01/10:
・ユーゴ連邦は、第1回連邦首脳会議を開く。連邦首脳会議は連邦幹部会とマルコヴィチ連邦首相、連邦議会議長、各共和国・自治州の代表で構成する。ヨヴィチ・ユーゴ連邦大統領は、スロヴェニア共和国とクロアチア共和国に対し、21日までに武装解除することを命令。
01/21:
・デクエヤル国連事務総長はユーゴ連邦のロンチャル外相に対し、非同盟諸国議長国として湾岸戦争終結に向けて最大限の努力をするよう電話で要請。
01/23:
・ユーゴ連邦のスロヴェニア共和国およびクロアチア共和国は、連邦幹部会の21日期限の武装解除命令に従わず。
・スロヴェニア共和国はスロヴェニア地域防衛隊を組織し、国境の防衛を強化する。
・クロアチア共和国では2万人の予備役を動員してクロアチア特別機動隊を組織し、ハンガリーなど外国から2万丁の小銃を買い入れて国境防衛を強化する。
・ユーゴ連邦国防省は、クロアチア共和国が独自の武装組織づくりを進めていることに対して声明を発表。「これはユーゴ連邦を解体する試みである。動員された部隊の解散が行なわれないない場合は、連邦幹部会の命令に従い、連邦人民軍の部隊の戦闘準備を一段階強めることになる」と再度、武装解除命令を出す。
・クロアチア共和国の首都ザグレブ近郊のユーゴ連邦人民軍の事務所で爆発があり、1人が死亡し、9人が負傷する。
01/24:
・クロアチア共和国は緊急閣議を開き、連邦国防省が再度武装解除を求めたことについて協議。「ユーゴ連邦国防省の声明は、クロアチアの主権を侵害するものであり、予備役の動員は解除しない」ことを決める。さらに、25日に予定されているクロアチア共和国臨時議会に、「共和国の憲法・法律に合致しない連邦の法律は、クロアチア領内では適用されない」との決議を行なうよう求める。
・ユーゴ連邦スロヴェニア共和国のクチャン大統領は、ベオグラードでミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領と会談。会談後の声明でクチャン大統領は、「クロアチアなど各共和国に生活するセルビア人が、一つの国家に暮らすことを求めるのはセルビア民族の利益に適ったことであり、ユーゴスラヴィアの将来をめぐる協議はこの点を考慮に入れるべきと考える」と述べる。
01/25:
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、ユーゴ連邦幹部会に出席。当面の危機回避のため、26日までにクロアチアでの予備役動員を解除し、外国から秘密に購入していた2万丁の自動小銃を回収することで合意する。
・ユーゴ連邦国防省は、武装蜂起を準備した容疑でクロアチア共和国ビロビチア市幹部やクロアチア民主同盟支部長らを逮捕する。
・マケドニア共和国議会は、ユーゴ連邦からの離脱権や共和国の法の優先などを謳った「主権宣言」を採択。
01/30:
・ユーゴ連邦人民軍当局は、クロアチア共和国内務省に対し、シュペーゲル・クロアチア共和国国防相を連邦軍事裁判所の予審判事のもとに出頭させるよう要請。クロアチア共和国が独自に武装組織つくりを図っていることに対する責任追及。
01/31:
・ユーゴスラヴィア連邦は、第2回首脳会議を開く。
02/08:
・ユーゴ連邦第3回首脳会議をベオグラードで開く。クロアチア共和国とスロヴェニア共和国は、セルビア共和国が連邦制の維持を強く求めていることから、独立国家による国家連合を主張している両国は会議をボイコットする。
・ユーゴ連邦人民軍は、シュペーゲル・クロアチア共和国国防相を、連邦からの離反を企てているとして反逆罪で逮捕を要求。
・セルビア共和国のベオグラード市民5000人が連邦制維持を求め、分離独立を図るクロアチアに抗議するデモを繰り広げる。
02/13:
・ユーゴ連邦は各共和国との第4回首脳会議をベオグラードで開き、第3回には出席をボイコットしたトゥジマン・クロアチア大統領とクチャン・スロヴェニア大統領も出席し、協議を行なう。
・マルコヴィチ連邦首相は協議について、「①独立に動いているクロアチアとスロヴェニア両共和国を含め、連邦法に反した共和国法令を2月18日から一時凍結する。②新たな政治体制が決定されるまでの暫定的措置について各共和国との間で『高度の合意』 がなされた」と述べ、連邦解体の危機にひとまず歯止めがかけられたことを明らかにする。
02/20:
・ユーゴ連邦スロヴェニア共和国は議会を開き、「ユーゴ連邦憲法の無効に関する共和国憲法修正条項」およびユーゴ連邦からの分離宣言を採択。
「憲法改正」:スロヴェニア共和国内では共和国憲法が優先し、ユーゴ連邦憲法は無効になる、との条項を追加。
「分離宣言」:スロヴェニア共和国とユーゴスラヴィア社会主義連邦の非連合化に関する決議、「1,自主独立の決定を下した国民投票の結果に基づき、共和国議会と連邦との間で分離に関する法的継承権をめぐる交渉を開始する義務がある。2,スロヴェニア共和国議会は、完全な国際的主体性を持つ国家としてユーゴスラヴィアとの非連合化の提案を行なう。ユーゴスラヴィアは、合意に基づきスロヴェニア共和国とユーゴ連邦共和国の2つの新しい主権独立国家に分かれる。国境は現在の共和国間、およびオーストリア、イタリア、ハンガリー国境とする。3,連邦との間で、国際法に基づいて非連合化の手続きを段階的に行なう」を圧倒的多数で採択する。
02/21:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、共和国議会に「クロアチア共和国政府が共和国憲法に違反すると判断した連邦憲法・法令は共和国内では適用しないとする、『クロアチア共和国憲法施行法改正案』」を提案し、クロアチア共和国議会は圧倒的多数で採択。さらに、共和国議会は、独立に向けた12項目の行動計画を採択。また、ユーゴ連邦人民軍がクロアチア共和国内の準軍事組織の武装解除と同共和国国防相の逮捕を命令している問題に対しては、命令撤回を要求し、連邦人民軍が共和国に対して非常事態を宣言する法的権利を否定する、との決議を採択。
02/25:
・ワルシャワ条約機構加盟国の外相・防衛相が会合を開き、条約に基づく軍事機構の解体についての声明を発表する。
03/01:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国のセルビア人住民の「執行会議」および「セルビア国民会議」は、クライナ地方をクロアチアから分離し、ユーゴ連邦に残留するとの宣言を採択する。
03/02:
・ユーゴ国営タンユグ通信は、クロアチア共和国のセルビア人居住区パグラッツで、武装したセルビア人住民とクロアチア警察当局が衝突し6人が死亡、70人が負傷。連邦人民軍の戦車部隊が間に入り衝突を鎮圧、と報じる。
註;この衝突は、後にパクラッツ事件と称される。クロアチアの西スラヴォニア地方のセルビア人の町パクラッツが、「クライナ・セルビア人自治区」への参加を決定したことに対し、クロアチア当局がこれを阻止するために警官隊を急派。このクロアチア警察隊と、武装したセルビア人住民が銃撃戦を展開。あわや内戦となりかねない両者の間にユーゴ連邦人民軍の戦車部隊が割って入り、武力衝突を鎮静化させた。
03/05:
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、パグラッツなどでの衝突による民族間の対立の拡大を恐れ、クロアチア共和国内のセルビア人約2万人が、セルビア共和国内に避難し始める。
03/09:
・ユーゴ連邦の首都ベオグラードで、セルビア再生運動と民主党が組織した反政府デモに3万人が参加し、「ミロシェヴィチはサダムだ。退陣しろ」と叫びながら行進。規制に当たった警官隊がゴム弾や催涙弾を発砲し、双方に1人ずつの死者と負傷者70人以上が出た模様。連邦人民軍が出動して鎮圧。
03/10:
・セルビア共和国警察当局は、9日の反政府デモを指導したセルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首ら幹部2人を逮捕。
・ユーゴ連邦人民軍は、連邦議会、共和国広場、テレビ局など主要な施設に配備し、警戒態勢を取る。
03/11:
・ユーゴスラヴィアのベオグラードで、大学生を中心とする5000人が参加した反セルビア政府デモが繰り広げられる。警官隊が催涙ガスなどでデモ隊を解散させるが、再び数千人規模のデモが起こる。学生たちは、「ボグダノヴィチ内相の解任を要求するとともに、ベオグラード・テレビが嘘の報道ばかりしていると非難。学生たちは、政府に8項目の要求を提出。要求;「1,憲法に違反する抑圧的な非常事態の緩和。2,3月9日、10日に逮捕された者の釈放。3,流血を伴う抑圧的措置の責任者の公表。4,マスコミ界の責任者5名の辞任。5,与党によるメディア独占支配の廃止、および自由放送局スタジオBと若者ラジオB92など自由な活動の保証。6,スタジオBに対するRTVベオグラードの技術機器の使用許可。7,警察相ラドミロ・ボグダノヴィチの辞任。8,セルビア議会の臨時議会の即時招集」。セルビア共和国当局は、3項と6項を除いてすべて受け入れる。
・ドラシュコヴィチ党首の逮捕に抗議する議員19人が、ハンストを議会内で実行。セルビア共和国政府に対する反政府の抗議デモは、ニシュやノヴィ・サドなど地方にも広がる。
03/12:
・ユーゴ連邦幹部会は緊急幹部会を開き、抗議行動への対応を協議。セルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首を釈放し、ベオグラード・テレビの幹部5人を解任。ヨヴィチ・ユーゴ大統領は、「連邦幹部会は憲法上の機能と責任を全うすることができなくなった」 と述べる。
03/13:
・ユーゴ連保セルビア共和国のラドミロ・ボグダノヴィチ内相が責任を取って辞任を表明。セルビア再生運動のドラシュコヴィチ党首は「我々は自由と民主主義が勝利するまで行動し続ける。現政権はもはや選挙での勝利に基づく合法性を持っていない」とセルビア社会党政権を非難。
・ユーゴ連邦ボスニア共和国のゼニツァ市のゼニツァ製鉄所の労働者1万5000人が、給料の引き上げを求めてストライキに突入。
03/14:
・ユーゴ連邦セルビア共和国政府は、9日の衝突で逮捕した116人のうち108人を釈放。この釈放により、ベオグラードで行なわれていた反政府の抗議行動は、「要求が受け入れられた」として中止する。
03/15:
・セルビア共和国選出のボリサブ・ヨヴィチ・ユーゴ連邦大統領が辞意を表明。ヨヴィチ大統領は、「現在、さまざまな既成事実の積み重ねで解体しつつある連邦人民軍の指導部から、このままでは内戦の危機に繋がる恐れがあるので幹部会のいかなる命令にも対処しうるよう、軍の態勢を一段引き上げるよう提案されたが、幹部会で拒否された。内戦の事態も考えられ、幹部会としての役割を果たせなくなった」との声明を発表。
・ユーゴ連邦大統領代行に、クロアチア共和国のメシッチ幹部会副議長が就任する。
・アルバニアと米国が国交を回復する。
03/16:
・ユーゴ連邦幹部会のモンテネグロ代表のプチン幹部会員も辞任。
・ユーゴ連邦セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領は、ベオグラード・テレビで 「ユーゴ連邦の解体を進める勢力が連邦幹部会の機能を阻止しており、連邦解体は最終段階に入った。今夜からユーゴ連邦幹部会は存在しない。セルビア共和国は、連邦幹部会の決定を一切認めない」との演説を行なう。
・ユーゴ連邦クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、「クロアチアは民主的な話し合いが必要だと考えている。西欧、国際世論が分離・独立に良い感情を持っていない状況下では、主権共和国の連合という形も模索しなければならない」と語る。
03/18:
・ユーゴ連邦セルビア共和国議会は、同共和国のコソヴォ自治州のサブンジア連邦幹部会員の解任を決議。同時にコソヴォ自治州幹部会の活動停止法も可決。
03/19:
・ユーゴ連邦人民軍参謀本部は、「1,国境変更を認めない。2,内戦の発生は許さない。3,政党間の暴力行為を許さない」との声明を発表。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、「ユーゴ連邦は欧州共同体・ECをモデルにした独立国家による連邦制に代わるべきで、そうしなければ解体してしまう」と語る。
03/20:
・ユーゴ連邦セルビア共和国議会は、ヨヴィチ連邦大統領の辞任について協議。「セルビア共和国は連邦幹部会から引き揚げるべきではない」との意見が大勢を占め、大統領の辞任を圧倒的多数で否決する。ヨヴィチは、引き続き大統領の職に留まることを決める。
03/23:
・ユーゴ連邦政府は、新たな機能を持たせた6共和国による首脳会議を発足させ、政治解決を促進させることになる。
03/25:
・トゥジマン・クロアチア大統領とミロシェヴィチ・セルビア大統領がカラジョルジェヴォで極秘に会談し、「1,セルビア、クロアチア両民族にとり不利益になる方策はとらない。2,双方の歴史的利益を尊重して永続的な解決策を探る。3,2ヵ月以内にユーゴスラヴィアの直面する問題を解決するよう、28日に共和国首脳会議を開いて提案する」ことで合意する。
註;この会談で、両者はボスニアの3分割について協議していた。3分割そのものについては原則合意したものの、地域分割の細部について合意に至らなかったため持ち越しとされた。
・ユーゴ連邦クロアチア共和国は、アルバニアに連絡事務所を開設する。
03/27:
・ユーゴ連邦セルビア共和国のセルビア再生運動などの野党が、ベオグラードで数万人の市民を集めて集会を開く。
・ドラシュコヴィチ・セルビア再生運動党首は、「1,9日の反政府集会で死傷者を出した原因の究明。2,ミロシェヴィチ・セルビア社会党政権の総退陣。3,年内の再選挙実施。4,独立したテレビなどの報道機関、司法、真の複数政党による国会」が必要と訴える。
03/28:
・ユーゴ連邦の新たな6共和国第1回首脳会議がクロアチアのスブリトで開かれる。スロヴェニアとクロアチア対セルビアとモンテネグロの2つの陣営が対立し、ボスニアとマケドニアが調停に入るが話し合いはまとまらず。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は首脳会議に出席する前に、「連邦の将来は共和国の首脳によってではなく、国民によって決められるべきだ」と語る。
・ブッシュ米大統領は、ユーゴ連邦のアンテ・マルコヴィチ首相に親書を送る。要旨;「ユーゴスラヴィア全人民のためとなるあなたの勇敢な経済構造改革プログラムに対する取り組みに称賛の念を表明する。さらなる具体的な支援は、ユーゴ連邦政府による改革の実現に依る」と表明。
03/31:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国警察は、セルビア人住民が占拠したチトバ・コレニツァ地方の国立公園を襲い、地元のセルビア人住民の自治警察や住民と銃撃戦を展開する。この銃撃戦で、セルビア人住民1人が死亡し、クロアチア共和国の警官1人が死亡、7人が負傷する。
・クロアチアのコレニツァ地方の武力衝突は、ユーゴ連邦人民軍が介入して終結し、セルビア人警官は国立公園から退去する。
04/01:
・クロアチア共和国のセルビア人勢力のクライナ地方執行会議は、セルビア共和国への併合を一方的に宣言する。
04/04:
・ユーゴ連邦幹部会はクロアチアのチトバ・コレニツァ地方の事態が正常化するまで、連邦人民軍が駐屯することを決める。
・ユーゴスラヴィア国営航空・JATが、待遇改善を求めてストライキに入る。マルコヴィチ連邦首相の経済改革の通貨供給量抑制政策により、賃金凍結、未払いなどが頻発する。対外債務180億ドル。
04/09:
・ユーゴ連邦セルビア共和国のボグダノヴィチ内相が辞意を表明する。
04/11:
・ユーゴ連邦第3回6共和国首脳会議は、連邦制の維持を求めるのか、分離を求めるのかについて、各共和国が国民投票を実施することで合意する。
・ユーゴ連邦スロヴェニア共和国のクチャン大統領は、スロヴェニア共和国が遅くとも6月26日までに独立を宣言する、と表明。
・クロアチア共和国は、クロアチア国防隊を結成する。クロアチア共和国には国防隊とは別に5万人のクロアチア警察隊がある。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「私は、共和国は主権国家ではない、と繰り返し言ってきた。しかし、もし主権国家であるユーゴスラヴィアが分裂するなら、我々は国境問題を提起しなければならない」と語る。
04/12:
・セルビア、クロアチア、スロヴェニアの各共和国議会代表が会談。
04/15:
・ユーゴ連邦のミロシェヴィチ・セルビア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領が両国の国境付近で会談し、両共和国の民族対立の解消策について話し合い、「暴力行為の自制」で合意する。
04/16:
・ユーゴ連邦セルビア共和国の金属、織物労働者70万人が、未払い賃金の支払いを求めて無期限ストに突入する。
・ユーゴ連邦マケドニア共和国議会は国名から社会主義を削除し、「マケドニア共和国」を正式名称とする決議を採択する。
04/18:
・ユーゴ連邦6共和国の首脳会議が開かれ、ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「もし主権国家であるユーゴ連邦が分裂するならわれわれは共和国間の国境変更問題を持ち出す」という新たな方針を明らかにする。
04/19:
・マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相は、連邦議会で通貨ディナールを対マルクで9から13ディナールに切り下げると発表。
04/22:
・ユーゴ連邦幹部会は、この1ヵ月で4回の首脳会議を開いても民族対立解決の糸口が見つからない現状について、「内戦の脅威が深刻化している」と改めて警告。
・ユーゴ連邦スロヴェニア共和国のメンチンゲル副首相は、ペテルレ首相に辞任を申し出る。
04/26:
・ボスニアのクライナ地方のセルビア人住民は、バニャ・ルカに集まり、「ボスニア・クライナ自治体同盟」を設立する。
05/01:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国のブラサディン村で、セルビア人住民1人がクロアチア人住民に殺害される。
・ユーゴ連邦のベオグラードのTV放送によると、クロアチア共和国の北部ヴコヴァル近郊のボロヴォ・セロにクロアチア警察官と武装民兵が侵入し、銃を乱射しながら役場に掲げられたセルビア国旗を引きちぎったためにセルビア人住民と衝突し、クロアチア警察官2人が逮捕される。
註;90年8月のクニンでの武力衝突以来、ザグレブのクロアチア当局とボロヴォ・セロの地元セルビア人代表との間で、ボロヴォ・セロにはクロアチア警察が入ることも実力行使をすることもしない、との協定が交わされていた。にもかかわらず、クロアチア警官がボロヴォ・セロに入り込み銃を乱射し、旗を引きちぎるなどをした。この事件は、「ボロヴォ・セロ事件」と称されるが、この事件がセルビア人勢力とクロアチア人勢力との対立を決定的なものとした。
・クロアチアのダルマツィア地方の都市ザダル市で、クロアチア人の群衆がセルビア人の商店116軒を10時間にわたって破壊。
註;この事件はイタリアの新聞に、「ダルマツィアの水晶の夜」と表現されたほどの凄まじい破壊であったが、このイタリアの新聞などを除き、西側のメディアではほとんど報じられることはなかった。このときの破壊の順序は、クロアチア警察がセルビア人の商店に入って住民を追い出したあと、組織された攻撃部隊が商店を破壊し、それに連れてクロアチア住民の群衆が略奪を行なった上で放火するという組織立ったものであった。
05/02:
・クロアチア警察が300人ほどの警官を動員し、逮捕された警官2人の奪還を目指してボロヴォ・セロに大挙して押し寄せたため、セルビア人住民とクロアチア警察隊との間で銃撃戦となり、クロアチア人警察隊12人、セルビア人住民3人が死亡し、20人以上が負傷する。
05/03:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国南部ベンコヴァツで、クロアチア人警官が銃撃されて死亡。トゥジマン・クロアチア大統領は、「クロアチアに対するあからさまな戦争である」とセルビア人を非難。
・クロアチア共和国のアドリア海に面したビオグラード・ナ・モルの町では、クロアチア人住民がセルビア人住民の商店などを破壊する。
05/04:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国のヴコヴァル市で、AP通信のカメラマンが武装したクロアチア人住民に殴られる。
・クロアチア共和国内のミルコブツィ村で、クロアチア警察とセルビア人住民の衝突で警官2人、住民1人が死亡。
・クロアチア南部のクニンでは、クロアチア警察とセルビア人住民との間の銃撃戦が展開され、住民1人が死亡。
・クロアチア東部のヴコヴァル近郊では、セルビア人住民1人が死亡。
・クロアチアのトバルニク村の600人のセルビア人住民が、セルビア共和国内に避難する。
・ユーゴ連邦幹部会が緊急会議を開き、クロアチア共和国内のクロアチア人とセルビア人との紛争について協議。一連の衝突を「過激派の行動」と非難。連邦政府は、国防省、内務省に対し、「内戦に繋がるような一連の流れを一気に断ち切るため」の具体的な手段を早急に講じるよう命令。
05/05:
・ヨヴィチ・ユーゴ連邦大統領は、民族衝突を防ぐため連邦人民軍の介入を許可したが、スプリトでは連邦人民軍も手がつけられないほどの混乱状態に陥る。
・ユーゴ連邦マケドニア共和国は、アルバニア政府とステニアで両国の国境を開放する協定を結ぶ。マケドニア人はアルバニアに130万人住んでいるが、この協定でマケドニア人はパスポートなしでアルバニアと行き来できることになる。
05/06:
・ユーゴ連邦のカディエヴィチ国防相は、「ユーゴスラヴィアは内戦状態に突入した」と宣言。ユーゴ連邦人民軍に対し戦闘態勢をさらに高め、軍および軍施設への攻撃に対し、火器で応戦するよう命じる。
さらに、ヨヴィチ連邦大統領に対し「1,連邦幹部会が国内情勢に関する国防省の提案を受け入れなかったために、ユーゴスラヴィアの社会は内戦に突入した。2,ユーゴ連邦人民軍の兵士や軍施設に対する攻撃には、軍は火器を用いて応戦する。3,連邦人民軍の戦闘準備態勢をさらに高め、一部部隊を緊張が高まっている地域に動員する。4,連邦機関および共和国機関に対し、危機の平和的解決のために努力するよう求める」との要望書を渡す。
・ユーゴ連邦クロアチア共和国の南部クニン地方で、クロアチア人居住地区のキエボ村が数日間封鎖状態に置かれる。これに対抗したクロアチア人は、軍港都市スプリトで労働組合員が10万人規模の抗議行動を繰り広げ、ユーゴ連邦人民軍海軍司令部に押し掛けて衝突。死者が1人、重傷者が1人出る。
・ブッシュ米大統領は、ユーゴ連邦に対するすべての経済援助を中止すると発表。この援助停止には、IMFや世界銀行などの国際機関が実施するユーゴスラヴィアへの金融支援策に対する米国の支持取り下げも含まれる。
・EC議長国のルクセンブルグのサンテール首相とドロールEC委員長は、民族紛争の激化を理由としてユーゴスラヴィア訪問を延期すると発表。
・ユーゴ連邦ボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人勢力のカラジッチ代表とクロアチア人勢力のボバン代表および両勢力の幹部が極秘に会談し、ボスニア3分割について再協議したが、合意にいたらず。
05/07:
・ユーゴ連邦幹部会は、クロアチア共和国を中心に臨戦態勢に入っている状態の打開策を話し合ったが、結論は得られず。
・クロアチア共和国内のセルビア人は、新たな衝突を恐れて続々とセルビア共和国に避難し始める。
05/09:
・ユーゴ連邦幹部会議は6共和国首脳や代理が参加して再開し、クロアチア問題の収拾策をまとめる。要旨;「1,秩序の維持、人権擁護は連邦および共和国憲法に従う。2,問題の解決に連邦機関が参加する。3,クロアチア警察を除き、共和国内での武装集団の移動を禁止する。4,クロアチア内の予備役の動員を解除し、市民の武器を押収する。5,武力衝突について連邦機関による捜査を行なう。6,セルビア人の憲法上の平等、分離権などについてクロアチア当局とセルビア人の代表が交渉して決める」などを全会一致で決める。他方、クロアチア共和国内のセルビア人地域に対する主権はクロアチア共和国にあることも確認し、紛争の原因究明やセルビア人居住地域の今後のあり方については、クロアチア当局とセルビア人勢力の同数の代表が交渉して決めるよう要請。
・ユーゴ連邦クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、幹部会が決めたクロアチア警察予備隊の解散を拒否する。
・ユーゴ連邦人民軍は、ボスニア共和国モスタル市近郊に完全武装した降下部隊を投入し、道路を封鎖して戦車の通行を阻止していた市民の排除を試み、市民との間に緊迫した状態となる。イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領が現地を訪れて市民を説得した結果、住民はバリケードを解く。
05/10:
・ユーゴ連邦議会は、6共和国2自治州で構成する連邦幹部会議の欠員となっているモンテネグロ共和国とコソヴォ自治州、ヴォイヴォディナ自治州の幹部会員選出宣言が、スロヴェニア、クロアチア両共和国の反対で成立せず。
・クロアチア共和国のメシッチ幹部会員は、「ユーゴ連邦人民軍が1ヵ月以内に秩序を回復しなければ、クロアチアは自分の手で秩序を回復する」と述べる。
05/11:
・ユーゴ連邦のマルコヴィチ首相は、イタリアとオーストリア両国がユーゴ連邦の紛争解決に仲介する用意があるとの申し出に対し、「我々の問題は我々が解決する。干渉に繋がるような提案は受け入れられない」と拒否の姿勢を示す。
05/12:
・クロアチア共和国のクライナ・セルビア人地区で、ユーゴ連邦への残留を問う住民投票が実施され、クライナ地区のクニン市では中間発表で98%が賛成票を投じる。
05/15:
・ユーゴ連邦大統領選出選挙で、クロアチア選出の幹部会員メシッチは8票のうち5票の過半数を得られず。
・クロアチアのベスニック紙の世論調査によると、クロアチアが連邦に残ることに、賛成7.2%、新しい体制に賛成79.5%。
・クライナ・セルビア人地区の住民投票を受け、クロアチア東部の「スラヴォニア、バラニャ、西スレム自治区」でユーゴ連邦への残留を問う住民投票を18日にかけて実施。
05/16:
・ユーゴ連邦クロアチアのクライナ・セルビア人自治区議会は、住民投票に基づき、「クライナ・セルビア人自治区をユーゴ連邦に残留させる」と宣言。
・クロアチア共和国内務省は対抗措置として、クライナ自治区警察の非合法化を発表。
・ユーゴ連邦政府のカディエヴィチ国防相は、連邦幹部会の正副議長が選出されなかったことをめぐり、連邦人民軍の陸、空、海3軍の幹部と各軍管区幹部を招集し、「ユーゴ連邦の防衛および治安問題」を協議。
05/18:
・クロアチアのセルビア人居住地の「スラヴォニア・バラニャ・西スレム自治区」は住民投票の結果を受け、「ユーゴ連邦への残留」を決める。
05/19:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国は、ユーゴ連邦制を維持するか、主権国家連合とするかの住民投票を実施。セルビア人
住民はボイコット。
05/20:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国の住民投票は、中間発表では投票率82.97%。1,「主権・自主の国家として、他の共和国との主権国家連合に加入」することに賛成94.33%、2,「統一的なユーゴ連邦国家に残る」ことに賛成5..28%、反対91.97%となる。セルビア人地区のクライナ自治共和国は、この住民投票をボイコットする。
註;このクロアチアの独立の可否を示す住民投票について、西欧のメディアは秘密投票で民主的に行なわれたと報じたが、ほとんどの投票所の実態は、クロアチア人ナショナリストが見守る中、選挙管理委員長が投票用紙を示して目の前で賛成・反対の印を付けさせるというもので、民主的な秘密投票にはほど遠かった。
・ユーゴ連邦クロアチア共和国のスティペ・メシッチ幹部会員は記者会見で、「私は連邦憲法に基づいて、自動的に大統領になった」と自ら大統領就任を宣言。連邦の幹部会員、連邦首相、国防、内務、外務の各大臣および参謀総長などに書簡を送付。
05/24:
・ユーゴ連邦のスロヴェニア共和国で連邦人民軍に抗議した市民が、装甲車に轢かれて轢死。連邦人民軍は、方面軍のミロシェヴィチ司令官ら2人を逮捕。
05/28:
・社会主義諸国で構成するコメコン(経済相互援助会議)加盟国が、解散議定書に調印する
・NATO国防相会議がブリュッセルで開かれる。ワルシャワ条約機構・WTOが消滅したことを受け、ウェルナー事務総長は「NATO創設以来、最大の見直しになる」と語る。NATOは、在欧米軍の削減を行ない、それに伴って緊急対応軍を創設する。
05/29:
・クロアチア政府系機関誌「人民のニュース」は、「クロアチア共和国はセルビア人その他の民族に対し、文化的自治とすべての市民権を約束した主権、独立国家として他の共和国との主権国家連合に参加できる」との立場を表明した宣言に、トゥジマン大統領が署名した、と報じる。
05/30:
・ECのドロール委員長と議長のサンテール・ルクセンブルグ首相がユーゴスラヴィアを訪問し、マルコヴィチ連邦首相に、「40億ドルを超えるユーゴ支援の具体的計画がある」と支援を約束すると共に、IMFの対ユーゴ資金協力の仲介をすることも約束。
06/06:
・ボスニアのサラエヴォでユーゴ連邦6共和国首脳会議が開かれ、マケドニア共和国のグリゴロフ大統領とボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ幹部会議長の、「主権国家による共同体」構想の提案を土台に、政治的解決を図ることで合意。
構想の要旨;「1,各共和国は内政、外交においてほぼ完全な独立国家となり、国連の一員となることができる。2,民族的にバランスの取れた司令部を持つ共通の軍隊を設置すると共に、各共和国も独自の軍隊を持つ。3,唯一の銀行、外国貿易システムをもち、各共和国は単一の通貨を使用する。4,ユーゴスラヴィア連合は、共通の議会と集団的連合国家機構を持つ」というもの。
・ユーゴ連邦ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領は、6共和国首脳が「1,提案された『ユーゴスラヴィア国家連合』を今後の話し合いの土台として受け入れ、各共和国内で協議する。2,連邦幹部会に対し、憲法と連邦幹部会運営規則に則って直ちに正副議長選出問題を解決するようアピールする。3,民族問題解決のため、最も影響を受けるセルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの3共和国首脳会議を行なう。4,実務的性格を持った共和国間の首脳会議を今後、頻繁に行なう」の4点で合意したと表明。
06/09:
・ユーゴ連邦セルビア共和国のセルビア再生運動ドラシュコヴィチ党首を中心とする、「統一セルビア野党連合」は反セルビア共和国政府デモを組織し、約2万人がミロシェヴィチ社会党政権打倒を叫ぶ。野党連合は、ミロシェヴィチ政権が「専制的なやり方で、孤立化を招き、結果的にセルビアを経済的な貧困に追い込んでいる」とし反共、民族主義を掲げる。
06/18:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国議会は、ユーゴ連邦からの離脱を前提とする法案を可決する。
06/19:
・全欧州安全保障協力会議・CSCE外相協議会の初の定期協議がベルリンで開かれ、ユーゴスラヴィア問題について協議し、「ユーゴ連邦の統一」を支持する声明を出す。声明の要旨;「1,全外相はユーゴスラヴィアの経済改革、全地域における少数民族の権利を含む人権の保護、最近の危機の平和的解決を基礎としたユーゴスラヴィアの民主的発展、統一そして地理的な統合を支持する。2,民族問題解決のためのすべての関係機関による対話を呼びかける。3,現在問題になっている憲法論争は、武力を使わずに解決することが可能である。4,以上の諸点に基づいたユーゴスラヴィアの経済、政治改革を支援する用意がある」というもの。
・コール独首相は、パリ憲章の原則を深めるために、「1,政治的対話の緊密化。2、同憲章で設置された紛争防止センターなど諸機構の機能強化。3,③紛争解決のため新しいメカニズムの創設」を提唱。
・オーストリアのモック外相は、スロヴェニアのルベル外相をオーストリア代表団の一員として伴い、CSCEの外相協議に参加させる。
・ユーゴ連邦スロヴェニア共和国議会は、国旗と国章の採択を決議する。
・ユーゴ連邦の、ミロシェヴィチ・セルビア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領およびイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領の3者が会談。ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「ユーゴスラヴィアの領土的一体性が維持されるなら、各共和国が主権を持つことに問題はない」との姿勢を初めて明らかにする。
・ユーゴ連邦クロアチア共和国は独立の可否を問う国民投票を実施。78%が独立に賛成票を投じる。
06/21:
・ベーカー米国務長官はユーゴ連邦のマルコヴィチ首相と会談した後の記者会見で、 「ユーゴスラヴィアの構成共和国が独立宣言をしても米国としては承認しない」と述べる。
・ユーゴ連邦政府とスロヴェニア共和国政府は、関税収入について協議し、連邦予算に払い込む協定に調印する。
06/23:
・ECの臨時外相会議は、ユーゴ連邦のクロアチア共和国とスロヴェニア共和国が独立宣言を予定していることについて、「ユーゴスラヴィア危機は話によって解決されるべきで、一方的宣言による独立は認められない」との方針を決め、両共和国が一方的独立宣言を出した場合は、高官レベルの接触を拒否するとの方針を確認。
06/24:
・クロアチア人のマルコヴィチ連邦首相は、クロアチア共和国議会で同共和国の独立宣言に関して演説。「我々はいまユーゴスラヴィアのすべての国民と国土を破壊する爆弾の上に立っている。このような状況の中では、内戦の可能性は非常に高い」と警告し、「ユーゴ連邦の解体は、生産力を半減させ、大量の失業者と社会不安をもたらす。ユーゴスラヴィアは欧州の安定にとって真に危険なものになった。CSCEやECが訴えている統一ユーゴ連邦の道をさらに模索するように」と訴える。しかし、クロアチア議会の議場は騒然とし、マルコヴィチ連邦首相の発言を嘲笑するなどをして妨害する。
・クロアチアのクライナ・セルビア人自治区のバビッチ首相とマルティッチ内相は、ボスニア・クライナ自治体同盟のクプレシャニン議長およびグラホバッツ執行委員長と協議し、「ボスニア・クライナとクニン・クライナの経済・文化・情報協力に関する協定」を結ぶ。
06/25:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国は議会を開き、ユーゴスラヴィア連邦からの「独立」を宣言する決議を採択する。
クロアチア共和国の独立宣言の要旨;「1,クロアチア共和国内では、同共和国の法令のみが適用される。2,今後、独立国家クロアチア共和国の国際的承認を求めてゆく。3,共和国の境界線を新たな国境とする。4,他の共和国との協定に基づいて、連邦人民軍や連邦外交などの諸問題を解決する。5,ユーゴ連邦議会からクロアチア選出議員を引き揚げるが、連邦幹部会、連邦政府に派遣しているクロアチア代表は当面、職務を続行する。6,90年の全欧安保協力会議・CSCEパリ憲章などを尊重する。7,共和国内のセルビア人およびすべての少数民族の市民権、文化的自由を保障する」。クロアチア共和国の人口は460万人。
・ユーゴ連邦スロヴェニア共和国は深夜に議会を開き、ユーゴスラヴィア連邦からの独立宣言を採択する。
独立宣言の要旨;「1,スロヴェニア共和国は独立国家として、スロヴェニア共和国を樹立することを決めた。スロヴェニア共和国は、最早ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国の一部ではない。2,スロヴェニアは国際的かつ合法的な統一体、および統一欧州の原則に従って、他の国家との友好、国連および欧州共同体・ECへの加盟、その他の国際間の同盟への参加の道を探る。3,スロヴェニア共和国の独立は、旧ユーゴスラヴィアおよび欧州の枠組みの中で進められる新しい統合のプロセスに入るための条件として理解されなければならない。4,スロヴェニア共和国は次のことを宣言する『①ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国憲法は、スロヴェニア領土内では効力を持たない。スロヴェニアは、自国領土における実効支配の手続きを段階的に進める。②ユーゴスラヴィアの各共和国との友好関係樹立に関する交渉を続ける用意がある。③独立を決めたクロアチア共和国を、主権を持つ国際的かつ合法的統一体として認める』。5,ユーゴ連邦議会に派遣しているスロヴェニア出身議員は、独立宣言をもってその任務を終了する。6,スロヴェニア議会は新に12人の委員を選び、ユーゴスラヴィアの解体交渉、および移行期間における諸問題の解決、主権国家の新たな友好形態に関する交渉に参加する。7,スロヴェニア選出の連邦幹部会員は、共和国議会の方針に従って従来通りの権限を有する。8,スロヴェニアにおけるユーゴ連邦人民軍は、ユーゴ連邦との共和国財産などの問題に関しては旧ユーゴスラヴィアとスロヴェニア共和国との間で結ぶ特別な合意に基づいて解決する。9,スロヴェニアは国際法のすべての原則、およびユーゴスラヴィア連邦によって調印されたすべての国際条約のすべての条項を尊重する。10,スロヴェニアは民主主義の原則と民族自決権を認めるすべての国家により、合法的に承認されることを期待する」。スロヴェニアのクチャン大統領は、「我々の独立の真の目的は、他の国々と同等な立場で、同等な関係を築くことだ」と述べる。スロヴェニア共和国政府は、ユーゴ連邦政府の関税施設を接収する。スロヴェニアの人口は190万人。
註;スロヴェニア共和国は、6月26日に独立を宣言するとクロアチア共和国との間で申し合わせていた。ところが、クロアチア共和国が1日前の25日に議会で独立を宣言してしまったので、慌てて25日の深夜に議会を開き、独立宣言を議決した。この両共和国の行為によって、6月6日の首脳会議で合意を見た各共和国間の連合国家構想は、このスロヴェニアとクロアチアの一方的な独立宣言で無意味なものとなる。
・ユーゴ連邦議会はスロヴェニアおよびクロアチア両共和国の独立宣言に関し、「一方的な決定は、ユーゴスラヴィアの国境を脅かす。ユーゴスラヴィアの将来に関する新しい協定ができるまでは、国境の変更は認められない」とし、ユーゴ連邦政府に独立を阻止するよう求める決議を、賛成多数で採択。
・オーストリアのモック外相は、スロヴェニアとクロアチア両共和国の独立宣言について、「決定は民主的に表現された国民の意思である」と述べ、歓迎する談話を発表。
・タトワイラー米国務省報道官は、スロヴェニアとクロアチアの独立宣言について、米国は「独立」を承認せず、両共和国がユーゴ連邦にとどまりながら交渉を継続するよう求める。
・クロアチアの東部地区のセルビア人住民は、「スラヴォニア・バラニャ・西スレム・セルビア人自治区」の設立を宣言。
06/26:
・マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相は、連邦の国境および空港施設の出入国と輸出入関税業務の権限を回復するよう、連邦内務省とスロヴェニアに駐屯しているユーゴ連邦人民軍・JNAに命じる。
註;クロアチア人のマルコヴィチ・ユーゴ連邦首相がユーゴ連邦人民軍に出した命令は閣議を経ておらず、マルコヴィチ連邦首相の独断であった。後に、この命令がセルビア共和国によるスロヴェニアおよびクロアチアの独立を阻止するための企図に基づくものとして、「セルビア悪」の象徴的事項と意味づけられ、非難の対象とされ続けることになる。
・クロアチア共和国のセルビア人住民の町グリナで、武装したセルビア人とクロアチア警察の間で銃撃戦があり、少なくとも6人が死亡。ユーゴ連邦人民軍が介入して鎮静化する。また、同じクロアチア共和国のセルビア人住民の村、ブルシャディンでも銃撃戦があり、セルビア人1人が死亡。
・ゲンシャー独外相はユーゴ連邦の駐独大使を呼び、連邦政府と両共和国のいずれもが暴力を用いないよう希望すると伝える。
・フランス政府は、スロヴェニア共和国とクロアチア共和国のいずれに対しても独立を承認しない、との声明を出す。
・スロヴェニア共和国は首都のリュブリャナの共和国議会前広場で独立式典を行ない、クチャン大統領が独立を宣言。「我々はユーゴ連邦から分離したわけではない。この社会の良い点や我々の利益になることを捨てたわけではない。我々は誰も脅かさない。だから戦闘機も必要ではない」と連邦政府に自制を呼びかける。外国高官は式典に出席せず。
・イタリアとの国境の検問所にはユーゴ連邦人民軍の戦車が配備され、リュブリャナ、マリボル、ボルトロツの3空港が連邦政府当局により閉鎖される。
・ブッシュ米大統領はスロヴェニア共和国とクロアチア共和国が独立宣言したことを受け、「これ以上の暴力はいらない。必要なのは話し合いによる解決だ」と軍事的対決回避を呼びかける。
・ソ連外務省は、ユーゴ連邦からの独立を宣言したスロヴェニアとクロアチア両共和国議会による決定について、「一方的な決定であり、ユーゴスラヴィア連邦国家機関の承認を得ていない」と批判し、ユーゴ連邦の統一問題の平和的解決を呼びかける。
06/27:
・カディエヴィチ・ユーゴ連邦国防相は、「連邦人民軍はユーゴ連邦の領土保全のため、必要なあらゆる措置を取る」との声明を発し、連邦人民軍はスロヴェニアのブルヒニカに駐屯する戦車部隊を、首都のリュブリャナ周辺や空港、イタリア、オーストリア国境に出動させて配備する。
・スロヴェニア幹部会クチャン議長はユーゴ連邦人民軍の行動に対し、「スロヴェニアは主権を守るためにあらゆる手段を使って対抗する。幹部会は共和国防衛隊に対し、国民生活にとって重要な施設と通信手段などを確保するため、武器を使用することを命じる」との声明を出す。スロヴェニア共和国防衛隊や市民、労働者がバリケードを築き、市内では自動小銃を持った共和国兵士が警戒に当たり、国境付近の数ヵ所でスロヴェニア防衛隊が連邦人民軍に発砲して衝突が起こる。この武力衝突で、連邦人民軍のヘリコプターが撃墜されるなどの死傷者が出る。
・ユーゴ連邦のマルコヴィチ首相はスロヴェニア共和国のペテルレ首相に会談を申し入れたが、ペテルレ首相は即答せず。
・ユーゴ連邦人民軍のクロアチアに本部を置く第5軍管区の部隊は、クロアチア共和国の各所にも数十輌の戦車を配備。
・オーストリアのモック外相は、CSCEの緊急対応メカニズムの適用を検討する、との見通しを明らかにする。
・ドイツのゲンシャー外相は、ECでの緊急対応メカニズム適用を検討すると表明。
・欧州同盟・WEUが閣僚会議を開き、スロヴェニア、クロアチア両共和国の一方的な独立宣言に憂慮の念を表明し、すべての政治勢力が武力の使用を直ちにやめ、話し合いを再開するよう求める声明を発表。
・ユーゴ連邦幹部会は、スロヴェニア、クロアチア両共和国に対する連邦諸機関および連邦人民軍の取ったこれまでの行動を支持すると表明。
・クロアチアのセルビア人の「クライナ・セルビア人自治区」の「国民会議」と、ボスニア西部で結成されたセルビア人の「ボスニア・クライナ自治体同盟」が両クライナの統一宣言を発表する。
06/28:
・ユーゴ連邦人民軍は、スロヴェニアの国境地帯の大半を制圧する。
・マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相とクチャン・スロヴェニア大統領が会談し、停戦について合意。
・ユーゴ連邦政府は、ユーゴスラヴィア全土で武力行使を即時停止し、平和的解決を求めるとの声明を公表。
・ユーゴ連邦人民軍は、スロヴェニア共和国のリュブリャナ空港やマリボル空港などを空爆する。
・クロアチア共和国当局は、警察予備役を招集。
・ECは首脳会議を開き、和平ミッションとして外相の派遣を決める。
・EC外相は、クチャン・スロヴェニア大統領およびトゥジマン・クロアチア大統領と会談。両国の独立問題について協議し、「1,スロヴェニア共和国における軍事行動を停止する。2,両共和国の独立宣言の実施を3ヵ月間凍結する。3,メシッチ・ユーゴ連邦幹部会員を憲法の規定に則り、ユーゴ連邦大統領(幹部会議長)とする」との3点について原則的に合意する。EC外相は、この両者との話し合いに先立ち、ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領とも会談。同大統領も3点を受け入れる。
・社会主義圏の経済相互援助会議・コメコンが解散する。
06/29:
・EC首脳会議は、当面対ユーゴスラヴィアへの援助の凍結見送りを決める。
・ユーゴ連邦人民軍参謀本部はスロヴェニア共和国の指導部に対し、「1,停戦合意に基づく無条件停戦の実現。2,連邦人民軍が正常な活動を可能とするよう保障」を求め、応じない場合は断固たる軍事措置を取るとの最後通告を発表。
・スロヴェニア議会はユーゴ連邦人民軍の通告を拒否するとともに 「軍が兵舎に戻ることが先決だ」と決議。
・社会主義圏の経済相互援助会議・コメコンが解散される。
註;コメコンは1949年、東ヨーロッパ諸国を中心に、西側のマーシャル・プランに対抗して結成された。当初はソ連、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、チェコスロバキア、ポーランドの6ヵ国で出発した。その後、アルバニアが参加し、さらに東ドイツ、モンゴル、キューバ、ベトナムが加盟して10ヵ国となる。解散前には、ユーゴスラヴィアが準加盟国で、イラク、フィンランド、メキシコ、アンゴラ、南イエメン、エチオピア、モザンビーク、ラオスが協力国やオブザーバー参加となっていた。中華人民共和国、北朝鮮もオブザーバーとなっていたが、中ソ対立で中国および北朝鮮がチュチェ思想をとったことにより参加しなくなる。貿易量の40~80%が、コメコン内で行なわれた。ユーゴ連邦は準加盟国だったが、事実上は排除されていた。
06/30:
・マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相はスロヴェニア共和国のリュブリャナに入り、クチャン・スロヴェニア大統領と停戦実現について会談し、「同共和国に展開する連邦人民軍を、1日から兵舎に撤収させる」ことで合意。
・ECはユーゴ連邦政府に対し、同国内での即時停戦に応じなければ、すべての対ユーゴスラヴィア援助を凍結すると警告。
・ユーゴ連邦政府のスロヴェニア出身閣僚は、プレーゲル副首相、スローカル運輸通信相、マリン情報相の3人で、マルコヴィチ連邦首相に辞表を提出する。
・ドルノウシェク・スロヴェニア選出幹部会員は、「連邦幹部会がスロヴェニア共和国のユーゴ連邦からの離脱を討議する時のみ、幹部会に参加する」と述べる。
・クロアチア共和国内では、連邦政府内閣のクロアチア人のマルコヴィチ・ユーゴ連邦首相、クロアチア人の血が入っているカディエヴィチ連邦国防相、ロンチャル連邦外相に対する批判が相次いで出される。
・米国務省はユーゴスラヴィア危機について、「ユーゴ連邦政府軍のスロヴェニア共和国に対する武力行使を特に非難するとともに、スロヴェニア側にも挑発行為を行なわないよう」呼びかける声明を発表。
・スロヴェニア共和国議会は、「1,連邦人民軍が、合意された戦闘停止に従って、速やかに撤退するとの条件を前提に『ザグレブ合意』に基づき、独立のプロセスを進める用意がある。2,ECに対し、オブザーバーを即時スロヴェニアに派遣するよう要請する」などを議決。
・スロヴェニアのイドリア近郊にある連邦人民軍の弾薬庫が爆発する。
・オーストリア外務省はユーゴスラヴィア情勢について、全欧安保協力会議・CSCEの「紛争防止センター」の緊急協議をウィーンで開く、と発表。
06/00:
・ローマ法王ヨハネ・パウロⅡ世(ポーランド)は、23人の枢機卿承認を祝賀する式典でユーゴスラヴィアの戦闘について意見を述べ、「人民の正当な大望」としての両国の独立権を承認することを示唆。
07/01:
・ユーゴ連邦幹部会がEC外相の同席の下に開かれ、メシッチ・クロアチア選出幹部会員がユーゴ連邦大統領(幹部会議長)に選出される。
・メシッチ大統領は記者会見で、スロヴェニアに連邦人民軍が介入して流血が生じたことについて、「最高命令権者である連邦幹部会が機能停止している間に起きたことだが、流血を引き起こした軍の責任者を明らかにしなければならない」と連邦人民軍を批判。
・ユーゴ連邦国防省は、スロヴェニア共和国への軍事介入を指揮した連邦人民軍のコルシェク司令官を解任し、後任にボスニア出身のムスリム人のアブラモヴィチを任命する。
・ユーゴ連邦幹部会がメシッチ大統領の下で開かれ、「1,スロヴェニアでの即時停戦。2,スロヴェニア武装勢力と連邦人民軍双方の本拠地への撤退。3,捕虜にされた連邦人民軍兵士の釈放。4,捕獲された連邦人民軍の武器・装備の返還。5,税関、国境検問所の連邦管理の回復」を決定し、連邦政府がこの決定を実施して監視することを指示する。
・ユーゴ連邦人民軍最高司令部は、スロヴェニア共和国内での停戦合意後も、スロヴェニア武装勢力による連邦人民軍に対する攻撃が続いていることを非難し、「1,停戦が遵守されない場合は反撃することもあり得る。2,兵士の撤収や補給が妨害された場合には大規模に報復することもあり得る」と強く警告。
・ECの3外相は、クロアチア共和国のザグレブに着き、スロヴェニア、クロアチア両共和国側と会談し、ECが提示した3条件を「全当事者が文書で確認した」と基本文書に調印したことを明らかにする。
・スロヴェニア共和国に展開していたユーゴ連邦人民軍は、一部の地域で撤収を開始する。
・欧州安全保障会議・CSCEは35ヵ国が参加してユーゴスラヴィア紛争に関する協議を行ない、「緊急対応メカニズム」を発動させ、「1,戦闘行為の停止。2,ユーゴ連邦人民軍およびスロヴェニア、クロアチア両共和国軍隊の撤収」の2点を論議。
・ワルシャワ条約機構・WPO加盟6ヵ国の首脳がチェコスロヴァキアのプラハで会議を開き、条約の効力停止に関する議定書に署名する。
07/02:
・スロヴェニア共和国軍は、ブレジツェキン近郊のクラコフスキズドで撤収を始めた連邦人民軍の戦車部隊を攻撃。両者間の激しい戦闘で双方に多数の負傷者が出る。
・スロヴェニア共和国のクチャン大統領は、ゲンシャー・ドイツ外相と会談するためにオーストリアの町クラーゲンフルトに到着した後、記者会見で「スロヴェニアは独立に向かって邁進する」と強調。ゲンシャー外相に「軍事、民間の両監視団の派遣」を要請。
・CSCEの「紛争防止センター」の緊急会議を開き、「関係当事者に即時停戦を訴える」議長声明を発表。
・クロアチア選出のユーゴ連邦幹部会のメシッチ大統領(幹部会議長)とツブルコフスキ幹部会員はスロヴェニア選出のドルノウシェク幹部会員とともに、即時停戦と兵力の引き渡しおよび捕虜の釈放を呼びかける。
・クチャン・スロヴェニア共和国大統領とメシッチ・ユーゴ連邦幹部会議長は、ツブルコフスキ幹部会員、ドルノウシェク幹部会員らと協議した結果、ユーゴ連邦人民軍とスロヴェニア軍の敵対行動の停止と双方の兵力撤収など4項目をまとめる。
4項目の要旨;「1,敵対行動を中止する。2,連邦軍と共和国防衛隊の互いの阻止行動を止め、連邦警察を含めて兵舎に戻る。3、捕虜を釈放する。4,他の問題を協議するため、連邦幹部会による交渉を行なう」。
・ユーゴ連邦人民軍のアジッチ参謀総長は、「スロヴェニアを停戦実施に従わせるためには、武力の全面行使も辞さない」と警告。
・米国務省は、「ユーゴスラヴィアのスロヴェニア共和国とクロアチア共和国が求めている独立が将来平和的に達成されるなら、米政府はこれを容認する」ことを示唆した見解を表明。
07/03:
・ユーゴ連邦政府は、スロヴェニア共和国のクチャン大統領がまとめた停戦4項目に合意する。
・ECの監視団が、ユーゴ連邦スロヴェニア共和国とユーゴ連邦人民軍の停戦を監視するため、セルビアのベオグラードに到着。
・ユーゴ連邦人民軍の装甲車、戦車部隊が、ベオグラードからクロアチア共和国の首都ザグレブへ向けて進発する。
・ユーゴ連邦政府がスロヴェニア共和国提案の4項目に合意したことに伴い、連邦人民軍が駐屯地への撤収を開始する。グラチャニン連邦政府内相、バウチャ・スロヴェニア共和国内相、アブラモヴィチ人民軍第5軍管区司令官が撤収の現況の視察に向かう。
・英政府は、ユーゴ連邦に対する軍事関連の輸出を禁止すると発表。
・ベーカー米国務長官とEC議長国オランダのファンデンブルック外相はワシントンでユーゴスラヴィア危機の緊急協議を行ない、ユーゴ連邦政府が連邦人民軍の統制を失っており、今後対ユーゴスラヴィア援助停止や武器禁輸などで圧力をかけていく方針を明らかにする。
・クロアチア共和国のセルビア人の多数居住区クニン市で、クロアチア警察と武装セルビア人が衝突し数百人が負傷する。
07/04:
・CSCE・全欧安保協力会議は、スロヴェニア共和国への停戦監視団を派遣することで合意した、との声明を出す。
・ユーゴ連邦政府は、CSCE監視団の受け入れを表明。
・ユーゴ連邦幹部会は、武装勢力の基地撤収、捕虜釈放などスロヴェニア共和国と連邦人民軍の停戦実施の条件を発表。要旨;「1,5日午前0時までにスロヴェニア共和国側は武装勢力を基地に戻し、捕虜にしている連邦人民軍兵士を全員釈放する。2、連邦国境のスロヴェニア共和国の部分を、7日正午までに6月25日以前の状態へ復帰させる。3,スロヴェニア側に捕獲された連邦人民軍の装備の返還を求める」など。
・ユーゴ連邦スロヴェニア共和国のプルト・スロヴェニア幹部会員はグラチャニン連邦内相らと会談し、スロヴェニア共和国の状況を連邦人民軍が進攻する以前の状況に戻すことで合意したことを明らかにする。
・ユーゴ連邦人民軍は、クロアチア共和国で展開していた部隊の撤収を開始する。
・スロヴェニア共和国のペトレル首相は、ユーゴ連邦幹部会の8項目提案を拒否する、と表明。
註:スロヴェニアでの戦闘は、10日間でスロヴェニア共和国の勝利に終わる。連邦人民軍は、連邦政府の施設を保護することを目的として出動したが、戦闘する意思はほとんど持っていなかった。そのためにスロヴェニア防衛軍の激しい戦闘意欲に太刀打ちできずに、混乱したままの状態で敗北した。死者は、連邦人民軍48人、スロヴェニア防衛軍12人、連邦人民軍は派遣した2000人の兵員のうちの1500人が捕虜となる。
07/05:
・EC緊急外相会議は、対ユーゴスラヴィア経済援助の凍結と武器輸出の禁止を決定。武器輸出の禁止は、ユーゴ連邦および各
共和国双方に適用。スロヴェニア共和国が求めていた独立承認については、当面は承認しないことで合意。
・欧州復興銀行のフリーマン副総裁は、ユーゴスラヴィアでの民間プロジェクトに対する同銀行の融資を全て凍結したと発表。
・スロヴェニア共和国のカチン情報相は、「連邦人民軍の部隊と施設に対する封鎖をユーゴ連邦幹部会が決定した期限までに解除した」と述べ、さらに「スロヴェニアの共和国防衛隊の1万人の動員解除を実施した」と発表。またカチン情報相は、「2000人を超える連邦人民軍の捕虜の釈放にも同意し、列車でベオグラードに送る予定にしている」と語る。
・スロヴェニア共和国のシェシェルコ副首相は、連邦人民軍との戦闘による被害総額が27億ドルに上ると発表。
・ユーゴ連邦人民軍第5軍管区は、「スロヴェニア共和国防衛隊が4日から5日にかけて、数回にわたり停戦を破って連邦人民軍の3部隊を攻撃、連邦人民軍兵士2人が負傷した」と発表。
・ユーゴ連邦クロアチア共和国内のセルビア人居住地域オシエクで、クロアチア警察とセルビア人武装住民が衝突。クロアチア警察は、セルビア人住民がバリケードを作り立てこもっていたオシエク南部テニヤ村を襲撃。
・ゴルバチョフ・ソ連大統領はコール・ドイツ首相と会談後の記者会見で、「ユーゴスラヴィアの事態は世界の教訓になる。連邦制の維持を支持する」と語る。
・スロヴェニア共和国のデミトリ・ルペン外相は、EC監視団が「3ヵ月の独立宣言凍結後のスロヴェニアは自由だ」との言質を与えられたと述べる。
07/06:
・ユーゴ連邦幹部会代表がスロヴェニア共和国のリュブリャナに入り、停戦に関する8項目をスロヴェニア共和国側に説明。
・ズロベツ・スロヴェニア共和国幹部会員は、翌7日に6月25日以前の国境の状態に戻すよう求めている件は、30ヵ所もあり時間的に無理がある、と語る。
・ユーゴ連邦幹部会のメシッチ議長は、連邦幹部会の8項目にある期限付き国境管理問題についても全力をあげるとともに、連邦人民軍に勝手な行動はさせない、と表明。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はテレビで、セルビア人に向けて「降りかかるかも知れない戦争に準備せよ」と呼びかける。
・スロヴェニアに展開しているユーゴ連邦人民軍戦車部隊は、駐屯地への撤収を完了する。連邦人民軍の捕虜2000人のうち、希望者の各共和国への移送を完了。
07/07:
・欧州共同体・ECは関係者を招致し、クロアチア領のブリオニ島で和平仲介の協議を行なう。和平協議の出席者は、EC側がポース・ルクセンブルク外相、デ・ミケリス・イタリア外相、ファン・デン・ブルック・オランダ外相の3外相で、ユーゴスラヴィア連邦側はメシッチ連邦大統領(幹部会議長)、マルコヴィチ連邦首相、ロンチャル連邦外相、カディエヴィチ連邦国防相、クチャン・スロヴェニア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領。この協議で「ブリオニ合意」が採択される。
「ブリオニ合意」;ユーゴ連邦政府とスロヴェニア共和国およびクロアチア共和国間の停戦協定は、「連邦政府の指揮下に両共和国側が国境を管理する。ECの停戦監視団を受け入れる。独立戦争は休戦する」などを合意。
休戦協定の要旨;「1,独立宣言は3ヵ月間凍結する。2,独立宣言凍結中は、従来通り共和国警察、税関吏が、ユーゴ連邦憲法および規則による連邦政府当局の指揮の下で国境の管理に従事する。3,関税収入は、スロヴェニアと連邦政府などが共同で管理する口座に振り込む。4,検問所以外の国境警備は、連邦人民軍に再度移管される。5,30~50人規模でのEC停戦監視団を共和国に派遣する。6,特に連邦人民軍の最高司令機関としての連邦幹部会の機能を回復し、強化する。7,EC諸国の外相を含む各当事者は、ユーゴスラヴィアの将来の全局面に関する協議を、8月1日から始める。8,スロヴェニア共和国側は、9日午前0時までに民兵全員を帰宅させ、連邦人民軍に対する包囲を解除した上で、押収した諸施設を連邦人民軍に返却する」。
・クロアチア共和国のオシエク郊外のセルビア人の村チーニェで、クロアチア警察と村民の間で銃撃戦があり、クロアチア警察官4人、セルビア人住民2人、仲介に入った連邦人民軍兵士1人が死亡し、十数人が負傷する。
・カディエヴィチ・ユーゴ連邦国防相は、「連邦人民軍は常に連邦憲法を守ってきた。多数の民族軍が各地で形成され、衝突が起きようとしている。連邦人民軍は、これらの民族軍の出動を許さないであろう」と述べる。
07/08:
・スロヴェニア共和国は拡大幹部会を開き、EC仲介の連邦政府との合意事項についてクチャン大統領が報告を行ない、勝利宣言を出す。一部から国境管理や関税の扱いを巡り、連邦政府に譲歩しすぎとの不満が続出し、幹部会は紛糾する。
・クロアチア共和国のオシエク市長は、連邦人民軍がクロアチア共和国の警察官に向けて発砲し、1人が死亡、3人が負傷した、と記者会見で発表。
・ユーゴ連邦幹部会は、停戦実施に関する共同宣言「ブリオニ合意」について討議。スロヴェニア共和国代表が「1,連邦人民軍の部隊施設に対する封鎖の解除。2,連邦警察官の釈放。3,スロヴェニア共和国防衛隊の撤収などの3点について、合意に違反している」と非難する声明を発表。
註;スロヴェニア共和国防衛隊がユーゴ連邦人民軍の基地を封鎖した意図は、行動を制約するとともに、連邦人民軍が所有している装備や武器を譲渡させるという狙いがあり、一部では獲得に成功している。
07/09:
・スロヴェニア共和国は、リュブリャナを訪れた2人の連邦幹部会員を交え急遽拡大幹部会を開き、ブリオニ合意について協議。
07/10:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のアルバニア国境付近で、アルバニア人武装集団とユーゴ連邦国境警備隊とが銃撃戦を展開する。
07/11:
・ユーゴ連邦政府とクロアチア共和国およびスロヴェニア共和国は、「停戦監視団の権限、役割、配置」などに関する覚え書き作成について、EC側の先遣隊と作業を開始する。
07/12:
・ユーゴ連邦幹部会は、ECの仲介によるスロヴェニア紛争に関する「ブリオニ合意」に伴う停戦を承認し、停戦を完全に実施に移すために新たな期限を設定する。内容;「1,今月14日午前0時までに連邦人民軍の兵舎などの封鎖を解除する。2,同16日午前0時までに連邦人民軍の装備や捕虜を返還する。3,同17日午前0時までに国境管理の状態を6月25日以前の状態に戻す。4,同19日午前0時までに、連邦人民軍、警察の平時編制以外の部隊は動員を解除する。5,こうした状況を監視するための委員会を設置し、直ちに活動する」。クロアチア共和国およびスロヴェニア共和国とも、「ブリオニ合意」を受け入れる。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国のイゼトベゴヴィチ大統領とムスリム人実業家で政治家のアディル・ズルフィカルパシチは、ボスニアの武力紛争の回避について協調して取り組むことに合意する。
ズルフィカルパシチの原則は、「1,ボスニア・ヘルツェゴヴィナの主権とその不可分性にあり、どんな形であれ、民族別の諸領域への分割は絶対に容認できない。2,クロアチア人もセルビア人やムスリム人と同権のボスニア・ヘルツェゴヴィナを構成する民族である。3,ユーゴスラヴィアは6共和国からなる国家連合であるべきであり、またそこにおいてボスニア・ヘルツェゴヴィナはセルビアやクロアチアと同権である。連邦ではなく、諸民族が主権を持ち、それぞれ自分の軍隊を、場合によっては自分の通貨を持つ。4,一つの共同政府を持つある共和国が、ユーゴスラヴィアにとどまらないことになれば、ボスニア・ムスリム人も自己の立場を再検討する」というもの。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はズルフィカルパシチに対し、「私は君に交渉するフリーハンドを与える」と語る。
07/13:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナの戦争回避についての交渉で、ムスリム人側の交渉員はズルフィカルパシチとムスリム人ボスニア組織の副議長で国会議員のフィリポヴィチが当たり、セルビア人側はラドヴァン・カラジッチ、ニコラ・コリェヴィチ、モムチロ・クライシニク・ボスニア議会議長が当たり、両者が集まり協議し、大枠で原則を合意する。
・スロヴェニア共和国のクチャン大統領は、フランス通信とのインタビューに応じ、「ブリオニ合意に基づく期限設定は非現実的で実行不可能な要求であり、ユーゴ連邦幹部会がスロヴェニア共和国に求めている18日までの防衛隊動員解除などを拒否する」と語る。
・EC代表団とユーゴ連邦政府およびスロヴェニア共和国とクロアチア共和国の各代表は、EC監視団派遣に関する議定書に調印。これにより、EC監視団は3ヵ月間にわたりスロヴェニア共和国とクロアチア共和国で監視活動を行なう。
・スロヴェニア共和国のペトリーニャ市近郊で、クロアチア警察とセルビア人のクライナ警察、武装住民の間で大規模な戦闘がおこり多数の死傷者がでる。
07/14:
・ボスニアのムスリム人実業家で政治家のズルフィカルパシチとミロシェヴィチ・セルビア大統領がベオグラードで会談し、協定案で合意。要旨;「1,ボスニアにセルビア人領域は設立しない。2,セルビア共和国内のサンジャク地方の文化的・行政的自治を認める。3,クロアチア戦争を終結させる。4,コソヴォ問題を解決する。5.ユーゴ連邦人民軍の司令官の構成については、民族的構成に合う配置をする。6,ユーゴスラヴィア諸国家の大統領の権限問題」などについて、それぞれに譲歩を得る。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、英タイムズ紙とのインタビューで 「ユーゴスラヴィア危機解決の最良の方法は、現在のボスニア・ヘルツェゴビナを、セルビア共和国、クロアチア共和国、イスラム教徒の共和国で3分割することだ」と語る。
・ボスニア幹部会は、トゥジマン・クロアチア大統領のボスニア分割発言に対し、「共和国の分割は、直接内戦につながる」と反論。
・クロアチア共和国のボロヴォ・セロで、上空を飛行中の連邦人民軍機にクロアチア共和国防衛隊が機銃で攻撃し、連邦人民軍機も機銃で応戦したが、負傷者はなし。
07/15:
・ECのユーゴスラヴィア監視団の第一陣が出発する。
・クロアチア共和国パクラッツ市近くで、クロアチア警察のパトロールカーが襲撃され、警官1人が死亡し、1人が負傷する。
07/16:
・クロアチア共和国のブルギンモスト市近郊で、クロアチア警察とセルビア人武装勢力との間で戦闘が行なわれ、1人が死亡し、7人が負傷。
・ブリオニ島で開かれる予定のユーゴ連邦幹部会は、メシッチ幹部会議長とドルノウシェク幹部会員以外の6人の幹部会員が欠席したために流会となる。
07/17:
・クロアチア共和国のリサニ村で警官派出所が襲撃され、警察官1人とクロアチア人1人が殺害される。
・スロヴェニア共和国のカチン情報相は、首都リュブリャナにある連邦人民軍基地など連邦人民軍の5基地への電力供給を停止した、と発表。
07/18:
・ユーゴ連邦幹部会は会議を開き、「1,ユーゴ連邦人民軍はスロヴェニア共和国から3ヵ月以内に撤収する。また、連邦人民軍のスロヴェニア人将兵は19日から離脱出来る。2,スロヴェニア共和国のイタリア、オーストリア、ハンガリーに接する国境の管理は即時、同共和国防衛隊に移管される。3,スロヴェニア共和国の首都リュブリャナ管区の連邦人民軍兵士はセルビア共和国に移動し、オーストリア国境に近いスロヴェニア・マリボル管区の連邦人民軍兵士はボスニア共和国に移動する。4,連邦幹部会は、6共和国元首を交えた新たな会合を22日にマケドニア共和国のオフリドで開催し、ユーゴスラヴィアの諸民族の共存あるいは分離について協議する」ことを決める。
・ユーゴ連邦人民海軍は、クロアチア共和国内にある連邦人民海軍基地司令部の建物が爆破され、2人が負傷したとの声明を発表。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領はドイツを訪れ、コール・独首相およびゲンシャー外相と会談し、「クロアチア独立への支援」を要請。
・ドイツ政府スポークスマンは、「コール首相はいかなる武力の行使や威嚇にも反対する意志を伝え、紛争の平和解決に協力することを約束した」と述べる。
07/19:
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は記者会見で、「クロアチアに駐留している連邦人民軍は先ず兵舎に撤収し、次ぎに共和国から完全に引き揚げるよう求める」と語る。
07/22:
・ユーゴ連邦拡大幹部会は、マケドニア共和国のオフリドで6共和国2自治州の首脳が参加して開く。「武力の不行使と交渉による解決」を宣言したオフリド声明に、クロアチア共和国のトゥジマン大統領とクロアチア選出のメシッチ連邦幹部会議長を除く、他の首脳は調印する。さらに、「1,全ての民兵や共和国防衛隊などの準軍事組織の武装解除。2,クロアチア共和国における予備役の動員解除。3,武装部隊を正常に編成する。4,連邦人民軍はその後に兵舎に戻る」の4点についても他の首脳は合意したが、トゥジマン・クロアチア大統領は連邦人民軍の撤収が先決と譲らず。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領はオフリドからザグレブに戻ったあと、テレビで「私はクロアチア国民に平静を求めるとともに、戦争の準備を呼びかけるためにここに来た」と演説。
・クロアチア共和国東部のセルビア人居住区ミルコブツィ村に対し、クロアチア共和国防衛隊とクロアチア警察が迫撃砲による攻撃を行なう。この戦闘で、クロアチア側15人、セルビア側5人が死亡する。連邦人民軍が戦闘を中止させるために出動したが、戦闘は続く。
07/23:
・ドイツのコール首相とフランスのミッテラン大統領が会談し、「クロアチア共和国とスロヴェニア共和国の国家承認は、時期尚早」 との見解で一致。
07/24:
・カディエヴィチ・ユーゴ連邦国防相とスロヴェニア共和国選出のドルノウシェク連邦幹部会員は、連邦人民軍に入隊しているスロヴェニア人兵士を8月15日までに連邦人民軍から引き揚げることで合意。
・ユーゴ連邦議会は、「大幅な政府支出の削減、金融引き締め、債務凍結」などのショック療法的な打開策を採択。
・ドイツのゲンシャー外相は、EC外相会議の議長を務めるオランダのファンデンブルック外相に書簡を送り、ユーゴスラヴィア問題を協議するため29日のEC外相会議にスロヴェニア共和国とクロアチア共和国の代表を招くよう要請。
07/25:
・クロアチアのラジオ放送は、東スラヴォニア地方のエルベットで連邦人民軍がセルビア人側からクロアチア警察、共和国防衛隊に対し戦車と重機関銃で砲撃し、クロアチア警察官6人が死亡した、と伝える。さらにバクラッツでクロアチア警察とセルビア人住民との間で銃撃戦が起きる。またパクラッツの町の中心部のレストランや宝石店のショーウインドウが爆破される。
07/26:
・クロアチア共和国政府は、ユーゴ連邦政府に対して連邦人民軍の砲撃による損害などの調査を要求し、連邦幹部会を開いてクロアチア情勢について協議するよう要請。
・クロアチア共和国のボスニアとの国境の町コスタィニツァやグリナなどで民族間の武力衝突が起こり、双方で少なくとも24人の死者が出る。
・ユーゴ連邦幹部会は、連邦人民軍とクロアチア防衛隊の戦闘に関する声明を発表。声明;「1,武力の不行使。2,停戦実施の交渉開始。3,非合法武装組織の武装解除。4,警察および連邦人民軍の予備役の解除。5,連邦人民軍の兵舎への撤収。6,衝突、破壊活動の調査。7,4万4000人以上の避難民対策。8,クロアチアの武装勢力をセルビア人地域に動員しないこと」を求める。
・メシッチ・ユーゴ連邦大統領(幹部会議長)は、クロアチア共和国防衛隊が、セルビア人地域へ入るべきでないとする要求を拒否する。
・ユーゴ連邦の港湾当局によると、7隻のキプロス船に満載された3万トンの武器がベイルートから到着。積荷はヘリコプター、高速艇、大砲などの火器450億円相当の武器など。宛先不明のため同港湾局が保管。
・スロヴェニア共和国内務省は、オーストリア、イタリア、ハンガリーとの国境警備を27日から同共和国内務省が管理すると発表。
07/27:
・クロアチア共和国のドブロヴニクで開かれた中欧サミットは、チェコスロヴァキア、ポーランド、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、オーストリア、イタリアの6ヵ国が参加。「ユーゴスラヴィア情勢の平和解決を求める特別宣言」の草案を採択する。草案要旨;「1,すべての軍事的行動を即時中止する。2,ユーゴスラヴィアの連邦を構成する各共和国、自治州の権限について協議する。3,欧州共同体によるブリオニ合意を支持する」など、紛争解決のための声明を採択する。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は国家評議会を開き、ユーゴ連邦との停戦協定に応じることを決める。
・クロアチア共和国警察当局者は、ストゥルガ村で30~50人が武装セルビア人に襲撃されて殺害された、と語る。
・エジプトのアルアハラム紙は、ユーゴスラヴィアの港へ多量の武器が搬入されたのは、レバノンのキリスト教民兵組織が武装解除した際の武器をスロヴェニア共和国に輸出したことによる、と報じる。
07/29:
・EC外相理事会は、マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相を招いてユーゴスラヴィア問題を協議する。協議により、ECの議長国外相を派遣すること、EC監視団を増派してスロヴェニア共和国からクロアチア共和国に活動の中心を移すことなどを決める。
07/30:
・ユーゴ連邦は拡大幹部会を開き、クロアチア共和国内での戦闘行動の停止を実施するための「国家委員会」の設置を決める。委員長には、モンテネグロ共和国選出幹部会員のコスティッチを選出。しかし、メシッチ連邦大統領(幹部会議長)が反発して退席。
07/31:
・ユーゴ連邦幹部会の会議は、前日退席したメシッチ連邦大統領とマノヴィチ・クロアチア首相も参加して開かれ、「クロアチア共和国内の紛争当事者に挑発や攻撃を仕掛けないよう」アピールを出す。幹部会は、クロアチア共和国側が「連邦人民軍のクロアチアからの撤収が先決」との主張を繰り返し、連邦幹部会側は「クロアチア武装組織の撤収とセルビア人居住区へのクロアチア武装組織の非介入」を求め、両者は妥協せず。
・クロアチア共和国議会のドムリャン議長は、クライナ地区のセルビア人住民に大幅な政治的自治権を与えるとの新提案を示す。
07/00:
・米国在住のアルバニア系ディアスポラ・在外居留同胞による大規模なデモがワシントンで行なわれ、ドール議員、T・サントス議員らがコソヴォの状況に関する発言をする。
08/01:
・ユーゴ連邦のマルコヴィチ首相が訪ソ。ゴルバチョフ・ソ連大統領、エリツィン・ロシア共和国大統領と会談する予定。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、強硬派のマノリッチ首相を更迭し、柔軟なグレグリッチ前副首相を新首相に任命し、野党を取り込み、セルビア人やムスリム人などを起用した挙国一致的な内閣改造を行なう。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、クロアチア共和国のスラヴォニア地方のダリでクロアチア人とセルビア人の武力衝突があり、クロアチア警察官80人が死亡した、と伝える。
08/02:
・クロアチア共和国のクライナ地方のバラニャ、スラヴォニア両地区で、クロアチア共和国軍とクロアチア警察が管理下に置こうとして進出したのに対し、武装セルビア人勢力が激しく抵抗し、100人以上の死者が出る。
・EC代表のオランダ、ルクセンブルグ、ポルトガルの3国の外相が、クロアチア紛争解決への仲介のためにザグレブ入りし、トゥジマン・クロアチア大統領と会談。EC側が停戦に関するメモランダムを示す。
・オランダのファンデンブルック外相は、「停戦監視団がクロアチアで活動するための前提条件である。他のパートナーとも協議を進め、この覚え書きに調印してもらえると思う」と期待を表明。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「紛争拡大を防ぐ見通しが出てきた。クロアチアはECの覚え書きを受け入れる」と表明。
・ゴルバチョフ・ソ連大統領はマルコヴィチ・ユーゴ連邦首相との会談後、「国際機関や他の諸国は、ユーゴ連邦政府の要求があった場合にのみ動くべきだ」と述べる。
・EC議長国オランダのファンデンブルック外相は、ユーゴ連邦クロアチア共和国で戦闘が続く場合、「ECが最後の手段として西欧同盟・WEUを通じ、平和維持軍を派遣する可能性もある」と言明。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国のイゼトベゴヴィチ大統領は、ムスリム人実業家であり政治家のズルフィカルバシチが提唱し、ボスニアのセルビア人勢力の指導者カラジッチおよびミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領が受容した「歴史的協定」の調印を、ボスニア民主行動党の強硬派の反対にあい、土壇場で拒否する。この結果、ボスニア・ヘルツェゴビナの戦争回避に向けたムスリム人実業家ズルフィカルバシチによる「民族間和平協定」合意は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領の翻意で破棄され、「歴史協定」は実を結ばず。
註;ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領は、ズルフィカルパシチがミロシェヴィチ・セルビア大統領と交渉をしていた時期に、アメリカとトルコなどを訪問していた。英BBCは95年、このズルフィカルパシチが尽力した戦争回避の「歴史的協定」を、「ベオグラード・イニシャティブ」のタイトルで、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の「策謀」であったとして事実を歪めて放送した。
08/03:
・ユーゴ連邦幹部会は、クロアチアにおける紛争について協議して合意する。
合意内容;「1,クロアチア共和国内における無条件停戦。2,武装組織は撤退以外の移動を禁止する。3,停戦ラインは連邦警察が責任を持ち、ボスニア、マケドニア、スロヴェニア3共和国警察とともに管理する。4,停戦実施と衝突回避に関し、連邦人民軍、連邦警察、クロアチア当局の連絡将校を定める。5,ECの停戦監視団と協力して停戦実施にあたる国家委員会を発足させ、ボスニア、マケドニア選出連邦幹部会員、連邦議会副議長、連邦国防相、連邦内相、連邦法相、憲法擁護連邦新議会事務長で構成し、モンテネグロ幹部会員のコスティッチを委員長に任命する。6,同国家委員会は、兵力撤収の順序」などについてクロアチア側が反対の中、賛成多数で決定。
・クロアチア共和国スラヴォニア地方の町ダリ周辺で新たな戦闘が起き、セルビア人5人が死亡し、クロアチア人警官1人が死亡。
08/04:
・ユーゴスラヴィア和平にECが仲介に乗り出す。EC代表が用意した覚え書きに対し、セルビア共和国代表が調印を拒否する。ファンデンブルク・オランダ外相は「仲介は成功しなかった。状況は破滅的だ。彼らが全ての責任を負わねばならない」と述べる。ECが提示した覚え書きは、「1,即時停戦。2,準軍事的組織の武装解除。3,クロアチアの予備役の動員解除。4,連邦人民軍のクロアチア撤収。5,連邦人民軍、クロアチア共和国代表、クロアチア内のセルビア人代表の3者による紛争地域の管理とEC代表の参加。6,ユーゴスラヴィアの将来に関する交渉を8月15日に開始する」という内容。
・ゲンシャー・ドイツ外相は、ECがユーゴ連邦クロアチア共和国の紛争解決の仲介が失敗に終わったことを受け、5日に緊急外相会議を開くよう呼びかける。
08/05:
・クロアチア共和国政府は、「1,ECの調停努力の継続。2,国連によるユーゴスラヴィアに関する国際会議の開催。3,平和維持軍の派遣の検討」などを求める声明を発表。
・ゲンシャー・ドイツ外相は、「6日に開かれるECの緊急外相会議では、クロアチア共和国とスロヴェニア共和国の独立承認問題が協議されなければならない」と述べる。
08/06:
・ECが緊急外相会議を開き、「紛争当事者に停戦を強く呼びかけるとともに、呼びかけを受け入れない場合、経済制裁も含む厳しい態度で臨む」ことで合意。
・クロアチア共和国の紛争に関する「停戦実施のための国家委員会・コスティッチ委員会」が会合を開き、武装組織の撤退など具体的な作業について計画を進め、各当事者の停戦受け入れを取り付ける。
・ユーゴ連邦幹部会がセルビアのベオグラードで緊急会議を開き、クロアチア共和国における紛争の全当事者が無条件停戦に合意したと発表。
合意内容は、「1,7日6時をもって停戦が発効する。2,同日18時までに兵力の引き離しを実施する。3,兵力引き離しの距離は、鉄砲の射程外の範囲で行なわれる。4,各当事者勢力は、兵力引き離しおよび危機地域からの撤収を目的とする以外の行動を中止する。5,全ての紛争当事者は停戦管理および監視を行ない、共同機関と完全に協力する義務を負う。6,連邦幹部会は以上の各項の厳密な遂行のため、必要な命令、支持を武装勢力に下す」の6項目。
・ソ連政府は、ユーゴ連邦クロアチア紛争へのECの仲介について、「手助けと内政干渉の境ははっきりしないが、内政干渉は国際法上も、それが引き起こす可能性のある結果からも、受け入れられない」との声明を発表。
・クロアチア共和国のブレザク内務次官は、同共和国のザグレブの南西150キロにあるサボルスコに迫撃砲102発が飛来したと、セルビア人ゲリラを非難。
・ローマ法王は、クロアチア人のカトリックとセルビア人の正教との対立の宗教的側面の問題を解消するため、ジャン・ルイ・トーラン外務局長をクロアチアのザグレブに派遣する。
・ユーゴ連邦マケドニア共和国議会憲法委員会は、議会に対して同共和国の独立に関する国民投票を実施するよう提案。
08/07:
・セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領は、クロアチア共和国の独立問題について英国TVとのインタビューで、「独立には反対しない。しかし、クロアチア共和国内のセルビア人をクロアチアが連れて行くことはできない」と語る。
08/08:
・クロアチア共和国の紛争は、停戦が守られているものの兵力引き離しのための武装勢力の移動は行なわれず。
・ユーゴ連邦幹部会の「停戦に関する国家委員会」は、クロアチア共和国内で停戦が守られていることを確認し、クロアチア人側とセルビア人側双方の「捕虜」釈放問題や避難民の帰郷と交通・通信・水・食糧の供給問題などについて協議。「捕虜」を9日18時までに釈放することなどを盛り込んだ声明を発表。
・全欧州安全保障協力会議・CSCEは、ユーゴ連邦クロアチア共和国紛争についての緊急事務レベル会議を開き、停戦監視と経済制裁について協議。ユーゴ連邦代表は、CSCE加盟国全体の国際停戦監視団を招請することで原則合意する。
・クロアチア共和国中部のカルロヴァツ近くの村に迫撃砲が撃ち込まれ、クロアチア防衛隊員1人が死亡、3人が負傷。
08/09:
・ユーゴ連邦人民軍の参謀本部のグベロス大佐は、「連邦人民軍は連邦幹部会の決定には従うが、監視団派遣の必要があるとは思わない」とCSCE監視団派遣に否定的な見解を示す。
・CSCE高級実務者レベル会議は、クロアチア共和国の紛争問題で、ユーゴ連邦に調停団の受け入れ要請をするとともに、ユーゴスラヴィア全当事者が将来の国家形態を探る政治対話を、遅くとも8月15日までに開始するよう呼びかける声明を発表する。
08/11:
・ユーゴ連邦議会アヤノヴィチ副議長は記者会見で、「連邦幹部会の停戦決定に基づき、クロアチアにおける捕虜の交換が初めて行なわれることになった」と述べる。
08/14:
・ユーゴ連邦の「停戦に関する国家委員会」は、クロアチア共和国が紛争地域への監視団受け入れに同意したと発表。この監視団は、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、スロヴェニア出身の80~100人で構成することになる。またユーゴスラヴィアの将来の体制に関する政治協議が、20,21日の両日にセルビアのベオグラードで開催されることを明らかにする。
・ユーゴ連邦政府は、クロアチア共和国から脱出した各民族の避難民が8万人を超えたことを明らかにするとともに、「避難民問題は連邦国内での最も大きな問題である」との声明を発表。
08/15:
・クロアチア共和国政府は、ユーゴ連邦の「停戦実施のための国家委員会」の監視団の受け入れを拒否する。
・クロアチア共和国内紛争における、クロアチア警察隊とセルビア人武装勢力双方の捕虜、合計75人が交換される。
・ECの使節団がベオグラードに到着し、ロンチャル連邦外相と会談。
08/16:
・ユーゴ連邦幹部会の「停戦実施のための国家委員会」がベオグラードで開かれ、クロアチア共和国内の「捕虜」交換が220人に達した、と報告。
・クロアチア共和国の首都ザグレブに本部を置く、ECの停戦監視団のメンバーを載せたヘリコプターがクライナ上空で銃撃される。誤認と見られる。
・クロアチア共和国のスラヴォニア地方のオクチャニで、クロアチア人とセルビア人の間で激しい戦闘があり、クロアチア防衛隊兵士2人が死亡、住民2人を含む10人が負傷。
08/18:
・スロヴェニア共和国政府は、ユーゴ連邦を3つのゾーンに分ける「ユーゴスラヴィア地域構想」として、「1,ユーゴ南東部のセルビア、モンテネグロ、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ。2,共和国内のセルビア人など幾つかの特殊性を考慮して南東部と緩やかな連携をもったクロアチア共和国。3,民族的な一体性を持つスロヴェニア共和国」を提案し、CSCE加盟35ヵ国に送付したと発表。
・ユーゴ連邦幹部会のメシッチ議長は、連邦人民軍がオクチャニ市への進駐などを厳しく非難し、「私が幹部会にとどまれば、この汚い戦闘を正当化することになる」と、停戦が維持できなければ議長を辞任するとの意向を表明。
08/20:
・ユーゴ連邦拡大幹部会は、クロアチア共和国、スロヴェニア共和国の「独立宣言」モラトリアム期間中の連邦機能回復とユーゴ連邦の将来に関する協議を行なう。
連邦拡大幹部会の4原則の合意要旨;「1,ユーゴスラヴィアの分離および連合の権利を含む各民族の自決権を尊重し、内外国境の変更は民主的手続きおよび合法的手段により、民族自決権に基づかなければならない。2,ユーゴスラヴィアの各民族および共和国の民主的に表明された意思を尊重する。3,ユーゴスラヴィアの将来に関する、全ての選択肢の平等性。他者の押し付けや武力による排除を前提としない、平等の原則。4,政治的合意を法制化し、その実現のための合法的手続きを保証する」というもの。
・スロヴェニア共和国は現時点で国境関税分を連邦政府に支払っておらず、それに対抗して連邦政府は経済制裁を科している。
・クロアチア共和国がセルビア共和国への原油供給を停止したことで、ユーゴ連邦全体が麻痺し、経済的に崩壊寸前の状態に陥る。
08/21:
・ユーゴスラヴィア赤十字の統計によると、クロアチア共和国内の紛争の避難民は10万人を超え、セルビア共和国には6万人、クロアチア共和国には3万人、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国には1万3000人が避難。
・ユーゴ連邦拡大幹部会は、マルコヴィチ連邦首相が提案した連邦政府機能の回復案に大筋で合意する。内容は、「物流の自由化、関税制度、外国為替管理制度の回復」など。クロアチア共和国首脳は、連邦の支出について同意せず。
・クロアチア共和国内の武力衝突は依然続き、スラヴォニア地方のオシエクとその周辺の村に300発の迫撃砲弾が撃ち込まれる。
・クロアチア共和国中部の都市シサク近くのセルビア人の村をクロアチア警官隊が襲撃し、住民8人が死亡、多数が負傷する。パクラッツの町でも激しい戦闘が再発。
08/22:
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、ユーゴ連邦幹部会に対し、クロアチア共和国最高評議会の決定に基づいた5項目の要求を提出。
要求の要旨;「1,セルビア共和国とユーゴ連邦人民軍の武器の供給を受けて反乱を起こした武装セルビア人に対し、武器を共和国当局または連邦人民軍に引き渡すよう呼びかける。2,クロアチア共和国に対する武器での反乱、侵略の援助の停止。3,連邦人民軍のクロアチア領内における戦闘行為の中止と兵舎への撤退、平常態勢への復帰。4,クロアチア民主政権に反する、政治的軍事的行為に関する連邦人民軍将校の責任の明確化。5,欧州共同体・EC監視団の参加で、今月末までに連邦幹部会や連邦人民軍がこれらの要求を受け入れない場合、クロアチアは『必要な措置を取る』」との強行策を送付。
・クロアチア共和国内の少数派のセルビア人たちは、「排他的なクロアチア国家を作ろうとするトゥジマン政権とは、最後まで闘う」と反発。
08/23:
・ユーゴ連邦拡大幹部会は、「モラトリアム期間中の連邦人民軍の機能に関する現状分析」などについて討議を行なう。「1,クロアチア共和国政府は、連邦人民軍への連邦予算支出を拒否し、連邦人民軍の徴兵には応じない。2,マケドニア共和国は、連邦人民軍のマケドニア兵の同共和国以外への派遣を拒否する。3,スロヴェニア共和国は、連邦人民軍のスロヴェニアからの撤退の際スロヴェニア兵の除隊を認めたため、スロヴェニア兵は連邦人民軍に200人のみとなる。4,ボスニア共和国は、共和国内以外の配備には応じない。5,セルビア共和国では、前線への派遣を恐れて徴兵逃れが相次いでいる。6,連邦人民軍の規模は実勢11万人で、平時編制の6割となっている」など。
・クロアチア共和国紛争に関する「停戦実施のための国家委員会」のヤノヴィチ委員は記者会見において、「連邦幹部会の停戦決定後の20日間にクロアチア共和国内での停戦違反は200件あり、70人以上が死亡。紛争地域はクロアチア共和国の50%の地域に及んでいる」と述べる。さらに、停戦の実施が遅れている理由として「①停戦監視団派遣についてクロアチア共和国側から異議が出たため、派遣そのものが遅れたこと。②クロアチア当局側と対立するセルビア人勢力側は、連絡将校を依然指名していないこと。③政治的な交渉が進んでいないこと。④双方のマスコミが戦争を煽っていること」などと非難する。
08/24:
・クロアチア共和国のベヴィチ国防相は、「共和国内のセルビア人の武装解除や連邦人民軍の兵舎への撤収などの要求が受け入れられない場合、総動員令を発動し、国外のクロアチア人の招集も呼びかける。これまでは武器が不十分で総動員令がかけられなかったが、準備は整いつつある。これまでの受け身の姿勢ではなく、あらゆる手段でテロリストを攻撃する」と述べる。
・クロアチアのスラヴォニア地方の村ダリのセルビア人勢力防衛隊司令官は、「クロアチア側と同様の方法で我々も武器を手に入れている」と武器の密輸をほのめかす。
08/26:
・クロアチア共和国の東スラヴォニア地方のヴコヴァルでは、連邦人民軍の兵舎をクロアチア治安部隊が包囲し、これをさらに連邦人民軍が大量の戦車などを動員して包囲するという状態となっている。クロアチアのクライナ地方のクロアチア人が多数居住しているキエボ村では、クロアチア治安部隊と連邦人民軍が6時間にわたって戦闘し、治安部隊が撤退。
08/27:
・ECは臨時外相会議を開き、流血が続いているユーゴ連邦と各共和国に対し、9月1日までにクロアチア共和国への停戦監視団派遣、和平会議の開催を受け入れるよう要求することを決める。ECの要求が拒否された場合、覚え書きに同意した関係者との間で合同会議を開き、今後の対応を話し合うことを決める。ユーゴスラヴィアの全関係者に対して特使を派遣し、停戦の実施およびクロアチア共和国へのECを中心とする国際停戦監視団を派遣する。ECが加わった形での和平会議、仲裁委員会の設置、などを提案することも決める。
・セルビア共和国は、「紛争当事者であるクロアチア内のセルビア人を無視した解決はあり得ない」としてECの調停を拒否。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、ブリオニ島でカディエヴィチ連邦国防相とアジッチ連邦人民軍参謀総長と会談し、両者は停戦と交渉による解決が必要である、との認識で合意。一方で、トゥジマン・クロアチア大統領はセルビア共和国との対決姿勢を強める。
・アドリア海のスプリト連邦海軍司令官はクロアチア当局に対し、「供給を中止している水、食糧、電気などの封鎖を解除しなければ、断固たる措置を取らざるを得ない」と警告。
08/28:
・クロアチア共和国軍とユーゴ連邦人民軍との間で、クロアチアのヴコヴァルなどで激しい戦闘が再発し、30人から150人が死亡との情報が流される。
・クロアチア共和国のグレグリッチ首相は、「31日までに侵略が中止されない場合、クロアチアは完全独立・主権国家を宣言する」と語る。
08/29:
・セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領は、パリでミッテラン仏大統領と会談し、27日のEC外相会議が提案した和平会議について「提案は好意的だと思う。検討する」との考えを示す。
08/30:
・ユーゴスラヴィアのベオグラード・ラジオによると、クロアチアとボスニアとの国境にあるクロアチア側の町コスタイニッツァで、セルビア人武装勢力がクロアチア警察隊を攻撃。クロアチア側は迫撃砲で反撃し、一部の砲弾がボスニア側の町コスタイニッツァに落下して住民2人が死亡。
08/31:
・セルビア共和国のヨバノヴィチ外相は、ECが提案していた停戦監視団を派遣するなどの覚え書きを受け入れると表明。既に、スロヴェニア共和国、クロアチア共和国、マケドニア共和国、ボスニア共和国、ユーゴ連邦政府が受け入れを表明。
09/01:
・ユーゴ連邦幹部会はEC代表のファンデンブルク・オランダ外相を交えた緊急会議を開き、「クロアチアへのEC監視団派遣と和平会議開催」などのEC宣言を協議。
09/02:
・ユーゴ連邦の6共和国と連邦幹部会は、ECの調停案を未明に調印する。
調停案の要旨;「1,クロアチア共和国で、少なくとも2ヵ月間の停戦をする。2,ECを中心とする国際停戦監視団をクロアチアへ派遣する。3,ユーゴ連邦、各共和国、ECが参加する和平会議を開催する。4,EC各国の最高裁判事の中からユーゴスラヴィア側が指名する2人、ECが指名する3人の計5人で構成される調停委員会を設置する」など。調停委員会5人が停戦の作業を行ない、EC監視団200人にユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国当局、クロアチア共和国内のセルビア人勢力代表も参加し、クロアチア内に展開することになる。
・クロアチアのペトリーニャで、クロアチア共和国治安部隊がユーゴ連邦人民軍の兵舎を砲撃し、連邦人民軍が応戦。
09/03:
・ECの臨時外相会議は、「ユーゴ和平会議」を設置して議長にキャリントン英元外相を任命し、会議を7日にハーグで開くことで合意した、とユーゴ連邦側に提案。
・クロアチアの東スラヴォニア地方のオシエク近くで、クロアチア共和国治安部隊と武装セルビア人およびユーゴ連邦人民軍の間で衝突が続く。
09/04:
・クロアチアのスラヴォニア地方が、ユーゴ連邦人民軍と武装セルビア人による攻勢で首都ザグレブからの幹線道路が封鎖され、クロアチア共和国から分断される。
・クロアチア共和国政府は、スラヴォニア地方の事態を「決して受け入れることは出来ない」と反発。
09/05:
・オランダ特使の仲介により、クロアチア共和国のオシエクにおいてユーゴ連邦人民軍とクロアチア地方当局との間に、休戦協定が結ばれる。
・ユーゴ連邦人民軍の仲介により、クロアチアのクライナ地方南部においてクロアチア人住民とセルビア人住民の間で、休戦協定が結ばれる。
09/07:
・ECが仲介するユーゴ和平会議がハーグで開かれ、EC12ヵ国とユーゴスラヴィア側から幹部会員全員と6共和国首脳が参加して共同宣言が採択される。
共同宣言の要旨;「1,我々の共通の目標は、ユーゴスラヴィアの平和と永続的解決をもたらすことであり、そのために仲裁委員会の設置を決定した。2,本日の会議は、ユーゴスラヴィアの将来に関する交渉の開始を意味するものであり、交渉の結論はユーゴスラヴィア全住民の利益を考慮したものでなければならない。3,全欧安保協力会議・CSCEのすべての原則に基づいて平和解決を探ることを誓う。4,平和的手段および合意によらない内外国境の変更は認めない。5,我々にとっては民主主義が唯一のシステムであり、これを強化して新しい欧州を建設するとのCSCEのパリ憲章を再確認する。6,和平会議を成功させるためには、停戦が不可欠であり、われわれは全力をあげて停戦に取り組むと宣言する」というもの。
・クロアチア共和国治安部隊は、ザグレブの東120キロのオクチャニ地区に駐留するユーゴ連邦人民軍に、迫撃砲で攻撃を仕掛ける。
・ユーゴ連邦人民軍第5軍管区司令部は、「国際会議が開催されている中でのこうした挑発行為は、和平へのイニシャチブと交渉の成果を破壊しようとするものだ」と非難。
・スロヴェニア共和国のルペル外相は、ハーグの和平会議に出席した後にオランダ外務省で記者会見し、「スロヴェニアは和平会議の結果にかかわらず、10月7日に独立する」と表明。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「ユーゴスラヴィアの将来は、ユーゴスラヴィア国民自身が決める。ECはいかなる解決も強請すべきではない。一方的な分離の動きがクロアチア紛争の原因である」と演説。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「国境については妥協の余地はない。地方自治など権力への参加をはじめ、市民的・民族的権利を認める用意がある」との立場をしめす。
09/08:
・ユーゴ連邦マケドニア共和国は、「ユーゴ主権国家連合に加盟する権利を有する、主権国家としてのマケドニアに賛成か否か」を問う国民投票を実施する。有権者総数の68%が、主権連合内でのマケドニア国家を支持する。
・クロアチアのパクラッツなどで、クロアチア共和国部隊と武装セルビア人による戦闘が数時間にわたり続く。
・ECユーゴ停戦監視団は、オシエクに入り局地停戦に向けて交渉を開始する。
09/09:
・ユーゴ連邦クロアチア共和国当局は、クロアチア共和国治安部隊と武装セルビア人部隊との戦闘が続く共和国内の29地点に、夜間外出禁止令を敷く。
09/10:
・クロアチア東部のオシエク市で、セルビア人武装部隊が迫撃砲やロケット砲で攻撃し、クロアチア防衛隊も迫撃砲で反撃するという激しい戦闘があり、少なくとも13人が死亡。この戦闘にECの監視団も巻き込まれたが、死傷者はなし。
・ユーゴ連邦マケドニア共和国の国民投票委員会は、8日に行なわれたユーゴ連邦からの独立を求める国民投票の結果を発表。投票率71.85%、独立賛成95.09%、
09/11:
・ECのアンリ・ビナエンツ特使の乗ったユーゴ連邦人民陸軍のヘリコプターが、クロアチア上空で銃撃を受けて緊急着陸。
・ECのクロアチア監視団は、オシエクの戦闘の激化を見て引き上げを検討。
09/12:
・ハーグで第2回ユーゴ和平会議が開かれる。クロアチア共和国外務省は、停戦違反が相次いでいる中での会議など意味がない、と失望感を訴える。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人住民は、「ヘルツェゴヴィナ・セルビア人自治区」の設立を宣言する。
09/13:
・ユーゴ連邦幹部会のクロアチア選出のメシッチ議長は、クロアチア共和国内の武力衝突を終わらせるために、「国連平和維持軍の派遣を要請する」と述べる。さらに、ユーゴ連邦人民軍最高司令官として連邦人民軍の兵舎への撤収命令を出しても、連邦人民軍が命令を無視していることから、「来月7日以降に議長を辞任する」と発表。
・クロアチアのカルロヴァツ近くで、ユーゴ連邦人民軍第4軍管区司令官の乗ったヘリコプターがクロアチア側に強制着陸させられ、副司令官ら7人の将校が「戦争捕虜」として拘束される。
09/14:
・クロアチア共和国の治安部隊は、ヴコヴァルのユーゴ連邦人民軍兵舎を25日間にわたって封鎖する。
・ユーゴ連邦人民軍は、クロアチア共和国が連邦軍兵舎への水や電気の供給を断っているオシエク、スプリト、ザダルなどで封鎖解除の行動に出ると警告。
・クロアチア共和国のトマツ副首相は、「ユーゴ連邦人民軍、連邦政府および世界に向かって圧力をかけ、平和解決を早めるためにもこのような手段をとった。連邦人民軍のいかなる反攻があろうとも、兵舎の封鎖、占拠は中止しない」と語る。
・EC議長国のオランダ政府は、「クロアチア共和国政府の行動は、戦闘を拡大させる行為」と非難。
・ユーゴ連邦人民軍は、クロアチア共和国が連邦人民軍兵舎の封鎖を解かなければ解除するための行動を起こす、との声明を発表。 13時30分に、連邦人民空軍機がヴコヴァル市を空爆。
註;ユーゴ連邦人民軍は、この時点までは中立的立場を貫こうとしていた。しかし、クロアチア共和国軍が連邦人民軍の武器や装備を奪取するために連邦人民軍の兵営や倉庫への攻撃や占拠を止めないことに対し、ついに中立的立場を崩してクロアチア共和国軍への全面的な武力攻撃を開始することになる。
09/15:
・クロアチア共和国治安部隊は、首都ザグレブを始めとして同共和国内の7ヵ所のユーゴ連邦人民軍の兵舎や倉庫を占拠し、大量の武器を押収する。連邦人民軍の兵士3,400人が投降。さらに、首都への道や兵舎周辺にトレーラーなどを並べ、地雷を埋設して連邦人民軍の反撃に備える。ザダルでは連邦人民軍兵士が投降命令に従わなかったとして、共和国治安部隊が攻撃を開始する。
・クロアチア共和国のシェパロヴィチ外相は、「プロチェの武器倉庫と幾つかの連邦人民軍兵舎を占拠したため、クロアチア共和国軍の装備は改善された」と述べ、連邦人民軍との対決姿勢を明らかにする。
・ユーゴ連邦人民軍は、ヴコヴァルの封鎖された兵舎を解放するために空と陸から攻撃を加え、またアドリア海に面した南部プロチェでは連邦人民軍の艦艇が艦砲射撃を行なう。
・ゲンシャー独外相とデミケリス伊外相が会談し、「ユーゴ連邦人民軍のクロアチア共和国からの撤退を呼びかける」との共同アピールを発表。
09/16:
・クロアチア共和国の治安部隊は、連邦人民軍の施設20ヵ所を支配下におく。
・ユーゴ連邦人民空軍機1機が、ハンガリー側からの対空砲火で撃墜される。
・マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相は、「EC監視団を500人でも1000人でも増強して欲しい」とEC側に訴える。
・西欧同盟・WEUがハーグで臨時外相、国防相会議を19日に開き、クロアチア共和国に平和維持軍を派遣することを検討する方針を決める。
・ユーゴ連邦人民空軍機は、クロアチアのアドリア海沿岸の主要都市とザグレブ郊外への空爆を開始する。
・クロアチアのオシエクの連邦人民軍兵舎が包囲され、連邦人民軍兵士はクロアチア共和国側に投降する。
・ボスニアのクライナ地方のセルビア人住民は、「ボスニア・クライナ・セルビア人自治区」の設立を宣言。
09/17:
・ECユーゴ和平会議のキャリントン議長はクロアチアの紛争を仲介し、連邦政府、クロアチア共和国、セルビア共和国が停戦協定に調印。協定内容;「1,即時停戦。2,各自の影響下にある武装勢力グループの解体。3,全連邦人民軍の駐屯地への撤収。4,非正規軍の紛争地域からの撤退」など。
・ユーゴ連邦人民海軍は、クロアチア共和国の主要な7つの港湾を封鎖する。
・クロアチア共和国のベヴィチ国防相は、共和国治安部隊に即時攻撃停止を命じる。深夜になり、首都ザグレブの連邦人民軍第4軍管区駐屯地付近で、連邦人民軍とクロアチア共和国治安部隊が交戦を開始。
09/18:
・クロアチアの北部バラジディンに連邦人民軍による空爆があり、市民5人が死亡。 中部ペトリーニャの給水施設にも連邦人民軍が空爆。東部オシエク近郊では、クロアチア共和国治安部隊が連邦人民軍の戦車などを攻撃。
・セルビア共和国のコシュティッチ副首相は、「大きな危機地域では停戦が成立している」と発表。
・クロアチア共和国の首都ザグレブで、セルビア人の一斉検挙が始まった、とノヴィ・サド・テレビが報じる。
・クロアチア共和国のベビッチ国防相が辞任する。
・ユーゴ連邦マケドニア共和国議会は、主権国家としての独立宣言を賛成多数で採択する。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国内のロマニャ地方に住むセルビア人住民が、「ロマニャ・セルビア人自治区」の結成を宣言。ボスニアのセルビア人自治区宣言は3番目。
09/19:
・欧州共同体・ECと西欧同盟・WEUは、ユーゴスラヴィアへの平和維持軍派遣を検討するために緊急合同会議を開く。EC外相はWEU側に、「ユーゴスラヴィアの停戦監視活動を効果的に行なう、何らかの方策を検討する」ことを要請。WEUの外相・国防相は、専門家による作業部会を設置することを決める。イタリア、フランス、ドイツは平和維持軍派遣に賛成しているが、ポルトガル、デンマークなどは反対。ただし、ドイツは国内法の制約があり、ユーゴスラヴィアには派兵できない。
・ミッテラン仏大統領とコール・ドイツ首相が会談し、ユーゴスラヴィア情勢について「各民族が望めば、平和的、民主的方法で自決権を行使できる。その際、少数民族の権利も保障しなければならない」との共同声明を発表。
・クロアチア共和国とスロヴェニア共和国の両外相は合同で記者会見を開き、停戦協定が遵守されるまでECが主催するユーゴ和平会議には参加しないと表明。
・セルビア共和国外相は、外国軍の派遣には反対するとの立場を表明。
・クロアチア共和国内の各所で、連邦人民軍の兵舎が封鎖され、オシエクやアドリア海に面したシベニク、シザク周辺などで、クロアチア治安部隊と連邦人民軍が交戦を継続。
・ユーゴ連邦人民軍は、戦車100輌をベオグラードからクロアチアへ向けて進軍を開始させる。
09/20:
・ユーゴ連邦人民軍は、クロアチア共和国内において8月末から兵舎を封鎖されたため、食糧も兵員の補給も途絶える。連邦人民軍は封鎖された兵舎を解放するために、セルビア共和国のベオグラードから3方面に分かれてクロアチア共和国内に戦車を進攻させ、クロアチア治安部隊と交戦状態に入る。進撃した連邦人民軍の戦車部隊はクロアチア共和国治安部隊の防衛線を次々と突破し、ビンコヴィチ市でクロアチア側と激しい戦闘を展開。
・ユーゴ連邦人民軍は、モンテネグロから4000人の部隊をボスニアの南部の町トレビニを経て、クロアチアのクライナ地方に進軍させる。
・ボスニアのバニャ・ルカ駐屯の連邦人民軍は、クロアチア中部国境地帯に向けて進軍し、国境北のクロアチアのオクチャニで交通路確保のための激しい戦闘を行なう。
・トゥジマン・クロアチア大統領は徹底抗戦を呼びかける一方で、連邦人民軍が攻撃を中止すればクロアチア内の連邦人民軍の駐屯地への水、電気を供給するとの休戦条件を提案した、と伝えられる。
・ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領は、セルビア共和国を強く非難し、防衛隊に動員命令を出す。
・ミッテラン仏大統領は、ユーゴスラヴィア問題での国連安保理の緊急会議開催を要請。
・ゲンシャー・ドイツ外相はドイツ連邦議会で、ユーゴスラヴィア問題に関する国連安保理の緊急会合を招集するよう呼びかける。
・マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相はカディエヴィチ連邦国防相に対し、ソ連から武器供与を求めたことを理由にして辞任を要求。「もはやユーゴ連邦政府は連邦人民軍に対して何のチェックも出来ず、軍の暴走を許している。クロアチアとしてはこのような連邦人民軍をこの領土から力ずくでも追い出すしかない」と述べる。
註・クロアチア共和国治安部隊の装備は、ユーゴ連邦人民軍の武器を押収したものが多いが、ドイツ製やソ連およびチェコ製のロケット砲、地対地ミサイル、迫撃砲、機関銃などを密輸したもので拡充し、連邦人民軍に対して対等に戦っている部隊や一部では優勢な部隊もある。
・国連安保理は、ユーゴスラヴィア情勢で非公式協議を開く。中国が、「内政干渉の恐れ」を指摘したことで、具体策は決められず。
・クロアチア出身のメシッチ連邦大統領(幹部会議長)は、連邦幹部会を招集することを拒否し、幹部会は機能麻痺状態に陥る。
・クロアチアのクロアチア人住民は、「ドイツやイタリア、オーストリアなどが、戦闘が激化すればクロアチアの独立を承認してくれる。ユーゴ連邦人民軍は独立クロアチア共和国に対する『侵略軍』として国際社会が非難し、スロヴェニア共和国への連邦人民軍介入と同様、国際的な圧力で撤退を余儀なくされるだろう」と話す。
09/21:
・カディエヴィチ連邦国防相は、トゥジマン・クロアチア大統領が提案した「攻撃を中止すれば連邦人民軍駐屯地への水と電気を供給する」との提案を拒否する。さらに、キャリントン・ユーゴ和平会議議長の停戦合意は、「連邦人民軍駐屯地の封鎖解除が条件である」と指摘。
・クロアチア共和国政府は緊急閣議を開き、「1,21日19時に双方が停戦を命令する。2,22日12時をもって連邦人民軍は移動し、港湾封鎖などを中止すれば連邦人民軍兵舎への水、食料、電気、医薬品の供給を再開する」との提案をカディエヴィチ連邦国防相に行なうことを決める。
・欧州会議は、25ヵ国が参加する総会を開き、「ユーゴスラヴィアで独立を宣言している共和国の承認を検討するよう、加盟国に要請する」決議を採択。
・ベルギーのエイスケンス外相は、「クロアチア共和国の消滅も、武力による国境線の変更も受け入れられない」と述べ、セルビア共和国がクロアチアを占領するようなことがあれば、セルビアに対して経済制裁を実施するようECに呼びかける。
・ユーゴ連邦人民軍は、スロヴェニア、クロアチア、マケドニア、ボスニアの各共和国が徴兵にも予備役招集にも応じないために、次第にセルビア人とモンテネグロ人の兵士が多数を占めるようになり、ユーゴ連邦人民軍としての性格が失われつつある。セルビアでも予備役動員に抵抗し、離脱する兵士が増大していることで連邦人民軍は弱体化している。にもかかわらず、クロアチア共和国の3分の1はセルビア人勢力と連邦人民軍の支配下にある。
09/22:
・ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国は、ECの停戦協定を確認する形で停戦することに合意する。さらに、EC停戦合意内容に沿った話し合いを継続することでも合意。
・両者の停戦合意に基づき、トゥジマン・クロアチア大統領とカディエヴィチ連邦国防相は、それぞれクロアチア共和国治安部隊とユーゴ連邦人民軍に全ての攻撃と行動を中止するよう命令。内容;「1,連邦人民軍は、陸、海、空の全域での攻撃と移動を中止する。2,クロアチア当局は封鎖している連邦人民軍兵舎への水、電気、食料、医薬品、電話などの供給を再開する。3,双方代表による協議を開始する」の3点で合意。この合意にクロアチア共和国内のセルビア人勢力は関与させられず。
・ボスニアのクライナ地方のセルビア人勢力は、「ボスニア・クライナ・セルビア人自治区」の設立を宣言。
09/24:
・ユーゴ連邦のメシッチ大統領は、「現在の連邦政府に替わる各共和国の首相および連邦首相で構成する委員会を作り、ユーゴスラヴィアの再構成の責任を負うべきだ」との構想を明らかにする。
・クロアチア共和国内の状況は停戦合意後沈静化しているが、ヴコヴァルやバクラッツ、シサクなどでは散発的な交戦がある。
09/25:
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領およびカディエヴィチ連邦国防相の3者が会談し、クロアチア共和国内で続いていた戦闘の停戦を遵守し、紛争を政治的手段で解決する方針で一致。
・ユーゴ連邦人民軍はクロアチア共和国内の東部ビンコヴィチ市で、市の行政、防衛隊代表と連邦人民軍兵舎の代表が協議し、48時間以内に連邦人民軍が兵舎から撤退することで合意。
・国連安保理は外相級の公式協議を開き、ユーゴ連邦クロアチア紛争の情勢について協議。英・仏・ベルギー・オーストリア・ソ連共同提案のユーゴ連邦に対する全面武器禁輸など8項目の決議713を、全会一致で採択する。
骨子;「1,安保理はユーゴスラヴィア情勢に重大な懸念を抱き、国連憲章第7章に基づき、ユーゴスラヴィアの平和および安定を確立する目的で、ユーゴスラヴィアに対する武器の全面禁輸を実施し、安保理がユーゴスラヴィア政府と協議して新たな決定をするまで継続する。2,国連事務総長は、和平努力をする」など。
・ユーゴ連邦人民海軍の艦艇が、スプリト港沖で機雷に触れて爆発し、6人が死亡。
09/26:
・ECユーゴ和平会議は第3回会合を開き、「1,経済。2,少数民族。3,ユーゴスラヴィアの将来の国家形態」の3作業部会の設置を正式に決める。
・ユーゴ連邦人民海軍司令部は、クロアチア武装勢力が南部のスプリト港沖に海軍弾薬庫から奪った機雷を大量に敷設した、と非難。
・ECのビナエンス特使の乗ったジェット機が、ザグレブ近郊上空で地対空ミサイルを発射されて緊急着陸する。
09/28:
・クロアチア共和国のスラヴォニア地方や西部のアドリア海沿岸地方での戦闘が再燃。少なくとも22人が死亡し、62人が負傷。
・クロアチアのパクラッツでは連邦人民空軍機が2波にわたり空爆し、4人が死亡、14人が負傷。オシエクやヴコヴァルに対する激しい砲撃で、15人が死亡。ザグレブ西方70キロのベロバルでも戦闘があり、2人が死亡。ザグレブ南東130キロのノバグラディスカやアドリア海地方のシベニク、ザダルでも戦闘が再開する。
・セルビア共和国のベオグラードを連邦人民軍の重戦車20輌と装甲車30台を含む200台の車輌が通過し、クロアチアへ向かう。
09/30:
・西欧同盟・WEUは臨時外相会議を開き、ユーゴスラヴィアの平和維持軍派遣問題について討議したが結論は出ず。WEUの作業部会が報告した内容は、「1,ECを中心とする停戦監視団の大幅増員。2,停戦監視団に、EC各国の軍人5000人によるボディガードをつける。3,7000人から1万人の軽武装の平和維持軍を派遣して停戦監視に当たらせる。4,3万人前後の軍を派遣して本格的なクロアチア共和国軍、セルビア人勢力軍の軍事力引き離しを行なう」の4点。多くの国が④の軍派遣に反対する。
・クロアチア共和国のセパロヴィチ外相は記者会見で、「10月7日に期限切れになる同共和国の独立宣言凍結を延長する考えはない」と述べる。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、クロアチアのスラヴォニア地方のヴコヴァルで、クロアチア共和国部隊とユーゴ連邦人民軍との間で激しい戦闘が始まる、と伝える。
09/00:
・カナダから帰郷したクロアチア民族主義者のG・シュシャクが、クロアチアの国防相に就任する。
・コソヴォ自治州のアルバニア系住民による独自の議会が、コソヴォの独立の是非を問う住民投票を実施。セルビア治安部隊が阻止行動を行なったにもかかわらず、アルバニア系住民の90%が投票に参加し、98%がコソヴォ共和国の独立に賛成する。コソヴォ自治州議会は「独立宣言」を発し、B・ブコシはスイスに亡命政府を樹立する。スイスに在住するアルバニア人はおよそ10万人。
10/01:
・ユーゴ連邦人民軍最高司令部はクロアチア共和国に対し、警告声明を出す。声明;「1,停戦取り決めが完全に無視されている。今後、連邦人民軍は施設が攻撃、占拠された場合、これに応じて直ちに共和国にとって重要な施設を破壊する。2,停戦合意が連邦人民軍施設、基地、部隊への攻撃に利用され、将兵に対して驚くべき犯罪行為が行なわれている。その家族にも迫害、殺害などが及んでいる。3,以後、連邦人民軍が攻撃、占領された施設の一つ一つについて、直ちに共和国側が重要とする施設の破壊で応える。4,連邦人民軍の駐屯地が攻撃されれば、占拠された町の施設を破壊し、町の住民に退去の警告を行なう」。連邦人民軍は、これまでクロアチア共和国内の少数派であるセルビア人とクロアチア人の衝突を防ぎ、連邦人民軍施設を守るとの建前からクロアチアの町や施設への積極的な攻撃は避けてきたが、「流血や破壊を避けたいならば、直ちに地方機関を通じ、連邦人民軍や家族の安全を確保する協議を行なえ」と強硬姿勢を全面に出す。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「1,クロアチア共和国側が停戦合意に違反しているという主張は、最後通告的なものであり受け入れられない。2,共和国は領土内から連邦人民軍が完全撤退することを要求する。3,共和国は改めて完全な停戦実施を提案する」とユーゴ連邦人民軍の警告を拒否する。
・ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国両者の対立を反映し、散発的だった各地の戦闘が一気に激化する。オシエクでは、連邦人民軍の砲撃やロケット砲攻撃が激しくなり、パクラッツでは死傷者が270人出る。ヴコヴァルやドブロヴニクでも激戦が展開される。「停戦合意」は、実質的に崩壊状態となる。
10/02:
・ユーゴ連邦人民軍は、「話し合いの時は終わった。クロアチア共和国内の重要目標を破壊する」との声明を発表。
・ユーゴ連邦人民海軍艦艇がドブロヴニクへ艦砲射撃を加え、市内の空港や協会、ホテル、民家などをも破壊。さらに連邦人民軍は電気、水道を切断する。クロアチア共和国側の兵士が600人死亡。ヴコヴァルでは、連邦人民軍が戦車や装甲車、特殊部隊を動員して市の中心部に突入し、一部を制圧する。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、イタリアのアンドレオッチ首相、デミケリス外相と会談後、「ユーゴ連邦人民軍が海、空、陸からの攻撃を中止すれば、クロアチアは連邦人民軍施設への封鎖を解除する用意がある」と述べる。
10/03:
・ユーゴ連邦幹部会をコスティッチ副議長が代行して招集したが、スロヴェニア、クロアチア、マケドニア、ボスニアの各共和国選出の幹部会員は参加せず。セルビア共和国を中心とした4幹部が出席し、連邦人民軍とクロアチア共和国との戦闘について協議。 連邦幹部会は、クロアチア共和国が事実上「宣戦布告なき戦争をユーゴ連邦に仕掛けている」との声明を発表。連邦人民軍のクロアチア共和国に対する強硬姿勢に全面的な支持を表明。
・ユーゴ連邦人民海軍は、アドリア海に面したクロアチア共和国の主要7港を再び封鎖。ドブロヴニクへの包囲攻撃をしているユーゴ連邦人民軍第4軍管区のラセタ副司令官は、ドブロヴニクのクロアチア共和国防衛隊に対し、撤退か降伏するかの要求を突きつける。
・クロアチア共和国のセルビア人住民は、60万人の内22万5000人がセルビアやクロアチアの安全な地域に避難する。
10/04:
・ECユーゴ和平会議のキャリントン議長は、ハーグにEC議長国のファンデンブルク・オランダ外相、トゥジマン・クロアチア大統領、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、カディエヴィチ連邦国防相を招き、5者会談を開く。
会談では、「1,戦闘の即時停止。2,クロアチア共和国などの独立の承認を展望した政治解決を目指す。3,少数派住民に特別な地位を与える」ことで合意する。
独立承認の包括的条件;「1,主権、または独立した各共和国による緩やかな連合または同盟の結成。2,人権の保護や特定地域に対する特別の地位の付与を含む、少数住民に対する十分な保護措置をとる。3,一方的な国境の変更は行なわない」との枠組みの中で与えられると指摘。さらに、「双方が停戦合意に違反している。双方が即時戦闘を停止する。クロアチア共和国側は、連邦軍人民兵舎の封鎖を即時解除する。連邦人民軍側は再編、再配置する」ことで合意。EC側は、「機能麻痺状態に陥っている停戦監視団を増員し強化する」ことで合意。
・クロアチア共和国での戦闘は続き、ドブロヴニクではユーゴ連邦人民軍が海、空、陸からクロアチア部隊拠点に攻撃を加える。ヴコヴァルでは3分の1を支配下においているクロアチア共和国側部隊と、包囲している連邦人民軍が激しい市街戦を展開。ザグレブのテレビ・ラジオの放送塔が軍用機によるミサイル攻撃を受け、TVの1,3チャネルの放送が中断。
・ユーゴ連邦人民軍は、予備役の動員を行なうと発表。連邦人民軍の兵員は不足しており、先の幹部会で「軍の行動に必要な範囲で」、と事実上のフリーハンドが与えられる。
10/05:
・ハーグ合意後もオシエクからアドリア海沿岸にかけ、ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国軍との間で激しい戦闘が続く。連邦人民軍は、ザグレブから沿岸地方を結ぶ幹線道路の要衝カルロヴァツへの砲撃を始める。付近のドゥガレサも攻撃。
・ユーゴ連邦政府のカディエヴィチ国防相はトゥジマン・クロアチア大統領に、「連邦人民軍兵舎の封鎖の解除を実現するよう」要求した書簡を送付。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「連邦人民軍が5日の14時を期して停戦に踏み切るなら、封鎖解除を行なう」との返書を送付。
・EC外相会議は、「ユーゴ連邦幹部会がセルビアとモンテネグロ両共和国によって支配されており、その決定は一切認めない」との加盟12ヵ国による声明を出す。
10/06:
・ECはユトレヒトで非公式外相会議を開き、ユーゴ連邦に対し8日零時までに停戦が実現しない場合は、ユーゴスラヴィアとの経済協力協定の破棄などの経済制裁を行なうことを決める。さらにEC委員会に対し、対ユーゴスラヴィア全面禁輸を検討するよう指示。また、EC外相は国連事務総長に対し、特使を派遣するよう要請。
10/07:
・スロヴェニアとクロアチア両共和国の独立宣言に対する3ヵ月間のモラトリアム期間の期限切れを迎え、トゥジマン・クロアチア大統領は事実上の総動員令を発令。
・ユーゴ連邦人民軍はクロアチア共和国の首都ザグレブを初めて攻撃し、空軍機によるミサイル2発が大統領府に命中。建物内には、メシッチ・ユーゴ連邦大統領とトゥジマン・クロアチア大統領およびマルコヴィチ・ユーゴ連邦首相が会談をしていたが、3人とも無事。連邦人民陸軍も、地対地ミサイルをザグレブのクロアチア部隊の兵舎に向けて発射。マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相は、「カディエヴィチ連邦国防相が辞任しない限り、ベオグラードには戻らない」と連邦人民軍の行動を強く非難。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、「もはや敵は信用出来ない。我々は武器が不足しているが、占領軍が破壊活動を強化する以上、断固立ち向かわざるを得ない」と述べ、米国第6艦隊の派遣を要請したことを明らかにする。
・ユーゴ連邦幹部会は緊急会議を開き、一方的に24時間の停戦を宣言。またECの経済制裁を含む停戦期限についての対応を協議。クロアチア共和国軍がユーゴ連邦人民軍の兵舎の封鎖解除をする前に、先行して連邦人民軍は停戦に入るとの新しい提案を行なう。ただし、クロアチア共和国軍が条件を守らない場合には9日零時を期し、連邦人民軍兵舎解放のための大規模な作戦を再開する、と表明。
・ゴルバチョフ・ソ連大統領は、ユーゴ連邦の指導者および連邦人民軍に対し戦闘行為を即時停止し、停戦協定を順守するよう呼びかける。
・スロヴェニア共和国のルペル外相は記者会見で、ECユーゴ和平会議のキャリントン議長からの非公式の独立宣言延期の申し入れを拒否した、ことを明らかにする。
・スロヴェニア共和国のルペル外相は、「スロヴェニアは、今からユーゴスラヴィアを他国と見なし、そのように扱う」との声明を発表。さらにクチャン・スロヴェニア大統領は、8日にコール・ドイツ首相を訪問する予定であると発表。
・バウチャー米国務省副報道官はユーゴ連邦人民軍によるザグレブ攻撃を非難し、対ユーゴスラヴィア経済制裁を考慮すると述べる。
10/08:
・ECユーゴ停戦監視団のバンホーテン団長は、ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国の停戦交渉を仲介し、両者が包括的停戦合意に調印したと発表。
停戦合意;「1,クロアチア共和国内のユーゴ連邦人民軍基地、施設に対するクロアチア側の封鎖を原則的に解除する。2,ユーゴ連邦、クロアチア共和国双方はアドリア海諸都市の陸上、海上封鎖を解除する。3,ザグレブのボロンガイ連邦人民軍基地に対するクロアチア共和国軍の封鎖を解除。駐屯部隊は直ちに撤退を開始し、12日までに撤退を完了する。部隊はすべての軍用車輌、兵器と共に撤退することができる。4,合意は8日18時に発効する。5,合意の履行を確認し、問題点を協議するために、9日以降毎日双方は会合する。6,ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国防衛隊はユーゴ連邦、同共和国指導者が欧州共同体・EC主催のユーゴ和平会議に参加している限り、停戦を遵守すること」というもの。
・クロアチア共和国議会は、ユーゴ連邦との国家的、法的関係を断絶する独立宣言を満場一致で可決。宣言は、「国連、全欧安保協力会議への参加を希望し、諸国の独立承認」を求める。
・デクエヤル国連事務総長は、ユーゴスラヴィア紛争に関する特使にヴァンス米元国務長官を任命した、と発表。
10/09:
・クロアチア共和国の首都ザグレブでは交通の要所に築かれていたバリケードの撤去が始まり、クロアチア共和国軍は東部ボロンガイ地区の連邦人民軍兵舎や東部マーシャル・チトー連邦人民軍基地の包囲を解き始める。
・ユーゴ連邦憲法裁判所は、スロヴェニア共和国の独立宣言は憲法に違反しており、無効だとの判断を示す。さらに、3ヵ月以内に連邦人民軍をスロヴェニア共和国から撤退させるとした7月18日の連邦幹部会の決定についても、違憲の判断を示す。
・ユーゴ連邦政府は、独立を宣言したスロヴェニア共和国が新通貨トラルを発行したことで、150~180億ディナールの過剰通貨が生まれることになり、連邦各共和国に激しいインフレを引き起こす恐れがあるとして中央銀行に対策を検討するよう指示。
・この日もクロアチアのヴコヴァルやヤセノヴァツ、オシエク、カルロヴァツなどで散発的な戦闘が行なわれる。
10/10:
・ECユーゴ停戦監視団のシモン・スミス報道官は記者会見で、「この2日間、双方とも合意実施への努力を見せていない。このままでは監視団の存在する意味がない。10日15時までにクロアチア共和国内のすべてのユーゴ連邦人民軍兵舎と港湾の封鎖が解除されなければEC監視団の活動を中止する」、と停戦合意を即時実施するよう強い調子で述べる。
・ECユーゴ和平会議は、EC議長国のファンデンブルック・オランダ外相、ミロシェヴィチ・セルビア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、カディエヴィチ連邦国防相の4者をハーグに集めて開き、「1,少数民族の保護を調整する。2,1ヵ月を目途に将来の国家形態などに関する政治交渉を行なう。3,EC監視団の下で兵舎および港湾の封鎖を解除し、連邦人民軍がクロアチア共和国内から段階的に撤退すること。4,緩やかな連合体および同盟の枠内で共和国の独立を認める」ことなどで合意。
・ハンガリー政府は、スロヴェニア共和国から撤退するユーゴ連邦人民軍のハンガリー領通過を拒否する。
・イタリア政府は、スロヴェニア共和国から撤退するユーゴ連邦人民軍の領域通過を拒否する。
・ユーゴ連邦幹部会は、「連邦人民軍のクロアチ共和国からの撤退は受け入れられない」との声明を発表。
・ユーゴ連邦国防省は、「ハーグでの和平会議ではクロアチア共和国領内からの撤退に関しては、いかなる合意文書にも調印されていない」と撤退を否定する声明を発表。
10/11:
・クロアチア共和国内の連邦人民軍兵舎の封鎖解除が進む。ザグレブのボロンガイ連邦人民軍兵舎に対する封鎖解除は、クロアチア共和国当局と連邦人民軍第4軍管区副司令官との間で交わされた協定による。カルロヴァツの連邦人民軍兵舎封鎖については、連邦人民軍とクロアチア共和国による交渉が進行。アドリア海沿岸の海上封鎖については、港町スプリトで連邦人民軍とクロアチア当局との間で解除取り決めが成立する。一方、ヴコヴァルやバニャ地区では散発的な戦闘が続く。
・ユーゴ連邦幹部会のメシッチ幹部会議長はパリでのデュマ仏外相との会談後の記者会見で、「セルビアの侵略を阻止するか、クロアチアに武器を供与する」よう国際社会に呼びかける。
10/12:
・クロアチアのヴコヴァルがユーゴ連邦人民軍に包囲され、住民が食糧や医薬品不足に陥っているのに対し、クロアチア共和国がEC監視団と共にトラック50台で搬送をはじめたが、連邦人民軍が戦闘激化を理由にこれを阻止。ECが仲介し、再びヴコヴァルへの物資の輸送を開始したものの途中で難航し、ヴコヴァルに到着したのは夜になる。
・ユーゴ連邦人民軍はザグレブのボロンガイ兵舎からの撤収を開始し、約250台の車輌の内の第1陣がクロアチア共和国軍の先導でカルロヴァツを経由してボスニア共和国に向かったが、ヴコヴァルへの物資搬送が阻止されているとの情報が伝わり、クロアチア側が阻止する構え見せたため、第2陣の撤収は中断する。
・ヴァンス国連事務総長特使は、ベオグラードに入り、ユーゴ連邦政府のロンチャル外相と会談。
・クロアチア共和国政府がヴコヴァルへ搬送した援助物資は、戦闘のために町の中心部での配給を断念する。
10/15:
・クロアチアのヴコヴァルへの援助物資搬送ができないことについて、ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国側が協議。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国議会は、ユーゴ連邦からの事実上の独立を謳った共和国の将来の地位に関する文書を、セルビア人議員が退場する中で強行採択。文書は、「主権・独立国家としてユーゴスラヴィアの主権国家連合に加わるが、セルビア、クロアチア両共和国が参加しない場合は完全独立する」とするもの。
・ボスニア議会の採択を受け、ボスニアのセルビア人自治区の一つ「ボスニア・クライナ自治区」は、「今後はユーゴ連邦の憲法、法律のみが適用される。これによってボスニア共和国に対する全ての義務はなくなる」との、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国からの事実上の分離を宣言。
・ゴルバチョフ・ソ連大統領は、ミロシェヴィチ・セルビア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領をモスクワに招いて個別に会談し、3項目の合意を盛り込んだ共同声明を発表。合意内容は、「1,すべての武力紛争の即時停止の必要性を認める。2,1ヵ月以内にセルビアとクロアチアの最高代表が全ての問題について相互に意義のあるすべての交渉を開始する。3,セルビアおよびクロアチア両大統領は交渉を組織し、実現するための支援を、ソ連、米国、欧州共同体・ECに要請する」。さらに、「交渉は民族主義の尊重と平等の原則に基づき、セルビアとクロアチアの善隣関係を目指して行なう」というもの。
10/16:
・日本外務省の招きで来日したボスニアのオズロボジェーニ紙のクルスパヒッチ編集長は、「ボスニアの独立宣言は、セルビア、クロアチア両共和国による分割、併合を阻止し、対等の主権を持った共和国としての立場を確保するためのものだ」と語る。
・クロアチアのスラヴォニア地区の町ヴコヴァルでの戦闘が激化し、連邦人民軍は戦車や大砲による攻撃を加え、11人が死亡。オシエクでは、連邦人民軍機1機が撃墜された模様。
10/18:
・ECのユーゴ和平会議は、ユーゴ連邦を構成する6共和国の指導者と連邦幹部会の全メンバーを招き、ヴァンス国連事務総長特使も参加してハーグで開かれる。
・ECユーゴ和平会議のキャリントン議長は、連邦人民軍とクロアチア共和国軍に即時無条件停戦、およびクロアチア共和国軍による連邦人民軍基地の包囲解除を命じ、その上で包括和平案を示す。包括和平案は;「1,総論。2,人権および少数派の権利。3,協力関係。4,国連機関」の4章からなる。
包括和平案要旨:「1,人権について:各共和国は人権尊重に関する効果的な対策を講じ、特にクロアチア共和国の少数セルビア系民族に適用される。少数民族を差別せず、文化、宗教、言語・教育面での権利を認める。2,政治・外交・安全:各共和国は外相で構成する政治、安全協力会議を創設する。議長は6ヵ月毎に交代、協議会の決定は全会一致を原則とする。3,経済関係:各共和国からの閣僚1人ずつで構成する経済協力閣僚協議会を設置し、市場経済、私有財産の原則に立脚して経済協力を進める。決定は全会一致を原則とする。4,その他:法律的協力面において、6ヵ月に1回閣僚級の会議を重ね、議員レベルでも協議会創設を検討する」。議長国のファンデンブルック・オランダ外相は、この包括案が達成出来なければECの仲介を打ち切ると表明。セルビア共和国側は、クロアチア共和国内のセルビア人の権利が保護されるのかに危惧を抱き、最終的な態度を留保。
・クロアチア共和国内のヴコヴァルに「国境なき医師団」が入り、トラック8台で病院から100人以上の負傷者を運び出す。
10/19:
・クロアチア共和国軍は、「国境なき医師団」が負傷者を運び出した状況を考慮し、ザグレブの連邦人民軍のボロンガイ兵舎の包囲を解いたことで連邦人民軍は撤収を再開。160台の軍用車輌が兵舎を出発する。
・ユーゴ連邦国防省は、クロアチア共和国内の連邦人民軍に対し戦闘停止を命じる。
・ヴァンス国連事務総長特使はデクエヤル事務総長に、「ユーゴスラヴィアにはもはや実効的な中央政府はなく、情勢は深刻化している。現地では多数の国から武器の流入が続いており、国連安保理の武器禁輸決議は守られておらず、今年中に難民の数は40万人を超えると思われる」と報告。
・セルビア共和国コソヴォ自治州の議会が「カチャニク憲法」を採択し、コソヴォ自治州を主権国家としての「コソヴォ共和国」として、独立を宣言する。議会は採決に先立ち、先月末に自治州で住民投票を行ない、住民の半数の90万人が投票し、そのほぼ100%が独立に賛成投票したと報告。コソヴォ共和国政府の首相には、コソヴォ民主同盟副党首のブコシが選出される。
10/20:
・ボスニア共和国議会のセルビア人議員たちは、ボスニアのセルビア人住民のユーゴ連邦帰属の意思を問う住民投票を11月10日に実施すると独自に決議。ボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人の人口は、31%を占める。
・クロアチア放送は、クロアチア共和国の港町ドブロヴニクを連邦人民軍が陸海空から攻撃を加えている、と報じる。
・ユーゴ連邦幹部会は会合を開き、クロアチア共和国側部隊がハーグの停戦協定の即時無条件停戦と連邦人民軍兵舎の封鎖解除の合意を守っていない、と非難。 また連邦幹部会のセルビア共和国代表のボリサフ・ヨヴィチは、「ハーグの停戦協定はセルビア人の利益を尊重しておらず、ユーゴスラヴィアの現在の形態の消滅の道を取っているため、セルビア共和国はこの協定に調印することはできない」と言明。
・「国境なき医師団」の救援隊はヴコヴァルの負傷者109人をトラックに乗せ、40キロ離れたノヴィ・ミカノブチの臨時設営の病院に運び込む。
10/21:
・セルビア共和国のコソヴォ自治州のアルバニア系住民のコソヴォ議会が、「コソヴォの独立と主権に関する決議」を採択。
・クロアチアのスラヴォニア地方のヴコヴァルとアドリア海沿岸のドブロヴニクでは、依然として戦闘が続く。
10/22:
・ボスニアのロマニャ地方のセルビア人住民は、「ロマニャ・セルビア人自治区」の設立を宣言する。
・カディエヴィチ・ユーゴ連邦国防相は、連邦幹部会で連邦残留を望む共和国の全土での軍の緊急動員を要求。
・ユーゴ連邦幹部会は、「セルビア共和国、モンテネグロ共和国、セルビア共和国コソヴォ自治州、ヴォイヴォディナ自治州、クロアチア共和国内のセルビア人居住地域、ボスニア共和国内のセルビア人居住地域など、『ユーゴ連邦残留を希望する自治共同体は特別の地位を持つ特別連邦単位』とする『国家共同体』に再編する、という新しい形のユーゴスラヴィアを作る『基本綱領』」を採択する。要項は、「ユーゴ連邦残留を希望する自治共同体は、特別の地位を持つ特別連邦単位となる」と記述。
・カディエヴィチ連邦国防相は連邦幹部会で、連邦人民軍に残ろうとする共和国や地域の軍隊に再編し、軍として必要な措置を取るために、共和国や地域でさらに兵役義務者の動員強化を進めるよう提案し、幹部会はこれを承認。
10/23:
・ユーゴ連邦幹部会は、新しいユーゴスラヴィアをつくる「基本綱領」をECユーゴ和平会議に送付。さらに、連邦幹部会はセルビア共和国やクロアチア共和国およびボスニア共和国のセルビア人代表を招集して会合を開く。40人のセルビア人地域代表は「基本綱領」を原則として評価すると表明。
・アルバニア国営通信によると、アルバニア議会はセルビア共和国コソヴォ自治州が独立宣言したことに伴い、「コソヴォ共和国」を国家承認する決議を採択。
10/24:
・セルビア共和国幹部会は、「1,ECの新和平提案を討議する時間的余裕がない。2,クロアチア共和国側が連邦人民軍基地への封鎖を完全解除していない」などの理由を挙げ、ハーグで25日に開かれるECユーゴ和平会議への不参加を決める。
・ECユーゴ停戦監視団スポークスマンは、「クロアチアのドブロヴニクでユーゴ連邦人民軍が砲撃を続け、旧市街周辺が被弾している」と述べ、停戦合意が効果なかったと認める。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人住民は、「ボスニア・セルビア民族議会」を設立する。
10/25:
・ECのユーゴ和平会議がハーグで開かれ、キャリントン議長はユーゴスラヴィアの将来形態を定める議定書の第2次草案を提示する。議定書は、18日に提示した内容の中で少数民族に関する項目を補強したもので、「少数派住民の人権保護規定を明確化する。少数派住民が住み、特別な地位を与えられた地域を『恒久的な非武装化をする』」という内容。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は第2次草案について、「ユーゴ連邦の完全解体につながる」として反対の姿勢を示す。
・セルビア共和国議会は和平会議の議定書について、「ユーゴスラヴィアの統一性が失われる」として拒否することを決める。
・モンテネグロ共和国はECの和平提案の支持を決め、ユーゴ連邦人民軍からのモンテネグロ兵の一部引き上げを要求。
・スロヴェニア共和国のクチャン大統領は、「いかなる連合にも加わらない」と和平議定書を拒否する。今後、ユーゴ連邦との財産分与以外の関係は断つ、と述べる。
・ユーゴ連邦人民軍のミグ21戦闘機1機がオーストリア南部のクラーゲンフルトの空港に着陸し、パイロットが亡命を求める。
・ECユーゴ停戦監視団の仲介で、トゥジマン・クロアチア大統領がユーゴ連邦人民軍兵舎の封鎖解除を約束したことで、ドブロヴニクの連邦人民軍とクロアチア共和国軍の間で停戦が成立する。
・ユーゴ連邦人民軍のスロヴェニア共和国駐屯部隊の200人が、アドリア海のコペル港からモンテネグロに向けて出港。スロヴェニア共和国からの撤退は、すべて完了する。
10/27:
・クロアチア共和国軍とユーゴ連邦人民軍の戦闘は、ヴコヴァル、ビンコヴィチ、ポドラブスカ・スラティナなど各地で激戦が続く。
・ECは、「ユーゴ連邦人民軍とクロアチア軍双方が停戦合意に違反している。しかし、連邦人民軍の違反はクロアチア側以上にひどい」との声明を発表。共和国軍の武装解除を要求する連邦人民軍を非難。またEC監視団は、ドブロヴニク市からの避難を求めるクロアチア人住民5000人とセルビア人住民1000人の船による避難を支援し、同日第1陣として170人を避難させる。
・ユーゴ連邦人民軍は、「クロアチア共和国軍が、ドブロヴニクに向かっているEC停戦監視団を載せた船を攻撃するとともに、同市周辺での攻撃を再開した」との声明を発表。
10/28:
・ECは外相会議を開き、ユーゴ危機の平和解決について協議。ECが提案している和平案の第2議定書の草案を、来月5日までに受け入れるかどうかの最終的態度を表明することを決める。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、ユーゴスラヴィアの生活水準は対前年比25%減で、65年の水準に落ち込む。ユーゴ連邦の対外債務は163億5000万ドル。共和国別の負担は、セルビア共和国が60億ドル、クロアチア共和国が38億ドルなど。クロアチアの観光客は80%減で、50億ドルの収入を見込んでいたものの4億ドルに落ち込む見込み。企業倒産が相次ぎ失業率は40%に及ぶ。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのボスニア地方のセルビア人住民は、「北東ボスニア・セルビア人自治区」の設立を宣言。
10/29:
・セルビア共和国のコスティッチ副首相は、「欧州共同体・ECの行動は、公正さと合法性に基づいていない」と述べる。
10/30:
・国連安保理は非公式協議を開き、ユーゴ情勢について検討。安保理議長のガレカーン・インド国連大使は、「安保理は、ユーゴスラヴィアの悲劇的な人道上の状況を憂慮している。また、武器禁輸措置が遵守されていないことを懸念し、対応策について協議している。安保理は欧州共同体による和平努力を強く支持し、今後も協力を続ける」と述べる。
10/31:
・ヴコヴァルのクロアチア共和国軍に、連邦人民軍とセルビア人武装勢力が激しい砲撃を加える。さらに、ヴコヴァル南30キロのヌスタル村にも砲弾を撃ち込む。
・ユーゴ連邦人民海軍は、ドブロヴニクに救援物資を運び込むクロアチア共和国の船団を臨検したが解放し、物資はドブロヴニク港で荷揚げされる。
・クロアチア共和国内の少数派であるセルビア人の「クライナ・セルビア人自治区」のバヴィチ代表と、「スラヴォニア・バラニャ・西スレム自治区」のハジッチ代表が共同記者会見を行なう。会見要旨;「1,セルビア共和国首脳からECの和平案を受け入れるよう圧力が加えられた。2,クロアチアの独立を前提とした和平案は受け入れられない。3,クロアチア国家に生きるよりは、死か、ヨーロッパへの移住を選ぶ。4,セルビア共和国首脳がEC案を受け入れるよう圧力をかけたことに落胆した。5,しかし、我々とセルビア政府との関係はまだ凍結されていない」。
・ECは、ユーゴスラヴィアの6共和国全てがECの包括和平案を受け入れなかった場合に実施する、対ユーゴスラヴィア経済制裁案をまとめる。
制裁案;「1,ECが1980年に締結した貿易・経済協力協定の破棄。2,東欧支援24ヵ国会議の枠内での援助の中止。3,対EC市場アクセス優遇措置の停止。4,繊維協定の破棄」などが含まれる。
10/00:
・コソヴォ自治州の秘密政府の首相に、コソヴォ民主同盟のブヤル・ブコシが就く。
11/01:
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はEC特使との会談で、最後通告は拒否。「ただし、全ての紛争当事者が同じ原則に立てば、和平会議は成功する」と柔軟な姿勢を示す。しかし、セルビア共和国内には依然包括和平案受け入れに反対する勢力が強く、またクロアチア共和国内のセルビア人勢力も、受け入れに難色を示している。
・デミケリス・イタリア外相は、「セルビアが拒否しても、独立を求める共和国に対し、ECは承認する。和平会議は12月中旬には終わらせたい」と早期決着の方針を明らかにする。
11/02:
・クロアチアのドブロヴニクで、クロアチア共和国軍とユーゴ連邦人民軍との間で激しい砲撃戦が展開される。1500人の避難民を収容しているホテルが連邦人民軍に砲撃され、多数の負傷者が出る。連邦人民軍は共和国軍に対し、ヴコヴァルの連邦人民軍軍兵舎の封鎖解除を要求。
11/03:
・ユーゴ国営タンユグ通信は、クロアチア当局が中部パプク山麓の27のセルビア人の村に対し、村から全員退去するよう命令。同日、1000人以上の村民がバスやトラックでボスニアのセルビア人地域に向かって避難を始め、逃げ遅れたセルビア人が多数虐殺された、と伝える。クロアチア当局によるセルビア住民排除の動きが強まる。
11/04:
・EC外相理事会は、EC委員会から出されたユーゴスラヴィアのセルビア共和国に対する経済制裁案を了承。5日の和平会議を経て、7日に外相会議を開き最終的に経済制裁の発動を決める。
・クロアチアのヴコヴァルで、ユーゴ連邦人民軍のクロアチア共和国軍掃討最終作戦が行なわれる。
11/05:
・セルビア共和国議会は、ECの包括和平案受諾の受け入れを迫られていることに対し、「1,最後通告は拒否する。2,しかし和平会議には参加し、希望する共和国がユーゴ連邦としての共同国家を形成し、ユーゴ連邦国家としての継続性を存続できるよう主張していく」などを決める。
・ECのユーゴ和平会議がハーグで開かれる。会議に参加したセルビアとモンテネグロ両共和国は、「連邦に残留を望む少数民族に新たな『国家』に加わる権利を与える」との修正案を提出。他の4共和国は、現在の共和国国境の見直しにつながるとして修正を拒否したため、合意には至らず。ECキャリントン議長は、「8日までに停戦が実現しないならば、EC外相に和平会議の中断を勧告する」と語る。
・クロアチア共和国軍は、セルビア共和国の西部の都市シードへの攻撃を開始する。さらに、クロアチア共和国軍はセルビア共和国のヴォイヴォディナ自治州のアパティンを砲撃。また、クロアチア共和国軍はノヴァ・グラディシュカ、パクラツ、ノブスカ周辺の連邦人民軍兵営を攻撃。クロアチア共和国軍スポークスマンは、シードを攻撃したとの報道を否定。
・EC和平会議のキャリントン議長は、ミロシェヴィチ・セルビア大統領とトゥジマン・クロアチア大統領から即時無条件停戦と連邦人民軍兵舎の封鎖解除を取り付ける。これにより、一部の兵舎の封鎖が解除された模様。クロアチア共和国の部隊の内部には、かつてのファシスト・グループ・ウスタシャを名乗る過激派が力をつけ、トゥジマン大統領の統制が効かなくなっている実態がある。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのボスニア地方のセルビア人住民は、「北ボスニア・セルビア人自治区」の設立を宣言する。
11/06:
・クロアチアのザグレブにあるユーゴ連邦人民軍第4軍管区は、カルロヴァツと西部デルニッツァの連邦人民軍兵舎、倉庫からの撤収を開始すると発表。ザグレブでは、依然としてクロアチア共和国軍による連邦人民軍兵舎封鎖が続いている。
・コール・ドイツ首相は連邦議会で、「ユーゴ連邦内で独立を宣言したクロアチア共和国とスロヴェニア共和国を、ECが間もなく国家として承認することになるだろう」と語る。また、「ドイツ外務省はスロヴェニアの首都リュブリャナに即刻、領事を派遣する。ドイツは両共和国の独立がいつまでも延び延びにされないよう務めていく」と演説。
11/07:
・NATO首脳会議は、ユーゴスラヴィア情勢について外相間で緊急討議を行なう。草案では、「ユーゴスラヴィア危機に大きな憂慮」を表明し、ECの活動を積極的に支援していくことを確認。
11/08:
・ECはローマで緊急外相会議を開き、EC和平案の受け入れを拒んでいるユーゴ連邦セルビア共和国への経済制裁の原則を決める。
原則の要旨;「1,ユーゴスラヴィアとECとの間の経済協力協定を破棄。①東欧支援24ヵ国の枠組みによるユーゴスラヴィアへの経済支援を中止する。②繊維などのEC市場開放の特別措置を中止する。③同措置はユーゴスラヴィア全体に適用されるが、協力的な当事者には保障措置を取る。2,国連安保理に石油の禁輸措置を決議するよう求める」。さらに、情勢を見極めて外相会議を開いて実施する。また、クロアチア、セルビア両共和国とも停戦合意を守らないため、EC主導の和平会議を中断すると決定。
・カナダのマクドーガル外相は、ECがユーゴスラヴィアに発動を決めたのとほぼ同様の経済制裁を実施する、と述べる。
・ユーゴ連邦人民海軍は、クロアチア共和国が連邦人民軍兵舎の封鎖解除を実行しないため、ドブロヴニクなど6つの主要港の海上封鎖を再開。
・NATOはローマ・サミットを開き、「ローマ宣言」を発して存続を決定する。
11/09:
・ブッシュ米大統領はEC首脳会議後の記者会見で、「ユーゴスラヴィアに対する制裁」を実施する方針を明らかにする。具体的には、セルビア共和国への石油禁輸を国連安保理に共同提案することを表明。
・日本政府は、ECが対ユーゴスラヴィア経済支援の中止に踏み切ったことに同調し、技術支援を停止する方針を決める。またODA・政府開発援助の準備を進めていたものも中断する。
・スイス外務省は、ユーゴ連邦政府との間の自由貿易協定交渉に向けた決定を取り消す、との声明を発表。声明は、ECの停戦に向けた努力を引き続き支持するとしている。
・ユーゴ連邦幹部会は国連安保理に対し、クロアチア共和国に「国連平和維持軍」の派遣を要請。
・ボスニアのセルビア人住民は、ユーゴ連邦への残留支持とボスニアからの分離を求める住民投票を実施する。
11/11:
・EC主体の東欧支援24ヵ国閣僚会議は、ユーゴ連邦への支援を中断すると決める。G24が対ユーゴスラヴィア支援として約束していた総額は38億ECU(6000億円)。
・ECのユーゴ停戦監視団スポークスマンはアドリア海沿岸の港湾都市ドブロヴニクに滞在中の監視団員6人を、戦闘が激化したとの理由で撤収すると発表。
・トゥジマン・クロアチア大統領はドブロヴニクとヴコヴァルに対し、「ECの平和維持軍」を緊急に派遣するよう要請。
11/12:
・赤十字国際委員会・ICRCは、「ICRC仲介の下に、ジュネーブで紛争当事者による緊急会議を開くよう」異例の呼びかけを行なう。
・セルビア共和国のヴォイヴォディナ自治州の3つの町では、「1,現在の戦闘に賛成か。2,市民は戦争に参加すべきか。3,予備役は戦場から戻るべきか」の3項目の反戦を求める住民投票を実施するよう市当局に求める。
・「反戦行動センター」などのベオグラードの市民団体は、セルビア共和国政府に戦争の中止を訴える。
・ユーゴ連邦人民軍はクロアチアのドブロヴニクを包囲し、海上と陸上から砲撃を継続。
11/13:
・EC和平会議のキャリントン議長はユーゴスラヴィアに入り、トゥジマン・クロアチア大統領とミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談し和平案を提示。
和平案の要旨;「1,クロアチアのセルビア人地区を国際的な保護下に置き、国際的な平和維持軍が守る。2,連邦人民軍部隊はクロアチアから撤退する。3,国際的な監視の下でセルビア人は住民投票を行ない、クロアチアから分離するかどうかを決める」との妥協案を示す。
・クロアチアのドブロヴニクで交戦していた連邦人民軍とクロアチア共和国軍の間で、停戦の合意を見る。この停戦で、救援船が港に入り、EC監視団や負傷者や婦女子を避難させる。
11/14:
・EC和平会議のキャリントン議長は、カディエヴィチ連邦国防相と会談し、クロアチア紛争当事者代表3人がクロアチア内部の戦闘の停戦と国連平和維持軍を受け入れることに合意したことを明らかにする。議長は、「未解決の問題はあるが、国連は近く平和維持軍に関する代表団をユーゴスラヴィアに派遣することを検討している」と述べる。
・クロアチアの東部のヴコヴァルでは、キャリントン議長の仲介による停戦が合意したにもかかわらず、連邦人民軍とクロアチア共和国軍との間で激しい市街戦が繰り広げられている。ドナウ川を航行中のソ連貨物船に砲弾が直撃し、船員2人が死亡。
11/15:
・国連安保理は、ユーゴスラヴィアへの平和維持活動・PKOを行なう可能性について非公式協議を開く。
・デクエヤル国連事務総長は、ヴァンス米元国務長官を事務総長特使に任命し、グルーディング国連事務次長とともにクロアチアに送り、情報収集することを安保理に報告。国連平和維持軍を派遣する場合「1,停戦が維持されていること。2,当事者の合意があること。3,安保理の決定があること」などの場合に限るとの原則を提示。
・ユーゴ連邦議会の共和国・自治州院は、スロヴェニア、クロアチア両共和国の連邦議員が欠席した中で、クロアチア出身のマルコヴィチ連邦首相とロンチャル連邦外相に対し、「ユーゴ連邦の解体を阻止するための十分な行動を怠った」として不信任を議決。親セルビア派議員だけが出席して開かれた議会の決議の有効性には疑問があり、またクロアチア人の両閣僚を罷免することでユーゴ連邦解体に拍車をかけるのではないかとの懸念がある。
・EC停戦監視団のヴァンホーテン団長の仲介により、ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国軍および共和国政府代表との間に13回目の停戦合意が成立。しかし、クロアチア共和国の部隊には過激派の権利党のバラガ党首傘下の武装組織が2万の兵力を擁しており、少数派のセルビア人勢力側にも民兵組織があり、この2派が停戦合意交渉に参加していない。従って、公式の停戦合意が守られるという保証はない。
11/17:
・クロアチア共和国情報省のスポークスマンは、「軍事的にヴコヴァルを救出することは不可能となった。市北部のボロヴォ・ナセリエも連邦人民軍の手に落ちた。クロアチア共和国軍は、ヴコヴァル市中心部にある最強の拠点から撤退せざるを得なくなった」と述べる。
・クロアチア共和国のマツァン情報省報道官は、「16,17日にかけ、クロアチア軍はヴコヴァル市内の最強の拠点から撤退を余儀なくされた。我々はとにかく、市民を救出することに全力をあげている」と語る。ヴコヴァル周辺は圧倒的にセルビア人地域が多いが、市内には負傷者が500人、クロアチア人市民1万4000人が閉じこめられている。クロアチア共和国政府は、この負傷者と市民の避難に許可を与えるよう要請。
・ユーゴ連邦軍情報局は、クロアチアとセルビアの国境付近のシードから15キロのクロアチア側部隊の強力な陣地のニエムチ村を連邦人民軍が管理下に置いたと発表。
・ヴァンス国連事務総長特使とグルーディング国連事務次長がベオグラードに入る。1週間の日程でミロシェヴィチ・セルビア大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、カディエヴィチ連邦国防相などと会談し、国連平和維持軍派遣の可能性、停戦合意について当事者の考えをただすことになる。
・ユーゴ連邦マケドニア共和国議会は、「自主・主権国家としてのマケドニアの地位を規定した、新憲法および憲法施行法」を賛成多数で採択。この新憲法では、ユーゴ連邦憲法の規定の内、マケドニア憲法に合致しないものは適用されないと規定。マケドニア政府は、ユーゴ連邦には「主権国家連合」として残り、経済的には市場経済に基礎を置くとの方針を表明。マケドニア共和国内の20%を占めるアルバニア系住民は、マケドニア人による支配に繋がるとして採択に反対し、「西マケドニア自治区」を作る動きを見せる。
11/18:
・クロアチア東部ヴコヴァルのクロアチア人の避難を監視するため、EC監視団がヴコヴァルに到着する。
・クロアチア東部のヴコヴァル攻撃をしている連邦人民軍は、クロアチア共和国軍部隊に投降を命令する。クロアチア軍司令官がこれに応じて1500人のクロアチア兵が投降し、武装解除される。市内に閉じこめられていた市民5000人はEC監視団の見守る中、セルビア人はドナウ川を越えてセルビア共和国へ移動し、クロアチア人は付近のクロアチア住民が住む町や村にバスで避難を始める。
・クロアチア共和国の共和国最高国家評議会は、「ユーゴスラヴィアは最早存在しない。スロヴェニア共和国が連邦幹部会に代表を送っていない以上、クロアチアとしても連邦機関に代表を送る必要はない」としてメシッチ幹部会議長の引き揚げを決定する。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのクロアチア人は、「ボサンスカ・ポサビナ・クロアチア人自治区」、および「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア人共同体」を設立する。
・ヴァンス国連事務総長ユーゴ問題特使は、ミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。会談後ヴァンス特使は、「有益な会談であり、前進が見られた」と語る。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はヴァンス特使との会談後、「平和維持軍の派遣は良い考えだ。問題はクロアチア内のセルビア人を攻撃しているクロアチアが、認めることだ」と語る。
・欧州同盟・WEU加盟9ヵ国の特別閣僚会議がボンで開かれ、ユーゴスラヴィアからの難民救出や救援物資の運搬に当たる船に護衛艦をつけることで合意し、英、仏、伊の3国がフリゲート艦を派遣する方針を表明。
11/19:
・ユーゴ国営のタンユグ通信によると、ヴコヴァルのクロアチア共和国軍兵士は全員降服する。
・クロアチアのゴスピッチで、ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国軍が激しい戦闘を再開。
・クロアチアのドブロヴニクで行なわれていた、連邦人民軍とクロアチア共和国軍の停戦交渉が合意に達する。合意は、クロアチア軍が12月初旬までに市街から撤退するとともに、連邦人民軍も港の封鎖を解除する、などとする内容。
・ドブロヴニクから避難した女性、老人、子どもなど782人がイタリア南部のブリンディジ港に到着。
・ドール米共和党上院院内総務は、ベーカー米国務長官がユーゴ連邦クロアチアへの食料空輸を承認したと発表。
・ロンチャル・ユーゴ連邦外相は、連邦議会の共和国・自治州院の不信任を受けて辞任を表明。
11/20:
・フランスの食料や医薬品を積んだ救援船が、クロアチアのドブロヴニク港に入港する。
・英ロイター通信とベオグラード・テレビは、ヴコヴァル近くのボロヴォ・ナセリア小学校の地下室で、5歳から7歳までの子ども41人の虐殺死体が見つかった、と報じる。ユーゴ連邦人民軍は、この小学校がクロアチア共和国の拠点だったことから、クロアチア兵による虐殺と非難。
・ユーゴ連邦人民軍兵士がニューヨークタイムズ紙の記者に、クロアチア兵は撤退の際に無差別にセルビア系住民を射殺したので、連邦人民軍のセルビア兵も報復としてクロアチア系住民80人を射殺した、と語る。
・朝日新聞のルポによると、人口8万4000人のヴコヴァル市には、3万2000人のセルビア系住民が居住していたが、街は原形を留めている家屋が一つも見当たらないほどに完膚無きまでに破壊されている、という。
・クロアチア共和国政府のサライ情報相は小学校の虐殺死体について、「セルビアの宣伝」だとしてECによる調査を呼びかける。
・ユーゴ連邦マケドニア共和国議会は、「連邦からの完全独立宣言」を採択する。
11/21:
・ユーゴ連邦人民軍は、クロアチアのオシエクを3方面から包囲して攻撃。
・ユーゴスラヴィアのフリーカメラマンは、20日のボロヴォ・ナセリア小学校における虐殺の報道について、「遺体は目撃しておらず、その状況もユーゴ連邦人民軍兵士に聞いたものだった」と否定する。ロイター通信は、虐殺の記事を撤回する。
11/23:
・ヴァンス国連事務総長特使は、EC和平会議のキャリントン議長および紛争当事者の最高首脳などと、国連平和維持軍を紛争地域へ派遣する構想について協議する。
・クロアチアのオシエクではユーゴ連邦人民軍の攻勢が続く。一方、スプリト、シベニク、ディブリエの3ヵ所では、クロアチア共和国政府とユーゴ連邦人民軍との間の交渉で、クロアチア共和国軍が連邦人民軍兵舎の封鎖解除をすること、連邦人民軍が撤退することで合意する。
・ヴァンス国連事務総長特使はクロアチア紛争当事者の最高レベルでの協議で、「1,24日に無条件停戦に入る。2,国連保護軍の現地派遣についてさらに交渉を進める」ことで合意が成立した、との声明を発表。合意事項;「①クロアチア共和国は、クロアチア内のユーゴ連邦人民軍兵舎および施設への封鎖を直ちに解除する。②ユーゴ連邦人民軍はクロアチア内の閉鎖の対象となっている兵舎や施設からの兵員の撤退と、武器、軍事的装備の撤退を直ちに開始し、当事者間で既に合意したスケジュールに基づいて完了する。③署名当事者は直ちに、その指揮下あるいは管理下にあり、また政治的影響力を行使している全ての部隊に対して、11月24日から無条件で遵守するよう命令する。民兵や非正規軍部隊にもこれを遵守させる。④署名当事者は、最近の戦闘で被害を受けた人々への人道的支援物資の引き渡しを進める」など。
・国連平和維持軍の派遣についてユーゴ連邦人民軍側は、「クロアチア人とセルビア人居住区の境界に維持軍を展開させるよう」主張。 クロアチア共和国側は、現在の共和国国境に維持軍を展開させることを要求。
・ベオグラード・テレビは、ヴコヴァルでの連邦人民軍と共和国軍との3ヵ月間の戦闘で5000人の死者が出たと見られる、と報じる。
11/24:
・クロアチアのザグレブの連邦人民軍はプレソ空港からの撤収を行ない、77両の車輌と200人の兵士が撤収を完了。
・クロアチア内の戦闘は、人口15万のオシエクやカルロヴァツで引き続き行なわれている以外は停戦が守られ、全般的に平穏な状態となる。
・トゥジマン・クロアチア大統領はテレビで、「戦闘は最終段階の劇的な規模になった。ユーゴ連邦人民軍は、国連平和維持軍が到着する前にできるだけ多くの領土を獲得しようとするだろう。クロアチア国民は自分の村を捨てないよう訴える」と演説。
11/25:
・ヴァンス国連事務総長特使の仲介で合意した停戦合意は、オシエク地方での散発的な砲撃が見られるものの、概ね守られている模様。オシエクでの戦闘によるクロアチア人の避難民5000人が、ハンガリー国境を越える。ハンガリー政府は、収容施設の運営費や避難民への援助金の急増で、国連難民高等弁務官事務所などを通じて国際的な支援体制の確立を要請。
・クロアチア共和国軍とユーゴ連邦自民軍との捕虜交換が始められる。連邦人民軍側が収容している3300人とクロアチア共和国軍側が収容している2100人の交換は、これから協議が行なわれることになる。
11/26:
・バチカン市国国務省のソダノ枢機卿は、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、ベルギー、オーストリアの各大使を招き、スロヴェニア共和国とクロアチア共和国を1ヵ月以内に、独立国家として承認するよう要請する。
・ユーゴ連邦政府のマルコヴィチ連邦首相は、国連の平和維持活動・PKOの展開を公式に要請する。
11/27:
・国連安保理は公式協議を開き、ユーゴスラヴィア紛争に関して国連平和維持活動を含めた適切な措置を早期に勧告するよう、事務総長に促す決議721を、全会一致で採択。
・クロアチアのオシエクでは戦闘が続き、クロアチア共和国軍はザグレブの連邦軍人民兵舎の封鎖解除を中断。
・ニューヨーク・タイムズ紙は、ユーゴスラヴィアへの国連平和維持軍の派遣規模は1万人程度、と報じる。
11/28:
・デクエヤル国連事務総長は、「ユーゴ連邦への国連平和維持活動について安保理に勧告したい」と述べ、「国連軍の構成、展開地点など技術的な問題を調整するために国連職員がユーゴスラヴィア入りしている。4,5日で勧告できることを望む」と述べる。
・英外務省筋はスロヴェニアとクロアチア両共和国の独立について、「クリスマスまでに承認するだろう」と語る。さらに、EC加盟国で承認について大きな意見の相違はない、と指摘。
・コール独首相とアンドレオッチ伊首相が会談し、スロヴェニアとクロアチア両共和国の独立承認について、「クリスマスまでには決定しなければならない」ことで一致。「出来る限り、多くのEC加盟国が同調することを望んでいる」と語る。
・EC議長国のオランダは、「承認は可能だが、少数民族の問題などを含む包括的な政治解決の枠組みの中においてである」と国連平和維持軍の展開が現実味を帯びている中での独立承認は混乱を招きかねないとして、慎重な姿勢を示す。
・トゥジマン・クロアチア大統領はテレビを通じ、国連保護軍の展開地区について従来固執していた共和国国境ではなく、「国連保護軍の戦闘地域内展開を受け入れることに合意する」と明言。
11/29:
・クロアチアのザグレブのロケット基地から連邦人民軍の135両の車輌が出発して撤収を完了し、クロアチア共和国軍が基地を接収する。また、ザグレブにある最大の 「チトー元帥兵舎」 からの連邦人民軍の戦車、装甲車など200輌の撤収も始まり、カルロバツ経由でボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国へ向かう。この日はオシエクでの戦闘も伝えられず。
・CSCEの緊急対応会議をプラハで開き、ユーゴスラヴィアへの平和維持軍に関する国連決議を支持し、独自に人権調査団を派遣することを決める。スロヴェニア共和国とクロアチア共和国の独立承認問題は、取り上げられず。
11/30:
・トゥジマン・クロアチア大統領は警察組織に対し、非合法の民兵組織を一掃するよう命令。これまでクロアチア人の民兵組織が共和国の指示に従わず、独自の行動を示したことで停戦合意が守られなかったケースが多発した。クロアチア権利党は1万から2万の武装組織を持っており、略奪や虐殺行為を行なった。権利党のバラガ党首は、現在国家反逆罪の容疑で逮捕勾留されている。
11/00:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ユーゴスラヴィアで救援活動を開始する。
12/01:
・ヴァンス国連事務総長特使はベオグラード入りし、国連平和維持軍派遣のために、連邦人民軍、セルビア共和国首脳らと最終的な調整を行なう。既に平和維持軍への参加を表明している国は、スペイン、ノルウェー、ベルギー、イタリア、ギリシャ。
・ゲンシャー独外相は、クロアチア、スロヴェニア両共和国の独立承認を、EC首脳会議終了直後の10日にも行なう意向を明らかにし、両共和国が孤立した民族政策に陥らぬようECへの準加盟を後押ししたいと述べる。さらに同外相はヘッセン放送との会見で、ユーゴ連邦人民軍の指導者をイラク大統領になぞらえながら、「欧州の真ん中で領土征服の戦争をしている」と非難。
12/02:
・EC外相会議はユーゴスラヴィア問題を討議し、セルビア共和国とモンテネグロ共和国を除く、4共和国について実質的に「経済制裁」を解除することで合意。また、国連保護軍派遣の決定を見て、ECとしてのユーゴ和平会議を早急に再開し、将来のユーゴスラヴィアの国家形態について話し合いを再開する方針を決める。
・ヴァンス国連特使は、セルビアのベオグラードでミロシェヴィチ・セルビア大統領とカディエヴィチ連邦国防相と会談し、「未だに停戦が守られていないのは残念だ。出来るだけ早く完全な停戦を実現して欲しい。それでなければ、平和維持軍は派遣出来ない」と語る。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「セルビアは紛争の政治的解決を望んでいる」と、クロアチアのトゥジマン大統領と直接交渉する用意があることを明らかにする。
・クロアチアのザグレブ駐留の連邦人民軍の撤退は続けられており、軍港都市スプリトでは連邦人民軍とクロアチア政府との間で撤退に関する交渉が再開される。
12/03:
・ヴァンス国連特使はクロアチアのオシエクなどを視察し、連邦人民軍の指揮官、クロアチア政府代表、負傷者などと話を交わす。
・ECは外相会議を開き、ユーゴ和平会議を9日に再開することを決める。
12/04:
・ドイツ政府は、ユーゴ連邦との2国間交通・運輸協定を停止し、ユーゴ航空のドイツへの乗り入れを禁止する。
・クロアチア共和国議会は、共和国内のセルビア人など少数民族の自治権を保障する憲法施行法案を、全会一致で採択する。
註;クロアチアにはセルビア人が12%居住するが、政府や自治体の重要ポストにはつけないなどの差別を受ける。さらに、独立宣言後には、クロアチア警察から排除されるとともに、クロアチア系企業からも解雇される労働者が続発した。
12/05:
・メシッチ・ユーゴ連邦大統領(幹部会議長)は、クロアチア議会の決定を受けて辞任し、クロアチアに引き揚げる。
12/06:
・米政府は、ユーゴスラヴィア連邦の6共和国全体に経済制裁を科すと発表。制裁の内容は、「発展途上国に適用される優遇関税適用を廃止する」とするもの。
・ユーゴ連邦人民軍がドブロヴニク市街に向けて砲撃し、市民2人が死亡と報じられる。
・ヴァンス国連特使はユーゴ連邦人民軍を非難し、カディエヴィチ連邦国防相に抗議の手紙を出す。
・タトワイラー米国務省報道官は、ユーゴ連邦人民軍のクロアチア市民に対する新たな攻撃を停戦協定違反とし、セルビア、モンテネグロ両共和国と連邦人民軍を「平和解決への最大の障害」として厳しく非難する。
・ユーゴ連邦人民軍の海軍中将がクロアチア当局に、今回の攻撃は同中将もカディエヴィチ国防相も命令したものではなく、「心から遺憾の意」を表するとともに、攻撃に責任のあるものを割り出すための調査を命じた、とのメッセージを送る。
・ユーゴ連邦人民軍は、ドブロヴニクの事件は、「クロアチア共和国軍とクロアチアの不正規軍の内部争い」だとしている。オシエクの戦闘については、「クロアチア側の挑発によるもの」との見方を示す。
・クロアチア共和国当局者は、連邦人民軍から遺憾の意を表するメッセージを受け取ったことを明らかにする。
12/08:
・ヴァンス国連特使はミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談した後の記者会見で、「最終的な合意は達成できなかったが、いろいろな障害があったものの、一定の前進を達成した」、と評価する。この後、ヴァンス特使はニューヨークに帰任する。
・クロアチア共和国のオシエクでは戦闘が続いているが、ドブロヴニクでは停戦協定は守られている。
・ロシア、ウクライナ、ベラルーシの3国首脳がミンスクで会議を開き、独立国家共同体・CISの設立協定に調印する。
12/09:
・ECユーゴ和平会議が開かれる。「クロアチア、スロヴェニア両共和国の独立承認、武力による国境不変更、少数民族の権利保護」などを中心に、和平の前提となる「ユーゴスラヴィアの解体」に関する6共和国の共通認識を探るのが狙い。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、「和平会議の継続が解決の道に繋がる。ユーゴ連邦の解体や共和国単位での独立には反対する」意向を表明。
・ユーゴ連邦人民海軍は、アドリア海のドブロヴニクに対する海上封鎖を解除する。またザグレブ郊外のプレソ空軍基地、アドリア海沿岸の都市リエカにある兵舎からの連邦人民軍の撤収が完了。
・赤十字国際委員会は、ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国側との間で計1600人の捕虜を釈放する、との合意をまとめる。
12/10:
・ドイツはセルビアとモンテネグロ両共和国に対する独自の制裁として、航空、陸送など双方の交通を大幅に規制する。
12/15:
・国連安保理は、ユーゴスラヴィアへの国連保護軍を派遣する準備段階として、軍事委員会を含む初の国連使節団をユーゴスラヴィアへ派遣する決議724を、全会一致で採択。使節団は、団長のハーバート・オクム米元国連大使および将校10人を含む21人からなり、18日にも現地入りする予定。決議には、ユーゴスラヴィアに対する武器禁輸を強化するために、安保理の下に監視委員会を設置することも含まれる。
12/16:
・ECは外相理事会をブリュッセルで開き、ユーゴ連邦のクロアチア共和国およびスロヴェニア共和国の独立承認問題について協議。ドイツは早期承認を主張したが、英・仏・オランダなどは慎重姿勢を崩さず。フランスは新規独立国の承認の基準、「1,CSCEの精神に沿い、国家主権、民族主義を尊重する。2,国境の変更は平和的手段で行なう。3,少数民族の権利を尊重する。4,共和国間の相互協定などにより従来の国家体制の存続を図る」との4項目からなる提案を行なう。
・アイスランドのハンニバルソン外相は、ユーゴ連邦のクロアチアおよびスロヴェニア両共和国の独立をを今週中にも承認することになるだろう、と語る。
12/17:
・ECの外相理事会は、ユーゴ連邦の各共和国の独立問題で合意。「スロヴェニア、クロアチア両共和国などの承認はとりあえず来月15日まで先送りするが、ユーゴ和平会議のEC提案受け入れなどの条件を設定し、全条件を満たしている共和国は原則的に独立を承認する」との方針を示す。
スロヴェニア共和国およびクロアチア共和国の独立承認のガイドライン;「1,国連憲章とヘルシンキ最終議定書、パリ憲章、特に法の支配、民主主義、人権に関する条項の尊重。2,CSCEの枠組みに一致した民族・国民的少数派の権利の保障。3,平和的手段と共通の合意によってのみ国境を変更しうるという全国境の不可侵性の尊重。4,安全保障、地域的安定性、軍縮、核不拡散に関する取り組みの受容。5,国家の継承と地域的論争に係わるあらゆる問題に関する合意による解決への取り組み」などを指針とする。EC和平会議継続への協力、国連の和平努力への支持、ユーゴ和平についてのEC提案の受け入れ」などを前提条件に、「23日までにユーゴ連邦各共和国からECの独立承認を希望するかどうかの『申請』を受け付け、EC各国判事からなるユーゴ和平会議の『仲裁委員会・バダンテール委員会』で、どの共和国が条件を満たしているかを審査し、その結論をもとに来月15日にこれらの条件を満たしている国についてECとして独立承認の結論を出す」という内容。
・コール・ドイツ首相はキリスト民主同盟の集会での演説で、「ドイツは予定通り19日にクロアチアとスロヴェニア両共和国の独立を承認する」と表明。
・英タイムズ紙は、ドイツの両共和国の早期承認の意向表明について、「自国の利益をECに優先させるものであり、現時点での承認はクロアチアに、世界が武器と金を供給してくれるという幻想を抱かせるだけで、何の助けにもならない」と批判。
・仏リベラシオン紙は、「ゲンシャー独外相のブリュッセルの会議の孤立ぶりは、EC年代記中でも極めて異例のこと」とドイツの独走を戒める記事を掲載。
・伊レプブリカ紙は、「ドイツははじめから自国の国内事情を優先させる底意があったようだ。慎重だったはずのドイツの突然の性急さは、ユーゴスラヴィア危機を契機にまたぞろドイツ問題が出てきたのだろうか。だとすると、欧州の暗い歴史の典型が再生したことになる」と批判。
・アブラモフ・ベオグラード大教授は、「ECの決定は、ユーゴスラヴィアの解体を目指した驚くべきものであり、国連創設者の一員であるユーゴスラヴィアに対する重大な国際法違反行為である」と批判。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、クロアチアで活動を開始し、救援物資をザグレブとベオグラードに搬送。ホセ・マリア・メンデルーチェ特使が、現地の人道活動の指揮を執る。
・クロアチアのトゥジマン大統領は、EC和平会議のキャリントン議長との会談後の帰途、クロアチア領内でメシッチ・ユーゴ連邦前幹部会議長を大統領に担ごうとした将校団に手榴弾と小火器などの襲撃を受ける。しかし、装甲のため暗殺を免れる。
12/19:
・ユーゴ連邦政府は、ドイツに対し航空機や自動車、船舶などの交通を20日から遮断することを表明。
・クロアチアのセルビア人住民は、「クライナ・セルビア自治区」と「スラヴォニア・バラニャ・西スレム・セルビア人自治区」を統合し、「クライナ・セルビア人共和国」の創設を一方的に宣言。
12/20:
・ユーゴ連邦ボスニア共和国幹部会は、独立承認申請をECに出すことを決める。集団指導性の幹部会ではセルビア人代表が反対。セルビア人住民は、21日に対応を決定する予定。
註:ユーゴ和平会議の仲裁委員会・バダンテール委員会で、「東欧とソ連の新国家承認に関する指針についての宣言」を発表。独立を求める共和国は12月23日までに承認の要請を提出しなければなならないとし、1月15日までに提言をまとめるとする。この時点で独立承認申請をしたのは、クロアチア、スロヴェニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニア。
・マルコヴィチ・ユーゴ連邦首相は、ユーゴ連邦議会議長に辞表を提出。議会での辞任演説は、「来年度の連邦予算の80%が内戦の軍事予算に割かれ、歳入の殆どが通貨の発行増によって賄われるている。戦争継続を前提としている以上、辞任以外に道はなくなった」と述べる。
12/23:
・スロヴェニア共和国の新憲法が発効する。
・ドイツ政府は、クロアチア共和国とスロヴェニア共和国に対し、国家承認を正式に伝達する。
註;クロアチア共和国は、ドイツの国家承認に感謝の意を表すために、「ダンケ・ドイッチェラント」という歌を作って応える。
・ECに独立承認を申請している共和国と自治州は、「スロヴェニア、クロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの4共和国およびクロアチアのクライナ・スラヴォニア地方の『クライナ・セルビア人共和国』とセルビア共和国の『コソヴォ自治州』のアルバニア系住民」。
・セルビア共和国とモンテネグロ共和国は、ユーゴ連邦の維持を求める。
・ECは、ボスニアにおけるセルビア人、ムスリム人、クロアチア人の対立が内戦に転化する恐れが強まったとの判断を表明。
12/24:
クロアチア共和国で、通貨をディナールから「クーナ」に交換し始める。
註;「クーナ」は第2次大戦中にクロアチアに成立したナチス・ドイツの傀儡の「ウスタシャ」政権が発行した通貨。紙幣はスウェーデンで印刷された。
12/26:
・ソ連最高会議、ソ連の消滅を宣言する。
12/31:
・ヴァンス国連特使はベオグラード入りし、1週間の予定で各共和国首脳とユーゴ和平の平和解決について会談する。
91/00/:
・クロアチア共和国政府は、米PR会社ルーダー・フィン社と契約する。
・91年のユーゴ連邦の工業成長率は、マイナス21%、国内総生産・GDPはマイナス15%に低下。
01/01:
・ヴァンス国連特使はザグレブでトゥジマン・クロアチア共和国大統領との会談後、「セルビア、クロアチアの双方が我々の提案を完全に受け入れた。これまでにない前進である」と表明。
ヴァンス提案骨子;「1,クロアチア内の主要戦闘地域である、東スラヴォニア、西スラヴォニア、クライナの3地区に国連保護地域・UNPAを設定する。2,国連平和維持軍がこれらの3地域の完全非軍事地域化を確実なものにし、地元警官の公平な活動を監視する。3,ユーゴ連邦人民軍、クロアチア共和国軍およびその他の武装グループはこれらの地域から撤退ないし武装解除する」との内容。
・デクエヤル国連事務総長が辞任し、第6代国連事務総長にブトロス・ブトロス・ガリ・エジプト前副首相が就任する。
01/02:
・ヴァンス国連特使の仲介で、ユーゴ連邦人民軍のラセタ第4軍管区司令官とクロアチア共和国軍のシュシャク国防相が15回目の停戦についてサラエヴォで協議し、3日をもって完全停戦することで合意。「攻撃に対し、即時反撃を禁じる」という条項を含んだ停戦合意書に両当事者が署名。合意内容;「11月のジュネーブでの停戦合意を確認;1,完全即時無条件停戦。2,双方の部隊司令官は直接の連絡を取り合い、地域的な事件を解決するための共同の連絡チームを作り、第三者の監視団と完全に協力する。3,一方が攻撃された場合、監視団に連絡せずに応戦してはいけない。4,部隊の交替や移動は相手方に連絡する」など。
・クロアチアのパクラッツ市周辺では戦闘が継続。アドリア海に面したザダル市でも戦闘で市民3人が死亡する。
01/03:
・ヴァンス国連特使の仲介で、ユーゴ連邦人民軍とクロアチア共和国軍の間で結ばれた停戦合意が発効する。
・ユーゴ連邦の継続を主張する政党、団体、個人の代表がベオグラードで、「ユーゴスラヴィア会議」を開く。会議では市民的な発想からユーゴスラヴィアを「民主的な連邦国家共同体」とすることを目指すとし、合意文書にセルビア社会党、モンテネグロの社会党、民主党、ボスニアのセルビア民主党、クロアチアのクライナ自治共和国など104団体が調印。
調印文書;「1,国際法上の主権国家であるユーゴスラヴィアの領土は単一で、国境は連邦人民軍が守る。2,ユーゴスラヴィアから分離を決めなかった民族および共和国は、新しい国境の範囲でのユーゴスラヴィアの継続を支持する。3,新ユーゴスラヴィア連邦を民主的な連邦国家共同体とする。4,連邦議会は、独立主権国家との間の領土確定と連邦資産分配の基準を定める」というもの。
・ユーゴ連邦人民軍は、「停戦が発効した後、クロアチア共和国軍がノブスカからパクラッツに至る戦線の各地で攻撃を強化し、ザダル市近くのゼムニック空港をロケット弾で攻撃した」と非難する。
・クロアチア共和国側は、「概ね砲声は止んだ」と発表。
01/04:
・クロアチア共和国内の停戦協定は、概ね遵守される。
01/06:
・ガリ国連事務総長は、平和維持軍の先導隊として国連軍事監視団50人を派遣すると発表。
01/07:
・ECユーゴ停戦監視団のヘリコプター2機がザグレブの北東50キロのノビマロフ付近を飛行中、ミサイル攻撃を受け1機が撃墜され、監視団員5人が死亡する。
・クロアチア内務省は、ユーゴ連邦人民軍機がミサイル攻撃した、との声明を出す。
・ユーゴ連邦人民軍は、沈黙。
・国連安保理は公式協議を開き、ヘリコプターを連邦人民軍機が撃墜したことを非難する議長声明を発表。議長声明は、「犠牲者を悼むと共に、ユーゴ連邦当局に対し、関係者を処分し、再発防止のための措置を取るよう求める」という内容。
・EC委員会は「驚きかつ失望している」 とし、事件の経緯を緊急に調査して責任を明確にするため、作業グループの設置を監視団長に指示する、との声明を発表。
・イタリア政府は、EC監視団のヘリコプター撃墜事件でイタリア軍人4人が死亡したことを受け、「悲劇的で許せないもの」との声明を発表し、駐ユーゴ大使を召還する。
01/08:
・クロアチア共和国に駐留するEC停戦監視団は、「事件の状況がはっきりするまで、停戦監視活動を中止する」と発表。
・EC当局者は、ヘリコプター撃墜事件にかかわらずユーゴ和平会議を予定通り9日にブリュッセルで開くと表明。
・イタリア運輸省は、ユーゴスラヴィアとの航空便の運行を全て中止する、と発表。
・国連安保理は、ユーゴ連邦クロアチア紛争地域に国連軍事監視団50人を派遣する決議727を、全会一致で採択。同決議は、ユーゴスラヴィア内戦の両当事者に対し停戦合意を守るよう呼びかける。
・ユーゴ連邦のカディエヴィチ連邦国防相が辞任し、アジッチ連邦人民軍参謀総長が国防相を兼任する。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、クロアチア共和国内のセルビア人自治組織「クライナ・セルビア人共和国」のバヴィチ代表が、国連PKO派遣だけでなく、民兵組織の武装解除に反対を表明していることに対し、公開書簡で「無責任だ」と非難。さらに、「クライナのセルビア人市民は、あなたへの信頼を失ったということを知るべきだ」と絶縁を示唆。
01/09:
・ECのユーゴ和平会議が、ブリュッセルで開かれる。
・ユーゴ連邦ボスニア共和国のクロアチア人勢力は、「中部ボスニア・クロアチア人共和国共同体」を設立する。
・ユーゴ連邦ボスニア共和国のセルビア人勢力は領域設定に踏み切り、自治区を合同してユーゴ連邦国家の構成単位としての、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・セルビア人共和国(スルプスカ共和国)」の創設を宣言する。
01/10:
・ECの外相会議は、一両日中にユーゴ和平会議の仲裁委員会が、ユーゴ連邦の各共和国の独立申請についての報告書を提出することを受けて協議することにし、各国ができるだけ共同歩調を取ることを確認。なお、ドイツが積極的に独立承認を主張しているのに対し、英国は混乱を助長する恐れがあるとして慎重姿勢を見せる。
・ECのユーゴ連邦クロアチア共和国監視団は、活動を再開。活動は、当面地上だけに限り、ヘリコプターは使用しない。
・ユーゴ連邦国防省調査委員会は、EC停戦監視団ヘリコプター撃墜事件に関する報告書をまとめ、「事件は連邦人民軍空軍機の過ち、ミスによって起きたと結論付け、幹部5人の責任を追及する」と発表。報告書は、ECが無許可飛行だったとし、なぜミサイルを発射したかについては記載せず。
・ユーゴ連邦幹部会から、マケドニア選出のツプルコフスキ幹部会員が辞任。定員8人の幹部会員は、5人となる。
・ボスニアのビハチのセルビア人住民は、「ビハチ・セルビア人自治区」の設立を宣言する。
01/11:
・クロアチアのセルビア人自治組織「クライナ・セルビア人共和国」のバヴィチ代表はミロシェヴィチ・セルビア大統領に書簡を送り、「PKO派遣案では自分たちの安全が保障されない」と訴える。
01/12:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア共和国大統領は、ユーゴスラヴィアの将来について「旧ソ連のように6つの独立国家が共同体をつくる」との構想を表明。「各国は完全同盟を結び、域内はパスポートなしで往来できるようにし、中央政府は持たず、独自通貨を発行し、将来は共通通貨とする」という内容。
・クロアチアのバラニャ地方で、クロアチア共和国軍がセルビア人郷土防衛隊を攻撃し、セルビア人郷土防衛隊員2人が死亡し、3人が負傷する。郷土防衛隊側も反撃し、クロアチア共和国軍側にも3人の死者が出る。
01/13:
・バチカン市国は、クロアチア共和国とスロヴェニア共和国の両政府に対し独立を承認するとの書簡を送る。また、ユーゴ連邦政府にも書簡の内容を伝えるとともに、ユーゴ連邦に敵対する行動ではない、と表明。バチカン市国はこれまでにもカトリック信者の多いクロアチア支持を表明してきている。
・クロアチアのセルビア人勢力は、クロアチア・カトリック教会がナチス・ドイツの虐殺に加担してきたこともあり、態度を硬化する。
・クロアチアのザグレブ・ラジオが、オシエク近くでクロアチア共和国軍の状況を視察していたEC停戦監視団メンバーが、セルビア側から狙撃された、と報じる。怪我人はなし。
01/14:
・国連保護軍・UNPROFORの先遣隊の軍事監視団20人が、ベオグラード入りする。15日にはザグレブに25人、16日にはベオグラードに13人の第2陣が入る予定。
・ECユーゴ和平会議バダンテール仲裁委員会は、「クロアチア共和国は少数民族の権利保護で、ECの定めた承認基準から見て問題がある」との報告書を提出。
デンマークのイェンセン外相は、15日にスロヴェニア、クロアチア両共和国の独立を承認する、と言明。
01/15:
・ECは、ユーゴ連邦の各共和国の独立承認問題で協議。 EC議長国のポルトガルは、「クロアチア共和国大統領が少数民族の権利保障を約束するとの書簡をECに提出しており、これによって基準が満たされた」と説明。ECとしてスロヴェニアおよびクロアチアの独立を承認し、ボスニア政府にも独立の是非を問う国民投票を実施するよう求める。
・フランスのデュマ外相は、「少数民族の権利が本当に守られるかを見守る必要があり、当面大使は送らない、などの条件付きで独立承認を受け入れる」と述べる。
・オーストリア政府は閣議で、スロヴェニア共和国とクロアチア共和国の独立承認を決める。
・ブルガリア政府は、スロヴェニア共和国、クロアチア共和国だけでなく、マケドニア共和国、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国、4ヵ国の独立を承認。
・ドイツ政府は、スロヴェニア共和国とクロアチア両共和国に外交特使を派遣し、外交関係樹立に関する議定書に調印。両共和国にとり初の公式外交関係樹立となる。
・独立承認を表明したEC諸国は、「英国、フランス、ベルギー、デンマーク、オランダ、スペイン」。
・EC外の独立承認表明国は、「オーストリア、スイス、ノルウェー、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド」。
・既に独立を承認した国は、「ドイツ、エストニア、リトアニア、ラトビア、ウクライナ、バチカン、マルタ、サンマリノ」。
・バウチャー米国務省副報道官は、EC諸国がスロヴェニア共和国とクロアチア両共和国の独立を承認したことについて、「共同歩調は取らない」と述べる。
・ユーゴ連邦政府は閣議を開き、「ECの決定は、ユーゴ連邦の主権を侵すもの、国際法違反である。6共和国すべてと連邦の将来に関する合意ができるまで、連邦政府は機能し続ける」との声明を発表。
・セルビア共和国政府は、「一部共和国の独立承認で、ユーゴスラヴィアの継続性が問題になるわけではない」との声明を発表。
・セルビア共和国外相は、「せめて、国連保護軍が実際に入るまで待てなかったのか」と語る。
・モンテネグロ共和国政府は、セルビア共和国に追随した声明を発表。
・クロアチアのカルロヴァツで、連邦人民軍とクロアチア両共和国軍との間で銃撃戦があり、クロアチア側に3人の死亡者が出る。
・クロアチア人の元ジャーナリストは、「このままでは、せいぜいドイツの植民地になるしかない。トゥジマン大統領は、独立の夢ばかり国民に与えてきたが、セルビア人との共存以外に解決はあり得ないのだ。ここではマスコミの検閲が厳しく、反ドイツ的な出版、放映は禁じられている。ドイツからの輸入品も100%の税金がかかり、生活レベルは格段に落ちている。独立達成より経済破綻が先に来るだろう」と批判。
01/16:
・国連保護軍の先遣隊の第2陣16人が、ザグレブ入りする。
01/17:
・イタリアのコシガ大統領はクロアチア共和国のザグレブを訪問し、外交関係樹立に関する文書に調印。コシガ大統領は、この後スロヴェニア共和国を訪問して外交関係文書に調印する予定。両共和国のイタリア総領事館はこの時点から大使館に格上げする。
・クロアチア共和国軍防衛隊は、過去17ヵ月間の戦闘での犠牲者数を発表。クロアチア側の死者3083人、負傷者1万6383人で、この内民間人の死傷者数は1426人。
・ユーゴ連邦ボスニア共和国のムスリム人、クロアチア人、セルビア人の3民族が話し合いを行なったが、「セルビア側は、現状維持か3民族それぞれ国家をつくり連合する」案を提案。「ムスリム人側とクロアチア人側は、ユーゴ連邦からの完全独立を主張」して対立し、セルビア人側は独立宣言を挙行。
・停戦中のクロアチアのオシエク付近で、取材中の英国人カメラマン、ポール・ジェンクスが狙撃され病院で死亡。ユーゴスラヴィア内戦で死亡したジャ-ナリストは23人となる。
01/18:
・ユーゴスラヴィアの国連監視団は、クロアチアおよび周辺の共和国11ヵ所に50人の展開を完了し、通信線などの作業に入る。
・コール・ドイツ首相は、ECの一員としてユーゴ連邦のセルビア共和国に対しても援助する用意のあることを明らかにする。
・ユーゴ連邦人民軍は、ノバグラディシュカの戦線でクロアチア軍が迫撃砲や小火器で攻撃してきたが撃退したと発表。
・クロアチアのザグレブ放送は、西スラヴォニアおよび東部バラニャ地区で連邦人民軍が攻撃、と放送。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、クロアチア共和国軍兵士が港湾都市ザダル近郊で連邦人民軍兵士3人を待ち伏せ攻撃して射殺したと報じる。
01/19:
・クロアチアの報道によると、ザグレブ南西170キロのゴスピッチをユーゴ連邦人民軍が迫撃砲で攻撃、クロアチア兵15人が死亡する。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、クロアチア東部バラニャ地区でクロアチア部隊が攻撃を開始し、連邦人民軍兵士1人が死亡。
・ベオグラード・ラジオは、「ECの独立承認で、バルカン諸国は向こう数年間、あるいは数十年間戦争状態から抜け出せなくなった」と放送。
・国連保護軍軍の先遣隊とEC停戦監視団は、ヴァンス国連事務総長特使が提案した、クロアチア共和国軍およびユーゴ連邦人民軍の代表と停戦継続や危険地域からの両軍の撤退について協議。連邦人民軍側は、「一方的にクロアチアの独立を承認したECは、もはや中立的な立場とは言えない」と批判。
・トゥジマン・クロアチア大統領は、PKOの派遣を機に、少数派セルビア系住民と連邦人民軍に支配されている3分の1のクロアチア領の奪回を宣言。
01/21:
・ユーゴ連邦議会の作業グループは、新たなユーゴスラヴィア連邦建設に関する草案を作成し、社会政治関係委員会に提出。
ユーゴ国営タンユグ通信によると、この「民族自決案」と称する草案の内容は、「1,法案は、今月28日の委員会で最終的にまとめられ、連邦議会連邦院で2月15日までに採択される。2,ユーゴスラヴィアに残留を希望する民族、共和国はこの法律に基づき制憲会議を発足させる。3,制憲会議は新ユーゴスラヴィア連邦の憲法、選挙法を定め、選挙を実践する。4,停戦が順調に実施されれば、この秋には新ユーゴ連邦を建設する」というもの。
・ユーゴ連邦セルビア共和国政府は、「1,ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニア、セルビア、モンテネグロの4共和国で、政治・経済関係問題に関する首相会議を開催する。2,クロアチア共和国とユーゴ連邦間の問題解決に関する交渉を、国連保護軍・UNPROFORの到着と同時に開始する。3,スロヴェニア共和国とユーゴ連邦は、連邦財産の問題について協議を開始する」などの新提案を行なう。
01/23:
・クロアチア共和国のグレグリッチ首相は、ガリ国連事務総長との会談後、15日以内に国連加盟申請をする予定であると表明。
・ユーゴ連邦セルビア共和国代表のポリサウ・ヨヴィチ連邦幹部会員は、ガリ国連事務総長との会談後の記者会見で、「国連保護軍部隊のクロアチア展開は間もなく、あるいは遠くない将来に派遣されると信じている」と表明。
01/25:
・ユーゴ連邦ボスニア共和国議会は、独立に関する住民投票を実施すると決定する。
註;ボスニア議会がセルビア人住民の反対を承知で住民投票を議決したのは、ECがボスニアの独立を承認する条件として、住民投票を実施することを勧告したことによる。
・ユーゴ連邦政府は、通貨ディナールを26日から80%切り下げると発表。ドイツマルクと連動しているディナールは、1マルク13ディナールから65ディナールとなる。
・朝日新聞によると、ユーゴ連邦セルビア共和国のハンガリー国境のスポツァからブルガリア国境のディミトロフグラードまでの500キロにフランス製の新幹線を建設する計画であったが、紛争でフランスが手を引き十分な資金が確保できずに頓挫。
01/26:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国が独立のための住民投票実施を決めたことに対抗し、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・セルビア人議会」は同共和国のセルビア人居住地区に、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・セルビア人共和国」を樹立することを決定する。
・グルーディング国連事務次長はユーゴスラヴィア入りしてクロアチア共和国内の停戦状況を確認し、ミロシェヴィチ・セルビア大統領およびコスティッチ連邦幹部会副議長、アジッチ連邦軍参謀総長と国連保護軍派遣に関する最終的な協議を行なう。この後、クロアチア共和国内のセルビア人地域「クライナ共和国」を代表するバヴィチおよびハジッチと会談する予定。
01/29:
・グルーディング国連事務次長は、クロアチア共和国およびクロアチアのセルビア人勢力の指導者と協議を重ねたが、現時点ではユーゴ連邦に国連保護軍を派遣することは勧告できない、との考えを明らかにする。
02/05:
・ガリ国連事務総長は安保理に対し、「現時点でユーゴスラヴィアに国連平和維持活動の展開を勧告するのは困難」との報告書を提出。
02/07:
・国連安保理は公式協議を開き、ユーゴスラヴィアへの国連保護軍の先遣隊を25人増やし、75人とする決議740を全会一致で採択。
・EU・欧州連合条約が調印される。
02/10:
・クロアチア内のクライナ・セルビア人共和国のバヴィチ大統領はクライナ共和国議会に対し、PKO派遣に関する住民投票を22,23日の両日に実施するとの提案を行ない、承認される。
02/11:
・クロアチアの「クライナ・セルビア人共和国」のバヴィチ大統領は、「クライナ地域に国連保護軍・派遣されれば、武力による抵抗が起こるかも知れない」と国連に警告する声明を発表。
02/12:
セルビアおよびモンテネグロ両共和国の首脳は、モンテネグロのチトーグラードで会談。旧ユーゴ連邦の後継国家として、両共和国による新ユーゴ連邦を設立することで合意する。
02/13:
・クロアチアの「クライナ・セルビア人共和国」のマツラ情報相は、「我々は国連平和維持軍・PKFは受け入れられない」と強調。
02/14:
・キング英国防相は、ユーゴスラヴィアに派遣する国連平和維持軍の一部として英国からエンジニアや通信、医療の専門家1200人を派遣する意向を表明。
・ユーゴ連邦幹部会は、「ユーゴスラヴィアの国家的・政治的危機の最終解決が達成されるまで、連邦人民軍をマケドニア共和国領内から一時的に撤退させる」と決定。
02/16:
・クロアチア内の「クライナ・セルビア人共和国」議会は、国連保護軍派遣に反対しているバヴィチ大統領の解任と同共和国政府の不信任を決議する。この解任決議は、国連平和維持軍・PKFを無条件に受け入れることを決めたクライナの議会に対し、バビッチ・クライナ大統領が新たにクライナ共和国に加わった自治体から42人のバヴィチ支持派の議員を議会に加えたことに、議会が反発したもの。
・クロアチアのセルビア人勢力のバヴィチ・クライナ大統領は、クライナ・セルビア人共和国議会の議決は無効と主張。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、オクチャニ市近くでクロアチア共和国軍がユーゴ連邦人民軍を待ち伏せ攻撃し、連邦人民軍兵士3人が死傷した、と伝える。
・クロアチア共和国側は、オクチャニ市近郊でセルビア側の砲撃によりクロアチア兵士2人が死亡、と発表。
・朝日新聞によると、ユーゴ連邦の後継国家となる「第三のユーゴ」が5月1日に樹立される運びとなった、とモンテネグロのジュカノヴィチ首相が明かす。
02/17:
・ECは、マケドニア共和国の国家承認について協議。ギリシャは、国境問題が解決していないことを理由に、承認に対し強硬に反対する。ガリ国連事務総長が勧告した国連保護軍の派遣については、全面的に協力することで一致。
・EC外相会議は、「ユーゴスラヴィアに関する宣言」を発表し、「セルビア共和国の建設的な態度を評価し、制裁問題を再検討する際にユーゴ和平会議に提案されている解決案を積極的に受け入れるならば、セルビア共和国に対する経済制裁を解除する」との方針を表明。
・ガリ国連事務総長は、安保理にユーゴスラヴィアへ国連保護軍1万4000人を少なくとも1年間派遣する勧告書を提出。勧告書に経費の見積もりが盛り込まれていなかったため、安保理の採択はなされず。
・クロアチア内のセルビア人居住区「クライナ・セルビア人共和国」のバビッチ大統領は、「国連保護軍に対し、武力抵抗は行なわない」と語る。セルビア共和国とユーゴ連邦人民軍が経済封鎖や国境封鎖などをの圧力をちらつかせ、またクライナ地区の反大統領派もバビッチ大統領の方針を批判したための妥協と見られる。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はミッテラン仏大統領と会談後、「住民が独立を望んでいることが証明されれば、欧州諸国から独立を承認するとの見通しが得られたので、住民投票を実施する」と発表。
02/21:
・国連安保理は決議743を採択。ユーゴスラヴィアへの「国連保護軍・UNPROFOR」1万4000人の派遣を、全会一致で決定する。決議要旨;「1,事務総長の報告に従い、『国連保護軍』の設置を決定する。2,国連保護軍の駐留期限は、安保理が新たな決定を下さない限り、当面1年間とする。3,国連保護軍の設置は、ユーゴスラヴィア危機の包括的解決に必要な平和と安全な状況を生み出すための暫定措置である。4,全関係当事者に対し、昨年11月のジュネーブ合意と今年1月のサラエボ停戦合意を遵守するよう促す。5,全関係当事者に対し、国連要員やEC停戦監視団の安全を守るための措置を取るよう要求する。6,決議713の対ユーゴ全面武器禁輸措置は、国連保護軍用の装備に限って適用しない」。国連保護軍の内訳は、歩兵12個大隊1万4000人、補給部隊2800人、ヘリコプター26機。派遣国は31ヵ国。サラエヴォに本部を設置し、ザグレブとベオグラードに支所を設置。経費は、6億3000万ドルを予定するというもの。
・クロアチア共和国政府は、国連保護軍の保護地域が国連の支配下に置かれることに不満を表明し、「クロアチアの主権下にある」との声明を発表。
・クロアチアのセルビア人自治区の「クライナ・セルビア人共和国」のバヴィチ大統領派の議員たちは、反大統領派のマルティッチ内相とパスパリ議員を解任し、クライナ・セルビア人共和国内は分裂を深める。
・クロアチア共和国のトゥジマン大統領は、ガリ国連事務総長に書簡で正式に加盟を申請。
02/22:
・ゲンシャー独外相はトゥジマン・クロアチア大統領との会談後、「国連保護軍に関し、大統領は国連の考え方を全面的に認めると重ねて約束した」と述べ、さらに「スロヴェニア共和国、クロアチア共和国とバルト3国もEC加盟を認めるべきだ」と語る。
02/26:
・ECユーゴ和平会議のキャリントン議長は、ベオグラード入りしてミロシェヴィチ・セルビア大統領と会談。ミロシェヴィチ大統領は会談後、「これまでになく平和解決に向けた条件が揃ってきた。和平会議は近く再開されるだろう」と、停戦およびユーゴ連邦人民軍の撤収と難民帰還などの、交渉解決への期待を示す。
・クロアチアのセルビア人組織「クライナ・セルビア人共和国」の反バヴィチ大統領派の議会議員は、ボロヴォ・セロで臨時議会を開き、ゴラン・ハジッチ・クライナ共和国首相を大統領に選出し、後任の首相にはジェチェヴィチ・ベンコヴァツ市長を選出。
02/27:
・セルビア共和国議会は臨時議会を開き、モンテネグロと新ユーゴ連邦を設立することを賛成多数で採択する
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はセルビア共和国議会で演説し、「戦争の原因は、一方的な独立を目指すクロアチア共和国当局が、これに反対する共和国内のセルビア人の民族自決を認めなかったところにある。国連保護軍の派遣決定は、クロアチア共和国のセルビア人に対する暴力行為の終結であり、平和解決の開始を意味する」と述べる。
・渡辺美智雄日外相はルペル・スロヴェニア外相と会談し、スロヴェニア共和国の独立承認について「承認の邪魔になる大きな要因はない。タイミングを見ているところであり、要望に沿えるだろう」と述べる。スロヴェニアの承認国は45ヵ国。
02/28:
・ユーゴ連邦ボスニア共和国当局が明らかにしたボスニアの人口構成は、435万5000人のうち、ムスリム43.7%、セルビア人31.3%、クロアチア人17.3%。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、クロアチアからハンガリーに逃れた3万5000人の難民の帰還についてクロアチア共和国政府、ハンガリー政府、UNHCRの3者が協議し、協定に調印したと発表。
・ボスニアのセルビア人議員で組織する「セルビア国民議会」は、ボスニア共和国を3民族に事実上分割する「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ国民連合」構想を前提とする独自の憲法と、これに伴う国防法、内閣法、銀行法を採択する。
02/29:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国は、ユーゴ連邦からの独立を問う国民投票を開始し、30日まで実施する。EC選挙監視団が巡回監視を実施。イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「有権者の6割が賛成してくれれば満足する」と語る。
・ボスニアのセルビア人住民は、国民投票をボイコットすると決定。
・ボスニアのトラヴニクでは武装セルビア人グループが主要道路にバリケードを築き、停車を無視したタクシー運転手ら2人を射殺。サラエヴォ南部の投票所には手投げ弾が投げ込まれたが、怪我人はなし。
02/00:
・イゼトベゴヴィチ大統領は、リビアとイランに支援を要請。
・リビアは一時的には支援を承諾したが、パンナム機撃墜事件に巻き込まれ、まもなく離脱する。
・サウジアラビアは、「イブラミ基金」を作り、ボスニアのムスリム人に対する資金援助を始める。
03/01:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国は、セルビア共和国とともにユーゴ連邦を継承していくか否かを問う国民投票を実施。
・ボスニア共和国の独立を問う国民投票は、中間発表で独立賛成が60%を超えたとして、ペリバン首相は「投票の結果は予想通りだ。賛成は有権者の60%を超え、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ国民の主張が、独立、統一国家を支持したことを確認するものである」と勝利を宣言する。シライジッチ・ボスニア外相は、「ECが欧州およびユーゴスラヴィアの安定に関心があるなら、即刻ボスニア・ヘルツェゴヴィナの独立を承認すべきだ」と述べる。選管の中間発表投票率は締め切り数時間前で56.8%。
・ボスニアのサラエヴォで、セルビア人の結婚式をムスリム人とクロアチア人と見られるグループが襲撃し、新郎の父親を射殺して逃走する。
03/02:
・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国の国民投票は、セルビア共和国とともに「新ユーゴスラヴィア連邦」をつくるとの共和国指導部への賛成率が96%に達する。また、首都名をチトーグラードからポドゴリツァに戻すことに対し、賛成が多数を占める。
・ボスニアのセルビア人住民は、セルビア人の結婚式での襲撃事件や発砲事件が発生したことに対抗し、武装して市内の主要交差点など20ヵ所を封鎖。これに対抗したムスリム人たちが同じくバリケードを築き、商店はシャッターを閉め、学校は臨時休校となり、長距離バスや列車も運休。武装したムスリム人が、パトロールを始める。
・ボスニアのセルビア民主党のカラジッチ党首は、「1,ボスニア共和国を構成するムスリム人、セルビア人、クロアチア人の3民族が満足すべき解決を達成するまで、独立宣言や独立の国際的承認を得るための活動を停止する。2,主権・独立を叫ぶマスコミ・キャンペーンを直ちに中止する。3,セルビア人を人口比に応じて警察幹部に登用する取り決めを実行する。4,2日中に事件の犯人を逮捕する」など5項目を要求する。
・ユーゴ連邦ボスニア共和国の幹部会は緊急会議を開き、主権・独立キャンペーンの中止などセルビア民主党の要求をほぼ認めことで合意。記者会見で発表された合意内容は、「1,今回の国民投票は将来の共和国のあり方を規定するものではなく、今後もボスニア和平会議を継続する。2,共和国警察の改組を行なう。3,サラエヴォ放送を改善する」など。
・ボスニア共和国幹部会がセルビア民主党の要求をほぼ認めたことで、武装セルビア人グループはサラエヴォのバリケードを撤去し、封鎖を解除する。
・ボスニア共和国政府当局は、国民投票の最終結果を発表。投票率64.79%、この内独立賛成は99%。
03/03:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、国民投票で独立賛成が過半数を超えた結果を受け、「昨年10月の共和国議会の独立決議を承認するものである。国際的承認を80ヵ国に要請している」と述べ、事実上の独立を宣言する。
・ボスニアのセルビア民主党は、「武装したムスリム人グループがサラエヴォのセルビア人地区を襲撃し、負傷者が出ている」と非難。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、ムスリム人の動員は認めたものの襲撃は否定する。
・クロアチア共和国政府は、ボスニアでのクロアチア人勢力を支援するとして、共和国の部隊を派遣する。
・国連事務局は、ユーゴスラヴィアへの国連保護軍に25ヵ国が参加すると発表。
03/05:
・ヴァンス国連事務総長特使は、ボスニアのサラエヴォでムスリム人、セルビア人、クロアチア人の各指導者と会談し、内戦回避のために自制を促す。
・ポーランド国防相スポークスマンは、ユーゴスラヴィアに派遣する国連平和維持軍に900人を提供すると発表。
03/06:
・クロアチア共和国軍の発表によると、クロアチア内戦でセルビア人は5000人が死亡し、2万人が負傷したと発表。
・ユーゴ連邦国防省は、クロアチア内戦で連邦人民軍の死者は7ヵ月で1279人に達したと発表。
・クロアチアのオシエクでは激しい戦闘があり、少なくとも5人が死亡し、30人以上が負傷。アドリア海に近いゴスピッチでクロアチア共和国軍とユーゴ連邦人民軍が交戦し、クロアチア共和国軍側に2人の死者が出る。
03/08:
・国連保護軍のナンヴィエ司令官は、30人の幹部と共にベオグラードに入る。ソーンベリー文官代表は、「我々の主な任務は非武装地域の擁護だ。うまくいくと信じている」と語る。国連保護軍の任務は、「1,停戦監視。2,ユーゴ連邦人民軍のクロアチアからの撤退。3,不正規民兵組織の武装解除。4,地方警察の公正な活動監視」などと述べる。
・ユーゴ連邦ボスニア共和国の西部のクロアチア人の町チャプリナでは、ユーゴ連邦人民軍の兵舎が10日以上にわたって封鎖される。
03/09:
・ECのユーゴ和平会議がブリュッセルで開かれ、セルビア外相以外は各共和国の大統領が参加。
・セルビア共和国のベオグラードで、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の退陣を要求する3万人の野党のデモが気勢を上げる。
03/11:
・ドイツ政府は連邦議会に、「クロアチア共和国の紛争に、ドイツやその他の欧州諸国から『ネオ・ナチ』がクロアチア側に加担していた」、と報告。
03/13:
・国連保護軍・UNPROFORの司令部がサラエヴォに設置される。
03/17:
・スロヴェニア共和国のクチャン大統領とマケドニア共和国のグリゴロフ大統領は、外交樹立文書に調印。
・日本政府は閣議で、クロアチア共和国とスロヴェニア共和国の国家承認について、「1,ユーゴスラヴィア連邦解体の方向は不可逆的。2,2共和国は欧州共同体各国などが承認している。3,クロアチアの紛争も国連の平和維持軍展開によって情勢は安定に向かいつつある」などとして承認を決める。
03/18:
・ボスニアのサラエヴォで「ボスニア和平会議」が開かれ、ムスリム人、セルビア人、クロアチア人の主要3民族による連合、または連邦国家として独立させることを盛り込んだ憲法改正についての決議を発表。決議内容;「1,国境は変更せず。2,各民族による構成単位に分割、それぞれが政府と議会を持つ。3,教育、警察、社会福祉などでは主権を持つ。4,中央政府は金融、外交を管轄し、国民院と構成単位の代表院の2院制の議会を設置。代表院は5分の4の多数決とし、他の共和国との関係を決定する」 などに合意。軍事面は合意に至らずに、持ち越しとなる。
03/21:
・クロアチア防衛軍当局者によると、クロアチア東部と中部の各都市がセルビア人勢力側から激しい砲撃を受けた、と発表。オシエクは、20日から21日にかけて500発の砲撃を受け、5人が負傷。
03/24:
・クロアチア共和国側の報道によると、セルビア人勢力とクロアチア人勢力の砲撃戦で、9人が死亡。
・全欧州安全保障協力会議・CSCEは、クロアチア共和国の加盟を承認する。
03/26:
・ユーゴ国営タンユグ通信は、マケドニア共和国に駐屯していた連邦人民軍の撤退が全て完了した、と伝える。
03/27:
・ボスニア共和国の北部の町ボサンスキ・ブロドとその周辺で、ムスリム人勢力が加勢したクロアチア人勢力とセルビア人勢力の間で激しい戦闘があり、少なくとも30人が死亡。
・ボスニア共和国幹部会はガリ国連事務総長に対し、同共和国への国連平和維持軍の早急な派遣を要請。
04/01:
・ECのユーゴ和平会議がブリュッセルで開かれ、EC議長国ポルトガルの仲介でボスニア共和国の3民族が話し合い、「各住民に大幅な自治権を与えることを前提に作業部会を設置し、住民地区の分割」などを協議していくことで合意。
04/02:
・南アフリカ共和国外務省は、ユーゴスラヴィア連邦と南アフリカ共和国が外交関係を樹立した、と発表。
04/04:
・「国連保護軍・UNPROFOR」第1陣のフランス歩兵部隊1200人が、ユーゴスラヴィアのリエカ港に到着。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、ボスニアのムスリム人の領土防衛隊の動員を許可する。
・ユーゴ連邦人民軍は、クロアチア共和国軍が東部ビンコヴィツを攻撃し、セルビア人郷土防衛隊と連邦人民軍予備役兵35人が死亡したと非難。
04/05:
・ボスニアのサラエヴォで、3民族で構成する宥和を求める「市民的抵抗運動」がデモを組織し、議会に対して民族和解を図る「救国内閣」を設立するよう求めて議会に入ったところ、外で待機していたデモ隊に対しバリケード内から発砲があり6人が死亡。
・ボスニアのサラエヴォで銃撃戦があり9人が死亡し、30数人が負傷。サラエヴォ空港は閉鎖される。
・ボスニア共和国政府のクロアチア人のペリパン首相が辞任を表明した模様。
・ユーゴ国営タンユグ通信によると、ボスニアの北部ボサンスキ・ブロドでは、越境したクロアチア共和国軍がセルビア人住民を包囲して交戦。ボスニアの南西部では、ユーゴ連邦人民軍の支援を受けたセルビア人民兵とクロアチア共和国軍が2日間にわたって戦闘を続ける。連邦人民軍の戦闘機が同地域にある2つの村を攻撃する。
・クロアチア共和国のHINA通信は、ボサンスキ・ブロドでクロアチア共和国軍がユーゴ連邦人民軍の空軍機3機を撃墜し、クプレス高原一帯を支配した、と伝える。
・クロアチア・ラジオは、クロアチア東部オシエクで連邦人民軍とセルビア人勢力の民兵による攻撃があり、市民16人が死亡と報じる
04/06:
・ECは外相理事会を開き、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の独立承認を決める。マケドニア共和国の独立承認は、ギリシャの反対で見送られる。
・ユーゴ連邦政府および連邦幹部会は、ECがボスニア共和国の独立を承認したことに対し、「主要3民族間での合意のないまま共和国の独立承認を急ぐECの行動は、民族対立をさらに悪化させるだけだ」と強く非難。
・ボスニアのサラエヴォで民族の共存を訴えてデモをしていた1万5000人の一般市民に対し、武装した民兵が発砲。2人が死亡、15人が負傷。3民族市民グループが「救国内閣」の選出と議会選挙を早期に行なうよう求め、ボスニア共和国議会を占拠する。
・サラエヴォの国連保護軍本部が、何者かに攻撃を受ける。
・ユーゴ連邦人民軍第2軍管区司令部は、武力紛争を停止させるために全面戦闘準備態勢に入った、との声明を発表。
・ボスニア共和国の幹部会は、全土に「非常事態」を発令。首都サラエヴォには、午後10時から午前6時まで外出禁止令を発令。
・サラエヴォの西90キロの町クプレスがクロアチア共和国軍に制圧され、ユーゴ連邦人民軍が反撃してクロアチア共和国軍と交戦する。
04/07:
・米政府は、スロヴェニア共和国とクロアチア共和国およびボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の3ヵ国を一括承認し、直ちに外交関係樹立の協議に入ると発表。ホワイトハウス当局者は、「米国が3共和国を承認することは、ユーゴスラヴィアの和平と安定に寄与するだろう」と述べる。
・EC加盟国は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国を国家承認する。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナのサラエヴォで、ムスリム人民兵とセルビア人民兵との間で激しい銃撃戦が展開される。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国のセルビア人議員は、北部のバニャ・ルカ市でセルビア人議会を開き、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・セルビア人共和国」との名称でボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国からの独立を正式に宣言。宣言は、「ボスニアのセルビア人地域では、独自の憲法が適用される」と発表。
・国連安保理は公式協議を開き、ユーゴスラヴィアへ派遣する国連保護軍・UNPROFORを、5月中旬までに全面展開するなどの決議案749を、全会一致で採択。予算は6億751万5000ドル。
・ボスニア南部のモスタル市周辺で、クロアチア共和国軍がボスニア・クロアチア人勢力の武備を確保するためにユーゴ連邦人民軍の兵舎などを攻撃。ユーゴ連邦人民軍は空爆を繰り広げ、少なくとも6人が死亡、30人が負傷。
04/08:
・ボスニア共和国に駐屯する連邦人民軍のパニッツ司令官代行は、「少なくとも5年間はボスニア共和国から撤退すべきでない」 と言明。言明の背景には、「1,ボスニアはセルビア人が30%を占める。2,連邦人民軍の軍需工場の65%がボスニアにある。3,連邦人民軍が撤退すると、ボスニアに国境を接するクロアチアのセルビア人が孤立する」ということがある。
・ボスニア共和国の幹部会は、「戦争の差し迫った危機が高まっている」として「ボスニア共和国領土防衛隊総司令部」を設置し、警察予備役に必要な布告を出せるよう「非常権限」を付与する。
04/09:
・ボスニア共和国のハリス・シライジッチ外相はニューヨークの国連本部を訪問し、主要国の代表に面会。
04/12:
・ECの特使の仲介で、ボスニアのムスリム人・クロアチア人連合対セルビア人の武力衝突の停戦が成立。
04/13:
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナで戦闘が再発。北部のボサンスキ・ブロドで、セルビアとクロアチア両武装勢力間に激しい戦闘が起こり、製油所が被弾して火災が発生する。
04/14:
・ボスニア共和国のシライジッチ外相はワシントンを訪問し、ジェームズ・ベーカー米国務長官と会談。その後ベーカー国務長官とともに合同記者会見を開く。
・米国務省は、「ボスニアの内部問題に、ユーゴ連邦人民軍が軍事干渉をしている」と非難。
04/15:
・全欧州安保協力会議・CSCEの会合において、コーンブラム米代表は、ボスニアで続いている内戦に関与しているユーゴ連邦政府を、CSCEから追放することも辞さないと非難。
・ボスニア領土防衛隊総司令部は、ボスニア政府軍を発足させる。動員兵力は7万5000人。総司令官はムスリム人のハサン・エフェンデイチ、参謀総長はクロアチア人のスティエパン・シベル、副司令官はセルビア人のヨヴァン・ディヴァクが就任し、すべての民族を受け入れる多民族軍としたが、実質はムスリム人の部隊。
註;ボスニアの民主行動党の準軍事組織「愛国同盟」も、ボスニア領土防衛隊の指揮下に入る。
04/17:
・ボスニアのサラエヴォをはじめ各地で激しい戦闘があり、ムスリム人とセルビア人が混住するフォチャがセルビア人勢力の手に陥落。ビエリナ、ビシェグラード、ズボルニクの各町では激しい戦闘が展開される。
・ヴァンス国連特使は、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ情勢は楽観出来ない」と述べ、各民族に停戦を呼びかける。
04/18:
・セルビア共和国政府はボスニア情勢をめぐる米国の姿勢について、米国の臨時大使を外務省に呼び、「一方的かつ偏見に満ちた行動だ」との抗議文書を手渡す。
04/20:
・ECは、マケドニア独立承認の条件として「1,国名変更。2,国境不変更の確認。3,少数民族の保護」の3点を提示する。
・マケドニア共和国のマレスキ外相は、EC議長国のポルトガルの仲介で、マケドニア共和国の独立に異議を唱えているギリシャのミツォタキス首相と会談。ギリシャが「マケドニア」という国名に難色を示しているのは、マケドニアという国名を持つ独立国が成立することによって、同国に30万人いるマケドニア人が独立を求めて紛争を起こしかねないことや、古代マケドニアとギリシャの歴史を奪われることに憂慮しているため。
・米国務省高官は、セルビア共和国がボスニア共和国に対して軍事攻勢をかけているとして、圧力をかけるためにツィンマーマン大使や外交官の召喚および通商部の閉鎖などもあり得る、と述べる。
04/21:
・ボスニアのサラエヴォで、ムスリム人およびクロアチア人連合軍とユーゴ連邦人民軍が激しい戦闘を展開。双方の戦闘員は、ムスリム人勢力およびクロアチア人民兵とクロアチア共和国軍を併せた15万人に対し、セルビア人民兵10万人とユーゴ連邦人民軍が10万人。東部スレブレニツァでは、戦闘で29人が死亡。
・ECおよび米国は、連邦人民軍とセルビア共和国を「紛争の張本人」と非難して国交断絶を示唆し、セルビア共和国に対してボスニアのセルビア人支援をやめるよう強く警告。
・セルビア共和国はECと米国の対応を、「事実に反する一方的な非難」と反発。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領はムスリム人に対し、武装強化を呼びかける。
04/22:
・スロヴェニア共和国の議会は、ペテルレ内閣の不信任案を可決し、新首相にユーゴ連邦幹部会元議長のヤネツ・ドルノウシェクを選出。
04/23:
・EC議長国のポルトガルのピニェイロ外相とECユーゴ和平会議のキャリントン議長は、ボスニアのサラエヴォでムスリム、セルビア、クロアチア3民族の代表と会談し、「4月12日の完全停戦を、各民族が遵守することで合意」と発表。
・セルビア共和国およびモンテネグロ共和国の両共和国議会は、「ユーゴスラヴィア連邦共和国」の国家創設を決め、新憲法草案を採択。新憲法は、「1,セルビア、モンテネグロ両共和国で構成する。2,将来加入を希望する共和国には門戸を開く。3,現在のユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国を継承する。4,市民および各共和国の権利の平等を保障する。5,連邦の権限は外交、軍事、マクロ経済政策、人権擁護などに限り、その他は共和国の権限とする」など。
04/24:
・フランス、ドイツ、ポーランドの3国外相は、ボスニア問題で国連に対して安保理を開催すること、国連保護軍の派遣を求める共同声明を発表。
・ガリ国連事務総長は、ヴァンス国連特使が「ボスニアの紛争の現状とその拡大について、潔白な当事者はおらず、全ての当事者が戦闘の勃発と継続に何らかの責任を負っている」と報告した実態に基づき、ボスニア共和国への国連保護軍派遣は「現段階では不可能」とする報告書を提出。
・国連安保理は緊急の公式協議を開き、「あらゆる形の外部からの干渉を直ちに停止する」よう要求する議長声明を発表。
04/26:
・UNHCRによると、クロアチア紛争で発生した難民・避難民は81万人で避難先はクロアチアに32万人、セルビアとヴォイヴォディナ自治州およびモンテネグロに16万5000人、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに9万人、スロヴェニアに4000人、マケドニアに5000人、ハンガリーに3万人、オーストリア・ドイツ・イタリア・スイスに合計20万人。ボスニアからの難民・避難民は29万人で、避難先はクロアチアに13万5000人、セルビア・ヴォイヴォディナ・モンテネグロに合計5万人、ボスニアに9万3000人、スロヴェニアに7000人、マケドニアに1300人、オーストリア・スイス・ドイツ・イタリアに合計5000人。双方の合計は110万人。
04/27:
・ユーゴ連邦議会の連邦院は議会を開き、「セルビア共和国とモンテネグロ共和国が旧ユーゴ連邦を継承する『ユーゴスラヴィア連邦共和国』の新憲法を採択」。同日、旧ユーゴスラヴィア連邦に関する国際条約の全てを履行するとの、「(新)ユーゴ連邦創設を宣言」する。この決定により旧ユーゴスラヴィア連邦は、完全に解体する。新憲法によると、議会は2院制で、市民院(下院)および共和国院(上院)とする。(新)ユーゴ連邦大統領は両議会の秘密投票で選出することになる。国旗は青・白・赤の三色旗を採用。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア共和国大統領は、同共和国内からのユーゴ連邦人民軍の撤退を命令する。
・ユーゴ連邦人民軍は、「3民族に求められている以上、駐留する」と表明。
・マケドニア共和国では、「(新)ユーゴ連邦」設立により、新通貨ディナールを発行すると決める。
04/28:
・ロシア政府は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の独立を承認する。
04/29:
・サラエヴォ空港を防衛しているユーゴ連邦人民軍に対し銃撃があり、連邦人民軍側も応戦する。
・ボスニアのサラエヴォで、ユーゴ連邦人民軍によると見られる大規模な砲撃が行なわれる。
04/30:
・ボスニアのサラエヴォのグルバビッツァ地区で、ムスリム人民兵部隊「グリーンベレー」とセルビア人民兵が戦闘を展開。
・全欧州安全保障協力会議・CSCEの実務者会議は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の加盟を承認する。正式には、7月の外相会議で最終決定されるが、この加入承認でCSCEは52ヵ国となる。
05/02:
・ボスニアのサラエヴォでムスリム人勢力の郷土防衛隊は、連邦人民軍の施設の引き渡しを要求して人民会館などを急襲攻撃。
・ユーゴ連邦人民軍のクカニャッツ第2軍管区司令官は、「人民会館以外にも多くの連邦人民軍施設が一斉攻撃を受けている。この背後にはボスニア指導部の指導がある」と述べる。 ボスニア駐留の連邦人民軍の民族構成は、ボスニアのセルビア人が80%を占めている。
・ボスニア駐屯のユーゴ連邦人民軍は、イゼトベゴヴィチ・ボスニア共和国大統領を、ポルトガルで開かれたユーゴ和平会議からの帰途のサラエヴォ空港で拘束する。釈放の条件として「1,即時停戦命令を出すこと。2,死傷者の搬出を許可すること。3,第2軍管区の兵士を、安全な場所に移動させることを保障すること」を条件に釈放すると通告する。
・EC外相会議はマケドニアの独立承認について、国名変更を条件に認める方針を確認。
・ECの停戦監視団のベルギー人監視員は、モスタルで電気関係の施設を修理に行く途中に交差射撃されて死亡。
05/03:
・ECのユーゴスラヴィア停戦監視団スポークスマンは、モスタルで銃撃を受けて死亡者を出した事件で、無期限に活動を停止すると表明。
・国連保護軍・UNPROFORの仲介により、ムスリム人の郷土防衛隊が連邦人民軍の要求した3条件受け入れで合意し、イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は釈放される。国連保護軍が護衛を付け、連邦人民軍がイゼトベゴヴィチ大統領を護送してボスニア共和国議会で解放。
・停戦協定によって連邦人民軍司令部は撤収を始めたが、ボスニアのムスリム人郷土防衛隊が撤収する連邦人民軍の輸送隊を襲撃し、連邦人民軍将校2人と兵士2人の4人を殺害、15人が負傷。さらに、ムスリム人勢力の郷土防衛隊は撤収する連邦人民軍のトラック20台の内の9台を待ち伏せ攻撃し、将兵100人を拘束する。
・ECのドイル特使は、「ボスニア共和国幹部会は、郷土防衛隊をきちんと掌握しているのか」と批判。
05/04:
・ボスニア共和国政府軍はサラエヴォの連邦人民軍の兵営を砲撃。
・ECと連邦人民軍は、ボスニアのムスリム人勢力の砲撃はEC仲介の停戦合意に違反する行為だとしてボスニア政府を非難。
・ボスニア政府軍が砲撃しているため、サラエヴォで開かれる予定のイゼトベゴヴィチ大統領と連邦人民軍のクカニャッツ司令官との話し合いは延期される。
05/05:
・ボスニアのムスリム人郷土防衛隊はユーゴ連邦人民軍に対し、「6日までにボスニア共和国から撤退するよう最後通告」を出す。
・ボスニア駐屯の第2軍管区連邦人民軍は、「連邦人民軍兵士の内、セルビア、モンテネグロ両共和国の出身者を15日以内に引き揚げる」と発表。
・ボスニア駐屯のユーゴ連邦人民軍・JNAのセルビア人とモンテネグロ人兵士は、一部の武器をボスニア内に放置したまま本国に引き揚げる。放置した装備や武器は、主にボスニアのセルビア人勢力が手中にする。
・新ユーゴ連邦の暫定的機関である旧ユーゴ連邦幹部会は、ボスニアに残る連邦人民軍兵士に関しては責任を負わないと述べ、連邦人民軍は事実上解体することを明らかにする。
05/06:
・クロアチア共和国およびスロヴェニア共和国は国連安保理に対し、国連への加盟申請を提出。
05/08:
・ユーゴスラヴィア連邦人民軍は、改編されて(新)ユーゴスラヴィア連邦軍となる。初代参謀総長はジヴォタ・パニッチが就任する。
05/09:
・ボスニアのセルビア人勢力代表カラジッチとクロアチア人代表ボバンが秘密裡に会談し、「1,両民族間の停戦。2,ボスニア共和国を民族別に3分割し、民族主権国家による国家連合とすること」で合意したことが明らかになる。ボスニア領土3分割案は、「セルビア人65%、クロアチア人20%、ムスリム人15%」。
註;この3分割案は、現時点での人口比がムスリム人42%、セルビア人32%、クロアチア人18%であり、人口比から見てセルビア人が65%の領土分割とするのは極めて不当に見える。しかし、セルビア人は農民の比率が高く、土地の専有面積は60%を超えていたことを考えると、過大な分がどの程度であるかは必ずしも明らかではない。
05/11:
・ゲンシャー独外相はEC外相会議で、セルビア共和国のベオグラード駐在のEC各国大使を召還することで合意したと語る。
・さらにEC外相理事会は、セルビア共和国をCSCEの協議参加資格から当面外すべきだとの見解で一致。
05/12:
・CSCEの再検討会議は、ボスニア紛争に関する協議から、「新ユーゴ連邦」を6月30日まで排除することを決める。
・ボスニア共和国のサラエヴォに駐在しているEC停戦監視団は、危険度が増したことを理由に全員クロアチア共和国内に撤収したが、安全が確保される状態になり次第サラエヴォに戻る、とスポークスマンが述べる。
・ボスニア共和国のセルビア人勢力は北部バニャ・ルカで、「セルビア民族ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国議会」を開き、独自のセルビア人共和国軍の創設を決定する。
・ボスニアのセルビア人勢力代表のカラジッチ・セルビア民主党党首は、「13日から5日間、一方的に停戦する」と宣言。
・ボスニア・セルビア人勢力のカラジッチ代表は、「今回の紛争の原因はECの早すぎるボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の独立承認と、セルビア人代表を欠いたままボスニア共和国幹部会が総動員令を出したことにある」と非難。同時に、ボスニア和平会議の再開を強く要望する。
05/13:
・スロヴェニア共和国とクロアチア共和国との間で、原子力発電所と漁業問題での対立が噴出する。電力問題は、スロヴェニア領内にあるクルシュコ原発廃止の国民投票を進めようとしているスロヴェニア共和国政府に対し、18%の電力をクルシュコ原発に依存しているクロアチア共和国が反発。漁業問題は、クロアチア海域で1万6000トンの水揚げをしていたスロヴェニアに対し、クロアチア政府は4000トンに限定すると通告。スロヴェニアの漁師は、抗議のデモを繰り返す。
・ガリ国連事務総長は安保理に、ユーゴスラヴィア情勢に関する報告書を提出。報告書の要旨;「1,ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国への国連平和維持活動・PKOは、現時点では不可能。2,現在クロアチアに展開中の国連保護軍・UNPROFORについても『実行可能性に疑問が出ている』。3,現在サラエヴォに置かれている国連保護軍・UNPROFOR司令部を、情勢が落ち着くまで一時的に他の安全な場所に再配置する」などの内容。
05/15:
・国連安保理は公式協議を開き、フランス、ベルギー、英の3ヵ国提案のボスニア問題に関する決議752を採択。決議752;「1,ボスニアへの外部からなされるあらゆる形の干渉は、ユーゴ連邦軍によるものも、クロアチア共和国軍の部隊によるものも含めて、直ちにそれを中止するように要請する。2,ボスニアの諸隣国に対しては、そのような干渉を終わらせる急速な措置を取り、ボスニアの一体性を尊重するよう要請する。3,ボスニアの非正規軍は、解散し、武装解除せねばならないと要請する」というもの。
・集団安全保障条約機構・CSTOの結成署名式が行なわれる。参加国は、アルメニア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ロシアの6ヵ国。
05/18:
・国連安保理は公式協議を開き、クロアチア共和国およびスロヴェニア共和国の2ヵ国について、国連加盟を勧告する決議を全会一致で採択。
・ボスニア・シライジッチ外相は、ニューヨークのPR会社 「グルーバル・コミュニケーター社」のCEOと会談。
05/19:
・赤十字国際委員会・ICRCのボスニアにおける救援活動のスタッフが、ロケット砲などの攻撃を受け1人死亡、2人負傷。
・ボスニア共和国のシライジッチ外相は、コミュニケータ社の根回しで記者会見をワシントンで開く。
05/20:
・国連安保理は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の国連加盟を勧告する決議を、全会一致で採択。
・ボスニア共和国保健省は、3月からのボスニア紛争以来確認された死者は2225人、行方不明2255人、負傷者7660人。難民・避難民は93万人に上ると発表。
・ボスニアのサラエヴォ郊外で、セルビア人民兵に連行されたムスリム人7000人の救出に当たっていた国連平和維持軍部隊に対し、迫撃砲による攻撃が加えられる。ムスリム人避難民は、セルビア人居住地区イリジャで監視下に置かれる。
05/21:
・ボスニア共和国のシライジッチ外相は、国連総会に出席。
05/22:
・国連総会は、スロヴェニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの3共和国について、国連への加盟を承認する。国連加盟は、現時点で178ヵ国。
・米国のパーキンズ国連大使は、「旧ユーゴスラヴィアは不幸にも、平和的な道程を辿らなかった。国際社会は、恐るべき出来事はベオグラード政府当局に責任があるという見解を明確にしている」と述べ、新ユーゴ連邦を非難。「もしセルビア共和国とモンテネグロ共和国が国連に議席を占めるに値するなら、加盟を申請して他国と同じ基準で審査されるべきだ」と演説し、新ユーゴ連邦が旧ユーゴ連邦の議席を継承する、との新ユーゴ連邦政府の主張を否定。
・ボスニア共和国のシライジッチ外相は、ヨーロッパを歴訪する。
・ボスニアのムスリム人とクロアチア人で構成するボスニア共和国幹部会とユーゴ連邦軍が協議を行ない、サラエヴォ市内にある4ヵ所のユーゴ連邦軍兵舎からの平和的撤収で合意。連邦軍は23日から24日に撤収する。
05/24:
・新ユーゴ連邦セルビア共和国のコソヴォ自治州で、アルバニア系住民が独自に共和国議会および大統領選挙を実施。大統領選挙はコソヴォ民主同盟・LDKのルゴヴァ党首のみの立候補となり、99.5%の支持を得て当選し、就任する。議会選挙では「コソヴォ民主同盟」が75%の議席を獲得。コソヴォのアルバニア系住民は、「コソヴォ共和国」の設立を宣言する。
・歴史家のティム・ジュダは、「コソヴォ民主同盟・LDK」は 「反対者への寛容が殆どなく、LDKに挑戦したものは出版物の中で罵倒され、緊密なアルバニア系共同体から村八分になる可能性すらある」と述べる。このため多くのセルビア人やアルバニア系の一部がコソヴォ自治州から去っている。
註:ジャーナリストのクリス・ヘッジスによると、66年から89年の23年間に嫌がらせや差別のためにコソヴォ自治州から去ったセルビア人の数は、13万人と見積もられている。
・コソヴォ自治州のルゴヴァ大統領の政策は、「コソヴォからセルビア人がいなくなるか、あるいはセルビア人の数が無視できるくらいまで減少し、熟れた果実のようにコソヴォがアルバニア人の下に落ちてくるのを待つ」というところにある。コソヴォ自治州のアルバニア系住民が大統領と議会の選挙に踏み切ったのは、「1,31日に行なわれる新ユーゴ連邦の議会選挙に対しアルバニア系政党はボイコットを表明しており、新ユーゴ連邦議会選挙以前に意思表示をしておくこと。2,ボスニア情勢などで、セルビアへの国際的非難が高まっているこの機会を利用する。3,隣国アルバニアに親米政権が誕生し、米国がコソヴォ自治州の自治権拡大に積極的になっている」との状況に合わせたもの。
・EC外相会議後の記者会見で、議長国のピニェイロ・ポルトガル外相はセルビア共和国がボスニア内戦に介入をしているとし、「EC各国が再協議する26日までに事態が改善されない場合、経済制裁が取られよう」と語る。
・ベーカー米国務長官とコーズィレフ露外相は、ボスニア情勢などについて協議。ベーカー米国務長官は、「セルビアに対する経済的・外交的手段を尽くした時点で、初めて多国間軍事行動に訴えるべきだ」と表明。
・ベーカー米国務長官はリスボンでの外相級会議で、「新ユーゴ連邦に対する制裁を実施するよう国連に提案する」との方針を述べる。
・ユーゴ連邦軍は、ボスニアのサラエヴォの駐屯地4ヵ所のうち、1ヵ所から支障なく撤収を完了する。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国の野党と知識人は、セルビアの民主主義と国際的威信回復を目指す野党連合、セルビア民主運動・DEPOSの結成で合意。
05/26:
・ECの高級事務レベル会合で、新ユーゴ連邦のセルビア共和国とモンテネグロ共和国に対し、「1,石油輸出禁止を含む包括的禁輸。2,資産凍結。3,航空機輸送の停止。4,輸出信用の打ち切り。5,科学技術交流の禁止」など一連の制裁措置を取ることで原則合意。新ユーゴ連邦の輸出は、50%がEC向け。
・新ユーゴ連邦のブランコ・コスティッチ大統領はガリ国連事務総長に対し、「(新)ユーゴ連邦は国連安保理決議を遵守し、国連保護軍・UNPROFORの活動に全面的に協力する。ボスニアでの戦闘には(新)ユーゴ連邦は責任がなく、むしろ政治的解決を目指して努力している」との書簡を提出。
・コーズィレフ露外相がボスニアのサラエヴォを訪問し、3民族代表との会談を仲介。3民族との間で、「1,27日から空港を再開し停戦に入る。2,この合意をセルビアのミロシェヴィチ大統領や旧ユーゴスラヴィアの幹部会も了承している」、としてサラエヴォ空港の再開と停戦で合意したと発表。ただし、空港使用は西側の人道援助や病人輸送などに限られるというもの。
05/27:
・ボスニアのサラエヴォ市の中心部に砲弾3発が撃ち込まれ、買い物客など20人が死亡、160人が負傷。セルビア人側の砲撃と伝えられるが、実行者は不明。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・セルビア人共和国」議会のクライシュニク議長は、サラエヴォ中心部への迫撃砲攻撃について、「セルビア人側部隊は、サラエヴォに1発も砲弾を発射していない」とセルビア人側の関与を否定。
註;のちの国連の調査報告では、セルビア人勢力が砲弾を撃ち込んだのではなく、セルビア人勢力を陥れるためにムスリム人勢力が路上に爆発物を仕掛けて爆発させた可能性が高いと示唆される。
・EC大使級協議で、「新ユーゴ連邦に対する貿易を禁止し、科学・技術援助を停止することで原則合意。外相協議で正式に決定し、6月から実施する予定。
・ボスニアのムスリム人勢力部隊は、サラエヴォにあるユーゴ連邦軍施設やセルビア人地区に対し、総攻撃を開始する。
・NATO国防相会議は、活動領域を平和維持活動まで広げる問題を、6月4日の外相会議において本格協議をすることで合意する。
05/28:
・ボスニア共和国のサラエヴォ空港では、激しい戦闘が続く。ムスリム人勢力側はセルビア人民兵が攻撃したと発表し、セルビア人勢力側はムスリム人勢力部隊がユーゴ連邦軍の兵舎への攻撃を仕掛けたと発表。
・国連安保理は、米、英、仏の3ヵ国が新ユーゴ連邦に対し、「1,石油の供給を含む貿易の禁止。2,航空機の相互乗り入れ禁止。3,スポーツ交流の禁止」などの制裁決議案を常任理事国に提出。
・サラエヴォ放送は、セルビア人民兵が地対地ミサイルをサラエヴォ市街に撃ち込み、クロアチア人・ムスリム人連合とセルビア人との間で激しい戦闘が続いている、と報じる。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ボスニア紛争によりクロアチアのアドリア海沿岸に逃れている避難民は11万人と発表。
・ユーロ・サッカー連盟は、スウェーデンで開かれた“ユーロ92”大会への新ユーゴ連邦の参加資格を取り消し、24時間以内にスウェーデンのストックホルム空港のロビーから退去するよう通告。参加資格取り消しの理由は、国連安保理決議757による「包括的制裁」に基づくというもの。
05/29:
・セルビア正教会は司教会議を開き、ボスニアの民族抗争の責任はセルビア政府にあるとして、ミロシェヴィチ大統領の退陣を要求。また司教会議はECに対し、セルビア人とミロシェヴィチ政権を同一視していると、制裁の不当性を訴える。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は国営TVで、「ボスニアでの民族抗争をめぐる、西側諸国の対セルビア制裁を全く恐れてはいない。こうした外圧は間もなく収まるだろう」との見通しを示す。
・国連安保理は非公式協議を開き、米、英、仏提案のユーゴ連邦経済制裁案を審議し、大筋で合意する。
・ボスニアのサラエヴォ市街地に、セルビア人民兵がロケット弾を撃ち込むなどの攻勢を強める。
・ボスニア共和国のハリロヴィチ参謀総長は、市内のほぼ全域に総動員令を発令。
・クロアチア共和国のセパロヴィチ外相は、「米国に対し地中海の第6艦隊の派遣を要請する」方針を英国TVで語る。
・米国務省は、セルビア人武装勢力によるボスニアのサラエヴォと、クロアチアのドブロヴニクへの砲撃を非難。
・日本外務省は、スロヴェニア共和国への観光旅行自粛勧告を解除する。
・EC停戦監視団筋によると、クロアチアのドブロヴニク市の中心部にユーゴ連邦軍の迫撃砲弾15発が着弾し、連邦海軍艦艇からのロケット弾が港に着弾した、という。ユーゴ連邦軍は、ドブロヴニク市の西・北方の陣地から大部分が撤収。キリピ空港付近には、まだ一部が残留している。
註;クロアチアの防衛隊は、ドブロヴニクの城壁に機関銃などを据えて銃撃を繰り返し、連邦軍の砲撃を誘発している。
05/30:
・新ユーゴ連邦幹部会は、ガリ国連事務総長に緊急メッセージを送付し、「安保理の制裁措置より、ボスニアの問題を包括的に解決する国際会議」を提唱。
・コーズィレフ露外相は、「エリツィン大統領は、国連でのセルビア制裁決議に賛成投票を投じるよう支持した」と記者団に語る。
・ブッシュ米大統領は、米国内に保有されている新ユーゴ連邦の政府の資産を凍結する、との決定を下す。米国内の保有資産は、2億1400万ドル。
・国連安保理はボスニア紛争について公式協議を開き、新ユーゴ連邦(セルビア、モンテネグロ両共和国で構成)に対する「包括的制裁決議」757を、賛成13,反対0、棄権2で採択。制裁決議の要旨;「ボスニアからの兵力撤退と介入を止めるまで、1,医薬品と食料を除く貿易を全面停止する。2,海外資産を凍結する。3,一切の基金、財源の提供を禁止する。4,飛行機の相互乗り入れを禁止する。5,外交関係を縮小する。6,スポーツ大会への参加を停止する。7,科学技術、文化交流を停止する」。
05/31:
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は(新)ユーゴ連邦への経済制裁決議について、「馬鹿げている。ボスニアの戦闘にセルビア共和国の責任はない」と主張。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国のベオグラードで、ミロシェヴィチ大統領の退陣を求める5万人規模のデモが挙行される。
・キンケル独外相は、「ユーゴスラヴィアで繰り広げられている無益な殺傷の責任は、セルビア政府およびユーゴ連邦軍にあり、責任者を国際裁判にかけるべきだ」と主張。
・ボスニアのアクマジッチ幹部会事務局長は国連平和維持軍の仲介で、「首都サラエヴォの停戦に、セルビア人民兵とボスニア政府が合意」と語る。
・日本政府は、安保理決議に賛成した立場から医薬品と食料以外の輸出入を停止するよう行政指導するほか、輸出入貿易管理令、外務省為替管理令改正手続きを行ない、経済制裁を実施する。
・(新)ユーゴ連邦の経済紙のゾラン・イェリチッチ編集長は、「制裁の影響として、セルビア国内の政治的対立が激しくなり、社会不安が増す。制裁措置は、世論の反欧米化をもたらす。制裁は、政府よりも国民生活を直撃する。クロアチアにも責任があるのに、不問に付されているのは問題だ。石油は、備蓄があるが国民総生産の20%を貿易に依存し、50%を旧ユーゴスラヴィアの各共和国に依存しているので生産の劇的低下を招く。全体として政治的に右寄りに過激化し、ファッシズムが登場する恐れがある」と論評。
・ベオグラードのスルチン空港では、経済制裁による航空便の停止により、旅行者数百人が立ち往生する。
・新ユーゴ連邦の航空機が、経済制裁中にもかかわらず、アテネの空港に到着する。
・イスラム諸国会議機構・OICのイラン代表が、経済制裁などを協議するためのOICの外相協議を6月16日に開くと語る。
・(新)ユーゴ連邦は、連邦議会の下院議会選挙を実施。主要野党がボイコットする中、投票率は60%を超える。
05/00:
・ボスニアのシライジッチ外相は、ニューヨークのPR会社「ルーダー・フィン社」と契約。その後、シライジッチ外相はイギリスやポルトガルなどヨーロッパ諸国を訪問する。
06/01:
・スイス連邦政府は、(新)ユーゴ連邦への国連の経済制裁に参加することを決める。
・新ユーゴ連邦政府は、石油製品を節約する特別措置を実施する方針を明らかにする。
・オーストラリアのキーティング首相は、同国がユーゴスラヴィア国営航空の乗り入れを中止させる、と表明。
・フランス財務省スポークスマンは、同国内にある新ユーゴスラヴィア連邦の資産を凍結することを検討している、と述べる。
・ドイツ経済省スポークスマンは、「メレマン経済相は、ユーゴ連邦資産を凍結する命令を2日に出す予定だ」と述べる。
・英外務省は、リカノヴィチ駐英新ユーゴ連邦大使を呼び、2週間以内に出国するよう要請。
・新ユーゴ連邦の国内では、生活必需品の買いだめをする人が増える。セルビアの大学生は制裁の狙いはセルビアであり、ボスニア情勢の安定には関係ないと思うと述べる。繊維会社の副社長は羊毛が100%輸入なので、会社は70~80%の売り上げ減となり、繊維労働者10万人が失業するだろうと語る。
・ボスニアのムスリム人勢力とセルビア人勢力の停戦合意はたちまち破られ、迫撃砲や機関銃による交戦状態となる。互いに相手方が先に攻撃を仕掛けてきたと主張。
06/02:
・ガリ国連事務総長はボスニア紛争に関し、「セルビア人のみでなく多くの民族にも責任がある。さらにボスニアのセルビア人は、セルビア共和国の指示は受けていない。ボスニアのセルビア人勢力を、誰が政治的に統制しているかは不明確」とする内容の報告書を安保理に提出する。
・新ユーゴ連邦幹部会はボスニアのセルビア人勢力の指導部に対し、「サラエヴォやセルビア人地域での他民族への攻撃を止め、占拠しているサラエヴォ空港を国連の管理に任せるよう求める。また、国連保護軍に対し、ボスニアに監視団を送るよう要請」するとの声明を発表。
・ボスニア共和国政府とユーゴ連邦軍は国連の仲介により、サラエヴォのチトー元帥兵舎からの連邦軍撤収を3日から始めることで合意。
註;クロアチア共和国軍がユーゴ連邦軍の兵舎を封鎖しているため、撤収出来ないでいたもの。またボスニア政府が連邦軍の撤退を要求していながら兵舎を封鎖するという矛盾した行動を取っているのは、その行動を制約するとともに、連邦軍の武器や装備を確保するのが目的。一部の連邦軍は、武器をボスニア政府に譲渡している。
06/03:
・国連安保理の非公式協議で、ジンバブエのムンベンゲウィ国連大使はガリ事務総長の報告について、「安保理決議は、新ユーゴ連邦を制裁すればボスニア地域のセルビア人勢力も従うという前提で出されたはず。これでは話が違う」と不満を述べ、中国大使も賛同する。
・米・英両国は、「(新)ユーゴ連邦に、紛争の一義的な責任があるのは明確」とジンバブエに反論。
・フランスのメリメ大使は、「採択前に報告書の情報を入手したかった。採択した以上は、守らねばならないが、今後軍を撤退しなければ、クロアチア共和国への制裁も考えられる」と述べる。
・ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領は英国テレビとのインタビューで、「国連による制裁が解除されるなら、辞任する用意がある」と語る。ミロシェヴィチ大統領はさらに、「経済制裁は、セルビアに深刻な影響を与える」との認識を示し、「国連との協力関係を求めており、対立することを望んでいるわけではない」と述べる。
・新ユーゴ連邦共和国の下院議会選挙の中間発表では、定数138議席のセルビア共和国側の割当108議席のうち与党社会党が73議席、急進党が30議席。有力野党はボイコットを呼びかけ、アルバニア系住民有権者が棄権する中での投票率は、56.6%。
06/04:
・国連の機関によると、ユーゴスラヴィア紛争での難民・避難民が150万人に達したと発表。クロアチアからの難民・避難民のうち、クロアチアへは25万人、ボスニアへは9万3000人、マケドニアには2500人、モンテネグロには7500人、セルビアには17万人、スロヴェニアには3000人。
ボスニアからの難民・避難民は、クロアチアへは25万8000人、ボスニアへは27万人、マケドニアには4500人、モンテネグロには2万2000人、セルビアへは14万5000人、スロヴェニアへは5万3000人。オーストリア・ドイツ・イタリアなど西欧へは計25万人。
・NATOの外相会議は、ユーゴスラヴィアとアゼルバイジャンの両紛争について、当事者間の話し合いによる早急な解決と人道援助に、NATOが協力する用意があることを明確にする声明を発表。
06/05:
・新ユーゴ連邦政府はガリ国連事務総長に、「ボスニア領土に向かう武装グループの、移動を禁止する有効な措置を取った。(新)ユーゴ連邦共和国とボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の国境に沿って、国連監視団による国際的統制を実施するように提案する」 との書簡を送ったが、無視される。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは5日現在で、ユーゴスラヴィア紛争による避難民が170万人に達したと発表。さらに、安保理の経済制裁によって救援用の毛布などを積んだUNHCRの車輌が、ドイツ、オーストリア国境で立ち往生したり、救援のための燃料補給が困難になっていることを明らかにする。
・フランス政府は新ユーゴ連邦に対する国連安保理の経済制裁決議を受け、セルビア、モンテネグロ両共和国の資産を即時凍結する命令を出す。
・ボスニアのセルビア人勢力指導者カラジッチ民主党党首は、セルビア人勢力側が占拠していたサラエヴォ空港の管理を国連に移すと発表。
・国連スポークスマンは、ボスニアのサラエヴォ空港から民族3派が撤退し、国連保護軍・UNPROFORに明け渡すことに基本合意した、と発表。
・国連安保理は非公式協議を開き、サラエヴォ空港管理の国連引き渡しを歓迎することで一致。国連保護軍・UNPROFORの任務拡大について週明けにも決議することで合意する。
・ブッシュ米大統領は、新ユーゴ連邦に対する米国の経済制裁に関する行政命令に署名。
・新ユーゴ連邦モンテネグロ共和国のブラトヴィチ大統領は記者会見で、モンテネグロが新ユーゴ連邦から離脱することを否定。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国のボジョヴィチ首相は、「経済制裁の期間を短縮すること」を政策の筆頭にあげる。
・モンテネグロ共和国のブラトヴィチ大統領は、「制裁で生き延びることを考えるより、制裁が解除されるようにすべきだ」と表明。
06/06:
・英国軍医療部隊のブライズノートンの空軍基地から、国連保護軍に加わるため250人をクロアチアに送り込む。
・ボスニアのサラエヴォで、セルビア人勢力側の砲撃で少なくとも10人が死亡、20人が負傷。
06/07:
・メージャー英首相とブッシュ米大統領は会談後の記者会見で、「(新)ユーゴ連邦に対する、国連安保理の経済制裁決議を徹底させる」方針を明らかにする。
06/08:
・国連安保理は公式協議を開き、ボスニアのサラエヴォ空港を管理するため、クロアチアに派遣している国連保護軍・UNPROFORの任務と要員を拡大する決議758を全会一致で採択。サラエヴォ空港の再開は、4段階を経て行なわれる。「1,軍事監視要員60人を派遣し、各派による対空兵器の射程外への撤去を確認。火砲、地対地・空ミサイル、戦車を一定の場所に集結させて管理下に置く。2,歩兵大隊1000人を派遣してサラエヴォ空港を掌握する。3,空港運営、人道援助の文民を投入する。4,空港再開を目指す」。第2段階以降は再度、安保理が報告に基づいて判断する。
・新ユーゴ連邦のモンテネグロ共和国は、ガソリンの配給制を導入。セルビア共和国政府もガソリンの配給制を導入し、個人は月30リットル、企業は200リットルに制限。
・ガリ国連事務総長は、ボスニアのサラエヴォ空港を管理するための国連保護軍1100人を国連安保理に要請。
・ボスニアの戦闘はさらに激化し、セルビア人勢力はほぼ全土の半分を支配下に置く。ムスリム人勢力側は、イスラム諸国の支援を背景に、劣勢を挽回しようと企図。サラエヴォ市内では、30万人といわれる市民は地下室などに閉じこめられたままとなる。
・ボスニアに侵攻したクロアチア共和国軍は、国連が求める撤退に応じず、戦闘を繰り返す。
06/09:
・ボスニア共和国のムスリム人武装勢力とクロアチア人武装勢力は、サラエヴォを包囲しているセルビア人勢力陣地を数ヵ所で突破したと発表。一連の戦闘で、セルビア人勢力側は18人が死亡、ムスリム人・クロアチア人勢力側は死者20人、負傷300人。この戦果によって、サラエヴォでの戦闘は下火になるが、北ボスニアでは戦闘が激化。
・ボスニア共和国のシライジッチ外相は、米TV「ナイト・ライン」に出演し、セルビア人勢力の非道を訴える。
・(新)ユーゴ連邦セルビア共和国の新選出の与党社会党の12人の議員が、党路線の変更がなければ新党を結成すると表明。
・国連スポークスマンは、国連保護軍の軍事監視要員30人を、10日にサラエヴォ空港に派遣すると発表。
・新ユーゴ連邦幹部会は、ボスニアの戦闘激化に関するアピールを発表。「紛争当事者は即時、無条件で破壊的な武力衝突を停止すべきだ」と呼びかける。
06/10:
・新ユーゴ連邦議会が初会合を開き、15日に新大統領を選出すると決定。モンテネグロ共和国与党の社会民主党はスベトザル・マロヴィチ書記長を大統領候補に指名。
06/11:
・新ユーゴ連邦幹部会は下院議長にセルビア社会党のコスティッチを選出し、上院議長にモンテネグロ社会民主党のラドゥロヴィチを選出。連邦議会は7日以内に大統領を選出し、首相を大統領が指名する。
・セルビア正教会は旧ユーゴスラヴィアの全信者に対し、14日の礼拝の後ミロシェヴィチ・セルビア大統領の辞任を求める街頭デモに参加するように呼びかける。野党のセルビア民主運動も正教会の呼びかけに応え、参加を決定。その他の穏健派野党や知識人や学生も参加を表明する。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領は、安全のためにドバノブツィにあるユーゴ連邦軍基地に避難。
06/13:
・セルビア共和国の音楽家や芸術家およそ200人が、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の辞任を求めて座り込みを実行。
06/14:
・セルビア正教会のパブレ総主教が呼びかけた、ミロシェヴィチ・セルビア大統領の辞任を求めるベオグラードでのデモは、1万人以上の市民が参加して挙行される。
06/15:
・新ユーゴ連邦議会は(新)ユーゴスラヴィア連邦の初代大統領に、ドブリツァ・チョシッチを賛成多数で選出。チョシッチ新大統領は就任演説で、「1,与野党の妥協による民主統一政府の建設。2,隣国、欧米との関係回復と国連経済制裁の解除。3,クロアチアおよびボスニア共和国内のセルビア人への配慮」などの基本方針を表明。
・ボスニア共和国のセルビア人勢力側が一方的停戦を発表して実施し、ボスニアは平静となる。
・米国防総省は、ボスニア共和国への国際的な救援活動を防衛するために、米軍を投入するための具体的な方法を検討し始めている、とニューズ・ウィーク誌が報じる。
・ボスニア共和国のシライジッチ外相は国連で記者会見し、安保理に対しサラエヴォ空港を再開するために、国連憲章42条による安保理主導による軍事力の使用許可を求める要請書を提出したことを明らかにする。
・国連保護軍の専門家がボスニアのサラエヴォ空港に入り、施設や計器を点検し、砲撃で痛んだ滑走路の修理に時間はかかるものの再開は間近と発表。サラエヴォ周辺は平静さを取り戻している。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国の与党社会党のヨヴィチ党首は、民主統一政府づくりのために新たな総選挙を実施するべきとの野党の要請を受け入れると発表。この発表を受け、セルビア民主運動は代表者会議を開き、21日に予定していたミロシェヴィチ政権打倒のデモを延期すると決める。
・セルビア共和国のベオグラード大学の学生は、「1,セルビア政府、議会の解散。2,ミロシェヴィチ大統領の辞任。3,賢人による国民救国暫定政府の設立。4,同政府による憲法制定議会選挙の実施」の4項目要求を掲げてストに突入する。学生代表がミロシェヴィチ大統領に要求を突きつけたが、大統領は拒否する。
06/16:
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領がサラエヴォで記者会見し、ボスニア共和国とクロアチア共和国との軍事協力関係を強化することで、トゥジマン・クロアチア大統領と合意した、と述べる。
・ボスニアの南部のモスタル市で、ネレトヴァ川を挟んで右岸を制していたセルビア人勢力側に、クロアチア人勢力側が大攻勢をかける。
・ボスニアのサラエヴォ市全域で、夜になって激戦が再開。
・イスラム諸国会議機構・OICの臨時外相会議でトルコのデミレル首相は、「セルビアの冒険主義と侵略がなくならない限り、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに平和は来ない」と述べ、国連に断固たる行動をとるよう求める。
06/17:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ユーゴスラヴィアの内戦で居住地から逃れた国民は、200万人以上に上ると発表。
06/18:
・EC旧ユーゴ和平会議のキャリントン議長は、ボスニア紛争の解決策を探るため、25日にストラスブールで緊急会議を開催することを提案。
06/19:
・関税と貿易に関する一般協定・GATT理事会がジュネーブで定例理事会を開き、新ユーゴ連邦の加盟国としての資格を停止すると決める。
・欧州同盟・WEUの外相・国防相会議は、「ユーゴスラヴィア紛争の早期解決を求める」声明を発表。
・ボスニアのサラエヴォに、フランスの市民団体が130トンの食料や医薬品などの緊急援助物資をトラックで運び入れる。同団体は、セルビア人民兵側に15分間の砲撃中止を認めさせる。
・セルビア共和国のベオグラード大学の学部長の臨時会議で、ミロシェヴィチ大統領の退陣を求めるストを支持し、ベオグラード大学は68年以来の大規模なストに突入する。
06/20:
・ボスニア共和国の幹部会は、ボスニア全土に「戦争状態」を宣言し、首都サラエヴォに総動員令を出す。
・ボスニア共和国のアブディッチ幹部会員は、「セルビア、モンテネグロ両共和国およびユーゴ連邦軍、セルビア民主党過激派によって武力侵略されている以上、防衛しなければならない」と述べる。ムスリム人とクロアチア人勢力側はクロアチア共和国との軍事同盟を強化し、交渉による解決を事実上拒否する。
・国連保護軍・UNPROFORはボスニア最高幹部会議に対し、もし48時間以内に停戦が実現されない場合は、国連保護軍の撤退もあり得る、と通告。平和維持軍は18時からの停戦を呼びかけるが、サラエヴォの戦闘は止まず。
06/21:
・ボスニアのサラエヴォでの戦闘は継続する。
06/22:
・ボスニアのサラエヴォ市中心街に砲弾が撃ち込まれ、市民5人が死亡、35人が負傷。ムスリム系のサラエヴォ放送はセルビア人勢力側の攻撃と非難しているが、最初に攻撃したのはムスリム人勢力側との情報もあり、情報は錯綜している。
06/23:
・ベーカー米国務長官は米上院外交委員会で、セルビア側の行為は「完全な非道」であると非難し、新たな経済制裁をとる方針を表明。ブッシュ大米統領に対しては、「1,新ユーゴ連邦との外交関係を大使級から格下げする。2,シカゴの旧ユーゴスラヴィア領事館の閉鎖。3,(新)ユーゴ連邦の国際機関での旧ユーゴ連邦代表権継承を自動的には認めず、(新)ユーゴ連邦に新規加盟手続きを求める。との3点を勧告する」と述べる。さらに、他の諸国と協議し、サラエヴォ空港の人道援助物資搬入妨害を排除する措置を追加すると述べる。
06/24:
・ボスニア共和国のシライジッチ外相が非公式に中国を訪問し、中国がボスニア共和国を早急に承認するよう求める。
06/25:
・ECの旧ユーゴ和平会議がストラスブールで開かれ、ミロシェヴィチ・セルビア大統領やボスニア共和国代表、クロアチア共和国代表などが出席。キャリントン議長と会談したミロシェヴィチ・セルビア大統領は、サラエヴォ空港再開に向けてボスニアのセルビア人勢力側が一方的に停戦をし、武器を1ヵ所に集めて国連保護軍・UNPROFORの監視下に置くことを約束。ムスリム人勢力側の対応は不明。 キャリントン議長はさらに、「1,コソヴォ自治州の問題に対してECと話し合うこと。2,ボスニア共和国を国家承認するよう」提案。ミロシェヴィチ大統領は、「コソヴォ自治州の問題については話し合いを拒否する。ボスニアについては、先ず3民族が独立について合意することが必要だ」と述べ、ECがボスニアの独立を承認したことを非難。ユーゴ和平会議は成果なく閉幕する。
・ミロシェヴィチ・セルビア共和国大統領は、ギリシアの民放テレビのインタビューで、「(新)ユーゴ連邦とギリシアの国家連合構想をミツォタキス・ギリシア首相に提案した」と語る。
・スロヴェニア共和国は、独立1周年を祝う。スロヴェニア共和国のインフレ率は250%、工業生産は70%に減少、西側への輸出は伸びる。
・クロアチア共和国は、領土の3分の1がセルビア人勢力に占領された状態で1周年を祝うどころではなく、インフレは1400%、農業生産は60%に落ち、失業率は10%を超える。軍事予算が国家予算12億ドルの75%を占め、避難民が60万人も入り込み、その費用が6200万ドルになり、クロアチア民主同盟への支持は5割から3割に低下する。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国は独立を宣言したものの、領土の60%をセルビア側に支配されている。
・新ユーゴ連邦は国連経済制裁下にあり、企業閉鎖により失業者が増大し、1日に4%のインフレに見舞われる。ミロシェヴィチの支持率は25.6%。急進党のシェシェリ党首の支持はそれ以下。
06/26:
・国連のガリ事務総長は安保理に対してボスニア問題に関する緊急報告を行ない、「サラエヴォでの流血の責任は主として停戦合意の精神に反して攻撃を激化させているセルビア人武装勢力の側にある。48時間以内にセルビア人勢力が攻撃を止めなければ、サラエヴォ空港再開の可能性を再考せざるを得ない」と通告。
・ボスニアのセルビア人勢力が戦車や歩兵部隊でサラエヴォ空港周辺への総攻撃を行ない、ボスニア政府側が応戦。
・ブッシュ米大統領はベーカー国務長官、チェイニー国防長官、パウエル統合参謀本部議長をホワイトハウスに呼び、ボスニア問題に関して協議。現段階では軍事力を行使してサラエヴォ空港を再開させる方針はとらないことを確認する。
・EC議長国のポルトガルのピニェイロ外相は、ボスニア紛争に介入している新ユーゴ連邦に対する制裁は十分効果を上げていない、として追加措置を講じるよう提案。
06/27:
・ボスニアのサラエヴォ放送は、セルビア人武装勢力によるサラエヴォ空港への激しい砲撃が行なわれた、と伝える。一方で、空港再開での停戦を破っているのはムスリム人中心のボスニア共和国郷土防衛隊の方であり、セルビア人勢力の「追放」を目指しているのがムスリム人勢力側だとの情報がある。
・EC首脳会議は、ボスニア共和国の内戦の最大の責任が、セルビア人を中心とするユーゴ連邦軍とセルビア共和国にあると指摘。安保理に対し、人道的な救援物資を運ぶためのサラエヴォ空港を再開する「必要な措置を求める」武力介入を示唆する宣言を採択。さらに、ECの共通外交・安全保障政策の柱となる「共同行動」の対象地域を特定する。当面の対象地域として、中欧・東欧、地中海沿岸、中東地域を例示。
・ボルトン米国務次官はサラエヴォへの救援計画について、米軍による空輸支援を申し出たが、ガリ国連事務総長が政治的配慮からこれを却下した、と述べる。
・ガリ国連事務総長は、「セルビア人勢力側がサラエヴォ空港近くでの軍事行動を控えており、この動きを歓迎する。ただイスラム教徒民兵らがセルビア人勢力側に新たな攻撃を加え、サラエヴォ市民が新たな被害に遭う危険がある」との憂慮を示し、ボスニア側に自重を促すなどの声明を発表。
06/28:
・ミッテラン仏大統領は、ボスニアのサラエヴォを突然訪問する。国連保護軍のマッケンジー現地司令官からの説明を受けた後、イゼトベゴヴィチ・ボスニア共和国大統領と会談。一方の当事者のセルビア人勢力代表としてコーリェヴィチ共和国幹部会員とも会談。帰途、ミッテラン仏大統領が搭乗していたサラエヴォの空港に向かうヘリが銃撃を受ける。また、付近で発砲が再開され、セルビア人勢力兵士6人が負傷。この攻撃を仕掛けたのはムスリム人勢力側であり、セルビア人勢力側が反撃してムスリム人勢力の攻撃を収束させ、ミッテラン仏大統領は帰途に着く。
・国連保護軍は29日からボスニアのサラエヴォ空港を管理下に置く見通しを語ったが、既に1週間ほど前から国連への移管作業は始まっており、セルビア人勢力側は空港周辺の武器を撤収しつつある。カラジッチ・セルビア人勢力代表は、「空港の管理は明日29日にも国連側に移管されるだろう」と述べる。
・サラエヴォ空港の戦闘が再開されたため、フランスの輸送機が3トンの医薬品・食料などの輸送ができずにクロアチア南部スプリトに足止めされる。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国のベオグラードで、野党連合「セルビア民主運動」および知識人などが、ミロシェヴィチ大統領の退陣を要求する10万人規模の大規模集会を開き、デモを実施する。旧ユーゴスラヴィア王国のカラジョルジェヴィチ王家のアレクサンダル皇太子が、ベオグラードに一時帰国して参加。
・米PR会社ルーダー・フィン社は、ボスニアのセルビア人勢力の行為についての「民族浄化」の例をまとめた文書を作成して関係先に配布。この文書に、「強制収容所」なる言葉が使われる。やがて、これが世界を動かすことになる。
註;ルーダー・フィン社が主張したような組織的な「強制収容所」なるものは存在せず、「強制収容所」の存在を証明するものとして世界に出回ったオマルスカの「捕虜収容所」の有刺鉄線の向こう側の痩せた男の写真は、後に明らかにされたところによると、安全のために変電機器を囲っていた有刺鉄線の逆側から撮ったものであった。PR会社ルーダー・フィンが流布して以来、ボスニア政府も「強制収容所」という名称を多用した。赤十字国際委員会が出入りしていた難民キャンプをも、「強制収容所」と称した。
06/29:
・ボスニアのサラエヴォ空港は、セルビア人勢力側が最後の戦車を撤収し、国連保護軍・UNPROFORの先遣隊に移管される。正式移管は、本隊が移駐した後に行なわれる。
・国連安保理は公式協議を開き、国連保護軍・UNPROFORから1000人規模の歩兵大隊を、サラエヴォ空港再開のために現地に派遣する決議761を、全会一致で採択。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国の反大統領派の野党代表らは首相ら4人と会い、「1,ミロシェヴィチ大統領の退陣。2,共和国議会の解散。3,政権移譲のための与野党円卓会議の招集」などの要求書を提出。ミロシェヴィチ・セルビア大統領は退陣要求を拒否したが、新たな大統領選挙の実施と与野党による円卓会議を開催する用意がある、と回答。
・フランスの市民団体の人道援助物資を積んだ輸送機がサラエヴォ空港に到着し、食料・医薬品6.5トンが降ろされる。
・新ユーゴ連邦の自主労組代表はチョシッチ連邦大統領に対し、「現在就業者は250万人、失業者は70万人に達し、倒産の危機にある会社の従業員総数は50万人。このままでは持ちこたえられても3ヵ月」と経済制裁の影響を報告する。
06/30:
・国連安保理が新ユーゴ連邦に経済制裁を科して1ヵ月が経過。ユーゴスラヴィアでは工場閉鎖が相次ぎ、失業者が増大し、野党や知識人によるミロシェヴィチ大統領の退陣要求運動が広がる。
・ボジョヴィチ・セルビア共和国首相は、「制裁は不公正であり、問題の解決には貢献しない。セルビアは大きな打撃を受け、スタートしたばかりの市場経済改革の実現が阻害されている」と述べ、7月1日から、「1,通貨を大幅に切り下げ、新札を発行する。2,インフレを抑えるために物価、賃金を統制する」などの厳しい経済政策を実施することを明らかにする。
・フランスのボスニアへの援助機4機がサラエヴォ空港に到着する。
・メージャー英首相は、下院で英空軍機によるサラエヴォ空港への物資輸送作戦が間もなく始まるだろう、と表明。
・国連安保理は公式協議を開き、クロアチアの国連保護軍地域周辺に、軍事監視要員60人、国連文民警察官120人を派遣する決議762を全会一致で採択。セルビア人住民居住地域にクロアチア人武装勢力が侵入しているピンク・ゾーンといわれる地域に、予防外交的にUNPROFORを派遣する政策。
・チェイニー米国防長官は、「サラエヴォ空港の停戦が維持出来なくなった場合、人道的援助実施のため、米軍機による支援活動を行なう用意がある。米国の関与は、海と空から地上にいる他国の軍を支援することに限られるだろう」と述べ、米第6艦隊をアドリア海に派遣する。
・西側軍事筋は、ムスリム人勢力が国連や米軍の関与を求めて騒ぎを大きくする危険性がある、と指摘。
・ECの旧ユーゴ和平会議のキャリントン議長は、7月3日からECの仲介によるボスニア紛争の和平交渉を再開するとの声明を発表し、イゼトベゴヴィチ・ボスニア共和国大統領に参加を要請する。
・欧州会議総会は、新ユーゴスラヴィア連邦の特別ゲストとしての資格を取り消し、89年以来の特別扱いを停止する。
・ボスニアのサラエヴォ空港は再開したが、ボスニア共和国内の戦闘は依然各地で続く。
06/00:
・クロアチア共和国軍は、「ミリィフィツィ・・プラトー作戦」を発動し、国連保護地区のダルマチア地方のクライナ・セルビア人共和国の南端地域に侵攻して制圧する。
・ボスニア共和国のシライジッチ外相は、ワシントン、ニューヨーク、イスタンブール、北京、ストラスブール、ロンドンと各国を訪問し、各国首脳との会談や国際会議出席を続ける。
07/01:
・ブッシュ米大統領は第6艦隊をアドリア海に派遣したことに対し、「現状では、この軍事力をユーゴスラヴィアで行使するつもりはない」と述べる。
・フランスのサラエヴォ空港支援部隊125人が、輸送機で同空港に到着する。
・新ユーゴ連邦のチョシッチ大統領は連邦上下院議長に対し、セルビア出身の米国在住実業家の薬品会社ICN創業者のミラン・パニッチを初代連邦首相に指名する、と伝える。
・ベーカー米国務長官は、「今朝、国連から初めてC130輸送機2機の派遣要請を受け、準備を進めている」と述べる。
・チェイニー米国防長官は国連の救援物資搬入作戦に関し、地中海に展開する米第6艦隊の航空機が支援体制を取る用意があることを明らかにする。
07/02:
・米国籍実業家ミラン・パニッチは、新ユーゴ連邦の首相就任要請を受諾し、ベオグラードに帰ると表明。
・ボスニア共和国のサラエヴォ空港警備のために、国連保護軍カナダ部隊が駐屯先のクロアチアからサラエヴォに移動する。
・オーストリア政府は、クロアチア共和国とスロヴェニア共和国の旅券を持っていない旧ユーゴスラヴィア旅券所持者のオーストリア入国に、ビザ取得を条件づける。この措置により、旧ユーゴスラヴィア連邦の旅券しか所持していない難民は、入国を拒否されることになる。
07/03:
・ECの旧ユーゴ和平会議のキャリントン議長は、ボスニア紛争解決の糸口を探るためにサラエヴォ入りし、セルビア人勢力のカラジッチ代表、ムスリム人勢力のイゼトベゴヴィチ大統領、クロアチア人勢力の無名の代表を含む各民族の代表と個別に会談。しかし解決の糸口はつかめず、「国連が各民族代表に交渉の席に着くようさらに圧力をかけてくれるよう期待する」と述べる。クロアチア人勢力側の代表が無名の人物であったことが、和平交渉へのクロアチア人勢力側の関心の低さを表している。キャリントン議長がサラエヴォを去った後、交戦が始まる。
・新ユーゴ連邦の首相就任を要請された米国籍の実業家ミラン・パニッチは、セルビアのベオグラード入りする。チョシッチ・新ユーゴ連邦大統領との会談後に記者会見し、「当面の課題は国連制裁の解除であり、そのためには先ず戦争を止めさせることが重要だ」と述べる。
・東欧支援国会議G24は事務レベル会合を開き、ボスニアのサラエヴォ向けに共同で人道援助を実施することを決める。ECは追加援助の必要額を3億ドルと推定しているが、ECスポークスマンによると、この日の援助拠出額の申し出は800万ドルのみ。
・ボスニアのサラエヴォ空港にはこの日、米、英、フランス、スウェーデン、ノルウェー、イタリア、ギリシアの航空機10機以上が到着し、食料品や医薬品などの救援物資を輸送。
・ボスニアのクロアチア人勢力は、西ヘルツェゴヴィナのグルデで防衛会議を開き、「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア自治区」設立を決定する。首都はモスタル市に置き、通貨はクロアチア共和国と同一のものを流通させる。
07/04:
・ドイツ政府は、ボスニアのサラエヴォへの救援物資空輸にドイツも参加したと発表。
07/06:
・ボスニアのクロアチア人勢力が設立した「ヘルツェグ・ボスナ・クロアチア自治区」は、独自の政府、学校、テレビ局、通貨を持つ事実上の独立を宣言したもの。クロアチア人勢力は西ヘルツェゴヴィナ地域を中心に30%を自治区とし、ボスニア政府の権限はおよばないとする。
・ムスリム人勢力と化しているボスニア政府は、クロアチア人勢力の行為を「非合法」として非難。
・UNHCRの緒方貞子高等弁務官は、旧ユーゴスラヴィア各地を視察。UNHCRによると、ユーゴスラヴィアの難民は50万人、避難民は170万人で、合計220万人が紛争によるものだと発表。多くの難民・避難民は、スロヴェニア、クロアチア、セルビア共和国の難民施設や親類知人宅などに身を寄せる。サラエヴォでは、現在38万人の住民が戦闘により閉じこめられる。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国の野党は、ミロシェヴィチ大統領の退陣を要求して抗議集会を行なっていたが、主催者の「セルビア民主運動・DEPOS」が終了を宣言し、9日間にわたった抗議行動を終了させる。
・イタリアのスコッティ外相は、ミュンヘンで行なわれる主要先進国首脳会議で出す予定のユーゴ問題に関する特別声明を発表。要旨;「1,サラエヴォに限らず人道援助を行なう。2,国連の制裁措置の実効性を確保するために監視を強化する。3,少数民族の保護を強化する」の3点を外相レベルで合意したと語る。
・先進国首脳会議が開かれるミュンヘン・サミットのワーキング・ディナーで、各国首脳の間に新ユーゴ連邦の選手がバルセロナ・オリンピックに参加出来ない可能性に話が及び、「是非参加させてあげたい」と同情的な声があがる。
07/07:
・ミュンヘン・サミットG7で7ヵ国首脳は、旧ユーゴスラヴィア紛争について協議し、「サラエヴォへの救援活動が関係当事者の非協力により失敗した場合は、国連による軍事的手段を除外しない新たな措置を検討しなくてはならない」などを柱とする宣言を発表。
・ベーカー米国務長官は旧ユーゴスラヴィア問題についての記者会見で、「危機解決のため、幅広い国際会議が招集されることになろう」と述べる。
07/09:
・CSCE首脳会議がフィンランドのヘルシンキで開かれる。ブッシュ米大統領は会議での演説で「ボスニアではこの瞬間にも『民族浄化』が行なわれている」と語る。この会議中に、ブッシュ米大統領とボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領の会談が行なわれる。イゼトベゴヴィチ大統領は「サラエヴォを攻撃しているセルビア人勢力たちの大砲の陣地を空爆してほしい」と発言。ブッシュ米大統領は、「ボスニアのセルビア人武装勢力が使用している重火器に対し、空からの攻撃を検討する」との方針を伝える。
・チョシッチ新ユーゴ連邦大統領は、ヘルシンキで開かれているCSCEに、新ユーゴ連邦がボスニアのセルビア人勢力に影響力を行使し、「1,サラエヴォ空港の国連軍への明け渡し。2,サラエヴォ周辺のセルビア勢力の停戦遵守」など、国連安保理のボスニア停戦終結を求めた決議を履行するように努力している、との内容の書簡を送る。
・ベーカー米国務長官は、多国籍軍の投入には新たな国連の決議が必要であり、米国の関心はボスニアへの食料と医薬品の供給にある、と述べる。
・米国防総省当局者は、ボスニアへの人道的救援物資輸送支援に対する米国政府の決意の表れとして、米第6艦隊の巡洋艦と揚陸艦をアドリア海のユーゴスラヴィア沖に今日中に戻す、と語る。
・フランス外務省は、ボスニア共和国のサラエヴォ空港に580人の兵士を2週間以内に送ることを明らかにする。フランスの派遣要員は合計700人となる。
・国連保護軍のスポークスマンは、ボスニアのサラエヴォをめぐる戦闘にクロアチア共和国の正規軍が関与している可能性がある、と示唆。
・EC旧ユーゴ和平会議のキャリントン議長は、国連安保理の非公式協議でボスニア情勢について報告し、ボスニア共和国当局の和平会議参加を説得するよう要請。
・NATOは、加盟国軍を条約の域外としてのボスニアに、初めて軍を派遣することを決定する。
07/10:
・西欧同盟・WEUは緊急外相会議を開き、国連決議に基づく新ユーゴ連邦の経済制裁の徹底を図るために、アドリア海に艦艇を派遣し、監視行動に入る方針を決める。WEU議長国のイタリアのスコッティ外相は記者会見で、「海上監視は、将来の欧州の共通防衛政策を担うWEUが決断した初の現実行動である」と強調。監視海域は、アドリア海の入り口に当たるオートランド海峡から新ユーゴ連邦モンテネグロ共和国沖の公海で、フリゲート艦5,6隻、海上監視航空機4機、ヘリコプターなどを投入する。海軍を持たないルクセンブルグ以外の全ての国が参加。WEUが独自の行動を決定したのは、フランスの「欧州問題は欧州で」の思惑による。
註;西欧同盟・WEUは1948年に、冷戦期における西欧の防衛に関するブリュッセル条約に基づく軍事組織。49年に成立したNATOとは別に西欧の同盟として2011年まで存在した。
・NATOはWEUの会議に引き続き外相会議を開き、WEUと協調行動を取ることで一致。WEUの監視活動はNATO軍の指揮系統を使うこともあり、事実上NATO軍としての作戦行動となる。NATO軍がWEUと共同行動を取るのは、米・英政府の意思の反映と見られる。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相候補は、WEUとNATO軍が新ユーゴ連邦を無視してアドリア海に監視の艦艇を派遣することを決めたことに危機感を抱き、事態の打開を図るために急遽ヘルシンキに飛ぶ。パニッチ首相候補はヘルシンキで記者会見し、「旧ユーゴスラヴィア各共和国が互いに独立を承認すべきである」と表明し、クロアチア共和国のトゥジマン大統領と会談。パニッチ首相候補は、ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領とも会談する意向を表明。
・新ユーゴ連邦軍のフリゲート艦と潜水艦各2隻が、NATO軍の艦隊に対抗してモンテネグロの沖合に出動。
・ボスニアで平和維持活動をしている国連保護軍・UNPROFORのマッケンジー司令官は、ローマでNATO軍などの軍事力使用の傾向が強まっていることについて、「我々が行なおうとしていることとは、逆の方向に行きかねない」と外交努力での解決を図るよう国際社会が努力する必要性を強く訴え、懸念をも表明する。
・CSCE首脳会議は、紛争防止機能の強化を核とするサミット宣言「変革への挑戦」、および新ユーゴ連邦のボスニア紛争への干渉を非難する「ユーゴ危機に関する宣言」を採択する。宣言は、ボスニア共和国の提案を受け、旧ユーゴスラヴィアでのボスニアを中心とする状況の悪化の「主な責任は、ベオグラード政権にある」と指摘し、「国連決議に基づく国際的な協調行動により、武装勢力の撤退と武装解除を実現させ、戦闘を止めさせねばならない時が来た」と記述。さらに、コソヴォとヴォイヴォディナ両自治州などに紛争予防のためのCSCE派遣団を送ることを決める。
・コーカサス地域のナゴルノ・カラバフ紛争を抱えるアルメニアのアルチュニャン首相は、「CSCEの政治対応が、紛争の進展に追いついていない」と述べる。
・ハベル・チェコスロヴァキア大統領は、ソ連の崩壊に伴い「共産主義が抑えてきた鍋が爆発し、憎しみの悪魔が飛び出した」とと述べる。
・エリツィンロシア大統領は、CSCE首脳会議で「ナゴルノ・カラバフやモルドバ、ユーゴスラヴィアなどで激化している民族紛争解決のために軍事的措置も含めた緊急の対応が必要だ」と演説。
・チョシッチ新ユーゴ連邦大統領は、CSCE首脳会議に「新ユーゴ連邦は和平のために国連、CSCEに協力する」との書簡を送ったが、ほとんど無視される。
07/11:
・ボスニアのセルビア人勢力の民兵は、サラエヴォ南東70キロのゴラジュデへの大攻勢をかけるとともに、南部のクロアチア人勢力が制圧しているモスタル南方の拠点をも奪取する。
・ボスニア共和国の参謀総長は、ゴラジュデ周辺のムスリム人およびクロアチア人民兵への救援体制に入るよう指示。
・フランス国防省は、国連の要請によりボスニアのサラエヴォへの攻撃ヘリの派遣を中止する。
・国連当局者の情報によると、ボスニアのサラエヴォ空港を警備している国連保護軍のカナダ兵が銃撃を受け、2人が負傷する。
・ボスニア共和国幹部会は、ゴラジュデをセルビア系民兵が攻撃している問題を協議するための国連安保理緊急会議招集を要請。さらにボスニア共和国のドコ国防相は、チェイニー米国防長官に「軍事介入を求める」書簡を送付。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相候補は、セルビア人勢力のカラジッチ代表に電話をかけて攻撃中止を要請。カラジッチ代表は協力を約束。しかし戦闘は止まず。
07/12:
・ガリ国連事務総長は国連安保理に対し、ボスニアへの人道援助を確実にするため、サラエヴォ空港の国連保護軍を現在の1000人に加え、500人を追加派遣をするよう要請する。
・新ユーゴ連邦外務省は、CSCE首脳会議が旧ユーゴスラヴィア連邦の流血の責任は新ユーゴ連邦にあるとした声明に対し、「新ユーゴ連邦軍は、ボスニア領内には存在しない。CSCE声明は新ユーゴ連邦に圧力をかけ、CSCE内の幾つかの国による時期尚早なボスニア承認の責任を隠蔽するものである。新ユーゴ連邦が内戦を停止し、公正な平和をつくるために努力をしているときに出された、『受け入れがたく、不公正、不公平なものである』」と反論する。
・フランス軍輸送機がボスニアのサラエヴォ空港に着陸態勢に入った際に銃撃を受け、3発が機体に命中。
・ボスニア・テレビの記者が、ボスニアのセルビア人民兵がゴラジュデに大砲や迫撃砲や戦車砲による攻撃をかけ、市内の工場や体育館、市庁舎などが炎上し、路上には数10体の死体が転がっている、と無線で伝える。
07/13:
・NATO軍の艦隊がポルトガルのリスボンを出港し、アドリア海に向けて航行を開始する。参加した艦隊はスペイン、ギリシャ、トルコ、イタリア、オランダ、米国、ドイツなど。
・キンケル独外相は海上の監視活動であれば基本法に違反しないとしたが、ドイツの野党は人道援助に限るべきで海上監視行動には反対するとの意向を表明。
・米国防省は、アドリア海に展開する米艦艇に新ユーゴ連邦軍と思われる空軍機4機が異常接近し、対空ミサイルの発射態勢を取ったと発表。
・ボスニアのセルビア人勢力は、セルビアのベオグラードとクロアチアのセルビア人居住地域を結ぶ回廊を確保するべく、ボスニア北部の要衝ドボイを攻撃して占領。これに対し、ムスリム人勢力とクロアチア人勢力連合が反攻する。
・ボスニアのサラエヴォ空港で、国連保護軍にセルビア人民兵が狙撃。国連保護軍が応戦し、セルビア人民兵は死亡。
・セルビア共和国の野党系ボルバ紙は、ミロシェヴィチ大統領が「繰り上げ選挙に出馬しないという形での政界引退のシナリオが急速に準備されている」との観測を報じる。
・国連安保理は公式協議を開き、サラエヴォ空港周辺の安全維持のために国連保護軍・UNPROFORを500人増員する決議764を、全会一致で採択。
07/14:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、旧ユーゴスラヴィア内戦で生じた220万人以上の難民・避難民に対する人道援助を強化するため、可能な限り早期に国際会議を開くことを計画している、と発表。
・新ユーゴ連邦幹部会は、連邦新首相にベオグラード生まれのアメリカ人実業家ミラン・パニッチを選出。パニッチは、「内戦停止、和平の実現、旧ユーゴスラヴィアから独立した各国と新ユーゴ連邦との相互承認による関係回復、国際社会の信頼回復、早期総選挙の実施」を演説で訴え、副首相3人と閣僚18人からなる内閣の名簿を提出し、承認される。国防相は、パニッチ首相の兼任となる。
・ボスニアのムスリム人、クロアチア人7万人が住む町ゴラジュデを、セルビア人武装勢力が包囲して激しい攻撃を加える。
・ボスニアのサラエヴォに駐留する国連保護軍・UNPROFORスポークスマンは、サラエヴォの戦闘でクロアチア共和国正規軍がセルビア人勢力の包囲地点を、10キロ外側から砲撃していることを確認する。
・クロアチア共和国の西部でパトロール中の国連保護軍の車が、地雷に触れ、3人が負傷する。
・緒方貞子UNHCR高等弁務官と同行取材した朝日新聞記者の報告によると、戦火を逃れて来た避難民のクロアチア人はセルビア人民兵の残虐さを訴え、セルビア人避難民はクロアチア人勢力の残虐さを訴える。クロアチア人が多い村ではセルビア人の家屋や商店は破壊され、セルビア人が多い村ではクロアチア人の家屋や商店が尽く破壊されている、という。
07/15:
・ドイツ政府は、新ユーゴ連邦に対する国連の経済封鎖を監視するため、他のNATO諸国とともに海軍をアドリア海での哨戒活動に出動させることを閣議で決める。当面は、駆逐艦1隻と哨戒機4機。
・NATO軍は、新ユーゴ連邦への経済制裁を確実なものにするためのアドリア海の監視活動を開始する、との声明を発表。
・ECユーゴ和平会議がロンドンで開かれたが、ボスニア共和国のシライジッチ外相がボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表との同席を拒否したため、個別会談となる。シライジッチ外相は、「1,全ての戦争行動の停止。2,紛争前の状況の回復。3,ボスニア政府の承認と国境の承認。4,戦争被害への賠償と戦争犯罪の処罰」を提案。セルビア人勢力カラジッチ代表は、各国によるボスニアへの人道援助物資輸送のための地上ルート「陸上回廊」の開設を原則的に受け入れる。
・ハード英外相は、旧ユーゴスラヴィア諸国を歴訪するために出発。
07/16:
・NATO軍はアドリア海のユーゴスラヴィア領海に入り、経済制裁を確保するための海上監視活動に入る。既にWEUのイタリア海軍の艦船が監視活動を行なっており、共同作業となる。
07/17:
・ECの旧ユーゴ和平会議のキャリントン議長は、ボスニアのムスリム人勢力、クロアチア人勢力、セルビア人勢力の3民族の代表の間で2週間の停戦協定が成立した、と発表。さらに、27日からロンドンで将来の憲法体制について話し合うことで合意。19日に発効する協定は、「1,永続的な休戦。2,国連による重火器の管理。3,難民の帰郷。④キャリントン議長の下でのロンドン和平会議の継続」など。
・国連安保理はボスニア内戦問題で公式協議を開き、重火器を国連による管理下に置くことに合意したことを受け、戦闘機、大砲、ロケット砲など重火器の報告書を20日までに提出することを、紛争当事者に要請する。
・クロアチアの港町ザダルで、国連保護軍のフランス兵が車を運転中に地雷に触れ、2名が死亡。
07/19:
・新ユーゴ連邦のパニッチ新首相は、新たな和平協定に従い、あらゆる和平努力を行なうことを強調。さらに、パニッチ首相はサラエヴォを訪れ、国連保護軍にセルビア人勢力側の武器引き渡しを行なうことなどでイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領と会談。20日からサラエヴォのセルビア人勢力、ムスリム人勢力双方の重火器を国連保護軍の管理下に引き渡すことで合意する。
当面の措置;「1,ゴラジュデ地区からセルビア人勢力側は重火器を撤収する。2,ムスリム人勢力側は武器の撤収を妨げない。3,引き揚げた武器は新ユーゴ連邦側に一時的に移す。4,セルビア人勢力側はサラエヴォからも重火器を撤収し、国連保護軍管理地域まで移動させる」。この後、パニッチ連邦首相はボスニアのセルビア人武装勢力軍事指導者とも会談し、武器引き渡しについて同意を取り付ける。
・パニッチ・ユーゴ連邦首相は、ガリ国連事務総長およびヴァンス国連特使と会談するためにニューヨークへ出発。
・ベオグラード・テレビは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの北部オジャクでクロアチア人勢力側に捕虜になっていたセルビア人民兵の遺体約1000体が埋められているのが発見された、と報じる。オジャクでは一時クロアチア人勢力側が制圧し、4500人のセルビア人民兵が投降して捕虜になっていたが、残りの3500人の行方は不明。
・ボスニアのサラエヴォでは、停戦協定にもかかわらず砲撃が続く。ゴラジュデでも攻防戦が行なわれる。北部のサヴァ川沿いのオジャクでは、クロアチア人勢力側が激しい砲撃を加える。南部のトレビニエでも、クロアチア人勢力軍側が攻勢に出る。
07/20:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ボスニアのサラエヴォへの救援物資輸送を、戦闘が激化して空港にも破片が飛び込むなどをしたため一時停止したと発表。国連保護軍のカナダ人将校2人が、砲弾の破片で負傷し病院に運ばれる。UNHCRは、3日から19日までに280便、330トンの人道援助物資輸送を実施。
・新ユーゴ連邦のヨヴィチ社会党党首は9月3,4日に党大会を開くと発表。
07/21:
・ドイツの野党の社会民主党・SPDは議員総会を開き、ドイツ海軍の新ユーゴスラヴィアへの派遣について協議し、「1,政府の決定は連邦議会での審議を経ていない。2,海軍の哨戒活動は基本法が許す『人道援助』の範囲を超えるもの」との立場から憲法裁判所に違憲提訴することを決める。
07/22:
・ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領とクロアチア共和国のトゥジマン大統領は、「ボスニアでの国際的な和平努力が失敗した場合には、両国が共同軍事行動を取る」との内容の協力協定に調印。
・ガリ国連事務総長は、ボスニア紛争についての報告書を安保理に提出。「1,EC主導の下で進められたロンドン合意では国連平和維持活動が想定されているにもかかわらず、国連が関与する場を与えられずに合意がなされた結果、和平実施におけるECと国連の役割が不明確である。2,ユーゴスラヴィアに展開している国連保護軍が要員、装備ともに限界に達している。3,62ヵ所の武器集結地を設け、軍事監視要員約110人が管理に当たり、ボスニアを7地域に分割して24時間のパトロールに当たる」との計画は、「現状では国連による重火器管理を、安保理に勧告できる状況にはない」との内容。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国政府は、反政府的な集会を禁止するための新法案を23日に議会に提出する、との声明を発表。
07/23:
・セルビア共和国政府寄りの「ポリティカ」紙が、国連の経済制裁に関するアンケート調査を行ない、「制裁に年末まで堪えられない」とする回答が70%、「いつまでも堪えられる」12%、「国連決議を遵守する」43%、と発表。
・CNNの女性カメラマンのマーガレット・モースが、サラエヴォ市を自動車で移動中銃撃されて重傷を負う。
・ボスニアのムスリム人捕虜95人とセルビア人捕虜39人の交換が、国連保護軍の仲介で実施される。
07/24:
・EC旧ユーゴ和平会議のキャリントン議長は、英デーリー・テレグラフのインタビューで「ボスニアのムスリム人武装勢力が停戦協定を無視して戦闘を続けている」ことを厳しく批判し、当面新たな和平提案を行なう考えがないと述べる。
07/25:
・国連によるボスニアのゴラジュデへの救援物資輸送はトラックが地雷に触れたため、搬入を断念してサラエヴォに引き返す。
・英外務省は、ユーゴスラヴィアの和平を目指す国際会議を8月後半に開催することを提案する、と発表。
・ECユーゴ和平会議は、27日に開催する予定の会議にボスニアのムスリム人勢力、クロアチア人勢力、セルビア人勢力3派の出席が確定したと発表。
07/27:
・ECのユーゴ和平会議がロンドンで再開されたが、ムスリム人、セルビア人、クロアチア人それぞれが停戦違反を非難し合い、全体会議に入れず。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相はニューズ・ウイーク誌に、11月の大統領選にミロシェヴィチが出馬しないと約束している、と語る。
07/28:
・米政府関係者は、米国がボスニアの都市ゴラジュデへの救援物資空輸を計画している、と述べる。
・英国外務省は、セルビア共和国とクロアチア共和国の軍司令官が、29日にアドリア海の英国海軍フリゲート艦上で休戦交渉を行なうと発表。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は、29日メージャー英首相と会談すると発表。
07/29:
・UNHCR事務所は、240万人に上る旧ユーゴスラヴィア難民・避難民の救援に関する国際会議を、86ヵ国の外相、援助担当相、および12の国際機関、2つのNGO連合の参加を得てジュネーブで開く。緒方貞子難民高等弁務官は、「人道援助の強化が必要なのはいうまでもないが、効果的な政治解決なしに人道主義を長期的には維持出来ない」と強調。参加者からは、旧ユーゴスラヴィアにおける難民保護を強調する意見が多発する。ユーゴスラヴィア難民支援国際会議は、難民支援の必要額の90%の1億5300万ドルの拠出の約束を取り付けて閉幕。UNHCRの支援物資の補給所はザグレブ、ベオグラード、スプリトの3ヵ所に設置する。
・G24のまとめによると、旧ユーゴスラヴィア難民支援総額4億7160万ドルのうち、EC委員会は2億1170万ドル、ドイツは7190万ドル、米国は5100万ドル、イタリアは2900万ドル、フランスは2390万ドル、オーストリアは1780万ドル、スウェーデンは1230万ドル、スイスは1050万ドル、英国は780万ドル、オランダは740万ドル、デンマークは650万ドル、日本は190万ドルで先進国中では最低水準。
・ECの旧ユーゴ和平会議は、ボスニアの3民族代表が参加して行なわれ、「停戦の実現、捕虜交換、人道援助の監視」などを支援する国際調停委員会を設置することで一致。国土分割案、などの実質的協議は進展せず。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相とグラニッチ・クロアチア共和国代表が協議し、クロアチア独立に伴う双方の1200人の捕虜全員を8月7日に釈放することで合意する。
・ボスニア共和国政府は国連安保理議長に対し、「セルビア人勢力がボスニア、セルビア、モンテネグロに計105ヵ所の強制収容所を設置しており、内66ヵ所だけで12万人以上が収容されている。さらに10ヵ所の収容所で計1万7000人以上が既に殺害され、1つの収容所では8000人以上が殺された例もある」との内容の書簡を送付。
07/30:
・トゥジマン・クロアチア大統領は記者会見で、「連邦軍とセルビア軍を撃退し、クロアチアの戦争は終わった」と終結を宣言する。
・クロアチア放送は、ユーゴ連邦軍とクロアチア共和国軍が29日に調印した休戦協定に従い、ドブロヴニク地区のユーゴ連邦軍の撤収が数日中に始まり1週間で完了する予定だと伝える。未だに領土の4分の1は国連保護軍の管理下にあり、不安定な状態にある。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は2週間にわたる欧州、米国歴訪から帰国し、近くサラエヴォを訪問すると語る。
・ボスニアのサラエヴォへの援助物資が、アドリア海のクロアチアの港町スプリトから21台のトラックで陸路ボスニア国境を越えてサラエヴォに入る。
07/31:
・マケドニア共和国は、グリゴロフ大統領が国連への加盟申請をガリ国連事務総長宛てに提出したことを明らかにする。
08/01:
・CSCEが旧ユーゴスラヴィア調査団を派遣することを決めた、とスウェーデンのウクラウス外相が明らかにする。
・ボスニアのサラエヴォから孤児40人を乗せたバスが、通称「狙撃兵道路」といわれる道路を通って出発。通過中に銃撃を受け、子ども2人が死亡する。
・国連保護軍・UNPROFORスポークスマンは、子どもたちを危険にさらした脱出行について、「暴挙だ」と批判。
08/02:
・米「ニューズ・ディ」紙が、「死のキャンプ」という見出しでボスニアのセルビア人勢力が「強制収容所」を設置して、拷問、虐殺、餓死させているとのロイ・ガットマン記者の記事を掲載する。
註;ロイ・ガットマン記者の記事は現地取材で書かれたものではなく、クロアチアのザグレブで1人のムスリム人の証言をもとに風聞を付け加えて構成された未確認情報を記事にしたもの。
・クロアチア共和国は、独立後初の大統領選挙を実施。クロアチア民主連合からトゥジマン現大統領、クロアチア社会自由党からブデシャ、クロアチア民族党はクチャルなどが立候補。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は、ルーマニアとブルガリアを相次いで訪問し、バルカン経済連合構想を披露。
08/00:
・米ニューズ・ウィーク誌は、ボスニア紛争に関して「民族浄化・ethnic cleansing」という用語を使い始める。この用語をメディアが使うように取り計らったのは、ボスニア政府の宣伝を担当している米PR会社の「ルーダー・フィン」社。
08/03:
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相はマケドニアを訪問し、グリゴロフ大統領と会談。国家としての相互承認を提案。
・クロアチア共和国の大統領選挙は、クロアチア民主連合のトゥジマンが55.8%を獲得して当選。議会選でもクロアチア民主連合が41.6%を獲得して優勢。
08/04:
・国連安保理は公式協議を開き、ボスニアで紛争当事者が強制収容所を設置し、市民を虐待しているという報道に、深い懸念を表明する議長声明を発表。
・ボスニアのセルビア人勢力のブハ外交担当は、「ボスニアのセルビア人勢力支配地域には『強制収容所』は1つもない」と全面的に否定。
・ナイルズ米国務次官補は、米下院外交委員会ヨーロッパ中東小委員会で、「セルビア人勢力がボスニアに設置した『強制収容所』で、非セルビア人を拷問・殺害しているとの情報の真偽は確認出来ていない」と証言。
・ボスニアのサラエヴォの墓地で、テレビカメラ撮影中に爆発物が爆発する。
・ボスニアのサラエヴォ市街およびボサンスキ・ブロドなどで、戦闘が断続的に続く。
・ボスニアのムスリム人勢力とクロアチア人勢力はサラエヴォ解放のための総攻撃を指示し、武器を持つ市民に協力を呼びかける。
・ボスニアのセルビア人勢力は、総動員令を出して攻撃に備える。
・ガリ国連事務総長は、ボスニアのサラエヴォ空港での救援活動を18時から72時間停止すると発表。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は記者会見で、新ユーゴ連邦は当面故チトー大統領時代に決まった旧ユーゴ連邦の共和国間国境を尊重する、と語る。
08/05:
・イーグルバーガー米国務副長官は、ボスニアとセルビアの収容所問題について討議するため、国連人権委員会に対し、緊急会合の招集を求める。
08/06:
・ECユーゴ和平会議のキャリントン議長は、「今月14日にブリュッセルで、ユーゴ和平会議を開く」と旧ユーゴ共和国諸国に対し通告する。
・NATO加盟16ヵ国の高官はブリュッセルで会議を開き、ボスニアに対するNATO軍の有事計画を策定することで合意。
・ボスニアのサラエヴォ駐留の国連保護軍サラエヴォ司令部の建物が被弾し、フランス兵1人が重傷、3人が軽傷を負う。
・宮澤喜一日首相は、緒方貞子国連難民高等弁務官のユーゴスラヴィア難民支援に対し、積極的に対応することを約束。
・新ユーゴ連邦セルビア共和国政府と米PR会社パウエル・テート社が契約を結び、セルビア政府は5万ドルの小切手を渡す。この直後、英ITNの「強制収容所」をイメージする映像が放送され、パウエル・テート社は契約解除を申し出る。
註;イギリスのニュース制作会社ITNが取材し放送した強制収容所らしく見せたビデオは世界に衝撃を与えた。しかし、このとき映っていた有刺鉄線は収容者を隔離するものではなく、危険な変電施設や倉庫を収容者から隔てている施設の側から撮影したもので、既に出回っていたものをセルビア悪説を再認識させるものとして意図的に放送された。
08/07:
・ブッシュ米大統領は記者会見でボスニア情勢に関し、「あらゆる収容所に対する、国際社会の事実調査が行なわれるべきだ」 と語る。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、「ボスニアのセルビア人勢力指導者に対し、収容所を閉鎖するよう命令する」と述べる。グレグリッチ・クロアチア共和国首相と会談するための機上で、「収容所は解体されなければならない。それは30日間を要する」と述べる。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相はグレグリッチ・クロアチア共和国首相と会談し、クロアチア共和国独立に伴う戦争で捕虜になった全員を、来週中に釈放することで合意。双方でおよそ1000人が捕虜となっている
・ボスニア駐留国連保護軍のモリヨン副司令官は、ムスリム人勢力側とセルビア人勢力側との協議で、アドリア海のスプリトとサラエヴォおよびゴラジュデを結ぶ国連の援助物資補給路を確保することで、双方の了解を取り付けたと語る。
・ベオグラードの赤十字国際委員会スポークスマンは、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表との会談で、同代表がボスニア北西部の12ヵ所の収容所への立ち入り調査を認めたと語る。同地区には、西側TVが取材したオマルスカ収容所も含まれ、同収容所にはムスリム人、クロアチア人1500人が収容されている。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表はBBCのインタビューで、捕虜収容所の管理を国連管理下に移すことを受け入れるとの意向を表明。
・トルコのチェティン外相は国連安保理に対し、ユーゴスラヴィア内戦の解決法として一連の平和的手段が失敗した場合、限定爆撃などの武力行使も辞さない、とする強力な行動計画を提案。
・国連安保理は、クロアチア共和国に展開する国連保護軍の任務を「出入国管理・税関業務」などに拡大する決議769を全会一致で採択し、要員増派を決める。
・ボスニアのサラエヴォの国連保護軍兵舎が砲撃を受け、ウクライナ兵7人が負傷。
08/08:
・ボスニアのサラエヴォ空港への援助物資輸送が、再開される。
・サッチャー英元首相はCNNテレビとのインタビュー番組で、「武力行使を前提とした新ユーゴ連邦への最後通告や、NATO軍による武力介入の必要性」を語り、さらに「ボスニア・ヘルツェゴヴィナに対する武器輸出緩和措置」を提案する。
・ブッシュ米大統領は記者会見で、ボスニア情勢は「あらゆる種類の民族問題や歴史的な対立を背景としており、極めて複雑な問題である」と述べ、「空爆や地上軍の投入が、問題の解決をもたらすとの確信は持っていない」と語る。
・米政府は英仏当局者との協議で、ボスニアへの人道援助物資輸送に軍隊を活用すべきと提案したが、英仏が軍隊投入に難色を示す。
・国連事務局は、ボスニアの内戦にこれ以上関わることに反対の姿勢を示す。
08/09:
・コール独首相は地元テレビのインタビューに、ボスニアの強制収容所問題に対する制裁措置として、新ユーゴ連邦を陸海両面から全面封鎖すべきだと語る。
・英国の自由民主党アシュダウン党首は、ボスニアのサラエヴォ郊外にあるセルビア人勢力が設置したクララ捕虜収容所を視察し、イスラム教徒など捕虜数人に質問したが、捕虜は「虐待は受けていないが、食事の量はすくない。早く帰りたい」と訴えた、と述べる。
08/10:
・NATO軍は、旧ユーゴスラヴィアへの救援物資を警護するため、数千人の兵士派遣を含む対応計画を決める。
・ECのドロール委員長は旧ユーゴスラヴィア問題に関し、「ECが危機に対する決意を欠くのは危険だ。信頼に足る軍事的対応を示すときだ」と呼びかける。
・フランス外務省スポークスマンは、フランス提案の「ボスニアに展開している国連保護軍の機能強化を求め、紛争解決のため必要なるあらゆる措置を取るよう各国に要請する」との決議案について、米英と合意が成立し、12日にも国連安保理の討議にかけられる」と述べる。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、ボスニア紛争への国連や西側の武力介入が「内戦をエスカレートさせ、全面的なゲリラ戦争の引き金になる。バルカン半島に第2のベトナムをつくり出す」と警告。
・米国防総省は、ボスニアのサラエヴォ空港に人道援助物資搬入に協力するため、貨物取り扱いの軍事専門要員12人を派遣すると表明。
・国連スポークスマンは、旧ユーゴスラヴィアで人権侵害の虐待があるかどうかを討議する緊急の国連人権委員会が、13,14の両日ジュネーブで開かれると発表。
・国連安保理で米英仏3ヵ国は、「人道援助を促進するために、武力行使を含む必要なあらゆる措置を取るよう各国に要請する」との内容の決議草案をまとめて安保理事国に提示する。
08/11:
・マレーシアのアブドラ外相は、ボスニアでのイスラム教徒に対するセルビア人勢力側の虐待に抗議するため、ベオグラードにあるマレーシア大使館を閉鎖して全員引き揚げる、と発表。
・ボスニアのムスリム人勢力とセルビア人勢力は、サラエヴォから女性と子ども300人を避難させることで合意。
・チョシッチ新ユーゴ連邦大統領はガリ国連事務総長に対し、「ボスニアのセルビア人勢力側の『強制収容所』なるものにおけるクロアチア人迫害を否定し、国連に調査委員会を設けて現地に派遣するよう呼びかける」書簡を送付。
・米連邦上下両院は、セルビア人勢力を激しく非難する決議案を採択。
08/12:
・ボスニアのサラエヴォから女性や子どもなどの避難民300人以上が、国連保護軍に護衛されて避難。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相はトルコを訪問してデミレル・トルコ首相と会談し、ボスニア内戦終結に向けて努力を続けるとともに、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国を承認する用意がある、と語る。
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・セルビア人共和国は、「スルプスカ共和国」と改称すると宣言。
08/13:
・国連安保理は公式協議を開き、米・英・仏・露・ベルギー共同提案の、ボスニア救援を促進するための武力行使を含むあらゆる必要な措置を取るよう要請する決議770を、賛成12,棄権3で採択。
決議内容;「1,全ての強制収容所、刑務所、拘禁施設が国際赤十字委員会などの人道援助機関の立ち入りを継続的に受け入れるよう求めるとともに、収容者のために十分な食料、医療を受け入れられるよう要求する。2,ジュネーブ条約遵守を要求するとともに、他民族を排除する『民族浄化』の動きを国際人道法違反」として強く非難する。
・国連人権委員会の臨時会議が開かれ、英国TV放送のITNの強制収容所をイメージする映像が繰り返し映し出され、ムスリム人が苛酷な人権侵害を受けている」との決議が採択される。
・赤十字国際委員会・ICRCは、「ボスニアで、無実の人々に対する拘束や非人間的な扱いが行なわれている」と、紛争の全当事者に対し、戦時の人道を定めたジュネーブ協定の遵守を呼びかける声明を発表。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領と会談するためにボスニアのサラエヴォを訪問。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相に同行した米ABCTVのプロデューサーのダビッド・カプランが、サラエヴォ空港で狙撃されて死亡。
註;犯行者としてセルビア人勢力説が流布されるが、後の調査でムスリム人勢力であることが明らかとなる。
・小西正樹外務省審議官はラドゥロヴィチ・ユーゴスラヴィア連邦駐日大使を呼び、「ボスニアのセルビア人武装勢力は、国際的人道援助の促進に協力すべきだ」との日本政府の立場を伝える。
・英タイムズ紙はボスニア紛争への武力介入について、各国政府は10万人の兵力が必要と見ているにもかかわらず、5000人から1万人規模の投入しか計画していない、と報じる。
08/14:
・国連人権委員会は旧ユーゴスラヴィア問題を緊急協議。「ボスニア共和国などで進んでいる他民族を追放する動きを厳しく糾弾。ボスニアを中心に、旧ユーゴスラヴィアの人権状況を調査する」決議を全会一致で採択。 また実情調査に当たる現地特別報告者に、タデウシュ・マゾビエツキ・ポーランド元首相を指名する。
・ECの旧ユーゴ和平会議第13回会議が開かれたが、新ユーゴ連邦のセルビア共和国とモンテネグロ共和国首脳が欠席したため進展せず。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相はECユーゴ和平会議のキャリントン議長と会談し、ボスニア住民に対する人道援助について、セルビアのベオグラードからボスニア国境までの援助物資輸送ルートを保障すると提案。国境から先はボスニア政府軍に委ねるので外国の軍事介入は不必要、と主張。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は記者会見で、ボスニアでの軍事介入を容認する国連決議について、「救援物資搬入のために武力を使う必要はない」と述べ、決議に反発する。
・ボスニアの北部クロアチア国境付近で戦闘が展開され、ボサンスキ・ブロドで40人、デルベンタでも20人が死亡。
・フランスのファビウス社会党第1書記およびシラク共和国連合総裁らが、「セルビアの軍事施設に対する空爆」を主張。
・メージャー英首相は、サッチャー前首相の強硬路線を否定する。
・チェイニー米国防長官は、シアトルでの民間団体との昼食会で「旧ユーゴスラヴィアの民族紛争は外交手段で解決の道を探るべきであり、地上兵力の投入は大きな誤りである」とスピーチ。
・新ユーゴ連邦とクロアチア共和国政府は、クロアチア北東部のオシエク近郊で赤十字国際委員会・ICRCの立ち会いの下、1131人の捕虜を交換する。
08/15:
・国連は、ボスニアのアドリア海のスプリトからゴラジュデへの救援物資のルートの安全を確認するために、輸送を開始する。
・CSCE高級事務レベル会議は、ボスニアでの重火器の監視を含む国連の監視活動に加わる用意があるとの国連事務総長宛の書簡など、4つの文書を採択する。
・ドイツの公共テレビは、新ユーゴ連邦に対する経済制裁にもかかわらず、マケドニアからセルビアに原油とガソリンが運ばれている、と報じる。マケドニアのクマノヴォでは、連日のように15輌の石油タンク車をつないだ貨物列車がセルビアに向かっており、さらにタンクローリー約60輌がセルビアに入っている。これには、ギリシャが絡んでいる模様。
08/17:
・ダグラス・ハード英外相のボスニア訪問時に合わせ、ムスリム人武装勢力がサラエヴォ空港を攻撃する。
・ニューズ・ウィーク誌は、米政府がボスニア共和国への武器禁輸措置の解除を検討している、と報じる。ボスニアのセルビア人勢力へは、セルビア共和国から武器が供給されているために軍事的均衡を図る必要がある、との理由。
・ボスニア共和国政府は、独自新通貨ボスニア・ディナールを発行する。
・イスラム諸国グループ47ヵ国は、ボスニア情勢に関する国連総会の開催を求めることを決める。
08/18:
・英政府は緊急閣議を開き、ボスニアへ最大1800人の地上部隊を派遣することを決める。任務の目的は、人道援助支援のための物資輸送チームの護衛にあたること。
08/19:
・ボスニアのサラエヴォから逃れたセルビア人難民の子どもや女性800人が、陸路でセルビアのベオグラードに到着。
・ECの仲介で、ボスニアのセルビア人勢力側の市民300人と、ムスリム人およびクロアチア人勢力の兵士400人が交換される。
・ボスニア駐留国連保護軍のナンヴィエ司令官は、セルビア人とムスリム人の両勢力から人道支援活動を妨害しないとの保証を得たとして、20日からサラエヴォ空港での輸送を再開すると発表。
・ボスニアのムスリム人勢力およびクロアチア人勢力側のシベル司令官は、国連保護軍代表との会談でサラエヴォとその周辺の大砲、戦車などの重火器を国連保護軍の管理下に置くことで合意。
08/20:
・ボスニアのサラエヴォ近郊のセルビア人勢力の本拠地パレが、ムスリム人勢力側から激しい攻撃を受ける。またサラエヴォ、ゴラジュデでも過去1ヵ月で最も激しい戦闘が行なわれる。ムスリム人勢力側が挑戦的な攻撃を仕掛けた背景には、26日からの拡大ユーゴ和平会議に向けて、外国の軍事介入を引き出すためのムスリム勢力側の作戦があると見られている。
・イタリアのアンド国防相はセラ紙とのインタビューで、旧ユーゴスラヴィアでの国連の活動を支援するため、最大で1500人のイタリア軍部隊を派遣する用意がある、と語る。
08/21:
・ギリシアの首相は、「旧ユーゴスラヴィアへの石油輸出を、一時的に停止する」と、国連の制裁破りとの非難に応える。
08/22:
・サラエヴォ放送によると、ボスニアのセルビア人勢力の軍用機がゴラジュデを爆撃し、9人が死亡し、50人が負傷する。
・英インディペンデント紙は、ボスニア紛争に関する国連の秘密文書の存在を報じる。それによると、「1,5月27日のパンを買うサラエヴォ市民の行列にミサイル攻撃して16人が死亡した事件。2,8月4日、サラエヴォを脱出する際に狙撃されて死亡した子どもを埋葬する墓地が砲撃され、家族が重傷を負った事件。3,米テレビ・ディレクターが狙撃されて死亡した事件」。これらの事件について、「ムスリム人勢力がセルビア人勢力の行為だと見せかけ、外国の軍事介入などを引き込むために市民を犠牲にした可能性を示唆」したことを記述した秘密文書がある、というもの。この報道を受け、「セルビア=加害者」、「ムスリム・クロアチア=被害者」の図式には疑問があると、西側メディアが報じ始める。
・新ユーゴ連邦政府のミレンティヴィチ無任所相は、「セルビアが世界のメディアから悪魔扱いされていることに対抗するために、専門家を雇い宣伝戦に打って出る」と発言。
08/23:
・ボスニア共和国のケツマノヴィチ幹部会員は、「パン屋の行列に対する非人間的な犯罪の『監督と出演者』を暴いた国連文書は、私が辞表を出すに十分だ」として辞任する。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア共和国大統領は、国連文書の事実を否定する。
・ボスニアのサラエヴォ近郊に駐留する国連保護軍の英兵2人が、攻撃を受けて負傷する。
・新ユーゴ連邦は、26日に開かれるECユーゴ和平会議に、「1,ユーゴ連邦とボスニアの国境、およびユーゴ連邦内の軍用空港、基地を国連が監視する。2,人道援助のためのベオグラードとサラエヴォ間の陸路を確保し、ベオグラードの空港と港を利用出来るように保障する」などを提案することを決める。
08/24:
・国連総会は、イスラム諸国会議機構のボスニア紛争支援要請を受けて開会する。イスラム諸国会議機構が、「1,ボスニア紛争の即時停戦。2,新ユーゴ連邦軍およびクロアチア共和国軍の撤退を実現するため、武力行使を含む緊急強硬措置を採るよう安保理に促す」決議案を提出する。
・ユーゴ国営タンユグ通信は、26日に開会するECと国連主催の拡大ユーゴ和平会議に、議長国の英外務省が11項目の和平草案と6つの主要課題を集中的に討議する実務委員会の設置、などの基本的な考え方を提示すると伝える。内容は、「1,人権と少数民族の権利の尊重と保障。2,旧ユーゴスラヴィア内の政治問題への外国、国際機関の参加に関する問題。3,停戦維持と政治問題を解決するための武力の不行使。4,現国境の維持。5,他民族一掃政策に対する糾弾。6,武器禁輸の完全実施。7,人道援助の保障」などからなる。
08/25:
・ECの旧ユーゴ和平会議議長のキャリントン卿が、辞任を表明する。
・国連総会は、イスラム諸国会議機構のボスニア紛争解決に関する安保理提案に対し、「停戦実現のため国連憲章第7章に基づいて、さらに適切な措置を採ることを考慮する」よう促す決議を、136ヵ国が賛成して可決。決議;「1,すべての当事国に、即時停戦すること、および国連憲章や国際法に基づいた平和的な解決を目指すよう要求するとともに、特に主権と領土保全の原則を尊重し、侵略や力で獲得した領土を認めない。2,外部勢力の介入を即時停止する。3,新ユーゴ連邦軍、クロアチア共和国軍の撤退、および国際機関の監視の下で武装解除をする。4,民族浄化にみられるような大々的な人権侵害を非難する。5,難民の安全を確保し、無条件のボスニア・ヘルツェゴヴィナへの送還を要求。⑥国連保護軍の安全確保に必要な措置を採るよう、当事者に要求する」などを採択。
・NATOは大使級協議を行ない、ボスニア紛争での兵力展開を検討したが合意に至らず。
・ボスニア政府は、サラエヴォに2日間の外出禁止令を出す。
08/26:
・EC・国連主催の旧ユーゴスラヴィア和平拡大国際会議・ICFYが、ロンドンで開催される。出席は、仏・ミッテラン大統領、英・メージャー首相、米・イーグルバーガー国務長官代行、独・キンケル外相、セルビア・ミロシェヴィチ大統領、ボスニア・イゼトベゴヴィチ大統領、トゥジマン・クロアチア大統領、クチャン・スロヴェニア大統領、マケドニア大統領、ブラトヴィチ・モンテネグロ幹部会議長、国連・ガリ事務総長およびイスラム諸国会議機構・OIC、欧州安全保障協力機構・OSCEも招かれて参加。EC議長のメージャー英首相とブトロス・B・ガリ国連事務総長が共同議長を務める。
・EC議長国のメージャー英首相は、「紛争解決のための『原則に関する声明』および実行に移すための『行動計画』の2つの文書を提出し、これらの方針にセルビアが従わないならば新たな制裁が行なわれる」ことを示唆。
・ガリ国連事務総長は、ボスニアのイゼトベゴヴィチ大統領にセルビア人、クロアチア人、ムスリム人が一斉に停戦するという収拾案を突きつけ、イゼトベゴヴィチ大統領に受け入れさせる。
・オーストリアのモック外相は、「外交関係のほか、陸上交通、通信に至るまでの制裁強化の必要性」を指摘。この後、各国代表が相次いでセルビア批判演説を展開したため、オブザーバーのボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は退席する。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、この会議中にミロシェヴィチ大統領に辞任を要求する。また、新ユーゴ連邦とボスニア共和国との国境を監視するために国連軍を展開するよう求める。
・米PR会社ルーダー・フィンは、ボスニアのムスリム人難民をユーゴ和平会議の記者会見場に連れ込み、セルビア人勢力から被害を受けたと証言させる。
・イーグルバーガー米国務長官代行は、ボスニア共和国のシライジッチ外相と密接な連携を保ち、会議をリードする。
・中村駐ユーゴ日大使は、「この会議は新たな交渉プロセスの出発点であり、日本もさまざまな面で貢献して行きたい」と述べる。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表はBBC放送とのインタビューで、「和平と引き換えに、セルビア人勢力が支配下に置いている地域の10~15%を放棄してもよい」との意向を表明。
・英政府は、ECユーゴ和平会議議長の後任にオーエン英元外相の起用を各国に打診する。
・ボスニアのサラエヴォ周辺で、激しい戦闘が継続する。さらに、セルビア人勢力が支配しているイリヤシュも終日砲撃を受ける。北部のデルベンタ、中部のブルチコなどでも激戦が展開される。
・ベオグラードの新聞によると、ルーマニア国境のブルシャッツで3倍の価格でガソリンが密売されている。ブルガリア紙は、民間人が自動車を使い日に50~60トンをユーゴスラヴィア側に持ち込んでいる、と報じる。また、ドナウ川を使った船便でも密輸が行なわれている。ドナウ川のチェックポイントでは、積荷と目的地を口頭で知らせるだけで、臨検はしていない。
08/27:
・旧ユーゴスラヴィア和平拡大国際会議は、ボスニア紛争を中心とする旧ユーゴスラヴィア問題解決のための「原則に関する声明」、および「行動計画」、さらに「ボスニアに関する声明」を採択。6つの作業部会も設置される。
「原則に関する声明」;「①,全ての旧ユーゴスラヴィア共和国によるボスニアの独立承認と現在の国境を尊重すること。②,停戦、和平交渉へ全当事者が参加すること。③,人道援助が必要であること。④,少数民族の権利と自由を保証すること。⑤,強制収容所を閉鎖すること」など13項目を盛り込む。さらに、セルビア側に譲歩を求めるとして「①,ボスニアのセルビア人勢力は、重火器の展開場所を96時間以内に国連に通知する。②,7時間以内に重火器を大都市圏周辺に集める」などを付属文書とする。
「行動計画」:原則に基づき・「1,和平交渉を具体的に進める常設の運営委員会を設置する。2,9月3日にECが共同議長になり、CSCEや国連安保理事国の代表らで構成し、ボスニア情勢、人道援助、少数民族部会など6つの作業部会を設置して集中討議を行なう」ことも決める。
「ボスニアに関する声明」;「1,ボスニアの和平交渉を無条件で即時に再開することが必要。2,ボスニアの停戦監視および軍事活動の管理、その他の信頼醸成措置のために新に国連平和維持軍を派遣。3,重火器の国際監視。4,外部勢力の介入禁止。5,主要都市の非軍事化」などの7項目。
和平会議は3日の予定を2日で切り上げ、「国際戦犯法廷」を設置することなどを発表して閉会する。
・ガリ国連事務総長は、和平拡大国際会議でボスニア紛争での人道援助護衛のための国連保護軍・UNPROFORを大幅に増やす方針を明らかにする。
・ミロシェヴィチ・セルビア大統領はベオグラード国営放送のインタビューで、「セルビアだけが侵略者というねじ曲げられた国際イメージが変化しつつある。会議は、新ユーゴ連邦への制裁解除への第一歩となった」と和平拡大国際会議を積極的に評価する。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、ムスリム人勢力、クロアチア人勢力が同意しなくても一方的に、「1,ボスニアの収容所を閉鎖する。2,サラエヴォ、ゴラジュデなど諸都市の重火器を国連の監視下に引き渡す。3,支配している領土の20%を返還する」と表明。
08/28:
・ECは、新ユーゴ連邦への禁輸の監視強化案を発表。物資輸送への検問強化、および輸送証明を義務づけることなど。
・米ホワイトハウスは、旧ユーゴ和平拡大国際会議の成果を歓迎し、ジュネーブの国連常設委員会の経費負担として300万ドルを拠出すると発表。
・西欧同盟・WEUはロンドンで外相会議を開き、ボスニア紛争での人道援助に協力するため、加盟国合計で5000人規模の兵力を提供することを決める。この兵力は、国連保護軍・UNPROFORの指揮の下に護衛任務に就くことになる。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は、「セルビア共和国のミロシェヴィチ大統領が、和平合意を遵守出来ない場合には辞任を勧告する」との意向を表明。
08/29:
・ボスニアの国連保護軍のフランス部隊がサラエヴォ郊外の空港付近をパトロールしていたところを砲撃され、フランス人兵士3人が負傷し、セルビア人将校1人が死亡する。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、ゴラジュデを包囲しているセルビア人勢力に包囲を解くよう命令。
08/30:
・ボスニアのゴラジュデを包囲していたセルビア人勢力が撤退を開始し、ムスリム人勢力側に明け渡す。
・サラエヴォ放送は、ボスニア政府軍がセルビア人勢力との戦闘の末にゴラジュデを解放した、と報じる。
・ボスニアのサラエヴォでは戦闘が継続し、地元テレビによると市民45人が死亡する。
08/31:
・新ユーゴ連邦の与党社会党と急進党の一部の議員は、パニッチ連邦首相がクロアチア共和国のセルビア人地区の取り扱いをめぐり、トゥジマン・クロアチア大統領と勝手に取り引きしたことを理由とし、議会に不信任決議案を提出。
・国連人権委員会のマゾビエツキ旧ユーゴスラヴィア特別調査報告者が、最初の報告書を同委員会に提出。その報告書によると「ボスニア全体で重大な人権侵犯が続いており、ムスリム人の状況がとりわけ悲惨」と指摘。
09/01:
・第10回非同盟諸国会議がインドネシアのジャカルタで開かれ、99ヵ国が参加する。首脳の参加は、50ヵ国にとどまる。ユーゴスラヴィアとイラクは、国内問題のため首脳は欠席する。
・開催国のインドネシアのスハルト大統領は、「平和が脅かされ、各国の自由や人々の基本的な望みが狭められ、経済的不公正が続く限り、非同盟運動は戦いの前線に立つ」と演説。ガリ国連事務総長は、「国連の活動と非同盟運動との共通点を強調し、連携を強めるよう」呼びかける。
・マレーシアのマハティール首相は、ユーゴスラヴィアでセルビア人がイスラム系住民を迫害しているとして激しく非難する。
09/02:
・非同盟諸国会議でイラクのラマダン副大統領は、「安保理決議による経済制裁によって5歳未満の子ども達の死亡率が7倍以上になった。たった1つの国によって国連が支配されている」と非難。
・イランのラフサンジャニ大統領は国連について、「安保理の不適切な運営の改善を要求する」と演説する。
・NATOの大使級協議で、ボスニアに6000人規模の武装兵力を国連の指揮下に提供することで合意。合意内容は、「1,ボスニアでの国連の活動に人員、設備を提供する。2,護衛作戦は、6000人規模の軽武装兵力を国連の監視下で展開する。3,援助護衛のほか通信、輸送、重火器管理での協力」など。
09/03:
・国連保護軍指揮下の救援物資輸送中のイタリアの貨物機G222が、クロアチアのスプリトからボスニアのサラエヴォ空港に向かっていた途中、サラエヴォの西60キロの地点でミサイルによって撃墜され、イタリア兵乗員4人全員が死亡。イタリア空軍は、特別調査団を現地に派遣。
・イタリア機の撃墜について、ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、「撃墜直後にムスリム人民兵が撃墜したと、他のムスリム機関と無線連絡し合っていた。そのテープを持っている」とセルビアのマスコミに明らかにする。
註;多くのメディアは、このイタリア輸送機を撃墜したのはセルビア人勢力だと報じた。最終的な国連の調査報告では、イタリア輸送機を撃墜したのは、クロアチア人勢力軍ないしボスニア政府軍である、と結論づけた。
・国連事務局は、イタリア機が撃墜された事件で、サラエヴォ空港への物資輸送を一時中断する、と発表。
・ボスニアの国連保護軍の輸送トラック14台が救援物資の食糧や医療を満載し、初めてゴラジュデに到着する。
・ECユーゴ和平会議の運営委員会はジュネーブで初会合を開き、和平合意実現に向けて詰めの協議を始める。停戦や人道援助の方法などを集中討議する6つの作業部会も近く始められる予定。
09/04:
・新ユーゴ連邦議会は、与党社会党の一部とセルビア急進党議員が提出していたパニッチ首相の不信任案を反対66、賛成30、棄権7で否決。同時に議会は、クロアチア共和国の承認について、クライナ問題が解決するまでは行なわない、との決議も採択。
・パニッチ連邦首相はこの連邦議会で、「ロンドン会議という国際舞台に、新ユーゴ連邦を復帰させることが出来た。そして、西側の軍事介入を回避させ、国連の新ユーゴ連邦への制裁も強化されずに済んだ」と和平努力の成果を強調。
・ガリ国連事務総長はボスニア情勢に関し、「今や、270万人が緊急援助を求めている」と4億3000万ドルを各国が拠出するよう求める声明を発表。
・米国防総省は、ボスニアで撃墜されたイタリア輸送機の捜索中に銃撃された、との情報を否定。
09/05:
・英タイムズ紙はイタリア輸送機撃墜について、「最近、外部からの軍事介入誘発を狙うムスリム人の軍事行動が目立っており、今回の事件もその流れの中にある」と報じる。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ボスニアのサラエヴォの救援物資倉庫が15回にわたり銃撃を受けた、と話す。
09/06:
・第10回非同盟諸国首脳会議・NAMは、旧ユーゴスラヴィアの参加資格およびイラク問題で紛糾したが、「ジャカルタ・メッセージ」、「ソマリアに関する宣言」、「対外債務に関する宣言」、「食糧安保に関する宣言」、「最終文書」などを採択して閉幕。
「ジャカルタ・メッセージ」;「国際情勢・世界の2極構造の崩壊は、世界経済の相互依存と統合、地球規模化をもたらした」。
「国連改革・非同盟運動は国連システムの活性化と再構築、民主化に寄与すべく、主導的な役割を果たす決意だ」。
「人権外交批判・いかなる国も民主主義や人権についての自らの概念を押し付けるために、力を使うべきではない」。
「内政不干渉・国家主権の尊重と内政不干渉の原則の厳格な遵守を確保しなければならない」。
「軍縮・軍事予算の大幅な削減は、発展途上国が社会的、経済的に前進する上で、乏しい資源を振り向けるのを促進する」。
「南北関係・経済面における不公平な構造と不平等な関係が、不均衡と不公平を拡大する結果となり、先進国と途上国の溝を深める」。
「南南協力・南側の資源と専門知識、経験を共同利用するために、より効果的な手段を考案すること」。
「闘争支援・パレスチナ人民の正当な闘争を断固支援する。南アフリカのアパルトヘイト政策廃止を遅らせてはならない」。
「最終文書」;「ユーゴスラヴィア内戦でのボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア人勢力への非難」が盛り込まれる。新ユーゴ連邦は、「民族浄化は、クロアチア人、ムスリム人を含む全当事者が非難されるべきだ」と主張して態度を留保。
・旧ユーゴ和平国際会議運営委員会共同議長のヴァンス国連事務総長特使とオーエン英元外相は、ボスニアのセルビア人勢力に対し、ゴラジュデなど4都市周辺の重火器を、12日までに国連保護軍の監視下に置くよう求める声明を出す。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRによると、ボスニアのサラエヴォの救援物資倉庫が砲火を浴び、トラックが炎上する。
・UNHCRが8月に行なった調査によると、旧ユーゴスラヴィアの難民・避難民の合計は331万1000人に増加。旧ユーゴスラヴィア内の避難民は278万人で、「ボスニア・135万人、クロアチア・71万人、セルビア・50万人、モンテネグロ・8万5000人、スロヴェニア・7万5000人、マケドニア・6万人」。欧州各国への難民は53万1000人で、「ドイツ・22万人、スイス・7万人、オーストリア・5万8000人、ハンガリー・5万人、スウェーデン・4万8000人、その他・8万5000人」となっている。
09/07:
・ボスニア和平を模索する和平国際会議のスポークスマンは、ボスニアのサラエヴォへの救援物資輸送がイタリア機の撃墜後停止していることについて、「早期に空輸を再開することはできそうもない」と述べ、サラエヴォ住民38万人が深刻な食料不足に直面しつつある、と危機感を表明。
・ボスニアのサラエヴォ周辺で、セルビア人勢力の民兵とムスリム人勢力が交戦。カリノビックでも交戦があり20人が死亡する。
09/08:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表はロイター通信に対し、9日までに4都市の重火器を国連監視下に置く、と語る。さらにコビリャツァでは、8日中にもセルビア人勢力とムスリム人勢力の捕虜500人の交換が行なわれる準備が進められている、と述べる。
・旧ユーゴ和平国際会議運営委員会は、ヴァンス国連事務総長特使とオーエン英元外相の共同議長が、9日に現地を訪問して紛争当事者と会談すると発表。
・国連保護軍の救援物資輸送隊が、セルビアのベオグラードからボスニアのサラエヴォに向かっていたところ、サラエヴォ空港近くで攻撃を受けてトラック1台が破壊され、フランス軍兵士2人が死亡。
・イタリアのサルボ・アンド国防相は上院防衛委員会で、ボスニアでのイタリア救援物資輸送機墜落事件に関し、「飛行を続けるかどうかは、十分な安全が保障されるかどうかにかかっている」と、現状のままでは空輸に参加しない方針を明らかにする。
09/09:
・西側情報筋は、クロアチア共和国当局がこのほどイランからボスニアに空輸される途中の4000丁の銃と弾薬を押収し、同乗していた数十人のイラン人を本国に送還した、と発表。
09/10:
・新ユーゴ連邦外務省は、ヨバノヴィチ外相が政府の政策に同意できないとして、辞任したと発表。
・ガリ国連事務総長は安保理に対し、ボスニアへの国連保護軍を6000人増員するように要請する報告書を提出。
・ヴァンス国連特使とオーエンEC特使の和平国際会議共同議長は、サラエヴォなどでムスリム人、セルビア人、クロアチア人各勢力の代表と相次いで会談。今後の当事者代表会議については、18日にジュネーブで開くことに合意した、と発表。
09/11:
・ヴァンス国連特使とオーエンEC和平会議共同議長は、ベオグラードで新ユーゴ連邦のパニッチ連邦首相らと会談し、ボスニアへの武器流入防止措置などで合意する。さらに、「1,和平国際会議の枠内のクロアチアとセルビア間の石油パイプラインの再開について協議。2,クロアチア共和国、スロヴェニア共和国、マケドニア共和国と新ユーゴ連邦の関係正常化に向けての委員会設立を目指す」などの共同コミュニケに署名する。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は、ヴァンス国連特使とオーエンECユーゴ和平会議議長との会談で、旧ユーゴスラヴィア連邦の各共和国間の国境の相互承認と、クロアチア共和国との関係改善に積極的な姿勢を打ち出す、と表明。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、辞任したヨバノヴィチ外相の後任にイリヤ・ジュキッチ駐中国大使を任命し、財務相にはドラガン・ヨバノヴィチ会計検査院長を起用。
・米政府高官は、ボスニア上空を軍用機の飛行禁止空域とするために、主要国と積極的に検討を進めていると明言。
09/12:
・ECの外相会議に同行している英政府筋は、新ユーゴ連邦に対する国連の制裁が効果を上げ、新ユーゴ連邦が深刻な経済的打撃を受けていることを明らかにする。5月からの経済制裁で原油は80%の輸入減、貿易額は最大で75%減少。製造業は製造中止で100万人以上の完全失業者が出ており、7200%のインフレに見舞われている、としている。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は外国通信社を通じ、「サラエヴォ、ビハチ、ゴラジュデ、ヤイツェの4都市でセルビア人勢力側が使用している戦車を含む重火器を国連保護軍監視下に置く。セルビア人勢力側は、クロアチア人勢力側から猛攻撃を受けない限り反撃しない」との声明を発表。
09/13:
・ECの非公式外相会議が英国のハットフィールドで開かれ、米国提案のボスニア上空での軍用機の飛行禁止を求めることなどで合意。さらに、新ユーゴ連邦を国連から排除する立場を改めて確認する。また旧ユーゴスラヴィア内戦での戦争犯罪を裁く「国際法廷」の設置を支持。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は、特別機を使用して中国に予定より1日早く訪問する。
・イゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領は、「旧ユーゴ和平国際会議のボスニア和平会議に参加しない」と会議側に通知。
09/14:
・旧ユーゴ和平国際会議のスポークスマンは、18日から開く予定のボスニア和平交渉に紛争の全当事者が参加するよう、改めて呼びかける。ヴァンス国連特使とオーエンEC和平会議共同議長が交渉した際、セルビア共和国、クロアチア共和国は参加することで合意したが、ムスリムのイゼトベゴヴィチ・ボスニア大統領が「参加しない」と表明。
・国連安保理は公式協議を開き、ボスニアに派遣している国連保護軍・UNPROFORを6000人増員して7500人とし、任務を拡大する決議776を、賛成12で採択する。
09/15:
・ボスニアのムスリム人勢力は、旧ユーゴ和平国際会議にシライジッチ・ボスニア共和国外相を出席させると通告する。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は、中国から新ユーゴ連邦の国連での地位確保への支持と、「人道主義に基づく」石油提供の検討を取り付けたことを明らかにする。
・第47回国連総会が開会する。ハネイ英国連大使は、「旧ユーゴスラヴィア連邦は解体しており、新ユーゴスラヴィア連邦が国連の議席をそのまま継承することは認められない」と新ユーゴ連邦の追放を求める発言をし、相次いでトルコ、米、英、仏、オーストリア、ベルギー、クロアチア、ボスニアなど9ヵ国が、新ユーゴ連邦の国連議席継承を否定する意見を表明。
・国連およびECが共同で推進している旧ユーゴ和平国際会議は、サラエヴォへの救援物資を再開するための救援ルートに、対空ミサイルを配備しないよう紛争当事者と合意したと発表。合意内容は、「1,救援機をレーダーで監視しないこと。2,飛行ルート一帯に対空砲や対空ミサイルを配備しないこと。3,これら兵器の全ての配備場所の情報を提供すること」など。
09/16:
・イタリア政府は、サラエヴォへの救援物資輸送中に撃墜されたイタリア機は対空ミサイル攻撃が原因だった、との調査報告を国連難民高等弁務官事務所・UNHCRに提出。ミサイルは、恐らくソ連製のSA9、SA16か、米国製のスティンガー・ミサイル改良型だろうと付記。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相はモスクワで、新ユーゴ連邦が国連などに新たな加盟申請をする方針を明らかにする。
・ロシアのコーズィレフ外相は、新ユーゴ連邦の国際機関への新規加盟申請の方針を支持し、加盟実現のために「ロシアは、できるだけのことをする」と語る。
・ボスニアのスルプスカ共和国は議会をビエリナで開き、ムスリム人勢力側に18日までの停戦と和解交渉を迫る宣言を採択。「これが受け入れられない場合、我々は戦争状態を宣言し、国外のセルビア人およびセルビア正教徒を義勇兵として招く」と発表。
09/17:
・国連外交筋は、新ユーゴ連邦の国連議席継承問題について、「欧州諸国は旧ユーゴスラヴィア連邦の消滅を確認し、新ユーゴスラヴィア連邦を国連から事実上追放する勧告決議案を安保理に提出することで合意した」と語る。この決議案は、「新ユーゴ連邦は、国連総会に改めて新規加盟を申請しなければならない」との決議を採択するよう勧告している。
・ロシアは、「和平合意促進のためには、新ユーゴ連邦を孤立させるべきではない」と反論。
・アメリカの国連大使は、新ユーゴ連邦の追放を求める。
・英国連代表部は、「ユーゴ追放勧告決議案」を作成して各国に配布する。
09/18:
・米、英、仏、ベルギー、モロッコの5ヵ国は国連安保理に、新ユーゴ連邦を国連から追放する勧告決議案を提出。
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は記者会見で、「ムスリム人勢力側には3000人の外国籍雇い兵が参加している。ボスニアの戦線は国際化しつつある」と警告。
・国連とECのユーゴ和平国際会議は、ボスニア和平交渉にセルビア人、ムスリム人、クロアチア人の3勢力の代表を参加させてジュネーブで開く。交渉に先立ち、ムスリム人勢力側が「攻撃されている状態で、交渉などできない」と非難し、セルビア人勢力側は「無条件で即時停戦する用意があるが、ムスリム人勢力側が攻撃を止めない」と反論するなどとして直接交渉ができず。仲介する議長側が個別に協議する「間接交渉」となる。
・トルコのチェテイン外相は、泥沼化しているボスニア紛争の交渉による解決は困難であり、空爆を含む軍事介入の必要性を主張し、ECに対して断固とした措置を取るよう求める。
・CSCE高級事務レベル委員会は、新ユーゴ連邦のCSCE参加資格停止期間を11月末まで延長することを決める。さらに同委員会は、紛争勃発の危険性があるセルビア共和国内のアルバニア系住民が多数を占めているコソヴォ自治州、ハンガリー系住民が多数居住するヴォイヴォディナ自治州、セルビア共和国内のイスラム教徒が多いサンジャクの3地域に、常駐監視団を派遣することで同意する。
09/19:
・国連安保理は公式協議を開き、新ユーゴ連邦の自動加盟を否定し、国連を追放する決議777を採択。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は、「決議採択は、我々にとってこの上ない悲しみだ」と語る。
・国連とEC共同の和平国際会議で、ボスニアのセルビア人勢力のラドヴァン・カラジッチ代表およびムスリム人勢力はUNHCRの空輸事業の安全を保障すると約束したが、クロアチア人勢力のボバン代表は曖昧な態度を採る。
09/20:
・CSCEの調査団は、ボスニア各地に設置された強制収容所に関する報告書をまとめる。報告書は、「競技場や工場、鉱山、家畜舎などを改造した21の収容所では、食料や水が不十分で伝染病が発生。収容者8000人のうち最も多かったのはイスラム教徒で、セルビア人は10分の1しかいない」。さらに、収容者からの聞き取り調査では「民間人が拘束されているばかりでなく、処刑された例もある。さらに、存在の知られていない収容所が幾つかある」などとの内容を発表。
09/21:
・ジュネーブでユーゴ和平国際会議が開かれる。この会議において、ボスニア紛争和平交渉に出席していたセルビア人勢力側とムスリム人勢力側の最高責任者が退席し、残った代表と調停役の国連およびEC側との間で協議が続けられる。
09/22:
・第47回国連総会は、新ユーゴスラヴィア連邦を事実上追放し、同連邦の新たな加盟申請を要求する決議案を45ヵ国が共同で提出し、賛成127,反対6,棄権26で採択する。反対した国は、タンザニア、ジンバブエ、ザンビア、スワジランド、ケニア、新ユーゴ連邦の6ヵ国。
・新ユーゴのパニッチ首相は、「我々は平和への道を模索しており、国連の理解と支援が必要だ。決議は紛争の拡大に繋がりかねない」と訴える。
09/24:
・国際原子力機関・IAEA総会は、新ユーゴ連邦を事実上追放する決議案を、賛成69,反対3,棄権12で採択。
09/28:
パウエル米統合参謀本部議長はニューヨーク・タイムズ紙に、「限定的爆撃によって、セルビア人が行動を手控えるかどうかは疑問だ」と、ボスニアへの米軍の如何なる限定的軍事介入にも反対する見解を、初めて明らかにする。
09/30:
・旧ユーゴ和平国際会議のヴァンス・オーエン両共同議長は、新ユーゴ連邦のチョシッチ大統領とクロアチア共和国のトゥジマン大統領をジュネーブに招いて会談。新ユーゴ連邦とクロアチア共和国の両大統領は、両国の関係正常化に向けた合同委員会の設置を含む共同宣言を発表する。共同宣言;「1,紛争で避難したセルビア人、クロアチア人が元の町に戻れるよう協議機関を設置する。2,新ユーゴ連邦モンテネグロ共和国とクロアチア共和国の国境にある新ユーゴ連邦海軍基地の要衝プレブラカ半島に非軍事基地を設け、10月20日までに撤退する。3,民族浄化を非難し、すべての拘束された人々の釈放、拘束施設の閉鎖を呼びかける」というもの。
・ガリ国連事務総長は、安保理宛のクロアチアの現状報告を公表。報告によると、「セルビア人勢力の『クライナ・セルビア人共和国』が旧ユーゴ連邦人民兵士を中心に『特殊警察』を組織し、迫撃砲や機関銃で武装した1万6000人が他民族を攻撃している。東部ではテロ行為が横行し、国連の保護区域内も無政府状態にある」としている。
・スロヴェニア共和国幹部会は、総選挙を12月6日に実施すると発表。
09/00:
・ボスニアの国連保護軍司令官ルイス・マッケンジー将軍は、任務を終えてカナダに帰国途中にニューヨ-クの国連本部で記者会見し、「強制収容所」についての質問に、「何一つ知りません。私が知っているのは、モスレム人とセルビア人の双方が、相手の側にこそ、そういう収容所があると言って相手を互いに非難している、ということだけです」と答える。
註;カナダ出身のマッケンジー将軍は実態を率直に語ったに過ぎないが、「セルビア悪」説以外受け入れないメディアや各方面からの激しい非難にさらされ、軍組織からの退役を余儀なくされる。
10/02:
・ブッシュ米大統領はボスニアに関する声明を発表し、「ボスニア上空での航空機の飛行を、国連が承認した場合を除いて全面的に禁止する国連安保理決議」の採択を目指すことを表明。
・クロアチアの保護区に駐屯している国連保護軍・UNPROFOR報道官は、ザグレブの空港に接近中だった国連ヘリコプター2機が空港から10キロ南で地上から銃撃を受ける。
10/03:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、「ボスニアにおける半年以上にわたる紛争で、民族混住地域が急速に壊れ、既に9割の地域でセルビア人がムスリムと分離して生活している」と語る。民族浄化については、「我々は、出て行きたい人々は自由に出て行かせているが、ムスリム側は35万人のセルビア人を追い出す一方で、出て行きたいセルビア人12万人を人質に取っている」と反論。
・UNHCRのサラエヴォへの救援物資の空輸が、再開される。
10/04:
・旧ユーゴ和平国際会議のヴァンス・オーエン共同議長は、ボスニアの各勢力の指導者から基本合意を取り付ける。合意内容;「1,停戦実現への第1歩としてサラエヴォを非軍事化する。2,救援物資輸送のため、安全な輸送ルートを作る。3,サラエヴォで非軍事化が成功すれば、他の都市や町にも拡大する」というもの。
10/05:
・世界保健機関・WHOのアチソン駐ザグレブ代表は記者会見で、「サラエヴォに今後1日当たり240トンの食料が届かないと、4週間以内に子どもの餓死が始まる。さらに、4週間後には大人が死に始める」とボスニアの深刻な事態を警告。
10/06:
・ボスニアのセルビア人勢力側の民兵は、北部の都市ボサンスキ・ブロドを攻撃して制圧する。
・ボスニアのセルビア人勢力のブハ・スポークスマンは、ボスニアにおける軍用機の飛行を条件付きで中止すると発表し、「もし相手がこれを機会に攻撃をするようなら、飛行は再開する」と述べる。
・イーグルバーガー米国務長官は、「ボスニア上空に飛行禁止空域が設定されれば米軍機を飛ばし、セルビア機がこれに違反すれば撃墜する」と述べる。
・国連安保理は、新ユーゴ連邦軍のクロアチアからの撤退を監視するなどの国連保護軍の任務権限拡大を求める決議779、および旧ユーゴスラヴィアの人権侵害行為を調査する国連専門委員会の設置を決める決議780を採択する。
10/07:
・ボスニア上空の軍用機飛行禁止に関する安保理決議案について米、英、仏、ベルギーが合意。
・イランのハメネイ師は、「西側諸国は、セルビア人によるムスリム人虐殺に無関心だ。セルビア人を押し戻すためにイラン軍隊を派遣させるべきだ」と演説。イランの革命防衛隊はセルビア人の犯罪を止めさせるために、「若いイスラム教徒は重要な戦いのための準備をしている」と出兵の用意があることを表明。
10/09:
・国連安保理は、「人道援助などの国連機などを除き、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの全域で軍用機の飛行禁止空域を設定する」決議781を採択。
10/13:
・米国務省スナイダー報道官代行は、国連の飛行禁止決議後もボスニア上空でセルビア人勢力が空爆を続けていることを憂慮し、新たな決議導入を検討していることを明らかにする。
10/14:
・ボスニアのセルビア人勢力のカラジッチ代表は、「セルビア人勢力は、すべての戦闘用航空機をボスニア領内から撤去する」と表明。
10/15:
・NATOスポークスマンは、国連安保理が決議したボスニア上空の飛行禁止を監視するため、NATO軍が空中警戒機・AWACS派遣を決めたと発表。
10/16:
・UNHCRの人道作業部会は、支援物資の輸送についてボスニアのムスリム人、セルビア人、クロアチア人の3勢力と、障害を除去することで協議。各勢力指導者は、協力を確約する。この確約は、各勢力が自勢力地域への物資救援を要求し、他の勢力への救援物資輸送を妨害したことで、実施不能に陥る。
・朝日新聞によると、新ユーゴ連邦に対する経済制裁が決議されて4ヵ月を経過したベオグラードでは、深刻な物不足に陥っている。ガソリン不足だけでなく、医療機器や医薬品を発注しても届かないので、手術もできない。食料もインフレで、幼児用ミルクにも手が届かないほど高騰している状態にある、という。
・ECは臨時首脳会議を開き、旧ユーゴスラヴィアの食糧不足問題についてUNHCRと協力し、救援活動を強化するとの声明を発表。声明は、「2億1300万ECU(347億円)を即時支出し、食料12万トン、医療、医薬品援助、避難所建設」などを迅速に行なうとの内容。
10/17:
・ボスニアのムスリム人勢力のガニッチ幹部会員率いる部隊が、サラエヴォの共和国幹部会の建物を包囲。強硬派のガニッチ幹部会員は戦闘継続を主張しており、ボスニアの民族3分割案への妥協を示したイゼトベゴヴィチ幹部会議長と対立。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、「国連のボスニアへの救援物資輸送基地に、ベオグラードを使って貰いたい」と国連に申し入れ。
10/18:
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、UNHCRの緒方貞子高等弁務官およびソマルガ赤十字国際委員会委員長と会談し、「ベオグラード空港や近くの軍用基地を救援活動の基地として供与し、トラック運転手などの労働力も提供する」と申し出る。
・ボスニアのサラエヴォと空港を結ぶ道路が、ボスニア共和国政府自身のコンテナなどによる道路封鎖を、日中だけとの条件付きで解除される。
・ボスニアのサラエヴォで、セルビア人勢力とムスリム人勢力の間で激しい砲撃と銃撃戦が展開され、少なくとも17人が死亡、100人が負傷。
・新ユーゴ連邦内務省が、セルビア内務省警察隊の統制下におかれる。この措置には、チョシッチ大統領およびパニッチ首相の連邦政府と、ミロシェヴィチ大統領のセルビア共和国との対立が背景にある。
10/19:
・旧ユーゴ和平国際会議の調停において、ボスニア共和国のイゼトベゴヴィチ大統領と新ユーゴ連邦のチョシッチ大統領との初めての会談がジュネーブ行なわれ、関係正常化に向けての共同声明を発表。声明は、「1,対立民族を追い出す『民族浄化』を全面的に非難する。2,戦闘中の犯罪的な行為を懲罰する」を共通認識として掲げ、紛争解決への決意を表明する。
・イスラム諸国会議機構を代表する6ヵ国(エジプト、パキスタン、イラン、サウジアラビア、セネガル、トルコ)の国連大使は、連名で安保理議長のメリメ・フランス国連大使に、「ボスニア問題を協議する緊急の安保理会議を開催するよう」要請。
10/21:
・ムスリム人勢力のボスニア政府軍とクロアチア人勢力のクロアチア防衛評議会軍・HVOとの間で、サラエヴォ北西の町ビテズ一帯の支配権をめぐって激しい戦闘が行なわれる。サラエヴォの北キセリャックなどでも激しい戦闘が行なわれ、さらにノヴィ・トラヴニクでも支配圏をめぐって戦火が交えられる。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRはムスリム人勢力とクロアチア人勢力との間で戦闘が行なわれたため、ボスニア救援活動は空輸も含め完全停止とする。
10/23:
・ボスニアのムスリム人、セルビア人、クロアチア人の各勢力軍事代表の会談が、国連保護軍の仲介によりサラエヴォ空港で実現。
10/24:
・セルビア共和国与党の社会党大会で、ミロシェヴィチ大統領が党首に選出される。
10/26:
・ボスニアのサラエヴォの西65キロにあるプロゾルで、同町を包囲していたボスニアのクロアチア防衛評議会軍が激しい砲撃を行ない、約3000人のムスリム人住民が追放される。
註;ボスニア共和国とクロアチア共和国は軍事同盟を結んでいるが、ボスニアの各地では支配権をめぐって交戦している。ボスニアのクロアチア人勢力の軍事組織はクロアチア共和国軍の支援を受けており、既にボスニアの3割を支配下に置いている。ボスニアのクロアチア防衛評議会軍・HVOは、ボスニアでしばしば治安事件を起こし、ダルマツィア沿岸からのUNHCRの援助物資の輸送を妨害している。
10/28:
・国連およびECが共同で運営する「旧ユーゴ和平国際会議・ICFY」は、ボスニアの政体のあり方を示した議長案を提示し公表。憲法基本案となるべき提案内容は、民族宗派による3分割は不可能との前提に立つもの。
全体の形態:「1,現在の国境内で中央集権国家を形成し、7~10の自治州で国を構成する。2,州境界は民族、地理、歴史、経済などの条件を考慮して設定する。3,どの州も主要民族を特定する呼称を用いない。4,憲法は3つの主要民族の存在を認め、同時に他の民族の存在も認める」。(通称カントン・州分割案)
国家機能の分配:「1,中央政府は、外交、国防、国際通商、国籍などの責任を負う。2,州は、教育、文化、放送テレビ、天然資源利用、農業、漁業、鉱業、保健衛生、社会事業、警察などの責任を負う」。
政府の形態:「1,中央政府の立法機関は比例代表制を基盤として選ぶ下院、州政府指名による上院で構成する。2,行政機関として全ての州知事で構成する幹部会を置く。幹部会議長(大統領)は輪番制とする。3,大統領(幹部会議長)は国家元首として下院が選出する首相を置く。首相は幹部会の承認で、閣僚を指名する。この際外務、国防相は異なる民族から選出する。4,中央政府の司法は、民族の均衡を図った構成の最高裁、人権法廷、違憲審査裁判所などからなる」。
執行機関:「1,軍隊は中央政府の管轄下、警察はすべて州の管轄下にそれぞれ置く。2,私的な武装勢力を国内に置くことを禁止する」。
人権・少数グループの権利:「1,国際的に承認された人種、少数者の権利が最大限度、憲法に謳われること。2,人権法廷は当初欧州評議会の一部として設立し、幹部会指名による各民族を代表する1人ずつの判事、欧州人権委員会などの指名による少なくとも5人の外国人判事で構成すること」。
・ボスニアのクロアチア人勢力のマテ・ボバン代表は、「多くの欠陥があるが、極めて建設的だ」と評価。
・国連人権委員会のマゾビエツキ特別報告者は、旧ユーゴスラヴィアの人権状況を調査し、ボスニアに「保護区」を設置するよう提言する報告書を提出。
10/29:
・新ユーゴ連邦セルビア共和国のコソヴォ自治州で、セルビア人代表シモヴィチ・コソヴォ自治州知事とアルバニア人代表ルゴヴァ・コソヴォ自治州議長の会談が、ヴァンス国連事務総長特使とオーエンEC和平会議議長の仲介で行なわれる見通しとなる。会談の直前になり、ルゴヴァ自治州議長が会談を拒否したため実現せず。
・ボスニア中央部のムスリム人中心の町ヤイツェでは、セルビア人勢力とムスリム人勢力との間で激しい戦闘が行なわれ、セルビア人勢力が制圧する。ムスリム人勢力部隊は、一部の市民とともに脱出を図る。
10/30:
・国連安保理は公式協議を開き、ボスニアのセルビア人勢力がヤイツェを制圧した際、逃げようとした市民を攻撃したことを非難。「こうした攻撃は、国際人道法の重大な違反であり、攻撃を命令、実施したものは個人的な責任を問われる」と警告。午後の非公式協議では、ハンガリー、モロッコ、オーストリアなどから安保理対応への不満が表明され、有効な対処を求める声が出される。
10/31:
・ボスニアのセルビア人勢力とクロアチアのセルビア人勢力がボスニアのプリエドルで会合を開き、協力宣言を出す。宣言;「1,セルビア人の両共和国の通貨を統一する。2,セルビア民族として『国籍』を同じくする。3,国章を同じくする。4,セルビア王国の国歌を制定する。5,旧ユーゴスラヴィアの政治問題が解決されない間は軍事協定を結ぶ」などを骨子とする。
・ボスニアのカラジッチ・セルビア人勢力代表はボスニアの国家形態について、「民族的に、5つの州に分割する」との新提案を発表。内容は、「1,北東部はセルビア人地域。2,南西部はクロアチア人地域。3,ムスリム人地域はトゥズラ、ゼニツァ、ビハチの3都市とその周辺。4,サラエヴォは3民族に開かれた都市とする」というもの。現実に、7ヵ月に及ぶ戦闘でボスニアは5分割されている。
11/01:
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、ボスニア中央部の町ヤイツェの戦闘で新に1万から2万5000人の避難民が、35キロ離れたトラヴニク周辺に流入しつつあることを明らかにする。
11/02:
・ボスニアのセルビア人議会は、セルビア人の民族自決権など「基本的要求」が認められるまで、国連とECによる旧ユーゴ和平国際会議から撤退することを決議。セルビア人議会の「基本的要求」は、「第1にセルビア人の民族自決権を認めること。第2に『セルビア民族ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国』の存在を認めること」となっている。
・新ユーゴ連邦の下院で、セルビア急進党が提出したパニッチ連邦首相の不信任案を可決する。
11/03:
・新ユーゴ連邦の上院は、セルビア急進党から提出されたパニッチ連邦首相不信任案を、1票差で否決する。
11/06:
・全欧安保協力会議・CSCEは、旧ユーゴに派遣する少数民族監視団への日本政府の参加を歓迎する決議を採択。
・UNHCRは、ボスニアの町ヤイツェからの3万人に及ぶ避難民のためにテント搬入を行なう。
・クロアチア共和国は、ヤイツェからの避難民流入を防ぐために国境を閉鎖する。
・UNHCRは、クロアチア共和国に対し難民保護への協力を呼びかける緊急アピールを出す。
11/07:
・ボスニア派遣の国連保護軍英軍部隊の車輌4台が何者かに銃撃され、英軍は反撃する。
11/08:
・イタリアの極右政党イタリア社会運動・MSIは、第2次大戦後のオズモ条約によって旧ユーゴスラヴィアに割譲したイストラ半島と港町リエカおよびダルマチア地方の返還を求め、トリエステで1万人参加のデモ行進を挙行する。
・チョシッチ大統領が、ベオグラードの軍病院で前立腺の手術をする。
11/09:
・ボスニアのセルビア人勢力指導者カラジッチはベオグラードで記者会見し、「1,クロアチア共和国軍のボスニアからの撤退。2,ボスニア共和国幹部会による『戦争状態』宣言の撤回。3,全面停戦。4,国連保護軍による停戦監視。5,経済、政治問題解決のための委員会設置。6,サラエヴォの非武装化とムスリム人、セルビア人による共同パトロール。7,封鎖状態にある市民の避難を許可する」などボスニア和平に関する7項目の提案を発表。
11/10:
・ムスリム人勢力のボスニア政府軍、セルビア人勢力部隊、クロアチア人勢力部隊の各派代表が国連保護軍の仲介で会談し、ボスニア全土での停戦に合意する。
・ボスニアのサラエヴォからムスリム人とクロアチア人住民1500人が赤十字国際委員会・ICRCのバスで脱出し、クロアチアのスプリトに向かう。セルビア人住民はバスと運転手の不足で、1台のみベオグラードに向かって出発。ICRCは、サラエボの都市人口38万人の内6000人を脱出させる計画。
11/11:
・セルビア共和国コソヴォ自治州のプリシュティナの新ユーゴ連邦軍コソヴォ自治州司令部に、アルバニア系住民3人が押し掛けて歩哨に発砲し、1人がナイフで兵士を刺す。新ユーゴ連邦軍兵士側は応戦するが、兵士12人が負傷し、襲撃したアルバニア系住民1人が死亡。
・ボスニアのサラエヴォから脱出させる赤十字国際委員会の第2陣の計画は、ボスニア政府軍が安全を確保出来ないとの判断を示したことで中止となる。
11/13:
・国連安保理は、ボスニア情勢をめぐる集中討議を行なう。
・ボスニアの国連保護軍は、マグレイでセルビア人勢力側が停戦に違反し、戦車部隊が激しい攻撃を繰り広げた、として強く非難。
11/16:
・国連安保理は、ボスニア情勢に関する集中協議を行ない、海上封鎖など新ユーゴ連邦への経済制裁強化の決議787を、賛成13、棄権2で採択する。
11/20:
・西欧同盟・WEUは、新ユーゴ連邦のアドリア海の領海の海上封鎖措置を取ることを決定する。
・NATO軍は、新ユーゴ連邦への海上封鎖を決定する。
・ハンガリーは新ユーゴ連邦への経済制裁強化のため、ドナウ川を航行する船舶への規制措置を開始する。
11/22:
・NATO軍は、新ユーゴ連邦に対する経済制裁強化のために艦船7隻を派遣し、アドリア海の領海封鎖に入る。この封鎖により、新ユーゴ連邦のアドリア海の領海に入る船舶はすべて停船命令を受け、積荷の臨検を受けることになる。パニッチ新ユーゴ連邦首相にとって、政治的痛手は避けられない。
11/23:
・NATO軍のスペインとベルギー海軍のフリゲート艦は、アドリア海に入ろうとしたシリアとエクアドルの商船2隻を臨検。シリア船は空荷、エクアドル船はバナナを積載。
11/24:
・ギリシアのミツォタキス首相は、ECが旧ユーゴスラヴィアのマケドニア共和国を現在の名称のまま承認するなら、ギリシャはマケドニアとの国境を閉鎖する可能性があると言明。
11/26:
・ボスニアのセルビア人勢力のムラディッチ司令官とクロアチア共和国軍のボベトコ司令官が協議し、停戦に合意する。
11/27:
・マケドニア共和国のグリゴロフ大統領は、新ユーゴ連邦への経済制裁の影響で貿易路が断たれたため、13億ドルもの被害を受けて経済苦境に陥っていると語る。さらに、セルビア共和国のコソヴォ自治州でアルバニア系とセルビア人との民族紛争が激化すれば、マケドニアに飛び火する危険性が高く、そうなればバルカン全体に戦争が拡大するとの懸念を表明。
11/29:
・NATO軍のスポークスマンは、新ユーゴ連邦の港から出港してアドリア海を航行していたマルタ船籍の商船「ボアC」を拿捕し、イタリア・バリ港で積荷を調べていると発表。
12/01:
・国連人権委員会の旧ユーゴスラヴィア問題特別会議は、ボスニアで進行中の「民族浄化」などでセルビア人勢力、新ユーゴ連邦軍、セルビア共和国政府が主な責任を負っていることを厳しく糾弾した非難決議を、賛成45,反対1,棄権1で採択。
・国連難民高等弁務官事務所・UNHCRは、旧ユーゴスラヴィア紛争の被災者救援を協議する国際会議を4日にジュネーブで開き、「安全地域」設定などを検討すると発表。
・新ユーゴ連邦のパニッチ首相は記者会見で、20日に投票が予定されているセルビア共和国大統領への出馬を表明し、「私への投票は、制裁の解除、戦争終結、経済再建、民主化、そして国際社会での合法的な地位と評価の回復を意味する」と述べる。
・日本の外務省の兵藤欧亜局長はロンドンで開いた日本大使会議について、旧ユーゴスラヴィアの難民対策に向ける支援として「目に見える形の資金援助」を政府が早急に実施すべきであるとの見解で一致した、と述べる。
12/03:
・イスラム諸国会議機構・OICは、ボスニア紛争への国連の介入と武器禁輸の解除を求めた、共同コミュニケを採択。
・パニッチ新ユーゴ連邦首相は、セルビア共和国大統領選で立候補届を出したが、選挙管理委員会から「セルビア市民として1年以上居住しているとの候補者資格を満たしていない」として立候補の受理を拒否される。パニッチは、あくまで立候補するとの姿勢を見せる。ミロシェヴィチ現大統領も立候補を表明。
12/04:
・UNHCRはジュネーブに50ヵ国の代表を招いて会議を開き、ボスニアに「安全地域」を設定して難民保護にあたる構想を検討したものの、力のみが支配する現状から具体策が見出せず。
・訪日したハンガリーのイエセンスキー外相は、ユーゴスラヴィア紛争の拡大を防ぐために独立を求めているマケドニアなどに、国連保護軍を緊急に配置することが必要、と語る。
12/05:
・国連保護軍のエジプト部隊司令官アブデル・ラゼク准将は、「平和維持活動は完全に失敗した」と語る。また個人的な意見だとして、「停戦のために1ヵ月を猶予期限として、武力をも行使する意向を示すべきだ」と述べる。
12/06:
・スロヴェニア共和国で、独立後最初の議会選挙と大統領選挙が行なわれる。大統領選には、クチャン幹部会議長など8人が立候補を表明。大統領選は、投票総数の過半数を獲得した者がいなければ決選投票が行なわれることになる。議会選挙は上院40議席、下院90議席を比例代表で選ぶが、25政党から1500人が立候補している。有権者は150万人。
・ボスニアのサラエヴォ郊外8キロのムスリム人勢力軍事拠点オティス地区が、セルビア人勢力の民兵側に陥落する。ストゥプやブトミルでもムスリム人勢力軍およびクロアチア人勢力連合軍とセルビア人勢力軍との間で戦闘が続けられている模様。
12/09:
・新ユーゴ連邦セルビア共和国最高裁は、パニッチ新ユーゴ連邦首相の大統領立候補資格は存在する、との最終決定を示す。
・ガリ国連事務総長は11月に派遣した調査団の報告に基づき、マケドニア紛争を予防するために軍事監視団だけでなく歩兵1個大隊の部隊を派遣するよう勧告する報告書を、安保理に提出。マケドニア共和国には、コソヴォ自治州からのアルバニア系住民が流入し、現在2割以上を占めるようになる。アルバニア系住民は武器を所有しており、警官隊との衝突が頻発する。
・国連安保理はボスニアのセルビア人勢力に対し、さらに攻撃を続けるなら安保理決議に沿ってさらに進んだ措置を考慮する、との議長声明を採択。
12/10:
・NATOは国防相会議を開き、旧ユーゴスラヴィア紛争問題への対応策について協議する。
12/11:
・国連安保理は、ガリ事務総長の勧告を受け、マケドニア共和国に国連保護軍・UNPROFORを派遣する決議795を採択。内容;「1,事務総長にマケドニアに国連保護軍を駐留させる権限を与え、このことをアルバニアと新ユーゴ連邦政府に伝える。2,事務総長に対し、早急に軍事要員、文民、行政要員を展開させるとともに、マケドニア共和国政府の同意を得て、警官の派遣も要請する」というもの。
・NATOのウェルナー事務総長は国防相会議後の記者会見で、旧ユーゴスラヴィア紛争について「国連の要請があれば、必要な行動に移る準備は出来ている」と語る。NATO軍は既に、国連保護軍の指揮下に5000人の兵力を提供している。
12/14:
・米国とロシアはストックホルムで開かれているCSCE外相理事会で、セルビア共和国の選挙に関する共同声明を発表。内容は、「有権者が、セルビア共和国の国際社会への復帰を選ぶことを期待する」というもの。
12/15:
・ガリ国連事務総長は、NATOに旧ユーゴスラヴィア紛争に関する国連活動への協力を要請する。
12/16:
・旧ユーゴ和平国際会議は、ジュネーブで33ヵ国と組織が参加する閣僚級会議を開き、ヴァンス・オーエン両共同議長が新たな勧告提案を行なう。内容の骨子;「1,戦争犯罪などを裁く国際犯罪法廷を設立する。2,国連安保理決議によるボスニア・ヘルツェゴヴぃナ上空の軍事飛行禁止が遵守されない場合、武力行使も含めた措置を取る。3,現在の新ユーゴ連邦などに対する制裁を強化する。4,コソヴォ自治州における当局の抑圧に対し、国際平和への脅威だと警告する安保理決議を採択する」の4点。
12/17:
・ロシア最高会議は政府に対し、新ユーゴ連邦に対する制裁措置を見直し、紛争の激化を防ぐために国連安保理での拒否権行使を含め、必要な措置を取ることを求める決議を採択。
12/19:
・クロアチアのセルビア人勢力は、西部の「クライナ・セルビア人自治区」が新憲法を制定し、「クライナ・セルビア人共和国」の建国を宣言する。東部の「スラヴォニア・バラニャ・西スレム・セルビア人自治区」議会は、「クライナ・セルビア人共和国」に加入することを決議。統合したセルビア人共和国の首都はクニンに定められ、初代大統領はクニン市長のバビッチが選出される。
12/20:
・新ユーゴ連邦の議会選挙と大統領選挙が、全国1万ヵ所の投票所で始まる。コソヴォ自治州のアルバニア系住民は、コソヴォ自治州議会が解散させられたままであることに反発し、選挙をボイコットする。
・ブッシュ米大統領とメージャー英首相が会談し、ボスニア共和国上空の飛行禁止措置を徹底させる新たな国連決議をまとめるために、両国が協力することで合意したと発表。
12/21:
・新ユーゴ連邦セルビア共和国の大統領選挙の中間集計では、ミロシェヴィチ大統領の得票率が56.31%、パニッチ連邦首相は33.6%。
パニッチ新ユーゴ連邦首相は、この大統領選で18歳の有権者の多数が選挙人名簿から除かれ、また南部のある地域では5~10%の有権者が名簿に記載されないなどの不正があり、90日以内に選挙のやり直しを求める、とテレビのインタビューで述べる。
・ハード英外相はEC外相会議後の記者会見で、「セルビア共和国大統領選の結果にかかわらず、セルビアに残された時間は少ない。思いきった政治決断がない限り、国際社会からの全面的な孤立は避けられない」と語る
12/22:
・ECとアルバニアは、ボスニア紛争の周辺国への拡大を防止するために、アルバニア北部にEC監視団を派遣する覚書に調印。
・キンケル独外相はベルリンのリアス放送とのインタビューで、「セルビア大統領選挙について、ミロシェヴィチ大統領の再選が事実となれば、バルカンの将来にとって悲劇的だ」と憂慮を表明。
12/23:
・ガリ国連事務総長はNBCテレビのインタビューで、安保理が検討しているボスニア上空の飛行禁止区域違反のセルビア機に対する武力行使について、「武力行使と、地上での国連平和活動とは両立しない」と述べ、NATO軍が武力行使に踏み切った場合、国連保護軍や人道援助要員などを引き揚げる考えを明らかにする。
・キンケル独外相は、NATO軍がボスニア上空で実力行使する場合のドイツ連邦軍の参加問題について、国連安保理決議が出るのを待って方針を決めると表明。
・セルビア共和国統計局は、セルビア議会と新ユーゴ連邦議会選挙の暫定集計結果を公表。それによると、両議会選ともミロシェヴィチ・セルビア大統領の与党社会党とセルビア急進党の陣営が過半数を獲得する模様。
・セルビアの哲学社会理論研究所研究員のゾラン・オブレノヴィチは朝日新聞への寄稿で、「セルビアへの経済制裁は西欧の偽善であり、欧州は紛争を惹起させた責任を回避するためにセルビアを悪魔化し、その上で人道援助で道徳的優位を主張している」
と記述。
12/24:
・ブッシュ米大統領は、「セルビアがコソヴォ自治州に対し戦火を拡大するような行動を取った場合、アメリカはコソヴォおよびセルビアに対し軍事力を行使する準備に入るだろう」との警告文をセルビア共和国送付する。
12/26:
・新ユーゴ連邦議会選挙の下院とセルビア共和国議会選挙で、極右政党のセルビア急進党が第2党となる。新ユーゴ連邦議会下院は定数138で、社会党が47議席、急進党が34議席を獲得。セルビア共和国議会は定数250の1院制で、社会党が101議席、急進党が73議席、極右のアルカンの「市民グループ」は5議席を獲得する。
12/28:
・国連保護軍のカナダ軍先遣隊33人は、駐留していたボスニアのバニャ・ルカから移動し、マケドニア共和国に到着する。
・ガリ国連事務総長は、31日にボスニアを訪問すると発表。
・UNHCRは、ボスニアのサラエヴォで既に30人を超える凍死者が出ていると発表。UNHCRは、援助物資も国連側の人員不足で70%が横流しされ、民兵側に流れていると見ている。
12/29:
・新ユーゴ連邦の下院と上院で、ミラン・パニッチ新ユーゴ連邦首相の不信任動議が可決される。下院は賛成95,上院は賛成35。連邦議会は、首相代行にコンティチ副首相を選出する。パニッチ連邦首相は、新内閣成立まで現職に留まると主張。正式な首相選出は、チョシッチ大統領の指名により新議会が選出することになる。
・米国務省はセルビア共和国の大統領選と議会選について、「自由で公正な民主的プロセス、という国際基準を満たしていない」と非難する声明を発表。
・新ユーゴ連邦軍のパニッチ司令官は、「セルビア民族の存続が脅かされれば、連邦軍は出動する」と述べる。
・新ユーゴ連邦最高国防会議が開かれ、ボスニアへの軍事介入を想定した対応策を協議する。
12/00:
・イーグルバーガー国務副長官は、ユーゴスラヴィアに正義をも他rすために「第2のニュルンベルク」裁判を呼び掛け、ミロシェヴィチをはじめセルビア人当局者3人とクロアチア人を名指しする。
92/00/:
・クリントンは対セルビア強硬策を唱え、さらにウクライナのNATO加盟を支持すると公約して大統領選に勝利する。