任したラモン・エスコヴァル・サロム(ベネズエラ)も出席する。
11/18:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRが呼びかけたボスニアの避難民向け援助物資輸送の安全を確保する会議が、カラジッチ・セルビア人勢力代表、ボバンクロアチア人勢力代表、シライジッチ・ボスニア新首相が参加してジュネーブで開かれ、安全の保障を盛り込んだ共同宣言に調印する。宣言の内容は、「内戦各派は援助物資輸送の妨げとなる戦闘を停止し、人道援助の活動を保障する。国連や国際人道機関の職員の自由な移動を保障する」など6項目。
・サラエボの病院で働く英国の医療ボランティアは、燃料不足のため生命に危険のある緊急手術以外は、手術を一時停止。
11/19:
・南ドイツ新聞は、旧ユーゴスラヴィアでの女性に対する集団暴行などに抗議し、19日発行の週刊冊子の表紙に女性の血液をまぜて印刷。「女性が殺されれば、それが何処であっても、私は目覚める」と赤い字で印刷。米国の女性芸術家ジェニー・ホルツァーの作品。
・ボスニア中部のゴルバクフやオロボでは、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力間で激しい戦闘が展開される。
11/22:
・EUは臨時外相理事会をルクセンブルグで開き、ボスニア紛争の和平交渉を進展させるために、今月29日に全紛争当事者とEU外相と国連関係者による拡大会議をジュネーブで開催することを決める。この和平会議の枠組みは、「1,和平交渉の障害になっている領土問題の解決。2,合意内容を国際的に確認する第2回ロンドン和平会議の開催。3,国家再建のための第3回和平会議の開催」など。
・EU外相理事会のクラーク・ベルギー外相は記者会見で、「当事者が協力を申し合わせた援助活動を妨害する武装勢力があるとすれば、武力で対抗するしかない。これは12ヵ国共通の立場だ」と述べる。
11/23:
・旧ユーゴ和平国際会議スポークスマンは、EUがボスニア紛争をめぐる拡大和平会議開催を決めたことを受け、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、ボスニアの紛争当事者各派の代表と軍司令官に招請状を送付したことを明らかにする。
11/24:
・朝日新聞によると、ボスニア紛争には外国人傭兵・義勇兵が大量に流れ込んでいる。
ムスリム人勢力側;イラン、パキスタン、トルコ、サウジアラビア、シリア、スーダン、エジプト、アルジェリア、ムジャヒディンなど3000~4000人で、派遣費用はサウジアラビアなどアラブ諸国が提供。ボスニアにいる兵士の総数は25万人で、この中に2万人の外国人雇い兵や軍事顧問がいる。武器も人道援助物資とともに流入している。7月にスロヴェニアの空港で発覚した武器密輸事件は氷山の一角で、リュブリャナの北東150キロにある国内線専用空港の税関職員が人道援助物資のコンテナを開けたところ、12個のうち11個から大量の武器が発見され、1個のみが食料や毛布が詰められていただけだった。武器が発見された11個のコンテナには、自動小銃1万950丁、弾丸75万7500発、迫撃砲40門、ロケット発射台20台、ロケット弾180発、地雷994個で総量120トン、2000万ドル相当。武器の発送地はスーダンで、発送者は「欧州児童基金」というNGO。発送者のスーダン人とオーストリア人のうちオーストリア人はハンガリー当局にスパイ容疑で逮捕されたが、この人物は航空会社のオーナーであり、自社のヘリコプターの色を塗り替え、赤十字やUNHCRなどのマークをつけてボスニアに武器を何度も運んでいた。駐スロヴェニア英国大使が、空港所長宛に物資運搬に便宜を払ってもらったことへの礼状を出していたことが後に発覚する。
クロアチア人勢力側;クロアチア共和国軍本体や兵士の他、ドイツのネオ・ナチの若者や英、米、仏などの軍隊経験者などが雇い兵として加わっている。
セルビア人勢力側;セルビア共和国本国の兵士の他、同じ正教国のロシアの義勇兵や旧ソ連でセルビア人勢力が雇った兵士がおよそ1000人、ルーマニアやギリシャなどからの雇い兵もいる。セルビア人勢力側の資金は、セルビアの実業家や共同体などが出している。
註;国連総会は89年2月の本会議で、「雇い兵の募集、使用、資金提供、訓練を禁止する国際条約」を採択したが、批准したのは22ヵ国にすぎず、発効していない。
・米軍機A10戦闘機が、ボスニアで飛行訓練中に実弾を発射。
11/28:
・ボスニアのサラエヴォ市中心部が砲撃を受け、市民5人が死亡し、5人が重傷を負う。
11/29:
・EUと国連関係者と紛争当事者によるボスニアの拡大和平会議がジュネーブで開かれ、独仏の和平案が検討される。EUの基本的な立場;「1,セルビア人勢力がボスニア政府に対して領土面で譲歩する。2,ボスニア政府は領土問題の重要性を確認する。3,クロアチア人勢力はボスニアに与えた海への通航と港湾利用に関する譲歩を確認する。4,合意が出来れば新ユーゴ連邦への制裁を段階的に緩和するようEUは努力する」など。EU議長国のクラーク・ベルギー外相は、「完全な解決が無理でも、そのための基礎づくりをしなければならない」と語る。
・フランス人最後の傭兵隊長といわれるボブ・デナールは、「傭兵隊は各地で米CIAや英MI6や仏DOSEなどに利用されたが、アフリカでは独立に貢献した。しかし、現在の旧ユーゴスラヴィアにおける傭兵には大義はない」と語る。
11/00:
・明石康国連事務次長が、国連ユーゴ問題特別代表に任命される。正式就任には国連安保理の承認が必要となる。
・ボスニアのムスリム人はボスニア人会議を開き、1967年以来ユーゴスラヴィア連邦で民族として認められてきたムスリム人という民族概念を放棄し、ボシュニャクという名称を採用する。
註・ボスニアの3民族すべてを表すようなボシュニャクに改称したのは、米国がイスラム教徒を支援しているという印象を薄めるために米国内向けに行なったもの。
12/01:
・ボスニア拡大和平会議で、ボスニア政府とセルビア人勢力が領土問題について協議を継続し、サラエヴォの分割が話し合われる。
12/02:
・ボスニア拡大和平交渉の当事者協議は、領土問題について折り合いがつかず、物別れに終わる。
12/07:
・旧ユーゴ問題担当の明石康国連事務総長特別代表は、現地視察のためジュネーブから国連保護軍の本部があるクロアチアのザグレブに入る。明石特別代表は、「任務は困難で複雑だと承知している。しかし、忍耐と根気を持って柔軟に対処すれば、多くの問題が乗り越えられると信じている」 と語る。
12/10:
・明石康国連特別代表はボスニアのサラエヴォを訪問し、「空港から町に行く途中では9割以上の家並みが破壊され、凄惨な戦争の後がある。至る所で援助物資が輸送出来ない激しい状況が報告された」と語る。明石特別代表は、国連保護軍・UNPROFORも視察し、フランス部隊の外人部隊の中に6人の日本人がいることを知らされる。
・ボスニアのクロアチア人勢力スポークスマンによると、指導者のボバン代表が22の収容所にいるムスリム人勢力の捕虜4300人の兵士全員を、1週間以内に解放することを決定したと述べる。
12/12:
・クロアチア共和国のセルビア人地域、「クライナ・セルビア共和国」で、独自の大統領と議会を選ぶ選挙が実施される。
12/14:
・クロアチアのザグレブ放送は、ボスニア政府と対立している「西ボスニア自治州」のムスリム人勢力が、ボスニア拡大和平交渉に代表団としての出席を要求している、と報じる。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、クロアチアのセルビア人地域の「クライナ・セルビア共和国」の大統領選挙で、強硬派のクロアチア・セルビア民主党のバビッチがマルティッチを大きく引き離しており、議会選挙でも民主党が第1党となる勢い、と報じる。
12/16:
・コール・ドイツ首相は記者会見で、「EUの数カ国が、旧ユーゴスラヴィア連邦のマケドニア共和国と正式に国交を結ぶ方針であること、マケドニア共和国を政治的に支援するには現時点が最も相応しい」などと語る。
12/19:
・新ユーゴ連邦セルビア共和国が議会選挙を実施。セルビア共和国議会は、1院制で定数250人。有権者は、およそ700万人。
・フランスのレオタール国防相は、「旧ユーゴスラヴィア紛争が政治的に解決されない場合、国連保護軍に派遣している欧州各国の部隊は撤退する可能性がある」と述べる。
12/20:
・新ユーゴ連邦セルビア共和国の議会選挙の非公式集計で、ミロシェヴィチ大統領の社会党が第1党にとなる。
12/21:
・ボスニア拡大和平交渉が、紛争当事者とセルビア共和国大統領およびクロアチア共和国大統領が参加してジュネーブで再開される。22日にはEU外相が参加し、ブリュッセルで協議が行なわれる予定。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国議会選挙の中間集計で、社会党が122議席を獲得、セルビア民主運動が44議席、セルビア急進党が41議席,民主党が29議席となる。
12/22:
・ボスニア拡大和平交渉がブリュッセルのエグモン宮で行われ、主として領土配分について協議。ボスニアのセルビア人勢力とクロアチア人勢力の共同提案ではムスリム人側への領土配分を30%から33.3%とし、EUの主張する3分の1配分に応じる。
・ボスニア政府のシライジッチ首相は3分の1案に対し、「東部地域の処理などに問題がある」と難色を示したが、協議の末33.3%配分、および「クリスマス停戦」で合意する。
・セルビア人勢力は、拡大和平会議共同議長の「首都サラエボを国連保護軍の管理下に置くこと、および北東部トゥズラ空港の再開を求めること」の和平案については拒否する。
12/24:
・ボスニアのサラエヴォでは、「クリスマス停戦」が破られ、砲撃や銃撃戦が行なわれる。
12/25:
・朝日新聞によると、国連による経済制裁決議を受けて1年半余りで、新ユーゴスラヴィア連邦のセルビア共和国は経済状況が極度に悪化。年間インフレ率が95億%という天文学的数字になり、1マルクが800億ディナールで紙幣は紙くず同然となり、最も嫌われているドイツマルクが流通している。市民の平均月収は、10マルク(650円)にまで落ち込む。10月に100万分の1のデノミを実施したが、1月に再度10億分の1のデノミを行なう予定。現在の最高額紙幣は、5000億ディナール。
12/30:
・クロアチアのHINA通信によると、ボスニアの首都サラエボから脱出したムスリム人住民とクロアチア人住民の子どもや高齢者などの避難民750人が、バスに分乗してクロアチアの港町スプリトに到着。
12/31:
・ボスニアのサラエヴォで激しい砲撃戦が展開され、5人が死亡し、38人が負傷。サラエヴォの国連保護軍司令部の近くに砲弾が当たり、司令部の一部が破壊されたが怪我人はなし。
93/00:
・米クリントン政権は、「オペレーション・ルーツ」を策定。CIAとドイツの連邦情報局・BNDが協力し、新ユーゴ連邦のコソヴォ自治州、ヴォイヴォディナ自治州、モンテネグロを新ユーゴ連邦から分離するという作戦。作戦では、コソヴォ解放軍・KLAが最初の武力攻撃を行なうというもの。
・セルビア共和国警察は、コソヴォ自治州のコソヴォ軍創設計画書類を発見する。計画書類には、コソヴォ自治州に国防省を設置し、武装反乱のための18旅団4万人の近代兵器で武装した軍隊を組織するとしている。既に、コソヴォ自治州では88年にアルバニア系住民による武装組織の一派であるコソヴォ解放軍・KLAが結成されており、散発的な武力襲撃が繰り返されている。
・米情報将校ジェームズ・バーデューは、ボスニアのムスリム人勢力に米軍の武器を横流しする。
・クロアチア共和国政府は、IMFとの借款交渉に合意し、協約に従って国家予算の大幅削減を実施したことで財政および通貨政策を通して自国内の資源を動員することができなくなる。公式失業率、91年15.5%、93年19.1%。
・マケドニア共和国政府は、IMFの提示した「システム転換促進プログラム」を受け入れ、特別融資の体制転換基金・STFを得るために経済改革政策を導入し、財政を半分に削減し、公企業を競売し、信用貸付の凍結と実質賃金の低下に同意する。その結果、産業基盤が崩壊して大規模な失業が発生。
1993/00:
・旧ユーゴスラヴィア連邦全体の国内総生産・GDPは、90年比でマイナス50%となる。
01/03:
・ユーゴスラヴィア問題担当の明石康国連事務総長特別代表が、ザグレブの国連保護軍・UNPROFOR本部に正式に着任する。
明石国連特別代表は、クロアチア、ボスニア、マケドニアに展開する国連保護軍1万7000人の代表としてボスニアの紛争処理および旧ユーゴスラヴィアでの国連活動の総指揮を執る。明石特別代表は「国際援助は紛争各派の誠意によってのみ可能だ。紛争は政治的手段によって平和的に解決する必要がある」と語る。
01/05:
・国連保護軍・UNPROFORのボスニア・ヘルツェゴヴィナ部隊のブリクモン司令官(ベルギー)が、必要な人員を確保できていないこと、非能率なことなどを批判して辞意を表明。後任は、英陸軍ローズ中将。
01/06:
・明石国連特別代表はザグレブの国連保護軍本部で日本の記者団と会見し、「ユーゴスラヴィアに展開する国連保護軍は国連憲章7章に基づき武力行使を認められているが、武力の使用は可能な限り回避する」との認識を示す。
註;明石国連特別代表は、これまでセルビア人勢力側のみに要求されていた武力行為の禁止を、敵対関係にあるムスリム人勢力およびクロアチア人勢力にも求め、またサラエヴォ市周辺に拠点を置くセルビア人およびムスリム人の両勢力に重火器の武装解除を要求した。このことが、国連およびNATOを味方だと捉えていたムスリム人勢力とクロアチア人勢力の反発を招くことになる。
・ボスニアの首都サラエヴォでは戦闘が激化し、8人が死亡し、60人が負傷。サラエヴォ空港も攻撃を受け、国連保護軍が断続的に空港を閉鎖していることから明石国連特別代表はサラエヴォ訪問を延期する。
01/08:
・日本外務省旧ユーゴスラヴィア調査団の柳井俊二代表は、明石康国連特別代表を訪ね、日本の協力のあり方について意見交換を行なう。明石特別代表は、「日本が欧州を含めた世界の安全に関心を持つことは重要だ。マケドニア共和国について協力の可能性を探れるのではないか」と述べる。
01/10:
・NATO首脳会議は、ボスニア内戦で国連保護軍が危険に曝されるなど深刻な事態を打開するために、93年に決定した空爆計画を実施に移す用意があることを共同声明に盛り込むことで一致。
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領とクロアチアのトゥジマン大統領との間の話し合いが、ドイツのボンで行なわれる、領土分割やアドリア海への通行問題などの合意を見ないまま終了。
01/12:
・ガリ国連事務総長は、ジュネーブでシュトルテンベルグ旧ユーゴ和平国際会議共同議長と明石国連特別代表に会い、ボスニアの空爆の可能性について検討するように指示。
01/16:
・日本外務省のユーゴ問題調査団の柳井俊二代表がブダペストで記者会見を開き、マケドニアに予防展開している国連保護軍・UNPROFORへの軍事監視要員の派遣について「検討する価値はあるのではないか」と述べる。
01/18:
・オーエン・シュトルテンベルグ和平国際会議両共同議長の仲介で、ボスニアのムスリム人、セルビア人、クロアチア人各勢力の3当事者による和平交渉がジュネーブで再開され、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領が参加する。NATO軍の空爆圧力が高まる中で、領土の3分割交渉は難航。
・フランス国防省は、ユーゴスラヴィアの国連保護軍のあり方に不満を表明していた司令官ジャン・コット将軍を召喚し、後任を充てることを明らかにする。
01/19:
・新ユーゴ連邦とクロアチア共和国は、ジュネーブにおいて相互の首都に代表部を2月15日から設置することで合意。
01/20:
・新ユーゴ連邦が新経済政策を実施。アブラモヴィチ中央銀行総裁は、「外貨の裏付けのある新通貨ディナールがインフレを完全に抑え込んだ」と胸を張る。1ディナールを1ドイツ・マルクに固定。通貨量は外貨準備の裏付けを伴う範囲に抑える。昨93年末のインフレは年率数10億%。今年94年の2月の物価上昇率は0.6%。昨年までの最高額紙幣は5000億ディナール。現在は20ディナール。給料の平均は80ディナール(およそ5000円)。
・工業の生産水準は、89年を100とすると、91年65%、92年45%、93年8月32%。
01/22:
・ボスニアの首都サラエヴォ市内の住宅地に砲弾が落ち、子ども6人が死亡、3人が負傷。どの勢力が打ち込んだのかは定かではないが、ボスニアのシライジッチ首相はガリ国連事務総長に「国際社会を侮辱した行為である。サラエヴォ周辺のセルビア側陣地への空爆を要求する」との書簡を送る。
01/23:
・国際議会人会議が北欧、中東、アジアなど30ヵ国180人が参加してクアラルンプールで開かれ、ボスニア紛争に関するジュネーブ和平交渉に代わる国際会議開催を求める宣言を採択。
01/25:
・米・英・仏3ヵ国の国連大使は、スレブレニツァの保護軍の交替とトゥズラ空港の再開をセルビア人勢力に認めさせるために必要なら空爆を行なうべきだと促す。フランスは「領土分割」で、米国に対しムスリム勢力に譲歩を迫るように求め、米地上軍を投入すべきだと要請。米国は、「ボスニア政府に圧力をかけろというフランスの要求は意味が通じない」とはねつける。カナダのクレティエン首相は、「いまやカナダの伝統的な平和維持活動での役割を縮小すべき時だ」と述べる。カナダ軍兵士は昨年、セルビア人勢力に11人が模擬死刑で威嚇され、今もムスリム人地区で150人が身動きが取れない状態にある。
01/28:
・ボスニアのモスタル市で、イタリア国営TV局のチームがムスリム人地域を取材中、クロアチア人勢力から砲撃を受け、記者とカメラマン技術者の3人が死亡する。
01/30:
・ボスニアのセルビア人勢力軍司令部は、NATO軍の空爆論に対抗して総動員令を出す。
02/01:
・明石国連特別代表はボスニアのセルビア人勢力が出した総動員令について、「状況は深刻で緊張が高まっている」と強い懸念を表明。明石特別代表はサラエボを訪れ、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領とシライジッチ・ボスニア首相と会談。
02/04:
・サラエヴォ市のドブリニャで、人道支援物資を受けるために並んでいた市民の列に砲弾が撃ち込まれ、20人以上が死亡。
02/05:
・サラエヴォのムスリム人地区にあるマルカレ青空市場に迫撃砲弾が撃ち込まれ、死者は51人、負傷者は80人以上。
02/06:
・サラエヴォの青空市場への砲撃の現地を明石国連特別代表が視察。死者は68人、負傷者は200人となる。
・ボスニア政府は緊急閣議を開き、砲撃はセルビア人勢力によるものだと断定する声明を発表。イスラム諸国はセルビア人勢力によるものとして一斉に非難。セルビア人勢力は強く否定し、「事件は世界の同情を誘うためにムスリム人勢力が仕組んだ自作自演の工作である」と反論。クリントン米大統領は緊急会議を招集。
02/07:
・EU外相理事会がブリュッセルで開かれ、サラエヴォ包囲網を解くために空爆の必要性を容認する声明を出す。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、サラエボの非武装化と国連管理に応じる、と旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長に表明する。さらに、「セルビア人への空爆が実施された場合、外国人は安全ではないだろう。我々はあらゆる手段を用いて防衛する」と語る。
・ボスニア議会は、ボスニアを4つの自治州に分けるという国家形態について審議し、10日からジュネーブで始まる和平交渉に新提案として提示することを決める。
02/08:
・ボスニアのクロアチア人勢力の強硬派マテ・ボバン代表が、クロアチアのトゥジマン大統領と対立して辞任する。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、マルカレ青空市場の死者は68人ではなく数人であり、遺体の一部は作り物であることが明らかになったと語り、「この事件はムスリム人勢力による自作自演の陰謀である」と述べる。
02/09:
・NATO加盟16ヵ国大使級協議が開かれ、米国は「1,和平交渉へのより深い関与。2,セルビア人勢力への撤退と空爆要請の判断は現場の国連司令官に委ねる」などの対応策を説明。
・フランスは、首都サラエヴォから2,30キロ以内を対象に1週間から10日以内の期限を切って砲撃部隊の撤収と重火器の放棄を求め、応じない場合空爆に訴える「最後通告案」を主張し、さらにこれが実現しない場合、国連保護軍に参加している仏軍6000人の引き上げを示唆。
・カナダは空爆に慎重な姿勢を示す。
・ギリシャはNATO軍による空爆に反対する。
・ロシアのコーズィレフ外相は、ガリ国連事務総長に書簡を送り、「どんな空爆も、国連の人道支援活動を脅威にさらし、悲惨な結果を招く」として、政治的な解決を主張。
・NATOの大使級協議は、10日間の期限を切ってサラエヴォから20キロ圏内の重火器撤去を通告する。
・ボスニアの国連保護軍ローズ司令官は、ボスニアのセルビア人勢力とムスリム人勢力がサラエヴォでの即時停戦で合意すると共に、サラエヴォを包囲する火砲を撤去することに応じたと語り、セルビア人勢力が10日間に火砲の撤去を完了するとの見通しも明らかにする。
・国連とNATOの仲介により、首都サラエヴォ周辺の停戦が実現する。
・クリントン米大統領は記者会見で、ボスニア紛争に関与する米国の国益について、「1,紛争の周辺国への拡大防止。2,NATOが冷戦後の欧州で依然頼れる力であることを示す。3,難民流出を緩和する。4,人道的観点」を上げ、「これらの国益は、米国の単独介入まで正当化するものではないが、米国の関与と指導力発揮は正当化する」と述べる。
02/10:
・ボスニアをめぐる旧ユーゴ和平国際会議がジュネーブで開かれ、ムスリム人勢力、セルビア人勢力、クロアチア人勢力が参加。
・セルビア人勢力は、和平交渉に先立ちNATOの通告に強い不満を示し、またサラエヴォの青空市場の砲撃はムスリム側が仕掛けたものだとして真相解明のための国際調査団設置を求める。
・ムスリム人勢力のシライジッチ首相は、重火器を国連の管理下に置く用意があることを明らかにする。
・ボスニアの反政府ムスリム人の「西ボスニア共和国」の拠点ビハチで、ボスニア政府軍との戦闘が続いている。「西ボスニア共和国」のビハチは、93年9月にボスニア中央政府の強硬路線から離れて独立を宣言した地区。ボスニア政府軍のビハチ攻撃に対し、セルビア人勢力が現地のムスリム人への支援のための反撃に参加。
02/11:
・ガリ国連事務総長は、NATO軍がボスニアのサラエヴォ市のセルビア人勢力への空爆を通告したのに伴い、明石国連特別代表に自衛のための武力の行使を行なう権限を与えたことを明らかにする。
・ボスニアのサラエヴォでムスリム人およびセルビア人の両勢力が、重火器の一部を国連保護軍に引き渡し始める。
02/12:
・ジュネーブで開かれていたボスニア和平会議は、EUが93年11月に提案した和平の枠組みを基本に交渉を続けることで合意し、2月末の再開を申し合わせて終了。
・ドイツ検察庁は、ボスニアのムスリム人に対する虐殺行為に加わった疑いで、オマルスカ収容所のセルビア人元看守といわれるドゥシュコ・タディチ容疑者をミュンヘンで逮捕する。
註;後に、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYの起訴1号とされる。
02/13:
・ペリー米国防長官はボスニア問題について、空爆が実行された場合でも期待通りの効果を生まなければ空爆の規模や対象地域を拡大するといった措置を、「既に検討済みだ」と言明。
02/14:
・ロシアのグラチョフ国防相はドイツのナウマン連邦軍総監との会談で、NATO軍のサラエヴォのセルビア人勢力への空爆には反対すると述べる。
02/16:
・国連保護軍の調査チームは、2月5日のサラエヴォのムスリム人地区青空市場への砲撃は、「どちらの勢力によっても可能だった」との調査結果を発表。
註;西側の軍事専門家によると、120ミリ迫撃砲による致死範囲は最良の条件でも50メートル程度であり、市場のように多くの人間がいる場合には人間の身体が遮蔽物になるため270人の人間が一度に死傷することは考えられない。現場近くの窓ガラスが壊れておらず、卵やジュース瓶がそのまま壊れずに残っている。迫撃砲弾は下から上に向かって破裂するのに、死傷者は下半身だけをやられている人が多い。爆発によるくぼみが、地上にはっきり生じていない。証拠品となる砲弾の破片が散逸し、発射地点を割り出すのが困難。迫撃砲弾の飛来音を聞いていない。この攻撃は、セルビア側が打ち込んだ可能性があるとのニュースが流され、セルビア非難が湧き上がったが、後にムスリム人勢力の工作によるものとの見方が有力となる。
・米国務省当局者は、国連が求めたサラエヴォでの国連保護軍のための米軍部隊の派遣について拒否したことを明らかにする。
・ボスニア・セルビア人勢力のバチェヴィチ国防相はNATO軍の空爆に関し「実施されればあらゆる手段を使って防衛する」と述べる。
・ギリシャのパパンドレウ首相は、旧ユーゴ連邦のマケドニアが「マケドニア共和国」の国名を使用することに抗議し、駐マケドニア・ギリシャ領事館を閉鎖。マケドニア共和国のテッサロニキ港湾の使用について、人道援助以外は認めないと発表。
02/17:
・NATO軍は、北イタリア・アビアーノなどの各基地にA10、F15Eなどの対地攻撃機を待機させ、アドリア海には米サラトガ、英アークロイヤル、仏フォッシュの3隻の空母が展開し、対地攻撃機200機が集められる。
・ボスニアに展開する国連保護軍とNATO軍との間に、ボスニアの各勢力の所有する重火器の管理について解釈の違いが出ている。NATOはサラエヴォの中心から20キロ以内にある重火器は全て撤去するか、国連の管理下に置かなければならないと考えているのに対し、国連保護軍は監視下にあればある程度武器が残っていてもかまわないとの考えを持っている。
・明石国連特別代表は、「国連保護軍の空爆対象は停戦違反をした全ての勢力である」と言明。これに対し、NATO軍は空爆対象をセルビア人勢力に限定すると表明している。
・ロシアのコーズィレフ外相は、ボスニアの空爆問題についてベルギー、ドイツ、ギリシャと話し合うためにギリシャのアテネを訪問。ボスニア空爆について「全ての関係国との話し合いがないままで、一方的に行なわれることがあってはならない」と慎重な姿勢を示し、ムスリム人勢力に対してもサラエヴォの重火器撤去に応じるよう圧力をかけることを西側諸国に要請。一方、ロシアのチュルキン大統領特使がボスニアのセルビア人勢力と意見を交換し、セルビア人勢力が重火器を撤去する代わりに、ロシアの平和維持部隊を展開させてセルビア人勢力の安全を図るという提案で説得する。
・ムスリム人勢力のサチルベイ国連大使はロシアの提案に対し、「ロシアが介入しても情勢を悪化させるだけ」と受け入れを拒否。
・クリントン米大統領はラジオ局のインタビューで、「我々はセルビア人勢力に明確なメッセージを送った。サラエヴォを守り、和平合意を達成するチャンスを本当に得た」と述べ、NATOが空爆を辞さないとしてセルビア人勢力にサラエヴォの重火器撤去を迫っていることが、和平に繋がるとの見方を示す。
02/18:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、同武装勢力が19日夜までにサラエヴォ市周辺の重火器を全て撤去すると語る。
・フランスの民放TF1は、NATO軍の空爆の最後通告の引き金になったサラエヴォの青空市場の砲撃は、「前線から1.5キロの地点に設置されたムスリム人勢力の迫撃砲によるもの」と報じる。TF1の判断の根拠は保護軍の報告書だとしている。サラエボヴォの保護軍スポークスマンは「デマ情報」と否定。ジュッペ仏外相は砲弾の発射地点を突き止めることは不可能というのが唯一の報告書だと語る。
02/19:
・明石国連特別代表はボスニアのサラエヴォに入り、近郊にあるセルビア人勢力の拠点バレでカラジッチ代表と会談。20日までにセルビア人勢力がサラエヴォ周辺の重火器を撤去するか、国連保護軍の管理下に置くよう最大限の努力を払うことで一致したことを明らかにする。
・ドイツのコール首相とロシアのエリツィン大統領がボスニア問題について電話で会談し、米・英・仏・独・露の5ヵ国首脳会議を早期に開くことで意見の一致を見たことを表明する。
02/20:
・明石国連特別代表は、ボスニアのセルビア人勢力が進めているサラエボ周辺からの重火器の撤去作業は、積雪などのために期限の21日までには終わらない見通しを示し、「管理は一段と厳しく、効果的になっている。たとえ期限内撤去が実現しなくとも、これが空爆要請の充分な理由にはならない」と空爆に消極的な立場を示す。
・イタリアでのNATO国防相協議に出席したレオタール仏国防相は、「相当数の重火器を撤去した模様だ」と発言。同国防省の関係筋によれば、75~80%は撤去ないし移管を完了したという。
・ペリー米国防長官は、「妥協はしない」と米国などは期限以内に完了しない場合は空爆を実施するとの強硬姿勢を崩さず。イタリアのアビアーノ空軍基地では、空爆のために配備されたNATO軍の空軍機が演習のピッチを上げる。
02/21:
・NATO軍は午前1時3分、サラエヴォの上空に偵察機を送り込むが、爆撃はせず。
・ボスニアのセルビア人勢力は、サラエヴォ周辺からの重火器の撤去または国連への移管作業を積雪の中で続行。セルビア人勢力の拠点パレにはロシアの国連保護軍が進駐する。
・新ユーゴ連邦のヨバノヴィチ外相は、「NATO軍による一方的な空爆最後通告が繰り返されれば、紛争を解決に導くことは無理だ」と述べ、「サラエヴォ方式」がムスリム人勢力に有利に働く形で他の紛争地域に拡大されることへの懸念を表明。
・ボスニアのシライジッチ首相はワシントンを訪れ、クリストファー国務長官、レーク大統領補佐官らと会談。
・仏ジュッペ外相は、「まだ一歩に過ぎず、越えるべき多くの障害がある。これから数日の、数週間の目標はサラエヴォを国連の統治下に置くことだ」と語る。
02/22:
・ボスニア紛争をめぐる国連、米国、EU、ロシア、カナダの担当者会議がボンで開かれ、サラエヴォの非武装化を契機に包括的な和平を目指す考えで一致。サラエヴォ包囲を解く立て役者となったロシアのチェルキン特使は、サラエヴォ方式について「首都は特別な場所であり、この方式を単純に拡大することは出来ない」と述べる。
02/23:
・ロシアのエリツィン大統領は、ボスニアの紛争解決のために、ロシア、米、英、仏、独による5ヵ国首脳会議を開くよう正式に提案。メージャー英首相は、「興味ある考えだ」と賛意を示す。ドイツのキンケル外相は、「その前に解決すべき問題があり、いまはまだ準備段階だ」と慎重な姿勢を示す。
・クロアチア共和国のグラニッチ外相はボンでキンケル独外相と会談し、ボスニアからクロアチア共和国軍の撤退を受け入れる用意があることを表明。
・ボスニアのムスリム人勢力とクロアチア人勢力の軍司令官がザグレブの国連保護軍司令部で、両勢力の間の全面停戦の実現を目指して会談。
02/26:
・ボスニア政府とクロアチア共和国政府およびボスニアのクロアチア人勢力の和平会議が、クリストファー米国務長官の仲介によりワシントンで開かれる。ボスニア政府とボスニアのクロアチア人勢力が、「ボスニア連邦国家」を構成し、その上でセルビア人勢力との和平交渉を進めるのが次の狙いという。
02/27:
・ボスニアのサラエヴォで停戦違反が起こる。迫撃砲による攻撃があり、その内の1件はムスリム人勢力が起こし、2件はセルビア人勢力が起こしたもの。
02/28:
・ボスニア上空の飛行禁止空域で監視活動中の米軍機F16が、G4スーパーガレフ対地攻撃機4機を撃墜し、NATO軍が初の武力行使をする。撃墜されたのはセルビア人勢力の軍用機だと思われる。
・ベオグラードのラジオ放送によると、NATO軍に撃墜された軍用機は、クロアチアのクライナ・セルビア人共和国のウドビナ空港からボスニアに飛来したもの、と伝える。クライナ・セルビア人共和国はこれを否定する。
・クリントン米大統領は、「ボスニアのセルビア人勢力の航空機に着陸するよう2度警告を行なった。自分の知る限り、撃墜を避けるあらゆる努力が行なわれた」と述べ、米国の行動は正当であったとの考えを表明。
・ボスニア中部のノビ・トラブニク郊外にあるムスリム人勢力の爆薬工場が戦闘機による爆撃を受けたと、国連保護軍当局者が語る。
03/01:
・ワシントンで協議していた、ボスニア政府とボスニアのクロアチア人勢力およびクロアチア共和国政府との和平会議は、先に提示されていた3分割案を白紙にし、ボスニアに先ずムスリム人とクロアチア人両勢力がボスニア連邦国家を樹立し、その後クロアチア共和国と国家連合を構成するという構想の2段階の「ワシントン協定」で合意。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表はモスクワを訪れてコーズィレフ露外相と会談し、人道援助物資の供給を可能にするため、ボスニアの北東部のムスリム人居住地域にあるトゥズラ空港の封鎖を解くこと、空港再開に伴いロシア側は現地に監視団を派遣し、空港の利用が非軍事的な目的に限られるかどうかを監視することで合意。
・クリントン米大統領とメージャー英首相はホワイトハウスで会談し、サラエヴォに米英合同で「都市計画ミッション」を派遣することで合意。「ミッション」派遣は稼働停止していた電力、水道施設などを視察し、何が必要かを探るのが目的。
・ベオグラードの独立系テレビBは、ボスニア上空でNATO軍機に撃墜された戦闘機4機のうち1機のパイロットはボスニアのセルビア人である、と報じる。
03/03:
・明石国連特別代表はザグレブの国連保護軍本部で記者会見し、ボスニアに新たな保護軍部隊1万650人の増派が必要であると訴える。オルブライト米国連大使は、「いまは米国が兵力を提供する時期ではない」と国連保護軍の増派を否定。
・フランスのメリメ国連大使は、「フランスは既に6000人の地上兵力を提供しており、これ以上派遣できない」と、増派に応じられないとの立場を示す。
・ボスニア上空で撃墜された軍用機は、クロアチアのセルビア人居住地クライナ地区から飛来したものと確認される。
・ボスニアのサラエボ中心部で、迫撃砲1発が撃ち込まれたことが引き金になり、機関銃や対空砲などを使った戦闘がおよそ10分間続く。
03/04:
・ボスニア2分割案について、ボスニア政府とボスニアのクロアチア人勢力、クロアチア共和国の3者による高官レベルの委員会がウィーンの米国大使館で開かれる。2分割案の構想はボスニアのムスリム人およびクロアチア人両勢力が連邦国家を樹立し、この連邦国家がさらにクロアチア共和国と国家連合を構成するというもの。委員会では、「1,連邦国家の憲法を起草する。2,連邦国家とクロアチア共和国との国家連合樹立についての仮合意をする。3,連邦国家の軍事体制を構築する。4,連邦国家と国家連合樹立促進のための方策を検討する」などについて協議することになる。この2分割案の枠組みにはセルビア人勢力が含まれておらず、同勢力は強い疑念を表明している。
・国連安保理は、ボスニアのサラエヴォ復興計画の作成とボスニアの重点的な保護地域をサラエヴォからモスタルなど3地域にも広げることを検討するよう、ガリ国連事務総長に求める決議900を、全会一致で採択。
03/06:
・サラエヴォのムスリム人住民700人がセルビア人勢力に奪われた住宅の返還を求めて街頭デモを行なう。
・ブルガリアのタンカー、ハン・クブラトが新ユーゴ連邦に対する禁輸措置を破り、ドナウ川を航行してセルビア領内に入る。この行為に及んだ船は、武装グループに乗っ取られた可能性もある。
03/07:
・ボスニアのセルビア人勢力はボスニア北東部のトゥズラ空港の封鎖を解き、同空港を国連保護軍の管轄下に移す。
03/08:
・レッドマン米ユーゴ問題特使は、ボスニア2分割案について新ユーゴ連邦政府と協議するためにベオグラ-ド入りする。
03/09:
・ロシアのコーズィレフ外相はモスクワを訪れたシライジッチ・ボスニア首相およびグラニッチ・クロアチア外相と相次いで会談。ボスニア政府などが提案しているボスニア2分割案の連邦国家形成と国家連合構想について、「ボスニア内のセルビア人勢力との合意達成にも、開かれたものであるべきだ」と述べる。
03/10:
・リフキンド英国防相は、ボスニアの国連保護軍として新たに900人の増派を発表。これによって英軍は3400人となる。
・NATO軍は、ゴラジュデを攻撃したセルビア人勢力への空爆を実行する。
03/12:
・明石国連特別代表は、ボスニア・ビハチ周辺のムスリム人居住地域のセルビア人武装勢力を威嚇するために、NATO軍に対して戦闘機の出動を要請。
03/13:
・ウィーンの米国大使館で、クロアチア共和国政府、ボスニア共和国政府、ボスニアのクロアチア人勢力による「ワシントン協定」の詰めの協議が行なわれる。協議内容;「ボスニアを2分割してボスニア政府とボスニア・クロアチア人勢力がボスニア連邦国家を形成し、さらにクロアチア共和国とボスニア連邦とで国家連合構想を将来予定する」ことでほぼ合意する。ただし、領土配分についての隔たりがあり、ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領はボスニアの60%を主張し、クロアチア人勢力側は54%としている。
03/14:
・クリストファー米国務長官とコーズィレフ露外相がウラジオストックで会談。ボスニア和平問題についてコーズィレフ外相は、「ロシアはボスニアの3勢力が最終的に妥協することに関心を持っている」と語る。
03/17:
・ボスニアのサラエヴォ市内と市外の通行の一部自由化を、ムスリム人勢力とセルビア人勢力で合意。
03/18:
・「ワシントン協定」に基づく「ボスニア連邦」国家の憲法草案の調印式を、クリントン米大統領の立ち会いの下、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領、クロアチア人勢力のズバク大統領がワシントンで行なう。また、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領とクロアチア共和国のトゥジマン大統領は、「国家連合」形成に関する原則に仮調印する。
03/23:
・国連安保理は、ボスニアに派遣している国連保護軍へのトルコ政府の参加を承認。トルコはこれに従って2700名の派遣を発表しているが、ボスニアのセルビア人勢力と新ユーゴ連邦はムスリム国トルコの派兵に強く反発。国連の平和維持活動・PKOのガイドラインでは、対象となる国の近隣国や歴史的に関係の深い国の参加は認めないことになっているが、今回は要員不足でそれが外されことになる。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、「トルコ軍の派遣は、バルカン戦争の礎石になるだろう。トルコが派兵するならば、我々も新ユーゴ連邦軍を国連保護軍としてボスニアのセルビア人勢力地域に派兵するよう求める」と警告。
・ブルガリアのジェレフ大統領は、ガリ国連事務総長に書簡を送り、トルコが直接ボスニア紛争に関与することに反対の立場を表明。
・ギリシャは、「ボスニア紛争をバルカン全土に波及させる恐れがある」として反対の姿勢を鮮明にする。
03/24:
・ボスニアのセルビア人共和国議会は、新ユーゴ連邦に対する国連の制裁が解除されない限り、ボスニアの包括和平の話し合いには加わらないとする決議を採択。さらに、連邦国家樹立構想に対する参加を正式に拒否。
03/25:
・明石国連特別代表は、国連安保理の非公式協議でボスニアの現地情勢を報告。記者会見で、「トンネルの出口は見えた。『1,国連保護軍への追加兵員の派遣。2,和平達成のための保護軍の権限強化。3,政治的な取り組みの強化』などを安保理に要請した」と語る。
03/30:
・クロアチア共和国政府とクロアチアのセルビア人勢力は、ザグレブのロシア大使館で停戦合意に調印。停戦交渉はロシアの仲介によるもので停戦が発効する4月4日、前線から20キロ以内にある重火器を撤去または国連の監視下に置き、その後段階的に兵力の引き離しを行なうというもの。ロシアのチュルキン特使は、「この停戦合意はセルビア人とクロアチア人の関係正常化に向けた道のりの始まりに過ぎない」と語る。
・ボスニア共和国議会とボスニアのクロアチア人勢力の「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国」の議員はサラエボで合同議会を開き、「連邦国家」を規定する憲法を賛成多数で承認する。
03/31:
・国連安保理は、3月末で切れる旧ユーゴスラヴィアに展開する国連保護軍の駐留期限を9月まで延長し、3500人の兵員を追加派遣する決議908を、全会一致で採択。
・ガリ国連事務総長はボスニアに1万名の追加兵力が必要だと報告していたが、米政府が財政的理由などから難色を示す。
04/04:
・クリントン米大統領は、ボスニアのゴラジュデやプリエドルでセルビア人勢力の攻撃が強まっていることに関し、今回は和平交渉が行なわれていることを背景に「交渉を失速させるようなことはしない」と述べる。
04/05:
・ボスニア東部のムスリム人居住地域ゴラジュデにおいて、ムスリム人勢力とセルビア人勢力との間で続いている戦闘で、1週間に市民49人が死亡し、218人が負傷。国連保護軍当局者は、セルビア人勢力の部隊がゴラジュデの近郊10キロの地点にまで迫っており、住民2000人が住居を捨てて避難し始めていることを明らかにする。
04/07:
・ムスリム人勢力のサラエヴォ放送が、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領の指示により、ムスリム人勢力とセルビア人勢力が全土で24時間の停戦に入った、と報じる。
04/08:
・クリントン米大統領は、クリストファー国務長官、ペリー国防長官とボスニア問題で協議。
04/09:
・ガリ国連事務総長は、明石国連特別代表、シュトルテンベルグ旧ユーゴ和平国際会議議長らと協議した後、ボスニア内戦の各派や特にセルビア人勢力のゴラジュデ攻勢について3月末の時点での支配地域まで戻るように呼びかけ、国連保護軍は「可能なあらゆる手段で」この目的を実現するよう指示した、との声明を発表。
04/10:
・国連保護軍のローズ・ボスニア担当司令官(英)は、明石国連特別代表を通じてNATO軍に、国連安保理決議836に基づいた空爆を要請。NATO軍は、ボスニアのゴラジュデを包囲するセルビア人勢力に対し、米空軍機による空爆を実行する。
註;NATO軍の地上への攻撃は、1949年の創設以来初めて。この空爆で、「連邦国家構想」は破綻する。
・ボスニアのセルビア人勢力のグベロ司令官は、「NATO軍機による空爆で民間人に犠牲者が出た」と述べる。セルビア人勢力のカラジッチ代表は、「国連保護軍との接触は全て停止する。和平プロセスは危機に陥っているがその責任は国連にある」と強く非難。
・クリントン米大統領は、空爆は国連からの要請に即時対応したと説明し、「要請があれば再び爆撃を行なう」と強調。
・NATOウェルナー事務総長は、空爆の目的は「セルビア人勢力に圧力をかけて和平交渉のテーブルに付かせるため」と述べる。
・ボスニアのセルビア民主党は、「国際社会は最悪の選択を行った。国際社会はボスニア内戦の当事者となったのだ」と強く反発。
04/11:
・NATO軍は、ボスニアのゴラジュデを包囲するセルビア人勢力に対し、国連の要請を受けて米国主導で再度空爆を実行する。空爆はイタリアのアビアーノ米軍基地から飛び立ったFA-18A戦闘爆撃機2機で実行し、セルビア人勢力の戦車や装甲車を破壊。
・この日、ボスニアのセルビア人勢力はゴラジュデ市への砲撃を再開し、空爆後もゴラジュデ市へのへの砲撃を継続。サラエボ市周辺ではセルビア人勢力が検問所を設置し、国連関係者の通行も制限。
・明石国連特別代表はパリでのジュッペ仏外相との会談後の記者会見で、NATO軍の空爆は「国連保護軍の要請で私が決定した。結果に満足している。ボスニアの和平交渉が正しい方向へ進むと楽観している。状況が求めるならば、更に必要な手段をとる」と語る。
・クリントン米大統領はNATO軍の空爆について、「セルビア人勢力の砲撃で国連要員が危険に晒されているため、国連決議に即して行なった。ロシアとは密接な調整が必要だが、国連は構成国には事前に通告しているはず」と語る。米国防総省は、NATO軍の空爆によるセルビア人勢力の損害について、10日は指令施設の大型テントと近辺の車輌、11日には装甲兵員輸送車3台を破壊したと評価。クリストファー米国務長官は「NATO軍は、必要ならばもう一度行動を取る用意がある」、とセルビア人勢力に対し国連要員への攻撃を中止するよう警告。
・エリツィン露大統領はクリントン米大統領への電話で、「空爆のような問題をロシア抜きで決めることは許されない」と語る。コーズィレフ露外相は、「大きな過ちだ。しかも危険だ」と述べ、NATOとの「平和のための協力協定・PFP」調印は急がないと語り、改革派のユシェンコフ下院軍事委員長は、「空爆は対米、NATO関係に大きな打撃を与えた。調印は無理だろう。下院では改革派も保守派も極右と立場を揃えつつある。つまり空爆はロシアの改革への打撃にもなった」と述べる。
・ロシアのチュルキン特使はセルビア人勢力の拠点パレを訪れ、カラジッチ代表と会談。カラジッチ代表は、「国連は明らかにムスリム人勢力の側に立っている」と強調。
・国連安保理のキーティング議長(ニュージランド国連大使)は、ゴラジュデを包囲するセルビア人勢力だけでなく、ムスリム人勢力に対してもゴラジュデのような安全地域を攻撃の根拠地としないよう声明を読み上げて警告。
04/13:
・ボスニアのサラエヴォで2ヵ月間守られてきた停戦協定が破られ、セルビア人勢力とムスリム人勢力との間で銃撃戦が発生。
・ロシアのチュルキン特使はセルビア人勢力のカラジッチ代表と会談後、同勢力がゴラジュデに攻撃を加えないとの確約を得たと述べる。
・新ユーゴ連邦政府は、同国に入国する国連保護軍兵士に対し、入国査証取得を義務づけると発表。また、保護軍の車輌についても国内移動および入国の際、許可証が必要になるとしている。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、明石国連特別代表とベオグラードで会談。ゴラジュデ空爆について、「和平のためにはならず、戦争を引き延ばし、地域の不安定を深めることにになる」と非難。
・ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ司令官は、「飛来するNATO軍機は全て撃墜する」と国連や西側への敵対姿勢を強める。
・ボスニアのセルビア人勢力は、サラエボなどで国連保護軍・UNPROFORの通行や電話の使用を制限したり、移管済みの武器の集積所に地雷を敷設し、停戦監視要員40人を事実上の軟禁状態におき、フランスの人道支援団体を「武器密輸」の容疑で拘束するなど、強硬な姿勢をとる。
04/14:
・ボスニア北東部のトゥズラ空港が砲撃される。トゥズラ空港は2年余りセルビア人勢力が包囲していたが、3月7日には封鎖が解除されている。
・ボスニアのセルビア人勢力軍はサラエヴォ郊外の国連保護軍の武器集積所に押し掛け、2月に引き渡して保護軍管理下に移管した重火器の返還を要求。さらに、セルビア人勢力軍は国連保護軍のカナダ部隊兵士15人と軍事監視要員3人を拘束する。ゴラジュデ空爆以来、セルビア人勢力軍は既に軍事監視要員50人を軟禁状態においている。
04/15:
・ボスニアのセルビア人勢力軍は、ゴラジュデに対し新たな攻撃を始める。同勢力は町の入り口まで迫り、ムスリム人勢力に武器を引き渡し投降するよう呼びかける。
・ボスニアのセルビア人勢力は、「トゥズラ空港が国連保護軍ではなく、NATO軍の統制下に入った」と非難する声明を発表。声明は、13日NATO軍の輸送機が1機が着陸し、15日米兵150人がマケドニア経由でトゥズラ空港に入り空港官制設備を管理下に置いたのを確認したと表明。
・米国務省当局者は、ボスニアのゴラジュデが陥落寸前と伝えられることへの対応について、NATO軍による再空爆の可能性が高いとの見方を示す。
・米国防総省は、マケドニアに展開している国連平和維持部隊に200人の米兵を増派すると発表。この結果、マケドニア駐留米兵は500人になる。
・ガリ国連事務総長はゴラジュデの空爆について、ニューヨークのロシア当局者に「事前に通告」していたことを明らかにする。
04/16:
・ボスニアのセルビア人勢力軍は、ゴラジュデ市内北部に突入する。
・NATO軍は、明石国連特別代表の「見つけた戦車は全て爆撃して欲しい」との要請を受け、英シーハリアー対地攻撃機2機がゴラジュデを偵察。その内の1機がボスニアのゴラジュデ上空で撃墜される。セルビア人勢力に撃墜された模様。このあと、NATO軍の米A10戦闘爆撃機がセルビア人勢力の戦車部隊を攻撃。
・コーズィレフ露外相は、ボスニア紛争解決のためにセルビアのベオグラードを訪問。コーズィレフ外相は、「NATO軍が空爆前に、我々に相談してさえくれれば、他の方法でセルビア人勢力の頭を冷やすこともできた。また、セルビア人勢力を挑発してきたムスリム人勢力にも警告を与えることができたかも知れない」と語る。
04/17:
・明石国連特別代表は、セルビア人勢力のカラジッチ代表とパレで会談。カラジッチ代表は「1,ゴラジュデへの砲撃を中止する。2,周辺に配置した重火器を撤収する。3,ゴラジュデ周辺3キロにわたる武装解除地帯を設置する。4,国連保護軍350人を配置する」ことなどについて合意する。一方、セルビア人勢力軍のムラディッチ司令官は、ボスニア全土での停戦を要求する。
・ムスリム人勢力は、セルビア側が提案した「包括的停戦はセルビア人勢力の支配地域の固定化につながる」と反対。
・明石康特別代表はイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領との会談後、「ゴラジュデの戦闘は下火になったが、早急に情勢が好転するようには見えない」と語り、イゼトベゴヴィチ大統領はセルビア人勢力の合意について「策略とごまかしである」と述べる。
・コーズィレフ露外相はロシアのTV番組で、「ゴラジュデの包囲解除と全ての戦線での停戦に向けた事態が進めば、セルビア共和国に対する国際的な経済制裁の解除を、断固として提起する」と語る。
・国連安保理は、ボスニアのゴラジュデなどへの軍事攻勢を強めるセルビア人勢力を非難する議長声明を採択。
・クリントン米大統領はボスニアのゴラジュデ攻撃への対応について、新たな空爆を実行する可能性は低い、との見通しを
示す。
・旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長が、セルビア人勢力の説得を行なう。
・ボスニアの首都サラエボでは、国連保護軍に対しセルビア人武装勢力が自動小銃と迫撃砲で攻撃してきたため、英国部隊が応戦。
・セルビア人勢力は、拘束していたカナダ人兵士ら19人を解放する。
・非番の英国部隊兵士1人が何者かに銃撃されて死亡する。
04/18:
・クリントン米大統領は、ボスニアのムスリム人勢力への武器禁輸を米国が単独で解除することについて、慎重な姿勢を示す。
・ボスニアのセルビア人勢力は、ゴラジュデ市への砲撃を再開する。ゴラジュデに駐留している国連保護軍要員11人のうち、NATO軍の空爆を誘導する任務の7人をヘリコプターで避難させる。
・ガリ国連事務総長はNATOのウェルナー事務総長に対し、ゴラジュデなどの安全地域の市民を保護するために、先制的な攻撃を含む本格空爆による支援を決定するよう求める書簡を送付。実際の空爆要請権限は、明石国連特別代表に与えるというもの。
・EU外相理事会は、ボスニア紛争の早期解決のためにEU、国連、米国、ロシアの4者による協議を呼びかける。
・国連難民高等弁務官事務所などがまとめたゴラジュデの被害状況では、死者が300人、負傷者が1075人に達する。
・コーズィレフ露外相は新ユーゴスラヴィアから帰国したモスクワ空港で、「ロシアはボスニアのセルビア人勢力と一切の対話を絶つべきだ」と強い調子でセルビア人勢力の不誠実を非難。
04/19:
・NATO軍の制服組幹部は、ガリ国連事務総長の書簡について協議。尚、20日に常駐大使協議で検討することになる。
・来日した緒方貞子難民高等弁務官は財界人とNGO代表との懇談でボスニア情勢について、「制裁は指導者層より先に弱者に多くの影響があり、限界がある。あらゆる勢力から信頼の得られる、静かな外交力が必要だ」と語る。
・明石国連特別代表のスポークスマンは、セルビア人勢力が「1,ゴラジュデ攻撃を中止する、2,ボスニアで軟禁中の国連保護軍要員を全員解放する」などの条件が満たされるまで明石特別代表は同勢力との会談を行なわないと語り、セルビア人勢力に失望していることを明らかにする。
・コーズィレフ露外相はボスニアの情勢について、「ボスニアのセルビア人勢力は、国際社会の忍耐の限度を超すような試みはやめるべきだ」と語る。エリツィン露大統領は、コール独首相と電話でフランスの首脳会議の提案について協議。
・エリツィン露大統領はボスニアのセルビア人勢力に対し、「ゴラジュデ攻撃をやめて撤退すること。さらに、紛争解決のためにEU、ロシア、米国、国連を加えた緊急サミットの開催を呼びかける」声明を発表。
・ロシアは150人の空挺部隊をボスニアの国連保護軍への追加部隊として派遣する。
・クリントン米大統領は、国家安全保障会議のメンバーと長時間にわたる協議を行なう。クリントン米大統領は、「エリツィン露大統領の声明を高く評価する。大きな助けになる」と語る。
・ボスニアのセルビア人勢力軍は、サラエヴォ近郊で国連保護軍管理下に置かれていた同勢力の対空砲など18門を移動させたが、そのうちの4門を国連保護軍管理下に返還。カラジッチ・セルビア人勢力代表は全てを保護軍に返還するよう命令を出す。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は、「ゴラジュデ中心部の占領は考えていない。NATO軍の空爆は和平の助けにはならない」と述べ、さらにゴラジュデの安全地域の非武装化を要求。
・ボスニアのセルビア人勢力のクライシュニク議長と国連保護軍のアンドレーエフ文民部門代表との間で、「ゴラジュデの即時停戦と保護軍派遣を認める」合意文書に調印。
04/20:
・ボスニアのセルビア人勢力は、ゴラジュデの市内を激しく砲撃。病院にロケット弾が着弾し、患者10人が死亡し、15人が負傷。またアパートにも着弾し、8人が死亡し、10人が負傷。セルビア人勢力はムスリム人勢力が攻撃を仕掛けてきたので反撃したと主張しているが、ムスリム人勢力側はセルビア人勢力による攻撃だと非難。
・NATO常駐大使級協議、ガリ国連事務総長の書簡による提案に、前向きに対応することで一致。
・エリツィン露大統領はクレムリンで開かれた安全保障会議で、ボスニア情勢について「国連安保理の承認なしに空爆するのは受け入れられない。ロシアはボスニア紛争のどちらか一方の当事者の味方ではないが、ボスニア情勢に影響を与えうる立場にある」と語る。
・グラチョフ露国防相はボスニア・セルビア人勢力軍のムラディッチ司令官と電話で会談し、ゴラジュデ攻撃を控えるよう説得。ムラディッチ司令官は統制下の部隊は攻撃を止めたが別の民兵勢力が攻撃を始めたと述べ、セルビア人勢力だけを一方的に批判すべきではなく、「空爆は極端に危険な手段だ」と政治的な解決を主張。
・クリントン米大統領はボスニア紛争について、エリツィン露大統領、ミッテラン仏大統領、クレティエン・カナダ首相と電話で協議し、「サラエヴォ方式による空爆拡大や和平に向けた新たな外交努力を内容とする」米国の対応策を伝える。
・ボルジャー・ニュージーランド首相は、ボスニアへの国連派遣軍の増援を検討していることを明らかにする。
・ボスニア南部のゴラジュデの戦闘は激しさを増し、19日以来44人が死亡、3週間で死者389人、負傷1324人にのぼる。
・ボスニアのセルビア人勢力は、軟禁状態においていた国連保護軍130人の行動の自由を認めて解放する。
・コーズィレフ露外相は、旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長との会見後、ボスニア紛争和平のための「米、露、国連、EUの4者による調停案づくり」を改めて提唱。
04/21:
・ボスニア共和国のサチルベイ国連大使は、「ゴラジュデで遂に市街戦が始まった」と述べる。現地の国連保護軍も未確認情報として、ゴラジュデ市街地にセルビア人勢力が突入したことを明らかにする。
・ボスニアのゴラジュデで救急医療センターに砲弾が撃ち込まれ、死者が28人。
・国連保護軍・UNPROFORの部隊が、サラエヴォからゴラジュデに向けて出発。
・新ユーゴ連邦のヨバノヴィチ外相は、サラエヴォ方式の空爆を拡大する方針をクリントン米大統領が発表したことについて、「ボスニア指導部を新たに後押しするものだ」と激しく非難。
・ロシアのコスチコフ大統領報道官は、ボスニア紛争解決のために米、露、EU、国連の首脳会議が1ヵ月以内に開かれる可能性があり、その準備が進められていると発表。
・ミッテラン仏大統領は緊急首脳会議の実現を呼びかけ、「全ての当事者に受け入れられる唯一の現実的な和平案の基礎は、EU案である」との声明を発表。
・マイヤーズ米大統領報道官は、クリントン米大統領とエリツィン露大統領が電話で会談し、両大統領が「ボスニア問題の解決は話し合いによる合意によってのみ可能で、今後も外交解決の努力を続けることで合意している」と語る。
・国連安保理は、ボスニアのセルビア人勢力に対し、「ゴラジュデの包囲を解くこと。拘束した国連保護軍の要員を即時解放すること。国連保護軍の活動を妨害しないこと。ボスニア政府とセルビア人勢力との停戦協定を即時締結すること。米国、ロシア、EU、国連による和平調停の努力を要請する」決議913を、全会一致で採択。
04/22:
・NATOの大使級協議は、ガリ国連事務総長の要請に応えてボスニアでの空爆を全ての「安全地域」に拡大することで合意。合意内容は;「ゴラジュデのセルビア人勢力に対し、24日までに全ての火器を市の中心部から3キロ以遠に撤退させなければ空爆する」というもの。
・クリントン米大統領はパパンドレウ・ギリシャ首相との会談後にNATOの最後通告について、「セルビア人勢力はNATOの意思を疑うべきではない。我々の断固たる対応に直面した時には、セルビア人勢力も交渉に応じる傾向がある」と語る。
・ボスニア南部ゴラジュデの国連難民高等弁務官事務所・UNHCRの施設の建物正面に砲弾が落ち、市民3人が死亡し、3人が負傷する。
・ボスニア南部のゴラジュデを目指していた国連保護軍は、同市の北方40キロの町ロガティツァから先に進むことを断念し、サラエボに引き返すことを決める。
・コーズィレフ露外相はNATO軍が計画している空爆拡大について、「セルビア人、ムスリム人両勢力の強硬派が望む紛争拡大をもたらすだけで、ボスニア紛争での国連の活動の性格を変えてしまう」と反対。さらに、新ユーゴ連邦セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領ら和平派を助けるために、ロシア、米国、EU、国連の4者の共同和平案を作らなければならないと強調。
・明石国連特別代表はベオグラードを訪問し、ミロシェヴィチ・セルビア大統領やボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表およびセルビア人勢力軍のムラディッチ司令官と会談し、セルビア人勢力が23日までに停戦することで合意した、と語る。
04/23:
・NATOの常駐大使級理事会は、22日に決定した介入姿勢を更に強化し、ゴラジュデ以外でも今後安全地域への新たな攻撃があれば直ちに空爆に踏み切ることを決める。セルビア人勢力への最後通告は、「1,攻撃を直ちに停止する、2,24日午前2時までに街中心部から半径3キロ以遠に撤退する、3,同時に国連保護軍や人道・医療援助チームの移動、救出活動を妨害しない、4,27日までに街中心部から半径20キロ以遠に重火器を撤去する」の4点を要求し、従わない場合は国連側とも調整の上、半径20キロ以内の重火器その他の軍事目標を空爆するとの通告を、ウェルナーNATO事務総長を通してガリ国連事務総長からセルビア人勢力に伝える。ゴラジュデ以外では、サラエヴォ、スレブレニツァ、トゥズラ、ジェパ、ビハチの安全地域が対象に入る。
・NATO軍は、イタリアの9基地とアドリア海の空母に待機する作戦機200機が出動体制を敷く。
・ウェルナーNATO事務総長は、ゴラジュデで23日正午に砲撃があったことを受け、明石国連特別代表に即時空爆を進言したが、明石特別代表はこれを拒否。ウェルナーNATO事務総長は、「中途半端な対応は無用だ、決然とした行動だけが結果をもたらす」と空爆への執着を見せる。
・コーズィレフ露外相は、NATOがゴラジュデを包囲するセルビア人勢力に撤退などの最後通告を出したことに対し、「国連の要請に合致するものだ」と支持。
・ゴラジュデの停戦合意は23日正午に発効したが、セルビア人勢力はまだゴラジュデ市内への砲撃を続けている模様。23日11時30分からの10分間で54発、正午からの1時間に16発の砲弾がが市内に撃ち込まれる。
04/24:
・明石国連特別代表は、NATOの通告にしたがいボスニアのゴラジュデからセルビア人勢力が部隊を撤退させていることで、時間切れになってもNATO軍への空爆要請はしないと表明。
・国連保護軍の部隊はゴラジュデに入り、セルビア人武装勢力の撤退状況の監視を始める。国連保護軍本部は、ウクライナ部隊を主力とする270人に加え、英国とフランスの部隊400人をゴラジュデに向かわせる。ゴラジュデから負傷者の搬送が始まる。
・国連保護軍の報道担当者は記者会見で、NATO軍と明石特別代表とのやり取りの内容の質問には答えず、「我々はゴラジュデでの状況を注意深く見守っている。今は穏やかだという報告が入っている」とだけ語る。
・国連保護軍のローズボスニア駐留司令官はゴラジュデ中心部から3キロ以内のセルビア人勢力の火器撤去について、「全ての重火器は撤去された」と述べ、20キロ以遠への重火器の撤去についても配備していた重火器を撤去し始めており、「セルビア人勢力は最後通告に完全に従いつつあると評価する」と述べる。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRの人道援助物資89トンを積んだ14台のトラックが、ゴラジュデに到着する。
04/25:
・エリツィン露大統領は「ニューズ・ウィーク」誌に、ボスニア紛争について、ロシア、米国、EU、国連による国際会議の開催場所を欧州の中立国とし、これに紛争当事国を招くよう提案。
・ハード英外相はロンドンで、チュルキン・ロシア特使、クリストファー米国務長官、ジュッペ仏外相と会談した後、ボスニア紛争の解決を目指す新しい調整機関として米国、ロシア、EU、国連が連絡協議体を作り、26日に初会合を開くと発表。
・ロシア外務省は、米ロ会談の前にロシアのボスニア紛争に関する基本的な姿勢を発表。「1,ボスニアの安全地域の確保。2,セルビア人勢力とムスリム人勢力の無条件停戦。3,セルビア人、ムスリム人、クロアチア人の将来の地位を限定しない。4,ボスニアでの平和の回復にあわせ、新ユーゴスラヴィアへの制裁を緩和する」など。
・独シュピーゲル誌、明石国連特別代表は「平和のサムライ、アカシの和の破綻」と題する記事を掲載。「対決を避けようという日本人的性格が、同代表に優柔不断という評判をもたらしている。国連の面子が傷ついた」と痛烈に批判。
04/26:
・ハード英外相とクリストファー米国務長官がボスニア問題で会談し、NATO軍が出した27日までにゴラジュデから20キロ以内にある重火器を撤去せよとの通告にセルビア人勢力が応じない場合は、空爆を辞さないとの立場を改めて強調。
・明石国連特別代表は、「2回目の期限は、1回目ほど融通が利かない」としてセルビア人勢力が期限を遵守するよう警告。さらに、セルビア人勢力がゴラジュデから撤退する際に家屋を焼いたり略奪したりしたとして、カラジッチ代表に電話で抗議する。
・明石特別代表はボスニア情勢に関してニューヨーク・タイムズ紙に、「ソマリアの後、米国の立場にはなにかためらいがある。クリントン米大統領は、ボスニアへの米軍派遣を和平達成のあとにしたいのだと、私は理解している。しかし、ゴラジュデのような状況を避けるために、いま追加の兵力を必要としているのだ」などと語る。
・オルブライト米国連大使は、「各国の指導者が、いつどのように平和維持活動に自国の部隊を送るかなどについて批判することは、国際公務員としてあるまじき行為。加盟国の政策を非難すべきではない。誰が給料を払っているのかを思い出すべきだ」と、激しく反論。
・ボスニア・サラエヴォの国連保護軍・UNPROFORのスポークスマンは、ゴラジュデの情勢について、「緩慢ではあるが着実に撤退を続けている」ことを明らかにする。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、セルビア人勢力の話としてムスリム人勢力が撤退するセルビア人勢力の部隊を狙撃している、と報じる。
・ボスニアのセルビア人勢力のSRNA通信は、セルビア人勢力軍司令部がゴラジュデから3キロ以内の部隊撤退と、20キロ以内の重火器の撤去を完了したと述べたと、報じる。
・コーズィレフ露外相はクリストファー米国務長官と会談する前の飛行場で、「国連がNATO軍に空爆を要請することはないだろうが、全てはボスニアのセルビア人勢力自身の立場次第だ」と同勢力の自制を求める姿勢を示す。その後、コーズィレフ外相はクリストファー米国務長官と会談し、両国が政治的解決に向けて協力して取り組んでいくことを確認。
04/27:
・明石国連特別代表は、セルビア人勢力がゴラジュデの中心から20キロ以遠に重火器を撤去させよとのNATO軍の要求に応えて期限内に撤去を完了させたことから、「現在はNATOとも協議した結果、空爆要請の必要はない」と言明。国連保護軍の地上からの監視では、対象の32基のうち使用不能の戦車3輌が見つかっただけ、との内容を明らかにする。
・NATO南欧軍は「撤収確認声明」で、「今後とも安全地域が攻撃されたり、重火器排除違反があれば、空爆する決意に変わりはない」と表明。
註;空爆が問題を解決するのかどうかは明らかではなく、ボスニアのセルビア人勢力がNATO軍の要求に応えたのは、明石特別代表との信頼関係にあり、NATO軍は困難を救われた面がある。
04/28:
・ボスニア北東部一帯で、ムスリム人勢力軍とセルビア人勢力軍の間で激しい戦闘が展開される。北西部ビハチのムスリム人居住地域にも、セルビア人勢力が激しい攻撃を加える。ブルチコでも両勢力の間で戦闘が拡大する。
・コーズィレフ露外相とキンケル独外相はボンでボスニア問題について話し合い、関係国による「拡大外相会議」の開催を提案。
04/29:
・ボスニアのトゥズラ近郊で、国連保護軍・UNPROFORとセルビア人勢力とが交戦し、双方の兵士9人が死亡、4人が負傷。
・ゴラジュデでの戦闘について、ムスリム人勢力はセルビア人勢力が攻撃を開始したと主張しているが、セルビア人勢力は「きっかけはムスリム人勢力が仕掛けたもの」と反論。セルビア人勢力によると、「サラエヴォでの停戦、さらにムスリム人およびクロアチア人両勢力の連邦国家形成の合意が実現した結果、ムスリム人勢力側は余裕のできた兵力を東部のゴラジュデ、ブルチコなどに転進させて攻撃に出た。セルビア人勢力としては応戦せざるを得なかった」というもの。
04/30:
・英インディペンデント紙が明石国連特別代表を紹介した記事の中で、明石特別代表は停戦交渉の中でボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表との会談について、彼が「セルビア人は誇り高い民族であり、空爆の辱めを受けることには耐えられないだろう」と語ったことを披露。その上で明石特別代表は、カラジッチ代表を説得するのに「日本は1941年当時誇りが高すぎ、世界中が敵だとの被害妄想を抱き戦争という不幸な結果を招いた。カラジッチさん、被害妄想についてはよくご存じですね」と念を押し、ことの重大さを警告してセルビア人勢力の譲歩を引き出した、との逸話を記述。
04/00:
・米・英・独・仏・ロの5ヵ国による「ボスニア紛争に関する連絡調整グループ(コンタクト・グループ)」が設置される。
05/01:
・ボスニアのモスタル市近郊で米国の記者団を乗せた乗用車がダムを通過する際に地雷に触れ、マグノリア・ニューズ社と雑誌スピンの記者2人が死亡、1人が重傷を負う。
・オルブライト米国連大使は、明石康特別代表が国連の安保理などの決定に基づくセルビア人勢力への強行策を尊重しなかったことに対し、激しく非難する書簡をガリ国連事務総長に送付。
05/02:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、ムスリム人勢力との間に緊張が高まっているボスニア北部のブルチコについて、「ここをセルビア人勢力が攻撃することはあり得ない」との声明を発表。
05/05:
・ボスニア政府は、セルビア人勢力の戦車がサラエヴォ周辺の重火器撤去地域を通過することを国連保護軍が許可したことに強く反発し、明石国連特別代表の辞任を要求する。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は「明石代表を含む保護軍の行為は、早期和平達成の機会を台無しにした」と激しく非難。背景には、セルビア人勢力がムスリム人勢力のサラエヴォ南部の攻撃を計画していることを理由に、戦車を移動したいと要請し、国連保護軍が一旦許可したが直ぐに取り消したために戦車は移動しなかったことがある。
・サチルベイ・ボスニア国連大使は、ガリ国連事務総長に明石特別代表の辞任を要求すると表明。
・ガリ国連事務総長は欧州国連本部で報道陣に対し、ボスニア内戦の対応について「明石特別代表を完全に支持し、全面的な信頼はこれからも変わらない」と語る。
05/06:
・米国務省は、ボスニアの国連保護軍がセルビア人勢力の重火器と戦車の移動を許可したことについて、「非常に問題がある」と強い反発を示して批判したが、「ボスニア政府の明石代表に対する辞任要求は支持しない。我々は彼の辞任は求めていない。彼にいい仕事して欲しいのだ」と語る。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領はガリ国連事務総長に対し、明石国連特別代表を批判するとともに事実上の解任を求める書簡を送付。内容;「1,安全地域であるゴラジュデ近郊での危機における明石特別代表の行動と決断は、明らかに国連安保理決議やNATOの決定に反している。これらの決断は、侵略者であるセルビア人勢力を助ける以外の何ものでもない。2,明石特別代表はサラエボの重火器撤去地域でセルビア人勢力の戦車に通行許可を与え、侵略者側に立った。3,この結果、セルビア人勢力は堂々と国際社会の決定を踏みにじった」というもの。
05/10:
・ボスニア北部のセルビア人勢力支配地域ブルチコに砲弾が撃ち込まれ、アパートの一家3人が死亡し、13人が負傷。国連保護軍・UNPROFORは、砲撃がブルチコ市の南西9キロのムスリム人勢力地域から2回にわたって発射されたものと確認。
05/11:
ジュッペ仏外相はボスニア紛争に関し、「平和的解決に関する共通の立場を定めて、紛争の当事者に強く提示する必要がある」と述べ、「ボスニア政府・ムスリム人勢力を含む当事者が必ずしも満足できなくても、和平案を飲ませるべきだ」との考えを表明。さらに、 「近い将来に解決の見通しが見えなければ、フランスが国連保護軍に派遣している6000人の兵力を維持していくことはできない」と述べる。
・クリストファー米国務長官は、「和平案を当事者に押し付けることは、紛争解決の最善策ではない」と述べる。一方で、クリストファー米国務長官はムスリム人勢力およびクロアチア人勢力とウィーンで協議し、ボスニア連邦(ムスリム人勢力とクロアチア人勢力の国家)の領土を58%とすることで合意を取り付ける。
・来日中のアルバニアのサレキ外相はユーゴスラヴィア情勢について、「戦争の原因はセルビア人の拡大主義にある。国際社会はセルビア共和国にもっと圧力をかけるべきだ。さもなければボスニアに対する武器禁輸を解除すべきだ」と述べ、さらに国連保護軍やNATOなどの決議があれば、アルバニア国内の軍事施設などを提供する用意がある」と表明。コソヴォ自治州については、「ようやく共和国の代表と将来の地位に関する対話が始まったところだ。国際社会の協力が必要だ」と述べる。
・米国の仲介で、ボスニア政府とヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国の間に「ウィーン協定」が締結される。内容は、ボスニア連邦の大統領、首相、閣僚および領域の配分と、カントン・州を8カントンとしてムスリム人勢力が4,クロアチア人勢力が2,混合地域を2とするというもの。
05/12:
・ガリ国連事務総長は、パリで明石特別代表、国連保護軍のドゥ・ラ・プレル総司令官、「旧ユーゴ和平国連会議」のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長と会い、ボスニア問題への国連の取り組みについて協議。協議後、「我々は、国連の役割の人道的分野の重要性を確認した」と語る。
・ガリ国連事務総長は、「ムスリム人勢力がNATO軍の空軍力に守られた『安全地区』を、セルビア人勢力への攻撃拠点に使っているケースがある。国連保護軍の中立性の見地からも、安全地域のあり方を再検討すべきだ」と指摘した報告書を安保理に提出。報告書は明石国連特別代表の報告を基に作成したもの。
・米議会上院は、ボブ・ドール上院議員が提出したボスニアに対する国際的武器禁輸を、米国が単独で解除してムスリム主導のボスニア政府への武器供与を可能とする法案を、50対49で可決。 法案は下院の可決によって成立する。
05/13:
・「連絡調整グループ」を中心にしたボスニア和平をめぐる米、露、欧州の外相会議がジュネーブで開かれ、クリストファー米国務長官、コーズィレフ露外相、ジュッペ仏外相、ハード英外相、キンケル独外相らEU主要国7ヵ国とEUの代表が参加。会議ではボスニアのムスリム人勢力およびセルビア人勢力と接触した結果を検討し、共同コミュニケを発表。コミュニケの内容は、「1,内戦の早期解決を目指し、当面4ヵ月間の停戦に合意する。2,セルビア人勢力49%、ムスリム人およびクロアチア人勢力51%という領土配分を土台に合意を図る。3,米、露、英、仏、独からなる『連絡調整グループ』の支援のもとで2週間以内に実質交渉を始める。4,戦闘行為の包括的停止と政治的解決へ努力し、武力による紛争解決は認めない。5,新ユーゴ連邦に対する国連制裁は、和平合意が実施された後に段階的に解除される」ことなど。
・米主導で合意された58%を領土とする、ボスニアのムスリム人勢力とクロアチア人勢力による連邦国家案について、クリストファー米国務長官は、「外相会議の結果を妨げるものではない」と発言。
・ロシア下院は、新ユーゴ連邦に対する92年5月の国連安保理の包括的制裁決議の解除を実現するよう、エリツィン露大統領と政府、外務省に求める決議を圧倒的多数で採択。決議は、「何れかの国がボスニアへの武器禁輸措置を破った場合、ロシアは同様の手段を含む対抗措置を取るべきだ」という内容を含んでいる。
05/14:
・クリストファー米国務長官とコーズィレフ露外相はジュネーブで会談し、エリツィン露大統領が呼びかけているボスニア問題に関する首脳会談は、ボスニア和平が進展すれば開かれる可能性があることを示唆する。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は、「政治解決には停戦は2ヵ月で充分」と述べ、外相会議の提案を拒否。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ代表のスポークスマンは「4ヵ月の停戦ではなく、永久停戦を求める」と述べて提案を拒否。
註;この拒否の姿勢の思惑は、ムスリム人勢力が戦闘によってセルビア人支配地域を奪還したいと考えているのに対し、セルビア人勢力は現在の支配地域を固定化したい、というところにある。
05/17:
・レオタール仏国防相は、旧ユーゴスラヴィアに国連保護軍として展開している仏部隊6800人のうち、年末に2500人を撤収させると発表。
05/18:
・英国政府は、ボスニア和平が2ヵ月以内に実質的な進展がない場合は、英国の3400人の国連保護部隊の撤収を検討していると表明。
05/19:
・スペイン政府は、和平が数ヵ月以内に実質的な進展がない場合、国連保護軍部隊の撤収を検討していると表明。
註;フランス、英国、スペインが保護軍部隊の撤収を表明した背景には、地上軍を派遣していない米国が空爆強化を強行に主張し、さらにムスリム人勢力への武器禁輸措置の解除を単独で実行しようとしていることへ圧力をかける狙いがある。
・フランスの知識人たちが「欧州はサラエヴォに始まる」というグループ名で、欧州議会選挙に独自の候補者リストを提出することを決める。「サラエヴォ・リスト」を呼びかけたのは哲学者のベルナール・アンリ・レビ、候補リストにはシュバルツェンベルグ教授、哲学者グリュックスマン、作家アルテールら学者や芸術家を中心とする35人。レビらはセルビア人勢力の民族浄化策に反対し、ムスリム人側に立って積極的な運動を続けてきている。呼びかけ人のレビは、「欧州議会選でボスニアが論議されないのは想像できない」と語り、ミッテラン大統領や政府を批判。
05/21:
・明石国連特別代表は、米、露、EU主要7ヵ国外相会議の提案を受け、ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領とセルビア人勢力のカラジッチ代表に書簡を送り、包括停戦交渉の早期開催を求める。
05/23:
・ボスニアでは欧州の主要国が和平交渉への打開策を検討したが、ボスニア北部のブルチコや北東部のトゥズラ、中部のブゴノイで激しい戦闘が継続している。ブルチコはボスニア東部と西部のセルビア人勢力を結ぶ回廊で、陥落すればセルビア人勢力地域は孤立することになる。このためセルビア人勢力側も必死の防衛をしており、戦闘が更に激化するおそれがある。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は訪問先のパリでサラエヴォ放送のインタビューに応じ、米、露、EU7ヵ国外相がまとめた新和平案について「如何なる譲歩もできない」と同案を拒否する意向を示し、新和平案を強要するならセルビア人勢力から武力で領土を奪取するとの姿勢を強調する。
05/24:
・国連の呼びかけで「サラエヴォ復興会議」がウィーンで開かれ、欧州や日本など30ヵ国が参加。5億3200万ドルに上ると見られる復興基金の設立を求める。会議は明石国連特別代表が主催し、各国に援助を要請。電気、ガス、交通、電話など14項目を対象にして2年間行なう。
・ニュージランドのボルジャー首相は、国連の要請に基づいてボスニアの国連保護軍に250人の歩兵部隊を派遣すると議会に表明。250人はニュージランドの歩兵部隊の10%に当たる。
・エジプトのムーサ外相は、カイロで31日から開かれる非同盟諸国外相会議に新ユーゴスラヴィア連邦を招待しない方針を表明。外相は理由として、ボスニア内戦で新ユーゴ連邦がセルビア人勢力を支援していることを指摘する。
05/27:
・「欧州はサラエボに始まる」グループは、「ボスニア統一、武器禁輸解除」を掲げ、欧州議会選挙の候補者リストをフランス内務省に提出。
05/28:
・明石特別代表はボスニアの3民族勢力に対し、6月2、3日にジュネーブで包括的な停戦交渉を開催することを提案。停戦交渉には、旧ユーゴ和平国際会議のオーエン・シュトルテンベルグ両共同議長とチュルキン露特使とレッドマン米特使も参加する見通し。
05/30:
・ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領は、明石国連特別代表がボスニア3派に停戦交渉の開催を提案したのに対し「参加はまだ明らかではない」と述べ交渉参加に難色を示す。その理由として、ゴラジュデの安全地域からセルビア人勢力の一部が依然兵力を撤収していないことを挙げる。
05/00:
・コソヴォ民主同盟のイブラヒム・ルゴヴァ議長が、アルバニア系住民がコソヴォ自治州に設立を自称した「コソヴォ共和国」の大統領に就任する。
06/02:
・明石国連特別代表のスポークスマンは、ボスニア内戦当事者3派の包括的停戦和平交渉は、「ムスリム人居住地域ゴラジュデの武装解除地域からセルビア人勢力の一部が撤退していないために、2日には開かれず、3日の日程も未定」と述べる。
06/08:
・明石康国連特別代表が呼びかけたボスニア内戦当事者3派の和平交渉がジュネーブで開かれる。和平案の4ヵ月停戦に対して、ボスニア政府は現状が固定されるのを嫌い強硬に反対する。セルビア人勢力は恒久的な停戦を要求したが、相互に譲歩し10日からの1ヵ月停戦で合意。さらに、今後国連保護軍の主導による包括的な停戦交渉の再開を目指すとしている。
・コーズィレフ露外相は訪問先のパリで記者会見し、ボスニア紛争当事者が1ヵ月の停戦合意したことに関し、「和平合意へ向けた国際社会の強い圧力が必要だ」と述べ、米、露、EUなどの外相会議を2,3週間以内に開くよう呼びかける。
06/09:
・米連邦議会下院は、ボスニア政府に対する武器禁輸を米国が単独で解除することを求める法案を、賛成244、反対178で可決。上院では既に同様の法案が可決されているので、両院協議会の調整を経て再度両院で可決すれば、法律として成立する。クリントン米大統領も昨年春に武器禁輸解除を唱えたが、EU各国の反対に遭い、「国際社会の合意による解除」に方針転換。この政府の政策を支持する法案も提出されたが、否決される。
・ローズ・ボスニア駐留国連保護軍司令官は、米連邦議会下院で武器禁輸解除法案が可決されたのに対し、「禁輸解除が現段階で和平をもたらすとは思えない。芽生え始めた和平への取り組みを損ね、人道援助活動を危険に曝すものだ」と批判。
06/10:
・ボスニアの停戦合意は10日正午に発効し、全土で実施されたが、セルビア人勢力は直前までムスリム人勢力が中・北部の全ての戦線で攻撃を続けている、との声明を発表。
06/18:
・ボスニア内戦は10日に停戦合意が発効したものの、北部ではムスリム人勢力とセルビア人勢力の戦闘が激化。
06/20:
・ボスニアのゴラジュデ周辺をパトロールしていた国連保護軍の英部隊が、ムスリム人主導のボスニア政府軍が展開する地点から銃撃を受ける。保護軍部隊も応戦したが負傷者は出ていない模様。
06/23:
・ボスニア議会および「ボスニア連邦国家」議会は、ボスニア連邦国家首相にシライジッチ・ボスニア政府首相を選出し、「ボスニア連邦国家」政府の内閣を承認。副首相兼国防相にブルリッチ、外相にリュブヤンキッチを選出。連邦国家の内閣は、ムスリム人が10人、クロアチア人が6人、セルビア人が1人の閣僚で構成する。
06/24:
・ワシントン・タイムズ紙は、イランがボスニア政府にクロアチア経由で武器の供給を続けており、米政府は事実上これを黙認している、と報じる。イランの武器供給は、「ボスニア連邦国家成立後」激増している。
06/27:
・ボスニア全土で停戦合意が発効している中、ムスリム人勢力はセルビア人勢力支配地域の東部のオズレン地区および北東部のブルチコ、ドボイなどの要衝を一方的に攻撃し、セルビア人勢力側に多数の死傷者が出ている模様。国連保護軍によると、セルビア人勢力側は停戦合意を守り反撃している気配はない。
・一方、ボスニア北西部のビハチではボスニア政府軍のムスリム勢力と、反政府ムスリム人勢力アブディッチ派の「西ボスニア自治州」側が激しい戦闘を展開している。
06/29:
・明石国連特別代表は、現地ボスニア駐留の国連保護軍とともにNATO本部を訪れ、記者団にボスニア停戦合意について、「多くの違反が起きている」と述べ、1ヵ月の停戦合意が崩壊しかけていることを認める。
・ボスニアのサラエヴォ復興・復旧に向けた主要国の誓約会議が国連で開かれ、日本の小和田恒国連大使は人道援助活動に、1300万ドルを拠出する用意があると述べる。米国1600万ドル、EU1000万ドル、フランス500万ドル、イタリア250万ドル。
07/01:
・米連邦議会上院は、ボスニア政府への武器禁輸単独解除を義務づける国防歳出権限法案の修正案を、賛成50,反対50で否決。
07/04:
・「ボスニア連邦」を構成する、ムスリム人勢力のボスニア政府とクロアチア人勢力のヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共和国の間に軍事協力協定が締結される。
07/05:
・セルビア人勢力のカラジッチ代表(大統領)は、分割案について「ほとんど、または、全く受け入れられない」と批判。
・ボスニア連邦国家側(ムスリム人勢力およびクロアチア人勢力で構成)とセルビア人勢力側は、モスタル市について両勢力の緊張緩和を目的に、EUの管理下に置くことに合意して調印。
・「連絡調整グループ」の米・英・仏・独・露の5ヵ国外相会議がジュネーブで開かれ、ボスニアの領土分割について、ムスリム人とクロアチア人両勢力の連邦国家が51%、セルビア人勢力のスルプスカ共和国が49%を中心とする最終的な和平案を決定する。これに基づき、内戦当事者が2週間以内に態度を決定するよう求める声明を発表。この和平案についてコーズィレフ露外相は、「和平の最後通告」と述べ、ハード英外相は「アメとムチ」と表現。両勢力が受け入れれば、ボスニア政府に対しては国土再建面での援助、セルビア人勢力には新ユーゴ連邦の経済制裁の停止を約束。07/07:・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表はベオグラードで記者会見し、新和平案で提示された分割地図は今後の交渉のための良い基礎となりうる」と述べ、その上で「分割地図の修正や、ムスリム人とクロアチア人両勢力で構成する連邦国家とセルビア人勢力との間で領土交換をすべきだ」と強調。
07/07:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表はベオグラードで会見し、「新和平案で提示された分割地図は今後の交渉のための良い基礎となりうる」と述べ、その上で「分割地図の修正や、ムスリム人とクロアチア人両勢力で構成する連邦国家とセルビア人勢力との間で領土交換をすべきだ」と強調。
07/10:
・主要国首脳会議ナポリ・サミットは、ボスニアの新和平合意を各紛争当事者が19日までに受け入れるよう議長声明を出す。
07/13:
・ジュッペ仏外相とハード英外相はサラエヴォを訪問し、先の5ヵ国の新和平合意案を受け入れるよう紛争当事者を説得する。ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は、「いい案だとは思わないが、他の選択はもっと悪い」と述べ、議会に対して案を受け入れるよう提案。
07/15:
・ドイツ政府はNATO軍の域外派兵を合憲とした連邦憲法裁判所の判決を受け、新ユーゴ連邦に対する国連の経済制裁を監視するため、アドリア海に派遣しているドイツ海軍に武力行使を認めることを閣議決定する。ただし、連邦憲法裁判所の判決は、武力行使の都度、議会の同意を義務づけている。
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナ地方裁判所は、新ユーゴ連邦からの分離独立のための武装集団結成を企てていたとして、アルバニア系住民14人に対して最高禁固7年6ヵ月の実刑判決を下す。14人の中には、コソヴォ自治州で多数派を占めるアルバニア系住民が樹立を宣言している「コソヴォ共和国」のハイゼライ国防相も含まれる。
07/17:
・ローズ国連保護軍司令官は、「セルビア人勢力が和平案を拒否した場合、今年の夏の終わりまでに保護軍が撤退し、変わりにNATO軍が展開する可能性もある」と発言。
・米・英・仏・独・露5ヵ国外相会議は、「ムスリム人勢力への武器禁輸解除もあり得る」と発言。
07/18:
・ボスニアのムスリム人勢力とクロアチア人勢力とで構成するボスニア連邦国家はサラエボで議会を開き、EU、米、露などが提示した新和平案の受け入れを決定する。
・セルビア人勢力の「スルプスカ共和国」はパレで議会を開いて検討したが最終決定を出せず、結論は回答期限の19日に持ち越される。セルビア人勢力が問題としているのは、セルビア人勢力の領土を49%とする条件。カラジッチ代表は「和平を拒否するなら、我々は敵からの攻撃を全てはねつけなければならない」と述べる。
07/19:
・ボスニアのセルビア人勢力議会は、連絡調整グループ5ヵ国の新和平案の協議を終了。セルビア人勢力は結論を明らかにしていないが、20日に行われる連絡調整グループの大使級会議に持ち込み、交渉を進める方針を明らかにする。「連絡調整グループ」は無条件受け入れを要求しているので、事実上の拒否となる可能性がある。
07/20:
・ボスニアのセルビア人勢力は、ジュネーブで連絡調整グループ大使級会合で、米・英・独・仏・露の5ヵ国の領土分割地図を中心とする新和平案の中で首都サラエヴォの扱いなどの重要な点の一部変更を求め、これを基礎として更に交渉をしたいとの態度を表明。連絡調整グループは「不十分な内容で事実上の拒否」と受け止めており、今後セルビア人勢力の態度に変化がなければ、今月末に開かれる5ヵ国外相会議で制裁の強化などが検討される可能性がある。
07/21:
・ボスニアのサラエヴォ空港で難民救援のための国連機や米英の輸送機が銃撃されたため、空港は一時閉鎖される。
07/22:
・ペリー米国防長官は、クロアチアのザグレブを訪問する。
・明石国連特別代表は、NATO軍現地司令官およびクロアチア共和国首相と会い、ボスニア和平の打開策を探る。
07/25:
・ガリ国連事務総長は安保理事会に、「ボスニア内戦の和平が成立した場合、2万5000人の国連保護軍は撤退すべきであり、また和平が実現せず、多国籍軍が武力でセルビア人勢力に和平の受け入れを迫る場合も、保護軍の撤退を要請する」との書簡を送付。
07/26:
・ムスリム人反政府勢力アブディッチ派の「西ボスニア自治州」は、「西ボスニア共和国」として建国を宣言する。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、セルビア人勢力のクライシュニク議長は、米・EU・ロシアなどが示した新和平案について、「受け入れるのも、拒否するのも決して遅くはない」と述べ、再度議会を招集して対応を決め直す可能性があると語る。
07/27:
・国連保護軍・UNPROFORの燃料輸送部隊がサラエボに近づいた際に武装勢力に銃撃され、英国人隊員1人が死亡し、1人が負傷。タンクローリーが1台炎上する。数時間後、セルビア人勢力から国連の輸送部隊を敵対するムスリム人勢力と見誤った、との謝罪文が国連保護軍側に届けられる。
・米・英・独・仏・露5ヵ国の連絡調整グループとセルビア人勢力との間で、協議が行なわれる。セルビア人勢力は、サラエヴォの支配地域とゴラジュデなどムスリム人居住地域との交換、およびセルビア人勢力の支配地域とセルビア共和国とのゆるい連合形態の容認などの無条件受け入れを求めたため、連絡調整グループと厳しい協議となる。
・ムスリム人勢力は連絡調整グループ5ヵ国の新和平案の受け入れ方針を撤回し、交渉を要求したため事実上拒否した形となる。
07/28:
・ボスニアのセルビア人勢力の拠点パレで開かれたセルビア人議会は、連絡調整グループの新和平案を事実上拒否する姿勢を示す。
・クリストファー米国務長官は米連邦議会下院外交委員会で、セルビア人勢力に対し「和平案が拒否されれば、その責務を問うことで一致している」と警告。
07/29:
・「連絡調整グループ」の米・露・英・仏・独の5ヵ国外相協議で、ボスニアのセルビア人勢力に和平案の受け入れを迫るため、フランスのジュッペ外相は最終的にムスリム人勢力への武器禁輸解除を盛り込んだ3段階の制裁案を提案。提案内容;「第1段階・セルビア人勢力の後ろ盾になっているセルビア共和国への経済制裁を強化する。第2段階・セルビア人勢力による一般市民や国連保護軍への攻撃を阻止するため、NATO軍による空爆を実施するが、この場合国連保護軍が報復攻撃を受けやすいため撤退などの措置を講じる。最終段階・ムスリム人勢力への武器禁輸解除に踏み切る」というもの。
・セルビア人勢を説得していたコーズィレフ露外相は、「ロシア政府のあらゆる仲介努力も裏切られた」と語る。
07/30:
・5ヵ国外相会議がジュネーブで開かれ、和平案の無条件受け入れを拒否しているセルビア人勢力側への制裁の強化、サラエボ、ゴラジュデなどムスリム人が居住する6ヵ所の安全地域の拡大と保護強化を図り、セルビア人武装勢力の行動や武器の侵入を封ずる計画を、8月末までに作成する提案を国連安保理に提出することで合意。
・セルビア人勢力のカラジッチ代表のスポークスマンは、「セルビア人勢力に対する制裁強化を決めた5ヵ国との接触を打ち切るかも知れない」との声明を発表。
08/01:
・ボスニアのセルビア人勢力指導部は、米・露・英・仏・独の5ヵ国による「連絡調整グループ」の新和平案について「交渉を直ちに再開したい。和平案の領土分割図が変更され、セルビア人勢力の共和国の主権が保障されるなら、いつでもこの案を受け入れる」との声明を発表。
08/02:
・新ユーゴ連邦は、ボスニアのセルビア人勢力指導部に宛てた書簡で「5ヵ国が提示した新和平案を受け入れないのは自らが率いる市民に対する裏切りと犯罪行為にあたり、和平案拒否が続く場合にはセルビア人勢力との関係の断絶もあり得る」ことを示唆。
08/03:
・ロシア外務省筋は、5ヵ国「連絡調整グループ」が提示している新和平案の受け入れをセルビア人勢力が拒否していることに対し、「セルビア人勢力と一時的に接触を凍結する」と語る。
08/04:
・新ユーゴ連邦はボスニアのセルビア人勢力と政治・経済両面の関係を断絶すると発表。「新ユーゴ連邦とボスニアのセルビア人勢力支配地域との国境は閉鎖され、食料、医療、衣料品を除く全ての物資の供給が停止され、セルビア人勢力指導者の入国も認めない。さらに『和平案』を拒否することにより、セルビア人勢力は新ユーゴ連邦とその市民に最も苦しい打撃を与えた」と述べる。
・米ホワイトハウスのマイヤーズ報道官は、新ユーゴ連邦がボスニアのセルビア人勢力と政治・経済関係断絶を発表したことについて、「好ましい一歩で、セルビア共和国がボスニアのセルビア人勢力に武器などを再供与しないよう望む」と歓迎の姿勢を示す。
08/05:
・ボスニアのセルビア人勢力は、国連に引き渡していた戦車、重火器などの一部を国連の管理から奪い返す。
・新ユーゴ連邦は、ボスニアのセルビア人勢力支配地域との電話線を切断する。
・国連保護軍の現地司令官は、NATO軍にセルビア人勢力に対する空爆を要請。NATO軍は、戦闘機の出撃体制をとる。
・ロシア外務省のチェルキン次官は、新ユーゴ連邦がボスニアのセルビア人勢力と関係断絶を実施したことを歓迎するとともに、「セルビア共和国への制裁が強められるのは理に適っていない。ミロシェヴィチ大統領はセルビア民族の合法的な指導者だ。ベオグラードの新しい立場は、近く国際社会に受け入れられるだろう」と評価し、「ロシアや各国が国境監視員を送ることをセルビア共和国は受け入れなければならない」と述べる。
・NATO軍は国連保護軍が明石国連特別代表と協議した上での要請を受け、ボスニアのサラエヴォ近郊のイグマン山に駐屯しているセルビア人勢力を、10数機のA10戦闘機,ミラージュ、ジャガー、オランダのF16Aなどの空軍機で爆撃する。国連が要請した理由は、サラエヴォ周辺の「重火器排除地域」で、国連管理下にあった戦車や重砲などをセルビア人勢力が奪ったことに対応したもの。
・ボスニアのセルビア人勢力はNATO軍の攻撃を受け、国連管理下から奪い返した武器を返還すると国連保護軍に申し入れる。
・ロシア外務省はNATO軍のセルビア人勢力への空爆について、「こうした事態の原因をセルビア人が作ったことは痛ましいことだ」と指摘し、「セルビア人勢力は、悪くなれば悪いほどよい、という原則で行動しているように見える」とセルビア人勢力の行動を批判。
08/06:
・国連保護軍スポークスマンは、ボスニアのセルビア人勢力が国連管理下から奪い返した重火器や戦車を返還したことを明らかにする。
・一方、ボスニアのセルビア人勢力は態度を硬化させており、クライシュニク議長は議会を招集し、総動員令と非常事態宣言の発令を決める用意があると表明。カラジッチ・セルビア人勢力代表はセルビア人支配地域の全住民に対し労働可能な全ての男女が組織化し、生産活動に従事するよう労働総動員を呼びかける。労働総動員の目的は、食料調達のために農業従事者を確保し、破壊された工場を修復することなど。
08/09:
・明石国連特別代表は記者会見で、NATO軍機による攻撃はセルビア人勢力に通告した上で行なわれ、成功したと評価。今後のボスニア情勢について、「1,連絡調整グループが提案した和平案でまとまる。2,現状維持のまま冬を越す。3,NATO軍が本格介入し、ボスニア政府に対する武器禁輸が解除され、最悪の場合国連保護軍の撤退もあり得る」との3つのシナリオを想定。当面当事者と精力的に接触し、「連絡調整グループ」の和平案受諾交渉を側面から支援する。新ユーゴ連邦政府当局のボスニアのセルビア人勢力との関係断絶は「相当な決意で臨んでいる」との見方を示す。
・ボスニア政府軍は、「西ボスニア共和国」建国を宣言していた反ボスニア政府のムスリム人勢力・アブディッチ派の拠点ビハチを攻撃。アブディッチ派は敗走してクロアチア領クライナ地域に大量に流入し始める。
・アブディッチ西ボスニア共和国大統領は、即時停戦を求めるボスニア政府宛の書簡を国連保護軍を通じて送っていることを認める。「書簡」の内容は「西ボスニア共和国」がほぼ「崩壊状態で全面降伏に近い」というもの。ボスニア政府は、即時停戦に応じる姿勢は見せず。
註;ボスニア政府はセルビア人勢力との停戦に合意した上で、アブディッチ派の「西ボスニア共和国」を制圧するために軍事力を行使した。しかし、このボスニア政府軍の軍事力行使に対し、国連、NATO、EU、米国は注意も警告も発せずに容認した。
08/10:
・ボスニアの国連保護軍のローズ司令官は、サラエヴォ周辺20キロ以内の重火器撤去地域で戦闘を続けているボスニア政府軍とセルビア人勢力に書簡を送り、即座に戦闘を中止しなければ両勢力に対して空爆を行なうと警告。ムスリム人勢力に対して空爆警告が出されたのは初めて。
08/11:
・クリントン米大統領は米連邦議会にあてた書簡で、10月15日までにボスニアのセルビア人勢力が5ヵの「連絡調整グループの新和平案を受け入れない場合、ムスリム人勢力のボスニア政府に対する武器禁輸を解除する国連安保理決議案を提出する意向を表明。「安保理で禁輸解除が認められない場合には、米国単独で禁輸解除を行なうことについて議会と協議する」と述べる。
08/16:
・ボスニアのセルビア人勢力はサラエヴォ近郊の拠点パレで議会を開き、コジッチを首相とする新内閣を選出。指導者のカラジッチ代表やクライシュニク議長ら指導部の体制に変更はない。コジッチは就任演説で、新ユーゴ連邦との関係断絶が長期間は続かないとの見通しを述べる。
・ボスニア駐留の国連保護軍フランス部隊の兵士1人が、サラエヴォの監視所で銃撃されて死亡。銃撃がどの勢力によってなされたのか調査中。
08/19:
・新ユーゴ連邦のリリッチ大統領は、「ボスニアのセルビア人勢力はセルビア民族の名誉を汚した」と語り、5ヵ国の「連絡調整グループ」の新和平案を拒否しているセルビア人勢力の姿勢を強く非難。同大統領は、セルビア人勢力のカラジッチ代表ら指導部に対して新和平案の受け入れを改めて強く求める。
08/20:
・ボスニアのムスリム人居住地域ビハチの学校に120ミリ砲弾2発が撃ち込まれ、児童5人が死亡し、7人が負傷。国連保護軍はこの砲撃について、クロアチア共和国のセルビア人支配地域のクライナ地方から撃ち込まれたものと述べる。
・ニューヨーク・タイムズ紙は、「クリントン政権治世下の米国は、近代史上では他のいかなる国も成し得なかったほど武器市場を支配している」、と報じる。
08/21:
・ボスニア政府軍は西ボスニア共和国のヴェリカ・クラドゥシャに進攻し、反政府ムスリム人勢力の司令部施設を奪還。「西ボスニア共和国」を宣言した反政府ムスリム人勢力アブディッチ派の拠点は陥落する。
註;アブディッチはボスニア政府の元幹部会員だったが、強硬派のイゼトベゴヴィチ幹部会議長と和平路線をめぐって対立したことで、93年9月に「西ボスニア自治州」の設立を宣言し、95年7月に「西ボスニア共和国」として建国を宣言した。
08/22:
・明石国連特別代表はベオグラードを訪れ、新ユーゴ連邦のセルビア共和国ミロシェヴィチ大統領と会談。会談で明石特別代表は、ミロシェヴィチ大統領にセルビア共和国とボスニア共和国の国境に国連の監視団の配置を申し入れたが、大統領は「監視団の受け入れは新ユーゴ連邦の主権と合致しない。新ユーゴ連邦への国連制裁が解除されなければ、監視団の受け入れはできない」との考えを示す。明石特別代表は記者団に「和平に向けた明確な前向きの徴候は見られない。情勢悪化の見通しを深く懸念する」と悲観的な見方を示す。
08/24:
・ロシアと新ユーゴ連邦がモスクワで貿易経済協力協定に調印。協定は、国連の経済制裁解除後に発効する。
08/25:
・新ユーゴ連邦のセルビア共和国議会が、5ヵ国の「連絡調整グループ」の新和平案の審議を要求するセルビア急進党の提案で臨時議会を開催する。
・コーズィレフ露外相はボスニアのセルビア人勢力が新和平案を拒否していることについて、「我々はセルビア人勢力への制裁強化に賛成だ」と述べ、和平案支持に廻った新ユーゴ連邦に対しては「少なくとも一部の経済制裁は直ちに解除すべきだ。和平案への反応を異にするセルビア人勢力と新ユーゴ連邦に対しては別個に対処すべきだ」と強調。
08/26:
・新ユーゴ連邦のセルビア共和国臨時議会は、「連絡調整グループ」の新和平案を支持し、ボスニアのセルビア人勢力に同意受け入れを要求する覚え書きを、小差で可決。
08/27:
・ボスニア政府の攻撃によって陥落したビハチ地域からの難民6万人が、クロアチア共和国のクライナ地方に続々と流入。これに対してクロアチア共和国が国境を閉鎖したため、難民たちは元に戻ろうにも住居は既に破壊されており、帰るところがない。
08/28:
・ボスニアのセルビア人勢力が、「連絡調整グループ」の新和平案の諾否についての住民投票を、27,28の両日にかけて実施。
・コーズィレフ露外相はベオグラードでミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談し、ボスニアのセルビア人勢力が新和平案を受け入れることが危機を乗り切り、恒久的平和を得ることにつながるとの共同声明を発表。
08/29:
・ボスニアのセルビア人勢力の中央選管は、新和平案についての住民投票の中間集計をしたが、50%開票の段階で90%が受け入れに反対であると発表。
註;和平反対の理由は、領土分割がボスニア連邦の50%、セルビア人勢力49%の割合にあるのではなく、13の重要な市がムスリム人勢力地域に組み入れられているという質の問題にある。
09/01:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は議会で、「国際社会が新ユーゴ連邦への制裁をやめなければ、数日中にもムスリム人勢力への水、電気、ガスの供給や人道支援物資の搬送停止などの措置を取る」と警告。
09/03:
・英エコノミスト誌は、「クリントン米政権は世界中の米国大使館に対して、軍需品販売を強く促進するよう指令を出した」と記述。
09/05:
・ロシアのチュルキン外務次官はボスニア政府に対する武器禁輸措置が解除されれば、ロシアだけでなく英、仏も国連保護軍をボスニアから撤退することになる、との見通しを示す。グラチョフ露国防相も、「武器禁輸を解除すればセルビア人勢力への最後通告となり、妥協なき戦争の出発点となる」と述べ反対の意思を表明。
09/06:
・ローマ法王庁のスポークスマンは8日のボスニアのサラエヴォ訪問予定を、「ミサに集まる住民の安全の保証が得られない」との理由で延期すると発表。代替のミサは、8日にローマ郊外のカステル・ガンドルフ離宮で、サラエボ訪問のために準備したスピーチを読み上げて行なうと発表。セルビア人勢力は法王の訪問に対し、「法王の安全は保証できない」として一貫して反対を表明しており、国連保護軍も懸念を表明している。
註;セルビア人勢力が反対した理由は、ナチス・ドイツ時代のカトリック教の態度に加え、ローマ法王庁が欧州に先駆けてクロアチア共和国とスロヴェニア共和国の独立を承認したことで、ユーゴスラヴィアの解体を促進するとともに内戦を拡大させたことが挙げられる。
09/08:
・クロアチア共和国のクライナ地方のセルビア人勢力とボスニアのセルビア人勢力がビハチ地域に入り、ムスリム人勢力と交戦。クライナ地方のセルビア人勢力がボスニアに初めて戦車と1000人の部隊を出動させて北部から進攻。
09/09:
・明石国連特別代表は村山富市日首相を訪問し、旧ユーゴスラヴィアに展開している国連保護軍への参加について、「ボスニアを除いては安全で、日本のPKO参加5原則に反しない。日本も是非参加して欲しい」と述べ、さらに日本の国連安保理常任理事国入りについて政府の積極姿勢を促す。
・ボスニアのビハチ地域の反政府ムスリム人勢力の拠点ヴェリカ・クラドゥシャにロケット砲弾が撃ち込まれ、1人が死亡、4人が負傷。国連保護軍によると、砲弾はクロアチア共和国クライナ地方のセルビア人勢力支配地域から撃ち込まれたという。
・新ユーゴ連邦政府は、セルビア共和国とボスニアとの国境への国連監視団の受け入れを受諾する。
09/10:
・ローマ教皇ヨハネ・パウロⅡ世は、クロアチアのザグレブの大司教区創立900年を祝うためにクロアチアを訪問し、盛大な野外ミサを行なう。
09/11:
・EUの非公式外相会議では、新ユーゴ連邦に対する国連制裁の緩和を求めることで原則的に合意。制裁緩和の条件として、新ユーゴ連邦とボスニアのセルビア人勢力支配地域との国境線に、関係断絶を確認するための国際監視団を受け入れることを提示。
09/14:
・新ユーゴ連邦とボスニアのセルビア人勢力との関係断絶を確認する国際監視団7人がベオグラードに到着し、新ユーゴ連邦当局と協議。実際の監視活動は、135人程度で来週から行なう予定。この監視活動は、新ユーゴ連邦の制裁解除の前提となる確認行動となるもの。
09/16:
・ボスニア和平「連絡調整グループ」5ヵ国は、国連安保理の非公式協議に、国際監視団を受け入れた新ユーゴ連邦の国連制裁を緩和する決議案を提出。一方、新和平案を拒否したボスニアのセルビア人勢力に対する、制裁強化の決議案も提出。
09/18:
・ボスニア政府のムスリム人勢力はサラエヴォでセルビア人勢力を攻撃し、これにセルビア人勢力が応戦して戦闘が激化する。
09/19:
・ボスニア駐留国連保護軍のローズ司令官はボスニアの首都サラエボのムスリム人勢力に対し、セルビア人勢力への攻撃を中止しなければNATO軍の空爆要請も辞さないと警告。ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は、ローズ司令官の警告に従い攻撃を中止することに合意。
09/20:
・国連保護軍・UNPROFORはボスニアのセルビア人勢力に対し、サラエヴォ周辺20キロ以内の重火器排除地域から重火器を撤去しなければNATO軍の空爆を要請すると警告。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、「国連安保理がセルビア人勢力に対し制裁実施を決定すれば、国連が中立の立場を捨て、我々の敵になることを意味する。それは国連保護軍を含み、国連への協力がもはや不可能となることだ」と国連との和平交渉などの接触を断絶するとの書簡を、ガリ国連事務総長に送付。
09/21:
・ガリ国連事務総長は明石康国連特別代表に対し、ボスニア政府への武器禁輸措置の解除などがなされた場合、国連保護軍の撤退計画を作成するよう命じる。
・米国政府は、ボスニアのセルビア人勢力が新和平案を10月15日までに受け入れなければ、ボスニア政府への武器禁輸措置解除を求めるとの方針への対策を立てる。
・ボスニアのセルビア人勢力は、サラエヴォ周辺の重火器排除地域に残っていた3つの重火器の撤去を完了したことを明らかにする。
09/22:
・NATO軍の米・英軍機、ボスニアのセルビア人勢力が国連保護軍・UNPROFORを攻撃したため、保護軍の要請によりサラエボ近くのセルビア人勢力の戦車1両を空爆して破壊。
09/23:
・国連安保理は、「ボスニアのセルビア人勢力がバニャ・ルカ地域などでのムスリム人らを追放する『民族浄化』を非難し、国連機関など援助要員が関係地域に入ることを許可するよう求める」決議案941、ボスニアのセルビア人勢力への制裁措置決議942、新ユーゴ連邦への制裁の一部を緩和する決議943、を採択。決議・942:「1,加盟国にボスニアのセルビア人勢力指導者との政治的対話の停止を要請する。2、和平交渉を除きセルビア人勢力の国外旅行を禁止する。3,セルビア人勢力との金融、商業取引を禁止する」など。決議・943:「1,ベオグラード空港への民間航空機の乗り入れ。2、②モンテネグロとイタリアのフェリー就航。3、スポーツ・文化交流の再開」などを緩和。
09/27:
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領が国連総会の一般演説で、「武器禁輸措置の解除について6ヵ月の猶予期間を置いても良い」と表明。
・クリントン米大統領とエリツィン露大統領が会談し、ボスニア政府が武器禁輸措置解除を6ヵ月後でもよいと表明したことを受け、その期間を利用しセルビア人勢力に和平案を受け入れるよう働きかけを強める方針で合意。エリツィン露大統領は、ボスニア問題に関する首脳会談を改めて提示。後に、クリストファー米国務長官は時期尚早との判断を示す。
09/29:
・NATO国防相会議がスペインのセビリアで開かれ、ボスニア紛争でセルビア人勢力に対する徹底的な武力行使を求める米国と、慎重な姿勢を崩さない欧州側が対立する。
09/30:
・国連安保理は、旧ユーゴスラヴィアに駐留する国連保護軍・UNPROFORの駐留期限を3月末まで6ヵ月延長する、決議947を、全会一致で採択。さらに安保理は、ボスニア政府の武器禁輸解除問題を討議する。
10/05:
・新ユーゴ連邦に対する国連の経済制裁の一部緩和を受け、2年4ヵ月ぶりにロシアからアエロフロートがベオグラードに到着。
10/06:
・ボスニアのムスリム人勢力がサラエヴォ近くでセルビア人勢力を急襲して激しい戦闘となり、セルビア人勢力側に看護師3人を含む死者20人が出る。ムスリム人勢力の損害は不明。セルビア人勢力側は直ちに国連保護軍に抗議し、明石国連特別代表はイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と協議に入る。
10/07:
・イゼトベゴヴィチ大統領は記者会見を開き、明石国連特別代表の発表を、「ムスリム人勢力を傷つける虚偽宣伝」と非難し、明石特別代表に対して公式謝罪をするよう要求。
・ボスニア国連保護軍・UNPROFORは、サラエヴォ郊外のイグマン山近くの非武装地帯にいるムスリム人武装勢力に対し、即時撤退するよう要求。立ち退かない場合はNATO軍に空爆を要請することもあり得るし、少なくとも500人のムスリム人勢力軍兵士を追い出して塹壕などを破壊すると警告。
10/22:
・ボスニアのセルビア人勢力は、ムスリム人勢力が非武装地帯のイグマン山に拠点を築いてセルビア人勢力側を攻撃していることに抗議し、ボスニア東部のムスリム人地域ゴラジュデに展開する国連保護軍の燃料補給路を封鎖する。
・国連保護軍とボスニア政府は、サラエヴォ郊外の非武装地帯イグマン山に残っていたムスリム人勢力の500人を24日正午から撤退させることで合意。この措置を受け、セルビア人勢力もゴラジュデの封鎖を解くことに合意。
10/24:
・ボスニアのムスリム人勢力は、非武装地帯のイグマン山から撤退を開始する。ムスリム人勢力は撤退の途中、国連保護軍のフランス軍部隊に発砲し、フランス軍も応戦する。
10/26:
・ボスニアのムスリム人勢力は、ボスニア政府に反対する反政府勢力アブディッチ派のムスリム人地域ビハチで、周囲に展開するセルビア人勢力に対し、大規模な攻撃をかけ大幅に領土を奪回する。
10/28:
・オルブライト米国連大使は、ボスニア紛争でセルビア人勢力が和平を受け入れない場合、ボスニア政府への武器禁輸措置を6ヵ月後に解除するとの決議案を安保理に提出する。武器禁輸解除はボスニア政府の要請に基づくもので、国連保護軍の英国、フランス、ロシアなどは危険に晒されるとして同意していない。
・セルビア人勢力はムスリム人勢力がこれ以上攻撃を続けるなら、サラエヴォ市内に対し砲撃を加えると警告する。
・NATOおよび国連は、ボスニアでの航空支援強化方針で合意。
10/29:
・ムスリム人勢力としてのボスニア政府軍は、サラエヴォ近郊の非武装地帯からセルビア人勢力陣地に対して砲撃を加える。ムスリム人勢力は国連保護軍との合意に基づき非武装地帯から撤退をすることになっていたが、残留部隊が砲撃を加えた模様。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ代表は、ビハチでのムスリム人勢力の武力攻撃に対し、全面的な反撃を加えるよう指示。
・NATO軍は、ビハチでの戦闘に対し、セルビア人勢力への空爆強化策を決定。
10/30:
・ボスニアのサラエヴォ郊外のムスリム人居住域に砲弾が約10発撃ち込まれ、1人が死亡し、14人が負傷。また、建物が対空砲で攻撃される。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は声明を発表し、「ムスリム人勢力はセルビア人勢力の反撃によって甚大な被害を受け
るだろう」と述べ、大規模な攻勢を開始すると宣言。
10/00:
・クロアチア共和国政府は貨幣を「クーナ・kuna」とし、公企業の95%を合弁の株式会社に転換する「企業破産法」を施行し、「大規模な国営企業の解体手続き」を施行。相次いで、完全民営化を世界銀行およびヨーロッパ復興開発銀行などと合意。
註;クロアチア政府が導入した貨幣の「クーナ」は、第2次大戦中にクロアチアのウスタシャ・ファシスト政権「クロアチア独立国」が使用した通貨。
11/03:
・ボスニア中部のセルビア人勢力支配地域の要衝クプレスが、ムスリム人勢力およびクロアチア人両勢力の攻撃で陥落する。
・ボスニア政府のガニッチ幹部会副議長は、クプレスの陥落によってボスニア中部に進軍出来るようになったと語る。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ代表は、「明日から、全面戦争状態に入る」と宣言。この事態に英仏両国はムスリム人勢力の自制を求めるが、米国はムスリム人勢力がセルビア人勢力の侵略の犠牲者だとして、ムスリム人勢力擁護の立場を変えていない。
・国連総会は、旧ユーゴスラヴィア全域に対する武器禁輸措置を、ボスニア政府に限って撤廃するよう求める決議を、賛成97,棄権61で採択する。
註;国連総会の決議は拘束力を持たないが、3年連続で同様な決議を採択している。ボスニア政府は武器禁輸撤廃が実現した場合、国連保護軍が撤退してもかまわないとの立場を表明した。
11/04:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、ボスニアのセルビア人勢力支配地域に総動員令を発令。また議会に対し同支配地域全土に戒厳令布告を求め、市民に対し「防衛のためのあらゆる手段」をとることを命じる。
11/05:
・ボスニア北部ビハチで、ムスリム人勢力とセルビア人勢力が砲撃戦などの激戦を展開。また南方のトルノヴォでも激しい戦闘を展開。クプレス周辺でもセルビア人勢力が反撃に転じる。
11/06:
・ボスニアのクロアチア人勢力の第7軍団のアラジッチ司令官は、「クプレスをめぐる最近の攻防では武器禁輸は部分的に解除されている」と述べ、クロアチア人勢力からボスニア政府軍への必要な武器を供給していることを明らかにする。
11/07:
・明石国連特別代表はボスニア情勢について、現在劣勢のセルビア人勢力が、今後多面的に反撃に転じる可能性を示唆。またボスニア政府への武器禁輸解除が行なわれた場合、国連保護軍の撤退をNATO軍と検討していると語る。
・ボスニア政府軍およびクロアチア人勢力軍は、クプレス北方でセルビア人勢力軍に対し激しい攻撃を加える。サラエヴォ西方では、ムスリム人勢力軍とセルビア人勢力軍が激しい交戦をしている上空を、NATO軍機2機が威嚇飛行を行なう。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニア北東ブラセニツァ近郊のスシツァ収容所のドラガン・ニコリッチ元司令官を訴追し、逮捕状を出す。
11/08:
・国連安保理は、「ルワンダ戦争犯罪国際法廷・ICTR」を設置する決議955を採択。
11/11:
・クリントン米大統領はボスニアの武器禁輸措置を監視している米軍に対し、監視活動の一部中止の命令を出す。国防総省は、ボスニアに対する武器禁輸を監視している米軍の活動を13日午前0時から一部を残して中止する、との方針を発表。
註;この措置により、アドリア海の米軍の3隻の艦船は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ政府に送られる武器を積載した船舶の通行だけを黙認する。ボスニアには港がないために、クロアチアの港に送られることになるのを容認することになる。その際武器の一部がクロアチア共和国軍に流れるが、ボスニア政府が武器を入手するためにはやむを得ないとの立場を採る。
・西欧同盟・WEUのファン・エーケレン事務局長(オランダ)は米国の武器禁輸緩和策決定について、「欧州側で禁輸解除を望む国などなく、同盟内に亀裂を呼び込む決定だ。国連安保理の主要構成国から武器が供給される状態で、欧州各国は兵力を維持できるのか」と強く批判。
・ハード英外相は、「クリントン米大統領には議会との関係もあるのだろうが、監視活動は国連決議に基づくNATOの決定であり、困ったことだ」と述べる。
・デンマークのペーターセン外相は、「武器禁輸の監視は一掃強めるべきだ」と述べる。
・ジュッペ仏外相は、「仏政府は非常に憂慮している。国連決議に反するもので残念だ」と語り、連絡調整グループの外相協議を早急に招集するよう呼びかける。
・ボスニアのモスタル地区に1400人の保護軍を派遣しているスペイン政府は米国の政策に反撥し、「自国軍兵士を引き上げる用意がある」と表明。
・ベルギー出身のウィリー・クラースNATO事務総長は米国の武器禁輸措置緩和について、「NATOは全ての国連決議への協力、とりわけ武器禁輸の海上監視を今後も続けることを明確にしたい」と欧州勢だけでも監視活動を続ける方針を確認。
・ボスニア政府のガニッチ幹部会議副議長は米国の武器禁輸監視活動の一部停止について、「平和的解決に向けた一歩だ」と歓迎の意を表す。モスタル市に砲弾が撃ち込まれ、少女1人が死亡、14人が負傷。
11/12:
・ロシア外務省は米国のボスニア政府に対する武器禁輸緩和決定について、「米国は、内政上をも含む様々な事情により、調整済みの集団行動の枠を超えてますます一方的決定を実行に移しつつある。このような路線が定着するとは考えたくないものだ」と警告する声明を発表。
11/14:
・ボスニアの国連保護軍は、ボスニアのセルビア人勢力がビハチ周辺でクロアチアのクライナ地方のセルビア人勢力の支援を受け、ボスニア政府のムスリム人勢力に奪回された「西ボスニア共和国」の領土の内約40%を奪い返したことを明らかにする。
・EUの西欧同盟・WEUの定例外相・国防相会議がオランダで開かれ、ボスニア政府に対する米政府の武器禁輸監視活動の一部を一方的に停止したことを受け、今後米クリントン政権とどのように歩調を合わせていくかを協議。「武器禁輸解除は紛争を激化させ、市民や人道支援組織を重大な危険にさらし、国連の兵力を撤退に追い込む」と、武器禁輸措置の継続を求める声明を出して閉幕。
・クリントン米大統領は記者会見で、ボスニア政府への海上での武器禁輸監視活動の停止指示は、国連安保理決議の「武器禁輸に違反していない」と述べる。
・ボスニアのセルビア人勢力軍とムスリム人反ボスニア政府軍勢力は、ビハチ周辺の奪われた領土をボスニア政府軍から80%を奪回する。
11/15:
・明石国連特別代表はザグレブの国連保護軍本部で朝日新聞と会見し、「ボスニアの情勢がこのまま悪化の一途を辿れば、ボスニア駐留の保護軍が来春にも撤退する可能性を否定できない」と語る。
11/16:
・国連当局は、「NATOは本質的に敵を特定し、武力を誇示し、勝利を得たがる機構。国連の仕事は平和維持で、組織文化の違いだ」と語る。
註;ボスニア紛争に対するNATO軍の空軍力の使用に関し、国連とNATOとの間で考え方の違いがある。国連は交渉による解決を重視し、NATOは軍事力による解決を優先する姿勢である。
・ウィリー・クラースNATO事務総長は、訪米してクリントン米大統領と武器禁輸問題の亀裂修復について会談。
11/17:
・ボスニアの首都サラエヴォのボスニア政府幹部会の建物が、対戦車ロケットとミサイル計4発の攻撃を受け、2人が負傷。
11/18:
・ビハチ地域の要衝ヴェリカ・クラドゥシャ市で、ボスニア政府軍とムスリム人反政府勢力「西ボスニア共和国」軍とが激しい市街戦を展開。
・ボスニアのセルビア人勢力軍はムスリム反政府勢力支援のために、クロアチア共和国のクライナ・セルビア人勢力所有の軍用機を使用し、ナパーム爆弾などでビハチ地域に展開するボスニア政府軍を攻撃。
・仏・英・露の外相がパリでボスニア情勢について協議。ボスニア和平案を提示している「連絡調整グループ」の統一行動が問題解決に非常に重要であるとの認識で一致し、一方的に政策を変更した米国を批判。
・ミッテラン仏大統領とメージャー英首相はパリ南西のシャルトルで会談し、米国がボスニアに対する国連決議の武器禁輸措置を無視するような対応をとった場合、両国はボスニアに展開している国連保護軍を引き上げると米国に警告することで一致したと発表。
・国連安保理は、セルビア人勢力がビハチ地域を空爆したことを激しく非難し、即時停戦を求める議長声明を採択。
・NATOのクラース事務総長はCNN・TVとのインタビューで、ビハチ地域で戦闘が激化していることに関し、「行動を起こし、これをやめさせるよう明確な意思表示をすべきだと思う」と述べる。
11/19:
・ボスニアのビハチ地域のツァジン町をクロアチアのセルビア人地域から飛来したと見られるセルビア人勢力の軍用機2機が、アブディッチ派のムスリム人反政府勢力を支援するために爆撃。1機が市内のアパートに墜落し、パイロットを含む10人の死傷者が出た、と伝えられる。
・クロアチア共和国のセルビア人勢力は「同支配地域のウドビナ空港から軍用機が出撃した事実はない。虚偽と偏向した報告を防ぐために、ウドビナへの国連保護軍監視部隊の配置を要求する」と述べる。
・国連安保理は、ボスニアのビハチ地域がクロアチアのクライナ・セルビア人共和国地区からの軍用機で攻撃されたことに対し、NATO軍がクロアチア共和国領内でも空軍力を行使することを承認する決議958を全会一致で採択。
・NATO本部のブリュッセルで大使級理事会を開き、クロアチア共和国内での空軍力行使を認める国連決議に協力することを確認。
11/20:
・ザグレブの国連保護軍本部は、ビハチ地域へのクロアチアのセルビア人勢力による越境攻撃について、「ボスニア、クロアチアの国境の遵守を求めた国連安保理決議に反する」との声明を発表。
・クラースNATO事務総長はCNN・TVとのインタビューでNATO軍がクロアチア領内への空爆準備を完了し、国連の要請があればいつでも出撃できる態勢にあることを明らかにする。
11/21:
・NATO軍は、クロアチアのセルビア人勢力地域のウドビナ航空基地を米、仏、英、オランダの対地攻撃機30機で空爆。周辺の高射砲陣地、地対空ミサイル基地を破壊した後、空港の主滑走路や誘導路などの発着施設を攻撃し、全機無傷で帰還。NATO軍の空爆でセルビア人勢力側は7人が負傷。
・NATO南欧連合軍司令官は、「明確なシグナルを送った。しっかり受け止めるよう望む」と語る。
・クロアチアのセルビア人勢力マルティッチ代表は、NATO軍のウドビナ空港空爆に対し、「我々がたじろぐことはない。たとえNATO軍であろうと侵略者から守る」と語る。
・新ユーゴ連邦政府はNATO軍の爆撃について、「根拠のない、無責任な空爆を最大限非難する」と述べ、こうした行為は戦闘の拡大を招く、と警告。
・ロシアのコーズィレフ外相はNATO軍の空爆に関し、「クライナ地方のセルビア人勢力は、市民をNATO軍による空爆にさらすなど、最も残虐な形でボスニア紛争に介入してきた」と同勢力を批判。
・クリストファー米国務長官はセルビア人勢力に対し、「国連保護軍の安全を脅かすような手段をとるべきでない。必要があれば再度の攻撃ができることも示した」と警告。
・クラースNATO事務総長は、「空爆は成功したが、軍事的解決はありえない」との立場を繰り返し言明。
11/22:
・ボスニアのビハチ地域で、セルビア人勢力がヘリコプターと戦車を使ってボスニア政府軍を攻撃。
・バニャ・ルカ上空を飛行中の英軍機2機が、地上からのミサイル攻撃を受けるが命中せず。
・旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYは、ボスニアでムスリム人捕虜を虐待した同じムスリム人男性に対し、懲役8年の有罪判決を言い渡す。
11/23:
・NATO軍は、ボスニア北部のセルビア人勢力の地対空ミサイル陣地を空爆。空爆は2度にわたって行なわれ、米、フランス、英国、オランダの24機が参加。
・ボスニアのサラエヴォ近郊の国連保護軍管理下の武器集積地にセルビア人勢力が押し掛け、国連保護軍兵士を閉じこめ
る。
・「西ボスニア共和国」のビハチ地域でのセルビア人勢力とボスニア政府軍の戦闘はセルビア人勢力が優位に進行し、ビハチ市付近に迫る。
・明石国連特別代表はベオグラードを訪れ、ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領とクロアチアのセルビア人勢力マルティッチ代表とビハチ地域問題について会談。マルティッチ代表は、ボスニアのセルビア人勢力への軍事的支援を停止すると約束。またマルティッチ代表は、ビハチ地域に展開しているバングラディッシュの国連保護部隊1200人への食糧や燃料などの物資を補給するための輸送部隊の通過を認めることにも合意。
・NATO大使級協議で、ボスニアのビハチに対するセルビア人勢力の進攻を、全力を挙げて阻止することで一致。
・NATO軍はボスニアの「安全地域」での国連要員擁護を定めた決議836に基づき、ビハチに砲撃を加えているセルビア人勢力の戦車や大砲に航空攻撃することを国連に打診したが、国連は同意せず。
11/24:
・NATO大使級協議は、ビハチ市に設定されている「安全地域」を北に拡大することを米国が提案し、英仏とも基本的に合意。国連安保理の同意を得て、進攻を続けるセルビア人勢力に撤退を迫ることになる。NATO内では保護軍の割り当てなど細部が決まらないが、拡大について国連安保理に提案。
・ロシア議会の下院は、「NATO軍の空爆は国連の同意があるにしても、必要不可欠なものとはいえない」と批判。
・ボスニアのビハチ地域のボスニア政府軍とセルビア人勢力の戦闘は激しさを増す。セルビア人勢力のカラジッチ代表は、「ビハチ市民の安全は保障する」と、市内突入の用意はないと語る。一方ボスニア政府のシライジッチ首相は、セルビア人勢力がビハチ市近郊の高台を制圧し、戦車や大砲で攻撃していると非難。「NATO軍が即座に行動を起こすことを要求する」と空爆を要請。
・ビハチ地域の国連保護軍への物資輸送の装甲車10台が、無事ビハチに到着する。
・ボスニアのセルビア人勢力は、サラエボの国連軍管理下の武器集積地などに展開する国連保護部隊250人に対し、移動を禁じ軟禁状態に置く。
11/25:
・ボスニアのビハチ地域は、ムスリム人勢力としてのボスニア政府軍対ボスニア・セルビア人勢力およびクロアチア・セルビア人勢力、さらにムスリム人反政府勢力との間で激しい戦闘が行なわれる。
・ボスニアのビハチ地域で交戦していたボスニア政府軍とセルビア人勢力は、国連保護軍の仲介で停戦に原則合意する。
・ボスニアのビハチ地域の停戦協定は、期間をめぐってボスニア政府側が3ヵ月、セルビア人勢力側は恒久的にすべきだと主張して進展せず。戦闘は続き、セルビア人勢力のミロバノヴィチ参謀総長がビハチ市防衛のムスリム人勢力に対し投降を呼びかける。
・NATO軍は、ビハチ地域を攻撃するセルビア人勢力への空爆のために攻撃機を発進させたが、天候悪化のために攻撃を中止。米国防総省は、地中海に展開している米海兵隊2000人の乗り込んだ揚陸艦3隻をアドリア海に移動させると発表。
・明石国連特別代表は、「NATO軍のセルビア人勢力への限定的な空爆は紛争当事者の対話促進、関係国の外交努力と矛盾しない」との見解を示す。さらに、「欧米主要国間で問題解決への歩調が乱れ、また紛争当事者の一方を善玉、悪玉と見る短絡的なアプローチなどで国際状況は谷が深くなった」と述べる。
11/26:
・ボスニアのビハチ市をセルビア人勢力軍が包囲し、西側の900メートルの距離まで迫る。
・クロアチアのザグレブに向かっていた国連保護軍英部隊43人が、セルビア人勢力から足止めされる。またオランダ軍部隊70人も途中で連絡を絶つ。これ以外にも国連保護軍部隊が移動を阻止されている模様。
・ボスニアのビハチ市周辺で、ボスニア政府軍とセルビア人勢力軍が激しい戦闘を継続。
11/27:
・ボスニアのビハチ市を包囲しているセルビア人勢力は、ボスニア政府軍に対してムスリム人反政府勢力のアブディッチ派への投降を呼びかけるが、ボスニア政府軍は拒否する。ボスニア政府軍は、第5軍団司令部の建物を爆破して一部退却を始めた模様。
・米上院ボブ・ドール共和党院内総務はNBCのインタビューで、ボスニアの国連保護軍が住民保護の役割を果たしていないとしてUNPROFORのボスニアからの撤退を要求。また、「明石国連特別代表とローズ・ボスニア駐留国連保護軍司令官は辞任すべきだ」と述べ、さらに「国連が拒否権を持っているために、NATO軍の軍事力行使が制限されている。だから、ボスニア政府の武器禁輸措置を解除し、ボスニアが少なくとも自らを守れるようにすべきだ」と語る。
11/28:
・国連安保理は、ボスニアのビハチからセルビア人勢力軍の即時撤退と即時停戦を求める議長声明を採択。
・ボスニア政府軍は国連保護軍が提案した停戦を受け入れると表明したが、セルビア人勢力はいまだ回答せず。
・ボスニア政府軍の一部がムスリム人反政府勢力およびセルビア人勢力に投降している模様。
・ロシアのグラチョフ国防相は、ボスニア情勢について「米国が一方的な姿勢で解決しようとするなら、近い将来、平和維持軍の意義はなくなり、ロシア部隊の撤収が現実のものとなる」と記者団に述べる。
・NATO軍は、国連がボスニアのセルビア人勢力のミサイルなどの防空システムへの攻撃を承認しない限り、再び出撃はしないと通告。
・フランスのミッテラン大統領とバラデュール首相は連名で、武器禁輸解除につながる一方的な米国の政策変更を指弾し、「ボスニア政府に武器禁輸解除の期待を抱かせ、武力による土地の奪還を奨励することが如何に無益で危険であるかをビハチの悲劇は示している。継続する和平は、話し合いによってしか生まれない」と記す。
・米政府は閣僚会議で、「領土分割比率」の再考もあり得るなどを含む「和平交渉推進」の方針を再確認したが、共和党が多数を占める議会は武器禁輸解除と空爆支持が多数を占める。
・ボブ・ドール共和党上院院内総務は、NATOのクラース事務総長やメージャー英首相と会談するために欧州訪問に出
発。
・ボスニアに関する連絡調整グループ代表団はセルビアを訪問し、ミロシェヴィチ大統領と新和平案の修正などについて協議。会談の内容;「1,ボスニアのセルビア人勢力の支配地域と新ユーゴ連邦との国家連合構想について。2,ボスニア全土での全面停戦。3,ボスニア紛争3派による直接の領土交渉の開始。4,新ユーゴ連邦への経済制裁の緩和」など。ボスニア政府のシライジッチ首相は、「国家連合構想はあり得ない」と拒否する姿勢を示す。
・ガリ国連事務総長はボスニア問題の解決策を模索するために、30日にボスニアのサラエヴォを訪問すると発表。
11/29:
・ボスニアのビハチでは戦闘が継続し、ビハチ市の7万人の生活は飲料水の不足、電気・ガスの供給も止まり、衣類も不足するなどの困難に陥る。
・国連安保理は、ガリ事務総長に和平調停への協力を求め、セルビア人勢力に対する即時無条件停戦を要請する議長声明を採択。
・ガリ国連事務総長は、ボスニアの各勢力が全土の停戦を即時実施しなければ、国連の平和維持活動を停止する方針を表明。
11/30:
・ガリ国連事務総長は、サラエヴォでイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談。セルビア人勢力の指導者とは会談の場所について折り合いが付かず、和平調停は不調に終わる。
・国連保護軍はサラエヴォ空港で、「難民高等弁官事務所に協力し、誠実に交渉する姿勢を見せることを両勢力に要求」し、国連保護軍への妨害が続けば「保護軍の駐留を続けるよう安保理を説得することは不可能になる」と、保護軍の撤退に言及した声明を発表。
12/02:
・ボスニアの首都サラエヴォにあるボスニア政府幹部会ビルに対戦車ミサイル2発が打ち込まれ、1発は屋根に当たり1発は後方に落下したが、明石国連特別代表が建物内にいたものの無事。
・ボスニアに関する5ヵ国「連絡調整グループ」の外相協議がブリュッセルで開かれ、ボスニア和平合意書を作成。
合意書の要旨:「1,旧ユーゴスラヴィア紛争は戦争ではなく話し合いによってのみ解決される。2,ビハチ安全地域周辺での即時停戦を含め、ボスニア全土での戦闘をやめること。3,非武装化を目指した国連保護軍の努力を支持し、ボスニア全土で保護軍と人道物資の自由移動を求める。4,保護軍の任務は重要であり、危険が受け入れがたい段階に至らない限り続ける。5,これまでの外相声明と連絡調整グループの和平案を再確認する。6,ビハチ周辺での停戦とセルビア人勢力の撤収が済み次第、この合意をもとに交渉再開に努める。7,旧ユーゴスラヴィアの全国家が、国際的に認められた国境で早急に相互承認するよう求める。8,領土を51/49に分ける提案と、ボスニアの領土保全と主権に関する約束は解決の基礎であり、領土に関する提案は当事者の合意で調整しうる。9,全当事者に受け入れ可能な国家形態に関する調整が行なわれる必要がある。それはボスニア領土を保全し、ボスニアのクロアチア人、セルビア人両勢力にとって公正で、均衡の取れたものとする」。
・国連安保理は、新ユーゴスラヴィアからクロアチア共和国内のクライナ・セルビア人地区への石油禁輸などを求める決議案を、ロシアが拒否権を行使して不採択となる。米、英、仏など13ヵ国は賛成する。
12/03:
・ガリ国連事務総長はボスニアからの国連保護軍撤退問題について、「国連安保理がボスニア政府への武器禁輸解除を決めれば、英、仏、ロシア、カナダ、スペインは自国軍を引き上げると言っている。撤退計画自体は前進している」と語る。
12/04:
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はベオグラードで、ハード英外相およびジュッペ仏外相と会談。会談後の記者会見でミロシェヴィチ大統領は、「連絡調整グループ」の提案している和平案の全面支持を表明。ボスニア政府とボスニア・セルビア人勢力との間で続く戦闘の即時停戦を求めるために、セルビア人勢力への影響力を行使することを約す。
12/05:
・ガリ国連事務総長は、ビハチ、サラエヴォなどの安全地域6ヵ所の非武装化を勧告する報告書を安保理に提出。この背景にはムスリム人勢力が安全地域を聖域とし、そこを拠点にして出撃することが事態を悪化させているという実態があり、ここを非武装化しない限り停戦も不可能との見方に基づくもの。
・ボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領は、ブダペストで開かれているCSCE首脳会議で「フランスと英国はセルビア人勢力の保護者の役割を果たした」と両国を非難する演説を行なう。
・全欧安全保障協力会議・CSCEの首脳会議を開き、旧ソ連圏のウクライナ・ベラルーシ・カザフスタンが保有する核兵器の処遇について協議を行なう。3国の保有する核兵器をロシアに移管するブダペスト・メモランダムを作成し、米・英・露・ウクライナ・ベラルーシ・カザフスタンの首脳が署名する。また、CSCEを欧州安全保障協力機構・OSCEとすることも決める。
12/07:
・コール独首相は、NATO軍からトルネード戦闘爆撃機のボスニアへの派遣を要請されたことについて、キンケル外相(自由民主党)とリューエ国防相(キリスト教民主同盟)と協議。コール首相は「慎重に検討する」と語る。
・フランスのジュッペ外相は下院で、「ボスニアに関する国際的な和平努力が暗礁に乗り上げた。われわれはもはや保護軍兵士が人質にされるのを受け入れることはできない。ボスニアに派遣している4500人のフランス国連保護軍を引き上げる詳細な計画を作成するよう、NATO軍に要請した」と報告。
・ハード英外相は議会で、「あり得る撤退に備え計画を検討している」と証言。
・NATOの大使級協議は、ボスニアの国連保護軍が撤収を迫られた場合、各加盟国がどの程度の「護衛兵力」を提供できるかについて早急に詰めることを決定。
12/08:
・クリントン米大統領は、ボスニアから国連保護軍が撤退する場合、これを支援するために米軍の地上部隊を派遣する用意があるとNATO本部に伝え、議会にも説明。
・ボスニアのセルビア人勢力は、11月23日からサラエボ北方で軟禁状態においていた国連保護軍のカナダ部隊の兵士55人を解放したと発表。
・ボスニアのビハチ地区に、ミサイルが撃ち込まれる。
12/09:
・EUはボスニア問題に関する外相協議で、ボスニア政府への武器禁輸措置が解除されない限りにおいて、国連保護軍は残留に努力すべきだ、との立場を確認。
・ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表は、国連保護軍の撤収に備えてNATO軍が撤収の支援のための緊急対応計画を進めていることについて、「NATOや米国は、セルビア人勢力の支配地域に近づいてはならない。我々に敵対するようであれば、第2のベトナムになるであろう」と警告。
・ボスニアのビハチ市に砲弾3発が打ち込まれ、1発が喫茶店近くに着弾し、女性1人が死亡し、7人が負傷。
12/10:
・EUは首脳会議でボスニアに関し、「1,国連保護軍の残留。2,人道援助の再開。3,即時停戦と交渉による解決」などを呼びかける共同声明を発表。EUの声明により、ボスニア情勢は落ち着きを取り戻し始める。
12/12:
・訪米中のレオタール仏国防相はペリー米国防長官と会談し、ボスニアに駐留している国連保護軍が活動することへの米仏両国の支持を確認。会見後の共同記者会見で、「1,物資搬送とあらゆる人道支援活動への援護の強化。2,サラエボ空港の安全策の強化」などをあげる。
12/13:
・イスラム諸国会議機構・OIC(52ヵ国加盟)がモロッコのカサブランカで開かれ、「武器禁輸は機能していない。ボスニア政府への自衛手段を与えるべきだと考える国連加盟国と協力する用意がある」との決議を採択。
12/14:
・カーター米元大統領は、ボスニアのセルビア人勢力カラジッチ代表の使節からボスニア和平調停の依頼を受けた、との声明を発表。
・カラジッチ・セルビア人勢力代表はカーター米元大統領に、「1,拘束中の全ての国連保護軍兵士の解放。2,19歳以下のムスリム人捕虜の解放。3,サラエヴォ周辺での停戦を尊重し、サラエヴォ空港を再開する。4,人権の尊重などを24時間以内に実施する」と付け加える。カーター米元大統領はクリントン米大統領にも既に伝えたと語る。
・NATOの国防相会議がブリュッセルで開かれ、ボスニアへの国連保護軍残留に全力を挙げることで合意。同時に、最悪の事態を想定した撤収作戦の詰めも急ぐ。撤収支援作戦には米、ドイツ、ポルトガル、ギリシャなどが兵員装備などで協力する用意があると表明する。
・国連安保理は、新ユーゴ連邦に科した経済制裁のうち、医薬品についての輸出を許可する決議967を採択する。
12/15:
・イスラム諸国会議機構・OICは最終声明で、「セルビア人勢力の攻撃を受けているボスニア政府への支援強化」を採択して閉幕。
・米政府は、カーター米元大統領のボスニア和平調停について軍用機提供などの支援を図ることを明らかにする。
・ドイツ通信が政府筋からの情報として、国連保護軍撤退の際にドイツ軍が支援する規模は、「電子偵察トルネード戦闘爆撃機8機、通常型トルネード6機、偵察機2機、トランスアル輸送機12機、海軍軍艦、野戦病院施設など、兵員は衛生兵を中心に3000人規模」と伝える。ただし、ドイツは第2次大戦中、ナチス・ドイツがユーゴスラヴィアを侵略した歴史を持つことから慎重にならざるを得ず、国民の意見は割れている
12/16:
・ボブ・ドール米共和党上院院内総務はカーター米元大統領に、「調停要請はカラジッチ・セルビア人勢力代表の時間稼ぎ」との書簡を送り、受諾しないよう要請。
・カーター米元大統領は調停役を受け入れ、17日にもサラエヴォに向かって出発する予定。
12/17:
・ボスニアの反政府ムスリム人勢力のアブディッチ代表は、ボスニア北西部ビハチ地域北部のヴェリカ・クラドゥシャをボスニア政府軍から奪回したと宣言。
・カーター米元大統領は、サラエヴォに入る前にクロアチアのザグレブでトゥジマン・クロアチア大統領、シライジッチ・ボスニア首相、国連関係者と会談して意見を交換。
12/18:
・カーター米元大統領は、ボスニアの首都サラエヴォに到着。カーター元大統領は記者団に対し、ボスニアのセルビア人勢力によって足止めされていた国連保護軍の車輌の大半は既に移動許可を得ていたことを明らかにする。
・カーター米元大統領はボスニア政府のイゼトベゴヴィチ大統領との会談で、「連絡調整グループ」の和平案を尊重するよう強調。イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「カーター米元大統領はセルビア人勢力が連絡調整グループの提案を受け入れるよう促すためにやってきた」と語り、新たな提案はなかったと述べる。
12/19:
・カーター米元大統領は、ボスニアのサラエヴォ近郊のセルビア人勢力の拠点パレでカラジッチ代表と会談。
・カラジッチ・セルビア人勢力代表は、「多くの米国人は、我々がセルビア共和国から来て侵略していると信じている。しかし我々はこの地で生まれ、育ってきたのであり、ボスニアは我々のルーツだ」と訴える。カーター米元大統領は「それに異議を挟むことはできない」と米国民が基本的に一方の側に立ち、セルビア人勢力への誤解があったことを認める。カーター米元大統領の調停に対し、カラジッチ・セルビア人勢力代表はボスニア政府が応じることを条件に、4ヵ月間の全面的停戦に合意したことを明らかにする。「連絡調整グループ」の新和平案に基づく和平交渉にも臨む意思を表明。
・ボスニア政府は、一転して新和平案に反対を表明する。
12/20:
・カーター米元大統領はサラエヴォでイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談し、4ヵ月停戦への同意を得る。その後直ちにパレに飛び、カラジッチ・セルビア人勢力代表と2度目の会談を行ない、セルビア人勢力が23日からボスニア全土で戦闘行動を停止することに同意を取り付ける。停戦監視には、国連保護軍が当たることになる。
12/21:
・カーター米元大統領は帰米したアトランタ空港で、ボスニアのセルビア人勢力とムスリム人勢力が「捕虜全員の解放」に合意したと語る。
12/22:
・明石国連特別代表は、ボスニア政府とボスニアのセルビア人勢力との停戦をめぐる交渉のために、サラエヴォに入り、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談。「停戦合意はかなり近づいている。23日にも協定成立に漕ぎ着けたい」と語る。
12/23:
・明石国連特別代表の仲介により、ボスニア政府とボスニアのセルビア人勢力は24日からボスニア全土で4ヵ月間の停戦交渉を行なうために、7日間の停戦に入ることで合意し、5項目の停戦協定に調印。調印内容は、「1,全土での停戦。2,停戦の検証と監視。3,国連保護軍、人道援助要員などの移動の自由と安全の保障。4,人権の遵守と国際監視。5,兵力引き離しなど敵対行為の停止をめぐる交渉を行なう」というもの。この合意事項に、和平交渉の開始は含まれず。
12/24:
・ボスニアの停戦が全土で発効する。この後1月1日までに兵力引き離しなどの交渉を行なうことになる。
12/25:
・ボスニア政府とボスニアのセルビア人勢力との全面停戦協定は概ね守られ、大規模な戦闘は行なわれていないが、ビハチ地域では停戦合意に加わっていないクロアチアのセルビア人勢力およびムスリム人反政府勢力対ボスニア政府軍が戦闘を続ける。
12/26:
・ボスニア政府は、ビハチでの戦闘が止まない限り、セルビア人勢力との1月1日までの停戦交渉には応じられないと表明。
12/28:
・ボスニアのムスリム人反政府勢力指導者アブディッチ代表は、ビハチ地域北部で国連保護軍のローズ・ボスニア駐留軍司令官と会談し、ビハチ地域での停戦を基本的に受け入れると言明。
・ボスニアのセルビア人共和国議会は、カーター米元大統領による4ヵ月の停戦を含む調停継続に関する賛否の投票を行ない、賛成53,棄権8票で承認する。
12/31:
・ボスニアでの4ヵ月全面停戦協定が、明石国連特別代表とUNPROFORのローズ・ボスニア方面司令官立ち会いの下、ボスニア政府とボスニアのセルビア人勢力との間で調印される。停戦合意は、1月1日から発効する。
1994/00:
・マケドニア共和国政府は、IMFの第2段階の構造調整プログラムにより、財政削減を更に進め社会福祉政策と老人年金の縮小などが求められる。さらに、IMFは支払い能力がない4000社の閉鎖と余剰労働力の解雇を勧告する。
1994/00~1995/00:
・米政府は、旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYについて現金で230万ドル、設備に70万ドルを提供、ジョージ・ソロス投資家のオープン・ソサエティー研究所財団が15万ドル、ロックフェラー財団が5万ドルを寄付。タイムワーナー社やディスカバリー・プロダクト社も寄付。ジョージ・ソロスはコソヴォ解放軍・KLA(UCK)の新聞にも寄付。また「国際正義のための連合」も支援。